説明

有機ハロゲン化合物の分解方法

【課題】嫌気性脱ハロゲン化工程の後に行われる酸化分解工程に用いる酸化剤の消費量を低減することができる、有機ハロゲン化合物の分解方法を提供すること。
【解決手段】有機ハロゲン化合物の分解方法は、処理対象に含有されている有機ハロゲン化合物を分解する有機ハロゲン化合物の分解方法であって、嫌気性微生物による有機ハロゲン化合物の分解を促進する促進剤を処理対象に注入し、嫌気性微生物により有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部を非ハロゲン元素に置換させる嫌気性脱ハロゲン化工程と、嫌気性脱ハロゲン化工程の後に、処理対象に注入された促進剤を回収する回収工程と、回収工程の後に、酸化剤を処理対象に注入し、有機ハロゲン化合物を酸化分解する酸化分解工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PCE(テトラクロロエチレン)やTCE(トリクロロエチレン)等の有機ハロゲン化合物によって汚染された土壌や地下水等を浄化するための各種浄化方法が提案されている。
【0003】
有機ハロゲン化合物の分解方法の一つとして、過硫酸塩や過酸化水素等の酸化剤を用いた酸化分解法(化学的酸化分解処理)がある。この方法は反応性が高く、即効性がある。特に、低分子量の有機ハロゲン化合物の分解に優れている。例えば酸化分解法によってPCE、TCE、cis−1,2−DCE(ジクロロエチレン)、及び塩化ビニルを分解する場合、その効率は塩化ビニル>cis−1,2−DCE>TCE>PCEの順に高い。すなわち、酸化分解法は塩化ビニルやcis−1,2−DCEの如き低分子量の有機ハロゲン化合物の浄化には適しているが、PCEやTCEのような高分子量の有機ハロゲン化合物の浄化には好適とはいえない。また、浄化対象の地盤中の有機物濃度が高い場合には、大量の酸化剤が必要となり、効率は低下する。
【0004】
また、有機ハロゲン化合物の他の分解方法として、嫌気性バイオスティミュレーションが近年、実施されている。本方法は、各種有機物や栄養塩の適用により、地盤中に存在するDehalococcoides属菌を代表とする有機ハロゲン分解菌を増加させる方法である。この有機ハロゲン分解菌により、汚染物質が脱塩素化されて無害な物質(エチレン)にまで還元される。この嫌気性バイオスティミュレーションによってPCE、TCE、cis−1,2−DCE(ジクロロエチレン)、及び塩化ビニルを分解する場合、その効率はPCE>TCE>cis−1,2−DCE>塩化ビニルの順に高い。すなわち、PCEやTCEのような高分子量の有機ハロゲン化合物の浄化に好適であり、地盤中のPCEやTCEからcis−1,2−DCEや塩化ビニルまでの脱塩素化は速やかに進む。しかし、塩化ビニルから後の脱塩素化が進まず、より有害な塩化ビニルの地盤中への蓄積が懸念されるため、これをさらに他の方法で浄化する必要がある。
【0005】
例えば、嫌気性バイオスティミュレーションの具体例として、汚染土壌に含まれる有機塩素化合物を微生物により処理する有機塩素化合物汚染土壌の微生物処理方法が提案されている。この方法では、有機塩素化合物汚染土壌を、嫌気性微生物と好気性微生物とを充填した密閉容器内に導入し、まず嫌気性微生物のみが活発に活動できるように密閉容器内の環境条件を調節して嫌気性微生物による嫌気的脱塩素処理を行うことで有機塩素化合物の塩素化度を低減させ、続いて好気性微生物のみが活発に活動できるように密閉容器内の環境条件を調節して好気性微生物により好気性分解処理を行うことで低塩素化有機化合物を分解させる(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、上述の嫌気性微生物による嫌気的脱塩素処理において、嫌気性微生物の栄養源として水素と二酸化炭素とを反応系に導入することにより、嫌気的環境から好気的環境に移行する際、水素や二酸化炭素を栄養源として利用できない好気性雑菌の増殖を抑制し、低塩素化有機化合物を分解する特定の好気性微生物のみを選択的に増殖させる、汚染土壌等の修復方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3176849号公報
