有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物並びに有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】湿式法によって容易に薄膜を形成することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という。)用の発光材料として好適に用いられる有機EL素子用化合物および有機EL素子用組成物の提供、また発光特性および耐久性に優れた有機EL素子の提供。
【解決手段】有機EL素子用化合物は、特定の化合物よりなることを特徴とし、有機EL素子用組成物は、上記化合物よりなる成分100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなることを特徴とし、有機EL素子は、上記化合物により形成された正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかを有することを特徴とする。
【解決手段】有機EL素子用化合物は、特定の化合物よりなることを特徴とし、有機EL素子用組成物は、上記化合物よりなる成分100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなることを特徴とし、有機EL素子は、上記化合物により形成された正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物、および有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)は、直流電圧によって駆動することが可能であること、自己発光素子であるために視野角が広くて視認性が高いこと、応答速度が速いことなどの優れた特性を有することから、次世代の表示素子として期待されており、その研究が活発に行われている。
このような有機EL素子としては、陽極と陰極との間に有機材料よりなる発光層が形成された単層構造のもの、陽極と発光層との間に正孔輸送層を有する構造のもの、陰極と発光層との間に電子輸送層を有するものなどの多層構造のものが知られている。これらの有機EL素子は、いずれも、陰極から注入された電子と、陽極から注入された正孔とが、発光層において再結合することによって発光するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来、有機EL素子においては、陽極と発光層との間に正孔輸送層を有すると共に陰極と発光層との間に電子輸送層を有する多層構造とし、正孔輸送層および電子輸送層の構成材料として各々好適なもの、具体的には、正孔輸送層の構成材料として好適な正孔輸送性を有する低分子結晶性材料、また、電子輸送層の構成材料として好適な電子輸送性を有する低分子結晶性材料と、異なる特性を有するものを用いることにより、高効率化が図られている。
ここに、電子輸送性を示す低分子結晶性材料としては、例えばBND(2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール)が挙げられる(図11にB3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、BNDのLUMOおよびHOMOの形状を示す。)。
有機EL素子において、陰極から注入された電子は、主に電子輸送層を構成する分子の最低非占有軌道(LUMO)の分子間重なりに沿って移動することとなるが、BNDのような電子輸送性を有する材料のLUMOは一般に分子内に広がって非局在化したπ* 軌道であり、そのエネルギー順位が低下(電子親和力が上昇)することによって電子の注入効率と電子輸送性が高まることが知られている。実際に、BNDのLUMOは、正孔輸送性を有する材料に係る分子のLUMOに比して低下しており、他方、BNDの最高占有軌道(HOMO)の分布形状も典型的なπ軌道であってその分布の範囲(広がり)はLUMOとほぼ一致している。
一方、正孔輸送性を有する低分子結晶性材料としては、例えばα−NPD([N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン]が挙げられる(図12にB3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、α−NPDのLUMOおよびHOMOの形状を示す。)。
有機EL素子において、陽極から注入された正孔は、主に正孔輸送層を構成する分子のHOMO軌道の分子間重なりに沿って移動することとなるが、α−NPDのような正孔輸送性を有する材料のHOMOは一般に分子内に広がって非局在化したπ軌道であり、そのエネルギー順位が上昇(イオン化ポテンシャルが低下)することによって正孔の注入効率と正孔輸送性が高まることが知られている。実際に、α−NPDのHOMOの分布形状は典型的なπ軌道であってその分布の範囲(広がり)はLUMOとほぼ一致している。
【0004】
上記のように、正孔輸送層および電子輸送層の構成材料は、それぞれ相反する特性が要求されていることから、正孔輸送層と電子輸送層とを同じ構成材料を用いて形成することは困難とされている。特に、正孔輸送層および電子輸送層を同一の材料によって構成することが困難である理由としては、電子輸送性を示すBNDなどの材料と正孔輸送性を示すα−NPDなどの材料のどちらにおいてもHOMOとLUMOの分布形状が分子全体で大きく重なっており、しかもHOMOからLUMOへの一電子遷移が振動子強度の大きな許容遷移であることが挙げられる。時間依存の密度汎関数法(TD−DFT)計算によれば、BNDの最低エネルギー一電子励起はHOMOからLUMOへの遷移(波長:370nm、振動子強度:0.479)であり、またα−NPDの最低エネルギー一電子励起もHOMOからLUMOへの遷移(波長:399nm、振動子強度:0.319)であることから、有機化合物において、HOMOとLUMOが空間的に大きく重なっており、しかもその間の一電子遷移が許容である場合には、電子と正孔はその化合物中あるいはその化合物の集合体が形成するエネルギーバンド中で再結合する確率が高くなり、結果として、分子の励起エネルギーが有機EL素子の発光層の構成材料である燐光発光性材料まで効率的に伝達されにくくなると考えられる。反対に、HOMOからLUMOへの一電子遷移における振動強度がゼロ(禁制遷移)あるいは非常に低い場合には、無幅射失活の確率が高くなることから、有機EL素子用の材料としては好適なものではないと考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−257076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいて、本発明者らが研究を重ねた結果、一つの材料が電子輸送性と正孔輸送性とを兼ね備えるための条件として、(a)HOMOとLUMOの分布形状において、両者の空間的な重なりができるだけ小さいこと、(b)分子中の複数の芳香族環が共平面ではなくねじれた構造を有し、HOMOとLUMOの分離が強化されていること、(c)HOMOからLUMOへの一電子励起が禁制ではなく許容遷移であること、および(d)電子輸送性と正孔輸送性のバランスおよび可視域での透明性を確保するためにHOMOとLUMOはそれぞれ適度なエネルギーレベルにあることを要する分子設計指針を見出し、かつ当該条件を満たす化合物を構築することによってなされたものである。その目的は、正孔輸送性および電子輸送性を共に有し、有機エレクトロルミネッセンス素子用の発光材料として好適に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、発光特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
ここに、上記の分子設計指針に基づいて構築された化合物群は、福井謙一博士により命名された「フロンティア分子軌道」すなわちHOMOとLUMOとが、その分布形状と一電子励起状態においてほぼ分離しており、その結果、HOMOからLUMOへの遷移が分子内を電子が移動する遷移となることを特徴とすることから、「フロンティア分離型」有機EL化合物と命名することができる。
そして、本発明の有機EL素子用化合物は、本発明者らにより、フロンティア分離型有機EL化合物の分子設計指針に基づき、多くの化合物群の中から電子輸送性に優れた部位と、正孔輸送性に優れた部位を取捨選択し、それらが1つの分子中で融合しつつも、当該設計指針(電子状態)の条件を満たす化合物として構築されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物は、下記一般式(I)で表される化合物よりなることを特徴とする。
【0008】
【化1】
【0009】
〔Ar1 およびAr2 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する2価の基、または単結合を示す。Ar3 およびAr4 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する1価の基を示し、同一の窒素原子に結合されているAr3 とAr4 は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。R1 は、1価の有機基、水素原子またはフッ素原子を示す。〕
【0010】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物よりなる成分100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物により形成された正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物と燐光発光性化合物とよりなる発光層を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層が上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を用いることによって形成されてなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物は、良好な電子輸送性および正孔輸送性を有すると共に、良好な発光特性をも有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として有用なものである。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物は、乾式法および湿式法いずれの手法によっても容易に薄膜を形成することができるものであることからも、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として有用なものである。
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物によれば、湿式法によって容易に薄膜を形成することができ、また、その第1の構成成分として、燐光発光性を有する燐光発光性化合物を含有すると共に、第2の構成成分として、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物を含有してなるものであるため、優れた発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物を正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかの構成材料として用いることにより、良好な発光特性を得ることができる。
【0017】
また、本発明の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物を、燐光発光性化合物と共に発光層の構成材料として用いることにより、燐光発光による優れた発光特性を得ることができる。
この燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を用いて発光層を形成することによって作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
