説明

有機チタンオリゴマー及びその製造方法

【課題】加水分解に対して安定であるが、触媒活性は低下しない有機チタンオリゴマー及びその製造方法を提供すること、及び、環境負荷が小さい有機チタンオリゴマーを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)で表される有機チタンオリゴマーであり、


[式(1)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは2以上の実数を示す。]
また、テトラアルコキシチタンを実質的に溶媒で希釈することなく、そこに、水又は水と水溶性溶媒との混合液を添加して加水分解を行わせることを特徴とする有機チタンオリゴマーの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機チタンオリゴマー及びその製造方法に関し、更に詳しくは、コーティング材、エステル化触媒、室温硬化型シリコーンゴム(Room Temperature Vulcanizing:RTV)硬化触媒、アルコキシシラン化合物の反応性向上触媒、プライマー、高屈折率膜材料、表面処理剤、シーリング材等に使用可能な有機チタンオリゴマー及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、テトラアルコキシチタン化合物は、エステル化触媒、RTV硬化触媒、プライマーや高屈折率膜材料等として有用であることが知られているが、加水分解性が高いために空気中での取り扱いが難しいことから、アセチルアセトン等のキレート化剤でキレート化して安定性を高めている。しかし、キレート化剤を用いると、チタン化合物が強く着色してしまい、例えば触媒等として使用した場合であっても、最終製品にまでその色が残ってしまうという問題点があった。
【0003】
また、アルコキシシラン化合物の反応性を向上させる触媒としての利用も考えられるが、その「触媒活性」と「テトラアルコキシチタン化合物自身の加水分解を受けにくさ」との両立がし難いという問題点もあった。
【0004】
一方、特許文献1には、テトラアルコキシチタンをポリマー化した化合物が開示されているが、上記問題点を完全に解決するものではなかった。
【0005】
すなわち、ポリマー化することにより自らの加水分解性は低下するものの、触媒として用いた時には加水分解性の低さが災いして、活性が極端に低くなってしまうという欠点があった。
【0006】
更に、特許文献1に記載の製造方法では、原料のテトラアルコキシチタンを溶剤で希釈しているため溶剤使用量が多くなり、更に留去によって希釈に用いた溶剤を取り除くため、多量の廃棄溶剤を出すこととなり、結果として環境負荷を大きくするという問題点もあった。環境問題が取り沙汰されている今日では、この様な製造方法は社会に受け入れがたいと考えられる。
【特許文献1】米国特許第2,689,858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、加水分解に対して安定であるが触媒活性は低下しない有機チタンオリゴマー及びその製造方法を提供することにある。また、環境負荷が小さい有機チタンオリゴマーを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有する有機チタンオリゴマーによって、自身の加水分解性と触媒活性が両立したものが得られ、更には、環境負荷も小さくできることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、下記式(1)で表される有機チタンオリゴマーを提供するものである。
【化1】

[式(1)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは2以上の実数を示す。]
【0010】
また、本発明は、下記式(2)で表されるテトラアルコキシチタンを実質的に溶媒で希釈することなく、そこに、水又は水と水溶性溶媒との混合液を添加して加水分解を行わせることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の有機チタンオリゴマーの製造方法を提供するものである。
【化2】

[式(2)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示す。]
【0011】
また、本発明は、上記有機チタンオリゴマーの製造方法で製造されたことを特徴とする有機チタンオリゴマーを提供することにある。
【0012】
また、本発明は、上記有機チタンオリゴマーを含有することを特徴とするコーティング材を提供することにある。また、本発明は、上記コーティング材を塗布し、20〜200℃の温度で加熱することにより得られた有機チタン化合物又は酸化チタンの被膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加水分解に対して安定であるので取り扱いが容易であるが、ひとたび反応系中に配合されると優れた触媒性能を発揮する有機チタンオリゴマーを提供することができる。また、本発明の製造方法は、コスト低減及び環境負荷低減等が可能である。そして、コーティング材、エステル化触媒、RTV硬化触媒、アルコキシシラン化合物の反応性向上触媒、プライマー、高屈折率膜材料、表面処理剤、シーリング材等に好適に使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0015】
本発明の有機チタンオリゴマーは下記式(1)で表される構造を有するものである。
【化3】

