説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 本発明は、電荷発生層に無機半導体を用いた有機EL素子であって、従来の有機EL素子では達成困難であった高輝度発光時での長寿命が実現可能であり、効率よく安定的に製造可能な積層型の有機EL素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】 本発明は、対向する電極層間に複数の発光ユニットを有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記電荷発生層が、電子注入性を有する無機半導体材料からなる電子発生層と、正孔注入性を有する無機半導体材料からなる正孔発生層とを有することを特徴とする有機EL素子を提供することにより、上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Multi Photon Emissionと呼ばれる積層型の有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対向する陽極と陰極との間に、有機化合物からなる発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略す)素子は、近年、低電圧駆動の大面積表示素子を実現するものとして注目されている。
しかしながら、従来の有機EL素子は、素子寿命の観点では、表示装置用途で必要とされる100cd/m単位程度の輝度でようやく1万時間を超える半減寿命が達成されるに至ったにすぎず、照明用途等で必要とされる1000cd/m〜10000cd/m程度の輝度で実用上必要な素子寿命(1万時間以上)を得ることは、現段階では難しく、実際にそのような高輝度、長寿命の有機EL素子は未だ実現していない。また、有機EL素子は、10V以下の低電圧で駆動可能であるが、照明用途等に必要とされるような高輝度発光を得るためには、数10mA/cmから数100mA/cmに達する高電流密度を要するという問題もある。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1〜5には、複数の発光層を含む発光ユニットが中間層を介して積層された有機EL素子が提案されている。これらの有機EL素子では、複数の発光ユニットが中間層を介して電気的に直列に接続されているため、電流効率の向上を実現できる。
この中間層には、種々の材料を用いることができるとされている。特許文献3には、ホール輸送性を有する(電子供与性を有する)有機化合物と、この有機化合物と酸化還元反応により電化移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質とからなる積層体または混合層である中間層が開示され、特許文献4には、n型ドープト有機層またはp型ドープト有機層またはこれらの組み合わせである中間層が開示されている。また、特許文献5には、マトリックス成分である半導体および添加物を含み、マトリックス成分と添加物との組成比が膜圧方向で変化する中間層が開示されている。
このように、中間層の材料としては主に有機材料、特に有機半導体が用いられており、無機材料、特に無機半導体を用いた中間層はほとんど報告されていない。特許文献5には無機半導体を用いた中間層の例も開示されているが、従来の有機EL素子では実現不可能であった高い電流効率を実現するとともに、高輝度発光かつ長寿命化が可能である中間層を得るための無機材料については詳細に述べられていない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−329748号公報
【特許文献2】特開2003−45676公報
【特許文献3】特開2003−272860公報
【特許文献4】特開2004−39617公報
【特許文献5】特開2005−135600公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、電荷発生層(中間層)に無機半導体を用いた有機EL素子であって、従来の有機EL素子では達成困難であった高輝度発光時での長寿命が実現可能であり、効率よく安定的に製造可能な積層型の有機EL素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、対向する電極層間に複数の発光ユニットを有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記電荷発生層が、電子注入性を有する無機半導体材料からなる電子発生層と、正孔注入性を有する無機半導体材料からなる正孔発生層とを有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0007】
本発明によれば、電荷発生層を介して発光ユニットが複数層積層されているので、電圧印加時には発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、従来の単一の発光ユニットを有する有機EL素子に比べて、高い電流効率および高い輝度を得ることが可能である。また本発明の有機EL素子では、従来の単一の発光ユニットを有する有機EL素子と同じ電流で作動した場合には輝度が向上し、一方、従来の単一の発光ユニットを有する有機EL素子と同じ明るさで作動した場合には寿命が長くなるという利点を有する。したがって、本発明の有機EL素子は、高輝度かつ長寿命が要求される照明用途に好適に用いることができる。
【0008】
上記発明においては、上記電子注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子供与性のドーパントとを含有し、上記正孔注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子受容性のドーパントとを含有してもよい。
また、上記電子注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子供与性のドーパントとを含有し、上記正孔注入性を有する無機半導体材料が、電子受容性材料を含有してもよい。
さらに、上記電子注入性を有する無機半導体材料が、電子供与性材料を含有し、上記正孔注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子受容性のドーパントとを含有してもよい。
【0009】
また本発明においては、上記電子供与性のドーパントが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのドーパントは、比較的イオン化ポテンシャルが小さいので、ホスト材料よりもイオン化ポテンシャルが小さくなり、電子発生層での電圧上昇を抑えることができるからである。
【0010】
さらに、上記電子供与性材料が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0011】
また本発明においては、上記電荷発生層が蒸着膜であることが好ましい。またこの際、上記発光ユニットを構成する層のうち少なくとも一つの層が塗膜であることが好ましい。電荷発生層を蒸着法で形成する場合には、発光ユニット上に容易に安定して電荷発生層を積層することができるので、発光ユニットを構成する層を塗布による湿式法で形成する場合に、溶媒への溶解性が異なるように発光ユニットを構成する層に用いる有機材料を選択する必要がなく、発光ユニットを構成する層に用いる有機材料の選択肢が広がるとともに、発光ユニットも安定して形成することができるからである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機EL素子は、電極層間に複数層の発光ユニットを電荷発生層を介して積層することで、電流密度を低く保ったまま、従来の有機EL素子では実現し得なかった高輝度での長寿命化を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、対向する電極層間に複数の発光ユニットを有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記電荷発生層が、電子注入性を有する無機半導体材料からなる電子発生層と、正孔注入性を有する無機半導体材料からなる正孔発生層とを有することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図2は、図1に示す有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
