説明

有機ハロゲン化合物の無害化処理装置

【課題】分析室内で簡易に扱うことが可能な、有機ハロゲン化合物分析廃液の無害化装置を提供する。
【解決手段】反応器内に有機ハロゲン化合物を含有する被処理物と、処理に必要な物質を混入、攪拌して無害化処理を行う装置に、被処理物に応じて有機ハロゲン化合物の無害化に要する金属カルシウム、エタノール等の無害化物質の各分量、及び処理時間を演算し、演算したパラメータに基づいて無害化装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシンに代表される有機ハロゲン化合物の無害化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン、PCB等の有機ハロゲン化合物は環境に悪影響を及ぼす最も有害な物質の一つである。有機ハロゲン化合物の排出規制と義務づけに伴い、有機ハロゲン化合物の分析業務が急増している。分析業務の増加につれて、濃縮して分析された有機ハロゲン化合物の分析廃液が増加しており、その処理が問題となっている。
【0003】
有機ハロゲン化合物の分析廃液は産業廃棄物であるが、産業廃棄物処理法上の問題から処分業者側では適切な引取方法・処理方法が確立されていない。このため、分析後は分析廃液を保管せざるを得ない状況にある。分析廃液は蓄積され、保管量は増加の一途を辿っており、分析室内で簡易に扱うことができる無害化装置の開発が求められている。
【0004】
現在、ダイオキシン汚染物質から有機ハロゲン化合物を除去する方法及び装置については種々のものが提案されている。
【0005】
特許文献1ではアルカリ金属等を用いた還元処理方法が提案されている。有機ハロゲン化合物をプロトン性溶媒存在下で、貴金属触媒のもと、アルカリ金属等を混合し、温和な条件下での有機ハロゲン化合物の無害化方法が開示されている。
【0006】
特許文献2では、ダイオキシン汚染物質の所定量を投入装置から回転ドラム本体内に投入し、この回転ドラム本体を正転し、このダイオキシン汚染物質を加熱しながら、排出口側へ移送させる前進工程と、前記回転ドラムを逆転させて投入口側へ移送させる逆進工程とを所定時間交互に繰り返し、ダイオキシンを熱分解して浄化した後、処理済物質として排出装置から排出している。
【0007】
特許文献3では、ダイオキシン類を含む被処理液を、粉末活性炭を添加して、分離膜を有する膜ろ過工程と、促進酸化反応工程との間を一部循環させながら、膜ろ過工程からの膜透過水を処理水として得るとともに、ダイオキシン類を酸化分解処理している。促進酸化反応工程ではオゾンを注入し、オゾンによりダイオキシン類を酸化分解させている。
【特許文献1】特開2005−066328公報
【特許文献2】特開2005−262015公報
【特許文献3】特開2006−000854公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の発明は無害化方法についてのみ記載されており、具体的な処理装置に関しては何ら記載がない。
【0009】
特許文献2の無害化装置は、熱的に安定なダイオキシン類を約400〜600℃の高温度で熱分解するため、多くの熱エネルギーが必要であるという問題がある。また、加熱装置、冷却装置を必要とし、装置が複雑で大きいため、分析室で簡易に扱えないとともに、コストも高くなるという課題がある。
【0010】
特許文献3の無害化装置は、ダイオキシン類を分離するろ過工程と、ダイオキシン類の酸化分解工程との2つの工程が必要である。このため、装置が複雑になるとともに、装置が大きくなり分析室で扱うのが困難という課題を有する。また、有機性排水や工業排水の処理にしか用いることができず、分析後の様々な形態の有機ハロゲン化合物の処理ができないという課題を有する。
【0011】
このように現有の装置は複雑で大きな装置であり、分析室等で使用できるものではない。また、誰もが簡易に使用できるものではなく、熟練者でなければ適切に扱えないものである。
【0012】
本発明では、分析業務によって生じた有機ハロゲン化合物の分析廃液を、分析室内で誰もが容易に無害化できる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、有機ハロゲン化合物を含有する被処理物と、プロトン性溶媒と、還元触媒と、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属とを混合し、前記有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化及び/又は還元処理する反応器と、前記反応器の内容物を攪拌混合する攪拌装置と、前記被処理物の分量及び前記被処理物中の有機ハロゲン化合物の濃度を入力する入力装置と、前記有機ハロゲン