[式(1)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは2以上の実数を示す。]
【0016】
式(1)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示す。ここで、「アルキル基又はアルケニル基」は、直鎖のものであっても、分岐を有しているものであってもよいが、好ましくは分岐を有している炭素数3〜12個のものである。また、アルキル基が好ましい。特に好ましくはターシャリー(tert−)アルキル基を有しているものである。このようなR、R、R及びRによって、有機チタンオリゴマーの加水分解性が適度に緩和されて保存安定性が良好となるが、同時に触媒としての能力も維持できる。
【0017】
、R、R及びRの炭素数は1〜12個が必須であるが、1〜10個が好ましく、2〜8個がより好ましく、3〜6個が特に好ましい。炭素数が少なすぎると、有機チタンオリゴマーの加水分解性が高くなりすぎる場合があり、一方、多すぎると、有機チタンオリゴマーの加水分解性が低くなりすぎる場合がある。
【0018】
式(1)中のR、R、R及びRとしては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。このうち、特に好ましくは、自身の加水分解性と触媒活性の両立の点から、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、tert−ペンチル基等が挙げられ、沸点、引火点、安全性等の点から、最も好ましくは、tert−ブチル基、tert−ペンチル基等が挙げられる。
【0019】
式(1)中のR、R、R及びRは、置換基を含んでいてもよいが、その置換基としては、水酸基、エステル基、ケトン基、エーテル基、アミノ基等が挙げられる。R、R、R及びRは、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
式(1)中のn(nは繰り返し単位数の平均値を示す)は2以上の実数を示す。すなわち、式(1)で表される有機チタンオリゴマーは、平均組成としてnが2以上の実数である組成物である。好ましくは2〜10の実数、より好ましくは2〜6の実数、特に好ましくは2〜4の実数である。nが大きくなりすぎると、加水分解に対して安定化しすぎて、触媒としての反応性が大きく落ちてしまう場合がある。nの値は、後述する製造方法により自由に調節できる。
【0021】
本発明の有機チタンオリゴマーの製造方法は特に限定されないが、以下の製造方法で製造されたものが、加水分解に対して安定で、優れた触媒性能を発揮し、また、コスト低減、環境負荷低減等の点で好ましい。
【0022】
すなわち、下記式(2)で表されるテトラアルコキシチタンを実質的に溶媒で希釈することなく、そこに、水又は水と水溶性溶媒との混合液を添加して加水分解を行わせることを特徴とする有機チタンオリゴマーの製造方法である。
【化4】