図1に例示するように、本発明の有機EL素子は、電極層(陽極)1、発光ユニット2−1、電荷発生層3、発光ユニット2−2、および電極層(陰極)4が順に積層されたものである。一般に有機EL素子においては、陰極側から電子(e)、陽極側から正孔(h)が注入されて発光ユニット内で電子と正孔が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層3を介して二層の発光ユニット2−1および2−2が積層されており、図2に例示するように陰極4側から電子(e)、陽極1側から正孔(h)が注入され、また電荷発生層3によって陰極4方向に正孔(h)が注入され、陽極1方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット2−1および2−2内で電子−正孔再結合が生じ、複数の発光が陽極1および陰極4の間で発生する。
【0015】
電荷発生層3は、図1に例示するように、電子発生層3aと正孔発生層3bとを有するものである。電子発生層3aは電子注入性を有する無機半導体材料からなるが、例えばホスト材料および電子供与性のドーパントを含有する場合、電子発生層3aではホスト材料が電子供与性のドーパントから電子を受け取った状態となり、ラジカルアニオン状態(電子)となる。一方、正孔発生層3bは正孔注入性を有する無機半導体材料からなるが、例えばホスト材料および電子受容性のドーパントを含有する場合、正孔発生層3bではホスト材料が電子受容性のドーパントにより電子を奪われ、酸化された状態となり、ラジカルカチオン状態(正孔)となる。このラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極1方向と陰極4方向へ移動することにより、電荷発生層3の陽極1側に接する発光ユニット2−1へ電子を注入し、電荷発生層3の陰極4側に接する発光ユニット2−2へ正孔を注入する。すなわち、電極層間に電圧が印加されると、陰極側から電子、陽極側から正孔を注入すると同時に、電子と正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子と正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0016】
したがって本発明によれば、電極層間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
また本発明によれば、電子発生層および正孔発生層に用いる無機半導体材料を適正に選択することにより、電子発生層では正孔注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な正孔注入を実現し、正孔発生層では電子注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な電子注入を実現することが可能となる。
【0017】
従来の有機EL素子では、電極層間に単一の発光ユニットが挟まれた構成となっており(以下、この項において従来型有機EL素子という。)、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本発明の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上記図2に示す正孔(h)注入は発光ユニット2−2の価電子帯(もしくはHOMO(最高被占軌道))からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニット2−2の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニット2−1の導電帯(もしくはLUMO(最低非被占軌道))に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本発明の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0018】
また、従来型有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要であった。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本発明の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、電極層間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0019】
さらに、従来型有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本発明の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを電極層間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0020】
また本発明によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。従来型有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって電極層間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまう。これに対し、本発明の有機EL素子の場合は電極層間に複数層の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性が低下する。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0021】
さらに、例えば、単純マトリクス構造の表示装置を応用例とした場合は、電流密度の減少は、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を従来型有機EL素子の場合に比べて大きく低減できることを意味する。この点でも、本発明の有機EL素子は有利である。
【0022】
また、同様に大面積を均一に光らせるような用途、特に照明を製品応用例として考えた場合にも上記の特徴は充分有利に働く。従来型有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10−4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10−6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こしていた。これに対し、本発明の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、従来型有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0023】