【特許文献2】特開2004−130166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1や特許文献2に記載の如き従来の方法において、好気性分解処理に代えて、酸化剤を用いて有機化合物を酸化分解するフェントン法等の化学的酸化分解処理を嫌気的脱塩素処理の後に行う方法も考えられる。しかしながら、上述のような従来の嫌気的脱塩素処理では、汚染土壌において嫌気性環境を実現するために使用される薬剤(例えば酵母抽出物質や高級脂肪酸エステル等の有機物)が嫌気的処理の後に残存していた。その結果、嫌気的脱塩素処理の後に化学的酸化分解処理を行う場合、処理対象の有機塩素化合物に加えて残存薬剤の分解にも酸化剤が消費されることとなるため、本来の処理対象である有機塩素化合物の処理効率の低下を招いていた。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、嫌気性脱ハロゲン化工程の後に行われる酸化分解工程に用いる酸化剤の消費量を低減することができる、有機ハロゲン化合物の分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法は、処理対象に含有されている有機ハロゲン化合物を分解する有機ハロゲン化合物の分解方法であって、嫌気性微生物による前記有機ハロゲン化合物の分解を促進する促進剤を前記処理対象に注入し、当該嫌気性微生物により当該有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部を非ハロゲン元素に置換させる嫌気性脱ハロゲン化工程と、前記嫌気性脱ハロゲン化工程の後に、前記処理対象に注入された前記促進剤を回収する回収工程と、前記回収工程の後に、酸化剤を前記処理対象に注入し、前記有機ハロゲン化合物を酸化分解する酸化分解工程と、を含む。
【0011】
また、請求項2に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法は、請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法において、前記処理対象は土壌であり、前記回収工程において、前記土壌に設置した井戸を介して当該土壌から揚水を行う。
【0012】
また、請求項3に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法は、請求項2に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法において、前記回収工程において、前記井戸を介して、前記土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行う。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る有機ハロゲン化合物の分解方法によれば、嫌気性微生物による有機ハロゲン化合物の分解を促進する促進剤を処理対象に注入し、当該嫌気性微生物により有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部を非ハロゲン元素に置換させる嫌気性脱ハロゲン化工程の後に、処理対象に注入された促進剤を回収するので、その後の酸化分解工程において、促進剤の分解に酸化剤が消費されることを防止でき、必要となる酸化剤の量を大きく低減することができる。
【0014】
また、請求項2に係る有機ハロゲン化合物の分解方法によれば、処理対象は土壌であり、回収工程において、土壌に設置した井戸を介して当該土壌から揚水を行うので、土壌中に溶出した促進剤を井戸を介して回収することができ、土壌における有機ハロゲン化合物の分解に必要となる酸化剤の量を大きく低減することができる。
【0015】
また、請求項3に係る有機ハロゲン化合物の分解方法によれば、回収工程において、井戸を介して、土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行うので、揚水及び注水を繰り返すことにより、土壌に残存する促進剤を洗浄し、促進剤の回収率を向上することができる。また、揚水だけではなく注水を行うことで、地盤沈下を防止することができる。また、揚水量よりも注水量を少なくすることで、処理対象の土壌から周辺の土壌に汚染物質が流出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明者等が提案した井戸の設置方法を用いて設置した井戸の概要図である。
【図2】地下に設置された井戸の断面図である。
【図3】内管の内部を示す概略図である。
【図4】薬剤の注入や揚水又は注水を行う際の内管の内部を示す概略図である。