[式(2)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示す。]
【0023】
式(2)において、R、R、R及びRとしては、式(1)中のR、R、R及びRとして、前記したものが挙げられる。好ましい範囲、好ましい置換基等も同様である。また、好ましい理由も同様である。R、R、R及びRは、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
式(2)で表される化合物の好適な具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−(sec−ブトキシ)チタン、テトラ−(tert−ブトキシ)チタン、テトラペンチルオキシチタン、テトラ(ペンチル−2−オキシ)チタン、テトラ(ペンチル−3−オキシ)チタン、テトラ−(tert−ペンチルオキシ)チタン等のアルコキシチタン類;ジオクチルオキシチタンビスオクチレングリコレート等のチタングリコレート類等が挙げられる。
【0025】
上記式(2)で表されるテトラアルコキシチタンを実質的に溶媒で希釈することなく、そこに、「水」又は「水と水溶性溶媒との混合液」を添加して加水分解を行わせることが好ましい。式(2)で表されるテトラアルコキシチタンに水を加えることによってオリゴマー化を行うが、そのときのテトラアルコキシチタン側を実質的に溶媒で希釈しておかないことによって、製造工程における最後に溶媒の留去をする場合でも、オリゴマー化によって生じたアルコールの留去だけになり、コストダウン、環境負荷の低減に資するだけでなく、加水分解に対して安定であるが触媒活性は低下しない有機チタンオリゴマーを得ることができる。
【0026】
式(2)で表されるテトラアルコキシチタンに水を加えることによってオリゴマー化を行うが、そのときの水側は「水単独」であっても、「水と水溶性溶媒との混合液」であってもよい。「水と水溶性溶媒との混合液」における水溶性溶媒としては、使用する水が全て相溶できる溶媒であれば特に限定はないが、アルコール類、ケトン類、エーテル類等が挙げられ、特に好ましくはアルコール類である。かかる水溶性溶媒は1種単独で又は2種以上混合して用いられる。
【0027】
かかるアルコール類としては特に限定はないが、分岐を有するアルキル基に水酸基が結合したアルコール類が好ましく、分岐を有する炭素数3〜12個のアルキル基に水酸基が結合した構造のアルコール類がより好ましく、ターシャリー(tert−)アルキルアルコールが特に好ましい。
【0028】
具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、2−ペンチルアルコール、3−ペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール等が挙げられる。このうち、特に好ましくは、イソプロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、2−ペンチルアルコール、3−ペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール等が挙げられ、沸点、引火点、安全性等の点から、最も好ましくは、tert−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール等が挙げられる。
【0029】
式(2)におけるアルキル基に水酸基が結合したアルコール類、すなわち、ROH、ROH、ROH又はROHも、アルキル基部位がチタンに結合したアルキル基と同じになるため、加水分解後の組成物の安定性等の点で好ましい。かかるアルコール類は1種単独で又は2種以上混合して用いられる。
【0030】
式(2)で表されるテトラアルコキシチタンに対する水の使用量は特に限定はないが、テトラアルコキシチタン1モル部に対して、水0.5モル部以上が好ましく、0.5〜0.9モル部がより好ましく、0.5〜0.83モル部が特に好ましく、0.5〜0.75モル部が更に好ましい。水の量によって、式(1)における「n」の値が決まるので、水の量は好適なnの値になるように決められる。水の使用量が多すぎる場合は、nが大きくなりすぎて加水分解性が低くなりすぎる場合があり、少なすぎる場合は、オリゴマー化が不十分になり、加水分解性が高くなりすぎる場合がある。
【0031】
また、テトラアルコキシチタンに加える「水と水溶性溶媒との混合液」に対する水の割合(水の濃度)については特に限定はないが、水10質量%以下が好ましく、2〜7質量%がより好ましく、3〜5質量%が特に好ましい。水の濃度が低すぎると、留去する必要がある溶剤量が多量になってしまうため、コスト的、環境上好ましくない場合がある。一方、水の濃度が高すぎると、式(2)で表されるテトラアルコキシチタンに滴下した時、沈殿が生成してしまう場合がある。
【0032】
テトラアルコキシチタンに対する、「水」又は「水と水溶性溶媒との混合液」の添加方法は特に限定はないが、テトラアルコキシチタンを攪拌しながら、−10〜100℃で1〜300分で添加することが好ましく、20〜50℃で30〜180分で添加することが特に好ましい。また、添加中又は添加後、−10〜200℃で0〜120分間加熱することが好ましく、50〜150℃で30〜90分間加熱することが特に好ましい。
【0033】
その後、要すれば、「反応で生成するアルコール」及び/又は「水を希釈するために使用した水溶性溶媒」を留去する。
【0034】