さらに、従来の有機材料を用いた電荷発生層は塗布による湿式法で形成することができるが、発光ユニットを湿式法で形成した場合、この発光ユニット上にさらに湿式法で電荷発生層を形成するのは、溶媒との関係から非常に困難である。このため、溶媒への溶解性が異なるように発光ユニットや電荷発生層の有機材料を工夫したり、真空蒸着法等を組み合わせたりする必要があり、材料選択の幅が狭められていた。これに対し、本発明における電荷発生層は、無機半導体材料を用いるため、真空蒸着法等により形成でき、発光ユニット上に容易に積層することができる。また、例えば溶媒への溶解性が異なるように発光ユニットに用いる有機材料を選択する必要がなく、発光ユニットの有機材料の選択肢が広がり、発光ユニットを塗布による湿式法で安定して形成することができ、有機EL素子の製造工程が簡便になるという利点を有する。
以下、本発明の有機EL素子の各構成について説明する。
【0024】
1.電荷発生層
本発明に用いられる電荷発生層は、隣接する発光ユニット間に形成され、電子注入性を有する無機半導体材料からなる電子発生層と、正孔注入性を有する無機半導体材料からなる正孔発生層とを有するものである。この電荷発生層は、電極ではないが、陽極方向に電子を、陰極方向に正孔を注入する。
本発明においては、上述した図2に示す例にて説明したように電子および正孔が移動することから、電子発生層が陽極側に、正孔発生層が陰極側に配置されることが好ましい。
【0025】
本発明に用いられる電荷発生層は、電子発生層と正孔発生層とを有するものであり、電子発生層は、電子注入性を有する無機半導体材料からなるものであれば特に限定されるものではなく、正孔発生層は、正孔注入性を有する無機半導体材料からなるものであれば特に限定されるものではないが、好ましい三つの実施態様がある。第1実施態様は、電子発生層が、ホスト材料と電子供与性のドーパントとを含有する無機半導体材料からなり、正孔発生層が、ホスト材料と電子受容性のドーパントとを含有する無機半導体材料からなることを特徴とする。第2実施態様は、電子発生層が、ホスト材料と電子供与性のドーパントとを含有する無機半導体材料からなり、正孔発生層が、電子受容性材料を含有する無機半導体材料からなることを特徴とする。第3実施態様は、電子発生層が、電子供与性材料を含有する無機半導体材料からなり、正孔発生層が、ホスト材料と電子受容性のドーパントとを含有する無機半導体材料からなることを特徴とする。以下、各実施態様について説明する。
【0026】
(1)第1実施態様
本発明に用いられる電荷発生層の第1実施態様は、ホスト材料および電子供与性のドーパントを含有する電子注入性の無機半導体材料からなる電子発生層と、ホスト材料および電子受容性のドーパントを含有する正孔注入性の無機半導体材料からなる正孔発生層とを有するものである。
【0027】
図1は、本実施態様の電荷発生層を有する有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
電子発生層3aはホスト材料および電子供与性のドーパントを含有しており、電子発生層3aではホスト材料が電子供与性のドーパントから電子を受け取った状態となり、ラジカルアニオン状態(電子)となっている。一方、正孔発生層3bはホスト材料および電子受容性のドーパントを含有しており、正孔発生層3bではホスト材料が電子受容性のドーパントにより電子を奪われ、酸化された状態となり、ラジカルカチオン状態(正孔)となっている。このラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極1方向と陰極4方向へ移動することにより、電荷発生層3の陽極1側に接する発光ユニット2−1へ電子を注入し、電荷発生層3の陰極4側に接する発光ユニット2−2へ正孔を注入する。すなわち、電極層間に電圧が印加されると、陰極側から電子、陽極側から正孔を注入すると同時に、電子と正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子と正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0028】
したがって本実施態様によれば、電極層間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
また本実施態様によれば、電子発生層および正孔発生層に用いるホスト材料、電子供与性のドーパントおよび電子受容性のドーパントを適正に選択することにより、電子発生層では正孔注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な正孔注入を実現し、正孔発生層では電子注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な電子注入を実現することが可能となる。
以下、電子発生層および正孔発生層について説明する。
【0029】
(i)電子発生層
本実施態様に用いられる電子発生層は、ホスト材料および電子供与性のドーパントを含有する電子注入性の無機半導体材料からなるものである。電子発生層は半導電性を示し、電子発生層を通る電流が実質的に電子によって運ばれる。
【0030】
電子発生層に用いられるホスト材料は、電子供与性のドーパントから電子を受け取った状態となって、ラジカルアニオン状態となるものであることが好ましく、すなわち電子注入性(電子輸送性)を有することが好ましい。上記ホスト材料が電子注入性(電子輸送性)および正孔注入性(正孔輸送性)の両方を有する場合には、同一のホスト材料を電子発生層および正孔発生層に使用することができる。このようなホスト材料としては、バンドギャップが2eV以上であるものが好ましく用いられる。例えばZnS、ZnO、ZnSe、ZnTe、GaN、AlN、AlP、SiC、GaP、AlAs等が挙げられる。中でも、ZnS、ZnO、ZnSe、ZnTe、GaN、SiCが好ましい。
【0031】
また、本実施態様に用いられる電子供与性のドーパントとしては、例えば金属、金属化合物などを挙げることができる。なお、金属化合物には、金属の無機塩、酸化物およびハロゲン化物等が含まれる。上記電子供与性のドーパントは、ホスト材料よりもイオン化ポテンシャルが小さいことが好ましい。すなわち、電子発生層は、相対的にイオン化ポテンシャルの大きいホスト材料と、イオン化ポテンシャルの小さい電子供与性のドーパントとからなることが好ましい。導電性の高いドーパントを用いることにより、電子発生層での電圧上昇を抑えることができるからである。具体的には、電子供与性のドーパントのイオン化ポテンシャルは4eV以下であることが好ましく、より好ましくは3eV以下である。このような電子供与性のドーパントとしては、例えばアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属化合物、希土類金属、希土類金属化合物などが挙げられ、具体的にはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Sm、Eu、Tb、Dy、Yb、およびこれらの化合物を挙げることができる。これらの中でも、Li、Csが特に好ましい。
【0032】
上記電子供与性のドーパントの含有量としては、電子発生層中に1重量%〜99重量%の範囲内で設定することができ、特に1重量%〜50重量%の範囲内であることが好ましい。
【0033】
また、電子発生層は、可視光線透過率が1%以上であればよく、好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。可視光線透過率が上記範囲未満であると、生じた光が電荷発生層を通過する際に吸収され、有機EL素子が複数層の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなるおそれがあるからである。
なお、上記可視光線透過率は、可視光領域において、島津製作所(株)社製 UV−3100を用いて測定した値の平均値である。
【0034】
さらに、電子発生層の厚みは、上記可視光線透過率、および上述したホスト材料や電子供与性のドーパントの種類により適宜選択されるものであるが、1nm〜500nmの範囲内で設定することができ、好ましくは10nm〜100nmの範囲内である。
【0035】