化合物の無害化処理に要する前記プロトン性溶媒の添加量、前記還元触媒の添加量、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属の添加量、及び、処理時間を演算する演算装置と、前記演算装置から出力される無害化処理に要する前記プロトン性溶媒の添加量、前記還元触媒の添加量、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属の添加量、及び、前記処理時間を表示する表示装置と、前記処理時間に基づいて前記攪拌装置を制御する制御装置を具備することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は前記反応器が略水平軸を中心に回転して前記内容物を攪拌することを特徴とする。
【0015】
更に、本発明は前記反応器内部に攪拌翼を設け、略鉛直軸を中心に攪拌翼を回転させて前記内容物を攪拌することを特徴とする。
【0016】
更に、本発明は前記反応器の内部に細粒化剤を収納したことを特徴とする。
【0017】
更に、本発明は前記入力装置は1以上の被処理物の分量及び被処理物中の有機ハロゲン化合物濃度を入力できることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明は前記攪拌装置の前記反応器を設置する箇所に、前記反応器の抑止部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の無害化装置によると、被処理物の量及び有機ハロゲン化合物濃度の値から、演算装置によって被処理物に応じた適切な触媒量等、処理に要する物質の分量等が演算されて表示されるため、誰でも容易に有機ハロゲン化合物を無害化できる利点を有する。
【0020】
また、演算装置によって被処理物に応じた必要な触媒量等が演算されて表示されるため、触媒等無害化に要する物質を無駄に使用することがなく、コストが安くなるという利点を有する。
【0021】
更に、本装置は小型であるため、分析室内に設置又は携行して有機ハロゲン化合物の無害化処理をすることが可能である。
【0022】
更に、本装置によって無害化した処理物は産業廃棄物ではないため、産業廃棄物処理法上の問題がなく、一般廃棄物として処分でき、分析廃液が蓄積する問題を解消できる。
【0023】
更に、複数の被処理物をまとめて無害化するのに必要な触媒量等が、演算されて表示されるため、複数の濃度の異なる被処理物を一度に処理できる利点を有する。
【0024】
更に、反応器内部に設けた邪魔板及び細粒化剤の作用により、保管容器等を破壊して内部の被処理物を無害化できるため、保管容器から被処理物を取り出す煩わしさがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明による有機ハロゲン化合物無害化装置の概略的構成を示す斜視図である。図2は反応器の断面図である。図3〜図7は攪拌装置に設置されたタッチパネル式操作盤の画面を示す正面図である。図8は本発明の無害化処理工程を示すブロック図である。図9は他の形態の有機ハロゲン化合物無害化装置の概略的構成を示す斜視図である。
【0026】
図1を参照して、本発明による有機ハロゲン化合物無害化装置の概略的構成を説明する。無害化装置は、主に被処理物である分析廃液、プロトン性溶媒、還元触媒、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属を充填する反応器2と、反応器の内容物を攪拌混合させる攪拌装置1と、攪拌装置1正面に設置されているタッチパネル式操作盤3と、攪拌装置1内部に設けられたシーケンサ演算制御装置(図示を省略)から構成される。
【0027】
攪拌装置1は、上部に水平方向に平行に配設された2本のローラ11a、11bと、内部に収納された攪拌の動力源であるモータ(図示を省略)から構成されている。
【0028】
モータは、動力伝達手段であるベルト(図示を省略)を介してローラの軸受部13aに接続されている。
【0029】
ローラ11aは中心に軸があり、軸の両端を軸受部13aで支持している。ローラ11aは軸受け部にて動力伝達ベルトと接続し、モータの駆動に連動して回転するようになっている。ローラ11bは中心に軸があり、軸の両端を軸受部13bで支持されており、自在に回転できるようになっている。
【0030】
ローラの表面はラバー製で滑りにくく、反応器2の攪拌を行いやすくしている。また、ローラ11a、11bともに、反応器2の攪拌中のズレや落下を防止すべく、抑止部材12が設けてある。
【0031】
モータはシーケンサ演算制御装置によって駆動制御されている。シーケンサ演算制御装置からの指令によりモータを駆動すると、動力伝達ベルトに接続されているローラ11aが回転する。