本発明の有機チタンオリゴマーは、コーティング材、エステル化触媒、RTV硬化触媒、アルコキシシラン化合物の反応性向上触媒、プライマー、高屈折率膜材料、表面処理剤、シーリング材等に好適に使用できる。特に、アルコキシシラン化合物に配合して、その重合性等の性能を向上させるためにも、本発明の有機チタンオリゴマーは触媒活性が優れているので好適に使用できる。
【0035】
コーティング材は、少なくとも、各種の有機溶剤に本発明の有機チタンオリゴマーを含有させて得られる。かかるコーティング材は、20〜200℃の温度で加熱することにより、緻密性、透明性等に優れた有機チタン化合物又は酸化チタンの被膜を与えることができる。特に好ましくは、70〜130℃の温度で加熱することにより得られた有機チタン化合物又は酸化チタンの被膜である。
【0036】
本発明の有機チタンオリゴマー、本発明の製造方法で製造された有機チタンオリゴマーが、加水分解に対して安定で取り扱いが容易である一方で優れた触媒性能を発揮する作用・原理は明らかではないが、オリゴマー化することにより加水分解に対してはモノマーよりも安定になったと考えられる。また、tert−アルキル基等の分岐を有するアルキル基を有することにより、更に反応活性を高く維持することが可能になったと考えられる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
攪拌機を取り付けたガラス製容器に、テトラ(tert−ペンチルオキシ)チタンを396g(1モル)仕込んだ。撹拌しながらここへ、264.3g(3モル)のtert−ペンチルアルコールに水を9g(0.5モル)溶解させた溶液を滴下して、30分間還流した。その後、常圧及び減圧(35mmHg)により、tert−ペンチルアルコールを系外に留去して、淡黄色液体の有機チタンオリゴマー310g(収率98%)を得た。
【0039】
実施例2
攪拌機を取り付けたガラス製容器に、テトラ(tert−ブトキシ)チタンを340g(1モル)仕込んだ。撹拌しながらここへ、222g(3モル)のtert−ブタノールに水を9g(0.5モル)溶解させた溶液を滴下して、30分間還流した。その後、常圧及び減圧(40mmHg)により、tert−ブタノールを系外に留去して、微黄色液体の有機チタンオリゴマー271g(収率99%)を得た。
【0040】
実施例3
攪拌機を取り付けたガラス製容器に、テトラ(tert−ブトキシ)チタンを340g(1モル)仕込んだ。撹拌しながらここへ、296g(4モル)のtert−ブタノールに水を13.5g(0.75モル)溶解させた溶液を滴下して、30分間還流した。その後、常圧及び減圧(40mmHg)により、tert−ブタノールを系外に留去して、淡黄色液体の有機チタンオリゴマー240g(収率99%)を得た。
【0041】
実施例4
攪拌機を取り付けたガラス製容器に、テトラ(tert−ブトキシ)チタンを340g(1モル)仕込んだ。撹拌しながらここへ、370g(5モル)のtert−ブタノールに水を16.2g(0.9モル)溶解させた溶液を滴下して、30分間還流した。その後、常圧及び減圧(40mmHg)により、tert−ブタノールを系外に留去して、淡黄色液体の有機チタンオリゴマー220g(収率99%)を得た。
【0042】
実施例5
攪拌機を取り付けたガラス製容器に、テトライソプロポキシチタンを284g(1モル)仕込んだ。撹拌しながらここへ、264.3g(3モル)のtert−ペンチルアルコールに水を9g(0.5モル)溶解させた溶液を滴下して、30分間還流した。その後、常圧及び減圧(40mmHg)によりイソプロピルアルコールを系外に留去して、淡黄色液体の有機チタンオリゴマー288g(収率91%)を得た。
【0043】
[安定性(耐加水分解性)の評価]
各実施例で得られた有機チタンオリゴマーの水に対する安定性を調べるために、以下の操作を行った。イソプロピルアルコール:トルエン=1:1(質量比)の溶液に、水を1質量%になるように加え混合した。この液を撹拌しながら、この液に対して0.5質量%の有機チタンオリゴマーを滴下し、白濁するまでの時間を測定した。以下の基準で「安定性」を判定した。
[判定基準]
○:滴下後60秒以上白濁しなかった
△:滴下直後には白濁しなかったが、滴下後60秒以内に白濁した
×:滴下直後に白濁した
【0044】
比較例として、テトライソプロポキシチタン(比較例化合物1)及びテトラ(tert−ブトキシ)チタン(比較例化合物2)を評価した。結果を表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、本発明の有機チタンオリゴマーは加水分解に対して安定であることが示された。また、過度に安定化しておらず、適度に加水分解はするので、触媒活性は充分に有していることが示された。
【0047】
また、実施例1〜5では、還流後、常圧及び減圧により、生成したアルコールを系外に留去したが、それに要した時間は、2時間以下であり、製造コスト的に有利であった。また、系外に留去するものは生成したアルコールに限られるので、環境的にも有利であった。
【0048】
[製膜性の評価]
実施例1で得られた有機チタンオリゴマーの製膜性を評価するため、溶液中のチタン含有量が2質量%になるようにn−ヘキサンで希釈し、No.4のバーコーターでポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、乾燥膜厚0.2μmとなるように塗布後、100℃で1分間乾燥して被膜を形成した。
【0049】
比較例として、実施例1で得られた有機チタンオリゴマーの代わりに、テトラ(tert−ペンチルオキシ)チタン(比較例化合物3)を用いて同様に被膜を形成した。
【0050】
得られた被膜の外観を、目視及び1000倍の光学顕微鏡で観察した。結果を表2に示す。
【表2】