電子発生層は、ホスト材料と電子供与性のドーパンとの共蒸着により形成することができる。電子発生層の形成方法としては、例えば抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザービーム蒸着法等の真空蒸着法、および、スパッタリング法等が挙げられる。
本実施態様においては、電子発生層は共蒸着膜(蒸着膜)であることが好ましい。電子発生層を共蒸着により形成することにより、発光ユニット上に容易に安定して電子発生層を積層することができるので、発光ユニットを湿式法により安定に形成することができ、また発光ユニットに用いる有機材料が制約されないという利点を有する。
【0036】
(ii)正孔発生層
本実施態様に用いられる正孔発生層は、ホスト材料および電子受容性のドーパントを含有する正孔注入性の無機半導体材料からなるものである。正孔発生層は半導電性を示し、正孔発生層を通る電流が実質的に正孔によって運ばれる。
【0037】
正孔発生層に用いられるホスト材料は、電子受容性のドーパントにより電子を奪われ、酸化された状態となって、ラジカルカチオン状態となるものであることが好ましく、すなわち正孔注入性(正孔輸送性)を有することが好ましい。上述したように、ホスト材料が電子注入性(電子輸送性)および正孔注入性(正孔輸送性)の両方を有する場合には、同一のホスト材料を電子発生層および正孔発生層に使用することができる。このようなホスト材料としては、上記電子発生層の項に記載したものを用いることができる。
【0038】
また、本実施態様に用いられる電子受容性のドーパントとしては、例えば金属、金属化合物などを挙げることができる。なお、金属化合物には、金属の無機塩、酸化物およびハロゲン化物等が含まれる。これらの中でも、電子受容性のドーパントとしては金属酸化物が好ましく用いられ、例えばV、WO、MoO、Re、FeCl、F4−TCNQ等が挙げられる。特に、V、MoOが好ましい。
【0039】
上記電子受容性のドーパントの含有量としては、正孔発生層中に1重量%〜99重量%の範囲内で設定することができ、好ましくは1重量%〜50重量%の範囲内である。
【0040】
なお、正孔発生層の可視光線透過率、厚み、形成方法等については、上記電子発生層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0041】
(2)第2実施態様
本発明に用いられる電荷発生層の第2実施態様は、ホスト材料および電子供与性のドーパントを含有する電子注入性の無機半導体材料からなる電子発生層と、電子受容性材料を含有する正孔注入性の無機半導体材料からなる正孔発生層とを有するものである。
【0042】
図3は、本実施態様の電荷発生層を有する有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
電子発生層23aはホスト材料および電子供与性のドーパントを含有しており、電子発生層23aではホスト材料が電子供与性のドーパントから電子を受け取った状態となり、ラジカルアニオン状態(電子)となっている。一方、正孔発生層23bは電子受容性材料を含有しており、正孔発生層23bと電子発生層23aとの界面では、電子発生層23a中のホスト材料が正孔発生層23b中の電子受容性材料により電子を奪われ、酸化された状態となり、ラジカルカチオン状態(正孔)となっている。このラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向と陰極方向へ移動することにより、電荷発生層23の陽極21側に接する発光ユニット22−1へ電子を注入し、電荷発生層23の陰極4側に接する発光ユニット22−2へ正孔を注入する。そして、電子と正孔は、発光ユニット22−1および22−2にて再結合して光を発生する。
したがって本実施態様によれば、電極層間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
また、電子発生層および正孔発生層に用いるホスト材料、電子供与性のドーパントおよび電子受容性材料を適正に選択することにより、電子発生層では正孔注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な正孔注入を実現し、正孔発生層では電子注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な電子注入を実現することが可能となる。
【0043】
なお、電子発生層については、上記第1実施態様の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、正孔発生層について説明する。
【0044】
(i)正孔発生層
本実施態様に用いられる正孔発生層は、電子受容性材料を含有する正孔注入性の無機半導体材料からなるものである。正孔発生層は半導電性を示し、正孔発生層を通る電流が実質的に正孔によって運ばれる。
【0045】
本実施態様に用いられる電子受容性材料としては、電子受容性のドーパントとなりうる金属や金属化合物などを挙げることができる。なお、金属化合物には、金属の無機塩、酸化物およびハロゲン化物等が含まれる。これらの中でも、電子受容性材料としては金属酸化物が好ましく用いられ、例えばV、WO、MoO、Re等が挙げられる。特に、V、MoOが好ましい。
【0046】
正孔発生層は蒸着膜であることが好ましい。正孔発生層を蒸着で形成することにより、発光ユニット上に容易に安定して正孔発生層を積層することができるので、発光ユニットを湿式法により安定して形成することができ、また発光ユニットに用いる有機材料が制約されないという利点を有する。正孔発生層の形成方法としては、例えば抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザービーム蒸着法等の真空蒸着法、および、スパッタリング法等が挙げられる。
【0047】
また、正孔発生層の厚みは、可視光線透過率や電子受容性材料の種類により適宜選択されるものであるが、1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0048】
なお、正孔発生層の可視光線透過率等については、上記第1実施態様における正孔発生層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0049】
(3)第3実施態様
本発明に用いられる電荷発生層の第3実施態様は、電子供与性材料を含有する電子注入性の無機半導体材料からなる電子発生層と、ホスト材料および電子受容性のドーパントを含有する正孔注入性の無機半導体材料からなる正孔発生層とを有するものである。
【0050】
図4は、本実施態様の電荷発生層を有する有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
正孔発生層33bはホスト材料および電子受容性のドーパントを含有しており、正孔発生層33bでは、ホスト材料が電子受容性のドーパントにより電子を奪われ、酸化された状態となり、ラジカルカチオン状態(正孔)となっている。一方、電子発生層33aは電子供与性材料を含有しており、電子発生層33aと正孔発生層33bとの界面では、正孔発生層33b中のホスト材料が電子発生層33a中の電子供与性材料から電子を受け取った状態となり、ラジカルアニオン状態(電子)となっている。このラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向と陰極方向へ移動することにより、電荷発生層33の陽極31側に接する発光ユニット32−1へ電子を注入し、電荷発生層33の陰極34側に接する発光ユニット32−2へ正孔を注入する。そして、電子と正孔は、発光ユニット32−1および32−2にて再結合して光を発生する。
したがって本実施態様によれば、電極層間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