<有機EL素子用化合物>
本発明の有機EL素子用化合物は、上記一般式(I)で表されるものであって、有機EL素子用材料として有用なものである。
【0020】
一般式(I)において、Ar1 およびAr2 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する2価の基、または単結合を示し、これらのAr1 およびAr2 は、同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0021】
基Ar1 および基Ar2 を示す2価の基としては、例えばフェニレン基、トリレン基などの芳香環をその構成中に含むもの、例えばナフチレン基などの縮合環をその構成中に含むもの、および例えばチオフェン基、ピリジレン基などの複素環をその構成中に含むものであって、具体的には、例えば下記式(i−1)〜式(i−5)で表される基などが挙げられる。
【0022】
【化2】
【0023】
また、一般式(I)におけるAr3 およびAr4 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する1価の基を示し、これらのAr3 およびAr4 は、同一のものであっても異なるものであってもよいが、同一のものであることが好ましい。そして、同一の窒素原子に結合されているAr3 とAr4 は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0024】
基Ar3 および基Ar4 を示す2価の基としては、例えばフェニル基、トリル基などの芳香環をその構造中に含有する基、例えばナフチル基などの縮合環をその構造中に含有する基、例えばピリジル基などが挙げられる。
また、基Ar3 と基Ar4 が互いに結合して環構造を形成する場合としては、これらの2つの基によって、例えばカルバゾール基などが形成される。
【0025】
また、一般式(I)におけるR1 は、1価の有機基、水素原子またはフッ素原子を示す。
この基R1 を示す1価の有機基としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1〜20のアルキル基、例えばフェニル基、トリル基等の炭素数6〜20のアリール基、例えばトリフルオロメチル基等の炭素数1〜20のフッ化アルキル基などが挙げられ、これらのうちでは、フェニル基が好ましい。
【0026】
本発明の有機EL素子用化合物の好ましい具体例としては、下記式(I−1)〜式(I−12)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
以上のような本発明の有機EL素子用化合物の合成方法の一例として、式(I−8)で表される有機EL素子用化合物の合成過程を下記反応式(1)に示す。
【0030】
【化5】
【0031】
本発明の有機EL素子用化合物は、真空蒸着法などの乾式法によって容易に膜を形成することができると共に、溶剤に対して優れた溶解性が得られ、薄膜を形成するための塗布液を容易に調製することができるため、当該塗布液によって容易に薄膜を形成することができる。従って、当該有機EL素子用化合物は、高い薄膜形成能を有するものであることからも有機EL素子用材料として有用なものである。
【0032】
具体的には、本発明の有機EL素子用化合物は、その構造に誘因して良好な電子輸送性および正孔輸送性を共に有するものであることから、例えば有機EL素子の正孔注入輸送層および電子注入輸送層を構成する材料として好適に用いることができると共に、ホスト化合物として、燐光発光性を有する後述の燐光発光性化合物と組み合わせることにより、燐光発光性有機EL素子の発光層を構成する材料として好適に用いることができる。更に、この有機EL素子用化合物は、それ自体が良好な発光特性を有することから、単独で有機EL素子の発光層を構成する発光材料としても好適に用いることができる。
このように本発明の有機EL素子用化合物を有機EL素子用材料とする場合には、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここに、本発明の有機EL素子用化合物は、(a)HOMOとLUMOの分布形状において、両者の空間的な重なりができるだけ小さいこと、(b)分子中の複数の芳香族環が共平面ではなくねじれた構造を有し、HOMOとLUMOの分離が強化されていること、(c)HOMOからLUMOへの一電子励起が禁制ではなく許容遷移であること、および(d)電子輸送性と正孔輸送性のバランスおよび可視域での透明性を確保するためにHOMOとLUMOはそれぞれ適度なエネルギーレベルにあることを条件とする分子設計指針を満たすものであり、このような上記の分子設計指針に基づいて構築された化合物群は、HOMOとLUMOとが、その分布形状と一電子励起状態においてほぼ分離しており、その結果、HOMOからLUMOへの遷移が分子内を電子が移動する遷移となることを特徴とする、「フロンティア分離型有機EL化合物」である。図8〜図10に、フロンティア分離型有機EL化合物である本発明の有機EL素子用化合物のいくつかの例について、B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算したLUMOおよびHOMOの形状を示す。
すなわち、本発明の有機EL素子用化合物は、フロンティア分離型有機EL化合物の分子設計指針を満足するものであり、電子輸送性に優れた部位と、正孔輸送性に優れた部位を有し、かつそれらが1つの分子中で融合されてなる化合物である。
【0033】
<有機EL素子用組成物>
本発明の有機EL素子用組成物は、上記の有機EL素子用化合物よりなる成分(以下、「EL素子用化合物成分」ともいう。)100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分(以下、「発光成分」ともいう。)1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなるものである。
【0034】
発光成分を構成する燐光発光性化合物としては、イリジウム錯体化合物、白金錯体化合物、パラジウム錯体化合物、ルビジウム錯体化合物、オスミウム錯体化合物、レニウム錯体化合物などを挙げることができ、これらのうち、特に、イリジウム錯体化合物が好ましい。
【0035】
イリジウム錯体化合物としては、例えば、イリジウムと、2−フェニルピリジン、3−フェニルピリジン、2−フェニルピリミジン、4−フェニルピリミジン、5−フェニルピリミジン、ビピリジル、1−フェニルピラゾール、2−フェニルキノリン、2−フェニルベンゾチアゾール、2−フェニル−2−オキサゾリン、2,4−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、5−フェニル−2−(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールや、これらの誘導体などの窒素原子含有芳香族化合物との錯体化合物を挙げることができる。
このようなイリジウム錯体化合物の具体例としては、例えば下記一般式(1)〜一般式(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0036】
【化6】
【0037】
上記一般式(1)〜一般式(6)において、R2 〜R4 は、それぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基よりなる置換基を示し、互いに同一のものであっても異なるものであってもよい。xは0〜4の整数であり、yは0〜4の整数であり、zは0〜3の整数であり、wは0〜2の整数である。
【0038】
以上において、置換基R2 〜R4 に係る炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などを挙げることができる。
また、置換基R2 〜R4 に係る炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、4−ビフェニル基、1−ナフチル基などを挙げることができる。
【0039】
本発明の有機EL素子用組成物において、イリジウム錯体化合物としては、一般式(1)においてxおよびyが共に0であるイリジウム錯体化合物を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の有機EL素子用組成物における発光成分の含有割合は、EL素子用化合物成分100質量部に対して1〜20質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
発光成分の割合が過大である場合には、発光輝度が却って減少する濃度消光の現象が生じるおそれがある。
【0041】
有機溶剤は、EL素子用化合物成分を構成する本発明の有機EL素子用化合物と、発光成分を構成する燐光発光性化合物とを溶解し、これにより、EL素子用化合物成分と発光成分とを含有する溶液を調製するためのものである。
【0042】
有機溶剤としては、本発明の有機EL素子用化合物および燐光発光性化合物を溶解し得るものであれば特に限定されず、その具体例としては、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類;クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類や、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、アニソールなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、均一な厚みを有する薄膜が得られ易い点で、適度の蒸発速度を有するもの、具体的には沸点が70〜200℃程度の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0043】
本発明の有機EL素子用組成物における有機溶剤の含有割合は、EL素子用化合物成分および発光成分の種類によって異なるが、EL素子用化合物成分100質量部に対して100〜100,000質量部であり、好ましくは1,000〜10,000質量部である。
有機溶剤の含有割合が上記の範囲であることにより、本発明の有機EL素子用化合物および燐光発光性化合物を均一に溶解することができ、好ましい膜厚に成膜することができる。
【0044】
本発明の有機EL素子用組成物には、必要に応じて、例えば電荷輸送性化合物などの任意の添加物を加えることができる。
【0045】
電荷輸送性化合物の具体例としては、下記式(A−1)〜式(A−10)で表される電荷輸送性を有する化合物、下記式(B−1)〜式(B−20)で表される電子輸送性を有する化合物、および下記式(C−1)〜式(C−34)で表される正孔輸送性を有する化合物などが挙げられる。
【0046】
【化7】
【0047】
【化8】
【0048】
ここに、式(B−16)において、R5 は下記式(イ)〜式(ハ)で表されるいずれかの基を示す。
【0049】
【化9】
【0050】
【化10】
【0051】
【化11】
【0052】
【化12】
【0053】
ここに、式(C−12)において、mは1以上の整数を示す。
【0054】
【化13】
【0055】
【化14】
【0056】
本発明の有機EL素子用材料組成物における電荷輸送性化合物の含有量は、EL素子用化合物成分100質量部に対し、0〜200重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0〜100重量部である。
【0057】
このような有機EL素子用組成物によれば、十分に高い発光輝度で発光し、良好な耐久性を備えた発光層を有する燐光発光性有機EL素子を得ることができ、しかも、当該発光層を湿式法により容易に形成することができる。
この有機EL素子用組成物によって発光層を形成する方法としては、当該有機EL素子用組成物を適宜の基体の表面に塗布したのち、有機溶剤を除去することにより、形成することができる。