【0051】
表2の結果から、本発明の有機チタンオリゴマーはオリゴマー化されることにより、製膜性が良好となり、緻密な酸化チタン被膜が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の有機チタンオリゴマーは、加水分解に対して安定であるが触媒活性は低下しないため、コーティング材、エステル化触媒、RTV硬化触媒、アルコキシシラン化合物の反応性向上触媒、プライマー、高屈折率膜材料、表面処理剤、シーリング材等をはじめ、有機チタン化合物が用いられる全ての分野に広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機チタンオリゴマー。
【化1】

[式(1)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは2以上の実数を示す。]
【請求項2】
上記式(1)中、R、R、R及びRが、相互に同一又は異なって、分岐を有する炭素数3〜12個のアルキル基である請求項1記載の有機チタンオリゴマー。
【請求項3】
下記式(2)で表されるテトラアルコキシチタンを実質的に溶媒で希釈することなく、そこに、水又は水と水溶性溶媒との混合液を添加して加水分解を行わせることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の有機チタンオリゴマーの製造方法。
【化2】

[式(2)中、R、R、R及びRは、相互に同一又は異なって、置換基を含んでいてもよい炭素数1〜12個のアルキル基又はアルケニル基を示す。]
【請求項4】
該水溶性溶媒がアルコール類である請求項3記載の有機チタンオリゴマーの製造方法。
【請求項5】
該アルコール類が、分岐を有する炭素数3〜12個のアルキル基に水酸基が結合した構造のアルコール類である請求項4記載の有機チタンオリゴマーの製造方法。
【請求項6】
添加する水の量が、上記式(2)で表されるテトラアルコキシチタン1モル部に対し0.5モル部以上である請求項3ないし請求項5の何れかの請求項記載の有機チタンオリゴマーの製造方法。
【請求項7】
添加する水の量が、上記式(2)で表されるテトラアルコキシチタン1モル部に対し、0.5〜0.9モル部の範囲である請求項3ないし請求項6の何れかの請求項記載の有機チタンオリゴマーの製造方法。
【請求項8】
加水分解を行わせた後、更に、生成したアルコール類を除去する請求項3ないし請求項7の何れかの請求項記載の有機チタンオリゴマーの製造方法。
【請求項9】
請求項3ないし請求項8の何れかの請求項記載の有機チタンオリゴマーの製造方法で製造されたことを特徴とする有機チタンオリゴマー。
【請求項10】
請求項1、2又は9記載の有機チタンオリゴマーを含有することを特徴とするコーティング材。
【請求項11】
請求項10記載のコーティング材を塗布し、20〜200℃の温度で加熱することにより得られた有機チタン化合物又は酸化チタンの被膜。

【公開番号】特開2008−156280(P2008−156280A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346835(P2006−346835)
【出願日】平成18年12月23日(2006.12.23)
【出願人】(000188939)マツモトファインケミカル株式会社 (26)
【Fターム(参考)】