【図5】有機ハロゲン化合物の分解方法の流れを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る有機ハロゲン化合物の分解方法の実施の形態を詳細に説明する。ただし、実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0018】
(適用対象の概要)
まず、本実施の形態に係る有機ハロゲン化合物の分解方法の適用対象について説明する。本実施の形態に係る有機ハロゲン化合物の分解方法による処理対象としては、例えば有機ハロゲン化合物により汚染された土壌や水が挙げられる。以下では、処理対象が土壌である場合を例として説明する。
【0019】
処理対象である土壌に含有されている有機ハロゲン化合物を本実施の形態に係る有機ハロゲン化合物の分解方法により分解する場合、土壌に設置した井戸を介して、必要な薬剤の注入、揚水、及び/又は注水等を行う。特に、既存構造物下に井戸を設置し、地盤沈下を抑制しつつ揚注水を行うためには、例えば本願発明者等が提案した井戸の設置方法(特願2009−252945号。ただし本願出願時において未公開)を用いることが有効である。
【0020】
ここで、上述の井戸の設置方法を用いて設置した井戸の概略を説明する。図1は、上述の井戸の設置方法を用いて設置した井戸の概要図である。図1に示すように、既存構造物1の地下の所定深度において、有機ハロゲン化合物による汚染範囲に対応して複数の揚注水対象位置が設定されている。本実施の形態では、既存構造物1の近傍の地盤2に竪穴3が配置され、揚注水対象位置を貫通するように当該竪穴3から略水平方向に井戸4が設置される。これにより、既存構造物1と干渉することなく、当該既存構造物1の地下に井戸4を設置することができる。なお、図1では竪穴3に1本の井戸4のみが設置された状態を例示しているが、当該竪穴3に複数本の井戸4を設置してもよい。この場合、共通の竪穴3から複数本の井戸4を同一又は異なる深度に相互に並行に設置してもよく、あるいは共通の竪穴3から放射状に井戸4を設置してもよい。なお、井戸4は揚水を行うための揚水井戸、及び/又は薬剤の注入や注水等を行うための注水井戸として使用される。
【0021】
図2は地下に設置された井戸4の断面図である。図2に示すように、地下に掘削された横穴5に内管6が配置されている。この内管6は、内管孔6a、及び膨張部材6bを備えている。内管孔6aは、内管6の管壁を貫通するように形成された孔部であり、例えば内管6の軸方向にそって所定間隔にて形成されている。この内管孔6aを介して地下水の揚水や薬液の注入等を行うことができる。この内管孔6aは、例えば複数の小径孔を並設することで形成されるが、その他の任意の形状とすることができ、例えば図2に示すように内管孔6aをメッシュ状に形成することもできる。なお、内管孔6aを例えば礫石、豆砂利、珪砂、砂等によって形成されたフィルター層で覆うことにより、水や薬液等の液体のみを透過させるようにしてもよい。膨張部材6bは、水潤により膨張するものであって、内管6の外面における内管孔6aの周囲に配設される。例えば、膨張部材6bは、図2に示すように内管孔6aを挟んで当該内管6の管軸方向に沿って並ぶ2位置の各々に配設される。なお、膨張部材6bの具体的な構成は任意で、例えばナイスシール(株式会社神谷製作所社製)(アクリル酸塩・ビニルアルコール共重合体、スチレン・ブタジエン・ゴム)、アクアケルシーラー(王子ゴム化成株式会社製)(合成ゴムと特殊高吸水性樹脂とで構成された加硫ゴム系水膨張性ゴム止水材)等を用いることができる。また、膨張部材6bの相互間の空間部であって内管孔6aが位置していない止水対象空間部7には、止水材8が充填されている。
【0022】
図3は、内管6の内部を示す概略図である。図3に示すように、内管6の内部には複数のパッカー袋9、パッカー管10、及び揚注水管11が挿入される。パッカー袋9は、気体又は液体を注入することで膨張する袋体であり、例えば膨縮自在なゴム等の弾性素材を用いて形成される。パッカー管10は、パッカー袋9の内部に液体又は気体を注入又は排出するための配管であり、各パッカー袋9に接続されている。揚注水管11は、内管6の内部において薬剤の注入や揚水又は注水を行うための管であり、当該揚注水管11の管壁を貫通するように形成された揚注水孔11aを有している。揚注水管11の管軸方向に沿って揚注水孔11aを挟む位置に、一対のパッカー袋9が配設される。これらのパッカー袋9、パッカー管10、及び揚注水管11は、内管6の内部において当該内管6の管軸方向に沿った任意の位置に挿入される。
