有機エレクトロルミネッセンス装置
【課題】耐湿性能を向上した上で狭額縁化が可能な構造を持つ有機EL装置を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板上に、複数の第1電極52と、第1電極52の形成位置に対応した複数の開口部48aを有する隔壁構造体48と、複数の開口部48aのそれぞれに配置された有機発光層42と、隔壁構造体48及び有機発光層42を覆う第2電極54と、第2電極54を覆う封止膜あるいは封止部材と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置であって、第2電極54は、隔壁構造体48の端縁部48bを除く隔壁構造体48及び有機発光層42を含む第1領域54aと、第1領域54aと分離され、隔壁構造体48の端縁部48b及び隔壁構造体48の外周部48cの少なくとも一部を含む第2領域54bとを覆うように設けられている。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板上に、複数の第1電極52と、第1電極52の形成位置に対応した複数の開口部48aを有する隔壁構造体48と、複数の開口部48aのそれぞれに配置された有機発光層42と、隔壁構造体48及び有機発光層42を覆う第2電極54と、第2電極54を覆う封止膜あるいは封止部材と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置であって、第2電極54は、隔壁構造体48の端縁部48bを除く隔壁構造体48及び有機発光層42を含む第1領域54aと、第1領域54aと分離され、隔壁構造体48の端縁部48b及び隔壁構造体48の外周部48cの少なくとも一部を含む第2領域54bとを覆うように設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(Electro-Luminescence:以下、ELと略記する)装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の有機EL装置は、一対の電極間に有機発光層(有機材料からなる発光層)を有する積層体からなる有機EL素子が、ガラス基板等の基板上に形成されたものである。
この有機EL装置における有機EL素子の封止方法としては、上記積層体の上にエポキシ系の接着剤を塗布し、その上にガラス板を載せた後、接着剤を硬化させ、その接着剤を封止層として利用する方法が挙げられる。
【0003】
通常、画素隔壁層を全面覆うように無機材料からなる無機封止膜を設置している。無機封止膜は、スパッタリング法やCVD法により成膜している。この無機封止膜は、耐湿性を高めるため緻密でかつある程度の膜厚が必要になる。しかしながら、このような性質の膜を作製しようとすると膜自身の内部応力により、画素隔壁層端部でクラックを起こし、水分侵入を起こしてしまう。また、画素隔壁層はプロセスの容易さなどの関係上、感光性樹脂膜を用いることが一般的である。そのため、無機封止膜クラック部から侵入する水分が画素隔壁層に拡散し、発光エリアまで到達してしまう。
【0004】
その解決法として、この無機封止膜の上に有機緩衝層を設置し、さらに有機緩衝層上に無機封止膜を設置する構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この構造では、有機緩衝層を画素隔壁層よりも外に出し、かつ十分な低テーパー角度を必要とし、ある程度の大きさを持った額縁が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]基板上に、複数の第1電極と、該第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁構造体と、該複数の開口部のそれぞれに配置された有機発光層と、前記隔壁構造体及び前記有機発光層を覆う第2電極と、該第2電極を覆う封止膜あるいは封止部材と、を備えた有機EL装置であって、前記第2電極は、前記隔壁構造体の端縁部を除く該隔壁構造体および前記有機発光層を含む第1領域と、前記第1領域と分離され、前記隔壁構造体の端縁部及び該隔壁構造体の外周部の少なくとも一部を含む第2領域とを覆うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【0009】
これによれば、この第2電極を隔壁構造体の端縁部より外側に配置することにより、封止膜あるいは封止部材のクラック部から侵入してくる水分を第2電極で吸着し、隔壁構造体への侵入を遅延させる。さらに、第2電極の膜厚は通常数十nmであるため、額縁幅には寄与しないものである。これにより、耐湿性能を向上した上で狭額縁化が可能な構造を持つ有機EL装置を提供する。
【0010】
[適用例2]上記有機EL装置であって、前記第2電極は、アルカリ土類金属からなることを特徴とする有機EL装置。
【0011】
通常、トップエミッション型有機EL素子では、第2電極としてマグネシウム−銀合金等のアルカリ土類金属を用いた合金を使用することが多い。この特徴として、十分な電子注入性と低抵抗、高透過率を持つ材料である。また、アルカリ土類金属自体は非常に酸化され易い材料として知られている。そのため、ボトムエミッション型有機EL素子では、ゲッター材として用いられることも多い(例えば、CaO、SrO、BaOなど)。また、このアルカリ土類金属を用いた第2電極は通常、隔壁構造体と封止膜あるいは封止部材との間に存在している。
【0012】
これによれば、第2電極を隔壁構造体の端縁部より外側まで配置することにより、封止膜あるいは封止部材のクラック部から侵入してくる水分をアルカリ土類金属である第2電極で吸着し、隔壁構造体への侵入を遅延させる。これにより、有機EL装置の外部から内部への、水分や酸素のような酸素含有物質の移動を好適に抑制又は防止することができる。その結果、発光効率等の特性の低下が好適に抑制又は防止された有機発光層を備える有機EL装置となる。
【0013】
[適用例3]上記有機EL装置であって、前記第2電極の膜厚は、1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmであることを特徴とする有機EL装置。
【0014】
これによれば、第2電極を電子注入性を有しつつ、ゲッター材として使用するためには、第2電極の膜厚は少なくとも1nmが必要である。一方で、第2電極を極端に厚く形成すると可視光の透過率が低下し有機EL装置の表示品質を損なう虞がある。したがってこのような構成であれば、ゲッター材としての機能と、表示品質の向上と、を両立できる。
【0015】
[適用例4]上記有機EL装置であって、前記第1領域における前記第2電極は、前記第2領域における前記第2電極と同層に配置されていることを特徴とする有機EL装置。
【0016】
これによれば、ゲッター材を基板上に形成される第2電極と同層で構成することができ、パターニングのためのマスクの調整のみで、実現でき、製造が容易でかつ接続も容易である。例えば、第2電極をITOで構成した場合には、半田接合性も良好であり、また封止部を構成する封止樹脂との密着性も良好である。
【0017】
[適用例5]上記有機EL装置であって、前記第2領域における前記第2電極は、前記基板面内の全周縁部に渡って配置されていることを特徴とする有機EL装置。
【0018】
これによれば、全周縁部に形成されているのでゲッター材として脱酸素/脱水性能が向上する。
【0019】
[適用例6]上記有機EL装置であって、前記第2領域における前記第2電極は、電気的にフローティング状態であることを特徴とする有機EL装置。
【0020】
これによれば、隔壁構造体の端縁部の外側に伸びた第2領域の第2電極と隔壁構造体の端縁部を除く隔壁構造体及び有機発光層を覆う第1領域の第2電極とに分離することにより、隔壁構造体の端縁部の外側に伸びた第2領域の第2電極を電気的にフローティング状態にすることができる。基板端部には配線等が存在しており、第2電極を隔壁構造体の端縁部の外側に設置すると第2電極と配線部とが電気的にショートを引き起こしてしまう虞がある。そのため、第2電極の第1領域と第2領域とを分離することで有機発光層に電界をかけても配線部とショートを起こさない形態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る有機EL装置の各種素子、配線等の等価回路図。
【図2】第1の実施形態に係る有機EL装置の模式断面図。
【図3】図2の一部Aを拡大して示す断面図。
【図4】(a)〜(c)は第1の実施形態に係る有機EL装置の工程断面図。
【図5】(d)〜(f)は第1の実施形態に係る有機EL装置の工程断面図。
【図6】(g)〜(i)は第1の実施形態に係る有機EL装置の工程断面図。
【図7】(a)はプラズマ成膜法で用いるマスク部材の平面図、(b)は(a)のC−C’線で切ったマスク部材とマスク部材を説明するための有機EL装置の断面図。
【図8】第2の実施形態に係る有機EL装置の模式断面図。
【図9】図8の一部Bを拡大して示す断面図。
【図10】第3の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図11】第4の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図12】第5の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図13】第6の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図14】第7の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図15】第8の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を参照しながら本実施形態を説明する。なお、以下の各図面においては、各部の寸法の比率を実際のものとは適宜に異ならせている。以下の説明において、「上」及び「下」は図の紙面を基準とした表現であり、層の「厚さ」は断面図の紙面上下方向における層の長さを意味する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る有機EL装置2の各種素子、配線等の等価回路図である。有機EL装置2の表示領域20には、赤色光を発光する赤色有機EL素子22Rと、緑色光を発光する緑色有機EL素子22Gと、青色光を発光する青色有機EL素子22Bと、の3種類の有機EL素子22が規則的に配置されている。以下、発光色を区別しない場合には、単に有機EL素子22と称する。なお、後述するように、上記各有機EL素子22は、電気光学材料としての有機EL材料のみが異なっている。
【0024】
有機EL装置2は、有機EL素子22の発光を個別に制御して、多数の有機EL素子22を含む表示領域20において画像を形成するアクティブマトリックス型の装置である。表示領域20には、複数の走査線24と、走査線24と直交する複数の信号線26と、信号線26と平行に延びる複数の電源供給線28が形成されている。各々の有機EL素子22は、走査線24、信号線26、及び電源供給線28によって囲まれる方形の区画(画素領域とも呼ぶ)内に夫々形成されている。
【0025】
各々の画素領域には、走査線24を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(Thin Film Transistor)30と、スイッチング用TFT30を介して信号線26から供給される画像信号を保持する保持容量32と、保持容量32によって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT34と、駆動用TFT34を介して電源供給線28から駆動電流が流れ込む有機EL素子22が形成されている。有機EL素子22は、流れる電流の大きさに応じた輝度で発光する。
【0026】
表示領域20の周辺には、走査線駆動回路36及び信号線駆動回路38が形成されている。走査線駆動回路36は、図示しない外部回路より供給される各種信号に応じて、走査線24に走査信号を順次供給する。信号線駆動回路38は、信号線26に画像信号を供給する。
【0027】
走査線24が駆動されスイッチング用TFT30がオン状態になると、その時点の信号線26の電位が保持容量32に保持され、保持容量32の状態に応じて駆動用TFT34のレベルが決まる。そして、駆動用TFT34を介して電源供給線28から有機EL素子22に駆動電流が流れ、有機EL素子22は駆動電流の大きさに応じて発光する。個々の有機EL素子22は独立に制御され、駆動電流の大きさに応じて有機EL素子22R,22G,22Bにおける赤、緑、青の発光輝度を調節することで表示領域20にカラー画像が形成される。
【0028】
本実施形態に係る有機EL装置2は、後述の高分子系有機EL材料を用いるフルカラーパネルである。この有機EL装置2は、赤色光を発する赤色有機EL素子22R、緑色光を発する緑色有機EL素子22G、及び青色光を発する青色有機EL素子22Bを並置して、フルカラーの表示を可能としている。また、この有機EL装置2は、有機EL素子22からの光が基板とは反対の側から射出されるトップエミッション型である。
【0029】
図2は、本実施形態に係る有機EL装置2の模式断面図であり、図3は、図2の一部Aを拡大して示す断面図である。この有機EL装置2は平板状の基板40を備える。基板40は、ガラス又はプラスチックから形成され、その上面には複数の有機EL素子22が形成されている。有機EL素子22は、後述の高分子系有機EL材料を用いて形成された有機発光層42を有し、発光させるタイミングで電流供給を受けて有機発光層42を発光させる。有機EL素子22は、発光色により3種類に分類される。基板40上では、これら3種類の有機EL素子22が規則的に配列されている。
【0030】
基板40上には、複数の有機EL素子22に1対1で対応する複数の駆動用TFT34及び各種の配線(一部を除いて図示略)が形成されている。駆動用TFT34は、電気エネルギー及び制御信号を受けて自己に対応する有機EL素子22を駆動する。具体的には、有機EL素子22に電気エネルギーを供給する。また、基板40上には、複数の駆動用TFT34を覆うように、無機絶縁層44が形成されている。無機絶縁層44は、複数の駆動用TFT34及び各種の配線を絶縁するものであり、例えば珪素化合物から形成されている。
【0031】
無機絶縁層44上には、親液バンク層(隔壁構造体48)46が例えば膜厚50nm〜200nmの二酸化珪素で形成されており、親液バンク層46上には撥液バンク層(隔壁構造体48)50が例えば膜厚1μm〜3μmのアクリル樹脂又はポリイミドから形成されている。親液バンク層46及び撥液バンク層50は、陽極(第1電極)52の形成位置に対応した複数の開口部48aを画定し、隔壁構造体48を構成している。無機絶縁層44及び隔壁構造体48は、凹部を画定しており、この凹部の底部を有機EL素子22が占めている。有機発光層42は複数の開口部48aのそれぞれに配置されている。なお、単色で用いる発光装置及び電子機器の場合は、塗り分けが必要でないため撥液バンク層50を除いた構造として、有機発光層42を陽極52と親液バンク層46に跨ってスピンコートやスリットコートなどによって形成してもよい。
【0032】
有機EL素子22は、有機発光層42を挟む陽極52及び共通陰極層(第2電極)54を有する。陽極52及び共通陰極層54は、有機発光層42に正孔及び電子を注入するための電極であり、供給された電気エネルギーにより電界を発生させる。陽極52は、無機絶縁層44上に例えば仕事関数が5eV以上の正孔注入性の高いITOなどから形成された電極であり、上記の配線により対応する駆動用TFT34に接続されている。共通陰極層54は、表示領域20の外周に沿って設けられたコンタクト領域21において、共通陰極用配線35に電気的に接続されている。
なお、コンタクト領域21は表示領域20の外側に設けられていればよく、コンタクト領域21に設けられた共通陰極層54と共通陰極用配線35とを電気的に接続するコンタクトホール44aおよび配線35aは、点状でも線状であってもよい。
【0033】
共通陰極層54は、アルカリ土類金属を用いた合金で形成されている。例えば、膜厚1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmのマグネシウム−銀合金から形成されている。これにより、共通陰極層54を隔壁構造体48の端縁部48bより外側まで配置することにより、陰極保護層56、有機緩衝層58、及びガスバリア層60のクラック部から侵入してくる水分をアルカリ土類金属である共通陰極層54で吸着し、隔壁構造体48への侵入を遅延させる。また、有機EL装置2の外部から内部への、水分や酸素のような酸素含有物質の移動を好適に抑制又は防止することができる。その結果、発光効率等の特性の低下が好適に抑制又は防止される。さらに、共通陰極層54を電子注入性を有しつつ、ゲッター材として使用するためには、共通陰極層54の膜厚は少なくとも1nmが必要である。一方で、共通陰極層54を極端に厚く形成すると可視光の透過率が低下し有機EL装置2の表示品質を損なう虞がある。したがってこのような構成であれば、ゲッター材としての機能と、表示品質の向上と、を両立できる。共通陰極層54に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層42で発光する光を共通陰極層54側から射出させるトップエミッション型を採用することができる。
【0034】
図3に示すように、共通陰極層54は、平面視で、第1領域54aと第2領域54bとに分離されている。第1領域54aにおける共通陰極層54は、隔壁構造体48の端縁部48bを除く隔壁構造体48及び有機発光層42を覆っている。第2領域54bにおける共通陰極層54は、隔壁構造体48の端縁部48b及び隔壁構造体48の外周部48cの少なくとも一部を覆っている。第1領域54aにおける共通陰極層54は、有機発光層42及び撥液バンク層50上に形成されて複数の有機EL素子22に跨る共通の電極として機能する層であり、例えば、有機発光層42へ電子を注入し易くするための電子注入バッファー層と、電子注入バッファー層上にITOやアルミニウムなどの金属から形成された電気抵抗の小さい層とを有する。電子注入バッファー層は、例えばフッ化リチウムやカルシウム金属、マグネシウム−銀合金から形成されている。
【0035】
なお、第1領域54aにおける共通陰極層54と第2領域54bにおける共通陰極層54とは、同層で配置されている。これにより、ゲッター材を基板40上に形成される共通陰極層54と同層で構成することができ、パターニングのためのマスクの調整のみで、実現でき、製造が容易でかつ接続も容易である。例えば、共通陰極層54をITOで構成した場合には、半田接合性も良好であり、また封止部を構成する封止樹脂との密着性も良好である。
第2領域54bにおける共通陰極層54は、基板40面内の全周縁部に渡って配置されている。これにより、アルカリ土類金属の合金である共通陰極層54が第1領域54aの全周縁部に形成されているのでゲッター材の機能を果たし脱酸素/脱水性能が向上する。
