有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】本発明は、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さず、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有するドープ領域と上記発光ドーパントを含有しないノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とする有機EL素子を提供することにより、上記目的を達成する。
【解決手段】本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有するドープ領域と上記発光ドーパントを含有しないノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とする有機EL素子を提供することにより、上記目的を達成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、自発光型のディスプレイとしての使用が注目されている。特に、有機EL素子は、印加電圧が10V弱であっても高輝度な発光が得られるなど発光効率が高く、また単純な素子構造で発光が可能であり、特定のパターンを発光表示させる広告やその他低価格の簡易表示用ディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
従来、高輝度発光を実現するため、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を用いることが知られている(例えば特許文献1参照)。この発光層では、陽極および陰極から注入された正孔および電子が発光層内のホスト材料で再結合し、そのエネルギーを発光ドーパントが受け取って発光する。このような発光層では、高輝度で色純度の良い発光を得ることが可能である。
【0004】
また従来では、長寿命および高効率化の達成のため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能、ブロッキング機能を有する材料を用いて複数の層を積層した多層構造をとることが一般的である。さらに、多層構造を有する有機EL素子では、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるために、電極および発光層の間に対極側への正孔もしくは電子の突き抜けを防止するブロッキング層を設けるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、多層構造を有する有機EL素子では、駆動中に各層の界面にて劣化が生じることによって、発光効率が低下したり、素子が劣化して輝度が低下したりすることが懸念される。特に、ブロッキング層が設けられた有機EL素子では、界面に電荷が蓄積しやすく、このため界面にて劣化が生じやすく、輝度劣化が懸念される。
【0006】
そこで、駆動中に各層の界面にて劣化が生じるのを抑制するために、正孔注入輸送層や電子注入輸送層に用いる材料を工夫する方法が提案されている。
例えば特許文献2には、陽極からの正孔の注入性および陰極からの電子の注入性を改善するために、有機半導体層(正孔注入輸送層または電子注入輸送層)を、有機化合物および酸化性ドーパント、あるいは、有機化合物および還元性ドーパント、あるいは、有機化合物および導電性微粒子から構成されるものとすることが開示されている。
また、例えば特許文献3には、陽極から有機化合物層(正孔注入輸送層)への正孔注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陽極に接する有機化合物層に電子受容性ドーパントをドープする方法が開示されている。さらに、例えば特許文献4および特許文献5には、陰極から有機化合物層(電子注入輸送層)への電子注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陰極に接する有機化合物層に電子供与性ドーパントをドープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2814435号公報
【特許文献2】特開2000−315581号公報
【特許文献3】特開平11−251067号公報
【特許文献4】特開平10−270171号公報
【特許文献5】特開平10−270172号公報
【特許文献6】特開2004−253373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発光効率の低下や素子の劣化を効果的に抑制するためには、陽極からの正孔注入におけるエネルギー障壁や、陰極からの電子注入におけるエネルギー障壁を低下させるだけでは充分ではなく、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さないような素子構成とすることが有効であると思料される。
【0009】
また、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を有する有機EL素子においては、電荷注入輸送層から発光層へ電荷が注入されにくい場合がある。これは、発光層および電荷注入輸送層の界面に発光ドーパントが存在することが影響しているものと思料される。
【0010】
ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を有する有機EL素子としては、駆動電圧を低くすることを目的として、発光層がドープ層およびノンドープ層を有するものが提案されている(特許文献6)。しかしながら、特許文献6には、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さないことについては一切述べられていない。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さず、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。さらには、電荷注入輸送層から発光層への電荷注入が良好な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0013】
本発明によれば、発光層がノンドープ領域を有するので、発光層のドープ領域中の発光ドーパントから他の物質へエネルギー移動が起こり発光効率が低下するのを抑制することができる。また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、駆動中における正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0014】
また本発明は、陽極と、上記陽極上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0015】
本発明によれば、発光層がノンドープ領域を有するので、発光層のドープ領域中の発光ドーパントから他の物質へエネルギー移動が起こり発光効率が低下するのを抑制することができる。また、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であるので、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0016】
さらに本発明においては、上記発光層と上記陰極との間に電子注入輸送層が形成され、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることが好ましい。Ip2≧Ip3であるので、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができるからである。
【0017】
上記発明においては、上記正孔注入輸送層および上記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層および電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0018】
上記の場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0019】
本発明においては、上記発光層の上記正孔注入輸送層側に上記ノンドープ領域が設けられていてもよい。例えば、発光ドーパントから正孔注入輸送層の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。また、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。さらに、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるものの、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる電荷のトラップによって、発光層へ注入される電荷のバランスをとることができる。
【0020】
また本発明においては、上記発光層の上記電子注入輸送層側に上記ノンドープ領域が設けられていてもよい。例えば、発光ドーパントから電子注入輸送層の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。また、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより電子注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。さらに、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であるものの、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる電荷のトラップによって、発光層へ注入される電荷のバランスをとることができる。
【0021】
さらに本発明においては、上記発光層が2箇所の上記ドープ領域を有し、上記2箇所のドープ領域の間に上記ノンドープ領域が配置されており、上記2箇所のドープ領域がそれぞれ異なる種類の発光ドーパントを含有していてもよい。例えば、一方のドープ領域に含まれる発光ドーパントから他方のドープ領域に含まれる発光ドーパントへエネルギー移動が起こり得る場合には、これらの2つのドープ領域の間にノンドープ領域が配置されていることにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。
【0022】
また本発明においては、上記ドープ領域が、2種類以上の上記発光ドーパントを含有していてもよい。例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができる。また例えば、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができる。
【0023】
さらに本発明においては、上記正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip1<Ip2であることが好ましい。正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0024】
また本発明においては、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2、上記電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea2<Ea3であることが好ましい。電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0025】
さらに本発明においては、上記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有していてもよい。この場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。上述したように、これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、発光層がノンドープ領域を有するので、発光効率を向上させることができるという効果を奏する。また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力、ならびに、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの少なくともいずれか一方を所定の関係とすることにより、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができるという効果を奏する。したがって、高効率化を図り、安定な寿命特性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図8】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図11】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図12】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図13】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図14】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図15】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、層構成により4つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0029】
I.第1実施態様
本発明の有機EL素子の第1実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とするものである。
【0030】
なお、イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求めた値とする。また、電子親和力の測定方法としては、まずHOMOエネルギーをUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0031】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4はそれぞれ、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図5は図1〜図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図1〜図4に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と正孔注入輸送層4と発光層5と電子注入輸送層6と陰極7とが順次積層されたものである。また、発光層5は、ホスト材料および発光ドーパントを含有するものであり、発光ドーパントを含有するドープ領域15と発光ドーパントを含有しないノンドープ領域8とを有している。
図1に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が正孔注入輸送層4側に配置されている。図2に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が電子注入輸送層6側に配置されている。図3に示す例においては、発光層5が2箇所のノンドープ領域8a,8bを有し、2箇所のノンドープ領域8a,8bの間にドープ領域15が配置されている。図4に示す例においては、発光層5が2箇所のドープ領域15a、15bを有し、2箇所のドープ領域15a、15bの間にノンドープ領域8が配置されている。
【0032】
これらの有機EL素子においては、正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp1≦Ip2、Ip2≧Ip3となっている。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa1≧Ea2、Ea2≦Ea3となっている。
【0033】
図1および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから正孔注入輸送層4の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が正孔注入輸送層4側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。図2および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから電子注入輸送層6の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が電子注入輸送層6側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。
【0034】
また、図4に例示する有機EL素子においては、例えばドープ領域15aに含まれる発光ドーパントからドープ領域15bに含まれる発光ドーパントへエネルギー移動が起こり得る場合には、2つのドープ領域15a,15bの間にノンドープ領域8が配置されていることにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。具体的には、2つのドープ領域が互いに異なる色を発する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントがそれぞれ発光することで白色光を得る場合には、図4に例示する有機EL素子が有用である。また、2つのドープ領域のうち、一方が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方が燐光発光する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントをそれぞれ発光させる場合にも、図4に例示する有機EL素子は有用である。
【0035】
このように本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。また、本実施態様においては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、駆動中における正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0036】
さらに、図1に例示する有機EL素子においては、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、正孔注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが正孔注入を阻害することがなく、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。
ここで、本実施態様においては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係がEa1≧Ea2であり、発光層に注入された電子が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
これに対して、図1に例示する有機EL素子においては、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光ドーパントによる電荷のトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができる。
例えば、発光ドーパントが正孔よりも電子を輸送しやすいものである場合には、電子の注入が過剰になる傾向がある。この場合には、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることができる。これは、発光層の正孔注入輸送層側(陽極側)に発光ドーパントを含有しないノンドープ領域を設け、発光層の陰極側に発光ドーパントを含有するドープ領域を設けることにより、陰極から発光層に注入された電子が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陰極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陽極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。すなわち、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、電子の注入が過剰である場合に有用である。
【0037】
一方、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
ここで、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係がIp2≧Ip3である場合には、発光層に注入された正孔が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
これに対して、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光ドーパントによる電荷のトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができる。
例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向がある。この場合には、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることができる。これは、発光層の電子注入輸送層側(陰極側)に発光ドーパントを含有しないノンドープ領域を設け、発光層の陽極側に発光ドーパントを含有するドープ領域を設けることにより、陽極から発光層に注入された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。すなわち、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔の注入が過剰である場合に有用である。
【0038】
本実施態様においては、図1〜図4に例示するように、発光層5および陰極7の間に電子注入輸送層6が形成されていることが好ましい。この場合、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp2≧Ip3であることが好ましい。また、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa2≦Ea3であることが好ましい。
【0039】
このような有機EL素子では、Ip2≧Ip3、Ea1≧Ea2であるので、通常、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であり、かつ、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0040】
本実施態様においては、図6に例示するように、陽極3および正孔注入輸送層4の間に第2の正孔注入輸送層9が形成されていてもよい。
この場合、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、第2の正孔注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa4とすると、図7(a)、(b)に例示するようにEa4≧Ea1≧Ea2であることが好ましい。このような有機EL素子においては、Ea4≧Ea1≧Ea2であるので、上記の場合と同様に、駆動中における第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
一方、図8に例示するように、Ea4<Ea1、Ea1≧Ea2であることも好ましい。正孔注入輸送層および第2の正孔注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広くなるからである。
またこの場合、正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、第2の正孔注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4とすると、図7(a)、(b)に例示するようにIp4<Ip1<Ip2であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、Ip4<Ip1<Ip2となるように第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層が形成されていることにより、発光層に正孔を円滑に輸送することができる。
【0041】
また本実施態様においては、図6に例示するように、電子注入輸送層6および陰極7の間に第2の電子注入輸送層10が形成されていてもよい。
この場合、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、図7(a)、(b)に例示するようにIp2≧Ip3≧Ip5であることが好ましい。このような有機EL素子においては、Ip2≧Ip3≧Ip5であるので、上記の場合と同様に、駆動中における発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
一方、図8に例示するように、Ip2≧Ip3、Ip3<Ip5であることも好ましい。電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広くなるからである。
またこの場合、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa5とすると、図7(a)、(b)に例示するようにEa2<Ea3<Ea5であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、Ea2<Ea3<Ea5となるように発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層が形成されていることにより、発光層に電子を円滑に輸送することができる。
【0042】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。
【0043】
1.発光層
本実施態様に用いられる発光層は、ホスト材料および発光ドーパントを含有するものであり、発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有するものである。発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有する。
【0044】
なお、発光ドーパントを含有しないノンドープ領域とは、実質的に発光ドーパントを含有しない領域をいう。具体的には、ノンドープ領域とは、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させて発光層を成膜する際に、発光ドーパントの蒸着源のシャッターを閉じることにより形成される領域をいう。また、ノンドープ領域の厚みが10nm以上である場合、ノンドープ領域とは、隣接するドープ領域中の発光ドーパントの含有量を100%としたときに、発光ドーパントの含有量が10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である領域を有する領域をいう。
【0045】
発光層は、1箇所以上のドープ領域と1箇所以上のノンドープ領域とを有していればよい。例えば、図1および図2に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と1箇所のノンドープ領域8とを有していてもよく、図3に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と2箇所のノンドープ領域8a,8bとを有していてもよく、図4に示すように発光層5が2箇所のドープ領域15a,15bと1箇所のノンドープ領域8とを有していてもよく、図示しないが発光層が2箇所のドープ領域と3箇所のノンドープ領域とを有していてもよい。ドープ領域およびノンドープ領域の数としてはそれぞれ、1箇所以上であればよいが、通常、1〜3箇所程度とされ、好ましくは1〜2箇所である。
【0046】
ドープ領域およびノンドープ領域の配置としては、発光層が1箇所以上のドープ領域と1箇所以上のノンドープ領域とを有するような配置であれば特に限定されるものではない。例えば、図1に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と1箇所のノンドープ領域8とを有し、正孔注入輸送層4側にノンドープ領域8が配置されていてもよく、図2に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と1箇所のノンドープ領域8とを有し、電子注入輸送層6側にノンドープ領域8が配置されていてもよく、図3に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と2箇所のノンドープ領域8a,8bとを有し、正孔注入輸送層4側および電子注入輸送層6側の両側にノンドープ領域8a,8bが配置されていてもよい。また、図4に例示するように、発光層5が2箇所のドープ領域15a,15bと1箇所のノンドープ領域8とを有し、2箇所のドープ領域15a,15bの間にノンドープ領域8が配置されていてもよい。さらに図示しないが、発光層が2箇所のドープ領域と3箇所のノンドープ領域とを有し、ドープ領域とノンドープ領域とが交互に配置されていてもよい。
【0047】
ドープ領域およびノンドープ領域の配置は、発光ドーパントのエネルギー遷移を考慮して適宜選択される。中でも、正孔および電子の注入バランスがとれるように、ドープ領域およびノンドープ領域の配置を適宜選択することが好ましい。例えば、電子の注入が過剰である場合には、発光層に注入された電子を発光ドーパントによって発光層の陰極側でトラップできるように、正孔注入輸送層側にノンドープ領域が設けられることが好ましい。
【0048】
ドープ領域は、ホスト材料および発光ドーパントを含有する領域であればよく、ドープ領域では、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に一定であってもよく、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に分布を有していてもよい。通常は、ドープ領域では、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に一定とされる。
【0049】
発光層に用いられるホスト材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料を挙げることができる。
【0050】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0051】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることができる。