有機EL素子用組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、浸漬法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法などの適宜の方法を採用することができる。
形成される発光層の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、10〜200nm、好ましくは30〜100nmの範囲で選択される。
【0058】
<有機EL素子>
図1は、本発明の有機EL素子の構成の一例を示す説明用断面図である。
この例の有機EL素子は、透明基板1上に、正孔を供給する電極である陽極2が例えば透明導電膜により設けられ、この陽極2上に正孔注入輸送層3が設けられ、この正孔注入輸送層3上に発光層4が設けられ、この発光層4上にホールブロック層8が設けられ、このホールブロック層8上に電子注入輸送層5が設けられ、この電子注入輸送層5上に電子を供給する電極である陰極6が設けられている。そして、陽極2および陰極6は、直流電源7に電気的に接続される。
【0059】
この有機EL素子において、透明基板1としては、ソーダガラス基板、透明性樹脂基板または石英ガラス基板などを用いることができる。
陽極2を構成する材料としては、好ましくは、仕事関数の大きい例えば4eV以上の透明性材料が用いられる。ここで、仕事関数とは、固体から真空中に電子を取り出すのに要する最小限の仕事の大きさをいう。陽極2としては、例えば、ITO(インジウム−スズ酸化物)膜、酸化スズ(IV)膜、酸化銅(II)膜、酸化亜鉛膜などを用いることができる。
また、陽極2の厚みは、材料の種類によって異なるが、通常、10〜1,000nmの範囲で選択され、好ましくは50〜200nmである。
【0060】
正孔注入輸送層3は、正孔を効率よく発光層4に供給するために設けられたものであって、陽極2から正孔(ホール)を受け取って、発光層4に輸送する機能を有するものである。
この正孔注入輸送層3を構成する材料としては、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸塩などの電荷注入輸送材料を好適に用いることができ、また本発明の有機EL素子用化合物を用いることもできる。
また、正孔注入輸送層3の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、10〜200nmの範囲で選択される。
【0061】
発光層4は、電子と正孔とを結合させ、その結合エネルギーを光として放射する機能を有するものであり、この発光層4は、本発明の有機EL素子用化合物あるいは本発明の有機EL素子用組成物によって形成されている。ここに、発光層4が本発明の有機EL素子用組成物を用いて形成されたもの、および本発明の有機EL素子用化合物と燐光発光性化合物とからなるものは、特に燐光発光性有機EL素子とされる。
また、発光層4の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、5〜200nmの範囲で選択される。
【0062】
ホールブロック層8は、正孔注入輸送層3を介して発光層4に供給された正孔が電子注入輸送層5に侵入することを抑制し、発光層4における正孔と電子との再結合を促進させ、発光効率を向上させる機能を有するものである。
【0063】
このホールブロック層8を構成する材料としては、例えば下記式(a)で表される2, 9−ジメチル−4, 7−ジフェニル−1, 10−フェナントロリン(バソクプロイン:BCP)、下記式(b)で表される1, 3, 5−トリ(フェニル−2−ベンゾイミダゾリル)ベンゼン(TPBI)などを好適に用いることができる。
また、ホールブロック層8の厚みは、通常、10〜100nmの範囲で選択される。
【0064】
【化15】
【0065】
【化16】
【0066】
電子注入輸送層5は、陰極6から受け取った電子をホールブロック層8を介して発光層4まで輸送する機能を有するものである。この電子注入輸送層5を構成する材料としては、バソフェナントロリン系材料とセシウムとの共蒸着系(BPCs)を用いることが好ましく、その他の材料としては、アルカリ金属およびその化合物(例えばフッ化リチウム、酸化リチウム)、アルカリ土類金属およびその化合物(例えばフッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム)などを用いることができ、また本発明の有機EL素子用化合物を用いることもできる。この電子注入輸送層5の厚みは、通常、0.1〜100nmの範囲で選択される。
【0067】
陰極6を構成する材料としては、仕事関数の小さい例えば4eV以下のものが用いられる。陰極6の具体例としては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、インジウムなどよりなる金属膜、またはこれらの金属の合金膜などを用いることができる。
陰極6の厚みは、材料の種類によって異なるが、通常、10〜1,000nmの範囲で選択され、好ましくは50〜200nmである。
【0068】
本発明において、上記の有機EL素子は、例えば以下のようにして製造される。
先ず、透明基板1上に、陽極2を形成する。
陽極2を形成する方法としては、真空蒸着法またはスパッタ法などを利用することができる。また、ガラス基板などの透明基板の表面に例えばITO膜などの透明導電膜が形成されてなる市販の材料を用いることもできる。
【0069】
このようにして形成された陽極2上に、正孔注入輸送層3を形成する。
正孔注入輸送層3を形成する方法としては、具体的に、電荷注入輸送材料を適宜の溶剤に溶解することによって正孔注入輸送層形成液を調製し、この正孔注入輸送層形成液を、陽極2の表面に塗布し、得られた塗布膜に対して溶剤の除去処理を行うことによって正孔注入輸送層3を形成する手法を用いることができる。
【0070】
次いで、形成された正孔注入輸送層3上に、発光層4を形成する。
発光層4を形成する方法としては、例えば本発明の有機EL素子用組成物を発光層形成液として用い、この発光層形成液を正孔注入輸送層3上に塗布し、得られた塗布膜に対して溶剤の除去処理を行うことによって発光層4を形成する手法を用いることができる。
また、本発明の有機EL素子用化合物によって発光層を形成する方法としては、真空蒸着法などを利用することができると共に、当該有機EL素子用化合物を有機溶剤に溶解させた溶液を正孔注入輸送層3上に塗布し、得られた塗布膜を熱処理することにより、発光層4を形成する手法を利用することもできる。更に、本発明の有機EL素子用化合物と燐光発光性化合物とを共蒸着することによっても発光層4を形成することもでき、この手法によって発光層4を形成することにより、燐光発光性有機EL素子を得ることができる。
【0071】
そして、このようにして形成された発光層4上に、ホールブロック層8を形成すると共に、このホールブロック層8の上に電子注入輸送層5を形成し、更に、この電子注入輸送層5の上に、陰極6を形成することにより、図1に示す構成を有する有機EL素子が得られる。
【0072】
以上において、ホールブロック層8、電子注入輸送層5および陰極6を形成する方法としては、真空蒸着法などの乾式法を利用することができる。
【0073】
上記の有機EL素子においては、直流電源7により、陽極2と陰極6との間に直流電圧が印加されると、発光層4が発光し、この光は、正孔注入輸送層3、陽極2および透明基板1を介して外部に放射される。
このような構成の有機EL素子によれば、発光層4が上記の有機EL素子用化合物または有機EL素子用重合体組成物によって形成されているため、優れた耐久性が得られ、かつ高い発光輝度と共に高い発光効率も得られ、特に、発光層4が当該有機EL素子用組成物、または当該有機EL素子用化合物と燐光発光性化合物とによって形成されてなるものである場合には、更に優れた発光輝度および発光効率が得られる。
【0074】
また、ホールブロック層8が配設されていることにより、陽極2からの正孔と陰極2からの電子との結合が高い効率をもって実現され、その結果、一層高い発光輝度が得られると共に高い発光効率が得られる。
【0075】
このような構成の有機EL素子においては、ホールブロック層8が形成されていることが好ましいが、当該ホールブロック層8が配設されていないものであってもよい。
【0076】
また、このような構成の有機EL素子においては、必要に応じて正孔注入輸送層3と発光層4との間に電子ブロック層が形成されていてもよい。
この電子ブロック層は、電子が正孔注入輸送層3に侵入することを抑制し、発光層4における電子と正孔との結合を促進させ、発光効率をより向上させる機能を有するものである。
電子ブロック層を構成する材料としては、例えば前述の式(C−1)〜式(C−34)で表されるアミン化合物やポリビニルカルバゾール、下記一般式(7)で表されるポリマーなどの電子輸送性に比して正孔輸送性を有する材料を用いることができ、また、これらの材料にシランカップリング剤などの架橋剤を添加することによって溶剤不溶の電子ブロック層を得ることもできる。この電子ブロックの厚みは、通常、1〜100nmの範囲で選択される。
【0077】
【化17】
【0078】
〔式中、R6 は炭素数1〜20のアルキル基を示す。pは繰り返し数である。〕
【実施例】
【0079】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
(有機EL素子用化合物の合成例1)
先ず、窒素導入管および冷却管を備えた100mLの二口フラスコに、カルバゾール5.02g(30mmol)、1,3−ジブロモベンゼン10.62g(45mmol)、ヨウ化銅1.71g(4.5mmol)、炭酸カリウム12.44g(90mmol)、18−クラウン−6−エーテル0.37g(1.4mmol)および1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン1.35mL(以下、「DMPU」という。)を加え、窒素雰囲気下において温度170℃の条件で6時間かけて反応させた。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、ヘキサンを展開溶媒としたシリカカラムで精製し9−(3−ブロモフェニル)−9H−カルバゾール4.74gを得た。
次に、窒素導入管を備えた100mLの二口フラスコに9−(3−ブロモフェニル)−9H−カルバゾール1.16g(3.6mmol)を仕込み、40mLの乾燥ジエチルエーテルを加えて、窒素雰囲気下において温度0℃の条件で溶解させた。その後、2.6Mn−ブチルリチウムヘキサン溶液を1.52mL(3.96mmol)を滴下し、4時間撹拌を行った。次いで、乾燥トルエン20mLに溶かしたバソフェナンスロリン0.5g(1.5mmol)を加え室温で48時間撹拌を行った。反応終了後、塩化メチレンで抽出し、ヘキサン:塩化メチレン=1:1混合溶媒を展開溶媒としたシリカカラムにて精製し、さらにクロロホルム/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行うことにより、反応生成物として白色結晶0.6gを得た。この有機EL素子用化合物の合成例1に係る合成工程は、上記反応式(1)に示されている。
得られた反応生成物について、 1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを測定したところ、上記式(I−8)で表される化合物(以下、「有機EL素子用化合物(1)」という。)であることが確認された。
図2に、 1H−NMRスペクトル図を示し、図3に、13C−NMRスペクトル図を示す。
【0081】
(有機EL素子用化合物の合成例2)
有機EL素子用化合物の合成例1において、1,3−ジブロモベンゼンに代えて1,4−ジブロモベンゼンを用いたこと以外は有機EL素子用化合物の合成例1と同様にして反応生成物として黄色結晶0.68gを得た。
得られた反応生成物について、 1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを測定したところ、上記式(I−7)で表される化合物(以下、「有機EL素子用化合物(2)」という。)であることが確認された。