第2領域54bにおける共通陰極層54は、電気的にフローティング状態であってもよい。これによれば、隔壁構造体48の端縁部48bの外側に伸びた第2領域54bの共通陰極層54と、隔壁構造体48の端縁部48bを除く隔壁構造体48及び有機発光層42を覆う第1領域54aの共通陰極層54とに分離することにより、隔壁構造体48の端縁部48bの外側に伸びた第2領域54bの共通陰極層54を電気的にフローティング状態にすることができる。基板40端部には配線等が存在しており、共通陰極層54を隔壁構造体48の端縁部48bの外側に設置すると共通陰極層54と配線部とが電気的にショートを引き起こしてしまう虞がある。そのため、共通陰極層54の第1領域54aと第2領域54bとを分離することで有機発光層42に電界をかけても配線部とショートを起こさない形態にすることができる。
【0036】
有機発光層42は、電界により注入された正孔と電子との再結合により励起して発光する発光層を含む。発光層以外の層をも含むように多層からなる有機発光層42を構成することも可能であり、電気抵抗を少なくするため全ての層が300nm以下の薄膜になることが好ましい。発光層以外の層としては、正孔を注入し易くするための正孔注入層や、注入された正孔を発光層へ輸送し易くするための正孔輸送層、電子を注入し易くするための電子注入層、注入された電子を発光層へ輸送し易くするための電子輸送層などの、上記の再結合に寄与する層がある。
【0037】
発光層は高分子系有機EL材料から形成されている。高分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に高いものである。有機EL素子22を形成している高分子系有機EL材料は、有機EL素子22の種類(発光色)に応じた物質となっている。発光層における再結合に寄与する層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。これらの材料を溶媒で希釈してインクジェット法やその他印刷法によってパターン塗布する場合、撥液バンク層50に対する有機発光層42の材料が撥液バンク層50表面をはじくため、画素ごとに各色が塗り分けられる。単色で塗り分けが必要ない場合は、撥液バンク層50を除くことで、スピンコートやスリットコートなどによって有機発光層42を親液バンク層46と陽極52の上を跨いで形成しても、画素の分離ができる。親液バンク層46は、凹部の底の陽極52の端部まで有機発光層42の膜厚を安定化させるもので、上部には有機発光層42が形成される。例えば、膜厚50nm〜200nmの二酸化珪素から形成されている。
【0038】
無機絶縁層44及び共通陰極層54上には、共通陰極層54を覆うように陰極保護層(封止膜)56が形成されている。陰極保護層56上には、隔壁構造体48による凹凸を平坦化するため複数の有機EL素子22の全部に重なるように有機緩衝層(封止膜)58が形成されている。陰極保護層56及び有機緩衝層58上には、有機緩衝層58の終端部まで完全に覆うようにガスバリア層(封止膜)60が形成されている。
【0039】
ガスバリア層60は、有機緩衝層58及び複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与するものであり、有機緩衝層58に密着している。ガスバリア層60は、光透過性、ガスバリア性、及び耐水性に優れた材料から形成されている。このような材料としては珪素酸窒化物、珪素窒化物、SiNHなどの窒素を含む珪素化合物が好ましい。ガスバリア層60の形成方法として、ICPやECRプラズマ、プラズマガンで発生させた高密度プラズマを用いる、スパッタやイオンプレーティング、CVD法などの高密度プラズマ成膜法を用いることで、低温かつ高密度で高品位の無機化合物の薄膜が形成される。ガスバリア層60の厚さは、複数の有機EL素子22の封止性の度合い、ガスバリア層60にクラックが生じたりガスバリア層60が剥離したりする可能性、及び製造コストを勘案して定められている。具体的には、300nm〜800nmである。
【0040】
有機緩衝層58は、ガスバリア層60の平坦性及び密着性の向上と、ガスバリア層60に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。有機緩衝層58は、後述の粘度及び組成の有機緩衝層材料(液体)を減圧雰囲気下のスクリーン印刷法を用いて、スクリーンメッシュとスキージを用いて隔壁構造体48による凹凸を膜厚を制御して有機緩衝層58の上面が略平坦化するように塗布し、その後の硬化によって形成される。
【0041】
陰極保護層56は、共通陰極層54の保護と、硬化前の有機緩衝層58の濡れ性及び接着性の向上とを目的として設けられており、光透過性、密着性、及び耐水性に優れた珪素酸窒化物などの珪素化合物から形成されている。上記の共通陰極層54は、特にトップエミッション型の場合に透明性を考慮して共通陰極層54の膜厚が薄くなるためピンホール等の発生頻度が増加する。そのため、有機緩衝層58を形成するまでの輸送時に付着する微量の水分や、硬化前の有機緩衝層58の材料の浸透による有機発光層42へのダメージがダークスポットとなるため、これらを防ぐ役割を持つ。このため、陰極保護層56の厚さは100nm以上となっている。また、共通陰極層54の上面には、撥液バンク層50と有機EL素子22との段差による凹凸があるため、陰極保護層56において応力集中が生じる。この応力集中による破損を防ぐために、陰極保護層56の厚さは200nm以下となっている。
【0042】
図2に示すように、基板40上には、無機絶縁層44、陰極保護層56、ガスバリア層60を覆うように、接着層(封止膜)62が形成されている。接着層62上には、接着層62の全部に重ねて表面保護基板(封止部材)64が固定されている。表面保護基板64の下面全面は接着層62に接している。接着層62は表面保護基板64を基板40に接着するものであり、光透過性に優れた樹脂接着剤から形成されている。この樹脂接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などがある。表面保護基板64は、光学特性及びガスバリア層60の保護を目的として設けられたものであり、ガラス又は光透過性に優れたプラスチックから形成されている。このようなプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどがある。表面保護基板64には、カラーフィルターの機能や、紫外線を遮断/吸収する機能、外光の反射を防止する機能、放熱する機能などを持たせてもよい。また、コスト面を考慮して、カラーフィルターなど光学的な機能を必要としない場合などには、接着層62のみの1層とし、表面保護基板64が存在しない構造でもよい。
【0043】
次に、本実施形態に係る有機EL装置2の製造について図面を参照しながら説明する。図4〜図6は、本実施形態に係る有機EL装置2の工程断面図である。図7(a)は本実施形態に係るマスク部材の平面図、同図(b)は同図(a)のC−C’線で切ったマスク部材とマスク部材を説明するための有機EL装置の断面図である。
本実施形態に係る有機EL装置2を製造するには、まず、図4(a)に示すように、基板40上に駆動用TFT34及び各種の配線と無機絶縁層44を形成する。次に、図4(b)に示すように、無機絶縁層44上にアルミニウム−銅合金材料などの光反射性の反射層と、透明なITOをスパッタ法により成膜して複数の画素となる陽極52を形成する。これにより、点灯制御を行う駆動用TFT34と接続される。また、同時に画素領域の外側においてコンタクトホール44aおよび配線35aを形成する。次に、無機絶縁層44上に、陽極52および配線35aを囲むように親液バンク層46を形成する。次に、図4(c)に示すように、親液バンク層46上に例えばポリイミドやアクリル樹脂などの有機化合物からなる撥液バンク層50を形成する。次に、基板40上から有機物系の異物除去とITO表面の濡れ性を向上させるため、プラズマ洗浄などの洗浄処理を行う。
【0044】
次に、図5(d)に示すように、有機発光層42を陽極52上に形成する。この形成では、材料が塗布され、陽極52及び親液バンク層46に接して平坦に広がる。したがって、厚さが均一の平坦な有機発光層42が形成される。有機発光層42に含まれる発光層の形成では、赤色光を発する有機EL素子22を構成することになる陽極52上には、赤色光を発する有機発光層42を形成するための高分子系有機EL材料を塗布する。これと同様のことを、緑色光を発する有機EL素子22及び青色光を発する有機EL素子22についても行う。塗布方法としては、スピンコートやスリットコート法を用いてもよいし、3色を塗り分ける場合にはインクジェット法やスクリーン印刷法を用いて画素ごとにパターン塗布をすると材料効率の良い塗布ができる。有機発光層42が複数の層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。なお、コンタクト領域21における配線35a上には有機発光層42を形成しない。
【0045】
次に、図5(e)に示すように、複数の有機EL素子22における共通の電極、すなわち共通陰極層54を形成する。共通陰極層54は、アルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金で形成する。例えば、まず、図7(a)および(b)に示すマスク部材66を用いて、加熱ボート(坩堝)を用いた真空蒸着法によりフッ化リチウムなどの電子注入性の高い金属、金属化合物、または合金を、成膜し、次に、真空蒸着法によりアルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金などの仕事関数が低い金属又は合金の薄膜を成膜する。膜厚を薄くすることで導電性を確保しつつ透光性をできる限り高くして、反射性は抑制している。つまり、有機発光層42で発光した光のうち、上方(基板40の反対の方向)に向かう光をできるだけ直接射出して、トップエミッション型に対応している。
基板40の外周側に位置するコンタクト領域21では、陽極52と同層にかつ同じ材料で形成された配線35a上には有機発光層42が形成されていない。また、配線35aは、基板40上に形成された共通陰極用配線35と電気的に接続されているので、配線35aを覆うように共通陰極層54を形成することにより、共通陰極用配線35と共通陰極層54とがコンタクトホール44aおよび配線35aを介して電気的に接続される。
【0046】
本実施形態における有機EL素子22は、共通陰極層54に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層42で発光する光を共通陰極層54側から射出させるトップエミッション型を採用したものである。
なお、ここでは、共通陰極層54としてマグネシウム−銀合金を用いたが、水及び酸素と反応して水酸化物及び酸化物を生成する材料からなる部材などの同様の機能を果たすものであれば、これに限らない。例えば、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba等)又はアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs等)が挙げられる。アルカリ土類金属又はアルカリ金属からなる部材を基板上に形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、又はCVD法等が挙げられる。
又は、水や酸素分子を物理的に取り込む、又は吸着させる材料でもよい。例えば、ゼオライト構造をとるモレキュラーシーブや、シリカゲルなどが挙げられる。
なお、第2領域54bにおける共通陰極層54(図3参照)の形成は、第1領域54aにおける共通陰極層54(図3参照)の形成と同時に行ってもよい。この場合、共通陰極層54の第2領域54bの膜厚は共通陰極層54の第1領域54aの膜厚よりも厚く形成するため、まず、共通陰極層54の第2領域54b及び共通陰極層54の第1領域54aに対応させたマスク部材66を用いて成膜を開始し、共通陰極層54の第1領域54aのカルシウム薄膜の厚さ分の成膜時間が経過した時点でマスク部材66を共通陰極層54の第2領域54b用のマスク(図示せず)に変え、さらに共通陰極層54の第2領域54bの形成を行ってもよい。
【0047】
(マスク部材)
マスク部材66は、図7(a)に示すように、所定パターンからなる複数の開口部68と、被蒸着基板に配置する際に用いるアライメントマーク70とを備えている。各々のマスク部材66は、1つの有機EL装置2の基板の大きさと略等しくなるように形成されている。マスク部材66は、面方位が(110)であるシリコン(単結晶シリコン)により形成されている。これにより、熱膨張係数差が小さくなり、熱膨張や撓み等によるマスク部材66の変形を回避することができる。
【0048】
開口部68は、蒸着源からの蒸着物が通過する領域であり、被蒸着基板に形成するパターン形状に対応して形成されている。詳細には、開口部68は、マスク部材66の厚さ方向に貫通して形成されるとともに、マスク部材66の中央に矩形状に、及び四方の端辺に沿ってストライプ状に複数形成されている。例えば、図7(a)に示すように、マスク部材66の中央に矩形状に、及び四方の端辺に沿ってストライプ状に4箇所形成されている。開口部68の中央の矩形と、ストライプとの間は、図7(b)に示すように、最外周の隔壁構造体48に位置するように形成され、配置されている。
また、アライメントマーク70はマスク部材66の端部の非開口部領域に2箇所配置している。このように配置することで、被蒸着基板との高精度な位置合わせが可能となっている。図7(a)ではアライメントマーク70をマスク部材66の一辺に沿った端部に配置しているが、対角となる端部に配置してもよい。対角となるように配置することで、より高い精度での位置合わせが可能となる。また、アライメントマーク70は、上記開口部68と同様に、マスク部材66の厚さ方向に貫通する。このアライメントマーク70は、上記開口部68と同一工程により形成される。なお、アライメントマーク70を貫通穴により形成する場合には、上記開口部68がアライメントマーク70の機能を兼ね備えることも可能である。つまり、複数の開口部68の一部をアライメントマーク70とすることも可能である。
【0049】
次に、図5(f)に示すように、酸素プラズマ処理を行い、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法により、共通陰極層54を覆うように、珪素酸窒化物からなる陰極保護層56を形成する。酸素プラズマ処理を行うのは、共通陰極層54と陰極保護層56との密着性を向上させるためである。
【0050】
次に、図6(g)に示すように、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、陰極保護層56上に、粘度が室温(25℃)で2000mPa・s〜10000mPa・sの液状の有機緩衝層材料を印刷し、窒素ガスを導入して大気圧に戻した後、硬化室に搬送して60℃〜100℃の範囲で基板ごと加熱して完全硬化させることにより、有機緩衝層58を形成する。この形成を減圧雰囲気下で行うのは、塗布時に発生する気泡の除去とできるだけ水分を除去するためである。共通陰極層54や陰極保護層56の形成と違って、100Pa〜5000Paという比較的低い真空度で塗布が行われるが、窒素で置換することによって露点は−60℃以下になるまで水分が除去されている。粘度が室温で2000mPa・s以上の有機緩衝層材料を用いるのは、有機緩衝層材料が陰極保護層56を透過して共通陰極層54や有機発光層42に滲入する事態を避けるためである。
【0051】
有機緩衝層材料の主成分(例えば70重量%以上)としては、硬化前には流動性に優れかつ溶媒のような揮発成分を持たない有機化合物を用いることが可能であり、本実施形態では、エポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー(分子量1000以下)/オリゴマー(分子量1000〜3000)を用いている。具体的には、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどを単独で又は組み合わせて用いることが可能である。
【0052】
有機緩衝層材料の副成分としては、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤がある。この硬化剤としては、電気絶縁性に優れかつ強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものがよく、光透過性に優れかつ硬化のばらつきの少ない付加重合型のものがよい。具体的には、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物又はそれらの重合物などの酸無水物系硬化剤が好適である。その理由の第1は、酸無水物系硬化剤の硬化は60℃〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜は珪素酸窒化物との密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となるからである。第2は、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として芳香族アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで低温かつ短時間での硬化が可能となるからでもある。第3は、カチオン放出タイプの光重合開始剤に比較して、急激な硬化収縮による各部の損傷を招き難いからである。
【0053】
有機緩衝層材料の他の副成分としては、共通陰極層54やガスバリア層60との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物などの捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が混入されていてもよい。これらの硬化前の粘度は、室温で1000mPa・s〜10000mPa・sが好ましい。
【0054】
本実施形態で用いる主成分材料及び副成分材料の硬化前の粘度は、いずれも室温で1000mPa・s以上が好ましい。これは、硬化前の材料が有機発光層42に滲入してしまう可能性を抑制するためである。これらの材料の粘度は、この抑制だけでなく、必要なパターン精度での成膜を実現できること、かつ所望の厚さの膜を形成できること、かつ形成した膜内に気泡が生じないことなどをも考慮して定められるべきである。
【0055】
次に、図6(h)に示すように、再び減圧雰囲気にして、酸素プラズマ処理を行い、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法により、有機緩衝層58の終端部まで完全に覆うようなより広い範囲でガスバリア層60を形成する。酸素プラズマ処理を行うのは、有機緩衝層58とガスバリア層60との密着性を向上させるためである。