【0052】
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系材料および金属錯体系材料を高分子化したものも挙げられる。
【0053】
また、ホスト材料はバイポーラ材料であってもよい。
なお、バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合に電子を安定に輸送することができ、かつ、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合に正孔を安定に輸送することができる材料をいう。ユニポーラデバイスを作製する際には、具体的には、還元性ドーパントとして、Csもしくは8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を材料にドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製し、酸化性ドーパントとしてV2O5もしくはMoO3を材料にドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製することができる。
このようなバイポーラ材料を発光層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
【0054】
バイポーラ材料としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(4,4'-bis(2,2-diphenyl-ethen-1-yl)diphenyl;DPVBi)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl;CBP)、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9'-スピロ-ビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis(carbazol-9-yl)-9,9'-spiro-bifluorene;spiro-CBP)、4,4''-ジ(N-カルバゾリル)-2',3',5',6'-テトラフェニル-p-テルフェニル(4,4''-di(N-carbazolyl)-2',3',5',6'-tetraphenyl-p-terphenyl;CzTT)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)-ベンゼン(1,3-bis(carbazole-9-yl)-benzene;m-CP)、3-tert−ブチル-9,10-ジ(ナフサ-2-イル)アントラセン(3-tert−butyl-9,10-di(naphtha-2-yl)anthracene;TBADN)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
【化1】
【0056】
【化2】
【0057】
なお、上記の手法により正孔および電子の両キャリアの輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
【0058】
また、発光ドーパントは、蛍光発光または燐光発光するものであれば特に限定されるものではない。発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、イリジウム(Ir)化合物、白金化合物、金化合物、オスミウム化合物、ルテニウム(Ru)化合物、レニウム(Re)化合物等を挙げることができる。より具体的には、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene)(ペリレン誘導体)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7,-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン(C545t)(2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t))(クマリン誘導体)、(5,6,11,12)-テトラフェニルナフタセン((5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene)(ルブレン誘導体)、および、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III);Ir(ppy)3)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Tris(1-phenylisoquinoline)iridium(III);Ir(piq)3)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium(III);FIrpic)(イリジウム化合物)が挙げられる。
【0059】
ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルの関係としては、ホスト材料の電子親和力をEah、発光ドーパントの電子親和力をEadとしたとき、Eah<Eadであり、かつ、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをIph、発光ドーパントのイオン化ポテンシャルをIpdとしたとき、Iph>Ipdであることが好ましい。ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルが上記の関係を満たす場合には、正孔および電子が発光ドーパントにトラップされるので、発光効率を向上させることができるからである。
【0060】
ここで、発光層を構成するホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、次のようにして得られる。イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求める。一方、電子親和力の測定方法としては、まずUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)によりHOMOエネルギーを求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0061】
さらに、発光層は、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。この場合、例えば、1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有していてもよく、2箇所のドープ領域が互いに異なる種類の発光ドーパントを含有していてもよい。
【0062】
1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、例えば、ホスト材料と発光ドーパントとの励起エネルギーの差が比較的大きい場合には、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができ、発光効率を向上させることができる。また例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができ、発光効率を向上させることができる。さらに例えば、異なる色を発光する発光ドーパントを含有させることにより、異なる色を発光する発光ドーパントをそれぞれ発光させて白色光を得ることができる。
【0063】
1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、各発光ドーパントがそれぞれ発光してもよく、1種類のみが発光してもよい。例えば、1箇所のドープ領域が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合や、1箇所のドープ領域が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合など、いずれの場合も、その発光ドーパントの励起エネルギーの大小、分布状態、および濃度により、1種類もしくはそれぞれの発光ドーパントの発光が得られる。また例えば、異なる色を発光する発光ドーパントを含有する場合には、異なる色を発光する発光ドーパントをそれぞれ発光させることで白色光を得ることができる。
【0064】
1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、1箇所のドープ領域に、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有させたり、あるいは、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有させたりすることができる。
【0065】
1箇所のドープ領域が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合、第1発光ドーパントおよび第2発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ホスト材料として緑色発光するAlq3を用い、第1発光ドーパントとして赤色発光するDCMを用いる場合、第2発光ドーパントとして黄色発光するルブレンを用いることにより、Alq3(ホスト材料)→ルブレン(第2発光ドーパント)→DCM(第1発光ドーパント)の順に円滑にエネルギー移動を起こさせることができる。
【0066】
また、1箇所のドープ領域が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントとしては、正孔注入輸送層および電子注入輸送層の構成材料、ならびに発光層のホスト材料の組み合わせに応じて、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにルブレンを用いた場合、ルブレンは電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントとなる。また例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにアントラセンジアミンを用いた場合、アントラセンジアミンは正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとなる。
【0067】
なお、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすいものであるか、正孔よりも電子を輸送しやすいものであるかは、ホスト材料と単一の発光ドーパントとを含有する発光層を有する有機EL素子の発光スペクトルの放射パターンの角度依存性を評価することにより確認することができる。すなわち、発光スペクトルの波長、材料の屈折率、有機EL素子にて発光層から光が取り出されるまでの光路長、および放射パターンの角度依存性から確認することができる。
【0068】
1箇所のドープ領域が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、ドープ領域内での第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ、発光層の厚さ方向に一定であってもよく、発光層の厚さ方向に分布を有していてもよい。通常は、ドープ領域内での第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ、発光層の厚さ方向に一定とされる。
【0069】
一方、2箇所のドープ領域が互いに異なる種類の発光ドーパントを含有する場合、例えば、2箇所のドープ領域が互いに異なる色を発光する発光ドーパントを含有する場合には、2箇所のドープ領域の間にノンドープ領域が配置されていることにより、発光ドーパント間のエネルギー移動を抑制して、発光ドーパントをそれぞれ発光させることができ、発光効率を向上させることができる。具体的には、異なる色を発光する発光ドーパントをそれぞれ発光させて白色光を得る場合が挙げられる。また例えば、一方のドープ領域が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方のドープ領域が燐光発光する発光ドーパントを含有する場合には、2箇所のドープ領域の間にノンドープ領域が配置されていることにより、発光ドーパント間のエネルギー移動を抑制して、発光ドーパントをそれぞれ発光させることができ、発光効率を向上させることができる。
【0070】
2箇所のドープ領域が互いに異なる種類の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、上述したように、2箇所のドープ領域に互いに異なる色を発光する発光ドーパントを含有させたり、あるいは、一方のドープ領域に蛍光発光する発光ドーパントを含有させ、他方のドープ領域に燐光発光する発光ドーパントを含有させたりすることができる。
【0071】
2箇所のドープ領域が互いに異なる色を発光する発光ドーパントを含有する場合、異なる色を発光する発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、赤色発光する発光ドーパントと青色発光する発光ドーパントを用いることにより、白色光を得ることができる。
【0072】
また、一方のドープ領域が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方のドープ領域が燐光発光する発光ドーパントを含有する場合、蛍光発光する発光ドーパントおよび燐光発光する発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。
【0073】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば5nm〜200nm程度で設定することができる。中でも、発光層の厚みを厚くすることによって、正孔および電子の注入バランスを向上させることで発光効率を高めるには、発光層の厚みが10nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは20nm〜80nmの範囲内である。
【0074】
また、発光層内のノンドープ領域の厚みは、均一な膜が成膜可能であり、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現するドープ領域を確保することが可能な厚みであれば特に限定されるものではない。具体的には、ノンドープ領域の厚みは、0.1nm〜30nm程度であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜20nmの範囲内、さらに好ましくは0.8nm〜15nmの範囲内である。
【0075】
発光層の成膜方法としては、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この際、発光ドーパントの蒸着源のシャッターを開閉したり、発光ドーパントの蒸着速度を制御したりすることにより、ノンドープ領域を有する発光層を形成することができる。
また、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、発光層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料および発光ドーパントを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0076】
また、ドープ領域内での発光ドーパント濃度に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料および発光ドーパントの蒸着速度を連続的または周期的に変化させる方法を用いることができる。
【0077】
発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。この隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0078】
2.イオン化ポテンシャルおよび電子親和力
本発明において、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルとは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料のイオン化ポテンシャルをいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをいう。また同様に、各層の構成材料の電子親和力とは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料の電子親和力をいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料の電子親和力をいう。
【0079】
正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係としては、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であればよいが、中でも、Ea1>Ea2であることが好ましい。Ea1>Ea2かつIp1<Ip2であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、発光効率の向上のために、発光層のホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0080】
Ea1>Ea2の場合、Ea1およびEa2の差としては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上とすることがより好ましい。
【0081】
また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、通常はIp1≦Ip2とされる。中でも、Ip1<Ip2であることが好ましい。正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0082】
Ip1<Ip2の場合、Ip1およびIp2の差としては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上とすることがより好ましい。
なお、Ip1およびIp2の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、正孔注入輸送層から発光層へ正孔を輸送させることができる。
【0083】
発光層および陰極の間に電子注入輸送層が形成されている場合、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることが好ましく、中でも、Ip2>Ip3であることが好ましい。Ip2>Ip3かつEa2<Ea3であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、発光効率の向上のために、発光層のホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0084】
Ip2>Ip3の場合、Ip2およびIp3の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上とすることがより好ましい。
【0085】
また、上記の場合、発光層および電子注入輸送層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、通常はEa2≦Ea3とされる。中でも、Ea2<Ea3であることが好ましい。電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0086】
Ea2<Ea3の場合、Ea2およびEa3の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上0.5eV以下とすることがより好ましい。
なお、Ea2およびEa3の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、電子注入輸送層から発光層へ電子を輸送させることができる。
【0087】
陽極および正孔注入輸送層の間に第2の正孔注入輸送層が形成されている場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4としたとき、Ea4≧Ea1≧Ea2であることが好ましい。これにより、駆動中における第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、Ea4<Ea1、Ea1≧Ea2であることも好ましい。正孔注入輸送層および第2の正孔注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0088】
また、上記の場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、通常はIp4≦Ip1≦Ip2とされる。中でも、Ip4<Ip1<Ip2であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、発光層へ正孔が輸送され難くなるが、Ip4<Ip1<Ip2となるように第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層が形成されていることにより、発光層へ正孔を円滑に輸送することができるからである。また、第2の正孔注入輸送層から正孔注入輸送層への正孔輸送、および、正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0089】
Ip4<Ip1<Ip2の場合、Ip4およびIp1の差、ならびに、Ip1およびIp2の差としては、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0090】
電子注入輸送層および陰極の間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip2≧Ip3≧Ip5であることが好ましい。これにより、駆動中における発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、Ip2≧Ip3、Ip3<Ip5であることも好ましい。電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0091】
また、上記の場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3、第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、通常はEa2≦Ea3≦Ea5とされる。中でも、Ea2<Ea3<Ea5であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、発光層へ電子が輸送され難くなるが、Ea2<Ea3<Ea5となるように発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層が形成されていることにより、発光層へ電子を円滑に輸送することができるからである。また、第2の電子注入輸送層から電子注入輸送層への電子輸送、および、電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0092】
Ea2<Ea3<Ea5の場合、Ea2およびEa3の差、ならびに、Ea3およびEa5の差としては、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0093】
さらに本実施態様においては、図9に例示するように、第2の正孔注入輸送層9および正孔注入輸送層4の間に第3の正孔注入輸送層11が形成されていてもよい。
この場合、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、第3の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa6、発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、図10(a)、(b)に例示するように、Ea4≧Ea6≧Ea1≧Ea2であることが好ましい。これにより、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、図11に例示するように、Ea4<Ea6、Ea6≧Ea1≧Ea2であることも好ましい。正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0094】
また、上記の場合、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第3の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp6、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、通常はIp4≦Ip6≦Ip1≦Ip2とされる。中でも、図10(a)、(b)に例示するように、Ip4<Ip6<Ip1<Ip2であることが好ましい。Ip4<Ip6<Ip1<Ip2となるように正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層が形成されていることにより、発光層へ正孔を円滑に輸送することができるからである。また、発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0095】
Ip4<Ip6<Ip1<Ip2の場合、Ip4およびIp6の差、Ip6およびIp1の差、ならびに、Ip1およびIp2の差としては、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0096】
さらに本実施態様においては、図9に例示するように、電子注入輸送層6および第2の電子注入輸送層10の間に第3の電子注入輸送層12が形成されていてもよい。
この場合、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5、第3の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp7としたとき、図10(a)、(b)に例示するように、Ip2≧Ip3≧Ip7≧Ip5であることが好ましい。これにより、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、図11に例示するように、Ip2≧Ip3≧Ip7、Ip7<Ip5であることも好ましい。電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0097】
また、上記の場合、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3、第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5、第3の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa7としたとき、通常はEa2≦Ea3≦Ea7≦Ea5とされる。中でも、図10(a)、(b)に例示するように、Ea2<Ea3<Ea7<Ea5であることが好ましい。Ea2<Ea3<Ea7<Ea5となるように電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層が形成されていることにより、発光層へ電子を円滑に輸送することができるからである。また、発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0098】
Ea2<Ea3<Ea7<Ea5の場合、Ea2およびEa3の差、Ea3およびEa7の差、ならびに、Ea7およびEa5の差としては、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0099】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の測定方法は、上述したとおりである。
【0100】
3.正孔注入輸送層
本実施態様に用いられる正孔注入輸送層は、陽極および発光層の間に形成されるものであり、陽極から発光層に正孔を安定に注入または輸送する機能を有するものである。
【0101】
正孔注入輸送層としては、正孔注入機能を有する正孔注入層、および正孔輸送機能を有する正孔輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0102】
正孔注入輸送層の構成材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0103】
中でも、正孔注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および正孔注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0104】
また、正孔注入輸送層および後述の電子注入輸送層がいずれもバイポーラ材料を含有する場合、正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0105】
さらに、正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、上述したように、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0106】
上記正孔注入輸送層の構成材料が有機材料(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することが好ましい。正孔注入輸送層が、少なくとも陽極との界面にて、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することにより、陽極から正孔注入輸送層への正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陽極から基本的に絶縁物である有機層への正孔注入過程は、陽極表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成である(Phys. Rev.Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を酸化する酸化性ドーパントを陽極に接触する正孔注入輸送層中にドープすることにより、陽極からの正孔注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層中には、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。
【0107】
酸化性ドーパントとしては、正孔注入輸送層用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。
【0108】
電子受容性化合物としては、無機物および有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化バナジウム(V2O5)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0109】
