説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 エネルギー移動を用いて高輝度の発光が得られ、低コストで製造が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】 キャリアの注入によって発光する発光層を備え、発光層が第1の有機化合物と第2の有機化合物とを含む。発光層を構成する有機化合物に占める第1の有機化合物の割合が50モル%以上であり、第1の有機化合物が、室温において安定な励起三重項状態を形成する有機化合物である。そして、発光層へのキャリアの注入によって第2の有機化合物が蛍光を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の急速な進展に伴い、軽量で消費電力の小さなフラットパネルディスプレイ(FDP)へのニーズが益々高まっている。FDPの候補として様々な表示方式が知られているが、その中でも、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という場合がある)が注目されている。有機EL素子では、発光材料を選択することによって様々な発光色が得られる。また薄膜化が容易でプラスティック基板などのフレキシブル基板上にも作製できるため、フルカラーのフレキシブルディスプレイを実現する際に有利な特徴を持っている。
【0003】
有機EL素子では、素子に注入された電子と正孔が発光層内部や発光層と他の有機層との界面で再結合して発光する。従って発光層は素子の発光効率を決定する重要な部分である。具体的には、正孔注入電極と電子注入電極から素子に注入された正孔と電子は、正孔輸送層と電子輸送層を通過して発光層へと運ばれそこで再結合する。この再結合によって発光層材料の一部が励起状態を形成する。この時、励起一重項状態と励起三重項状態とがそれぞれ25%:75%の割合で生成する。生成した励起状態から効率よく発光を得るために発光層の材料としては蛍光量子収率の高い蛍光色素や燐光色素が使用される。蛍光は励起一重項状態からの発光であるので再結合によって生成した励起状態の中で25%だけが利用可能である。これに対して、励起三重項状態からの発光である燐光を用いれば、生成する励起状態の75%を利用できるため非常に高い発光効率を実現することができる。
【0004】
室温において強い燐光を示す材料として、イリジウムや白金を中心金属にもつ有機金属錯体が知られている(非特許文献1参照)。これらの材料は有機EL素子の発光材料として用いられ高効率の発光を示す。しかしながら、励起三重項状態からの発光は本来禁制遷移のため、室温で強い燐光を示す材料は、イリジウム錯体(Ir(ppy)3)や白金ポルフィリン錯体など一部の特殊で高価な化合物に限られるといった問題があった。
【0005】
また、従来から、燐光材料から蛍光材料へのエネルギー移動を用いて蛍光材料を発光させる有機EL素子も提案されてきた(非特許文献2、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−50483号公報
【非特許文献1】バルドー(M. A. Baldo)ら、「Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence」、アプライド フィジックス レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1999年、Vol. 75、No. 1、p.4-6
【非特許文献2】バルドー(M. A. Baldo)ら、「High-efficiency fluorescent organic light-emitting devices using a phosphorescent sensitizer」、レターズ トゥー ネイチャー(letters to nature)、米国、2000年、Vol. 403、p.750-753
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術で検討されてきた燐光材料は、高価な金属錯体であった。また、上記先行技術では、燐光材料から蛍光材料へのエネルギー移動に適した有機化合物の検討は十分にされていなかった。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明は、エネルギー移動を用いて高輝度の発光が得られ、低コストで製造が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、キャリアの注入によって発光する発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が第1の有機化合物と第2の有機化合物とを含み、前記発光層を構成する有機化合物に占める前記第1の有機化合物の割合が50モル%以上であり、前記第1の有機化合物が、室温において安定な励起三重項状態を形成する有機化合物であり、前記発光層へのキャリアの注入によって前記第2の有機化合物が蛍光を発する。