【0056】
次に、図6(i)に示すように、無機絶縁層44、陰極保護層56、及びガスバリア層60を覆うように光透過性に優れた樹脂接着剤を塗布し、この樹脂接着剤に表面保護基板64の下面全面を接触させ、この樹脂接着剤を硬化させて接着層62を形成する。なお、樹脂接着剤に代えて液状の接着剤を用いるようにしてもよいし、予めシート状に形成された接着剤を無機絶縁層44と表面保護基板64とで挟んで圧迫することにより接着する両者を接着するようにしてもよい。
【0057】
本実施形態に係る有機EL装置2によれば、共通陰極層54を隔壁構造体48の端縁部48bより外側に配置することにより、陰極保護層56、有機緩衝層58、及びガスバリア層60のクラック部から侵入してくる水分を共通陰極層54で吸着し、隔壁構造体48への侵入を遅延させる。さらに、共通陰極層54の膜厚は通常数十nmであるため、額縁幅には寄与しないものである。これにより、耐湿性能を向上した上で狭額縁化が可能になる。
【0058】
(第2の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置の共通陰極層の構成は、第1の実施形態における共通陰極層の構成と同様である。ただし、本実施形態に係る有機EL装置は、後述の低分子系有機EL材料を用いるフルカラーパネルであり、白色光を発する有機EL素子及びカラーフィルターを用いて、フルカラーの表示を可能としている。
【0059】
図8は、本実施形態に係る有機EL装置4の断面図であり、図9は、図8の一部Bを拡大して示す断面図である。この有機EL装置4は平板状の基板72を備える。基板72は、ガラス又はプラスチックから形成され、その上面には複数の有機EL素子74が形成されている。有機EL素子74は、白色光を発する素子であり、後述の低分子系有機EL材料を用いて形成された有機発光層76を有し、電気エネルギーの供給を受けて有機発光層76を発光させる。
【0060】
基板72上には、複数の有機EL素子74ごとに対応する複数のTFT78及び各種の配線(図示略)が形成されている。TFT78は、第1の実施形態における駆動用TFT34と同様に、自己に対応する有機EL素子74を駆動する。また、基板72上には、複数のTFT78を覆うように、無機絶縁層80が形成されている。無機絶縁層80は、複数のTFT78及び各種の配線を絶縁するものであり、例えば珪素窒化物から形成されている。
【0061】
配線やTFTによる段差を無くす平坦化層82上には、平坦化層82の凹部から立ち上がる画素隔壁絶縁層84が、例えばポリイミドやアクリル樹脂などの有機化合物から形成されている。画素隔壁絶縁層84の上端は平坦化層82の凸部よりも高い位置にあり、平坦化層82及び画素隔壁絶縁層84は凹部を画定している。平坦化層82内には、有機EL素子74から陽極(第1電極)86を通ってきた光を反射する金属反射層88が光反射性の金属から形成されている。この凹部の底部の金属反射層88上には、腐食を防ぐための無機絶縁層(図示せず)が設けられ、さらに仕事関数の高いITOからなる陽極86が占めている。平坦化層82及び画素隔壁絶縁層84は、複数の開口部84aを画定し、隔壁構造体を構成している。
【0062】
有機EL素子74は、有機発光層76を挟む陽極86及び共通陰極層(第2電極)90を有する。陽極86及び共通陰極層90は、有機発光層76に正孔及び電子を注入するための電極として機能する。陽極86は、平坦化層82上に例えば薄いアルミニウムなどの金属やITOから形成された透光性の電極であり、平坦化層82と画素隔壁絶縁層84との隙間を通って対応するTFT78に接続されている。共通陰極層90は、コンタクト領域73において、平坦化層82と画素隔壁絶縁層84との隙間を通って共通陰極用配線79に電気的に接続されている。
【0063】
共通陰極層90は、アルカリ土類金属を用いた合金で形成されている。例えば、膜厚1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmのマグネシウム−銀合金から形成されている。これにより、共通陰極層90を画素隔壁絶縁層84の端縁部84bより外側まで配置することにより、陰極保護層92、有機緩衝層94、及びガスバリア層60のクラック部から侵入してくる水分をアルカリ土類金属である共通陰極層90で吸着し、隔壁構造体への侵入を遅延させる。また、有機EL装置4の外部から内部への、水分や酸素のような酸素含有物質の移動を好適に抑制又は防止することができる。その結果、発光効率等の特性の低下が好適に抑制又は防止される。さらに、共通陰極層90を電子注入性を有しつつ、ゲッター材として使用するためには、共通陰極層90の膜厚は少なくとも1nmが必要である。一方で、共通陰極層90を極端に厚く形成すると可視光の透過率が低下し有機EL装置4の表示品質を損なう虞がある。したがってこのような構成であれば、ゲッター材としての機能と、表示品質の向上と、を両立できる。共通陰極層90に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層76で発光する光を共通陰極層90側から射出させるトップエミッション型を採用することができる。
【0064】
図9に示すように、共通陰極層90は、平面視で、第1領域90aと第2領域90bとに分離されている。第1領域90aにおける共通陰極層90は、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bから外側部分を除く隔壁構造体及び有機発光層76を覆っている。第2領域90bにおける共通陰極層90は、画素隔壁絶縁層84の端縁部84b及び隔壁構造体の外周部82bの少なくとも一部を覆っている。第1領域90aにおける共通陰極層90は、有機発光層76及び画素隔壁絶縁層84上に形成されて複数の有機EL素子74に共通の電極として機能する層であり、例えば、有機発光層76へ電子を注入し易くするための電子注入バッファー層と、電子注入バッファー層上に透明なITO層又は非画素領域にパターン形成するアルミニウム層などから形成された電気抵抗の低い層とを有する。電子注入バッファー層は、例えばフッ化リチウムやマグネシウム−銀合金から形成されている。
なお、第1領域90aにおける共通陰極層90と第2領域90bにおける共通陰極層90とは、同層で配置されている。これにより、ゲッター材を基板72上に形成される共通陰極層90と同層で構成することができ、パターニングのためのマスクの調整のみで、実現でき、製造が容易でかつ接続も容易である。例えば、共通陰極層90をITOで構成した場合には、半田接合性も良好であり、また封止部を構成する封止樹脂との密着性も良好である。
第2領域90bにおける共通陰極層90は、基板72面内の全周部に渡って配置されている。これにより、アルカリ土類金属である共通陰極層90が第1領域90aの全周縁部に形成されているのでゲッター材として機能し、脱酸素/脱水性能が向上する。
第2領域90bにおける共通陰極層90は、電気的にフローティング状態であってもよい。これによれば、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bの外側に伸びた第2領域90bの共通陰極層90と、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bから外側部分を除く隔壁構造体及び有機発光層76を覆う第1領域90aの共通陰極層90とに分離することにより、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bの外側に伸びた第2領域90bの共通陰極層90を電気的にフローティング状態にすることができる。基板72端部には配線等が存在しており、共通陰極層90を画素隔壁絶縁層84の端縁部84bの外側に設置すると共通陰極層90と配線部とが電気的にショートを引き起こしてしまう虞がある。そのため、共通陰極層90の第1領域90aと第2領域90bとを分離することで有機発光層76に電界をかけても配線部とショートを起こさない形態にすることができる。
【0065】
有機発光層76は、第1の実施形態における有機発光層42に相当する。後者が前者と異なるのは、複数の有機EL素子74に共通している点と、発光層が低分子系有機EL材料から形成されている点である。低分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に低いものである。例えば、スチリルアミン系のホストにアントラセン系のドーパントを色素ドーピングしたものや、スチリルアミン系のホストにルブレン系のドーパントを色素ドーピングしたものが挙げられる。有機発光層76に、発光層における再結合に寄与する他の層が含まれる場合、他の層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。例えば、正孔注入層の材料としてはトリアリールアミン(ATP)多量体が挙げられ、正孔輸送層の材料としてはTPD(トリフェニルジアミン)系化合物が挙げられ、電子注入層の材料としてはアルミニウムキノリノール錯体が挙げられる。
【0066】
無機絶縁層80及び共通陰極層90上には、共通陰極層90及び平坦化層82を覆うように陰極保護層(封止膜)92が形成されている。陰極保護層92上には、複数の有機EL素子74及び画素隔壁絶縁層84、平坦化層82の全部に重なるように有機緩衝層(封止膜)94が形成されている。陰極保護層92及び有機緩衝層94上には、有機緩衝層94を覆うようにガスバリア層60が形成されている。
【0067】
図8に示すように、基板72上には、無機絶縁層80、陰極保護層92、及びガスバリア層60を覆うように、接着層62が形成されている。接着層62上には、接着層62の全部に重ねてカラーフィルター基板96が固定されている。カラーフィルター基板96の下面全面は接着層62に接している。カラーフィルター基板96は、有機EL素子74からの光から赤色光、緑色光、及び青色光を取り出すためのものであり、光透過性の低いブラックマトリックス層98と、この層に形成された開口を塞ぐフィルター層100とを有する。ブラックマトリックス層98には複数の開口があり、フィルター層100には、赤色光だけを通過させるもの、緑色光だけを通過させるもの、及び青色光だけを通過させるもの3種類がある。各フィルター層100は有機EL素子74に重なっており、重なっている有機EL素子74からの光の赤色光成分、緑色光成分又は青色光成分を透過させる。カラーフィルター基板96は、ガスバリア層60の保護をも目的としており、ブラックマトリックス層98及びフィルター層100以外の部分は、ガラス又は光透過性に優れたプラスチックから形成されている。このようなプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどがある。カラーフィルター基板96には、紫外線を遮断/吸収する機能、外光の反射を防止する機能、フィンにより放熱する機能などを持たせてもよい。
【0068】
本実施形態に係る有機EL装置4を製造するには、まず、基板72上にTFT78及び各種の配線と無機絶縁層80を形成する。次に、無機絶縁層80上に平坦化層82及び金属反射層88を形成する。次に、金属反射層88の腐食を防ぐため表面及びその周辺部を無機絶縁層で被覆した後、複数の陽極86を形成する。これにより、TFT78と陽極86とが1対1で接続される。陽極86の形成方法としては、陽極86の材料に適した公知の方法を採用可能である。次に、陽極86の一部と平坦化層82との上に、例えばポリイミドをパターン形成して画素隔壁絶縁層84を形成する。次に、基板72上から有機物系の異物の除去や仕事関数を上げるために、プラズマ洗浄などの洗浄処理を行う。
【0069】
次に、露出している陽極86上に、複数の有機EL素子74に共通の有機発光層76を形成する。この形成では、発光層が低分子系有機EL材料で成膜される。有機発光層76の形成方法は、加熱ボートを用いた真空蒸着法である。これは、有機発光層76が発光層のみからなる場合であっても、複数の層からなる場合であっても同様である。有機発光層76が複数の層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。
【0070】
次に、複数の有機EL素子74に共通の電極、すなわち共通陰極層90を形成する。共通陰極層90は、アルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金で形成する。例えば、まず、図7(a)に示すマスク部材66を用いて、加熱ボート(坩堝)を用いた真空蒸着法によりフッ化リチウムなどの電子注入性の高い金属又は合金を、成膜し、次に、真空蒸着法によりアルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金などの仕事関数が低い金属又は合金の薄膜を成膜する。膜厚を薄くすることで導電性を確保しつつ透光性をできる限り高くして、反射性は抑制している。つまり、有機発光層76で発光した光のうち、上方(基板72の反対の方向)に向かう光をできるだけ直接射出して、トップエミッション型に対応している。
本実施形態における有機EL素子74は、共通陰極層90に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層76で発光する光を共通陰極層90側から射出させるトップエミッション型を採用したものである。
【0071】
なお、ここでは、共通陰極層90としてマグネシウム−銀合金を用いたが、水及び酸素と反応して水酸化物及び酸化物を生成する材料からなる部材などの同様の機能を果たすものであれば、これに限らない。例えば、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba等)又はアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs等)が挙げられる。アルカリ土類金属又はアルカリ金属からなる部材を基板上に形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、又はCVD法等が挙げられる。
又は、水や酸素分子を物理的に取り込む、又は吸着させる材料でもよい。例えば、ゼオライト構造をとるモレキュラーシーブや、シリカゲルなどが挙げられる。
なお、第2領域90bにおける共通陰極層90(図9参照)の形成は、第1領域90aにおける共通陰極層90(図9参照)の形成と同時に行ってもよい。この場合、共通陰極層90の第2領域90bの膜厚は共通陰極層90の第1領域90aの膜厚よりも厚く形成するため、まず、共通陰極層90の第2領域90b及び共通陰極層90の第1領域90aに対応させたマスク部材66(図7(a)参照)を用いて成膜を開始し、共通陰極層90の第1領域90aのカルシウム薄膜の厚さ分の成膜時間が経過した時点でマスク部材66を共通陰極層90の第2領域90b用のマスク(図示せず)に変え、さらに第2領域90bにおける共通陰極層90の形成を行ってもよい。
【0072】
次に、酸素プラズマ処理を行う。次に、共通陰極層90を覆うように陰極保護層92を形成する。次に、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、陰極保護層92上に有機緩衝層94を形成する。次に、酸素プラズマ処理を行い、有機緩衝層94を覆うようにガスバリア層60を形成する。
【0073】
次に、無機絶縁層80、陰極保護層92、及びガスバリア層60を覆うように光透過性に優れた樹脂接着剤を塗布し、この樹脂接着剤にカラーフィルター基板96の下面全面を接触させ、この樹脂接着剤を硬化させて接着層62を形成する。この硬化は、カラーフィルター基板96の複数のフィルター層100と複数の有機EL素子74とが1対1で重なる位置で行われる。カラーフィルター基板96の接着のバリエーションとしては、第1の実施形態における表面保護基板64の接着のバリエーションと同様のものがある。
【0074】
本実施形態に係る有機EL装置4によれば、第1の実施形態に係る有機EL装置2により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0075】
(第3の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置は、有機緩衝層の構成を除いて第1の実施形態に係る有機EL装置2と同様である。
図10は、本実施形態に係る有機EL装置6の一部を拡大して示す断面図である。この有機EL装置6において、陰極保護層56上には、画素隔壁による凹凸を平坦化するため複数の有機EL素子22の全部に重なるように第1有機緩衝層102が形成されている。第1有機緩衝層102上には、複数の有機EL素子22の全部に重なるように第2有機緩衝層104が形成されている。陰極保護層56、第1有機緩衝層102、及び第2有機緩衝層104上には、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104の終端部まで完全に覆うようにガスバリア層60が形成されている。
【0076】
ガスバリア層60は、第1有機緩衝層102、第2有機緩衝層104、及び複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与するものであり、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104に密着している。ガスバリア層60は、光透過性、ガスバリア性、及び耐水性に優れた材料から形成されている。このような材料としては珪素酸窒化物、珪素窒化物、SiNHなどの窒素を含む珪素化合物が好ましい。ガスバリア層60の形成方法として、ICPやECRプラズマ、プラズマガンで発生させた高密度プラズマを用いる、スパッタやイオンプレーティング、CVD法などの高密度プラズマ成膜法を用いることで、低温かつ高密度で高品位の無機化合物の薄膜が形成される。ガスバリア層60の厚さは、複数の有機EL素子22の封止性の度合い、ガスバリア層60にクラックが生じたりガスバリア層60が剥離したりする可能性、及び製造コストを勘案して定められている。具体的には、300nm〜800nmである。
【0077】
第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104は、ガスバリア層60の平坦性及び密着性の向上と、ガスバリア層60に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。両有機緩衝層は、後述の粘度及び組成の有機緩衝層材料(液体)を減圧雰囲気下のスクリーン印刷法を用いて、スクリーンメッシュとスキージを用いて隔壁構造体48による凹凸を膜厚を制御して第2有機緩衝層104の上面が略平坦化するように塗布し、その後の硬化によって形成される。第2有機緩衝層104に重なる基板40上の領域は、第1有機緩衝層102に重なる基板40上の領域に含まれるように形成されている。
【0078】
