説明

有機ケイ素化合物

【解決手段】下記式(1)


〔式中、R及びR2は置換又は非置換の炭素原子数1〜12の一価炭化水素基であり、同一でも異なっていても良い。nは1〜6の整数である。〕
で示される構造を部分構造として含むことを特徴とするシリルケテンアセタール型化合物。
【効果】本発明の新規有機ケイ素化合物は、アルコール類、シラノール類と効率よく反応し、工業的に有用なα,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤、あるいはシリカの表面処理剤、アルコール等のスカベンジャーとして脱アルコールタイプRTVの保存安定剤等の用途に有用である。また、分子中に3個のメトキシ基を有する3官能のアルコキシシランは、脱アルコールタイプRTVの硬化剤としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機ケイ素化合物に関するものであり、特にアルコキシシリル化剤、表面処理剤、硬化剤、アルコールスカベンジャーなどとしての保存安定剤等として有用な新規有機ケイ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
α,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤としては、種々のアルコキシシラン類が公知である。例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシラン類、さらに高活性なシリル化剤としては特許第2507251号公報(特許文献1)に例示されている。
しかしながら、従来公知のアルコキシシリル化剤は、反応性等において未だ満足すべきものでなく、さらに反応性等の特性が向上したアルコキシシリル化剤が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特許第2507251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、オルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤等の用途に有用な新規有機ケイ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、アクリル酸エステル類とハイドロアルコキシシロキサン化合物とをヒドロシリル化反応させて得られる化合物、特に、下記式(2)で示されるシリルケテンアセタール型化合物が上述した課題の解決に有用であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
即ち、本発明は、下記の有機ケイ素化合物を提供する。
〔1〕下記式(1)
【化1】

〔式中、R及びR2は置換又は非置換の炭素原子数1〜12の一価炭化水素基であり、同一でも異なっていても良い。nは1〜6の整数である。〕
で示される構造を部分構造として含むことを特徴とするシリルケテンアセタール型化合物。
〔2〕下記式(2)
【化2】

〔式中、R、R1及びR2は置換又は非置換の炭素原子数1〜12の一価炭化水素基であり、同一でも異なっていても良い。nは1〜6の整数であり、aは1〜3の整数を示す。〕
で表される〔1〕記載のシリルケテンアセタール型化合物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規有機ケイ素化合物は、アルコール類、シラノール類と効率よく反応し、工業的に有用なα,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤、あるいはシリカの表面処理剤、アルコール等のスカベンジャーとして脱アルコールタイプRTVの保存安定剤等の用途に有用である。また、分子中に3個のメトキシ基を有する3官能のアルコキシシランは、脱アルコールタイプRTVの硬化剤としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の有機ケイ素化合物は、上記式(1)の構造を部分構造として含む化合物、特には、上記式(2)で表されるシリルケテンアセタール型化合物である。
【0009】
ここで、前記一般式(1)及び(2)において、R、R1、R2で表される炭素原子数1〜12の一価炭化水素基は、直鎖状、環状、分岐状のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基及びt−ブチル基、2−エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部を塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基等で置換された基等を挙げることができる。これらの基は同一であっても異なっていても良い。本発明において好適なR及びR1はメチル基、エチル基であり、R2はメチル基、エチル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基であることが好ましい。
また、nは1〜6、特に2〜4の整数であり、aは1〜3の整数である。
【0010】
上記一般式(2)で表される本発明の有機ケイ素化合物は、そのケイ素−酸素結合が、比較的温和な条件下で開裂するシリルケテンアセタール構造を有していることに関連して、アルコール類、シラノール類と効率よく反応する。従って、この新規有機ケイ素化合物は、工業的に有用なα,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤、あるいはシリカの表面処理剤、アルコール等のスカベンジャーとして脱アルコールタイプRTVの保存安定剤等の用途に有用である。また、分子中に3個のメトキシ基を有する場合、3官能のアルコキシシランであることから脱アルコールタイプRTVの硬化剤としても有用である。
【0011】
製造方法
本発明のシリルケテンアセタール型化合物は、アクリル酸エステル類とハイドロアルコキシシロキサン類とを反応させることによって製造することができる。この反応式は、例えば次式[1]で表される。
【0012】
【化3】

〔式中、R、R1、R2、n、aは前記の通りである。〕
【0013】
この反応は、上記式[1]から明らかな通り、アクリル酸エステル類に対するシロキサン化合物のヒドロシリル(SiH)基の1,4−付加反応である。この場合、本発明において、ヒドロシロキサン化合物としては、下記に示すものが好適に用いられる。
【0014】
【化4】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。)
【0015】
一方、上記ヒドロシロキサン化合物と反応させて用いるアクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を好ましく使用することができる。
【0016】
本発明で用いるヒドロシロキサン化合物とアクリル酸エステルの量は、ヒドロシロキサン化合物1モルに対してアクリル酸エステル0.8〜1.2モルとなることが好ましい。
【0017】
上記反応は、通常、この種の付加反応触媒の存在下で行われる。かかる触媒としては、白金族金属系触媒、例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがあるが、白金系のものが特に好適である。この白金系のものとしては、白金黒あるいはアルミナ、シリカ等の担体に固体白金を担持させたもの、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィンとの錯体あるいは白金とビニルシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらの触媒の使用量は、所謂触媒量でよく、例えば前記アクリル酸エステルとハイドロアルコキシシロキサン類との合計量に対して、白金族金属換算で0.1〜1000ppm、特に0.5〜100ppmの量で使用される。
【0018】
この反応は、一般に50〜120℃、特に60〜100℃の温度で、0.5〜12時間、特に1〜6時間行うことが望ましく、また溶媒を使用せずに行うことができるが、上記付加反応等に悪影響を与えない限りにおいて、必要によりトルエン、キシレン等の適当な溶媒を使用することができる。
【0019】
また上記式[1]の反応によれば、本発明の有機ケイ素化合物以外に、次の式(3)及び(4)で表される異性体が、副反応生成物として極僅か生成する。
【化5】