【0009】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、前記第1の有機化合物が、ベンゾフェノン骨格またはケトクマリン骨格を含むことが好ましい。すなわち、別の観点では、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、キャリアの注入によって発光する発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が第1の有機化合物と第2の有機化合物とを含み、前記発光層を構成する有機化合物に占める前記第1の有機化合物の割合が50モル%以上であり、前記第1の有機化合物がベンゾフェノン骨格またはケトクマリン骨格を含み、前記発光層へのキャリアの注入によって前記第2の有機化合物が蛍光を発する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1の有機化合物(ホスト材料)から第2の有機化合物(ゲスト材料)へのエネルギー移動を用いることによって、高輝度の発光が得られる。本発明の有機EL素子では、第1の有機化合物の室温における燐光発光の強度が低くてもよいため、多様な有機材料の中から安価な有機化合物を用いることができ、低コストで製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。本発明の有機ELは、キャリアの注入によって発光する発光層を備える有機EL素子であって、発光層が第1の有機化合物と第2の有機化合物とを含み、発光層を構成する有機化合物に占める第1の有機化合物の割合が50モル%以上であり、第1の有機化合物が、室温(25℃)において安定な励起三重項状態を形成する有機化合物であり、発光層へのキャリアの注入によって第2の有機化合物が蛍光を発する。
【0012】
本発明の有機EL素子は、発光層を除いて、公知の有機EL素子と同様に形成できる。本発明の有機EL素子は、通常、正孔注入電極と電子注入電極とを含み、発光層は正孔注入電極と電子注入電極との間に配置される。2つの電極のうちの少なくとも1つの電極は、発光層から出射された光を透過させる導電膜で形成される。正孔注入電極には、たとえば、仕事関数の大きな金や白金、インジウム−スズ酸化物、アルミニウム−亜鉛酸化物などが用いられる。電子注入電極には、たとえば、マグネシウム−銀合金やリチウム、セシウム、ナトリウム、カルシウムおよびアルミニウムなどの仕事関数の小さな金属が用いられる。
【0013】
正孔注入電極と発光層との間には、正孔輸送層などの他の層が形成されていてもよい。また、電子注入電極と発光層との間には、電子輸送層などの他の層が形成されていてもよい。正孔輸送層および電子輸送層には、それぞれ、正孔輸送特性および電子輸送特性に優れた公知の有機材料を用いることができる。それぞれの層の厚さに特に限定はない。発光層の厚さは、たとえば5nm〜1000nmの範囲から選択してもよい。
【0014】
発光層を構成する有機化合物に占める第1の有機化合物(ホスト材料)の割合は、50モル%以上であり、たとえば80〜99.99モル%である。
【0015】
第1の有機化合物は、キャリアの再結合によって室温で安定な励起三重項状態を形成する有機化合物である。様々な材料を検討した結果、本発明者は、第1の有機化合物として、ベンゾフェノン骨格またはケトクマリン骨格を含む有機化合物を用いることによって、第1の有機化合物の三重項励起状態から第2の有機化合物の一重項励起状態へのエネルギー移動を効率よく生じさせることができることを見出した。すなわち、第1の有機化合物として、ベンゾフェノン、ベンゾフェノン誘導体、ケトクマリン、またはケトクマリン誘導体を用いることが好ましい。ベンゾフェノン骨格は以下の式(1)で表される。ケトクマリン骨格は以下の式(2)で表され、ケトクマリン骨格を有する化合物は、たとえば以下の式(3)で表される化合物やその誘導体であってもよい。なお、以下の式(1)〜(3)の環には、さらに他の環が縮合していてもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
ベンゾフェノン誘導体およびケトクマリン誘導体としては、たとえば、以下の式(4)〜(6)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
式(4)〜(6)において、R1、R2、R3、R5およびR6は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、芳香環、ヘテロ芳香環からなる群より選ばれる基であってもよい。また、R4は任意の有機基である。R1、R2、R3、R5およびR6は、ベンゼン環が維持される限り、ベンゼン環のいずれの位置に結合していてもよい。たとえば、R1およびR2は、それぞれ独立に、カルボニル基に対してオルト位、メタ位またはパラ位のいずれかの位置に結合する。