第1有機緩衝層102は、好適には厚さが3μm〜10μmであり、複数の有機EL素子22のすべてに重なる第1被覆部分102aと、第1被覆部分102aを囲む定常の厚さの第1定常部分102bと、第1定常部分102bを囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第1外端部分102cとを有する。第1有機緩衝層102は液体を塗布して形成されるものであるため、第1有機緩衝層102の終端部において第1外端部分102cの上面と基板40の上面とがなす角(θ1)は、第1定常部分102bの厚さに応じたものとなる。本実施形態では、この角(θ1)が20度以下となるように、第1定常部分102bの厚さの上限が定められている。このため、第1被覆部分102aの上面は平坦でなくなっている。
【0079】
一方、第2有機緩衝層104は、隔壁構造体48の高さに準じて好適には厚さが3μm〜20μmであり、複数の有機EL素子22の全てに重なる第2被覆部分104aと、第2被覆部分104aを囲む定常の厚さの第2定常部分104bと、第2定常部分104bを囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第2外端部分104cとを有する。第2有機緩衝層104は液体を塗布して形成されるものであり、この塗布は、第2被覆部分104aの上面が平坦となるように行われるため、第2定常部分104bは第1定常部分102bよりも厚くなっており、第2有機緩衝層104の最外端において第2外端部分104cの上面と下面とがなす角(θ2)は、上記の角(θ1)よりも大きくなっている。なお、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104の厚さは、ガスバリア層60を越えて滲入してきた異物に対する被覆性や、後述の表面保護基板64(図2参照)の上面に到達せずに表面保護基板64の側面や後述の接着層62の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0080】
本実施形態に係る有機EL装置6によれば、第1の実施形態に係る有機EL装置2により得られる効果と同様の効果が得られる。
さらに、本実施形態に係る有機EL装置6では、有機緩衝層が2層構成であるため、各有機緩衝層の厚さは、一層構成の場合の有機緩衝層よりも薄くなる。したがって、各有機緩衝層の終端部の角度は、一層構成の場合の有機緩衝層の終端部の角度よりも小さくなる。具体的には、広くて下の第1有機緩衝層102の第1外端部分102cの角度は20度以下となっている。また、狭くて上の第2有機緩衝層104に重なる基板40上の領域が、広くて下の第1有機緩衝層102に重なる基板40上の領域に含まれており、第1定常部分102bには第2定常部分104b及び第2外端部分104cが重なっている。したがって、ガスバリア層60の立ち上がり部分では、ガスバリア層60の立ち上がる角度が緩やかに増していくことになる。よって、ガスバリア層60は、割れたり剥離したりし難いものとなる。したがって、本実施形態に係る有機EL装置6によれば、割れたり剥離したりし難いガスバリア層60で複数の有機EL素子22を十分に封止することができる。
【0081】
(第4の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置は、有機緩衝層の構成を除いて第1の実施形態に係る有機EL装置2と同様である。
図11は、本実施形態に係る有機EL装置8の一部を拡大して示す断面図である。この有機EL装置8において、陰極保護層56上には、複数の有機EL素子22の全部に重なるように第1有機緩衝層106が形成されている。第1有機緩衝層106上には、第1有機緩衝層106領域を覆うように第2有機緩衝層108が形成されている。陰極保護層56、第1有機緩衝層106、及び第2有機緩衝層108上には、両有機緩衝層領域の全てを被覆するような広い範囲でガスバリア層60が形成されている。
【0082】
第1有機緩衝層106及び第2有機緩衝層108は、ガスバリア層60の平坦性及び密着性の向上と、ガスバリア層60に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。両有機緩衝層は、前述の有機緩衝層材料を減圧雰囲気下で塗布し硬化させて形成されており、互いに密着している。第1有機緩衝層106に重なる基板40上の領域は、第2有機緩衝層108に重なる基板40上の領域に含まれている。
【0083】
第1有機緩衝層106は、複数の有機EL素子22の全てに重なる第1被覆部分106aと、第1被覆部分106aを囲む定常の厚さの第1定常部分106bと、第1定常部分106bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1外端部分106cとを有する。第1有機緩衝層106は液体を塗布して形成されるものであるため、第1有機緩衝層106の最外端において第1外端部分106cの上面と基板40の上面とがなす角(θ3)は、第1定常部分106bの厚さに応じたものとなる。
【0084】
一方、第2有機緩衝層108は、複数の有機EL素子22の全てに重なる第2被覆部分108aと、第2被覆部分108aを囲む定常の厚さの第2定常部分108bと、第2定常部分108bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2外端部分108cとを有する。第2有機緩衝層108は液体を塗布して形成されるものであり、この塗布は、第2被覆部分108aの上面が平坦となるように行われる。
【0085】
本実施形態では、第2有機緩衝層108の終端部において第2外端部分108cが立ち上がる角(θ4)が20度以下となるように、第2定常部分108bの厚さの上限が定められている。これを満たすように第2有機緩衝層108が形成されたときに第2被覆部分108aの上面が平坦となるように、第1定常部分106bの厚さ、すなわち第1有機緩衝層106が立ち上がる角(θ3)が定められている。本実施形態では、θ3≒θ4となっている。また、第1有機緩衝層106の厚さは、隔壁構造体48の高さや、カラーフィルター機能などを有する表面保護基板64(図2参照)の上面に効率よく光を透過させるように、表面保護基板64の側面や後述の接着層62の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0086】
本実施形態に係る有機EL装置8では、有機緩衝層が2層構成であり、狭くて下の第1有機緩衝層106に重なる基板40上の領域が、広くて上の第2有機緩衝層108に重なる基板40上の領域に含まれている。また、狭くて下にある方の第1有機緩衝層106が厚く、広くて上にある方の第2有機緩衝層108が薄くなっている。また、第2定常部分108bに第1定常部分106b及び第1外端部分106cが重なっている。以上より、本実施形態に係る有機EL装置8によれば、第3の実施形態に係る有機EL装置6により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0087】
(第5の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置は、有機緩衝層の構成を除いて第2の実施形態に係る有機EL装置4と同様である。
図12は、本実施形態に係る有機EL装置10の一部を拡大して示す断面図である。この有機EL装置10において、陰極保護層92上には、複数の有機EL素子74及び画素隔壁絶縁層84、平坦化層82の全部に重なるように第1有機緩衝層110が形成されている。陰極保護層92及び第1有機緩衝層110上には、第1有機緩衝層110を覆うように第2有機緩衝層112が形成されている。陰極保護層92及び第2有機緩衝層112上には、第2有機緩衝層112を覆うようにガスバリア層60が形成されている。
【0088】
陰極保護層92、第1有機緩衝層110、及び第2有機緩衝層112は、第4の実施形態における陰極保護層56、第1有機緩衝層106、及び第2有機緩衝層108に相当する。したがって、第1有機緩衝層110は、複数の有機EL素子74の全てに重なる第1被覆部分110aと、第1被覆部分110aを囲む定常の厚さの第1定常部分110bと、第1定常部分110bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1外端部分110cとを有する。一方、第2有機緩衝層112は、複数の有機EL素子74の全てに重なる第2被覆部分112aと、第2被覆部分112aを囲む定常の厚さの第2定常部分112bと、第2定常部分112bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2外端部分112cとを有する。
【0089】
本実施形態では、第2有機緩衝層112の終端部において第2外端部分112cが立ち上がる角(θ6)が20度以下となるように、第2定常部分112bの厚さの上限が定められている。また、これを満たすように第2有機緩衝層112が形成されたときに第2被覆部分112aの上面が平坦となるように、第1定常部分110bの厚さ、すなわち第1有機緩衝層110が立ち上がる角(θ5)が定められている。本実施形態においても、θ5≒θ6である。また、第1有機緩衝層110の厚さは、画素隔壁の段差に対する被覆性や、カラーフィルター基板96(図8参照)の下面に到達せずに後述の接着層62の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0090】
本実施形態に係る有機EL装置10によれば、第2の実施形態に係る有機EL装置4により得られる効果と同様の効果が得られる。
さらに、本実施形態に係る有機EL装置10では、有機緩衝層が2層構成であり、狭くて下の第1有機緩衝層110に重なる基板72上の領域が、広くて上の第2有機緩衝層112に重なる基板72上の領域に含まれている。また、狭くて下にある方の第1有機緩衝層110が厚く、広くて上にある方の第2有機緩衝層112が薄くなっている。また、第2定常部分112bに第1定常部分110b及び第1外端部分110cが重なっている。以上より、本実施形態に係る有機EL装置10によれば、第4の実施形態に係る有機EL装置8により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0091】
(第6の実施形態)
図13は、本実施形態に係る有機EL装置12の一部を拡大して示す断面図である。この図から明らかなように、この有機EL装置12は、ガスバリア層の構成を除いて第3の実施形態に係る有機EL装置6と同様である。
【0092】
本実施形態に係る有機EL装置12は、ガスバリア層として、第1ガスバリア層114と第2ガスバリア層116とを備える。第1ガスバリア層114は、陰極保護層56、第1有機緩衝層102、及び第2有機緩衝層104上に形成され、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104に密着し、これらを覆っている。第2ガスバリア層116は、第1ガスバリア層114上に形成され、複数の有機EL素子22領域を被覆しつつ、第1有機緩衝層102の終端部が露出するように狭い範囲で形成される。両ガスバリア層は第3の実施形態におけるガスバリア層60と同一の材料から形成され、相互に密着している。
【0093】
第1ガスバリア層114は、第1有機緩衝層102、第2有機緩衝層104、及び複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与する。第1ガスバリア層114の厚さは200nm〜400nmである。この範囲の下限は、有機緩衝層の側面やその近傍における封止性が不足しないように定められている。第2ガスバリア層116は複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与する。第2ガスバリア層116の厚さは、200nm〜800nmである。また、本実施形態では、第1ガスバリア層114の厚さと第2ガスバリア層116の厚さの和、すなわちガスバリア層の総厚が1000nm未満となるように、両層の厚さが制限されている。この制限は、複数の有機EL素子22の封止性の度合い、ガスバリア層にクラックが生じたりガスバリア層が剥離したりする可能性、及び製造コストを勘案して定められている。
【0094】
本実施形態に係る有機EL装置12によれば、第3の実施形態に係る有機EL装置6により得られる効果と同様の効果が得られる。ところで、封止性を向上させるためにはガスバリア層を厚くする必要があるが、ガスバリア層を一様に厚くすると、ガスバリア層の平坦でない部分への応力集中が著しくなってしまう。これに対し、本実施形態によれば、ガスバリア層として第1ガスバリア層114及び第2ガスバリア層116を備えることにより、複数の有機EL素子22の全部に重なるガスバリア層の総厚を十分に厚くしつつ、ガスバリア層が立ち上がる第1有機緩衝層102の終端部においてガスバリア層を薄くすることができる。したがって、複数の有機EL素子22の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さ及び剥離し難さを維持することができる。
【0095】
(第7の実施形態)
図14は、本実施形態に係る有機EL装置14の一部を拡大して示す断面図である。この図から明らかなように、この有機EL装置14は、ガスバリア層の構成を除いて第4の実施形態に係る有機EL装置8と同様である。本実施形態に係る有機EL装置14は、第6の実施形態における第1ガスバリア層114及び第2ガスバリア層116に相当する、第1ガスバリア層118及び第2ガスバリア層120を備える。
【0096】
本実施形態に係る有機EL装置14によれば、第4の実施形態に係る有機EL装置8により得られる効果と同様の効果が得られる。さらに、ガスバリア層として第1ガスバリア層118及び第2ガスバリア層120を備えることにより、複数の有機EL素子22の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さ及び剥離し難さを維持することができる。
【0097】
(第8の実施形態)
図15は、本実施形態に係る有機EL装置16の一部を拡大して示す断面図である。この図から明らかなように、この有機EL装置16は、ガスバリア層の構成を除いて第5の実施形態に係る有機EL装置10と同様である。本実施形態に係る有機EL装置16は、第7の実施形態における第1ガスバリア層118及び第2ガスバリア層120に相当する、第1ガスバリア層122及び第2ガスバリア層124を備える。
【0098】
本実施形態に係る有機EL装置16によれば、第5の実施形態に係る有機EL装置10により得られる効果と同様の効果が得られる。さらに、ガスバリア層として第1ガスバリア層122及び第2ガスバリア層124を備えることにより、複数の有機EL素子74の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さ及び剥離し難さを維持することができる。
【0099】
(変形例)
上述した実施形態を変形し、有機緩衝層の数を3つ以上としてもよい。ただし、これらの有機緩衝層には、一方の有機緩衝層に重なる基板上の領域と他方の有機緩衝層に重なる基板の領域とが完全には一致せずに重なるような2つの有機緩衝層が含まれていなければならない。これはガスバリア層についても同様である。なお、上述した第6〜第8の実施形態を変形し、基板に近い方の第1ガスバリア層を基板から遠い方の第2ガスバリア層が覆うように構成してもよい。
【0100】
なお、前記各実施形態では、基板面内の少なくとも1辺に沿って連続的に共通陰極層の第2領域を形成しているが、一部に形成されていない部分があってもよい。ただし、連続的に形成されている方が脱酸素/脱水性能が高い。また、第1領域の全周縁部に連続的で形成されていてもよい。また、共通陰極層の第2領域の大きさ(断面積)が大きい程脱酸素/脱水性能は高くなる。そのため、共通陰極層の第2領域の大きさ(断面の幅や厚さ)を要求される脱酸素/脱水性能に応じて適宜設定する。
【符号の説明】
【0101】
2,4,6,8,10,12,14,16…有機EL装置、20…表示領域、21…コンタクト領域、22…有機EL素子、22R…赤色有機EL素子、22G…緑色有機EL素子、22B…青色有機EL素子、24…走査線、26…信号線、28…電源供給線、30…スイッチング用TFT、32…保持容量、34…駆動用TFT、35…共通陰極用配線、36…走査線駆動回路、38…信号線駆動回路、40…基板、42…有機発光層、44…無機絶縁層、46…親液バンク層(隔壁構造体)、48…隔壁構造体、48a…開口部、48b…端縁部、48c…外周部、50…撥液バンク層(隔壁構造体)、52…陽極(第1電極)、54…共通陰極層(第2電極)、54a…第1領域、54b…第2領域、56…陰極保護層(封止膜)、58…有機緩衝層(封止膜)、60…ガスバリア層(封止膜)、62…接着層(封止膜)、64…表面保護基板(封止部材)、66…マスク部材、68…開口部、70…アライメントマーク、72…基板、73…コンタクト領域、74…有機EL素子、76…有機発光層、78…TFT、79…共通陰極用配線、80…無機絶縁層、82…平坦化層、82b…外周部、84…画素隔壁絶縁層、84a…開口部、84b…端縁部、86…陽極(第1電極)、88…金属反射層、90…共通陰極層(第2電極)、90a…第1領域、90b…第2領域、92…陰極保護層(封止膜)、94…有機緩衝層(封止膜)、96…カラーフィルター基板、98…ブラックマトリックス層、100…フィルター層、102…第1有機緩衝層(封止膜)、102a…第1被覆部分、102b…第1定常部分、102c…第1外端部分、104…第2有機緩衝層(封止膜)、104a…第2被覆部分、104b…第2定常部分、104c…第2外端部分、106…第1有機緩衝層、106a…第1被覆部分、106b…第1定常部分、106c…第1外端部分、108…第2有機緩衝層、108a…第2被覆部分、108b…第2定常部分、108c…第2外端部分、110…第1有機緩衝層(封止膜)、110a…第1被覆部分、110b…第1定常部分、110c…第1外端部分、112…第2有機緩衝層(封止膜)、112a…第2被覆部分、112b…第2定常部分、112c…第2外端部分、114,118,122…第1ガスバリア層、116,120,124…第2ガスバリア層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(Electro-Luminescence:以下、ELと略記する)装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の有機EL装置は、一対の電極間に有機発光層(有機材料からなる発光層)を有する積層体からなる有機EL素子が、ガラス基板等の基板上に形成されたものである。
この有機EL装置における有機EL素子の封止方法としては、上記積層体の上にエポキシ系の接着剤を塗布し、その上にガラス板を載せた後、接着剤を硬化させ、その接着剤を封止層として利用する方法が挙げられる。
【0003】