図4に、 1H−NMRスペクトル図を示し、図5に、13C−NMRスペクトル図を示す。
【0082】
(有機EL素子用化合物の合成例3)
先ず、窒素導入管および冷却管を備えた100mLの二口フラスコに、ジフェニルアミン5.08g(30mmol)、1,3−ジブロモベンゼン10.62g(45mmol)、ヨウ化銅1.71g(4.5mmol)、炭酸カリウム12.44g(90mmol)、18−クラウン−6−エーテル0.37g(1.4mmol)および1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン1.35mLを加え、窒素雰囲気下において温度170℃の条件で6時間かけて反応させた。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、ヘキサンを展開溶媒としたシリカカラムで精製し3−ブロモ−N,N−ジフェニルアミノベンゼンの白色結晶を5.0g得た。
次に、窒素導入管を備えた200mLの三つ口フラスコに3−ブロモ−N,N−ジフェニルアミノベンゼン3.24g(10.0mmol)を仕込み、80mLの乾燥ジエチルエーテルを加えて、窒素雰囲気下、0℃で溶解させた。その後、2.6Mn−ブチルリチウムヘキサン溶液を4.6mL(12.0mmol)を滴下し、4時間撹拌を行った。次いで、乾燥トルエン40mLに溶かしたバソフェナンスロリン0.997g(3.0mmol)を加え室温で48時間撹拌を行った。反応終了後、塩化メチレンで抽出し、ヘキサン:塩化メチレン=1:1混合溶媒を展開溶媒としたシリカカラムにて精製し、さらにクロロホルム/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行うことにより、反応生成物として淡黄色結晶1.30gを得た。
得られた反応生成物について、 1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを測定したところ、上記式(I−2)で表される化合物(以下、「有機EL素子用化合物(3)」という。)であることが確認された。
図6に、 1H−NMRスペクトル図を示し、図7に、13C−NMRスペクトル図を示す。
【0083】
(有機EL素子用組成物の調製例1)
有機EL素子用化合物(2)0.1gと、下記式(c)で表される、一般式(1)におxおよびyが共に0であるイリジウム錯体化合物(以下、「イリジウム錯体化合物(1)」という。)0.004gをクロロベンゼン3.4gに溶解させることにより、有機EL素子用組成物(A−1)を得た。
【0084】
【化18】
【0085】
(有機EL素子用組成物の調製例2)
有機EL素子用化合物(3)0.1gと、イリジウム錯体化合物(1)0.004gをクロロベンゼン3.4gに溶解させることにより、有機EL素子用組成物(A−2)を得た。
【0086】
〔実施例1〕
(有機EL素子の作製例1)
透明基板上にITO膜が形成されてなるITO基板を用意し、このITO基板を、中性洗剤、超純水、イソプロピルアルコール、超純水、アセトンをこの順に用いて超音波洗浄した後、更に紫外線−オゾン(UV/O3 )洗浄した。
次いで、このITO基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸塩水溶液をスピンコート法により塗布し、得られた厚さ65nmの塗膜を窒素雰囲気下250℃で30分間乾燥することにより、正孔注入輸送層を形成した。
この正孔注入輸送層上に、発光層形成液として、有機EL素子用組成物(A−1)をスピンコート法により塗布し、得られた厚さ40nmの塗膜を窒素雰囲気下150℃で10分間乾燥することにより、発光層を形成した。
次いで、ITO膜上に正孔注入輸送層および発光層がこの順に積層された積層体を真空装置内に固定し、真空装置内を1×10-2Pa以下に減圧し、TPBIを30nmの厚さに蒸着してホールブロック層を形成し、その後、フッ化リチウムを0.5nmの厚さに蒸着して電子注入輸送層を形成し、さらに厚さ30nmのカルシウム金属層および厚さ100nmのアルミニウム金属層をこの順で蒸着して、陰極を形成した。その後、ガラスで封止することにより、有機EL素子(1)を作製した。
【0087】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(1)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は300Cd/m2 であり、発光効率は8.0Cd/Aであった。
【0088】
〔実施例2〕
(有機EL素子の作製例2)
実施例1における有機EL素子の作製例1において、有機EL素子用組成物(A−1)に代えて有機EL素子用組成物(A−2)を用いたこと以外は有機EL素子の作製例1と同様にして有機EL素子(2)を作製した。
【0089】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(2)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は200Cd/m2 であり、発光効率は0.3Cd/Aであった。
【0090】
〔実施例3〕
(有機EL素子の作製例3)
透明基板上にITO膜が形成されてなるITO基板を用意し、このITO基板を、中性洗剤、超純水、イソプロピルアルコール、超純水、アセトンをこの順に用いて超音波洗浄した後、更に紫外線−オゾン(UV/O3 )洗浄した。
次いで、このITO基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸塩水溶液をスピンコート法により塗布し、得られた厚さ65nmの塗膜を窒素雰囲気下250℃で30分間乾燥することにより、正孔注入輸送層を形成した。
この正孔注入輸送層上に、有機EL素子用化合物(2)とイリジウム錯体化合物(1)とを、有機EL素子用化合物(2)に対してイリジウム錯体化合物(1)の濃度が6mol%となるようにして共蒸着により、厚さ40nmの発光層を形成した。
次いで、ITO膜上に正孔注入輸送層および発光層がこの順に積層された積層体を真空装置内に固定し、真空装置内を1×10-2Pa以下に減圧し、TPBIを30nmの厚さに蒸着してホールブロック層を形成し、その後、フッ化リチウムを0.5nmの厚さに蒸着して電子注入輸送層を形成し、さらに厚さ30nmのカルシウム金属層および厚さ100nmのアルミニウム金属層をこの順で蒸着して、陰極を形成した。その後、ガラスで封止することにより、有機EL素子(3)を作製した。
【0091】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(3)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は1200Cd/m2 であり、発光効率は0.2Cd/Aであった。
【0092】
〔実施例4〕
(有機EL素子の作製例4)
実施例3における有機EL素子の作製例3において、有機EL素子用化合物(2)に代えて有機EL素子用化合物(1)を用いたこと以外は有機EL素子の作製例1と同様にして有機EL素子(4)を作製した。
【0093】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(4)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は1700Cd/m2 であり、発光効率は0.3Cd/Aであった。
【0094】
〔実施例5〕
(有機EL素子の作製例5)
実施例3における有機EL素子の作製例3において、有機EL素子用化合物(2)に代えて有機EL素子用化合物(3)を用いたこと以外は有機EL素子の作製例1と同様にして有機EL素子(4)を作製した。
【0095】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(4)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は200Cd/m2 であり、発光効率は0.2Cd/Aであった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成の一例を示す説明用断面図である。
【図2】有機EL素子用化合物の合成例1に係る 1H−NMRスペクトル図である。
【図3】有機EL素子用化合物の合成例1に係る13C−NMRスペクトル図である。
【図4】有機EL素子用化合物の合成例2に係る 1H−NMRスペクトル図である。
【図5】有機EL素子用化合物の合成例2に係る13C−NMRスペクトル図である。
【図6】有機EL素子用化合物の合成例3に係る 1H−NMRスペクトル図である。
【図7】有機EL素子用化合物の合成例3に係る13C−NMRスペクトル図である。
【図8】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、式(I−8)で表される本発明の有機EL素子用化合物のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図9】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、式(I−2)で表される本発明の有機EL素子用化合物のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図10】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、式(I−7)で表される本発明の有機EL素子用化合物のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図11】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、BND(2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール))のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図12】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、α−NPD([N.N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N.N’−ジフェニルベンジジン])のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0097】
1 透明基板
2 陽極
3 正孔注入輸送層
4 発光層
5 電子注入輸送層
6 陰極
7 直流電源
8 ホールブロック層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物、および有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)は、直流電圧によって駆動することが可能であること、自己発光素子であるために視野角が広くて視認性が高いこと、応答速度が速いことなどの優れた特性を有することから、次世代の表示素子として期待されており、その研究が活発に行われている。
このような有機EL素子としては、陽極と陰極との間に有機材料よりなる発光層が形成された単層構造のもの、陽極と発光層との間に正孔輸送層を有する構造のもの、陰極と発光層との間に電子輸送層を有するものなどの多層構造のものが知られている。これらの有機EL素子は、いずれも、陰極から注入された電子と、陽極から注入された正孔とが、発光層において再結合することによって発光するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来、有機EL素子においては、陽極と発光層との間に正孔輸送層を有すると共に陰極と発光層との間に電子輸送層を有する多層構造とし、正孔輸送層および電子輸送層の構成材料として各々好適なもの、具体的には、正孔輸送層の構成材料として好適な正孔輸送性を有する低分子結晶性材料、また、電子輸送層の構成材料として好適な電子輸送性を有する低分子結晶性材料と、異なる特性を有するものを用いることにより、高効率化が図られている。