【0023】
図4は薬剤の注入や揚水又は注水を行う際の内管6の内部を示す概略図である。薬剤の注入や揚水及び又は注水を行う場合は、地盤2における所望の揚注水対象位置に対応する内管6の内管孔6a(図4中のA)に対応する位置に、パッカー袋9の相互間に形成される揚注水空間部と揚注水孔11aとが配置されるように、パッカー袋9及び揚注水管11を移動させる。続いて、パッカー管10から気体又は液体を内管孔6aの両側のパッカー袋9に注入し、各パッカー袋9を膨張させる。これにより、揚注水孔11aの周囲における揚注水管11と内管6との相互間の空間部がパッカー袋9によって塞がれる。従って、地盤2における所望の揚注水対象位置において、内管孔6a及び揚注水孔11aから揚注水管11を介して薬剤の注入や揚注水を行うことが可能となる。
【0024】
(有機ハロゲン化合物の分解方法)
次に、有機ハロゲン化合物の分解方法について説明する。図5は有機ハロゲン化合物の分解方法の流れを示した図である。図5に示すように、有機ハロゲン化合物の分解方法においては、「嫌気性脱ハロゲン化工程」、「回収工程」、及び「酸化分解工程」が順次実施される。以下、これらの各工程について説明する。なお、図5に示すように本実施の形態では有機ハロゲン化合物としてPCE(テトラクロロエチレン)を分解する場合について説明するが、他の有機ハロゲン化合物(例えば、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物、フロン、ポリ塩化ビフェニル、DDT等)を分解する場合についても同様である。
【0025】
(有機ハロゲン化合物の分解方法−嫌気性脱ハロゲン化工程)
嫌気性脱ハロゲン化工程は、嫌気性微生物による有機ハロゲン化合物の分解を促進する促進剤を土壌に注入し、当該嫌気性微生物により有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部を非ハロゲン元素に置換させる工程である。
【0026】
すなわち、まず井戸4を介して処理対象の土壌に主として易生分解性の有機物からなる促進剤を注入する。例えば、ポリ乳酸エステル、酵母抽出物質、高級脂肪酸エステル等の有機物が促進剤として用いられる。土壌に促進剤が注入されると、溶出した促進剤が土壌中の微生物によって分解されることにより水素が発生し、嫌気性環境となる。これにより当該水素を栄養源とする嫌気性微生物が増殖する。この嫌気性微生物により、ハロゲン数の多い有機ハロゲン化合物から炭素とハロゲンとの結合が切断され、当該有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部が非ハロゲン元素に置換される。
【0027】
図5の例では、PCEにおける塩素が水素に置換されることでTCE(トリクロロエチレン)へと脱塩素化され、さらにcis−1,2−DCE(ジクロロエチレン)まで脱塩素化が進行する。
【0028】
(有機ハロゲン化合物の分解方法−回収工程)
回収工程は、処理対象に注入された促進剤を回収する工程であり、嫌気性脱ハロゲン化工程の後に実施される。なお、上述の嫌気性脱ハロゲン化工程においては、PCEがcis−1,2−DCE(ジクロロエチレン)まで脱塩素化された後は嫌気性微生物による分解効率が低下し、以降の脱塩素化に要する時間が長くなる。そこで、PCEがcis−1,2−DCE(ジクロロエチレン)まで脱塩素化されたタイミングで回収工程を実施する。この回収工程においては、井戸4を介して、土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行う。
【0029】
すなわち、まず井戸4を介して処理対象の土壌から揚水を行う。これにより、前工程である嫌気性脱ハロゲン化工程で土壌に溶出した後に微生物に消費されていない促進剤を当該土壌から回収する。
【0030】
また、土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行う。この揚水及び注水を繰り返すことにより、土壌に残存する促進剤を洗浄し、促進剤の回収率を向上することができる。また、揚水だけではなく注水を行うことで、地盤沈下を防止することができる。また、揚水量よりも注水量を少なくすることで、処理対象の土壌から周辺の土壌に汚染物質が流出することを防止することができる。
【0031】