通常、画素隔壁層を全面覆うように無機材料からなる無機封止膜を設置している。無機封止膜は、スパッタリング法やCVD法により成膜している。この無機封止膜は、耐湿性を高めるため緻密でかつある程度の膜厚が必要になる。しかしながら、このような性質の膜を作製しようとすると膜自身の内部応力により、画素隔壁層端部でクラックを起こし、水分侵入を起こしてしまう。また、画素隔壁層はプロセスの容易さなどの関係上、感光性樹脂膜を用いることが一般的である。そのため、無機封止膜クラック部から侵入する水分が画素隔壁層に拡散し、発光エリアまで到達してしまう。
【0004】
その解決法として、この無機封止膜の上に有機緩衝層を設置し、さらに有機緩衝層上に無機封止膜を設置する構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この構造では、有機緩衝層を画素隔壁層よりも外に出し、かつ十分な低テーパー角度を必要とし、ある程度の大きさを持った額縁が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]基板上に、複数の第1電極と、該第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁構造体と、該複数の開口部のそれぞれに配置された有機発光層と、前記隔壁構造体及び前記有機発光層を覆う第2電極と、該第2電極を覆う封止膜あるいは封止部材と、を備えた有機EL装置であって、前記第2電極は、前記隔壁構造体の端縁部を除く該隔壁構造体および前記有機発光層を含む第1領域と、前記第1領域と分離され、前記隔壁構造体の端縁部及び該隔壁構造体の外周部の少なくとも一部を含む第2領域とを覆うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【0009】
これによれば、この第2電極を隔壁構造体の端縁部より外側に配置することにより、封止膜あるいは封止部材のクラック部から侵入してくる水分を第2電極で吸着し、隔壁構造体への侵入を遅延させる。さらに、第2電極の膜厚は通常数十nmであるため、額縁幅には寄与しないものである。これにより、耐湿性能を向上した上で狭額縁化が可能な構造を持つ有機EL装置を提供する。
【0010】
[適用例2]上記有機EL装置であって、前記第2電極は、アルカリ土類金属からなることを特徴とする有機EL装置。
【0011】
通常、トップエミッション型有機EL素子では、第2電極としてマグネシウム−銀合金等のアルカリ土類金属を用いた合金を使用することが多い。この特徴として、十分な電子注入性と低抵抗、高透過率を持つ材料である。また、アルカリ土類金属自体は非常に酸化され易い材料として知られている。そのため、ボトムエミッション型有機EL素子では、ゲッター材として用いられることも多い(例えば、CaO、SrO、BaOなど)。また、このアルカリ土類金属を用いた第2電極は通常、隔壁構造体と封止膜あるいは封止部材との間に存在している。
【0012】
これによれば、第2電極を隔壁構造体の端縁部より外側まで配置することにより、封止膜あるいは封止部材のクラック部から侵入してくる水分をアルカリ土類金属である第2電極で吸着し、隔壁構造体への侵入を遅延させる。これにより、有機EL装置の外部から内部への、水分や酸素のような酸素含有物質の移動を好適に抑制又は防止することができる。その結果、発光効率等の特性の低下が好適に抑制又は防止された有機発光層を備える有機EL装置となる。
【0013】
[適用例3]上記有機EL装置であって、前記第2電極の膜厚は、1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmであることを特徴とする有機EL装置。
【0014】
これによれば、第2電極を電子注入性を有しつつ、ゲッター材として使用するためには、第2電極の膜厚は少なくとも1nmが必要である。一方で、第2電極を極端に厚く形成すると可視光の透過率が低下し有機EL装置の表示品質を損なう虞がある。したがってこのような構成であれば、ゲッター材としての機能と、表示品質の向上と、を両立できる。
【0015】
[適用例4]上記有機EL装置であって、前記第1領域における前記第2電極は、前記第2領域における前記第2電極と同層に配置されていることを特徴とする有機EL装置。
【0016】
これによれば、ゲッター材を基板上に形成される第2電極と同層で構成することができ、パターニングのためのマスクの調整のみで、実現でき、製造が容易でかつ接続も容易である。例えば、第2電極をITOで構成した場合には、半田接合性も良好であり、また封止部を構成する封止樹脂との密着性も良好である。
【0017】
[適用例5]上記有機EL装置であって、前記第2領域における前記第2電極は、前記基板面内の全周縁部に渡って配置されていることを特徴とする有機EL装置。
【0018】
これによれば、全周縁部に形成されているのでゲッター材として脱酸素/脱水性能が向上する。
【0019】
[適用例6]上記有機EL装置であって、前記第2領域における前記第2電極は、電気的にフローティング状態であることを特徴とする有機EL装置。
【0020】
これによれば、隔壁構造体の端縁部の外側に伸びた第2領域の第2電極と隔壁構造体の端縁部を除く隔壁構造体及び有機発光層を覆う第1領域の第2電極とに分離することにより、隔壁構造体の端縁部の外側に伸びた第2領域の第2電極を電気的にフローティング状態にすることができる。基板端部には配線等が存在しており、第2電極を隔壁構造体の端縁部の外側に設置すると第2電極と配線部とが電気的にショートを引き起こしてしまう虞がある。そのため、第2電極の第1領域と第2領域とを分離することで有機発光層に電界をかけても配線部とショートを起こさない形態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る有機EL装置の各種素子、配線等の等価回路図。
【図2】第1の実施形態に係る有機EL装置の模式断面図。
【図3】図2の一部Aを拡大して示す断面図。
【図4】(a)〜(c)は第1の実施形態に係る有機EL装置の工程断面図。
【図5】(d)〜(f)は第1の実施形態に係る有機EL装置の工程断面図。
【図6】(g)〜(i)は第1の実施形態に係る有機EL装置の工程断面図。
【図7】(a)はプラズマ成膜法で用いるマスク部材の平面図、(b)は(a)のC−C’線で切ったマスク部材とマスク部材を説明するための有機EL装置の断面図。
【図8】第2の実施形態に係る有機EL装置の模式断面図。
【図9】図8の一部Bを拡大して示す断面図。
【図10】第3の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図11】第4の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図12】第5の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図13】第6の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図14】第7の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【図15】第8の実施形態に係る有機EL装置の一部を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を参照しながら本実施形態を説明する。なお、以下の各図面においては、各部の寸法の比率を実際のものとは適宜に異ならせている。以下の説明において、「上」及び「下」は図の紙面を基準とした表現であり、層の「厚さ」は断面図の紙面上下方向における層の長さを意味する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る有機EL装置2の各種素子、配線等の等価回路図である。有機EL装置2の表示領域20には、赤色光を発光する赤色有機EL素子22Rと、緑色光を発光する緑色有機EL素子22Gと、青色光を発光する青色有機EL素子22Bと、の3種類の有機EL素子22が規則的に配置されている。以下、発光色を区別しない場合には、単に有機EL素子22と称する。なお、後述するように、上記各有機EL素子22は、電気光学材料としての有機EL材料のみが異なっている。
【0024】
有機EL装置2は、有機EL素子22の発光を個別に制御して、多数の有機EL素子22を含む表示領域20において画像を形成するアクティブマトリックス型の装置である。表示領域20には、複数の走査線24と、走査線24と直交する複数の信号線26と、信号線26と平行に延びる複数の電源供給線28が形成されている。各々の有機EL素子22は、走査線24、信号線26、及び電源供給線28によって囲まれる方形の区画(画素領域とも呼ぶ)内に夫々形成されている。
【0025】
各々の画素領域には、走査線24を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(Thin Film Transistor)30と、スイッチング用TFT30を介して信号線26から供給される画像信号を保持する保持容量32と、保持容量32によって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT34と、駆動用TFT34を介して電源供給線28から駆動電流が流れ込む有機EL素子22が形成されている。有機EL素子22は、流れる電流の大きさに応じた輝度で発光する。
【0026】
表示領域20の周辺には、走査線駆動回路36及び信号線駆動回路38が形成されている。走査線駆動回路36は、図示しない外部回路より供給される各種信号に応じて、走査線24に走査信号を順次供給する。信号線駆動回路38は、信号線26に画像信号を供給する。
【0027】
走査線24が駆動されスイッチング用TFT30がオン状態になると、その時点の信号線26の電位が保持容量32に保持され、保持容量32の状態に応じて駆動用TFT34のレベルが決まる。そして、駆動用TFT34を介して電源供給線28から有機EL素子22に駆動電流が流れ、有機EL素子22は駆動電流の大きさに応じて発光する。個々の有機EL素子22は独立に制御され、駆動電流の大きさに応じて有機EL素子22R,22G,22Bにおける赤、緑、青の発光輝度を調節することで表示領域20にカラー画像が形成される。
【0028】
本実施形態に係る有機EL装置2は、後述の高分子系有機EL材料を用いるフルカラーパネルである。この有機EL装置2は、赤色光を発する赤色有機EL素子22R、緑色光を発する緑色有機EL素子22G、及び青色光を発する青色有機EL素子22Bを並置して、フルカラーの表示を可能としている。また、この有機EL装置2は、有機EL素子22からの光が基板とは反対の側から射出されるトップエミッション型である。
【0029】
図2は、本実施形態に係る有機EL装置2の模式断面図であり、図3は、図2の一部Aを拡大して示す断面図である。この有機EL装置2は平板状の基板40を備える。基板40は、ガラス又はプラスチックから形成され、その上面には複数の有機EL素子22が形成されている。有機EL素子22は、後述の高分子系有機EL材料を用いて形成された有機発光層42を有し、発光させるタイミングで電流供給を受けて有機発光層42を発光させる。有機EL素子22は、発光色により3種類に分類される。基板40上では、これら3種類の有機EL素子22が規則的に配列されている。
【0030】
基板40上には、複数の有機EL素子22に1対1で対応する複数の駆動用TFT34及び各種の配線(一部を除いて図示略)が形成されている。駆動用TFT34は、電気エネルギー及び制御信号を受けて自己に対応する有機EL素子22を駆動する。具体的には、有機EL素子22に電気エネルギーを供給する。また、基板40上には、複数の駆動用TFT34を覆うように、無機絶縁層44が形成されている。無機絶縁層44は、複数の駆動用TFT34及び各種の配線を絶縁するものであり、例えば珪素化合物から形成されている。
【0031】
無機絶縁層44上には、親液バンク層(隔壁構造体48)46が例えば膜厚50nm〜200nmの二酸化珪素で形成されており、親液バンク層46上には撥液バンク層(隔壁構造体48)50が例えば膜厚1μm〜3μmのアクリル樹脂又はポリイミドから形成されている。親液バンク層46及び撥液バンク層50は、陽極(第1電極)52の形成位置に対応した複数の開口部48aを画定し、隔壁構造体48を構成している。無機絶縁層44及び隔壁構造体48は、凹部を画定しており、この凹部の底部を有機EL素子22が占めている。有機発光層42は複数の開口部48aのそれぞれに配置されている。なお、単色で用いる発光装置及び電子機器の場合は、塗り分けが必要でないため撥液バンク層50を除いた構造として、有機発光層42を陽極52と親液バンク層46に跨ってスピンコートやスリットコートなどによって形成してもよい。
【0032】
有機EL素子22は、有機発光層42を挟む陽極52及び共通陰極層(第2電極)54を有する。陽極52及び共通陰極層54は、有機発光層42に正孔及び電子を注入するための電極であり、供給された電気エネルギーにより電界を発生させる。陽極52は、無機絶縁層44上に例えば仕事関数が5eV以上の正孔注入性の高いITOなどから形成された電極であり、上記の配線により対応する駆動用TFT34に接続されている。共通陰極層54は、表示領域20の外周に沿って設けられたコンタクト領域21において、共通陰極用配線35に電気的に接続されている。
なお、コンタクト領域21は表示領域20の外側に設けられていればよく、コンタクト領域21に設けられた共通陰極層54と共通陰極用配線35とを電気的に接続するコンタクトホール44aおよび配線35aは、点状でも線状であってもよい。
【0033】
共通陰極層54は、アルカリ土類金属を用いた合金で形成されている。例えば、膜厚1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmのマグネシウム−銀合金から形成されている。これにより、共通陰極層54を隔壁構造体48の端縁部48bより外側まで配置することにより、陰極保護層56、有機緩衝層58、及びガスバリア層60のクラック部から侵入してくる水分をアルカリ土類金属である共通陰極層54で吸着し、隔壁構造体48への侵入を遅延させる。また、有機EL装置2の外部から内部への、水分や酸素のような酸素含有物質の移動を好適に抑制又は防止することができる。その結果、発光効率等の特性の低下が好適に抑制又は防止される。さらに、共通陰極層54を電子注入性を有しつつ、ゲッター材として使用するためには、共通陰極層54の膜厚は少なくとも1nmが必要である。一方で、共通陰極層54を極端に厚く形成すると可視光の透過率が低下し有機EL装置2の表示品質を損なう虞がある。したがってこのような構成であれば、ゲッター材としての機能と、表示品質の向上と、を両立できる。共通陰極層54に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層42で発光する光を共通陰極層54側から射出させるトップエミッション型を採用することができる。
【0034】
図3に示すように、共通陰極層54は、平面視で、第1領域54aと第2領域54bとに分離されている。第1領域54aにおける共通陰極層54は、隔壁構造体48の端縁部48bを除く隔壁構造体48及び有機発光層42を覆っている。第2領域54bにおける共通陰極層54は、隔壁構造体48の端縁部48b及び隔壁構造体48の外周部48cの少なくとも一部を覆っている。第1領域54aにおける共通陰極層54は、有機発光層42及び撥液バンク層50上に形成されて複数の有機EL素子22に跨る共通の電極として機能する層であり、例えば、有機発光層42へ電子を注入し易くするための電子注入バッファー層と、電子注入バッファー層上にITOやアルミニウムなどの金属から形成された電気抵抗の小さい層とを有する。電子注入バッファー層は、例えばフッ化リチウムやカルシウム金属、マグネシウム−銀合金から形成されている。
【0035】
なお、第1領域54aにおける共通陰極層54と第2領域54bにおける共通陰極層54とは、同層で配置されている。これにより、ゲッター材を基板40上に形成される共通陰極層54と同層で構成することができ、パターニングのためのマスクの調整のみで、実現でき、製造が容易でかつ接続も容易である。例えば、共通陰極層54をITOで構成した場合には、半田接合性も良好であり、また封止部を構成する封止樹脂との密着性も良好である。
第2領域54bにおける共通陰極層54は、基板40面内の全周縁部に渡って配置されている。これにより、アルカリ土類金属の合金である共通陰極層54が第1領域54aの全周縁部に形成されているのでゲッター材の機能を果たし脱酸素/脱水性能が向上する。
第2領域54bにおける共通陰極層54は、電気的にフローティング状態であってもよい。これによれば、隔壁構造体48の端縁部48bの外側に伸びた第2領域54bの共通陰極層54と、隔壁構造体48の端縁部48bを除く隔壁構造体48及び有機発光層42を覆う第1領域54aの共通陰極層54とに分離することにより、隔壁構造体48の端縁部48bの外側に伸びた第2領域54bの共通陰極層54を電気的にフローティング状態にすることができる。基板40端部には配線等が存在しており、共通陰極層54を隔壁構造体48の端縁部48bの外側に設置すると共通陰極層54と配線部とが電気的にショートを引き起こしてしまう虞がある。そのため、共通陰極層54の第1領域54aと第2領域54bとを分離することで有機発光層42に電界をかけても配線部とショートを起こさない形態にすることができる。
【0036】
有機発光層42は、電界により注入された正孔と電子との再結合により励起して発光する発光層を含む。発光層以外の層をも含むように多層からなる有機発光層42を構成することも可能であり、電気抵抗を少なくするため全ての層が300nm以下の薄膜になることが好ましい。発光層以外の層としては、正孔を注入し易くするための正孔注入層や、注入された正孔を発光層へ輸送し易くするための正孔輸送層、電子を注入し易くするための電子注入層、注入された電子を発光層へ輸送し易くするための電子輸送層などの、上記の再結合に寄与する層がある。
【0037】
発光層は高分子系有機EL材料から形成されている。高分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に高いものである。有機EL素子22を形成している高分子系有機EL材料は、有機EL素子22の種類(発光色)に応じた物質となっている。発光層における再結合に寄与する層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。これらの材料を溶媒で希釈してインクジェット法やその他印刷法によってパターン塗布する場合、撥液バンク層50に対する有機発光層42の材料が撥液バンク層50表面をはじくため、画素ごとに各色が塗り分けられる。単色で塗り分けが必要ない場合は、撥液バンク層50を除くことで、スピンコートやスリットコートなどによって有機発光層42を親液バンク層46と陽極52の上を跨いで形成しても、画素の分離ができる。親液バンク層46は、凹部の底の陽極52の端部まで有機発光層42の膜厚を安定化させるもので、上部には有機発光層42が形成される。例えば、膜厚50nm〜200nmの二酸化珪素から形成されている。