ここに、電子輸送性を示す低分子結晶性材料としては、例えばBND(2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール)が挙げられる(図11にB3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、BNDのLUMOおよびHOMOの形状を示す。)。
有機EL素子において、陰極から注入された電子は、主に電子輸送層を構成する分子の最低非占有軌道(LUMO)の分子間重なりに沿って移動することとなるが、BNDのような電子輸送性を有する材料のLUMOは一般に分子内に広がって非局在化したπ* 軌道であり、そのエネルギー順位が低下(電子親和力が上昇)することによって電子の注入効率と電子輸送性が高まることが知られている。実際に、BNDのLUMOは、正孔輸送性を有する材料に係る分子のLUMOに比して低下しており、他方、BNDの最高占有軌道(HOMO)の分布形状も典型的なπ軌道であってその分布の範囲(広がり)はLUMOとほぼ一致している。
一方、正孔輸送性を有する低分子結晶性材料としては、例えばα−NPD([N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン]が挙げられる(図12にB3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、α−NPDのLUMOおよびHOMOの形状を示す。)。
有機EL素子において、陽極から注入された正孔は、主に正孔輸送層を構成する分子のHOMO軌道の分子間重なりに沿って移動することとなるが、α−NPDのような正孔輸送性を有する材料のHOMOは一般に分子内に広がって非局在化したπ軌道であり、そのエネルギー順位が上昇(イオン化ポテンシャルが低下)することによって正孔の注入効率と正孔輸送性が高まることが知られている。実際に、α−NPDのHOMOの分布形状は典型的なπ軌道であってその分布の範囲(広がり)はLUMOとほぼ一致している。
【0004】
上記のように、正孔輸送層および電子輸送層の構成材料は、それぞれ相反する特性が要求されていることから、正孔輸送層と電子輸送層とを同じ構成材料を用いて形成することは困難とされている。特に、正孔輸送層および電子輸送層を同一の材料によって構成することが困難である理由としては、電子輸送性を示すBNDなどの材料と正孔輸送性を示すα−NPDなどの材料のどちらにおいてもHOMOとLUMOの分布形状が分子全体で大きく重なっており、しかもHOMOからLUMOへの一電子遷移が振動子強度の大きな許容遷移であることが挙げられる。時間依存の密度汎関数法(TD−DFT)計算によれば、BNDの最低エネルギー一電子励起はHOMOからLUMOへの遷移(波長:370nm、振動子強度:0.479)であり、またα−NPDの最低エネルギー一電子励起もHOMOからLUMOへの遷移(波長:399nm、振動子強度:0.319)であることから、有機化合物において、HOMOとLUMOが空間的に大きく重なっており、しかもその間の一電子遷移が許容である場合には、電子と正孔はその化合物中あるいはその化合物の集合体が形成するエネルギーバンド中で再結合する確率が高くなり、結果として、分子の励起エネルギーが有機EL素子の発光層の構成材料である燐光発光性材料まで効率的に伝達されにくくなると考えられる。反対に、HOMOからLUMOへの一電子遷移における振動強度がゼロ(禁制遷移)あるいは非常に低い場合には、無幅射失活の確率が高くなることから、有機EL素子用の材料としては好適なものではないと考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−257076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいて、本発明者らが研究を重ねた結果、一つの材料が電子輸送性と正孔輸送性とを兼ね備えるための条件として、(a)HOMOとLUMOの分布形状において、両者の空間的な重なりができるだけ小さいこと、(b)分子中の複数の芳香族環が共平面ではなくねじれた構造を有し、HOMOとLUMOの分離が強化されていること、(c)HOMOからLUMOへの一電子励起が禁制ではなく許容遷移であること、および(d)電子輸送性と正孔輸送性のバランスおよび可視域での透明性を確保するためにHOMOとLUMOはそれぞれ適度なエネルギーレベルにあることを要する分子設計指針を見出し、かつ当該条件を満たす化合物を構築することによってなされたものである。その目的は、正孔輸送性および電子輸送性を共に有し、有機エレクトロルミネッセンス素子用の発光材料として好適に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、発光特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
ここに、上記の分子設計指針に基づいて構築された化合物群は、福井謙一博士により命名された「フロンティア分子軌道」すなわちHOMOとLUMOとが、その分布形状と一電子励起状態においてほぼ分離しており、その結果、HOMOからLUMOへの遷移が分子内を電子が移動する遷移となることを特徴とすることから、「フロンティア分離型」有機EL化合物と命名することができる。
そして、本発明の有機EL素子用化合物は、本発明者らにより、フロンティア分離型有機EL化合物の分子設計指針に基づき、多くの化合物群の中から電子輸送性に優れた部位と、正孔輸送性に優れた部位を取捨選択し、それらが1つの分子中で融合しつつも、当該設計指針(電子状態)の条件を満たす化合物として構築されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物は、下記一般式(I)で表される化合物よりなることを特徴とする。
【0008】
【化1】
【0009】
〔Ar1 およびAr2 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する2価の基、または単結合を示す。Ar3 およびAr4 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する1価の基を示し、同一の窒素原子に結合されているAr3 とAr4 は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。R1 は、1価の有機基、水素原子またはフッ素原子を示す。〕
【0010】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物よりなる成分100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物により形成された正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物と燐光発光性化合物とよりなる発光層を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層が上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を用いることによって形成されてなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物は、良好な電子輸送性および正孔輸送性を有すると共に、良好な発光特性をも有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として有用なものである。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物は、乾式法および湿式法いずれの手法によっても容易に薄膜を形成することができるものであることからも、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として有用なものである。
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物によれば、湿式法によって容易に薄膜を形成することができ、また、その第1の構成成分として、燐光発光性を有する燐光発光性化合物を含有すると共に、第2の構成成分として、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物を含有してなるものであるため、優れた発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物を正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかの構成材料として用いることにより、良好な発光特性を得ることができる。
【0017】
また、本発明の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物を、燐光発光性化合物と共に発光層の構成材料として用いることにより、燐光発光による優れた発光特性を得ることができる。
この燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を用いて発光層を形成することによって作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
<有機EL素子用化合物>
本発明の有機EL素子用化合物は、上記一般式(I)で表されるものであって、有機EL素子用材料として有用なものである。
【0020】
一般式(I)において、Ar1 およびAr2 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する2価の基、または単結合を示し、これらのAr1 およびAr2 は、同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0021】
基Ar1 および基Ar2 を示す2価の基としては、例えばフェニレン基、トリレン基などの芳香環をその構成中に含むもの、例えばナフチレン基などの縮合環をその構成中に含むもの、および例えばチオフェン基、ピリジレン基などの複素環をその構成中に含むものであって、具体的には、例えば下記式(i−1)〜式(i−5)で表される基などが挙げられる。
【0022】
【化2】
【0023】
また、一般式(I)におけるAr3 およびAr4 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する1価の基を示し、これらのAr3 およびAr4 は、同一のものであっても異なるものであってもよいが、同一のものであることが好ましい。そして、同一の窒素原子に結合されているAr3 とAr4 は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0024】
基Ar3 および基Ar4 を示す2価の基としては、例えばフェニル基、トリル基などの芳香環をその構造中に含有する基、例えばナフチル基などの縮合環をその構造中に含有する基、例えばピリジル基などが挙げられる。
また、基Ar3 と基Ar4 が互いに結合して環構造を形成する場合としては、これらの2つの基によって、例えばカルバゾール基などが形成される。
【0025】
また、一般式(I)におけるR1 は、1価の有機基、水素原子またはフッ素原子を示す。
この基R1 を示す1価の有機基としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1〜20のアルキル基、例えばフェニル基、トリル基等の炭素数6〜20のアリール基、例えばトリフルオロメチル基等の炭素数1〜20のフッ化アルキル基などが挙げられ、これらのうちでは、フェニル基が好ましい。
【0026】
本発明の有機EL素子用化合物の好ましい具体例としては、下記式(I−1)〜式(I−12)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