【0032】
2本のローラ11a、11bの間に反応器2を横向きに設置して、ローラ11aが回転すると、摩擦力で反応器2が回転し始める。反応器2の回転に伴いローラ11bも回転する。このため、反応器2が落下せずに安定して回転し、内容物が攪拌混合される。
【0033】
図2は反応器2の構造を示す断面図である。
【0034】
反応器2は、円筒状の容器であり、本体部21と蓋部26から構成される。本体部の一端は閉じられており、他端は開口している。蓋部26は一端が平板状であり、他端に投入口部22を有する。本体部21と蓋部26はボルト27によって着脱できるようになっている。本体部21と蓋部26の間はパッキン25を介して接続され、反応器2を横置きにしても、内容物が流出しない。また、密封状態で無害化処理が行われるため、処理中にガスが生成し、反応器2の内部圧力が上昇する。このため、反応器2は高圧に耐えうる設計となっている。
【0035】
反応器本体21内部には、邪魔板23が設けられている。邪魔板23の形状は反応物が遠心力によって反応器内壁に貼り付くのを防止できる形状であればよい。
【0036】
反応器本体21内部には細粒化剤24が挿入されている。細粒化剤24は、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属と衝突して、金属を研磨、粉砕することにより、金属の活生化を促進する。また、被処理物の保管容器を破壊し、保管容器から被処理物を反応器内部に放出させる働きもする。このような細粒化剤24としては、無機酸化物、たとえばシリカ、石英粉、石英砂等が例示される。
【0037】
タッチパネル式操作盤3は攪拌装置1の正面に設置してあり、入力装置、及び、表示装置が一体となっている。詳細については後述する。
【0038】
図3から図7を参照して入力装置、表示装置について説明する。
【0039】
入力装置、表示装置は一体としてタッチパネル式操作盤3を構成している。図3は濃度・量積算画面である。図4は入力画面である。図5は分解条件画面である。図6は演算画面である。図7は自動運転画面である。
【0040】
ここでは、プロトン性溶媒としてエタノール、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属として金属カルシウム、還元触媒としてパラジウムカーボンを用いた場合について具体的に説明する。
【0041】
図3(A)、(B)は濃度・量積算画面31、32である。分解条件画面34の「分解液」を押すと表示される。ここで被分解液中の有機ハロゲン化合物濃度(pg/L)及び被分解液量(L)を入力する。入力には後述する入力画面33にて行う。
【0042】
濃度・量積算画面31のNo.1の濃度欄に、被処理液中の有機ハロゲン化合物濃度を入力し、容量欄に被処理液の容量を入力すると、量の欄に被処理液中の有機ハロゲン化合物量が計算されて表示される。
【0043】
通常、分析業務においては、有機ハロゲン化合物の濃度を分析して保管しており、このような場合には新たに濃度を計測する必要はない。
【0044】
本装置では複数の被処理液を同時に処理することが可能である。2以上の被処理液を同時に処理する場合、濃度・量積算画面の「次項」を押せば、No.2以降の欄の入力が可能となるので、上記同様、順次被処理液中の有機ハロゲン化合物濃度及び被処理液量を入力すればよい。
【0045】
なお、2以上の被処理液を投入する場合、新たな被処理液を投入することによって、反応容器の許容量を超えるおそれがある。このため、反応容器の許容量を超えないように、新たな被処理液の濃度及び被処理液量を入力できないようにしてある。
【0046】
濃度・量積算画面32の合計欄には入力した全ての被処理液の量、及び、被処理液に含まれる有機ハロゲン化合物の積算量が演算装置により計算されて表示される。
【0047】
「条件」を押すと分解条件画面34に切り替わる。
【0048】
図4は入力画面33である。入力画面はテンキーを用いており、被分解液量や有機ハロゲン化合物濃度等、各項目へ数値を入力する際に使用する。テンキーにて数値を打ち込み、「ENT」を押せば各項目に数値入力される。
【0049】
図5は分解条件画面34である。濃度・量積算画面31、32から分解条件画面34に切り替わると、被分解液の総量、被分解液中の有機ハロゲン化合物の総量から、無害化処理に要するエタノール、金属カルシウム、パラジウムカーボンの各分量、及び、分解時間が演算されて表示される。
【0050】
「攪拌速度」を押すと入力画面33が表示され、任意の攪拌速度を入力できる。被処理物の容量や粘性に応じて攪拌速度の設定変更が可能である。
【0051】
「分解液」を押すと濃度・量積算画面(A)31に切り替わり、また、「分解条件」を押すと演算画面35に切り替わり、各項目への入力が可能となる。