【0038】
無機絶縁層44及び共通陰極層54上には、共通陰極層54を覆うように陰極保護層(封止膜)56が形成されている。陰極保護層56上には、隔壁構造体48による凹凸を平坦化するため複数の有機EL素子22の全部に重なるように有機緩衝層(封止膜)58が形成されている。陰極保護層56及び有機緩衝層58上には、有機緩衝層58の終端部まで完全に覆うようにガスバリア層(封止膜)60が形成されている。
【0039】
ガスバリア層60は、有機緩衝層58及び複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与するものであり、有機緩衝層58に密着している。ガスバリア層60は、光透過性、ガスバリア性、及び耐水性に優れた材料から形成されている。このような材料としては珪素酸窒化物、珪素窒化物、SiNHなどの窒素を含む珪素化合物が好ましい。ガスバリア層60の形成方法として、ICPやECRプラズマ、プラズマガンで発生させた高密度プラズマを用いる、スパッタやイオンプレーティング、CVD法などの高密度プラズマ成膜法を用いることで、低温かつ高密度で高品位の無機化合物の薄膜が形成される。ガスバリア層60の厚さは、複数の有機EL素子22の封止性の度合い、ガスバリア層60にクラックが生じたりガスバリア層60が剥離したりする可能性、及び製造コストを勘案して定められている。具体的には、300nm〜800nmである。
【0040】
有機緩衝層58は、ガスバリア層60の平坦性及び密着性の向上と、ガスバリア層60に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。有機緩衝層58は、後述の粘度及び組成の有機緩衝層材料(液体)を減圧雰囲気下のスクリーン印刷法を用いて、スクリーンメッシュとスキージを用いて隔壁構造体48による凹凸を膜厚を制御して有機緩衝層58の上面が略平坦化するように塗布し、その後の硬化によって形成される。
【0041】
陰極保護層56は、共通陰極層54の保護と、硬化前の有機緩衝層58の濡れ性及び接着性の向上とを目的として設けられており、光透過性、密着性、及び耐水性に優れた珪素酸窒化物などの珪素化合物から形成されている。上記の共通陰極層54は、特にトップエミッション型の場合に透明性を考慮して共通陰極層54の膜厚が薄くなるためピンホール等の発生頻度が増加する。そのため、有機緩衝層58を形成するまでの輸送時に付着する微量の水分や、硬化前の有機緩衝層58の材料の浸透による有機発光層42へのダメージがダークスポットとなるため、これらを防ぐ役割を持つ。このため、陰極保護層56の厚さは100nm以上となっている。また、共通陰極層54の上面には、撥液バンク層50と有機EL素子22との段差による凹凸があるため、陰極保護層56において応力集中が生じる。この応力集中による破損を防ぐために、陰極保護層56の厚さは200nm以下となっている。
【0042】
図2に示すように、基板40上には、無機絶縁層44、陰極保護層56、ガスバリア層60を覆うように、接着層(封止膜)62が形成されている。接着層62上には、接着層62の全部に重ねて表面保護基板(封止部材)64が固定されている。表面保護基板64の下面全面は接着層62に接している。接着層62は表面保護基板64を基板40に接着するものであり、光透過性に優れた樹脂接着剤から形成されている。この樹脂接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などがある。表面保護基板64は、光学特性及びガスバリア層60の保護を目的として設けられたものであり、ガラス又は光透過性に優れたプラスチックから形成されている。このようなプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどがある。表面保護基板64には、カラーフィルターの機能や、紫外線を遮断/吸収する機能、外光の反射を防止する機能、放熱する機能などを持たせてもよい。また、コスト面を考慮して、カラーフィルターなど光学的な機能を必要としない場合などには、接着層62のみの1層とし、表面保護基板64が存在しない構造でもよい。
【0043】
次に、本実施形態に係る有機EL装置2の製造について図面を参照しながら説明する。図4〜図6は、本実施形態に係る有機EL装置2の工程断面図である。図7(a)は本実施形態に係るマスク部材の平面図、同図(b)は同図(a)のC−C’線で切ったマスク部材とマスク部材を説明するための有機EL装置の断面図である。
本実施形態に係る有機EL装置2を製造するには、まず、図4(a)に示すように、基板40上に駆動用TFT34及び各種の配線と無機絶縁層44を形成する。次に、図4(b)に示すように、無機絶縁層44上にアルミニウム−銅合金材料などの光反射性の反射層と、透明なITOをスパッタ法により成膜して複数の画素となる陽極52を形成する。これにより、点灯制御を行う駆動用TFT34と接続される。また、同時に画素領域の外側においてコンタクトホール44aおよび配線35aを形成する。次に、無機絶縁層44上に、陽極52および配線35aを囲むように親液バンク層46を形成する。次に、図4(c)に示すように、親液バンク層46上に例えばポリイミドやアクリル樹脂などの有機化合物からなる撥液バンク層50を形成する。次に、基板40上から有機物系の異物除去とITO表面の濡れ性を向上させるため、プラズマ洗浄などの洗浄処理を行う。
【0044】
次に、図5(d)に示すように、有機発光層42を陽極52上に形成する。この形成では、材料が塗布され、陽極52及び親液バンク層46に接して平坦に広がる。したがって、厚さが均一の平坦な有機発光層42が形成される。有機発光層42に含まれる発光層の形成では、赤色光を発する有機EL素子22を構成することになる陽極52上には、赤色光を発する有機発光層42を形成するための高分子系有機EL材料を塗布する。これと同様のことを、緑色光を発する有機EL素子22及び青色光を発する有機EL素子22についても行う。塗布方法としては、スピンコートやスリットコート法を用いてもよいし、3色を塗り分ける場合にはインクジェット法やスクリーン印刷法を用いて画素ごとにパターン塗布をすると材料効率の良い塗布ができる。有機発光層42が複数の層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。なお、コンタクト領域21における配線35a上には有機発光層42を形成しない。
【0045】
次に、図5(e)に示すように、複数の有機EL素子22における共通の電極、すなわち共通陰極層54を形成する。共通陰極層54は、アルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金で形成する。例えば、まず、図7(a)および(b)に示すマスク部材66を用いて、加熱ボート(坩堝)を用いた真空蒸着法によりフッ化リチウムなどの電子注入性の高い金属、金属化合物、または合金を、成膜し、次に、真空蒸着法によりアルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金などの仕事関数が低い金属又は合金の薄膜を成膜する。膜厚を薄くすることで導電性を確保しつつ透光性をできる限り高くして、反射性は抑制している。つまり、有機発光層42で発光した光のうち、上方(基板40の反対の方向)に向かう光をできるだけ直接射出して、トップエミッション型に対応している。
基板40の外周側に位置するコンタクト領域21では、陽極52と同層にかつ同じ材料で形成された配線35a上には有機発光層42が形成されていない。また、配線35aは、基板40上に形成された共通陰極用配線35と電気的に接続されているので、配線35aを覆うように共通陰極層54を形成することにより、共通陰極用配線35と共通陰極層54とがコンタクトホール44aおよび配線35aを介して電気的に接続される。
【0046】
本実施形態における有機EL素子22は、共通陰極層54に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層42で発光する光を共通陰極層54側から射出させるトップエミッション型を採用したものである。
なお、ここでは、共通陰極層54としてマグネシウム−銀合金を用いたが、水及び酸素と反応して水酸化物及び酸化物を生成する材料からなる部材などの同様の機能を果たすものであれば、これに限らない。例えば、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba等)又はアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs等)が挙げられる。アルカリ土類金属又はアルカリ金属からなる部材を基板上に形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、又はCVD法等が挙げられる。
又は、水や酸素分子を物理的に取り込む、又は吸着させる材料でもよい。例えば、ゼオライト構造をとるモレキュラーシーブや、シリカゲルなどが挙げられる。
なお、第2領域54bにおける共通陰極層54(図3参照)の形成は、第1領域54aにおける共通陰極層54(図3参照)の形成と同時に行ってもよい。この場合、共通陰極層54の第2領域54bの膜厚は共通陰極層54の第1領域54aの膜厚よりも厚く形成するため、まず、共通陰極層54の第2領域54b及び共通陰極層54の第1領域54aに対応させたマスク部材66を用いて成膜を開始し、共通陰極層54の第1領域54aのカルシウム薄膜の厚さ分の成膜時間が経過した時点でマスク部材66を共通陰極層54の第2領域54b用のマスク(図示せず)に変え、さらに共通陰極層54の第2領域54bの形成を行ってもよい。
【0047】
(マスク部材)
マスク部材66は、図7(a)に示すように、所定パターンからなる複数の開口部68と、被蒸着基板に配置する際に用いるアライメントマーク70とを備えている。各々のマスク部材66は、1つの有機EL装置2の基板の大きさと略等しくなるように形成されている。マスク部材66は、面方位が(110)であるシリコン(単結晶シリコン)により形成されている。これにより、熱膨張係数差が小さくなり、熱膨張や撓み等によるマスク部材66の変形を回避することができる。
【0048】
開口部68は、蒸着源からの蒸着物が通過する領域であり、被蒸着基板に形成するパターン形状に対応して形成されている。詳細には、開口部68は、マスク部材66の厚さ方向に貫通して形成されるとともに、マスク部材66の中央に矩形状に、及び四方の端辺に沿ってストライプ状に複数形成されている。例えば、図7(a)に示すように、マスク部材66の中央に矩形状に、及び四方の端辺に沿ってストライプ状に4箇所形成されている。開口部68の中央の矩形と、ストライプとの間は、図7(b)に示すように、最外周の隔壁構造体48に位置するように形成され、配置されている。
また、アライメントマーク70はマスク部材66の端部の非開口部領域に2箇所配置している。このように配置することで、被蒸着基板との高精度な位置合わせが可能となっている。図7(a)ではアライメントマーク70をマスク部材66の一辺に沿った端部に配置しているが、対角となる端部に配置してもよい。対角となるように配置することで、より高い精度での位置合わせが可能となる。また、アライメントマーク70は、上記開口部68と同様に、マスク部材66の厚さ方向に貫通する。このアライメントマーク70は、上記開口部68と同一工程により形成される。なお、アライメントマーク70を貫通穴により形成する場合には、上記開口部68がアライメントマーク70の機能を兼ね備えることも可能である。つまり、複数の開口部68の一部をアライメントマーク70とすることも可能である。
【0049】
次に、図5(f)に示すように、酸素プラズマ処理を行い、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法により、共通陰極層54を覆うように、珪素酸窒化物からなる陰極保護層56を形成する。酸素プラズマ処理を行うのは、共通陰極層54と陰極保護層56との密着性を向上させるためである。
【0050】
次に、図6(g)に示すように、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、陰極保護層56上に、粘度が室温(25℃)で2000mPa・s〜10000mPa・sの液状の有機緩衝層材料を印刷し、窒素ガスを導入して大気圧に戻した後、硬化室に搬送して60℃〜100℃の範囲で基板ごと加熱して完全硬化させることにより、有機緩衝層58を形成する。この形成を減圧雰囲気下で行うのは、塗布時に発生する気泡の除去とできるだけ水分を除去するためである。共通陰極層54や陰極保護層56の形成と違って、100Pa〜5000Paという比較的低い真空度で塗布が行われるが、窒素で置換することによって露点は−60℃以下になるまで水分が除去されている。粘度が室温で2000mPa・s以上の有機緩衝層材料を用いるのは、有機緩衝層材料が陰極保護層56を透過して共通陰極層54や有機発光層42に滲入する事態を避けるためである。
【0051】
有機緩衝層材料の主成分(例えば70重量%以上)としては、硬化前には流動性に優れかつ溶媒のような揮発成分を持たない有機化合物を用いることが可能であり、本実施形態では、エポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー(分子量1000以下)/オリゴマー(分子量1000〜3000)を用いている。具体的には、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどを単独で又は組み合わせて用いることが可能である。
【0052】
有機緩衝層材料の副成分としては、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤がある。この硬化剤としては、電気絶縁性に優れかつ強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものがよく、光透過性に優れかつ硬化のばらつきの少ない付加重合型のものがよい。具体的には、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物又はそれらの重合物などの酸無水物系硬化剤が好適である。その理由の第1は、酸無水物系硬化剤の硬化は60℃〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜は珪素酸窒化物との密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となるからである。第2は、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として芳香族アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで低温かつ短時間での硬化が可能となるからでもある。第3は、カチオン放出タイプの光重合開始剤に比較して、急激な硬化収縮による各部の損傷を招き難いからである。
【0053】
有機緩衝層材料の他の副成分としては、共通陰極層54やガスバリア層60との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物などの捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が混入されていてもよい。これらの硬化前の粘度は、室温で1000mPa・s〜10000mPa・sが好ましい。
【0054】
本実施形態で用いる主成分材料及び副成分材料の硬化前の粘度は、いずれも室温で1000mPa・s以上が好ましい。これは、硬化前の材料が有機発光層42に滲入してしまう可能性を抑制するためである。これらの材料の粘度は、この抑制だけでなく、必要なパターン精度での成膜を実現できること、かつ所望の厚さの膜を形成できること、かつ形成した膜内に気泡が生じないことなどをも考慮して定められるべきである。
【0055】
次に、図6(h)に示すように、再び減圧雰囲気にして、酸素プラズマ処理を行い、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法により、有機緩衝層58の終端部まで完全に覆うようなより広い範囲でガスバリア層60を形成する。酸素プラズマ処理を行うのは、有機緩衝層58とガスバリア層60との密着性を向上させるためである。
【0056】
次に、図6(i)に示すように、無機絶縁層44、陰極保護層56、及びガスバリア層60を覆うように光透過性に優れた樹脂接着剤を塗布し、この樹脂接着剤に表面保護基板64の下面全面を接触させ、この樹脂接着剤を硬化させて接着層62を形成する。なお、樹脂接着剤に代えて液状の接着剤を用いるようにしてもよいし、予めシート状に形成された接着剤を無機絶縁層44と表面保護基板64とで挟んで圧迫することにより接着する両者を接着するようにしてもよい。
【0057】
本実施形態に係る有機EL装置2によれば、共通陰極層54を隔壁構造体48の端縁部48bより外側に配置することにより、陰極保護層56、有機緩衝層58、及びガスバリア層60のクラック部から侵入してくる水分を共通陰極層54で吸着し、隔壁構造体48への侵入を遅延させる。さらに、共通陰極層54の膜厚は通常数十nmであるため、額縁幅には寄与しないものである。これにより、耐湿性能を向上した上で狭額縁化が可能になる。
【0058】
(第2の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置の共通陰極層の構成は、第1の実施形態における共通陰極層の構成と同様である。ただし、本実施形態に係る有機EL装置は、後述の低分子系有機EL材料を用いるフルカラーパネルであり、白色光を発する有機EL素子及びカラーフィルターを用いて、フルカラーの表示を可能としている。
【0059】
図8は、本実施形態に係る有機EL装置4の断面図であり、図9は、図8の一部Bを拡大して示す断面図である。この有機EL装置4は平板状の基板72を備える。基板72は、ガラス又はプラスチックから形成され、その上面には複数の有機EL素子74が形成されている。有機EL素子74は、白色光を発する素子であり、後述の低分子系有機EL材料を用いて形成された有機発光層76を有し、電気エネルギーの供給を受けて有機発光層76を発光させる。
【0060】
基板72上には、複数の有機EL素子74ごとに対応する複数のTFT78及び各種の配線(図示略)が形成されている。TFT78は、第1の実施形態における駆動用TFT34と同様に、自己に対応する有機EL素子74を駆動する。また、基板72上には、複数のTFT78を覆うように、無機絶縁層80が形成されている。無機絶縁層80は、複数のTFT78及び各種の配線を絶縁するものであり、例えば珪素窒化物から形成されている。
【0061】