以上のような本発明の有機EL素子用化合物の合成方法の一例として、式(I−8)で表される有機EL素子用化合物の合成過程を下記反応式(1)に示す。
【0030】
【化5】
【0031】
本発明の有機EL素子用化合物は、真空蒸着法などの乾式法によって容易に膜を形成することができると共に、溶剤に対して優れた溶解性が得られ、薄膜を形成するための塗布液を容易に調製することができるため、当該塗布液によって容易に薄膜を形成することができる。従って、当該有機EL素子用化合物は、高い薄膜形成能を有するものであることからも有機EL素子用材料として有用なものである。
【0032】
具体的には、本発明の有機EL素子用化合物は、その構造に誘因して良好な電子輸送性および正孔輸送性を共に有するものであることから、例えば有機EL素子の正孔注入輸送層および電子注入輸送層を構成する材料として好適に用いることができると共に、ホスト化合物として、燐光発光性を有する後述の燐光発光性化合物と組み合わせることにより、燐光発光性有機EL素子の発光層を構成する材料として好適に用いることができる。更に、この有機EL素子用化合物は、それ自体が良好な発光特性を有することから、単独で有機EL素子の発光層を構成する発光材料としても好適に用いることができる。
このように本発明の有機EL素子用化合物を有機EL素子用材料とする場合には、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここに、本発明の有機EL素子用化合物は、(a)HOMOとLUMOの分布形状において、両者の空間的な重なりができるだけ小さいこと、(b)分子中の複数の芳香族環が共平面ではなくねじれた構造を有し、HOMOとLUMOの分離が強化されていること、(c)HOMOからLUMOへの一電子励起が禁制ではなく許容遷移であること、および(d)電子輸送性と正孔輸送性のバランスおよび可視域での透明性を確保するためにHOMOとLUMOはそれぞれ適度なエネルギーレベルにあることを条件とする分子設計指針を満たすものであり、このような上記の分子設計指針に基づいて構築された化合物群は、HOMOとLUMOとが、その分布形状と一電子励起状態においてほぼ分離しており、その結果、HOMOからLUMOへの遷移が分子内を電子が移動する遷移となることを特徴とする、「フロンティア分離型有機EL化合物」である。図8〜図10に、フロンティア分離型有機EL化合物である本発明の有機EL素子用化合物のいくつかの例について、B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算したLUMOおよびHOMOの形状を示す。
すなわち、本発明の有機EL素子用化合物は、フロンティア分離型有機EL化合物の分子設計指針を満足するものであり、電子輸送性に優れた部位と、正孔輸送性に優れた部位を有し、かつそれらが1つの分子中で融合されてなる化合物である。
【0033】
<有機EL素子用組成物>
本発明の有機EL素子用組成物は、上記の有機EL素子用化合物よりなる成分(以下、「EL素子用化合物成分」ともいう。)100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分(以下、「発光成分」ともいう。)1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなるものである。
【0034】
発光成分を構成する燐光発光性化合物としては、イリジウム錯体化合物、白金錯体化合物、パラジウム錯体化合物、ルビジウム錯体化合物、オスミウム錯体化合物、レニウム錯体化合物などを挙げることができ、これらのうち、特に、イリジウム錯体化合物が好ましい。
【0035】
イリジウム錯体化合物としては、例えば、イリジウムと、2−フェニルピリジン、3−フェニルピリジン、2−フェニルピリミジン、4−フェニルピリミジン、5−フェニルピリミジン、ビピリジル、1−フェニルピラゾール、2−フェニルキノリン、2−フェニルベンゾチアゾール、2−フェニル−2−オキサゾリン、2,4−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、5−フェニル−2−(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾールや、これらの誘導体などの窒素原子含有芳香族化合物との錯体化合物を挙げることができる。
このようなイリジウム錯体化合物の具体例としては、例えば下記一般式(1)〜一般式(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0036】
【化6】
【0037】
上記一般式(1)〜一般式(6)において、R2 〜R4 は、それぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基よりなる置換基を示し、互いに同一のものであっても異なるものであってもよい。xは0〜4の整数であり、yは0〜4の整数であり、zは0〜3の整数であり、wは0〜2の整数である。
【0038】
以上において、置換基R2 〜R4 に係る炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などを挙げることができる。
また、置換基R2 〜R4 に係る炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、4−ビフェニル基、1−ナフチル基などを挙げることができる。
【0039】
本発明の有機EL素子用組成物において、イリジウム錯体化合物としては、一般式(1)においてxおよびyが共に0であるイリジウム錯体化合物を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の有機EL素子用組成物における発光成分の含有割合は、EL素子用化合物成分100質量部に対して1〜20質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
発光成分の割合が過大である場合には、発光輝度が却って減少する濃度消光の現象が生じるおそれがある。
【0041】
有機溶剤は、EL素子用化合物成分を構成する本発明の有機EL素子用化合物と、発光成分を構成する燐光発光性化合物とを溶解し、これにより、EL素子用化合物成分と発光成分とを含有する溶液を調製するためのものである。
【0042】
有機溶剤としては、本発明の有機EL素子用化合物および燐光発光性化合物を溶解し得るものであれば特に限定されず、その具体例としては、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類;クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類や、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、アニソールなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、均一な厚みを有する薄膜が得られ易い点で、適度の蒸発速度を有するもの、具体的には沸点が70〜200℃程度の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0043】
本発明の有機EL素子用組成物における有機溶剤の含有割合は、EL素子用化合物成分および発光成分の種類によって異なるが、EL素子用化合物成分100質量部に対して100〜100,000質量部であり、好ましくは1,000〜10,000質量部である。
有機溶剤の含有割合が上記の範囲であることにより、本発明の有機EL素子用化合物および燐光発光性化合物を均一に溶解することができ、好ましい膜厚に成膜することができる。
【0044】
本発明の有機EL素子用組成物には、必要に応じて、例えば電荷輸送性化合物などの任意の添加物を加えることができる。
【0045】
電荷輸送性化合物の具体例としては、下記式(A−1)〜式(A−10)で表される電荷輸送性を有する化合物、下記式(B−1)〜式(B−20)で表される電子輸送性を有する化合物、および下記式(C−1)〜式(C−34)で表される正孔輸送性を有する化合物などが挙げられる。
【0046】
【化7】
【0047】
【化8】
【0048】
ここに、式(B−16)において、R5 は下記式(イ)〜式(ハ)で表されるいずれかの基を示す。
【0049】
【化9】
【0050】
【化10】
【0051】
【化11】
【0052】
【化12】
【0053】
ここに、式(C−12)において、mは1以上の整数を示す。
【0054】
【化13】
【0055】
【化14】
【0056】
本発明の有機EL素子用材料組成物における電荷輸送性化合物の含有量は、EL素子用化合物成分100質量部に対し、0〜200重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0〜100重量部である。
【0057】
このような有機EL素子用組成物によれば、十分に高い発光輝度で発光し、良好な耐久性を備えた発光層を有する燐光発光性有機EL素子を得ることができ、しかも、当該発光層を湿式法により容易に形成することができる。
この有機EL素子用組成物によって発光層を形成する方法としては、当該有機EL素子用組成物を適宜の基体の表面に塗布したのち、有機溶剤を除去することにより、形成することができる。
有機EL素子用組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、浸漬法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法などの適宜の方法を採用することができる。
形成される発光層の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、10〜200nm、好ましくは30〜100nmの範囲で選択される。
【0058】
<有機EL素子>
図1は、本発明の有機EL素子の構成の一例を示す説明用断面図である。
この例の有機EL素子は、透明基板1上に、正孔を供給する電極である陽極2が例えば透明導電膜により設けられ、この陽極2上に正孔注入輸送層3が設けられ、この正孔注入輸送層3上に発光層4が設けられ、この発光層4上にホールブロック層8が設けられ、このホールブロック層8上に電子注入輸送層5が設けられ、この電子注入輸送層5上に電子を供給する電極である陰極6が設けられている。そして、陽極2および陰極6は、直流電源7に電気的に接続される。
【0059】
この有機EL素子において、透明基板1としては、ソーダガラス基板、透明性樹脂基板または石英ガラス基板などを用いることができる。
陽極2を構成する材料としては、好ましくは、仕事関数の大きい例えば4eV以上の透明性材料が用いられる。ここで、仕事関数とは、固体から真空中に電子を取り出すのに要する最小限の仕事の大きさをいう。陽極2としては、例えば、ITO(インジウム−スズ酸化物)膜、酸化スズ(IV)膜、酸化銅(II)膜、酸化亜鉛膜などを用いることができる。
また、陽極2の厚みは、材料の種類によって異なるが、通常、10〜1,000nmの範囲で選択され、好ましくは50〜200nmである。
【0060】
正孔注入輸送層3は、正孔を効率よく発光層4に供給するために設けられたものであって、陽極2から正孔(ホール)を受け取って、発光層4に輸送する機能を有するものである。
この正孔注入輸送層3を構成する材料としては、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸塩などの電荷注入輸送材料を好適に用いることができ、また本発明の有機EL素子用化合物を用いることもできる。
また、正孔注入輸送層3の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、10〜200nmの範囲で選択される。
【0061】