また、電子発生層および正孔発生層に用いるホスト材料、電子受容性のドーパントおよび電子供与性材料を適正に選択することにより、電子発生層では正孔注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な正孔注入を実現し、正孔発生層では電子注入のエネルギー障壁が低く、発光ユニットへの円滑な電子注入を実現することが可能となる。
【0051】
なお、正孔発生層については、上記第1実施態様の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、電子発生層について説明する。
【0052】
(i)電子発生層
本実施態様に用いられる電子発生層は、電子供与性材料を含有する電子注入性の無機半導体材料からなるものである。電子発生層は半導電性を示し、電子発生層を通る電流が実質的に電子によって運ばれる。
【0053】
本実施態様に用いられる電子供与性材料としては、電子供与性のドーパントとなりうる金属や金属化合物などを挙げることができる。なお、金属化合物には、金属の無機塩、酸化物およびハロゲン化物等が含まれる。このような電子供与性材料としては、例えばアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属化合物、希土類金属、希土類金属化合物などが挙げられ、具体的にはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Sm、Eu、Tb、Dy、Yb、およびこれらの化合物を挙げることができる。これらの中でも、Li、Csが特に好ましい。
【0054】
電子発生層の厚みは、可視光線透過率や電子供与性材料の種類により適宜選択されるものであるが、1nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmの範囲内である。
【0055】
なお、電子発生層の可視光線透過率等については上記第1実施態様における電子発生層と同様であり、電子発生層の形成方法等については上記第2実施態様における正孔発生層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0056】
(4)その他
本発明においては、電荷発生層を介して複数の発光ユニットが積層されている。図5に、電荷発生層を介して発光ユニットがn層積層された有機EL素子の概略断面図を示す。図5に例示するように、本発明の有機EL素子においては、電極層(陽極)1上に、順に、発光ユニット2−1、電荷発生層3−1、発光ユニット2−2、電荷発生層3−2、…、電荷発生層3−(n−1)、発光ユニット2−nとなるように発光ユニットと電荷発生層とが繰り返し積層され、最上面に電極層(陰極)4が形成されている。このような有機EL素子は、図6に例示するように、電荷発生層を介して積層された複数層の発光ユニット内で、電子−正孔再結合が生じて複数の発光が生じる。
このように、発光ユニットの積層数が増加するにつれて、各発光ユニット間に介在する電荷発生層の数も増加する。この場合、各発光ユニット間に設けられる電荷発生層の構成は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、電荷発生層に用いる無機半導体材料は同じであってもよく異なっていてもよい。
【0057】
また本発明においては、電荷発生層が、電子発生層と正孔発生層との間に形成された介在層を有していてもよい。この介在層は、電子注入性および正孔注入性を有する無機半導体材料からなるものである。このような無機半導体材料としては、上記第1実施態様における電子発生層の項に記載した、電子注入性および正孔注入性を有するホスト材料として用いられるものが好ましく使用される。
なお、介在層の厚み、可視光線透過率、形成方法等については、第2実施態様における正孔発生層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0058】
2.発光ユニット
本発明に用いられる発光ユニットは、少なくとも発光層を含む1層もしくは複数層の有機層から構成されるものである。すなわち、発光ユニットとは、少なくとも発光層を含むものであり、その層構成が有機層1層以上のものをいう。通常、塗布による湿式法で発光ユニットを形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、1層もしくは2層の有機層で形成される場合が多いが、溶媒への溶解性が異なるように有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0059】
発光層以外に発光ユニット内に形成される有機層としては、正孔注入層や電子注入層といった電荷注入層を挙げることができる。さらに、その他の有機層としては、発光層に正孔を輸送する正孔輸送層、発光層に電子を輸送する電子輸送層といった電荷輸送層を挙げることができるが、通常これらは上記電荷注入層に電荷輸送の機能を付与することにより、電荷注入層と一体化されて形成される場合が多い。その他、発光ユニット内に形成される有機層としては、キャリアブロック層のような正孔あるいは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
以下、このような発光ユニットの各構成について説明する。
【0060】
(1)発光層
本発明に用いられる発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。上記発光層を形成する材料としては、通常、色素系発光材料、金属錯体系発光材料、または高分子系発光材料を挙げることができる。
【0061】
色素系発光材料としては、例えばシクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0062】
また、金属錯体系発光材料としては、例えばアルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)を用いることができる。
【0063】
さらに、高分子系発光材料としては、例えばポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記色素系発光材料および金属錯体系発光材料を高分子化したものも挙げられる。
【0064】
本発明に用いられる発光材料としては、上記の中でも、金属錯体系発光材料または高分子系発光材料であることが好ましく、さらには高分子系発光材料であることが好ましい。また、高分子系発光材料の中でも、π共役構造をもつ導電性高分子であることが好ましい。このようなπ共役構造をもつ導電性高分子としては、上述したようなポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0065】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定はされなく、例えば1nm〜200nm程度とすることができる。
【0066】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で蛍光発光または燐光発光するドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体等を挙げることができる。
【0067】
発光層の形成方法としては、パターニングが可能な方法であれば特に限定されるものではない。例えば真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。中でも、スピンコート法またはインクジェット法を用いることが好ましい。
また、発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により塗り分けや蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。このような隔壁を形成する材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、これらの隔壁を形成する材料の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0068】