中でも、電子受容性化合物としては、金属酸化物が好ましく、MoO3、V2O5が好適に用いられる。
【0110】
正孔注入輸送層が、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、正孔注入輸送層中に、酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよく、酸化性ドーパントの含有量が発光層側から陽極側に向けて連続的に多くなるように酸化性ドーパントがドープされていてもよく、正孔注入輸送層の陽極との界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
【0111】
正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの体積比率が、正孔注入輸送層用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:50の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度が正孔注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超えて、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0112】
正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0113】
中でも、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の成膜方法としては、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法において、塩化第二鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントはるつぼに入れて一般的な抵抗加熱法によって蒸着可能である。一方、常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合は、ニードルバルブやマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
【0114】
また、発光層側から陽極側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0115】
正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0116】
また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.5nm以上とすることが好ましい。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層は、無電場の状態でも正孔注入輸送層用有機化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので、膜厚は特に限定されないのである。また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層を厚膜にしても、素子の電圧上昇をもたらすことがないので、陽極および陰極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより、短絡の危険性を大幅に軽減させることもできる。
【0117】
4.電子注入輸送層
本実施態様に用いられる電子注入輸送層は、陰極および発光層の間に形成されるものであり、陰極から発光層に電子を安定に注入または輸送する機能を有するものである。
【0118】
電子注入輸送層としては、電子注入機能を有する電子注入層、および電子輸送機能を有する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0119】
電子注入層の構成材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。
【0120】
また、電子輸送層の構成材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0121】
中でも、電子注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0122】
上記電子注入輸送層の構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することが好ましい。電子注入輸送層が、少なくとも陰極との界面にて、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することにより、陰極から電子注入輸送層への電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陰極から基本的に絶縁物である有機層への電子注入過程は、陰極表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成である(Phys. Rev. Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を還元する還元性ドーパントを陰極に接触する電子注入輸送層中にドープすることにより、陰極からの電子注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。電子注入輸送層中には、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。さらには、陰極に、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することができる。
【0123】
還元性ドーパントしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。
【0124】
電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、Wなどが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩などが挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)などが挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性が得られるからである。
【0125】
電子注入輸送層が、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、電子注入輸送層中に、還元性ドーパントが均一にドープされていてもよく、還元性ドーパントの含有量が発光層側から陰極側に向けて連続的に多くなるように還元性ドーパントがドープされていてもよく、電子注入輸送層の陰極との界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。
【0126】
電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜99重量%程度とすることが好ましい。還元性ドーパント濃度が上記範囲未満であると、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、還元性ドーパント濃度が上記範囲を超えると、電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度が電子注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超え、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0127】
電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0128】
中でも、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法としては、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0129】
また、発光層側から陰極側に向けて還元性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0130】
電子注入層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。また、電子輸送層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0131】
また、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものでないが、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。厚みが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないためにドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、厚みが上記範囲を超えると、電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがあるからである。
【0132】
5.第2の正孔注入輸送層
本実施態様においては、陽極および正孔注入輸送層の間に第2の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0133】
陽極および正孔注入輸送層の間に第2の正孔注入輸送層が形成されている場合、通常は、正孔注入輸送層が正孔輸送層として機能し、第2の正孔注入輸送層が正孔注入層として機能する。
【0134】
第2の正孔注入輸送層の構成材料としては、上記正孔注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0135】
中でも、第2の正孔注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第2の正孔注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0136】
正孔注入輸送層および第2の正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0137】
また、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0138】
なお、第2の正孔注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の正孔注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0139】
6.第2の電子注入輸送層
本実施態様においては、電子注入輸送層および陰極の間に第2の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0140】
電子注入輸送層および陰極の間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、通常は、電子注入輸送層が電子輸送層として機能し、第2の電子注入輸送層が電子注入層として機能する。
【0141】
第2の電子注入輸送層の構成材料としては、上記電子注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0142】
中でも、第2の電子注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第2の電子注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0143】
電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0144】
なお、第2の電子注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の電子注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0145】
7.第3の正孔注入輸送層
本実施態様においては、第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0146】
第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されている場合、通常は、第2の正孔注入輸送層が正孔注入層として機能し、正孔注入輸送層および第3の正孔注入輸送層が正孔輸送層として機能する。
【0147】
第3の正孔注入輸送層の構成材料としては、上記正孔注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0148】
中でも、第3の正孔注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第3の正孔注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0149】
正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および第3の正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0150】
また、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、第3の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および電子注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、第3の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、電子注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0151】
なお、第3の正孔注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の正孔注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0152】
8.第3の電子注入輸送層
本実施態様においては、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0153】
電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されている場合、通常は、第2の電子注入輸送層が電子注入層として機能し、電子注入輸送層および第3の電子注入輸送層が電子輸送層として機能する。
【0154】
第3の電子注入輸送層の構成材料としては、上記電子注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0155】
中でも、第3の電子注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第3の電子注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0156】
電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層および第3の電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0157】
なお、第3の電子注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の電子注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0158】
9.陽極
本発明に用いられる陽極は、透明であっても不透明であってもよいが、陽極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0159】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0160】
陽極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陽極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0161】
10.陰極
本発明に用いられる陰極は、透明であっても不透明であってもよいが、陰極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0162】
陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。また、陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、Cs2O/Al、LiF/Al、ErF3/Al等が挙げられる。
【0163】
陰極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陰極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0164】
11.基板
本発明における基板は、上記の陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極等を支持するものである。陽極もしくは陰極が所定の強度を有する場合には、陽極もしくは陰極が基板を兼ねていてもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に陽極もしくは陰極形成される。また、一般的に有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、通常は、基板上には、陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極の順に積層される。
【0165】
基板は、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には透明基板である必要がある。透明基板としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板などを用いることができる。
【0166】
II.第2実施態様
本発明の有機EL素子の第2実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とするものである。
【0167】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4はそれぞれ、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図5は図1〜図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図1〜図4に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と正孔注入輸送層4と発光層5と電子注入輸送層6と陰極7とが順次積層されたものである。また、発光層5は、ホスト材料および発光ドーパントを含有するものであり、発光ドーパントを含有するドープ領域15と発光ドーパントを含有しないノンドープ領域8とを有している。
図1に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が正孔注入輸送層4側に配置されている。図2に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が電子注入輸送層6側に配置されている。図3に示す例においては、発光層5が2箇所のノンドープ領域8a,8bを有し、2箇所のノンドープ領域8a,8bの間にドープ領域15が配置されている。図4に示す例においては、発光層5が2箇所のドープ領域15a、15bを有し、2箇所のドープ領域15a、15bの間にノンドープ領域8が配置されている。
【0168】
これらの有機EL素子においては、正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp1≦Ip2、Ip2≧Ip3となっている。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa1≧Ea2、Ea2≦Ea3となっている。
【0169】
図1および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから正孔注入輸送層4の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が正孔注入輸送層4側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。図2および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから電子注入輸送層6の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が電子注入輸送層6側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。
【0170】
また、図4に例示する有機EL素子においては、例えばドープ領域15aに含まれる発光ドーパントからドープ領域15bに含まれる発光ドーパントへエネルギー移動が起こり得る場合には、2つのドープ領域15a,15bの間にノンドープ領域8が配置されていることにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。具体的には、2つのドープ領域が互いに異なる色を発する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントがそれぞれ発光することで白色光を得る場合には、図3に例示する有機EL素子が有用である。また、2つのドープ領域のうち、一方が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方が燐光発光する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントをそれぞれ発光させる場合にも、図4に例示する有機EL素子は有用である。
【0171】
このように本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。また、本実施態様においては、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であるので、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0172】
さらに、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
ここで、本実施態様においては、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係がIp2≧Ip3であり、発光層に注入された正孔が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
これに対して、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光ドーパントによる電荷のトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができる。
例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向がある。この場合には、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることができる。これは、発光層の電子注入輸送層側(陰極側)に発光ドーパントを含有しないノンドープ領域を設け、発光層の陽極側に発光ドーパントを含有するドープ領域を設けることにより、陽極から発光層に注入された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。すなわち、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔の注入が過剰である場合に有用である。
【0173】
本実施態様においては、図1〜図4に例示するように、陽極3および発光層5の間に正孔注入輸送層4が形成されていることが好ましい。この場合、正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp1≦Ip2であることが好ましい。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa1≧Ea2であることが好ましい。
【0174】
このような有機EL素子では、Ip2≧Ip3、Ea1≧Ea2であるので、通常、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であり、かつ、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0175】
本実施態様においては、図6に例示するように、電子注入輸送層6および陰極7の間に第2の電子注入輸送層10が形成されていてもよい。この場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0176】
また本実施態様においては、図6に例示するように、陽極3および正孔注入輸送層4の間に第2の正孔注入輸送層9が形成されていてもよい。この場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0177】
本実施態様においては、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0178】
また本実施態様においては、第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0179】
なお、陽極、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、陰極および基板については、上記第1実施態様に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0180】
III.第3実施態様
本発明の有機EL素子の第3実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とするものである。
【0181】
本実施態様の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図12は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図13は、図12に示す有機EL素子の動作機構を示す模式図である。
図12に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット20aと電荷発生層21aと発光ユニット20bと電荷発生層21bと発光ユニット20cと陰極7とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。一般に有機EL素子においては、陽極側から正孔(h)、陰極側から電子(e)が注入されて発光ユニット内で正孔および電子が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層21a,21bを介して3個の発光ユニット20a,20b,20cが積層されており、図10に例示するように陽極3側から正孔(h)、陰極7側から電子(e)が注入され、また電荷発生層21a,21bによって陰極7方向に正孔(h)、陽極3方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット20a,20b,20c内で正孔および電子の再結合が生じ、複数の発光が陽極3および陰極7間で発生する。
【0182】
また、発光ユニット20a,20b,20cはそれぞれ、陽極3側から、正孔注入輸送層4と発光層5と電子注入輸送層6とが順次積層されたものとなっている。この発光層は、図示しないが、ドープ領域とノンドープ領域とを有している。
【0183】
正孔注入は、層の価電子帯からの電子の引き抜きによる、ラジカルカチオンの生成を意味する。電荷発生層の陰極側に接する正孔注入輸送層の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する電子注入輸送層の導電帯に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用される。電荷発生層においては、ラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向および陰極方向へ移動することにより、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入し、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入する。すなわち、陽極および陰極間に電圧が印加されると、陽極側から正孔、陰極側から電子が注入されると同時に、電子および正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子および正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0184】
したがって本実施態様によれば、陽極および陰極間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
【0185】
陽極および陰極間に単一の発光ユニットが挟まれた構成を有する有機EL素子(以下、この項において単一発光ユニットの有機EL素子という。)では、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本実施態様の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上述したように、図13に例示する正孔(h)注入は、発光ユニット20b,20cの価電子帯からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層21a,21bの陰極7側に接する発光ユニット20b,20cの価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層21a,21bの陽極3側に接する発光ユニット20a,20bの導電帯にそれぞれ注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本実施態様の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0186】