【0024】
ベンゾフェノン骨格またはケトクマリン骨格を含む有機化合物は、第1の有機化合物に求められる特性を有すると共に、非常に安価であるため好ましい。本発明者は、ベンゾフェノン骨格を有する有機化合物が第1の有機化合物として特に好ましいことを見出した。ベンゾフェノン骨格を有する有機化合物は、安価であると共に高いエネルギー準位を有する励起三重項状態を有するため高効率にエネルギー移動を生じさせる。ただし、本発明の第1の有機化合物は、他の骨格を有する有機化合物であってもよい。
【0025】
ベンゾフェノン骨格を有する化合物の具体例としては、たとえば、4−フェニルベンゾフェノンや4,4’−ジブロモベンゾフェノンが挙げられる。
【0026】
第1の有機化合物の燐光寿命は、たとえば1マイクロ秒以上であり、好ましくは1ミリ秒以上であり、より好ましくは100ミリ秒以上である。燐光寿命が長いほど、すなわち励起三重項状態の寿命が長いほど、第1の有機化合物の励起三重項状態から第2の有機化合物の励起一重項状態へのエネルギー移動の割合を高くでき、発光強度を高めることが可能となる。
【0027】
第1の有機化合物は、室温で光励起した時の燐光の強度が高い化合物である必要はなく、室温における燐光が実質的に生じない化合物であってもよい。たとえば、第1の有機化合物の燐光の量子収率が1%以下であってもよい。このような化合物は、安価で入手が可能である。
【0028】
第2の有機化合物は、第1の有機化合物からのエネルギー移動によって励起される有機化合物であり、蛍光を発する有機化合物である。第2の有機化合物は、様々な蛍光材料から選択でき、高効率の発光特性を示す安価な蛍光材料を第2の有機化合物として用いることができる。
【0029】
キャリアの再結合によって分子が励起状態となる場合、1:3の割合で励起一重項状態と励起三重項状態とが生じる。そのため、高い発光強度を得るためには、励起三重項状態を有効に利用することが重要である。しかし、通常の励起三重項状態からの発光(燐光)は禁制遷移であるため、室温で強い発光強度を示す材料は限られている。また、燐光発光を生じる物質であっても、励起状態の寿命が長いため、三重項−三重項消滅によって発光を伴わずに失活する割合が素子に流す電流密度を増加させると共に増加する。
【0030】
これに対して、本発明の有機EL素子の発光層では、第1の有機化合物(ホスト材料)の励起三重項状態から、第2の有機化合物(ゲスト材料)の励起一重項状態へエネルギー移動が生じ、第2の有機化合物の励起一重項状態からの発光(蛍光)が生じる。この蛍光発光は、許容遷移であるため、効率よく発光すると共に、励起一重項状態の寿命が短いという利点がある。また、第1の有機化合物は、必ずしも燐光の発光強度が高いものでなくともよいため、様々な材料が利用可能となる。
【0031】
本発明の有機EL素子では、第1の有機化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位よりも第2の有機化合物の最低励起一重項状態のエネルギー準位が低く、第2の有機化合物の励起一重項状態のエネルギー準位の中に、第1の有機化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位とほぼ等しい位置に吸収を生じるエネルギー準位が存在することが好ましい。このようなエネルギー準位の一例を図1に模式的に示す。
【0032】
図1のエネルギー準位図に示すように、第1の有機化合物は、少なくとも最低励起一重項状態のエネルギー準位E1S1と最低励起三重項状態のエネルギー準位E1T1とを有する。また、第2の有機化合物は、少なくとも、最低励起一重項状態のエネルギー準位E2S1と、E2S1よりも高い準位の励起一重項状態のエネルギー準位E2Sn(nは1より大きい整数である)とを有する。図1に示すように、第2の有機化合物の励起一重項状態のエネルギー準位E2Snは、第1の有機化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位E1T1とほぼ等しいエネルギー準位である。具体的には、E2Snは、E1T1に対して±0.3eVのエネルギー準位にあることが好ましい。このような有機化合物を選択することによって、第1の有機化合物のエネルギー準位E1T1から第2の有機化合物のエネルギー準位E2Snへのエネルギー移動がより生じやすくなる。本発明の有機EL素子では、エネルギー準位E1T1からのエネルギー移動が生じるエネルギー準位E2Snが、エネルギー準位E1T1よりもエネルギー的に高い位置にあってもよい。このようなエネルギー移動は、熱励起を伴うことによって生じる。
【0033】
なお、第1の有機化合物の励起三重項状態のエネルギー準位から第2の有機化合物の励起一重項状態のエネルギー準位へのエネルギー移動は、エネルギー準位E1T1からエネルギー準位E2Snへのエネルギー移動に限定されず、他の準位間で生じてもよい。