本発明においては、発光層は塗膜であることが好ましい。なお、「塗膜」とは、湿式法により形成されるものをいう。
【0069】
(2)電荷注入輸送層
本発明においては、電極層と発光層との間に電荷注入輸送層が形成されていてもよい。ここでいう電荷注入輸送層とは、上記発光層に電極層からの電荷を安定に輸送する機能を有するものであり、このような電荷注入輸送層を電極層と発光層との間に設けることにより、発光層への電荷の注入が安定化し、発光効率を高めることができる。
【0070】
電荷注入輸送層としては、陽極から注入された正孔を発光層内へ輸送する正孔注入輸送層、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送する電子注入輸送層とがある。以下、正孔注入輸送層および電子注入輸送層について説明する。
【0071】
(i)正孔注入輸送層
本発明に用いられる正孔注入輸送層としては、発光層に正孔を注入する正孔注入層、および正孔を輸送する正孔輸送層のいずれか一方であってもよく、正孔注入層および正孔輸送層が積層されたものであってもよく、または、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0072】
正孔注入輸送層に用いられる材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等を用いることができる。具体的には、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0073】
また、正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されないが、具体的には0.5nm〜1000nmの範囲内、中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0074】
本発明においては、正孔注入輸送層は塗膜であることが好ましい。
また、正孔注入輸送層の形成方法については、上記発光層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0075】
(ii)電子注入輸送層
本発明に用いられる電子注入輸送層としては、発光層に電子を注入する電子注入層、および電子を輸送する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、電子注入層および電子輸送層が積層されたものであってもよく、または、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0076】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、アルミリチウム合金、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、カルシウム、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、リチウム、セシウム、フッ化セシウム等のようにアルカリ金属類、およびアルカリ金属類のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体等を用いることができる。
【0077】
また、電子注入層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0078】
一方、電子輸送層に用いられる材料としては、電極層から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、またはトリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)等を挙げることができる。
【0079】
さらに、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層からなる電子注入輸送層としては、電子輸送性の有機材料にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした金属ドープ層を形成し、これを電子注入輸送層とすることができる。上記電子輸送性の有機材料としては、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体等を挙げることができ、ドープする金属としては、Li、Cs、Ba、Sr等が挙げられる。
【0080】
本発明においては、電子注入輸送層は塗膜であることが好ましい。
また、電子注入輸送層の形成方法については、上記発光層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0081】
(3)その他
本発明においては、上記電荷発生層を介して複数の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0082】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には、従来の有機EL素子に比べて、電流効率と寿命が大きく改良された白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
図7に白色光を発生する有機EL素子の一例を示す。この有機EL素子においては、電極層(陽極)1上に、発光ユニット2B、2G、2Rがそれぞれ電荷発生層3を介して積層されており、最上面には電極層(陰極)4が形成されている。これらの発光ユニットのうち、発光ユニット2Bは青色光を発光し、発光ユニット2Gが緑色光を発光し、発光ユニット2Rは赤色光を発光するものとなっている。
【0083】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0084】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本発明の有機EL素子は電流効率が良好であり寿命が長いため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0085】
3.電極層
本発明に用いられる電極層は、一方が陽極、他方が陰極であれば特に限定されるものではないが、光の取出し面側の電極層は透明電極である必要がある。例えば陽極側から光を取り出す場合は陰極は透明でなくてもよいが、陽極および陰極の両側から光を取り出す場合はいずれも透明であることが要求される。
【0086】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0087】
また、陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、CsO/Al、LiF/Al、ErF/Al等が挙げられる。
【0088】
電極層は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、電極層の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0089】
4.用途
本発明の有機EL素子は、例えば全面照明、表示装置、または各種デバイスに適用することができ、照明用途に好ましく用いられる。
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0091】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
(陽極の形成)