発光層4は、電子と正孔とを結合させ、その結合エネルギーを光として放射する機能を有するものであり、この発光層4は、本発明の有機EL素子用化合物あるいは本発明の有機EL素子用組成物によって形成されている。ここに、発光層4が本発明の有機EL素子用組成物を用いて形成されたもの、および本発明の有機EL素子用化合物と燐光発光性化合物とからなるものは、特に燐光発光性有機EL素子とされる。
また、発光層4の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、5〜200nmの範囲で選択される。
【0062】
ホールブロック層8は、正孔注入輸送層3を介して発光層4に供給された正孔が電子注入輸送層5に侵入することを抑制し、発光層4における正孔と電子との再結合を促進させ、発光効率を向上させる機能を有するものである。
【0063】
このホールブロック層8を構成する材料としては、例えば下記式(a)で表される2, 9−ジメチル−4, 7−ジフェニル−1, 10−フェナントロリン(バソクプロイン:BCP)、下記式(b)で表される1, 3, 5−トリ(フェニル−2−ベンゾイミダゾリル)ベンゼン(TPBI)などを好適に用いることができる。
また、ホールブロック層8の厚みは、通常、10〜100nmの範囲で選択される。
【0064】
【化15】
【0065】
【化16】
【0066】
電子注入輸送層5は、陰極6から受け取った電子をホールブロック層8を介して発光層4まで輸送する機能を有するものである。この電子注入輸送層5を構成する材料としては、バソフェナントロリン系材料とセシウムとの共蒸着系(BPCs)を用いることが好ましく、その他の材料としては、アルカリ金属およびその化合物(例えばフッ化リチウム、酸化リチウム)、アルカリ土類金属およびその化合物(例えばフッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム)などを用いることができ、また本発明の有機EL素子用化合物を用いることもできる。この電子注入輸送層5の厚みは、通常、0.1〜100nmの範囲で選択される。
【0067】
陰極6を構成する材料としては、仕事関数の小さい例えば4eV以下のものが用いられる。陰極6の具体例としては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、インジウムなどよりなる金属膜、またはこれらの金属の合金膜などを用いることができる。
陰極6の厚みは、材料の種類によって異なるが、通常、10〜1,000nmの範囲で選択され、好ましくは50〜200nmである。
【0068】
本発明において、上記の有機EL素子は、例えば以下のようにして製造される。
先ず、透明基板1上に、陽極2を形成する。
陽極2を形成する方法としては、真空蒸着法またはスパッタ法などを利用することができる。また、ガラス基板などの透明基板の表面に例えばITO膜などの透明導電膜が形成されてなる市販の材料を用いることもできる。
【0069】
このようにして形成された陽極2上に、正孔注入輸送層3を形成する。
正孔注入輸送層3を形成する方法としては、具体的に、電荷注入輸送材料を適宜の溶剤に溶解することによって正孔注入輸送層形成液を調製し、この正孔注入輸送層形成液を、陽極2の表面に塗布し、得られた塗布膜に対して溶剤の除去処理を行うことによって正孔注入輸送層3を形成する手法を用いることができる。
【0070】
次いで、形成された正孔注入輸送層3上に、発光層4を形成する。
発光層4を形成する方法としては、例えば本発明の有機EL素子用組成物を発光層形成液として用い、この発光層形成液を正孔注入輸送層3上に塗布し、得られた塗布膜に対して溶剤の除去処理を行うことによって発光層4を形成する手法を用いることができる。
また、本発明の有機EL素子用化合物によって発光層を形成する方法としては、真空蒸着法などを利用することができると共に、当該有機EL素子用化合物を有機溶剤に溶解させた溶液を正孔注入輸送層3上に塗布し、得られた塗布膜を熱処理することにより、発光層4を形成する手法を利用することもできる。更に、本発明の有機EL素子用化合物と燐光発光性化合物とを共蒸着することによっても発光層4を形成することもでき、この手法によって発光層4を形成することにより、燐光発光性有機EL素子を得ることができる。
【0071】
そして、このようにして形成された発光層4上に、ホールブロック層8を形成すると共に、このホールブロック層8の上に電子注入輸送層5を形成し、更に、この電子注入輸送層5の上に、陰極6を形成することにより、図1に示す構成を有する有機EL素子が得られる。
【0072】
以上において、ホールブロック層8、電子注入輸送層5および陰極6を形成する方法としては、真空蒸着法などの乾式法を利用することができる。
【0073】
上記の有機EL素子においては、直流電源7により、陽極2と陰極6との間に直流電圧が印加されると、発光層4が発光し、この光は、正孔注入輸送層3、陽極2および透明基板1を介して外部に放射される。
このような構成の有機EL素子によれば、発光層4が上記の有機EL素子用化合物または有機EL素子用重合体組成物によって形成されているため、優れた耐久性が得られ、かつ高い発光輝度と共に高い発光効率も得られ、特に、発光層4が当該有機EL素子用組成物、または当該有機EL素子用化合物と燐光発光性化合物とによって形成されてなるものである場合には、更に優れた発光輝度および発光効率が得られる。
【0074】
また、ホールブロック層8が配設されていることにより、陽極2からの正孔と陰極2からの電子との結合が高い効率をもって実現され、その結果、一層高い発光輝度が得られると共に高い発光効率が得られる。
【0075】
このような構成の有機EL素子においては、ホールブロック層8が形成されていることが好ましいが、当該ホールブロック層8が配設されていないものであってもよい。
【0076】
また、このような構成の有機EL素子においては、必要に応じて正孔注入輸送層3と発光層4との間に電子ブロック層が形成されていてもよい。
この電子ブロック層は、電子が正孔注入輸送層3に侵入することを抑制し、発光層4における電子と正孔との結合を促進させ、発光効率をより向上させる機能を有するものである。
電子ブロック層を構成する材料としては、例えば前述の式(C−1)〜式(C−34)で表されるアミン化合物やポリビニルカルバゾール、下記一般式(7)で表されるポリマーなどの電子輸送性に比して正孔輸送性を有する材料を用いることができ、また、これらの材料にシランカップリング剤などの架橋剤を添加することによって溶剤不溶の電子ブロック層を得ることもできる。この電子ブロックの厚みは、通常、1〜100nmの範囲で選択される。
【0077】
【化17】
【0078】
〔式中、R6 は炭素数1〜20のアルキル基を示す。pは繰り返し数である。〕
【実施例】
【0079】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
(有機EL素子用化合物の合成例1)
先ず、窒素導入管および冷却管を備えた100mLの二口フラスコに、カルバゾール5.02g(30mmol)、1,3−ジブロモベンゼン10.62g(45mmol)、ヨウ化銅1.71g(4.5mmol)、炭酸カリウム12.44g(90mmol)、18−クラウン−6−エーテル0.37g(1.4mmol)および1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン1.35mL(以下、「DMPU」という。)を加え、窒素雰囲気下において温度170℃の条件で6時間かけて反応させた。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、ヘキサンを展開溶媒としたシリカカラムで精製し9−(3−ブロモフェニル)−9H−カルバゾール4.74gを得た。
次に、窒素導入管を備えた100mLの二口フラスコに9−(3−ブロモフェニル)−9H−カルバゾール1.16g(3.6mmol)を仕込み、40mLの乾燥ジエチルエーテルを加えて、窒素雰囲気下において温度0℃の条件で溶解させた。その後、2.6Mn−ブチルリチウムヘキサン溶液を1.52mL(3.96mmol)を滴下し、4時間撹拌を行った。次いで、乾燥トルエン20mLに溶かしたバソフェナンスロリン0.5g(1.5mmol)を加え室温で48時間撹拌を行った。反応終了後、塩化メチレンで抽出し、ヘキサン:塩化メチレン=1:1混合溶媒を展開溶媒としたシリカカラムにて精製し、さらにクロロホルム/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行うことにより、反応生成物として白色結晶0.6gを得た。この有機EL素子用化合物の合成例1に係る合成工程は、上記反応式(1)に示されている。
得られた反応生成物について、 1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを測定したところ、上記式(I−8)で表される化合物(以下、「有機EL素子用化合物(1)」という。)であることが確認された。
図2に、 1H−NMRスペクトル図を示し、図3に、13C−NMRスペクトル図を示す。
【0081】
(有機EL素子用化合物の合成例2)
有機EL素子用化合物の合成例1において、1,3−ジブロモベンゼンに代えて1,4−ジブロモベンゼンを用いたこと以外は有機EL素子用化合物の合成例1と同様にして反応生成物として黄色結晶0.68gを得た。
得られた反応生成物について、 1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを測定したところ、上記式(I−7)で表される化合物(以下、「有機EL素子用化合物(2)」という。)であることが確認された。
図4に、 1H−NMRスペクトル図を示し、図5に、13C−NMRスペクトル図を示す。
【0082】
(有機EL素子用化合物の合成例3)
先ず、窒素導入管および冷却管を備えた100mLの二口フラスコに、ジフェニルアミン5.08g(30mmol)、1,3−ジブロモベンゼン10.62g(45mmol)、ヨウ化銅1.71g(4.5mmol)、炭酸カリウム12.44g(90mmol)、18−クラウン−6−エーテル0.37g(1.4mmol)および1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン1.35mLを加え、窒素雰囲気下において温度170℃の条件で6時間かけて反応させた。反応終了後、酢酸エチルで抽出し、ヘキサンを展開溶媒としたシリカカラムで精製し3−ブロモ−N,N−ジフェニルアミノベンゼンの白色結晶を5.0g得た。
次に、窒素導入管を備えた200mLの三つ口フラスコに3−ブロモ−N,N−ジフェニルアミノベンゼン3.24g(10.0mmol)を仕込み、80mLの乾燥ジエチルエーテルを加えて、窒素雰囲気下、0℃で溶解させた。その後、2.6Mn−ブチルリチウムヘキサン溶液を4.6mL(12.0mmol)を滴下し、4時間撹拌を行った。次いで、乾燥トルエン40mLに溶かしたバソフェナンスロリン0.997g(3.0mmol)を加え室温で48時間撹拌を行った。反応終了後、塩化メチレンで抽出し、ヘキサン:塩化メチレン=1:1混合溶媒を展開溶媒としたシリカカラムにて精製し、さらにクロロホルム/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行うことにより、反応生成物として淡黄色結晶1.30gを得た。
得られた反応生成物について、 1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを測定したところ、上記式(I−2)で表される化合物(以下、「有機EL素子用化合物(3)」という。)であることが確認された。
図6に、 1H−NMRスペクトル図を示し、図7に、13C−NMRスペクトル図を示す。
【0083】
(有機EL素子用組成物の調製例1)
有機EL素子用化合物(2)0.1gと、下記式(c)で表される、一般式(1)におxおよびyが共に0であるイリジウム錯体化合物(以下、「イリジウム錯体化合物(1)」という。)0.004gをクロロベンゼン3.4gに溶解させることにより、有機EL素子用組成物(A−1)を得た。
【0084】
【化18】
【0085】
(有機EL素子用組成物の調製例2)