配線やTFTによる段差を無くす平坦化層82上には、平坦化層82の凹部から立ち上がる画素隔壁絶縁層84が、例えばポリイミドやアクリル樹脂などの有機化合物から形成されている。画素隔壁絶縁層84の上端は平坦化層82の凸部よりも高い位置にあり、平坦化層82及び画素隔壁絶縁層84は凹部を画定している。平坦化層82内には、有機EL素子74から陽極(第1電極)86を通ってきた光を反射する金属反射層88が光反射性の金属から形成されている。この凹部の底部の金属反射層88上には、腐食を防ぐための無機絶縁層(図示せず)が設けられ、さらに仕事関数の高いITOからなる陽極86が占めている。平坦化層82及び画素隔壁絶縁層84は、複数の開口部84aを画定し、隔壁構造体を構成している。
【0062】
有機EL素子74は、有機発光層76を挟む陽極86及び共通陰極層(第2電極)90を有する。陽極86及び共通陰極層90は、有機発光層76に正孔及び電子を注入するための電極として機能する。陽極86は、平坦化層82上に例えば薄いアルミニウムなどの金属やITOから形成された透光性の電極であり、平坦化層82と画素隔壁絶縁層84との隙間を通って対応するTFT78に接続されている。共通陰極層90は、コンタクト領域73において、平坦化層82と画素隔壁絶縁層84との隙間を通って共通陰極用配線79に電気的に接続されている。
【0063】
共通陰極層90は、アルカリ土類金属を用いた合金で形成されている。例えば、膜厚1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmのマグネシウム−銀合金から形成されている。これにより、共通陰極層90を画素隔壁絶縁層84の端縁部84bより外側まで配置することにより、陰極保護層92、有機緩衝層94、及びガスバリア層60のクラック部から侵入してくる水分をアルカリ土類金属である共通陰極層90で吸着し、隔壁構造体への侵入を遅延させる。また、有機EL装置4の外部から内部への、水分や酸素のような酸素含有物質の移動を好適に抑制又は防止することができる。その結果、発光効率等の特性の低下が好適に抑制又は防止される。さらに、共通陰極層90を電子注入性を有しつつ、ゲッター材として使用するためには、共通陰極層90の膜厚は少なくとも1nmが必要である。一方で、共通陰極層90を極端に厚く形成すると可視光の透過率が低下し有機EL装置4の表示品質を損なう虞がある。したがってこのような構成であれば、ゲッター材としての機能と、表示品質の向上と、を両立できる。共通陰極層90に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層76で発光する光を共通陰極層90側から射出させるトップエミッション型を採用することができる。
【0064】
図9に示すように、共通陰極層90は、平面視で、第1領域90aと第2領域90bとに分離されている。第1領域90aにおける共通陰極層90は、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bから外側部分を除く隔壁構造体及び有機発光層76を覆っている。第2領域90bにおける共通陰極層90は、画素隔壁絶縁層84の端縁部84b及び隔壁構造体の外周部82bの少なくとも一部を覆っている。第1領域90aにおける共通陰極層90は、有機発光層76及び画素隔壁絶縁層84上に形成されて複数の有機EL素子74に共通の電極として機能する層であり、例えば、有機発光層76へ電子を注入し易くするための電子注入バッファー層と、電子注入バッファー層上に透明なITO層又は非画素領域にパターン形成するアルミニウム層などから形成された電気抵抗の低い層とを有する。電子注入バッファー層は、例えばフッ化リチウムやマグネシウム−銀合金から形成されている。
なお、第1領域90aにおける共通陰極層90と第2領域90bにおける共通陰極層90とは、同層で配置されている。これにより、ゲッター材を基板72上に形成される共通陰極層90と同層で構成することができ、パターニングのためのマスクの調整のみで、実現でき、製造が容易でかつ接続も容易である。例えば、共通陰極層90をITOで構成した場合には、半田接合性も良好であり、また封止部を構成する封止樹脂との密着性も良好である。
第2領域90bにおける共通陰極層90は、基板72面内の全周部に渡って配置されている。これにより、アルカリ土類金属である共通陰極層90が第1領域90aの全周縁部に形成されているのでゲッター材として機能し、脱酸素/脱水性能が向上する。
第2領域90bにおける共通陰極層90は、電気的にフローティング状態であってもよい。これによれば、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bの外側に伸びた第2領域90bの共通陰極層90と、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bから外側部分を除く隔壁構造体及び有機発光層76を覆う第1領域90aの共通陰極層90とに分離することにより、画素隔壁絶縁層84の端縁部84bの外側に伸びた第2領域90bの共通陰極層90を電気的にフローティング状態にすることができる。基板72端部には配線等が存在しており、共通陰極層90を画素隔壁絶縁層84の端縁部84bの外側に設置すると共通陰極層90と配線部とが電気的にショートを引き起こしてしまう虞がある。そのため、共通陰極層90の第1領域90aと第2領域90bとを分離することで有機発光層76に電界をかけても配線部とショートを起こさない形態にすることができる。
【0065】
有機発光層76は、第1の実施形態における有機発光層42に相当する。後者が前者と異なるのは、複数の有機EL素子74に共通している点と、発光層が低分子系有機EL材料から形成されている点である。低分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に低いものである。例えば、スチリルアミン系のホストにアントラセン系のドーパントを色素ドーピングしたものや、スチリルアミン系のホストにルブレン系のドーパントを色素ドーピングしたものが挙げられる。有機発光層76に、発光層における再結合に寄与する他の層が含まれる場合、他の層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。例えば、正孔注入層の材料としてはトリアリールアミン(ATP)多量体が挙げられ、正孔輸送層の材料としてはTPD(トリフェニルジアミン)系化合物が挙げられ、電子注入層の材料としてはアルミニウムキノリノール錯体が挙げられる。
【0066】
無機絶縁層80及び共通陰極層90上には、共通陰極層90及び平坦化層82を覆うように陰極保護層(封止膜)92が形成されている。陰極保護層92上には、複数の有機EL素子74及び画素隔壁絶縁層84、平坦化層82の全部に重なるように有機緩衝層(封止膜)94が形成されている。陰極保護層92及び有機緩衝層94上には、有機緩衝層94を覆うようにガスバリア層60が形成されている。
【0067】
図8に示すように、基板72上には、無機絶縁層80、陰極保護層92、及びガスバリア層60を覆うように、接着層62が形成されている。接着層62上には、接着層62の全部に重ねてカラーフィルター基板96が固定されている。カラーフィルター基板96の下面全面は接着層62に接している。カラーフィルター基板96は、有機EL素子74からの光から赤色光、緑色光、及び青色光を取り出すためのものであり、光透過性の低いブラックマトリックス層98と、この層に形成された開口を塞ぐフィルター層100とを有する。ブラックマトリックス層98には複数の開口があり、フィルター層100には、赤色光だけを通過させるもの、緑色光だけを通過させるもの、及び青色光だけを通過させるもの3種類がある。各フィルター層100は有機EL素子74に重なっており、重なっている有機EL素子74からの光の赤色光成分、緑色光成分又は青色光成分を透過させる。カラーフィルター基板96は、ガスバリア層60の保護をも目的としており、ブラックマトリックス層98及びフィルター層100以外の部分は、ガラス又は光透過性に優れたプラスチックから形成されている。このようなプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどがある。カラーフィルター基板96には、紫外線を遮断/吸収する機能、外光の反射を防止する機能、フィンにより放熱する機能などを持たせてもよい。
【0068】
本実施形態に係る有機EL装置4を製造するには、まず、基板72上にTFT78及び各種の配線と無機絶縁層80を形成する。次に、無機絶縁層80上に平坦化層82及び金属反射層88を形成する。次に、金属反射層88の腐食を防ぐため表面及びその周辺部を無機絶縁層で被覆した後、複数の陽極86を形成する。これにより、TFT78と陽極86とが1対1で接続される。陽極86の形成方法としては、陽極86の材料に適した公知の方法を採用可能である。次に、陽極86の一部と平坦化層82との上に、例えばポリイミドをパターン形成して画素隔壁絶縁層84を形成する。次に、基板72上から有機物系の異物の除去や仕事関数を上げるために、プラズマ洗浄などの洗浄処理を行う。
【0069】
次に、露出している陽極86上に、複数の有機EL素子74に共通の有機発光層76を形成する。この形成では、発光層が低分子系有機EL材料で成膜される。有機発光層76の形成方法は、加熱ボートを用いた真空蒸着法である。これは、有機発光層76が発光層のみからなる場合であっても、複数の層からなる場合であっても同様である。有機発光層76が複数の層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。
【0070】
次に、複数の有機EL素子74に共通の電極、すなわち共通陰極層90を形成する。共通陰極層90は、アルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金で形成する。例えば、まず、図7(a)に示すマスク部材66を用いて、加熱ボート(坩堝)を用いた真空蒸着法によりフッ化リチウムなどの電子注入性の高い金属又は合金を、成膜し、次に、真空蒸着法によりアルカリ土類金属を用いた合金のマグネシウム−銀合金などの仕事関数が低い金属又は合金の薄膜を成膜する。膜厚を薄くすることで導電性を確保しつつ透光性をできる限り高くして、反射性は抑制している。つまり、有機発光層76で発光した光のうち、上方(基板72の反対の方向)に向かう光をできるだけ直接射出して、トップエミッション型に対応している。
本実施形態における有機EL素子74は、共通陰極層90に光透過性を有する材料を用いることにより、有機発光層76で発光する光を共通陰極層90側から射出させるトップエミッション型を採用したものである。
【0071】
なお、ここでは、共通陰極層90としてマグネシウム−銀合金を用いたが、水及び酸素と反応して水酸化物及び酸化物を生成する材料からなる部材などの同様の機能を果たすものであれば、これに限らない。例えば、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba等)又はアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs等)が挙げられる。アルカリ土類金属又はアルカリ金属からなる部材を基板上に形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、又はCVD法等が挙げられる。
又は、水や酸素分子を物理的に取り込む、又は吸着させる材料でもよい。例えば、ゼオライト構造をとるモレキュラーシーブや、シリカゲルなどが挙げられる。
なお、第2領域90bにおける共通陰極層90(図9参照)の形成は、第1領域90aにおける共通陰極層90(図9参照)の形成と同時に行ってもよい。この場合、共通陰極層90の第2領域90bの膜厚は共通陰極層90の第1領域90aの膜厚よりも厚く形成するため、まず、共通陰極層90の第2領域90b及び共通陰極層90の第1領域90aに対応させたマスク部材66(図7(a)参照)を用いて成膜を開始し、共通陰極層90の第1領域90aのカルシウム薄膜の厚さ分の成膜時間が経過した時点でマスク部材66を共通陰極層90の第2領域90b用のマスク(図示せず)に変え、さらに第2領域90bにおける共通陰極層90の形成を行ってもよい。
【0072】
次に、酸素プラズマ処理を行う。次に、共通陰極層90を覆うように陰極保護層92を形成する。次に、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、陰極保護層92上に有機緩衝層94を形成する。次に、酸素プラズマ処理を行い、有機緩衝層94を覆うようにガスバリア層60を形成する。
【0073】
次に、無機絶縁層80、陰極保護層92、及びガスバリア層60を覆うように光透過性に優れた樹脂接着剤を塗布し、この樹脂接着剤にカラーフィルター基板96の下面全面を接触させ、この樹脂接着剤を硬化させて接着層62を形成する。この硬化は、カラーフィルター基板96の複数のフィルター層100と複数の有機EL素子74とが1対1で重なる位置で行われる。カラーフィルター基板96の接着のバリエーションとしては、第1の実施形態における表面保護基板64の接着のバリエーションと同様のものがある。
【0074】
本実施形態に係る有機EL装置4によれば、第1の実施形態に係る有機EL装置2により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0075】
(第3の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置は、有機緩衝層の構成を除いて第1の実施形態に係る有機EL装置2と同様である。
図10は、本実施形態に係る有機EL装置6の一部を拡大して示す断面図である。この有機EL装置6において、陰極保護層56上には、画素隔壁による凹凸を平坦化するため複数の有機EL素子22の全部に重なるように第1有機緩衝層102が形成されている。第1有機緩衝層102上には、複数の有機EL素子22の全部に重なるように第2有機緩衝層104が形成されている。陰極保護層56、第1有機緩衝層102、及び第2有機緩衝層104上には、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104の終端部まで完全に覆うようにガスバリア層60が形成されている。
【0076】
ガスバリア層60は、第1有機緩衝層102、第2有機緩衝層104、及び複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与するものであり、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104に密着している。ガスバリア層60は、光透過性、ガスバリア性、及び耐水性に優れた材料から形成されている。このような材料としては珪素酸窒化物、珪素窒化物、SiNHなどの窒素を含む珪素化合物が好ましい。ガスバリア層60の形成方法として、ICPやECRプラズマ、プラズマガンで発生させた高密度プラズマを用いる、スパッタやイオンプレーティング、CVD法などの高密度プラズマ成膜法を用いることで、低温かつ高密度で高品位の無機化合物の薄膜が形成される。ガスバリア層60の厚さは、複数の有機EL素子22の封止性の度合い、ガスバリア層60にクラックが生じたりガスバリア層60が剥離したりする可能性、及び製造コストを勘案して定められている。具体的には、300nm〜800nmである。
【0077】
第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104は、ガスバリア層60の平坦性及び密着性の向上と、ガスバリア層60に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。両有機緩衝層は、後述の粘度及び組成の有機緩衝層材料(液体)を減圧雰囲気下のスクリーン印刷法を用いて、スクリーンメッシュとスキージを用いて隔壁構造体48による凹凸を膜厚を制御して第2有機緩衝層104の上面が略平坦化するように塗布し、その後の硬化によって形成される。第2有機緩衝層104に重なる基板40上の領域は、第1有機緩衝層102に重なる基板40上の領域に含まれるように形成されている。
【0078】
第1有機緩衝層102は、好適には厚さが3μm〜10μmであり、複数の有機EL素子22のすべてに重なる第1被覆部分102aと、第1被覆部分102aを囲む定常の厚さの第1定常部分102bと、第1定常部分102bを囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第1外端部分102cとを有する。第1有機緩衝層102は液体を塗布して形成されるものであるため、第1有機緩衝層102の終端部において第1外端部分102cの上面と基板40の上面とがなす角(θ1)は、第1定常部分102bの厚さに応じたものとなる。本実施形態では、この角(θ1)が20度以下となるように、第1定常部分102bの厚さの上限が定められている。このため、第1被覆部分102aの上面は平坦でなくなっている。
【0079】
一方、第2有機緩衝層104は、隔壁構造体48の高さに準じて好適には厚さが3μm〜20μmであり、複数の有機EL素子22の全てに重なる第2被覆部分104aと、第2被覆部分104aを囲む定常の厚さの第2定常部分104bと、第2定常部分104bを囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第2外端部分104cとを有する。第2有機緩衝層104は液体を塗布して形成されるものであり、この塗布は、第2被覆部分104aの上面が平坦となるように行われるため、第2定常部分104bは第1定常部分102bよりも厚くなっており、第2有機緩衝層104の最外端において第2外端部分104cの上面と下面とがなす角(θ2)は、上記の角(θ1)よりも大きくなっている。なお、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104の厚さは、ガスバリア層60を越えて滲入してきた異物に対する被覆性や、後述の表面保護基板64(図2参照)の上面に到達せずに表面保護基板64の側面や後述の接着層62の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0080】
本実施形態に係る有機EL装置6によれば、第1の実施形態に係る有機EL装置2により得られる効果と同様の効果が得られる。
さらに、本実施形態に係る有機EL装置6では、有機緩衝層が2層構成であるため、各有機緩衝層の厚さは、一層構成の場合の有機緩衝層よりも薄くなる。したがって、各有機緩衝層の終端部の角度は、一層構成の場合の有機緩衝層の終端部の角度よりも小さくなる。具体的には、広くて下の第1有機緩衝層102の第1外端部分102cの角度は20度以下となっている。また、狭くて上の第2有機緩衝層104に重なる基板40上の領域が、広くて下の第1有機緩衝層102に重なる基板40上の領域に含まれており、第1定常部分102bには第2定常部分104b及び第2外端部分104cが重なっている。したがって、ガスバリア層60の立ち上がり部分では、ガスバリア層60の立ち上がる角度が緩やかに増していくことになる。よって、ガスバリア層60は、割れたり剥離したりし難いものとなる。したがって、本実施形態に係る有機EL装置6によれば、割れたり剥離したりし難いガスバリア層60で複数の有機EL素子22を十分に封止することができる。