〔式中、R、R1、R2、n、aは前記の通りである。〕
【0020】
これら副反応生成物の生成量は極僅かであり、また本発明の有機ケイ素化合物の異性体であって、その特性に悪影響を与えないことから、これらを分離することなく、末端アルコキシシリル化剤、シリカの表面処理剤、保存安定剤、硬化剤等の用途に使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。
【0022】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた500mlの四つ口フラスコに、エチルアクリレート100.12g(1モル)、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)0.23g、イルガノックス1330(チバ・ガイギ社製重合禁止剤)1.4g、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(チバ・ガイギ社製重合禁止剤)1.4gを入れ、加熱攪拌しながら温度を70℃に上げた。
次いで、攪拌下で、下記ヒドロシロキサン化合物−1 282.5g(1モル)を滴下していくと、発熱が認められ、反応温度は70〜80℃となり、4時間、この温度に反応系を保持した。反応終了後、減圧蒸留により、沸点130〜132℃/7mmHgに314g(収率82%)の留分が得られた。
【0023】
ガスクロマトグラフィー(GC)分析によれば、この留分は、目的生成物(1)を97%以上含んでいることを確認した。得られた生成物(1)の1HNMR、13CNMR及び29SiNMRチャートを図1〜3にそれぞれ示す。また、IR分析チャートを図4に示す。
【0024】
ヒドロシロキサン化合物−1
【化6】

目的生成物(1)
【化7】

【0025】
[実施例2〜5]
下記表1に示した通り、アクリル酸エステル、ヒドロシロキサン化合物を使用し、実施例1と同様な方法で合成を行った。得られた生成物(2)〜(5)のガスクロマトグラフィー分析結果を表1に示す。また、各生成物の1HNMR、13CNMR、29SiNMRチャート、及びIR分析チャートをそれぞれ図5〜20に示す。
【0026】
【表1】

*1 蒸留不能、目的生成物より沸点の低い生成物を減圧下濃縮除去
*2 純度:目的生成物 不純物は副反応生成物,GC分析結果
【0027】
ヒドロシロキサン化合物−2
【化8】

ヒドロシロキサン化合物−3
【化9】

【0028】
目的生成物(2)
【化10】

目的生成物(3)
【化11】

【0029】
目的生成物(4)
【化12】

目的生成物(5)
【化13】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られた目的生成物(1)の1HNMRチャートである。
【図2】実施例1で得られた目的生成物(1)の13CNMRチャートである。
【図3】実施例1で得られた目的生成物(1)の29SiNMRチャートである。
【図4】実施例1で得られた目的生成物(1)のIR分析チャートである。
【図5】実施例2で得られた目的生成物(2)の1HNMRチャートである。
【図6】実施例2で得られた目的生成物(2)の13CNMRチャートである。
【図7】実施例2で得られた目的生成物(2)の29SiNMRチャートである。
【図8】実施例2で得られた目的生成物(2)のIR分析チャートである。
【図9】実施例3で得られた目的生成物(3)の1HNMRチャートである。
【図10】実施例3で得られた目的生成物(3)の13CNMRチャートである。
【図11】実施例3で得られた目的生成物(3)の29SiNMRチャートである。
【図12】実施例3で得られた目的生成物(3)のIR分析チャートである。
【図13】実施例4で得られた目的生成物(4)の1HNMRチャートである。
【図14】実施例4で得られた目的生成物(4)の13CNMRチャートである。
【図15】実施例4で得られた目的生成物(4)の29SiNMRチャートである。
【図16】実施例4で得られた目的生成物(4)のIR分析チャートである。
【図17】実施例5で得られた目的生成物(5)の1HNMRチャートである。
【図18】実施例5で得られた目的生成物(5)の13CNMRチャートである。
【図19】実施例5で得られた目的生成物(5)の29SiNMRチャートである。
【図20】実施例5で得られた目的生成物(5)のIR分析チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

〔式中、R及びR2は置換又は非置換の炭素原子数1〜12の一価炭化水素基であり、同一でも異なっていても良い。nは1〜6の整数である。〕
で示される構造を部分構造として含むことを特徴とするシリルケテンアセタール型化合物。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

〔式中、R、R1及びR2は置換又は非置換の炭素原子数1〜12の一価炭化水素基であり、同一でも異なっていても良い。nは1〜6の整数であり、aは1〜3の整数を示す。〕
で表される請求項1記載のシリルケテンアセタール型化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2008−120735(P2008−120735A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306596(P2006−306596)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】