【0052】
「運転」を押せば、自動運転画面37に切り替わる。
【0053】
図6(A)、(B)は演算画面35、36である。分解条件画面34の「分解条件」を押すと演算画面35が表示される。各項目を押すと入力画面33が表示され、「次項」又は「前項」を押すことで、順次それぞれの定数k(エタノールの比率に関する定数)、a(有機ハロゲン化合物量に対する金属カルシウム添加量定数)、b(金属カルシウムにおける定数)、c(有機ハロゲン化合物量に対するパラジウムカーボン添加量定数)、d(パラジウムカーボンにおける定数)、e(有機ハロゲン化合物量に対する分解時間に関する定数)、f(分解時間における定数)を入力できる。「条件」を押すと分解条件画面34に切り替わる。
【0054】
図7は自動運転画面37である。演算された無害化処理に要するエタノール、金属カルシウム、パラジウムカーボンの各分量、分解時間に加え、設定した攪拌速度が表示される。
【0055】
反応器2内に被処理物を充填し、更に、表示されているエタノール、金属カルシウム、及びパラジウムカーボンの各分量を投入し、投入口部22を閉じて、攪拌装置1のローラ11a、11bの間に設置する。自動運転画面37の「START」を押すと攪拌装置1が起動し、無害化処理が行われる。攪拌が始まると残りの処理時間が表示される。
【0056】
次に、演算装置と制御装置について説明する。攪拌装置に演算装置と制御装置が一体となったシーケンサ演算制御装置が内蔵されている。シーケンサ演算制御装置にはタッチパネル式操作盤3で入力された被処理物の分量、及び、被処理物中の有機ハロゲン化合物の濃度から、処理に要するエタノールの添加量、金属カルシウムの添加量、パラジウムカーボンの添加量、及び、処理時間を演算するプログラムが組み込まれている。そして、演算された各々の値をタッチパネル式操作盤3に表示する。
【0057】
演算した処理時間に基づいて、D/Aコンバータ、モータドライバを介して、モータを制御している。
【0058】
次に、図8を参照して本発明の無害化処理工程について説明する。
【0059】
入力装置であるタッチパネル式操作盤3にて、被処理物の液量(L)及び被処理物中の有機ハロゲン化合物濃度(pg/L)を入力する。
【0060】
シーケンサ演算制御装置内の演算装置にプログラムされている以下の演算式にて、入力された数値から、エタノールの添加量(L)、金属カルシウムの添加量(g)、パラジウムカーボンの添加量(g)、処理時間(min)が演算される。
【0061】
【数1】

Lは被分解液の量(L)、kはエタノールの比率に関する定数である。kは投入する金属カルシウム量や、反応容器、反応装置の形態、及び、実験値等から決定される。
【0062】
【数2】

aは有機ハロゲン化合物量に対する金属カルシウム添加量定数、Xは被分解液中の有機ハロゲン化合物量(pg)、bは金属カルシウムにおける定数である。aは金属カルシウムの表面劣化度、溶媒、実験値等から決定される。Xは操作盤3で入力した被分解液の量(L)と被分解液中の有機ハロゲン化合物濃度(pg/L)から求められた、被処理液中の有機ハロゲン化合物の総量である。bは反応容器、反応装置の形態、及び、実験値等から決定される。
【0063】
【数3】

cは有機ハロゲン化合物量に対するパラジウムカーボン添加量定数、Xは被分解液中の有機ハロゲン化合物量(pg)、dはパラジウムカーボンにおける定数である。cはパラジウムカーボンの劣化度、溶媒、及び、実験値等から決定される値である。Xは操作盤3で入力した被分解液の量(L)と被分解液中の有機ハロゲン化合物濃度(pg/L)から求められた、被処理液中の有機ハロゲン化合物の総量である。dは反応容器、反応装置の形態、及び、実験値等から決定される。
【0064】
【数4】

eは有機ハロゲン化合物量に対する分解時間に関する定数、Xは被分解液中の有機ハロゲン化合物量(pg)、fは分解時間における定数である。eは反応に要するエネルギー量、実験値等の関係から定められる値である。Xは操作盤3で入力した被分解液の量(L)と被分解液中の有機ハロゲン化合物濃度(pg/L)から求められた、被処理液中の有機ハロゲン化合物の総量である。fは反応容器、反応装置の形態、及び、実験値等から決定される。
【0065】
上記演算式によって求められたエタノールの添加量(L)、金属カルシウムの添加量(g)、パラジウムカーボンの添加量(g)、処理時間(min)は、表示装置であるタッチパネル式操作盤3の分解条件画面34、及び、自動運転画面37に表示される。
【0066】
反応器2の投入口部22から、被処理物を充填し、更に、タッチパネル式操作盤3に演算して表示された金属カルシウム、エタノール、及びパラジウムカーボンの各分量を反応器2に入れ、投入口部22を締めて密閉し、反応器2を攪拌装置1のローラ11a、11bの間に載せる。