有機EL素子用化合物(3)0.1gと、イリジウム錯体化合物(1)0.004gをクロロベンゼン3.4gに溶解させることにより、有機EL素子用組成物(A−2)を得た。
【0086】
〔実施例1〕
(有機EL素子の作製例1)
透明基板上にITO膜が形成されてなるITO基板を用意し、このITO基板を、中性洗剤、超純水、イソプロピルアルコール、超純水、アセトンをこの順に用いて超音波洗浄した後、更に紫外線−オゾン(UV/O3 )洗浄した。
次いで、このITO基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸塩水溶液をスピンコート法により塗布し、得られた厚さ65nmの塗膜を窒素雰囲気下250℃で30分間乾燥することにより、正孔注入輸送層を形成した。
この正孔注入輸送層上に、発光層形成液として、有機EL素子用組成物(A−1)をスピンコート法により塗布し、得られた厚さ40nmの塗膜を窒素雰囲気下150℃で10分間乾燥することにより、発光層を形成した。
次いで、ITO膜上に正孔注入輸送層および発光層がこの順に積層された積層体を真空装置内に固定し、真空装置内を1×10-2Pa以下に減圧し、TPBIを30nmの厚さに蒸着してホールブロック層を形成し、その後、フッ化リチウムを0.5nmの厚さに蒸着して電子注入輸送層を形成し、さらに厚さ30nmのカルシウム金属層および厚さ100nmのアルミニウム金属層をこの順で蒸着して、陰極を形成した。その後、ガラスで封止することにより、有機EL素子(1)を作製した。
【0087】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(1)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は300Cd/m2 であり、発光効率は8.0Cd/Aであった。
【0088】
〔実施例2〕
(有機EL素子の作製例2)
実施例1における有機EL素子の作製例1において、有機EL素子用組成物(A−1)に代えて有機EL素子用組成物(A−2)を用いたこと以外は有機EL素子の作製例1と同様にして有機EL素子(2)を作製した。
【0089】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(2)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は200Cd/m2 であり、発光効率は0.3Cd/Aであった。
【0090】
〔実施例3〕
(有機EL素子の作製例3)
透明基板上にITO膜が形成されてなるITO基板を用意し、このITO基板を、中性洗剤、超純水、イソプロピルアルコール、超純水、アセトンをこの順に用いて超音波洗浄した後、更に紫外線−オゾン(UV/O3 )洗浄した。
次いで、このITO基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸塩水溶液をスピンコート法により塗布し、得られた厚さ65nmの塗膜を窒素雰囲気下250℃で30分間乾燥することにより、正孔注入輸送層を形成した。
この正孔注入輸送層上に、有機EL素子用化合物(2)とイリジウム錯体化合物(1)とを、有機EL素子用化合物(2)に対してイリジウム錯体化合物(1)の濃度が6mol%となるようにして共蒸着により、厚さ40nmの発光層を形成した。
次いで、ITO膜上に正孔注入輸送層および発光層がこの順に積層された積層体を真空装置内に固定し、真空装置内を1×10-2Pa以下に減圧し、TPBIを30nmの厚さに蒸着してホールブロック層を形成し、その後、フッ化リチウムを0.5nmの厚さに蒸着して電子注入輸送層を形成し、さらに厚さ30nmのカルシウム金属層および厚さ100nmのアルミニウム金属層をこの順で蒸着して、陰極を形成した。その後、ガラスで封止することにより、有機EL素子(3)を作製した。
【0091】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(3)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は1200Cd/m2 であり、発光効率は0.2Cd/Aであった。
【0092】
〔実施例4〕
(有機EL素子の作製例4)
実施例3における有機EL素子の作製例3において、有機EL素子用化合物(2)に代えて有機EL素子用化合物(1)を用いたこと以外は有機EL素子の作製例1と同様にして有機EL素子(4)を作製した。
【0093】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(4)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は1700Cd/m2 であり、発光効率は0.3Cd/Aであった。
【0094】
〔実施例5〕
(有機EL素子の作製例5)
実施例3における有機EL素子の作製例3において、有機EL素子用化合物(2)に代えて有機EL素子用化合物(3)を用いたこと以外は有機EL素子の作製例1と同様にして有機EL素子(4)を作製した。
【0095】
(有機EL素子の特性評価)
得られた有機EL素子(4)について、発光層を発光させて最高発光輝度および発光効率を測定したところ、最高発光輝度は200Cd/m2 であり、発光効率は0.2Cd/Aであった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成の一例を示す説明用断面図である。
【図2】有機EL素子用化合物の合成例1に係る 1H−NMRスペクトル図である。
【図3】有機EL素子用化合物の合成例1に係る13C−NMRスペクトル図である。
【図4】有機EL素子用化合物の合成例2に係る 1H−NMRスペクトル図である。
【図5】有機EL素子用化合物の合成例2に係る13C−NMRスペクトル図である。
【図6】有機EL素子用化合物の合成例3に係る 1H−NMRスペクトル図である。
【図7】有機EL素子用化合物の合成例3に係る13C−NMRスペクトル図である。
【図8】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、式(I−8)で表される本発明の有機EL素子用化合物のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図9】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、式(I−2)で表される本発明の有機EL素子用化合物のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図10】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、式(I−7)で表される本発明の有機EL素子用化合物のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図11】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、BND(2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール))のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【図12】B3LYP型汎関数を用いた密度汎関数法により計算した、α−NPD([N.N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N.N’−ジフェニルベンジジン])のLUMOおよびHOMOの形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0097】
1 透明基板
2 陽極
3 正孔注入輸送層
4 発光層
5 電子注入輸送層
6 陰極
7 直流電源
8 ホールブロック層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物よりなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物。
【化1】
〔Ar1 およびAr2 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する2価の基、または単結合を示す。Ar3 およびAr4 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する1価の基を示し、同一の窒素原子に結合されているAr3 とAr4 は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。R1 は、1価の有機基、水素原子またはフッ素原子を示す。〕
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物よりなる成分100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物により形成された正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物と燐光発光性化合物とよりなる発光層を有することを特徴とする燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
発光層が請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を用いることによって形成されてなるものであることを特徴とする請求項4に記載の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物よりなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物。
【化1】
〔Ar1 およびAr2 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する2価の基、または単結合を示す。Ar3 およびAr4 は、それぞれ独立にその構造中に芳香環、縮合環および複素環のいずれかを有する1価の基を示し、同一の窒素原子に結合されているAr3 とAr4 は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。R1 は、1価の有機基、水素原子またはフッ素原子を示す。〕
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物よりなる成分100質量部と、燐光発光性化合物よりなる成分1〜20質量部と、有機溶剤100〜100,000質量部とを含有してなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物により形成された正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のいずれかを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用化合物と燐光発光性化合物とよりなる発光層を有することを特徴とする燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
発光層が請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物を用いることによって形成されてなるものであることを特徴とする請求項4に記載の燐光発光性有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−38280(P2009−38280A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202756(P2007−202756)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
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