また、単一発光ユニットの有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要である。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本実施態様の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、陽極および陰極間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0187】
さらに、単一発光ユニットの有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを陽極および陰極間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0188】
また本実施態様によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。単一発光ユニットの有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって陽極および陰極間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまうおそれがある。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、陽極および陰極間に複数個の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性を低下させることができる。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0189】
さらに、例えば有機EL素子を単純マトリクス構造の表示装置に適用する場合、電流密度の減少により、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を、単一発光ユニットの有機EL素子の場合に比べて大きく低減できる。この点でも、本実施態様の有機EL素子は有利である。
【0190】
また、例えば有機EL素子を大面積を均一に光らせるような用途、特に照明に適用する場合にも、上記の特徴は充分有利に働く。単一発光ユニットの有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10-4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10-6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので、給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施態様の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、単一発光ユニットの有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0191】
図14(a),(b)はそれぞれ、図12に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図14(a),(b)に例示するようにIp1≦Ip2、Ip2≧Ip3となっている。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図14(a),(b)に例示するようにEa1≧Ea2、Ea2≦Ea3となっている。
【0192】
本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。
また本実施態様においては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係がEa1≧Ea2であり、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる正孔または電子のトラップを制御することができる。特に、電子の注入が過剰である場合に有用であり、高効率な素子を得ることができる。
【0193】
さらに、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが正孔注入を阻害することがなく、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。
一方、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
【0194】
また本実施態様においては、図12に例示するように、発光ユニット20a,20b,20cが、発光層5と陰極7または電荷発生層21a,21bとの間に形成された電子注入輸送層6を有することが好ましい。この場合、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図14(a)、(b)に例示するようにIp2≧Ip3であることが好ましい。また、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図14(a)、(b)に例示するようにEa2≦Ea3であることが好ましい。
【0195】
このような有機EL素子では、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であり、かつ、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができる。
【0196】
本実施態様においては、図15に例示するように、正孔注入輸送層4の陽極3側に第2の正孔注入輸送層9が形成されていてもよく、また電子注入輸送層6の陰極7側に第2の電子注入輸送層10が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0197】
さらに本実施態様においては、第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよく、また電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0198】
本実施態様においては、発光位置がとびとびに分離して複数存在している。従来、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層された有機EL素子(マルチフォトンエミッション)では、素子の厚みが厚くなるにつれて干渉効果が顕著になり、色調(すなわち、発光スペクトル形状)が大きく変化するという不具合があった。具体的には、発光スペクトル形状が変化したり、また元の発光ピーク位置の発光が顕著な干渉効果によって相殺され、結果的に大幅に発光効率が低下したり、発光の放射パターンの角度依存性が発生したりしてしまう。一般的には、発光位置から反射電極までの光学膜厚を制御することにより、干渉効果による不具合に対処することができる。
【0199】
しかしながら、光学膜厚の制御によって正面輝度を改善できたとしても、斜めからの輝度については光路長が変わるため干渉効果によって低下する傾向がある。
これに対し、本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0200】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子における他の構成について説明する。
【0201】
1.電荷発生層
本実施態様において、電荷発生層とは、所定の比抵抗を有する電気絶縁性の層であって、電圧印加時において素子の陰極方向に正孔を注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層をいう。
【0202】
電荷発生層は、比抵抗が1.0×102Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω・cm以上であることが好ましい。
【0203】
また、電荷発生層は、可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。可視光の透過率が上記範囲未満であると、生成した光が電荷発生層を通過する際に吸収され、複数個の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなる可能性があるからである。
【0204】
電荷発生層に用いられる材料としては、上記の比抵抗を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれも使用可能である。
【0205】
中でも、電荷発生層は、酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成されうる、異なる2種類の物質を含有するものであることが好ましい。この2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成され、この電荷移動錯体中のラジカルカチオン状態(正孔)とラジカルアニオン状態(電子)が、電圧印加時にそれぞれ陰極方向または陽極方向へ移動することにより、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入し、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入することができる。
【0206】
電荷発生層は、異なる2種類の物質それぞれからなる層が積層されたものであってもよく、異なる2種類の物質を含有する単一の層であってもよい。
【0207】
電荷発生層に用いられることなる2種類の物質としては、(a)正孔輸送性、すなわち電子供与性を有する有機化合物、および、(b)上記(a)の有機化合物との酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質、であることが好ましい。また、この(a)成分と(b)成分との間では酸化還元反応による電荷移動錯体が形成されていることが好ましい。
【0208】
なお、電荷発生層を構成する2種類の物質が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、分光学的分析手段によって確認することができる。具体的には、2種類の物質がそれぞれ単独では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、2種類の物質の混合膜では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークが示されれば、2種類の物質間での電子移動を明確に示唆する存在(もしくは証拠)として、2種類の物質間での酸化還元反応による電荷移動錯体の形成を確認することができる。
【0209】
(a)成分の有機化合物としては、例えば、アリールアミン化合物を挙げることができる。アリールアミン化合物は、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0210】
【化3】
【0211】
ここで、上記式において、Ar1,Ar2,Ar3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0212】
このようなアリールアミン化合物としては、例えば、特開2003−272860号公報に記載のアリールアミン化合物を用いることができる。
【0213】
また、(b)成分の物質は、例えば、V2O5、Re2O7、4F−TCNQ等が挙げられる。さらに、(b)成分の物質としては、正孔注入輸送層に用いられる材料であってもよい。
【0214】
なお、電荷発生層については、特開2003−272860号公報に詳しい。
【0215】
2.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また正孔注入輸送層と発光層とが順次積層されたものである。さらに、発光層は、ドープ領域とノンドープ領域とを有している。
【0216】
発光ユニットは、発光層と陰極または電荷発生層との間に形成された電子注入輸送層を有していてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0217】
発光ユニットにおいて、正孔注入輸送層の陽極側には第2の正孔注入輸送層が形成されていてもよく、さらに第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間には第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
また、発光ユニットにおいて、電子注入輸送層の陰極側には第2の電子注入輸送層が形成されていてもよく、さらに電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間には第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
なお、発光層、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、ならびに、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力については、上記第1実施態様に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0218】
本実施態様においては、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0219】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
【0220】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数種用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0221】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本実施態様の有機EL素子は高効率で長寿命であるため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0222】
IV.第4実施態様
本発明の有機EL素子の第4実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とするものである。
【0223】
本実施態様によれば、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0224】
本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。
また本実施態様においては、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係がIp2≧Ip3であり、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる正孔または電子のトラップを制御することができる。特に、正孔の注入が過剰である場合に有用であり、高効率な素子を得ることができる。
【0225】
さらに、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
一方、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが正孔注入を阻害することがなく、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。
【0226】
さらに本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0227】
また本実施態様においては、発光ユニットが、発光層および陽極の間に形成された正孔注入輸送層を有することが好ましい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0228】
本実施態様においては、正孔注入輸送層の陽極側に第2の正孔注入輸送層が形成されていてもよく、さらに第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0229】
また本実施態様においては、電子注入輸送層の陰極側に第2の電子注入輸送層が形成されていてもよく、さらに電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0230】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であり、また電荷発生層および発光ユニットについては、上記第3実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0231】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0232】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0233】
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを体積比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、1層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の正孔注入輸送層上に、TBADNとMoO3とを体積比9:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚100nmとなるように成膜し、2層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記2層目の正孔注入輸送層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように真空蒸着し、3層目の正孔注入輸送層を形成した。
【0234】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして下記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、上記3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで20nmの厚さに真空蒸着により成膜し、次いで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで50nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0235】
【化4】
【0236】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで20nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1層目の電子注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の電子注入輸送層上に、TBADNと、下記式(3)で表されるLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚12nmに成膜し、2層目の電子注入輸送層を形成した。
【0237】
【化5】
【0238】
最後に、上記2層目の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0239】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで50nmの厚さに真空蒸着により成膜し、次いで、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで20nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0240】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、次いで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで50nmの厚さに真空蒸着により成膜し、さらに、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0241】
[比較例1]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで70nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0242】
[評価]
実施例1〜実施例3および比較例1の有機EL素子について、10mA/cm2の定電流密度にて駆動させ、発光効率および寿命を測定した。この際、初期輝度を1000cd/m2として、初期輝度が半減するまでの時間を寿命とした。結果を下記表1に示す。
【0243】
【表1】
【0244】
[参考]
実施例で用いた材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を下記表2に示す。
【0245】
【表2】
【0246】
[実施例4]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを体積比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、1層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の正孔注入輸送層上に、TBADNとMoO3とを体積比9:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚100nmとなるように成膜し、2層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記2層目の正孔注入輸送層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように真空蒸着し、3層目の正孔注入輸送層を形成した。
【0247】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして下記式(4)で表される2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene(TBPe)と下記式(5)で表される2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t)と上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、上記3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のドープ領域を形成した。次に、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のドープ領域を形成した。次いで、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、ノンドープ領域を形成した。続いて、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、3つ目のドープ領域を形成した。これにより、発光層を形成した。
【0248】
【化6】
【0249】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1層目の電子注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の電子注入輸送層上に、TBADNと、上記式(3)で表されるLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、2層目の電子注入輸送層を形成した。
【0250】
最後に、上記2層目の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0251】
[実施例5]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(4)で表されるTBPeと上記式(5)で表されるC545tと上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のドープ領域を形成した。次いで、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、ノンドープ領域を形成した。続いて、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のドープ領域を形成した。さらに、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、3つ目のドープ領域を形成した。これにより、発光層を形成した。
【0252】
[実施例6]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(4)で表されるTBPeと上記式(5)で表されるC545tと上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のドープ領域を形成した。次いで、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のノンドープ領域を形成した。続いて、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のドープ領域を形成した。さらに、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のノンドープ領域を形成した。次いで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、3つ目のドープ領域を形成した。これにより、発光層を形成した。
【0253】
[比較例2]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(4)で表されるTBPeと上記式(5)で表されるC545tと上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜した。次いで、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜した。さらに、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜した。これにより、発光層を形成した。
【0254】
[評価]
実施例4〜実施例6および比較例2の有機EL素子について、10mA/cm2の定電流密度にて駆動させ、外部量子収率および寿命を測定した。この際、初期輝度を1000cd/m2として、初期輝度が半減するまでの時間を寿命とした。結果を下記表3に示す。
【0255】
【表3】
【符号の説明】
【0256】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 正孔注入輸送層
5 … 発光層
6 … 電子注入輸送層
7 … 陰極
8、8a、8b … ノンドープ領域
9 … 第2の正孔注入輸送層
10 … 第2の電子注入輸送層
11 … 第3の正孔注入輸送層
12 … 第3の電子注入輸送層
15,15a,15b … ドープ領域
20a,20b,20c … 発光ユニット
21,21a,21b … 電荷発生層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、自発光型のディスプレイとしての使用が注目されている。特に、有機EL素子は、印加電圧が10V弱であっても高輝度な発光が得られるなど発光効率が高く、また単純な素子構造で発光が可能であり、特定のパターンを発光表示させる広告やその他低価格の簡易表示用ディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
従来、高輝度発光を実現するため、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を用いることが知られている(例えば特許文献1参照)。この発光層では、陽極および陰極から注入された正孔および電子が発光層内のホスト材料で再結合し、そのエネルギーを発光ドーパントが受け取って発光する。このような発光層では、高輝度で色純度の良い発光を得ることが可能である。
【0004】
また従来では、長寿命および高効率化の達成のため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能、ブロッキング機能を有する材料を用いて複数の層を積層した多層構造をとることが一般的である。さらに、多層構造を有する有機EL素子では、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるために、電極および発光層の間に対極側への正孔もしくは電子の突き抜けを防止するブロッキング層を設けるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、多層構造を有する有機EL素子では、駆動中に各層の界面にて劣化が生じることによって、発光効率が低下したり、素子が劣化して輝度が低下したりすることが懸念される。特に、ブロッキング層が設けられた有機EL素子では、界面に電荷が蓄積しやすく、このため界面にて劣化が生じやすく、輝度劣化が懸念される。
【0006】
そこで、駆動中に各層の界面にて劣化が生じるのを抑制するために、正孔注入輸送層や電子注入輸送層に用いる材料を工夫する方法が提案されている。
例えば特許文献2には、陽極からの正孔の注入性および陰極からの電子の注入性を改善するために、有機半導体層(正孔注入輸送層または電子注入輸送層)を、有機化合物および酸化性ドーパント、あるいは、有機化合物および還元性ドーパント、あるいは、有機化合物および導電性微粒子から構成されるものとすることが開示されている。
また、例えば特許文献3には、陽極から有機化合物層(正孔注入輸送層)への正孔注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陽極に接する有機化合物層に電子受容性ドーパントをドープする方法が開示されている。さらに、例えば特許文献4および特許文献5には、陰極から有機化合物層(電子注入輸送層)への電子注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陰極に接する有機化合物層に電子供与性ドーパントをドープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2814435号公報
【特許文献2】特開2000−315581号公報
【特許文献3】特開平11−251067号公報
【特許文献4】特開平10−270171号公報
【特許文献5】特開平10−270172号公報
【特許文献6】特開2004−253373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発光効率の低下や素子の劣化を効果的に抑制するためには、陽極からの正孔注入におけるエネルギー障壁や、陰極からの電子注入におけるエネルギー障壁を低下させるだけでは充分ではなく、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さないような素子構成とすることが有効であると思料される。
【0009】