【0081】
(第4の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置は、有機緩衝層の構成を除いて第1の実施形態に係る有機EL装置2と同様である。
図11は、本実施形態に係る有機EL装置8の一部を拡大して示す断面図である。この有機EL装置8において、陰極保護層56上には、複数の有機EL素子22の全部に重なるように第1有機緩衝層106が形成されている。第1有機緩衝層106上には、第1有機緩衝層106領域を覆うように第2有機緩衝層108が形成されている。陰極保護層56、第1有機緩衝層106、及び第2有機緩衝層108上には、両有機緩衝層領域の全てを被覆するような広い範囲でガスバリア層60が形成されている。
【0082】
第1有機緩衝層106及び第2有機緩衝層108は、ガスバリア層60の平坦性及び密着性の向上と、ガスバリア層60に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。両有機緩衝層は、前述の有機緩衝層材料を減圧雰囲気下で塗布し硬化させて形成されており、互いに密着している。第1有機緩衝層106に重なる基板40上の領域は、第2有機緩衝層108に重なる基板40上の領域に含まれている。
【0083】
第1有機緩衝層106は、複数の有機EL素子22の全てに重なる第1被覆部分106aと、第1被覆部分106aを囲む定常の厚さの第1定常部分106bと、第1定常部分106bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1外端部分106cとを有する。第1有機緩衝層106は液体を塗布して形成されるものであるため、第1有機緩衝層106の最外端において第1外端部分106cの上面と基板40の上面とがなす角(θ3)は、第1定常部分106bの厚さに応じたものとなる。
【0084】
一方、第2有機緩衝層108は、複数の有機EL素子22の全てに重なる第2被覆部分108aと、第2被覆部分108aを囲む定常の厚さの第2定常部分108bと、第2定常部分108bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2外端部分108cとを有する。第2有機緩衝層108は液体を塗布して形成されるものであり、この塗布は、第2被覆部分108aの上面が平坦となるように行われる。
【0085】
本実施形態では、第2有機緩衝層108の終端部において第2外端部分108cが立ち上がる角(θ4)が20度以下となるように、第2定常部分108bの厚さの上限が定められている。これを満たすように第2有機緩衝層108が形成されたときに第2被覆部分108aの上面が平坦となるように、第1定常部分106bの厚さ、すなわち第1有機緩衝層106が立ち上がる角(θ3)が定められている。本実施形態では、θ3≒θ4となっている。また、第1有機緩衝層106の厚さは、隔壁構造体48の高さや、カラーフィルター機能などを有する表面保護基板64(図2参照)の上面に効率よく光を透過させるように、表面保護基板64の側面や後述の接着層62の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0086】
本実施形態に係る有機EL装置8では、有機緩衝層が2層構成であり、狭くて下の第1有機緩衝層106に重なる基板40上の領域が、広くて上の第2有機緩衝層108に重なる基板40上の領域に含まれている。また、狭くて下にある方の第1有機緩衝層106が厚く、広くて上にある方の第2有機緩衝層108が薄くなっている。また、第2定常部分108bに第1定常部分106b及び第1外端部分106cが重なっている。以上より、本実施形態に係る有機EL装置8によれば、第3の実施形態に係る有機EL装置6により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0087】
(第5の実施形態)
本実施形態に係る有機EL装置は、有機緩衝層の構成を除いて第2の実施形態に係る有機EL装置4と同様である。
図12は、本実施形態に係る有機EL装置10の一部を拡大して示す断面図である。この有機EL装置10において、陰極保護層92上には、複数の有機EL素子74及び画素隔壁絶縁層84、平坦化層82の全部に重なるように第1有機緩衝層110が形成されている。陰極保護層92及び第1有機緩衝層110上には、第1有機緩衝層110を覆うように第2有機緩衝層112が形成されている。陰極保護層92及び第2有機緩衝層112上には、第2有機緩衝層112を覆うようにガスバリア層60が形成されている。
【0088】
陰極保護層92、第1有機緩衝層110、及び第2有機緩衝層112は、第4の実施形態における陰極保護層56、第1有機緩衝層106、及び第2有機緩衝層108に相当する。したがって、第1有機緩衝層110は、複数の有機EL素子74の全てに重なる第1被覆部分110aと、第1被覆部分110aを囲む定常の厚さの第1定常部分110bと、第1定常部分110bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1外端部分110cとを有する。一方、第2有機緩衝層112は、複数の有機EL素子74の全てに重なる第2被覆部分112aと、第2被覆部分112aを囲む定常の厚さの第2定常部分112bと、第2定常部分112bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2外端部分112cとを有する。
【0089】
本実施形態では、第2有機緩衝層112の終端部において第2外端部分112cが立ち上がる角(θ6)が20度以下となるように、第2定常部分112bの厚さの上限が定められている。また、これを満たすように第2有機緩衝層112が形成されたときに第2被覆部分112aの上面が平坦となるように、第1定常部分110bの厚さ、すなわち第1有機緩衝層110が立ち上がる角(θ5)が定められている。本実施形態においても、θ5≒θ6である。また、第1有機緩衝層110の厚さは、画素隔壁の段差に対する被覆性や、カラーフィルター基板96(図8参照)の下面に到達せずに後述の接着層62の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0090】
本実施形態に係る有機EL装置10によれば、第2の実施形態に係る有機EL装置4により得られる効果と同様の効果が得られる。
さらに、本実施形態に係る有機EL装置10では、有機緩衝層が2層構成であり、狭くて下の第1有機緩衝層110に重なる基板72上の領域が、広くて上の第2有機緩衝層112に重なる基板72上の領域に含まれている。また、狭くて下にある方の第1有機緩衝層110が厚く、広くて上にある方の第2有機緩衝層112が薄くなっている。また、第2定常部分112bに第1定常部分110b及び第1外端部分110cが重なっている。以上より、本実施形態に係る有機EL装置10によれば、第4の実施形態に係る有機EL装置8により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0091】
(第6の実施形態)
図13は、本実施形態に係る有機EL装置12の一部を拡大して示す断面図である。この図から明らかなように、この有機EL装置12は、ガスバリア層の構成を除いて第3の実施形態に係る有機EL装置6と同様である。
【0092】
本実施形態に係る有機EL装置12は、ガスバリア層として、第1ガスバリア層114と第2ガスバリア層116とを備える。第1ガスバリア層114は、陰極保護層56、第1有機緩衝層102、及び第2有機緩衝層104上に形成され、第1有機緩衝層102及び第2有機緩衝層104に密着し、これらを覆っている。第2ガスバリア層116は、第1ガスバリア層114上に形成され、複数の有機EL素子22領域を被覆しつつ、第1有機緩衝層102の終端部が露出するように狭い範囲で形成される。両ガスバリア層は第3の実施形態におけるガスバリア層60と同一の材料から形成され、相互に密着している。
【0093】
第1ガスバリア層114は、第1有機緩衝層102、第2有機緩衝層104、及び複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与する。第1ガスバリア層114の厚さは200nm〜400nmである。この範囲の下限は、有機緩衝層の側面やその近傍における封止性が不足しないように定められている。第2ガスバリア層116は複数の有機EL素子22の封止性の向上に寄与する。第2ガスバリア層116の厚さは、200nm〜800nmである。また、本実施形態では、第1ガスバリア層114の厚さと第2ガスバリア層116の厚さの和、すなわちガスバリア層の総厚が1000nm未満となるように、両層の厚さが制限されている。この制限は、複数の有機EL素子22の封止性の度合い、ガスバリア層にクラックが生じたりガスバリア層が剥離したりする可能性、及び製造コストを勘案して定められている。
【0094】
本実施形態に係る有機EL装置12によれば、第3の実施形態に係る有機EL装置6により得られる効果と同様の効果が得られる。ところで、封止性を向上させるためにはガスバリア層を厚くする必要があるが、ガスバリア層を一様に厚くすると、ガスバリア層の平坦でない部分への応力集中が著しくなってしまう。これに対し、本実施形態によれば、ガスバリア層として第1ガスバリア層114及び第2ガスバリア層116を備えることにより、複数の有機EL素子22の全部に重なるガスバリア層の総厚を十分に厚くしつつ、ガスバリア層が立ち上がる第1有機緩衝層102の終端部においてガスバリア層を薄くすることができる。したがって、複数の有機EL素子22の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さ及び剥離し難さを維持することができる。
【0095】
(第7の実施形態)
図14は、本実施形態に係る有機EL装置14の一部を拡大して示す断面図である。この図から明らかなように、この有機EL装置14は、ガスバリア層の構成を除いて第4の実施形態に係る有機EL装置8と同様である。本実施形態に係る有機EL装置14は、第6の実施形態における第1ガスバリア層114及び第2ガスバリア層116に相当する、第1ガスバリア層118及び第2ガスバリア層120を備える。
【0096】
本実施形態に係る有機EL装置14によれば、第4の実施形態に係る有機EL装置8により得られる効果と同様の効果が得られる。さらに、ガスバリア層として第1ガスバリア層118及び第2ガスバリア層120を備えることにより、複数の有機EL素子22の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さ及び剥離し難さを維持することができる。
【0097】
(第8の実施形態)
図15は、本実施形態に係る有機EL装置16の一部を拡大して示す断面図である。この図から明らかなように、この有機EL装置16は、ガスバリア層の構成を除いて第5の実施形態に係る有機EL装置10と同様である。本実施形態に係る有機EL装置16は、第7の実施形態における第1ガスバリア層118及び第2ガスバリア層120に相当する、第1ガスバリア層122及び第2ガスバリア層124を備える。
【0098】
本実施形態に係る有機EL装置16によれば、第5の実施形態に係る有機EL装置10により得られる効果と同様の効果が得られる。さらに、ガスバリア層として第1ガスバリア層122及び第2ガスバリア層124を備えることにより、複数の有機EL素子74の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さ及び剥離し難さを維持することができる。
【0099】
(変形例)
上述した実施形態を変形し、有機緩衝層の数を3つ以上としてもよい。ただし、これらの有機緩衝層には、一方の有機緩衝層に重なる基板上の領域と他方の有機緩衝層に重なる基板の領域とが完全には一致せずに重なるような2つの有機緩衝層が含まれていなければならない。これはガスバリア層についても同様である。なお、上述した第6〜第8の実施形態を変形し、基板に近い方の第1ガスバリア層を基板から遠い方の第2ガスバリア層が覆うように構成してもよい。
【0100】
なお、前記各実施形態では、基板面内の少なくとも1辺に沿って連続的に共通陰極層の第2領域を形成しているが、一部に形成されていない部分があってもよい。ただし、連続的に形成されている方が脱酸素/脱水性能が高い。また、第1領域の全周縁部に連続的で形成されていてもよい。また、共通陰極層の第2領域の大きさ(断面積)が大きい程脱酸素/脱水性能は高くなる。そのため、共通陰極層の第2領域の大きさ(断面の幅や厚さ)を要求される脱酸素/脱水性能に応じて適宜設定する。
【符号の説明】
【0101】
2,4,6,8,10,12,14,16…有機EL装置、20…表示領域、21…コンタクト領域、22…有機EL素子、22R…赤色有機EL素子、22G…緑色有機EL素子、22B…青色有機EL素子、24…走査線、26…信号線、28…電源供給線、30…スイッチング用TFT、32…保持容量、34…駆動用TFT、35…共通陰極用配線、36…走査線駆動回路、38…信号線駆動回路、40…基板、42…有機発光層、44…無機絶縁層、46…親液バンク層(隔壁構造体)、48…隔壁構造体、48a…開口部、48b…端縁部、48c…外周部、50…撥液バンク層(隔壁構造体)、52…陽極(第1電極)、54…共通陰極層(第2電極)、54a…第1領域、54b…第2領域、56…陰極保護層(封止膜)、58…有機緩衝層(封止膜)、60…ガスバリア層(封止膜)、62…接着層(封止膜)、64…表面保護基板(封止部材)、66…マスク部材、68…開口部、70…アライメントマーク、72…基板、73…コンタクト領域、74…有機EL素子、76…有機発光層、78…TFT、79…共通陰極用配線、80…無機絶縁層、82…平坦化層、82b…外周部、84…画素隔壁絶縁層、84a…開口部、84b…端縁部、86…陽極(第1電極)、88…金属反射層、90…共通陰極層(第2電極)、90a…第1領域、90b…第2領域、92…陰極保護層(封止膜)、94…有機緩衝層(封止膜)、96…カラーフィルター基板、98…ブラックマトリックス層、100…フィルター層、102…第1有機緩衝層(封止膜)、102a…第1被覆部分、102b…第1定常部分、102c…第1外端部分、104…第2有機緩衝層(封止膜)、104a…第2被覆部分、104b…第2定常部分、104c…第2外端部分、106…第1有機緩衝層、106a…第1被覆部分、106b…第1定常部分、106c…第1外端部分、108…第2有機緩衝層、108a…第2被覆部分、108b…第2定常部分、108c…第2外端部分、110…第1有機緩衝層(封止膜)、110a…第1被覆部分、110b…第1定常部分、110c…第1外端部分、112…第2有機緩衝層(封止膜)、112a…第2被覆部分、112b…第2定常部分、112c…第2外端部分、114,118,122…第1ガスバリア層、116,120,124…第2ガスバリア層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、複数の第1電極と、該第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁構造体と、該複数の開口部のそれぞれに配置された有機発光層と、前記隔壁構造体及び前記有機発光層を覆う第2電極と、該第2電極を覆う封止膜あるいは封止部材と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第2電極は、前記隔壁構造体の端縁部を除く該隔壁構造体および前記有機発光層を含む第1領域と、前記第1領域と分離され、前記隔壁構造体の端縁部及び該隔壁構造体の外周部の少なくとも一部を含む第2領域とを覆うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2電極は、アルカリ土類金属からなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2電極の膜厚は、1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第1領域における前記第2電極は、前記第2領域における前記第2電極と同層に配置されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2領域における前記第2電極は、前記基板面内の全周縁部に渡って配置されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2領域における前記第2電極は、電気的にフローティング状態であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項1】
基板上に、複数の第1電極と、該第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁構造体と、該複数の開口部のそれぞれに配置された有機発光層と、前記隔壁構造体及び前記有機発光層を覆う第2電極と、該第2電極を覆う封止膜あるいは封止部材と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第2電極は、前記隔壁構造体の端縁部を除く該隔壁構造体および前記有機発光層を含む第1領域と、前記第1領域と分離され、前記隔壁構造体の端縁部及び該隔壁構造体の外周部の少なくとも一部を含む第2領域とを覆うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2電極は、アルカリ土類金属からなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2電極の膜厚は、1nm〜50nm、好ましくは、10nm〜30nmであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第1領域における前記第2電極は、前記第2領域における前記第2電極と同層に配置されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2領域における前記第2電極は、前記基板面内の全周縁部に渡って配置されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置において、
前記第2領域における前記第2電極は、電気的にフローティング状態であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−257957(P2010−257957A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77490(P2010−77490)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]