【0034】
本発明の発光層では、いわゆるフェルスター型のエネルギー移動が生じると考えられる。フェルスター型のエネルギー移動は、双極子−双極子相互作用で生じるため、エネルギーの授受をする分子同士の距離が比較的離れていてもよい。そのため、本発明の発光層では、第2の有機化合物の量が少なくてもエネルギー移動が円滑に行われる。
【0035】
本発明の有機EL素子では、第1の有機化合物の燐光スペクトルのピークと第2の有機化合物の吸収スペクトルのピークとが少なくとも一部で重なっていることが好ましい。これによって、第1の有機化合物の励起三重項状態から第2の有機化合物へエネルギー移動が生じる。
【0036】
本発明の有機EL素子では、発光層を構成する有機化合物に占める第2の有機化合物の割合が、0.01モル%〜20モル%の範囲であることが好ましい。第2の有機化合物の割合を比較的低い範囲とすることによって、濃度消光の発生を抑制できる。発光層における第1の有機化合物と第2の有機化合物とのモル比は、[第1の有機化合物のモル数]:[第2の有機化合物のモル数]=80:20〜99.99:0.01の範囲であることが好ましく、たとえば、90:10〜99.9:0.1の範囲である。
【0037】
本発明の有機EL素子では、第2の有機化合物は第1の有機化合物に応じて選択されるが、たとえば多環式芳香族化合物を用いることができる。多環式芳香族化合物としては、たとえば、ルブレン、クマリン540、クマリン6、DCM、ローダミンB、ナイルレッドなどが挙げられる。
【0038】
第1の有機化合物と第2の有機化合物との好ましい組み合わせとしては、たとえば、実施例に示される、4−フェニルベンゾフェノンとルブレンとの組み合わせなどが挙げられる。
【0039】
なお、本発明の有機EL素子の発光層は、典型的には第1の有機化合物と第2の有機化合物との混合物で構成されるが、本発明の効果が得られる限り、第1および第2の有機化合物に加えて他の物質を含んでもよい。
【0040】
本発明の有機EL素子は、一般的な有機EL素子と同様の方法で作製できる。具体的には、蒸着法、スパッタリング法、スピンコート法といった公知の方法を用いて、基板上に電極層および有機材料層を積層することによって作製できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の有機EL素子の一例について説明する。この実施例では、図2に示す有機EL素子10を作製した。
【0042】
<実施例1>
まず、インジウム−スズ酸化物からなる透明電極(正孔注入電極12)が形成されたガラス基板11を用意した。そして、正孔注入電極12上に、N,N’−ジ−1−ナフチル−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(N,N'-di-1-naphthyl-N,N'-diphenyl-1,1'-biphenyl‐4,4'-diamine(NPD))からなる正孔輸送層13(厚さ50nm)を形成した。
【0043】
次に、正孔輸送層13上に発光層14(厚さ50nm)を形成した。発光層14は、ホスト材料である99.5モル%の4−フェニルベンゾフェノン(4-Phenyl Benzophenone(4PBP))と、発光性のドーパントである0.5モル%のルブレン(5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン)とによって形成した。4PBPとルブレンはアルドリッチ社製のものを用いた。4PBPとルブレンとを組み合わせた理由は、図3に示すように4PBPの燐光スペクトルとルブレンの吸収スペクトルとが良好な重なり合いを示すからである。
【0044】
次に、発光層14のうえに、Alq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム)からなる電子輸送層15(厚さ15nm)を形成した。次に、電子輸送層15上に電子注入電極16を形成した。電子注入電極16は、LiF層(厚さ0.5nm)とアルミニウム層(厚さ80nm)とを順次積層することによって形成した。なお、すべての有機層および電極は、抵抗加熱方式の真空蒸着法で形成した。蒸着時の圧力は、1.3×10-4Pa(1×10-6Torr)で行った。蒸着時の基板温度は室温とした。
【0045】
このようにして作製された素子に電圧を印加して発光の観察を行った。具体的には、正孔注入電極にプラス、電子注入電極にマイナスの電圧を印可したところ、4.1Vの電圧を掛けたときに10mA/cm2の電流密度が得られ188cd/m2の黄色の発光が観測され、5.7Vの電圧では100mA/cm2の電流密度が得られ1609cd/m2という高輝度の黄色の発光が観測された。この素子の発光スペクトルを測定したところ、図4に示すように560nmにピークを持つスペクトルを示した。このスペクトルは、図5に示すルブレンの蛍光スペクトルにほぼ完全に一致した。このことから、この発光はルブレンからの発光であることを確認した。