また、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を有する有機EL素子においては、電荷注入輸送層から発光層へ電荷が注入されにくい場合がある。これは、発光層および電荷注入輸送層の界面に発光ドーパントが存在することが影響しているものと思料される。
【0010】
ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層を有する有機EL素子としては、駆動電圧を低くすることを目的として、発光層がドープ層およびノンドープ層を有するものが提案されている(特許文献6)。しかしながら、特許文献6には、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さないことについては一切述べられていない。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、対極への電荷の突き抜けを防止する層を有さず、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。さらには、電荷注入輸送層から発光層への電荷注入が良好な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0013】
本発明によれば、発光層がノンドープ領域を有するので、発光層のドープ領域中の発光ドーパントから他の物質へエネルギー移動が起こり発光効率が低下するのを抑制することができる。また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、駆動中における正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0014】
また本発明は、陽極と、上記陽極上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0015】
本発明によれば、発光層がノンドープ領域を有するので、発光層のドープ領域中の発光ドーパントから他の物質へエネルギー移動が起こり発光効率が低下するのを抑制することができる。また、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であるので、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0016】
さらに本発明においては、上記発光層と上記陰極との間に電子注入輸送層が形成され、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることが好ましい。Ip2≧Ip3であるので、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができるからである。
【0017】
上記発明においては、上記正孔注入輸送層および上記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層および電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0018】
上記の場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0019】
本発明においては、上記発光層の上記正孔注入輸送層側に上記ノンドープ領域が設けられていてもよい。例えば、発光ドーパントから正孔注入輸送層の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。また、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。さらに、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるものの、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる電荷のトラップによって、発光層へ注入される電荷のバランスをとることができる。
【0020】
また本発明においては、上記発光層の上記電子注入輸送層側に上記ノンドープ領域が設けられていてもよい。例えば、発光ドーパントから電子注入輸送層の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。また、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより電子注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。さらに、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であるものの、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる電荷のトラップによって、発光層へ注入される電荷のバランスをとることができる。
【0021】
さらに本発明においては、上記発光層が2箇所の上記ドープ領域を有し、上記2箇所のドープ領域の間に上記ノンドープ領域が配置されており、上記2箇所のドープ領域がそれぞれ異なる種類の発光ドーパントを含有していてもよい。例えば、一方のドープ領域に含まれる発光ドーパントから他方のドープ領域に含まれる発光ドーパントへエネルギー移動が起こり得る場合には、これらの2つのドープ領域の間にノンドープ領域が配置されていることにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。
【0022】
また本発明においては、上記ドープ領域が、2種類以上の上記発光ドーパントを含有していてもよい。例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができる。また例えば、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができる。
【0023】
さらに本発明においては、上記正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip1<Ip2であることが好ましい。正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0024】
また本発明においては、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2、上記電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea2<Ea3であることが好ましい。電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0025】
さらに本発明においては、上記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有していてもよい。この場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。上述したように、これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、発光層がノンドープ領域を有するので、発光効率を向上させることができるという効果を奏する。また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力、ならびに、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの少なくともいずれか一方を所定の関係とすることにより、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができるという効果を奏する。したがって、高効率化を図り、安定な寿命特性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図8】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図11】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図12】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図13】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図14】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図15】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、層構成により4つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0029】
I.第1実施態様
本発明の有機EL素子の第1実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とするものである。
【0030】
なお、イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求めた値とする。また、電子親和力の測定方法としては、まずHOMOエネルギーをUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0031】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4はそれぞれ、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図5は図1〜図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図1〜図4に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と正孔注入輸送層4と発光層5と電子注入輸送層6と陰極7とが順次積層されたものである。また、発光層5は、ホスト材料および発光ドーパントを含有するものであり、発光ドーパントを含有するドープ領域15と発光ドーパントを含有しないノンドープ領域8とを有している。
図1に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が正孔注入輸送層4側に配置されている。図2に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が電子注入輸送層6側に配置されている。図3に示す例においては、発光層5が2箇所のノンドープ領域8a,8bを有し、2箇所のノンドープ領域8a,8bの間にドープ領域15が配置されている。図4に示す例においては、発光層5が2箇所のドープ領域15a、15bを有し、2箇所のドープ領域15a、15bの間にノンドープ領域8が配置されている。
【0032】
これらの有機EL素子においては、正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp1≦Ip2、Ip2≧Ip3となっている。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa1≧Ea2、Ea2≦Ea3となっている。
【0033】
図1および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから正孔注入輸送層4の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が正孔注入輸送層4側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。図2および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから電子注入輸送層6の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が電子注入輸送層6側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。
【0034】
また、図4に例示する有機EL素子においては、例えばドープ領域15aに含まれる発光ドーパントからドープ領域15bに含まれる発光ドーパントへエネルギー移動が起こり得る場合には、2つのドープ領域15a,15bの間にノンドープ領域8が配置されていることにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。具体的には、2つのドープ領域が互いに異なる色を発する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントがそれぞれ発光することで白色光を得る場合には、図4に例示する有機EL素子が有用である。また、2つのドープ領域のうち、一方が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方が燐光発光する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントをそれぞれ発光させる場合にも、図4に例示する有機EL素子は有用である。
【0035】
このように本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。また、本実施態様においては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、駆動中における正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0036】
さらに、図1に例示する有機EL素子においては、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、正孔注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが正孔注入を阻害することがなく、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。
ここで、本実施態様においては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係がEa1≧Ea2であり、発光層に注入された電子が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
これに対して、図1に例示する有機EL素子においては、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光ドーパントによる電荷のトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができる。
例えば、発光ドーパントが正孔よりも電子を輸送しやすいものである場合には、電子の注入が過剰になる傾向がある。この場合には、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることができる。これは、発光層の正孔注入輸送層側(陽極側)に発光ドーパントを含有しないノンドープ領域を設け、発光層の陰極側に発光ドーパントを含有するドープ領域を設けることにより、陰極から発光層に注入された電子が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陰極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陽極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。すなわち、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、電子の注入が過剰である場合に有用である。
【0037】
一方、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
ここで、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係がIp2≧Ip3である場合には、発光層に注入された正孔が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
これに対して、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光ドーパントによる電荷のトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができる。
例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向がある。この場合には、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることができる。これは、発光層の電子注入輸送層側(陰極側)に発光ドーパントを含有しないノンドープ領域を設け、発光層の陽極側に発光ドーパントを含有するドープ領域を設けることにより、陽極から発光層に注入された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。すなわち、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔の注入が過剰である場合に有用である。
【0038】
本実施態様においては、図1〜図4に例示するように、発光層5および陰極7の間に電子注入輸送層6が形成されていることが好ましい。この場合、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp2≧Ip3であることが好ましい。また、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa2≦Ea3であることが好ましい。
【0039】
このような有機EL素子では、Ip2≧Ip3、Ea1≧Ea2であるので、通常、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であり、かつ、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0040】
本実施態様においては、図6に例示するように、陽極3および正孔注入輸送層4の間に第2の正孔注入輸送層9が形成されていてもよい。
この場合、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、第2の正孔注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa4とすると、図7(a)、(b)に例示するようにEa4≧Ea1≧Ea2であることが好ましい。このような有機EL素子においては、Ea4≧Ea1≧Ea2であるので、上記の場合と同様に、駆動中における第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
一方、図8に例示するように、Ea4<Ea1、Ea1≧Ea2であることも好ましい。正孔注入輸送層および第2の正孔注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広くなるからである。
またこの場合、正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、第2の正孔注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4とすると、図7(a)、(b)に例示するようにIp4<Ip1<Ip2であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、Ip4<Ip1<Ip2となるように第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層が形成されていることにより、発光層に正孔を円滑に輸送することができる。
【0041】
また本実施態様においては、図6に例示するように、電子注入輸送層6および陰極7の間に第2の電子注入輸送層10が形成されていてもよい。
この場合、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、図7(a)、(b)に例示するようにIp2≧Ip3≧Ip5であることが好ましい。このような有機EL素子においては、Ip2≧Ip3≧Ip5であるので、上記の場合と同様に、駆動中における発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
一方、図8に例示するように、Ip2≧Ip3、Ip3<Ip5であることも好ましい。電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広くなるからである。
またこの場合、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa5とすると、図7(a)、(b)に例示するようにEa2<Ea3<Ea5であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、Ea2<Ea3<Ea5となるように発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層が形成されていることにより、発光層に電子を円滑に輸送することができる。
【0042】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。
【0043】
1.発光層
本実施態様に用いられる発光層は、ホスト材料および発光ドーパントを含有するものであり、発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有するものである。発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有する。
【0044】
なお、発光ドーパントを含有しないノンドープ領域とは、実質的に発光ドーパントを含有しない領域をいう。具体的には、ノンドープ領域とは、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させて発光層を成膜する際に、発光ドーパントの蒸着源のシャッターを閉じることにより形成される領域をいう。また、ノンドープ領域の厚みが10nm以上である場合、ノンドープ領域とは、隣接するドープ領域中の発光ドーパントの含有量を100%としたときに、発光ドーパントの含有量が10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である領域を有する領域をいう。
【0045】
発光層は、1箇所以上のドープ領域と1箇所以上のノンドープ領域とを有していればよい。例えば、図1および図2に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と1箇所のノンドープ領域8とを有していてもよく、図3に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と2箇所のノンドープ領域8a,8bとを有していてもよく、図4に示すように発光層5が2箇所のドープ領域15a,15bと1箇所のノンドープ領域8とを有していてもよく、図示しないが発光層が2箇所のドープ領域と3箇所のノンドープ領域とを有していてもよい。ドープ領域およびノンドープ領域の数としてはそれぞれ、1箇所以上であればよいが、通常、1〜3箇所程度とされ、好ましくは1〜2箇所である。
【0046】
ドープ領域およびノンドープ領域の配置としては、発光層が1箇所以上のドープ領域と1箇所以上のノンドープ領域とを有するような配置であれば特に限定されるものではない。例えば、図1に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と1箇所のノンドープ領域8とを有し、正孔注入輸送層4側にノンドープ領域8が配置されていてもよく、図2に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と1箇所のノンドープ領域8とを有し、電子注入輸送層6側にノンドープ領域8が配置されていてもよく、図3に示すように発光層5が1箇所のドープ領域15と2箇所のノンドープ領域8a,8bとを有し、正孔注入輸送層4側および電子注入輸送層6側の両側にノンドープ領域8a,8bが配置されていてもよい。また、図4に例示するように、発光層5が2箇所のドープ領域15a,15bと1箇所のノンドープ領域8とを有し、2箇所のドープ領域15a,15bの間にノンドープ領域8が配置されていてもよい。さらに図示しないが、発光層が2箇所のドープ領域と3箇所のノンドープ領域とを有し、ドープ領域とノンドープ領域とが交互に配置されていてもよい。
【0047】
ドープ領域およびノンドープ領域の配置は、発光ドーパントのエネルギー遷移を考慮して適宜選択される。中でも、正孔および電子の注入バランスがとれるように、ドープ領域およびノンドープ領域の配置を適宜選択することが好ましい。例えば、電子の注入が過剰である場合には、発光層に注入された電子を発光ドーパントによって発光層の陰極側でトラップできるように、正孔注入輸送層側にノンドープ領域が設けられることが好ましい。
【0048】
ドープ領域は、ホスト材料および発光ドーパントを含有する領域であればよく、ドープ領域では、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に一定であってもよく、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に分布を有していてもよい。通常は、ドープ領域では、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に一定とされる。
【0049】
発光層に用いられるホスト材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料を挙げることができる。
【0050】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0051】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることができる。
【0052】
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系材料および金属錯体系材料を高分子化したものも挙げられる。
【0053】
また、ホスト材料はバイポーラ材料であってもよい。
なお、バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合に電子を安定に輸送することができ、かつ、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合に正孔を安定に輸送することができる材料をいう。ユニポーラデバイスを作製する際には、具体的には、還元性ドーパントとして、Csもしくは8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を材料にドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製し、酸化性ドーパントとしてV2O5もしくはMoO3を材料にドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製することができる。
このようなバイポーラ材料を発光層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
【0054】
バイポーラ材料としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(4,4'-bis(2,2-diphenyl-ethen-1-yl)diphenyl;DPVBi)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl;CBP)、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9'-スピロ-ビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis(carbazol-9-yl)-9,9'-spiro-bifluorene;spiro-CBP)、4,4''-ジ(N-カルバゾリル)-2',3',5',6'-テトラフェニル-p-テルフェニル(4,4''-di(N-carbazolyl)-2',3',5',6'-tetraphenyl-p-terphenyl;CzTT)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)-ベンゼン(1,3-bis(carbazole-9-yl)-benzene;m-CP)、3-tert−ブチル-9,10-ジ(ナフサ-2-イル)アントラセン(3-tert−butyl-9,10-di(naphtha-2-yl)anthracene;TBADN)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
【化1】
【0056】
【化2】
【0057】
なお、上記の手法により正孔および電子の両キャリアの輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
【0058】
また、発光ドーパントは、蛍光発光または燐光発光するものであれば特に限定されるものではない。発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、イリジウム(Ir)化合物、白金化合物、金化合物、オスミウム化合物、ルテニウム(Ru)化合物、レニウム(Re)化合物等を挙げることができる。より具体的には、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene)(ペリレン誘導体)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7,-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン(C545t)(2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t))(クマリン誘導体)、(5,6,11,12)-テトラフェニルナフタセン((5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene)(ルブレン誘導体)、および、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III);Ir(ppy)3)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Tris(1-phenylisoquinoline)iridium(III);Ir(piq)3)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium(III);FIrpic)(イリジウム化合物)が挙げられる。
【0059】
ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルの関係としては、ホスト材料の電子親和力をEah、発光ドーパントの電子親和力をEadとしたとき、Eah<Eadであり、かつ、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをIph、発光ドーパントのイオン化ポテンシャルをIpdとしたとき、Iph>Ipdであることが好ましい。ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルが上記の関係を満たす場合には、正孔および電子が発光ドーパントにトラップされるので、発光効率を向上させることができるからである。
【0060】
ここで、発光層を構成するホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、次のようにして得られる。イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求める。一方、電子親和力の測定方法としては、まずUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)によりHOMOエネルギーを求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0061】
さらに、発光層は、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。この場合、例えば、1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有していてもよく、2箇所のドープ領域が互いに異なる種類の発光ドーパントを含有していてもよい。
【0062】
1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、例えば、ホスト材料と発光ドーパントとの励起エネルギーの差が比較的大きい場合には、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができ、発光効率を向上させることができる。また例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができ、発光効率を向上させることができる。さらに例えば、異なる色を発光する発光ドーパントを含有させることにより、異なる色を発光する発光ドーパントをそれぞれ発光させて白色光を得ることができる。
【0063】
1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、各発光ドーパントがそれぞれ発光してもよく、1種類のみが発光してもよい。例えば、1箇所のドープ領域が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合や、1箇所のドープ領域が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合など、いずれの場合も、その発光ドーパントの励起エネルギーの大小、分布状態、および濃度により、1種類もしくはそれぞれの発光ドーパントの発光が得られる。また例えば、異なる色を発光する発光ドーパントを含有する場合には、異なる色を発光する発光ドーパントをそれぞれ発光させることで白色光を得ることができる。
【0064】
1箇所のドープ領域が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、1箇所のドープ領域に、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有させたり、あるいは、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有させたりすることができる。
【0065】
1箇所のドープ領域が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合、第1発光ドーパントおよび第2発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ホスト材料として緑色発光するAlq3を用い、第1発光ドーパントとして赤色発光するDCMを用いる場合、第2発光ドーパントとして黄色発光するルブレンを用いることにより、Alq3(ホスト材料)→ルブレン(第2発光ドーパント)→DCM(第1発光ドーパント)の順に円滑にエネルギー移動を起こさせることができる。
【0066】
また、1箇所のドープ領域が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントとしては、正孔注入輸送層および電子注入輸送層の構成材料、ならびに発光層のホスト材料の組み合わせに応じて、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにルブレンを用いた場合、ルブレンは電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントとなる。また例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにアントラセンジアミンを用いた場合、アントラセンジアミンは正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとなる。
【0067】
なお、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすいものであるか、正孔よりも電子を輸送しやすいものであるかは、ホスト材料と単一の発光ドーパントとを含有する発光層を有する有機EL素子の発光スペクトルの放射パターンの角度依存性を評価することにより確認することができる。すなわち、発光スペクトルの波長、材料の屈折率、有機EL素子にて発光層から光が取り出されるまでの光路長、および放射パターンの角度依存性から確認することができる。
【0068】
1箇所のドープ領域が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、ドープ領域内での第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ、発光層の厚さ方向に一定であってもよく、発光層の厚さ方向に分布を有していてもよい。通常は、ドープ領域内での第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ、発光層の厚さ方向に一定とされる。
【0069】
一方、2箇所のドープ領域が互いに異なる種類の発光ドーパントを含有する場合、例えば、2箇所のドープ領域が互いに異なる色を発光する発光ドーパントを含有する場合には、2箇所のドープ領域の間にノンドープ領域が配置されていることにより、発光ドーパント間のエネルギー移動を抑制して、発光ドーパントをそれぞれ発光させることができ、発光効率を向上させることができる。具体的には、異なる色を発光する発光ドーパントをそれぞれ発光させて白色光を得る場合が挙げられる。また例えば、一方のドープ領域が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方のドープ領域が燐光発光する発光ドーパントを含有する場合には、2箇所のドープ領域の間にノンドープ領域が配置されていることにより、発光ドーパント間のエネルギー移動を抑制して、発光ドーパントをそれぞれ発光させることができ、発光効率を向上させることができる。
【0070】
2箇所のドープ領域が互いに異なる種類の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、上述したように、2箇所のドープ領域に互いに異なる色を発光する発光ドーパントを含有させたり、あるいは、一方のドープ領域に蛍光発光する発光ドーパントを含有させ、他方のドープ領域に燐光発光する発光ドーパントを含有させたりすることができる。
【0071】
2箇所のドープ領域が互いに異なる色を発光する発光ドーパントを含有する場合、異なる色を発光する発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、赤色発光する発光ドーパントと青色発光する発光ドーパントを用いることにより、白色光を得ることができる。
【0072】
また、一方のドープ領域が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方のドープ領域が燐光発光する発光ドーパントを含有する場合、蛍光発光する発光ドーパントおよび燐光発光する発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。
【0073】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば5nm〜200nm程度で設定することができる。中でも、発光層の厚みを厚くすることによって、正孔および電子の注入バランスを向上させることで発光効率を高めるには、発光層の厚みが10nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは20nm〜80nmの範囲内である。
【0074】
また、発光層内のノンドープ領域の厚みは、均一な膜が成膜可能であり、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現するドープ領域を確保することが可能な厚みであれば特に限定されるものではない。具体的には、ノンドープ領域の厚みは、0.1nm〜30nm程度であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜20nmの範囲内、さらに好ましくは0.8nm〜15nmの範囲内である。
【0075】
発光層の成膜方法としては、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この際、発光ドーパントの蒸着源のシャッターを開閉したり、発光ドーパントの蒸着速度を制御したりすることにより、ノンドープ領域を有する発光層を形成することができる。
また、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、発光層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料および発光ドーパントを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0076】
また、ドープ領域内での発光ドーパント濃度に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料および発光ドーパントの蒸着速度を連続的または周期的に変化させる方法を用いることができる。
【0077】
発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。この隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0078】
2.イオン化ポテンシャルおよび電子親和力
本発明において、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルとは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料のイオン化ポテンシャルをいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをいう。また同様に、各層の構成材料の電子親和力とは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料の電子親和力をいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料の電子親和力をいう。
【0079】
正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係としては、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であればよいが、中でも、Ea1>Ea2であることが好ましい。Ea1>Ea2かつIp1<Ip2であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、発光効率の向上のために、発光層のホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0080】
Ea1>Ea2の場合、Ea1およびEa2の差としては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上とすることがより好ましい。
【0081】
また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、通常はIp1≦Ip2とされる。中でも、Ip1<Ip2であることが好ましい。正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0082】
Ip1<Ip2の場合、Ip1およびIp2の差としては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上とすることがより好ましい。
なお、Ip1およびIp2の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、正孔注入輸送層から発光層へ正孔を輸送させることができる。
【0083】
発光層および陰極の間に電子注入輸送層が形成されている場合、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることが好ましく、中でも、Ip2>Ip3であることが好ましい。Ip2>Ip3かつEa2<Ea3であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、発光効率の向上のために、発光層のホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0084】
Ip2>Ip3の場合、Ip2およびIp3の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上とすることがより好ましい。
【0085】
また、上記の場合、発光層および電子注入輸送層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、通常はEa2≦Ea3とされる。中でも、Ea2<Ea3であることが好ましい。電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0086】
Ea2<Ea3の場合、Ea2およびEa3の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、0.2eV以上0.5eV以下とすることがより好ましい。
なお、Ea2およびEa3の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、電子注入輸送層から発光層へ電子を輸送させることができる。
【0087】
陽極および正孔注入輸送層の間に第2の正孔注入輸送層が形成されている場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4としたとき、Ea4≧Ea1≧Ea2であることが好ましい。これにより、駆動中における第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、Ea4<Ea1、Ea1≧Ea2であることも好ましい。正孔注入輸送層および第2の正孔注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0088】
また、上記の場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、通常はIp4≦Ip1≦Ip2とされる。中でも、Ip4<Ip1<Ip2であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、発光層へ正孔が輸送され難くなるが、Ip4<Ip1<Ip2となるように第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層および発光層が形成されていることにより、発光層へ正孔を円滑に輸送することができるからである。また、第2の正孔注入輸送層から正孔注入輸送層への正孔輸送、および、正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0089】
Ip4<Ip1<Ip2の場合、Ip4およびIp1の差、ならびに、Ip1およびIp2の差としては、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0090】
電子注入輸送層および陰極の間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip2≧Ip3≧Ip5であることが好ましい。これにより、駆動中における発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、Ip2≧Ip3、Ip3<Ip5であることも好ましい。電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0091】
また、上記の場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3、第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、通常はEa2≦Ea3≦Ea5とされる。中でも、Ea2<Ea3<Ea5であることが好ましい。発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合には、発光層へ電子が輸送され難くなるが、Ea2<Ea3<Ea5となるように発光層、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層が形成されていることにより、発光層へ電子を円滑に輸送することができるからである。また、第2の電子注入輸送層から電子注入輸送層への電子輸送、および、電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0092】
Ea2<Ea3<Ea5の場合、Ea2およびEa3の差、ならびに、Ea3およびEa5の差としては、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0093】
さらに本実施態様においては、図9に例示するように、第2の正孔注入輸送層9および正孔注入輸送層4の間に第3の正孔注入輸送層11が形成されていてもよい。
この場合、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、第3の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa6、発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、図10(a)、(b)に例示するように、Ea4≧Ea6≧Ea1≧Ea2であることが好ましい。これにより、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、図11に例示するように、Ea4<Ea6、Ea6≧Ea1≧Ea2であることも好ましい。正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0094】
また、上記の場合、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第3の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp6、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、通常はIp4≦Ip6≦Ip1≦Ip2とされる。中でも、図10(a)、(b)に例示するように、Ip4<Ip6<Ip1<Ip2であることが好ましい。Ip4<Ip6<Ip1<Ip2となるように正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層が形成されていることにより、発光層へ正孔を円滑に輸送することができるからである。また、発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0095】
Ip4<Ip6<Ip1<Ip2の場合、Ip4およびIp6の差、Ip6およびIp1の差、ならびに、Ip1およびIp2の差としては、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0096】
さらに本実施態様においては、図9に例示するように、電子注入輸送層6および第2の電子注入輸送層10の間に第3の電子注入輸送層12が形成されていてもよい。
この場合、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5、第3の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp7としたとき、図10(a)、(b)に例示するように、Ip2≧Ip3≧Ip7≧Ip5であることが好ましい。これにより、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
一方、図11に例示するように、Ip2≧Ip3≧Ip7、Ip7<Ip5であることも好ましい。電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層の構成材料の選択肢の幅が広がるからである。
【0097】
また、上記の場合、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3、第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5、第3の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa7としたとき、通常はEa2≦Ea3≦Ea7≦Ea5とされる。中でも、図10(a)、(b)に例示するように、Ea2<Ea3<Ea7<Ea5であることが好ましい。Ea2<Ea3<Ea7<Ea5となるように電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層が形成されていることにより、発光層へ電子を円滑に輸送することができるからである。また、発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0098】
Ea2<Ea3<Ea7<Ea5の場合、Ea2およびEa3の差、Ea3およびEa7の差、ならびに、Ea7およびEa5の差としては、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0099】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の測定方法は、上述したとおりである。
【0100】
3.正孔注入輸送層
本実施態様に用いられる正孔注入輸送層は、陽極および発光層の間に形成されるものであり、陽極から発光層に正孔を安定に注入または輸送する機能を有するものである。
【0101】
正孔注入輸送層としては、正孔注入機能を有する正孔注入層、および正孔輸送機能を有する正孔輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0102】
正孔注入輸送層の構成材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0103】
中でも、正孔注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および正孔注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0104】
また、正孔注入輸送層および後述の電子注入輸送層がいずれもバイポーラ材料を含有する場合、正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0105】
さらに、正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、上述したように、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0106】
上記正孔注入輸送層の構成材料が有機材料(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することが好ましい。正孔注入輸送層が、少なくとも陽極との界面にて、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することにより、陽極から正孔注入輸送層への正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陽極から基本的に絶縁物である有機層への正孔注入過程は、陽極表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成である(Phys. Rev.Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を酸化する酸化性ドーパントを陽極に接触する正孔注入輸送層中にドープすることにより、陽極からの正孔注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層中には、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。
【0107】
酸化性ドーパントとしては、正孔注入輸送層用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。
【0108】
電子受容性化合物としては、無機物および有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化バナジウム(V2O5)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0109】
中でも、電子受容性化合物としては、金属酸化物が好ましく、MoO3、V2O5が好適に用いられる。
【0110】
正孔注入輸送層が、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、正孔注入輸送層中に、酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよく、酸化性ドーパントの含有量が発光層側から陽極側に向けて連続的に多くなるように酸化性ドーパントがドープされていてもよく、正孔注入輸送層の陽極との界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
【0111】
正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの体積比率が、正孔注入輸送層用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:50の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度が正孔注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超えて、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0112】
正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0113】
中でも、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の成膜方法としては、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法において、塩化第二鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントはるつぼに入れて一般的な抵抗加熱法によって蒸着可能である。一方、常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合は、ニードルバルブやマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
【0114】
また、発光層側から陽極側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0115】
正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0116】
また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.5nm以上とすることが好ましい。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層は、無電場の状態でも正孔注入輸送層用有機化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので、膜厚は特に限定されないのである。また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層を厚膜にしても、素子の電圧上昇をもたらすことがないので、陽極および陰極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより、短絡の危険性を大幅に軽減させることもできる。
【0117】
4.電子注入輸送層
本実施態様に用いられる電子注入輸送層は、陰極および発光層の間に形成されるものであり、陰極から発光層に電子を安定に注入または輸送する機能を有するものである。
【0118】
電子注入輸送層としては、電子注入機能を有する電子注入層、および電子輸送機能を有する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0119】
電子注入層の構成材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。
【0120】
また、電子輸送層の構成材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0121】
中でも、電子注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0122】