基材として、縦横40mm×40mm、厚み0.7mmの透明ガラス基板(NHテクノグラス(株)製 無アルカリガラスNA35)を準備し、この透明ガラス基板を定法にしたがって洗浄した。その後、透明ガラス基板上に、酸化インジウム亜鉛化合物(IZO)の薄膜(厚み130nm)をスパッタリング法により形成した。上記のIZO薄膜形成では、スパッタガスとしてArとOの混合ガス(体積比Ar:O=100:1)を使用し、圧力0.1Pa、DC出力150Wとした。
次いで、上記IZO薄膜上に感光性レジスト(東京応化工業(株)製 OFPR−800)を塗布し、マスク露光、現像(東京応化工業(株)製 NMD3(現像液)を使用)、エッチングを行って、陽極をパターニングした。
【0092】
(正孔注入輸送層の形成)
次に、陽極および絶縁層を備えた透明ガラス基板を洗浄し、UVオゾン処理を施した後、大気中にて、陽極を覆うように透明ガラス基板上に下記構造式で示されるポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホネート(PEDOT−PSS)をスピンコート法により塗布し、乾燥して、正孔注入輸送層(厚み80nm)を形成した。
【0093】
【化1】

【0094】
ここで、上記式において、nは10,000〜500,000である。
【0095】
(第1発光ユニットの形成)
低酸素(酸素濃度1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度1ppm以下)状態のグローブボックス中にて、上記正孔注入輸送層上に下記構造式で示されるポリ(9,9ジオクチルフルオレン−co−ベンゾチアゾール)(F8BT)およびポリ(9,9ジオクチルフルオレン)(PF8)からなるポリマー(5BTF8)をスピンコート法により塗布し、乾燥して、第1高分子発光層(厚み80nm)を形成した。上記のポリマー(5BTF8)は、F8BTおよびPF8を重量比5:95としてブレンドした発光材料である。
【0096】
【化2】

【0097】
ここで、上記式において、nは100,000〜1,000,000である。
【0098】
(電荷発生層の形成)
上記第1高分子発光層上に、電子発生層としてZnS:Csの共蒸着膜(厚み50nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、さらにその上に正孔発生層としてZnS:Vの共蒸着膜(厚み50nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成した。
【0099】
(第2発光ユニットの形成)
上記第1高分子発光層の形成と同様にして、電荷発生層上に第2高分子発光層(厚み80nm)を形成した。
【0100】
(陰極の形成)
第2高分子発光層上に、陰極としてCa(厚み10nm)、Ag(厚み150nm)を順次蒸着して陰極を形成した。蒸着条件は、真空度5×10−5Pa、成膜速度2〜3Å/秒とした。
【0101】
その後、低酸素(酸素濃度1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度1ppm以下)状態のグローブボックス中にて無アルカリガラスで封止を行った。
以上により、幅2mmのライン状にパターニングされた陽極と、この陽極に直交するように幅2mmのライン状で形成された陰極を備え、4ヶ所の発光エリア(面積4mm)を有する有機EL素子を作製した。
【0102】
(評価)
この有機EL素子に電圧12Vを印加した際に、電流密度は約200mA/cm、陽極側から観測した輝度約10000cd/mが得られた。発光効率は5cd/Aとなった。
【0103】
[比較例1]
実施例1と同様にして、透明ガラス基板上に陽極、正孔注入輸送層、第1高分子発光層を形成した。次いで、実施例1と同様にして、第1高分子発光層上に陰極を形成し、無アルカリガラスで封止を行い、有機EL素子を作製した。
この有機EL素子では、印加電圧5Vで電流密度約200mA/cm、陽極側から観測した輝度約5000cd/m、発光効率は2.5cd/Aとなった。
実施例1および比較例1から、本発明の電荷発生層の利用によるマルチフォトンエミッションの実現が確認できた。
【0104】
[実施例2]
実施例1と同様にして、透明ガラス基板上に、陽極、正孔注入輸送層、第1高分子発光層を形成した。
【0105】
(電荷発生層の形成)
上記第1高分子発光層上に、電子発生層としてZnS:Csの共蒸着膜(厚み40nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、次いでZnSの蒸着膜(厚み20nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、さらに正孔発生層としてZnS:Vの共蒸着膜(厚み40nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成した。
【0106】
(第2発光ユニットの形成)
上記第1高分子発光層の形成と同様にして、電荷発生層上に第2高分子発光層(厚み80nm)を形成した。
【0107】
(陰極の形成)
第2高分子発光層上に、陰極としてLiF(厚み0.2nm)、Al(厚み150nm)を順次蒸着して陰極を形成した。蒸着条件は、真空度5×10−5Pa、成膜速度2〜3Å/秒とした。
【0108】
その後、低酸素(酸素濃度1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度1ppm以下)状態のグローブボックス中にて無アルカリガラスで封止を行った。
以上により、幅2mmのライン状にパターニングされた陽極と、この陽極に直交するように幅2mmのライン状で形成された陰極を備え、4ヶ所の発光エリア(面積4mm2)を有する有機EL素子を作製した。
【0109】
(評価)
この有機EL素子に電圧13Vを印加した際に、電流密度は約200mA/cm2、陽極側から観測した輝度約10000cd/mが得られた。発光効率は5cd/Aとなった。
【0110】
[比較例2]
実施例1と同様にして、透明ガラス基板上に陽極、正孔注入輸送層、第1高分子発光層を形成した。次いで、実施例2と同様にして、第1高分子発光層上に陰極を形成し、無アルカリガラスで封止を行い、有機EL素子を作製した。
この有機EL素子では、印加電圧5Vで電流密度約200mA/cm2、陽極側から観測した輝度約5000cd/m、発光効率は2.5cd/Aとなった。
実施例2および比較例2から、本発明の電荷発生層の利用によるマルチフォトンエミッションの実現が確認できた。
【0111】
[実施例3]
実施例1と同様にして、透明ガラス基板上に陽極を形成した。
【0112】
(正孔注入輸送層の形成)
次に、陽極および絶縁層を備えた透明ガラス基板を洗浄し、UVオゾン処理を施した後、α−NPD(ケミプロ化成製 昇華精製品)を抵抗加熱にて蒸着し、正孔注入輸送層(厚み40nm)を形成した。
【0113】
(第1発光ユニットの形成)
上記正孔注入層上に、第1低分子発光層としてAlq3とクマリン6との比が10:1の共蒸着膜を抵抗加熱蒸着にて形成した。
【0114】
(電荷発生層の形成)
上記第1低分子発光層上に、電子発生層としてZnS:Csの共蒸着膜(厚み50nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、次いで正孔発生層としてZnS:Vの共蒸着膜(厚み50nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成した。
【0115】
(第2発光ユニットの形成)
第1低分子発光層の形成と同様にして、電荷発生層上に第2低分子発光層(厚み80nm)を形成した。
【0116】
(陰極の形成)
第2低分子発光層上に、陰極としてLiF(厚み0.5nm)、Al(厚み150nm)を順次蒸着して陰極を形成した。
【0117】
その後、低酸素(酸素濃度1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度1ppm以下)状態のグローブボックス中にて無アルカリガラスで封止を行った。