【0046】
<比較例>
0.5モル%のルブレンを添加しなかった以外は上記実施例1と同様に素子を作成した。そして、正孔注入電極にプラス、電子注入電極にマイナスの電圧を印可したところ、3.6Vの電圧を掛けたときに10mA/cm2の電流密度が得られ15cd/m2の青緑色の発光が観測され、5.0Vの電圧で100mA/cm2の電流密度が得られ249cd/m2の青緑色の発光が観測された。これは実施例1に比べて約10分の1の発光輝度であった。この素子の発光スペクトルを測定したところ、図6に示すように500nmにピークを持つスペクトルを示した。このスペクトルは、4PBPの燐光スペクトルにほぼ完全に一致した。このことから、この発光は4PBPからの燐光であることを確認した。
【0047】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、有機EL素子およびそれを用いた各種の電子機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の有機EL素子における典型的な発光のメカニズムの一例を模式的に示す図である。
【図2】実施例で作製した有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例で用いた有機化合物の発光スペクトルおよび吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例で作製した有機EL素子の発光スペクトルを示す図である。
【図5】実施例で用いた第2の有機化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図6】比較例で作製した有機EL素子の発光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 有機エレクトロルミネッセンス素子
11 ガラス基板
12 正孔注入電極
13 正孔輸送層
14 発光層
15 電子輸送層
16 電子注入電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアの注入によって発光する発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が第1の有機化合物と第2の有機化合物とを含み、
前記発光層を構成する有機化合物に占める前記第1の有機化合物の割合が50モル%以上であり、
前記第1の有機化合物が、室温において安定な励起三重項状態を形成する有機化合物であり、
前記発光層へのキャリアの注入によって前記第2の有機化合物が蛍光を発する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記第1の有機化合物が、ベンゾフェノン骨格またはケトクマリン骨格を含む請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第1の有機化合物の燐光寿命が1マイクロ秒以上である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記第1の有機化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位よりも前記第2の有機化合物の最低励起一重項状態のエネルギー準位が低く、
前記第2の有機化合物の励起一重項状態のエネルギー準位の中に、前記第1の有機化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位とほぼ等しい位置に吸収を生じる準位が存在する請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第1の有機化合物の燐光スペクトルのピークと前記第2の有機化合物の吸収スペクトルのピークとが少なくとも一部で重なっている請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層を構成する有機化合物に占める前記第2の有機化合物の割合が、0.01モル%〜20モル%の範囲である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記第2の有機化合物が、多環式芳香族化合物である請求項1または2に記載の有機化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−66562(P2006−66562A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246143(P2004−246143)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】