上記電子注入輸送層の構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することが好ましい。電子注入輸送層が、少なくとも陰極との界面にて、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することにより、陰極から電子注入輸送層への電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陰極から基本的に絶縁物である有機層への電子注入過程は、陰極表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成である(Phys. Rev. Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を還元する還元性ドーパントを陰極に接触する電子注入輸送層中にドープすることにより、陰極からの電子注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。電子注入輸送層中には、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。さらには、陰極に、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することができる。
【0123】
還元性ドーパントしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。
【0124】
電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、Wなどが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩などが挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)などが挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性が得られるからである。
【0125】
電子注入輸送層が、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、電子注入輸送層中に、還元性ドーパントが均一にドープされていてもよく、還元性ドーパントの含有量が発光層側から陰極側に向けて連続的に多くなるように還元性ドーパントがドープされていてもよく、電子注入輸送層の陰極との界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。
【0126】
電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜99重量%程度とすることが好ましい。還元性ドーパント濃度が上記範囲未満であると、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、還元性ドーパント濃度が上記範囲を超えると、電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度が電子注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超え、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0127】
電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0128】
中でも、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法としては、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0129】
また、発光層側から陰極側に向けて還元性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0130】
電子注入層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。また、電子輸送層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0131】
また、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものでないが、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。厚みが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないためにドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、厚みが上記範囲を超えると、電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがあるからである。
【0132】
5.第2の正孔注入輸送層
本実施態様においては、陽極および正孔注入輸送層の間に第2の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0133】
陽極および正孔注入輸送層の間に第2の正孔注入輸送層が形成されている場合、通常は、正孔注入輸送層が正孔輸送層として機能し、第2の正孔注入輸送層が正孔注入層として機能する。
【0134】
第2の正孔注入輸送層の構成材料としては、上記正孔注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0135】
中でも、第2の正孔注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第2の正孔注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0136】
正孔注入輸送層および第2の正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0137】
また、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0138】
なお、第2の正孔注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の正孔注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0139】
6.第2の電子注入輸送層
本実施態様においては、電子注入輸送層および陰極の間に第2の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0140】
電子注入輸送層および陰極の間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、通常は、電子注入輸送層が電子輸送層として機能し、第2の電子注入輸送層が電子注入層として機能する。
【0141】
第2の電子注入輸送層の構成材料としては、上記電子注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0142】
中でも、第2の電子注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第2の電子注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0143】
電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0144】
なお、第2の電子注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の電子注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0145】
7.第3の正孔注入輸送層
本実施態様においては、第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0146】
第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されている場合、通常は、第2の正孔注入輸送層が正孔注入層として機能し、正孔注入輸送層および第3の正孔注入輸送層が正孔輸送層として機能する。
【0147】
第3の正孔注入輸送層の構成材料としては、上記正孔注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0148】
中でも、第3の正孔注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第3の正孔注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0149】
正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および第3の正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0150】
また、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、第3の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および電子注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、第3の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、電子注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0151】
なお、第3の正孔注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の正孔注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0152】
8.第3の電子注入輸送層
本実施態様においては、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0153】
電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されている場合、通常は、第2の電子注入輸送層が電子注入層として機能し、電子注入輸送層および第3の電子注入輸送層が電子輸送層として機能する。
【0154】
第3の電子注入輸送層の構成材料としては、上記電子注入輸送層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0155】
中でも、第3の電子注入輸送層の構成材料はバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を第3の電子注入輸送層に用いることにより、界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記発光層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0156】
電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層および第3の電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0157】
なお、第3の電子注入輸送層の成膜方法および厚みについては、上述の電子注入輸送層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0158】
9.陽極
本発明に用いられる陽極は、透明であっても不透明であってもよいが、陽極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0159】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0160】
陽極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陽極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0161】
10.陰極
本発明に用いられる陰極は、透明であっても不透明であってもよいが、陰極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0162】
陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。また、陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、Cs2O/Al、LiF/Al、ErF3/Al等が挙げられる。
【0163】
陰極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陰極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0164】
11.基板
本発明における基板は、上記の陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極等を支持するものである。陽極もしくは陰極が所定の強度を有する場合には、陽極もしくは陰極が基板を兼ねていてもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に陽極もしくは陰極形成される。また、一般的に有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、通常は、基板上には、陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極の順に積層される。
【0165】
基板は、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には透明基板である必要がある。透明基板としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板などを用いることができる。
【0166】
II.第2実施態様
本発明の有機EL素子の第2実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、上記発光層上に形成された電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とするものである。
【0167】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4はそれぞれ、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図5は図1〜図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図1〜図4に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と正孔注入輸送層4と発光層5と電子注入輸送層6と陰極7とが順次積層されたものである。また、発光層5は、ホスト材料および発光ドーパントを含有するものであり、発光ドーパントを含有するドープ領域15と発光ドーパントを含有しないノンドープ領域8とを有している。
図1に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が正孔注入輸送層4側に配置されている。図2に示す例においては、発光層5にてノンドープ領域8が電子注入輸送層6側に配置されている。図3に示す例においては、発光層5が2箇所のノンドープ領域8a,8bを有し、2箇所のノンドープ領域8a,8bの間にドープ領域15が配置されている。図4に示す例においては、発光層5が2箇所のドープ領域15a、15bを有し、2箇所のドープ領域15a、15bの間にノンドープ領域8が配置されている。
【0168】
これらの有機EL素子においては、正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp1≦Ip2、Ip2≧Ip3となっている。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa1≧Ea2、Ea2≦Ea3となっている。
【0169】
図1および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから正孔注入輸送層4の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が正孔注入輸送層4側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。図2および図3に例示する有機EL素子においては、例えば発光層5に含まれる発光ドーパントから電子注入輸送層6の構成材料へエネルギー移動が起こり得る場合には、発光層5が電子注入輸送層6側にノンドープ領域8を有することにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。
【0170】
また、図4に例示する有機EL素子においては、例えばドープ領域15aに含まれる発光ドーパントからドープ領域15bに含まれる発光ドーパントへエネルギー移動が起こり得る場合には、2つのドープ領域15a,15bの間にノンドープ領域8が配置されていることにより上記エネルギー移動を起こりにくくし発光効率を向上させることができる。具体的には、2つのドープ領域が互いに異なる色を発する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントがそれぞれ発光することで白色光を得る場合には、図3に例示する有機EL素子が有用である。また、2つのドープ領域のうち、一方が蛍光発光する発光ドーパントを含有し、他方が燐光発光する発光ドーパントを含有しており、各発光ドーパントをそれぞれ発光させる場合にも、図4に例示する有機EL素子は有用である。
【0171】
このように本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。また、本実施態様においては、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であるので、駆動中における発光層および電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0172】
さらに、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
ここで、本実施態様においては、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係がIp2≧Ip3であり、発光層に注入された正孔が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
これに対して、図2に例示する有機EL素子においては、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光ドーパントによる電荷のトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができる。
例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向がある。この場合には、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることができる。これは、発光層の電子注入輸送層側(陰極側)に発光ドーパントを含有しないノンドープ領域を設け、発光層の陽極側に発光ドーパントを含有するドープ領域を設けることにより、陽極から発光層に注入された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。すなわち、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔の注入が過剰である場合に有用である。
【0173】
本実施態様においては、図1〜図4に例示するように、陽極3および発光層5の間に正孔注入輸送層4が形成されていることが好ましい。この場合、正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2とすると、図5(a)、(b)に例示するようにIp1≦Ip2であることが好ましい。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2とすると、図5(a)、(b)に例示するようにEa1≧Ea2であることが好ましい。
【0174】
このような有機EL素子では、Ip2≧Ip3、Ea1≧Ea2であるので、通常、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であり、かつ、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0175】
本実施態様においては、図6に例示するように、電子注入輸送層6および陰極7の間に第2の電子注入輸送層10が形成されていてもよい。この場合、発光層、電子注入輸送層、および第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0176】
また本実施態様においては、図6に例示するように、陽極3および正孔注入輸送層4の間に第2の正孔注入輸送層9が形成されていてもよい。この場合、第2の正孔注入輸送層、正孔注入輸送層、および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0177】
本実施態様においては、電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0178】
また本実施態様においては、第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0179】
なお、陽極、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、陰極および基板については、上記第1実施態様に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0180】
III.第3実施態様
本発明の有機EL素子の第3実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とするものである。
【0181】
本実施態様の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図12は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図13は、図12に示す有機EL素子の動作機構を示す模式図である。
図12に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット20aと電荷発生層21aと発光ユニット20bと電荷発生層21bと発光ユニット20cと陰極7とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。一般に有機EL素子においては、陽極側から正孔(h)、陰極側から電子(e)が注入されて発光ユニット内で正孔および電子が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層21a,21bを介して3個の発光ユニット20a,20b,20cが積層されており、図10に例示するように陽極3側から正孔(h)、陰極7側から電子(e)が注入され、また電荷発生層21a,21bによって陰極7方向に正孔(h)、陽極3方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット20a,20b,20c内で正孔および電子の再結合が生じ、複数の発光が陽極3および陰極7間で発生する。
【0182】
また、発光ユニット20a,20b,20cはそれぞれ、陽極3側から、正孔注入輸送層4と発光層5と電子注入輸送層6とが順次積層されたものとなっている。この発光層は、図示しないが、ドープ領域とノンドープ領域とを有している。
【0183】
正孔注入は、層の価電子帯からの電子の引き抜きによる、ラジカルカチオンの生成を意味する。電荷発生層の陰極側に接する正孔注入輸送層の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する電子注入輸送層の導電帯に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用される。電荷発生層においては、ラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向および陰極方向へ移動することにより、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入し、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入する。すなわち、陽極および陰極間に電圧が印加されると、陽極側から正孔、陰極側から電子が注入されると同時に、電子および正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子および正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0184】
したがって本実施態様によれば、陽極および陰極間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
【0185】
陽極および陰極間に単一の発光ユニットが挟まれた構成を有する有機EL素子(以下、この項において単一発光ユニットの有機EL素子という。)では、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本実施態様の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上述したように、図13に例示する正孔(h)注入は、発光ユニット20b,20cの価電子帯からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層21a,21bの陰極7側に接する発光ユニット20b,20cの価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層21a,21bの陽極3側に接する発光ユニット20a,20bの導電帯にそれぞれ注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本実施態様の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0186】
また、単一発光ユニットの有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要である。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本実施態様の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、陽極および陰極間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0187】
さらに、単一発光ユニットの有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを陽極および陰極間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0188】
また本実施態様によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。単一発光ユニットの有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって陽極および陰極間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまうおそれがある。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、陽極および陰極間に複数個の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性を低下させることができる。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0189】
さらに、例えば有機EL素子を単純マトリクス構造の表示装置に適用する場合、電流密度の減少により、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を、単一発光ユニットの有機EL素子の場合に比べて大きく低減できる。この点でも、本実施態様の有機EL素子は有利である。
【0190】
また、例えば有機EL素子を大面積を均一に光らせるような用途、特に照明に適用する場合にも、上記の特徴は充分有利に働く。単一発光ユニットの有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10-4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10-6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので、給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施態様の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、単一発光ユニットの有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0191】
図14(a),(b)はそれぞれ、図12に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図14(a),(b)に例示するようにIp1≦Ip2、Ip2≧Ip3となっている。また、正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図14(a),(b)に例示するようにEa1≧Ea2、Ea2≦Ea3となっている。
【0192】
本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。
また本実施態様においては、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係がEa1≧Ea2であり、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる正孔または電子のトラップを制御することができる。特に、電子の注入が過剰である場合に有用であり、高効率な素子を得ることができる。
【0193】
さらに、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが正孔注入を阻害することがなく、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。
一方、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
【0194】