以上により、幅2mmのライン状にパターニングされた陽極と、この陽極に直交するように幅2mmのライン状で形成された陰極を備え、4ヶ所の発光エリア(面積4mm2 )を有する有機EL素子を作製した。
【0118】
(評価)
この有機EL素子に電圧14Vを印加した際に、電流密度は約300mA/cm2、陽極側から観測した輝度約2000cd/mが得られた。発光効率は約7cd/Aとなった。
【0119】
[比較例3]
実施例3と同様にして、透明ガラス基板上に陽極、正孔注入輸送層、第1低分子発光層を形成した。次いで、実施例3と同様にして、第1低分子発光層上に陰極を形成し、無アルカリガラスで封止を行い、有機EL素子を作製した。
この有機EL素子では、印加電圧6Vで電流密度約300mA/cm2、陽極側から観測した輝度約1000cd/m、発光効率は3.5cd/Aとなった。
実施例3および比較例3から、本発明の電荷発生層の利用によるマルチフォトンエミッションの実現が確認できた。
【0120】
[実施例4]
実施例1と同様にして透明ガラス基板上に陽極を形成し、次いで実施例3と同様にして正孔注入輸送層、第1低分子発光層を形成した。
【0121】
(電荷発生層の形成)
上記第1低分子発光層上に、電子発生層としてZnS:Csの共蒸着膜(厚み40nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、次いでZnSの蒸着膜(厚み20nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、さらに正孔発生層としてZnS:Vの共蒸着膜(厚み40nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成した。
【0122】
(第2低分子発光層の形成)
第1低分子発光層の形成と同様にして、電荷発生層上に第2低分子発光層(厚み80nm)を形成した。
【0123】
(陰極の形成)
第2低分子発光層上に、陰極としてLiF(厚み0.5nm)、Al(厚み150nm)を順次蒸着して陰極を形成した。
【0124】
その後、低酸素(酸素濃度1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度1ppm以下)状態のグローブボックス中にて無アルカリガラスで封止を行った。
以上により、幅2mmのライン状にパターニングされた陽極と、この陽極に直交するように幅2mmのライン状で形成された陰極を備え、4ヶ所の発光エリア(面積4mm2 )を有する有機EL素子を作製した。
【0125】
(評価)
この有機EL素子に電圧15Vを印加した際に、電流密度は約300mA/cm2、陽極側から観測した輝度約2000cd/mが得られた。発光効率は約7cd/Aとなった。
【0126】
[比較例4]
実施例4と同様にして、透明ガラス基板上に陽極、正孔注入輸送層、第1低分子発光層を形成した。次いで、実施例4と同様にして、第1低分子発光層上に陰極を形成し、無アルカリガラスで封止を行い、有機EL素子を作製した。
この有機EL素子では、印加電圧6Vで電流密度約300mA/cm2、陽極側から観測した輝度約1000cd/m、発光効率は3.5cd/Aとなった。
実施例4および比較例4から、本発明の電荷発生層の利用によるマルチフォトンエミッションの実現が確認できた。
【0127】
[実施例5]
電荷発生層を次のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0128】
(電荷発生層の形成)
上記第1高分子発光層上に、電子発生層としてZnS:Csの共蒸着膜(厚み50nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、さらにその上に正孔発生層としてVの蒸着膜を抵抗加熱蒸着法にて形成した。
【0129】
比較例1の有機EL素子の電流密度200mA/cm2における発光効率2.5cd/Aと比較して、実施例5の有機EL素子では同等の電流密度における2倍の発光効率5cd/Aを確認し、マルチフォトンエミッションの実現を確認した。
【0130】
[実施例6]
電荷発生層を次のようにして形成した以外は、実施例3と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0131】
(電荷発生層の形成)
上記第1低分子発光層上に、電子発生層としてZnS:Csの共蒸着膜(厚み50nm)を抵抗加熱蒸着法にて形成し、さらにその上に正孔発生層としてVの蒸着膜を抵抗加熱蒸着法にて形成した。
【0132】
比較例3の有機EL素子の電流密度300mA/cm2における発光効率3.5cd/Aと比較して、実施例6の有機EL素子では同等の電流密度における2倍の発光効率7cd/Aを確認し、マルチフォトンエミッション素子の実現を確認した。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図3】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0134】
1 … 電極層(陽極)
2、2−1、2−2、2−n、22−1、22−2、32−1、32−2 … 発光ユニット
3、3−1、3−2、3−(n−1)、23、33 … 電荷発生層
3a、23a、33a … 電子発生層
3b、23b、33b … 正孔発生層
4 … 電極層(陰極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極層間に複数の発光ユニットを有し、隣接する前記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記電荷発生層が、電子注入性を有する無機半導体材料からなる電子発生層と、正孔注入性を有する無機半導体材料からなる正孔発生層とを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電子注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子供与性のドーパントとを含有し、前記正孔注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子受容性のドーパントとを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電子注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子供与性のドーパントとを含有し、前記正孔注入性を有する無機半導体材料が、電子受容性材料を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子注入性を有する無機半導体材料が、電子供与性材料を含有し、前記正孔注入性を有する無機半導体材料が、ホスト材料と電子受容性のドーパントとを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電子供与性のドーパントが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記電子供与性材料が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記電荷発生層が、蒸着膜であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光ユニットを構成する層のうち少なくとも一つの層が、塗膜であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−59848(P2007−59848A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246834(P2005−246834)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(501231510)
【Fターム(参考)】