(有機ハロゲン化合物の分解方法−酸化分解工程)
酸化分解工程は、酸化剤を処理対象に注入し、有機ハロゲン化合物を酸化分解する工程であり、回収工程の後に実施される。
【0032】
まず、井戸4を介して処理対象の土壌に酸化剤を注入する。酸化剤としては、過酸化水素、フェントン試薬、過硫酸塩、過マンガン酸、過炭酸塩等が用いられる。酸化剤の注入によって処理対象の土壌内にヒドロキシラジカルが生成されると、当該ヒドロキシラジカルによって、処理対象の土壌中に存在するcis−1,2−DCEが、Vinyl Chloride(塩化ビニルモノマー)から、エチレン、エタン、二酸化炭素、水、塩素まで急速に酸化分解される。これにより、有機ハロゲン化合物の分解が完了する。また、嫌気性脱ハロゲン化工程において副次的に発生したメタンや二硫化炭素等の悪臭物質も、酸化剤の注入によって分解される。
【0033】
ここで、前工程の回収工程において、嫌気性脱ハロゲン化工程で用いられた促進剤が回収されているため、促進剤の分解に酸化剤が消費されることがなく、効率的に有機ハロゲン化合物の分解を行うことができる。
【0034】
例えば、嫌気性脱ハロゲン化工程において促進剤としてプロピオン酸ナトリウムが土壌に注入された場合に、回収工程にて当該プロピオン酸ナトリウムを回収した場合と回収しない場合とにおいて酸化剤として用いられる過酸化水素の消費量の差異について説明する。
【0035】
プロピオン酸ナトリウム1molを分解するためには、酸化剤として過酸化水素13molが必要である。嫌気性脱ハロゲン化工程では、土壌中の地下水における濃度が100mg/Lから3000mg/Lとなるようにプロピオン酸ナトリウムが注入される。そこで、回収工程においてプロピオン酸ナトリウムを回収しない場合、土壌中の地下水に濃度100mg/Lのプロピオン酸ナトリウムが残存していると仮定する。プロピオン酸ナトリウムの分子量は96であるので、地下水1L当りのプロピオン酸ナトリウムのmol数は0.00104molである。従って、このプロピオン酸ナトリウムを分解することで消費される過酸化水素は、0.00104×13=0.0135molである。過酸化水素の分子量は34であるので、地下水1L当りのプロピオン酸ナトリウムの分解に消費される過酸化水素の質量は0.0134×34=0.460gとなる。すなわち、例えば35%濃度の過酸化水素を用いる場合、地下水1mに含まれるプロピオン酸ナトリウムの分解に消費される過酸化水素は1.315kgとなる。但し、これは理論量であり、実際の工程ではこの5から10倍程度の過酸化水素が必要となることから、7kgから13kg程度もの過酸化水素が、地下水1mに含まれるプロピオン酸ナトリウムの分解に消費されることとなる。すなわち、回収工程においてプロピオン酸ナトリウムを回収し、土壌中の地下水におけるプロピオン酸ナトリウムの濃度を例えば100mg/L低下させることで、過酸化水素(35%濃度)の消費量を約10kg程度削減することができる。
【0036】
なお、酸化分解工程において分解対象となるcis−1,2−DCEを1mol分解するためには、酸化剤の過酸化水素が4mol必要である。ここで、回収工程後に例えば10mg/Lのcis−1,2−DCEが土壌中に残存していると仮定する。cis−1,2−DCEの分子量は97であるので、地下水1L当りのcis−1,2−DCEのmol数は0.000103molである。従って、このcis−1,2−DCEを分解するために必要な過酸化水素は、0.000103×4=0.000412molである。過酸化水素の分子量は34であるので、地下水1L当りのcis−1,2−DCEの分解に必要な過酸化水素の質量は0.000412×34=0.00140gとなる。すなわち、例えば35%濃度の過酸化水素を用いる場合、地下水1mに含まれるcis−1,2−DCEの分解に必要な過酸化水素は0.0401kgとなる。但し、これは理論量であり、実際の工程ではこの5から20倍程度の過酸化水素が必要となることから、0.2kgから1.0kg程度の過酸化水素が、地下水1mに含まれるcis−1,2−DCEの分解に必要となる。この量は、回収工程を行わない場合に残存した促進剤プロピオン酸ナトリウムの分解に消費される量と比較すると非常に小さい。すなわち、回収工程において促進剤を回収することにより、全工程を通じて必要となる過酸化水素の量を大きく低減することができ、土壌の浄化処理に必要なコストを低減することができる。
【0037】
(実施の形態の効果)