また本実施態様においては、図12に例示するように、発光ユニット20a,20b,20cが、発光層5と陰極7または電荷発生層21a,21bとの間に形成された電子注入輸送層6を有することが好ましい。この場合、発光層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、電子注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3とすると、図14(a)、(b)に例示するようにIp2≧Ip3であることが好ましい。また、発光層5の構成材料の電子親和力をEa2、電子注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3とすると、図14(a)、(b)に例示するようにEa2≦Ea3であることが好ましい。
【0195】
このような有機EL素子では、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp2≧Ip3であり、かつ、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1≧Ea2であるので、駆動中における各層の界面での劣化を抑制することができる。
【0196】
本実施態様においては、図15に例示するように、正孔注入輸送層4の陽極3側に第2の正孔注入輸送層9が形成されていてもよく、また電子注入輸送層6の陰極7側に第2の電子注入輸送層10が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0197】
さらに本実施態様においては、第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよく、また電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は所定の関係を満たすことが好ましい。
【0198】
本実施態様においては、発光位置がとびとびに分離して複数存在している。従来、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層された有機EL素子(マルチフォトンエミッション)では、素子の厚みが厚くなるにつれて干渉効果が顕著になり、色調(すなわち、発光スペクトル形状)が大きく変化するという不具合があった。具体的には、発光スペクトル形状が変化したり、また元の発光ピーク位置の発光が顕著な干渉効果によって相殺され、結果的に大幅に発光効率が低下したり、発光の放射パターンの角度依存性が発生したりしてしまう。一般的には、発光位置から反射電極までの光学膜厚を制御することにより、干渉効果による不具合に対処することができる。
【0199】
しかしながら、光学膜厚の制御によって正面輝度を改善できたとしても、斜めからの輝度については光路長が変わるため干渉効果によって低下する傾向がある。
これに対し、本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0200】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子における他の構成について説明する。
【0201】
1.電荷発生層
本実施態様において、電荷発生層とは、所定の比抵抗を有する電気絶縁性の層であって、電圧印加時において素子の陰極方向に正孔を注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層をいう。
【0202】
電荷発生層は、比抵抗が1.0×102Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω・cm以上であることが好ましい。
【0203】
また、電荷発生層は、可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。可視光の透過率が上記範囲未満であると、生成した光が電荷発生層を通過する際に吸収され、複数個の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなる可能性があるからである。
【0204】
電荷発生層に用いられる材料としては、上記の比抵抗を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれも使用可能である。
【0205】
中でも、電荷発生層は、酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成されうる、異なる2種類の物質を含有するものであることが好ましい。この2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成され、この電荷移動錯体中のラジカルカチオン状態(正孔)とラジカルアニオン状態(電子)が、電圧印加時にそれぞれ陰極方向または陽極方向へ移動することにより、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入し、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入することができる。
【0206】
電荷発生層は、異なる2種類の物質それぞれからなる層が積層されたものであってもよく、異なる2種類の物質を含有する単一の層であってもよい。
【0207】
電荷発生層に用いられることなる2種類の物質としては、(a)正孔輸送性、すなわち電子供与性を有する有機化合物、および、(b)上記(a)の有機化合物との酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質、であることが好ましい。また、この(a)成分と(b)成分との間では酸化還元反応による電荷移動錯体が形成されていることが好ましい。
【0208】
なお、電荷発生層を構成する2種類の物質が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、分光学的分析手段によって確認することができる。具体的には、2種類の物質がそれぞれ単独では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、2種類の物質の混合膜では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークが示されれば、2種類の物質間での電子移動を明確に示唆する存在(もしくは証拠)として、2種類の物質間での酸化還元反応による電荷移動錯体の形成を確認することができる。
【0209】
(a)成分の有機化合物としては、例えば、アリールアミン化合物を挙げることができる。アリールアミン化合物は、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0210】
【化3】
【0211】
ここで、上記式において、Ar1,Ar2,Ar3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0212】
このようなアリールアミン化合物としては、例えば、特開2003−272860号公報に記載のアリールアミン化合物を用いることができる。
【0213】
また、(b)成分の物質は、例えば、V2O5、Re2O7、4F−TCNQ等が挙げられる。さらに、(b)成分の物質としては、正孔注入輸送層に用いられる材料であってもよい。
【0214】
なお、電荷発生層については、特開2003−272860号公報に詳しい。
【0215】
2.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また正孔注入輸送層と発光層とが順次積層されたものである。さらに、発光層は、ドープ領域とノンドープ領域とを有している。
【0216】
発光ユニットは、発光層と陰極または電荷発生層との間に形成された電子注入輸送層を有していてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0217】
発光ユニットにおいて、正孔注入輸送層の陽極側には第2の正孔注入輸送層が形成されていてもよく、さらに第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間には第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
また、発光ユニットにおいて、電子注入輸送層の陰極側には第2の電子注入輸送層が形成されていてもよく、さらに電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間には第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
なお、発光層、正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層、第3の正孔注入輸送層、電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、第3の電子注入輸送層、ならびに、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力については、上記第1実施態様に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0218】
本実施態様においては、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0219】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
【0220】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数種用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0221】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本実施態様の有機EL素子は高効率で長寿命であるため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0222】
IV.第4実施態様
本発明の有機EL素子の第4実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層が、上記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と上記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とするものである。
【0223】
本実施態様によれば、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0224】
本実施態様においては、発光層がノンドープ領域を有することにより、発光効率を向上させることが可能である。
また本実施態様においては、発光層および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係がIp2≧Ip3であり、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有するので、発光ドーパントによる正孔または電子のトラップを制御することができる。特に、正孔の注入が過剰である場合に有用であり、高効率な素子を得ることができる。
【0225】
さらに、発光層が電子注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、電子注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが電子注入を阻害することがなく、電子注入輸送層から発光層への電子注入を良好なものとすることができる。
一方、発光層が正孔注入輸送層側にノンドープ領域を有する場合には、正孔注入輸送層および発光層の界面で発光ドーパントが正孔注入を阻害することがなく、正孔注入輸送層から発光層への正孔注入を良好なものとすることができる。
【0226】
さらに本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0227】
また本実施態様においては、発光ユニットが、発光層および陽極の間に形成された正孔注入輸送層を有することが好ましい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0228】
本実施態様においては、正孔注入輸送層の陽極側に第2の正孔注入輸送層が形成されていてもよく、さらに第2の正孔注入輸送層および正孔注入輸送層の間に第3の正孔注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0229】
また本実施態様においては、電子注入輸送層の陰極側に第2の電子注入輸送層が形成されていてもよく、さらに電子注入輸送層および第2の電子注入輸送層の間に第3の電子注入輸送層が形成されていてもよい。この場合、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0230】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であり、また電荷発生層および発光ユニットについては、上記第3実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0231】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0232】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0233】
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを体積比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、1層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の正孔注入輸送層上に、TBADNとMoO3とを体積比9:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚100nmとなるように成膜し、2層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記2層目の正孔注入輸送層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように真空蒸着し、3層目の正孔注入輸送層を形成した。
【0234】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして下記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、上記3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで20nmの厚さに真空蒸着により成膜し、次いで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで50nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0235】
【化4】
【0236】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで20nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1層目の電子注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の電子注入輸送層上に、TBADNと、下記式(3)で表されるLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚12nmに成膜し、2層目の電子注入輸送層を形成した。
【0237】
【化5】
【0238】
最後に、上記2層目の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0239】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで50nmの厚さに真空蒸着により成膜し、次いで、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで20nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0240】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、次いで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで50nmの厚さに真空蒸着により成膜し、さらに、CBPを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0241】
[比較例1]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(2)で表されるIr(piq)3を用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで70nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0242】
[評価]
実施例1〜実施例3および比較例1の有機EL素子について、10mA/cm2の定電流密度にて駆動させ、発光効率および寿命を測定した。この際、初期輝度を1000cd/m2として、初期輝度が半減するまでの時間を寿命とした。結果を下記表1に示す。
【0243】
【表1】
【0244】
[参考]
実施例で用いた材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を下記表2に示す。
【0245】
【表2】
【0246】
[実施例4]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを体積比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、1層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の正孔注入輸送層上に、TBADNとMoO3とを体積比9:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚100nmとなるように成膜し、2層目の正孔注入輸送層を形成した。次に、上記2層目の正孔注入輸送層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように真空蒸着し、3層目の正孔注入輸送層を形成した。
【0247】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして下記式(4)で表される2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene(TBPe)と下記式(5)で表される2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t)と上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、上記3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のドープ領域を形成した。次に、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のドープ領域を形成した。次いで、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、ノンドープ領域を形成した。続いて、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、3つ目のドープ領域を形成した。これにより、発光層を形成した。
【0248】
【化6】
【0249】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1層目の電子注入輸送層を形成した。次に、上記1層目の電子注入輸送層上に、TBADNと、上記式(3)で表されるLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、2層目の電子注入輸送層を形成した。
【0250】
最後に、上記2層目の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0251】
[実施例5]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(4)で表されるTBPeと上記式(5)で表されるC545tと上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のドープ領域を形成した。次いで、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、ノンドープ領域を形成した。続いて、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のドープ領域を形成した。さらに、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、3つ目のドープ領域を形成した。これにより、発光層を形成した。
【0252】
[実施例6]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(4)で表されるTBPeと上記式(5)で表されるC545tと上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、まず、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のドープ領域を形成した。次いで、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、1つ目のノンドープ領域を形成した。続いて、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のドープ領域を形成した。さらに、CBPを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、2つ目のノンドープ領域を形成した。次いで、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで7.5nmの厚さに真空蒸着により成膜し、3つ目のドープ領域を形成した。これにより、発光層を形成した。
【0253】
[比較例2]
(有機EL素子の作製)
次のようにして発光層を形成した以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとして上記式(4)で表されるTBPeと上記式(5)で表されるC545tと上記式(2)で表されるIr(piq)3とを用いて、3層目の正孔注入輸送層上に、CBPおよびTBPeを、TBPe濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜した。次いで、CBPおよびC545tを、C545t濃度が2wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜した。さらに、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜した。これにより、発光層を形成した。
【0254】
[評価]
実施例4〜実施例6および比較例2の有機EL素子について、10mA/cm2の定電流密度にて駆動させ、外部量子収率および寿命を測定した。この際、初期輝度を1000cd/m2として、初期輝度が半減するまでの時間を寿命とした。結果を下記表3に示す。
【0255】
【表3】
【符号の説明】
【0256】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 正孔注入輸送層
5 … 発光層
6 … 電子注入輸送層
7 … 陰極
8、8a、8b … ノンドープ領域
9 … 第2の正孔注入輸送層
10 … 第2の電子注入輸送層
11 … 第3の正孔注入輸送層
12 … 第3の電子注入輸送層
15,15a,15b … ドープ領域
20a,20b,20c … 発光ユニット
21,21a,21b … 電荷発生層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、前記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、前記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と前記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、
前記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
陽極と、前記陽極上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、前記発光層上に形成された電子注入輸送層と、前記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、前記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と前記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域を有し、
前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層と前記陰極との間に電子注入輸送層が形成され、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記正孔注入輸送層および前記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層の前記正孔注入輸送層側に前記ノンドープ領域が設けられていることを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層の前記電子注入輸送層側に前記ノンドープ領域が設けられていることを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層が2箇所の前記ドープ領域を有し、前記2箇所のドープ領域の間に前記ノンドープ領域が配置されており、前記2箇所のドープ領域がそれぞれ異なる種類の発光ドーパントを含有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記ドープ領域が、2種類以上の前記発光ドーパントを含有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip1<Ip2であることを特徴とする請求項3から請求項9までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記発光層の構成材料の電子親和力をEa2、前記電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea2<Ea3であることを特徴とする請求項3から請求項10までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項4から請求項11までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、前記正孔注入輸送層上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、前記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と前記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域とを有し、
前記正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea1≧Ea2であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
陽極と、前記陽極上に形成され、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層と、前記発光層上に形成された電子注入輸送層と、前記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、前記発光ドーパントを含有する1箇所以上のドープ領域と前記発光ドーパントを含有しない1箇所以上のノンドープ領域を有し、
前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層と前記陰極との間に電子注入輸送層が形成され、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip2≧Ip3であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記正孔注入輸送層および前記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層の前記正孔注入輸送層側に前記ノンドープ領域が設けられていることを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層の前記電子注入輸送層側に前記ノンドープ領域が設けられていることを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層が2箇所の前記ドープ領域を有し、前記2箇所のドープ領域の間に前記ノンドープ領域が配置されており、前記2箇所のドープ領域がそれぞれ異なる種類の発光ドーパントを含有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記ドープ領域が、2種類以上の前記発光ドーパントを含有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip1<Ip2であることを特徴とする請求項3から請求項9までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記発光層の構成材料の電子親和力をEa2、前記電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea2<Ea3であることを特徴とする請求項3から請求項10までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項4から請求項11までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−199504(P2010−199504A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45839(P2009−45839)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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