【0067】
タッチパネル式操作盤3の自動運転画面37上の「START」を押すと、シーケンサ演算制御装置からの指令により、D/Aコンバータ、モータドライバを経由して攪拌装置1のモータを駆動する。シーケンサ演算制御装置は設定した攪拌速度で攪拌を行うように制御する。
【0068】
モータの駆動に伴い、ローラ11aが回転し、反応器2が回転する。反応器2内部の被処理物、金属カルシウム、エタノール及びパラジウムカーボンが攪拌混合される。
【0069】
演算した処理時間が経過すると、シーケンサ演算制御装置からの指令により、モータが停止し、自動的に攪拌が終了する。
【0070】
処理終了後は反応器2の蓋部26を取り外し、開口部から内容物を取り出せばよい。
【0071】
無害化処理によって、有機ハロゲン化合物は脱ハロゲン化され、ポリクロロジベンゾ−p−ジオキシン類(PCDDs)やポリクロロジベンゾフラン(PCDFs)などになる。また、有機ハロゲン化合物から塩素脱離によって生じた塩化物イオンがカルシウムイオンにトラップされた塩化カルシウム、また、脱塩素化された有機性残さなどが生じる。これらのものは、もはや産業廃棄物ではないため、一般廃棄物として処理することができる。
【0072】
被処理物が充填されている保管容器のまま、反応器2に入れて処理することも可能である。反応器の内部に設けられた邪魔板23及び、内部に挿入された細粒化剤24の作用により、保管容器が破壊されて保管容器内部の被処理物を無害化処理できる。これにより、保管容器から被処理物を取り出す煩わしさがなく、また、保管容器内に有機ハロゲン化合物が残存することもない。
【0073】
次に図9を参照して、他の形態の実施としての有機ハロゲン化合物の無害化装置の概略的構成について説明する。装置40はオートクレーブ式の無害化装置であり、主として反応器41と、操作盤付制御装置48から構成されている。
【0074】
角柱立方体の装置40上部から反応器41が設置されており、反応器41内部には攪拌軸42があり、攪拌軸下部に2つの攪拌翼43、44が接続されている。攪拌軸上部は動力伝達ベルト(図示を省略)を介して、操作盤付制御装置48に内蔵された動力源であるモータ(図示を省略)と接続している。
【0075】
演算装置及び制御装置は装置上部の操作盤付制御装置48に内蔵され、D/Aコンバータ、モータドライバを介してモータを制御している。操作盤付制御装置48には入力装置及び表示装置が一体となったタッチパネル式操作盤3が設置されている。
【0076】
前述同様、タッチパネル式操作盤3にて被処理物の液量(L)及び被処理物中の有機ハロゲン化合物濃度(pg/L)を入力すると、制御装置48内の演算装置にプログラムされている演算式にて、入力された数値から、エタノールの添加量(L)、金属カルシウムの添加量(g)、パラジウムカーボンの添加量(g)、及び、処理時間(min)が演算される。
【0077】
演算された各々の数値は表示装置であるタッチパネル式操作盤3に表示される。
【0078】
反応器41は上部のボルト47を取り外すことにより開口でき、反応器41内部に被処理物を充填し、更に、タッチパネル式操作盤3上に演算して表示された金属カルシウム、エタノール、及びパラジウムカーボンの各分量を反応器41内に充填する。
【0079】
タッチパネル式操作盤3の自動運転画面37上の「START」を押すと、シーケンサ演算制御装置からの指令により、D/Aコンバータ、モータドライバを経由して操作盤付制御装置48内の内蔵モータを駆動する。
【0080】
モータの駆動により、動力伝達ベルトを介して攪拌軸42が回転し、攪拌翼42、43によって、反応器41内の被処理物、金属カルシウム、エタノール及びパラジウムカーボンが攪拌混合される。
【0081】
演算した処理時間が経過すると、制御装置からの指令により、モータを停止し、自動的に攪拌が終了する。
【0082】
処理後はニードルバルブハンドル45を緩めると、ドレン口46から反応器41内の内容物が排出される。無害化処理後の内容物は産業廃棄物ではないため、一般廃棄物として処理することができる。
【0083】
本装置では様々な形態の有機ハロゲン化合物の分析廃液を無害化することが可能である。被処理物に水が含まれる場合であっても、効率的に有機ハロゲン化合物を分解、無害化することが可能であり、また固体に吸着している有機ハロゲン化合物であっても、容易に有機ハロゲン化合物を溶出させ、これを無害化することもできる。また被処理物に無極性有機溶媒が含まれていても有機ハロゲン化合物を無害化できる。
【0084】