このように実施の形態によれば、嫌気性微生物による有機ハロゲン化合物の分解を促進する促進剤を処理対象に注入し、当該嫌気性微生物により有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部を非ハロゲン元素に置換させる嫌気性脱ハロゲン化工程の後に、処理対象に注入された促進剤を回収するので、その後の酸化分解工程において、促進剤の分解に酸化剤が消費されることを防止でき、必要となる酸化剤の量を大きく低減することができる。
【0038】
また、処理対象は土壌であり、回収工程において、土壌に設置した井戸4を介して当該土壌から揚水を行うので、土壌中に溶出した促進剤を井戸4を介して回収することができ、土壌における有機ハロゲン化合物の分解に必要となる酸化剤の量を大きく低減することができる。
【0039】
特に、回収工程において、井戸4を介して、土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行うので、揚水及び注水を繰り返すことにより、土壌に残存する促進剤を洗浄し、促進剤の回収率を向上することができる。また、揚水だけではなく注水を行うことで、地盤沈下を防止することができる。また、揚水量よりも注水量を少なくすることで、処理対象の土壌から周辺の土壌に汚染物質が流出することを防止することができる。
【0040】
〔実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0041】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0042】
(井戸について)
上述の実施の形態では、井戸4の設置について本願発明者等が提案した井戸の設置方法を用いる場合を例として説明したが、他の設置方法を用いることとしてもよい。例えば、斜めボーリングや、既存構造物1の周辺に設置された竪穴からの水平ボーリング等の従来工法を用いてもよい。
【0043】
また、井戸4を用いずに有機ハロゲン化合物の分解方法の各工程を実施してもよい。例えば、掘削した汚染土壌を処理容器に収容し、当該処理容器内で上述した有機ハロゲン化合物の分解方法の各工程を行うようにしてもよい。
【0044】
(回収工程について)
上述の実施の形態では、回収工程において、井戸4を介して、土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行うと説明したが、注水は行なわずに揚水のみを行うこととしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 既存構造物
2 地盤
3 竪穴
4 井戸
5 横穴
6 内管
6a 内管孔
6b 膨張部材
7 止水対象空間部
8 止水材
9 パッカー袋
10 パッカー管
11 揚注水管
11a 揚注水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象に含有されている有機ハロゲン化合物を分解する有機ハロゲン化合物の分解方法であって、
嫌気性微生物による前記有機ハロゲン化合物の分解を促進する促進剤を前記処理対象に注入し、当該嫌気性微生物により当該有機ハロゲン化合物中のハロゲン元素の一部を非ハロゲン元素に置換させる嫌気性脱ハロゲン化工程と、
前記嫌気性脱ハロゲン化工程の後に、前記処理対象に注入された前記促進剤を回収する回収工程と、
前記回収工程の後に、酸化剤を前記処理対象に注入し、前記有機ハロゲン化合物を酸化分解する酸化分解工程と、
を含む有機ハロゲン化合物の分解方法。
【請求項2】
前記処理対象は土壌であり、
前記回収工程において、前記土壌に設置した井戸を介して当該土壌から揚水を行う、
請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法。
【請求項3】
前記回収工程において、前記井戸を介して、前記土壌から揚水を行うと共に、当該揚水量よりも少ない量の注水を行う、
請求項2に記載の有機ハロゲン化合物の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−167646(P2011−167646A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34877(P2010−34877)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】