本発明の無害化処理方法で無害化可能な被処理物である有機ハロゲン化合物を例示すれば、ポリクロロジベンゾ−p−ジオキシン類、ポリクロロジベンゾフラン類、ポリクロロビフェニル類、臭化ダイオキシン類などダイオキシン類、含ハロゲン化農薬、及びポリ塩化ビフェニル(以下PCBと記す)、テトラクロロエチレン(以下PCEと記す)、トリクロロエチレン(TCE)などの脂肪族塩素化合物である。
【0085】
被処理物中に、2種以上の有機ハロゲン化合物が含まれていてもよい。また有機ハロゲン化合物は、単独で存在している場合のほか、他の物質を含む場合であっても本発明の無害化処理方法で無害化することが可能である。たとえば、排ガス中にダイオキシン類が含まれる場合にあっては、ダイオキシン類を分離回収することなく、無害化することができる。同様に排水中に有機ハロゲン化合物が含まれる場合、廃油あるいは有機溶媒に含まれる場合であってもよい。さらに飛灰(フライアッシュ)や土壌に吸着された有機ハロゲン化合物であっても、有機ハロゲン化合物を分離回収することなく無害化することができる。
【0086】
また、プロトン性溶媒は、水素イオンを供与することが可能な溶媒であって、具体的には、水、アルコール類が例示される。ここで使用可能なアルコール類は、低級アルコールである。これを例示すれば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールである。これらは単独で使用することも、また混合して使用することも可能である。この際アルコール類と水を混合して使用してもよい。さらに、アルコール類に他の有機溶媒が含まれる場合であってもよい。取扱及び反応性を考えれば、メタノール又はエタノールを主成分とするアルコールが好ましい。
【0087】
プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属は、プロトン性溶媒に溶解し電子を供与することが可能な物質であって、具体的には、アルカリ金属、金属カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムなどの第3族元素、鉄、亜鉛、及びこれら元素を含む合金が例示される。これは単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。プロトン性溶媒に溶解し電子移動による還元力を有する金属の種類は、特に限定されないけれども、金属カルシウムを好適に使用することができる。また金属カルシウムは、粉粒体の形状で使用することが好ましい。
【0088】
還元触媒は、有機ハロゲン化合物の分解反応時の活性化エネルギーを低減する役目を果すものであって、ここで使用可能な還元触媒としては、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、プラチニウムなど貴金属触媒、ニッケル、ニッケルーモリブデンなどの金属触媒が例示される。また、使用形態として金属そのものでも有効であるが、担体に坦持された形態の方が好ましい。ここで使用可能な担体としては、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカーアルミナが例示される。
【0089】
還元触媒としては、活性炭にロジウムを坦持したロジウムカーボン触媒が好ましい。有機ハロゲン化合物の無害化性能及び価格の点から、より好ましくは、活性炭にパラジウムを坦持したパラジウムカーボン触媒である。また、粉粒体の形状で使用することが好ましい。
【実施例】
【0090】
図1に示す、水平軸中心に攪拌を行う無害化装置を用いて、ダイオキシン分析廃液の無害化処理を行った。
【0091】
(実施例1)ダイオキシン濃度2600pg/Lである分析廃液0.5Lの無害化処理を行った。
【0092】
タッチパネル式操作盤3にて、被分解液の液量0.5L及び被分解液中のダイオキシン濃度2600pg/Lを入力し、演算装置により、投入するエタノールの添加量0.5L、金属カルシウムの添加量37g、パラジウムカーボンの添加量3.6g、及び、処理時間1380minが計算される。
【0093】
反応容器に被分解液を投入し、更に、演算によって得られた無害化処理に必要なエタノール量、金属カルシウム量、パラジウムカーボン量を投入した。反応器に蓋をし、回転台の上に載せ、分解を行った。
【0094】
演算装置によって得られた処理時間が終了すると装置が停止した。反応器の内容物を取り出し、ダイオキシン濃度を計測したところ、99%以上のダイオキシンを分解していることを確認した。
【0095】
(実施例2)同様に、ダイオキシン濃度840pg/Lの被分解液0.5Lの無害化処理を行った。
【0096】
(実施例3)同様に、ダイオキシン濃度1800pg/Lの被分解液0.5Lの無害化処理を行った。
【0097】
いずれの実施例も実験終了後にダイオキシン濃度を計測したところ、99%以上のダイオキシンを分解していることを確認した。
【0098】
表1に実施例1〜3の実験条件を示す。
【0099】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明による無害化処理装置は、被処理物に応じて適切な触媒量等、処理に要する物質の分量で処理できる。このため、誰でも容易に有機ハロゲン化合物の無害化をすることができ、分析業務で生じる分析廃液等の処理に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明による有機ハロゲン化合物無害化装置の全体図である。
【図2】本発明による反応器の断面図である
【図3】本発明によるタッチパネル式操作盤の濃度・量積算画面を示す平面図である。
【図4】本発明によるタッチパネル式操作盤の入力画面を示す平面図である。
【図5】本発明によるタッチパネル式操作盤の分解条件画面を示す平面図である。
【図6】本発明によるタッチパネル式操作盤の演算画面を示す平面図である。
【図7】本発明によるタッチパネル式操作盤の自動運転画面を示す平面図である。
【図8】本発明による無害化処理工程を示すブロック図である。
【図9】本発明による更に他の実施形態としての有機ハロゲン化合物無害化装置の透視図である。
【符号の説明】
【0102】
1 攪拌装置
2 反応器
3 タッチパネル式操作盤
11 ローラ
12 抑止部材
13 軸受部
21 容器本体
22 投入口部
23 邪魔板
24 細粒化材
31 濃度・量積算画面1/2
32 濃度・量積算画面2/2
33 入力画面
34 分解条件画面
35 演算画面1/2
36 演算画面2/2
37 自動運転画面
40 オートクレーブ型無害化装置
41 反応器
42 攪拌軸
43 攪拌翼
44 攪拌翼
48 タッチパネル式操作盤付制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物を含有する被処理物と、プロトン性溶媒と、還元触媒と、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属とを混合し、前記有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化及び/又は還元処理する反応器と、
前記反応器の内容物を攪拌混合する攪拌装置と、
前記被処理物の分量及び前記被処理物中の有機ハロゲン化合物の濃度を入力する入力装置と、
前記有機ハロゲン化合物の無害化処理に要する前記プロトン性溶媒の添加量、前記還元触媒の添加量、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属の添加量、及び、処理時間を演算する演算装置と、
前記演算装置から出力される無害化処理に要する前記プロトン性溶媒の添加量、前記還元触媒の添加量、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属の添加量、及び、前記処理時間を表示する表示装置と、
前記処理時間に基づいて前記攪拌装置を制御する制御装置を具備することを特徴とする有機ハロゲン化合物の無害化処理装置。
【請求項2】
前記反応器が略水平軸を中心に回転して前記内容物を攪拌することを特徴とする請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理装置。
【請求項3】
前記反応器内部に攪拌翼を設け、略鉛直軸を中心に攪拌翼を回転させて前記内容物を攪拌することを特徴とする請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理装置。
【請求項4】
前記反応器の内部に細粒化剤を収納したことを特徴とする請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理装置。
【請求項5】
前記入力装置は1以上の被処理物の分量及び被処理物中の有機ハロゲン化合物濃度を入力できることを特徴とする請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理装置。
【請求項6】
前記攪拌装置の前記反応器を設置する箇所に、前記反応器の抑止部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−194060(P2008−194060A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112475(P2006−112475)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(592157098)ラボテック株式会社 (10)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)