説明

有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置

【課題】長期間の排ガス処理運転を行っても有機ハロゲン化合物を高い除去レベルで安定除去することができる。
【解決手段】ジクロロメタンを含有する排ガスを処理する処理装置10において、ジクロロメタンを分解する分解微生物が付着担体に付着保持されたDCM微生物層25を有するガス処理塔24と、ガス処理塔24下部から排ガスをガス処理塔24内に供給するガス供給手段12と、ガス処理塔24上部からDCM微生物層25に水又は分解微生物の培養液を散布する散布管26と、炭素成分としてジクロロメタンのみを含有するガスであって排ガス中のジクロロメタン濃度よりも高濃度の燻蒸ガスをDCM微生物層25に接触させる燻蒸手段23と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置に係り、特に微生物を用いて有機ハロゲン化合物を生物学的に分解処理する有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等から大気に排出される有機ハロゲン化合物、例えばジクロロメタン(DCM)を含有する排ガスを処理する方法としては、排ガスを燃焼して無害化する方法、活性炭塔に排ガスを通気させて活性炭に吸着させる方法等が一般的に知られている。
【0003】
しかし、排ガスを燃焼する方法は補助燃料等を必要としランニングコストが高くなると共に、活性炭吸着方法は定期的に活性炭を交換しなくてはならずメンテナンス上の問題がある。
【0004】
一方、特許文献1には、有機ハロゲン化合物ではないが、メタノール、エタノール等の水溶性の有機物を含有する排ガスを、ガス処理塔内において活性汚泥等の微生物を含む液体と接触させることにより、排ガス中の有機物を生物学的に処理する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ジクロロメタンを特異的に分解する微生物を用いて、廃水中のジクロロメタンを生物学的に処理する方法が開示されている。特許文献2にはジクロロメタンを特異的に分解する微生物として、Hyphomicrobium sp. DM2、Methylobacterium sp. DM4、Pseudomonas sp.DM5Rが記載されている。
【0006】
かかる生物学的な処理方法は、排ガスを燃焼する方法や活性炭に吸着する方法に比べてランニングコストやメンテナンスの点で有利である。したがって、有機ハロゲン化合物を含有する排ガスについても生物学的に処理することができるならば、効率的で且つ経済的な処理を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−137655号公報
【特許文献2】WO93/22247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えばジクロロメタンを含有する排ガスをガス処理塔内においてジクロロメタンを分解する微生物と接触させても分解性能が悪く、排ガス中からジクロロメタンを十分に除去することができないという問題がある。特に、排ガス処理運転の直後は排ガスからジクロロメタンを比較的高い除去率で除去できるが、長期間の排ガス処理運転により除去率が急激に低下するという問題がある。
【0009】
このことは、ジクロロメタンに限らず他の有機ハロゲン化合物の場合も同様である。
【0010】
したがって、ジクロロメタン等の有機ハロゲン化合物を生物学的に処理するには、更なる技術的な改良を必要とする。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ジクロロメタン等の有機ハロゲン化合物を効率的且つ経済的に処理することができると共に、長期間の排ガス処理運転を行っても有機ハロゲン化合物を高い除去レベルで安定除去することができる有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願請求項1の方法は、前記目的を達成するために、有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理する処理方法において、前記有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物が担体に担持された微生物層を有するガス処理塔の下部から前記排ガスをガス処理塔内に供給すると共に、前記ガス処理塔上部から窒素とリンを含有する培養液を散布することによって前記微生物層の湿潤状態の維持と前記分解微生物の活性化を行いながら、前記有機ハロゲン化合物を前記分解微生物で生物学的に分解する生物分解処理工程と、炭素成分として前記有機ハロゲン化合物のみを含有するガスであって前記排ガス中の有機ハロゲン化合物濃度よりも高濃度の燻蒸ガスを前記微生物層に接触させて該微生物層の前記分解微生物以外の微生物を燻蒸処理する燻蒸工程と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法を提供する。
【0013】
燻蒸とは通常、消毒や害虫駆除のために薬品でいぶすことを言うが、ここでは微生物層における有機ハロゲン化合物の分解微生物以外の雑微生物を殺菌又は失活させることを言う。また、単に分解微生物と言う場合には、有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物を指すこととする。
【0014】
本願請求項1によれば、燻蒸工程を設けて、炭素成分として有機ハロゲン化合物のみを含有するガスであって排ガス中の有機ハロゲン化合物濃度よりも高濃度の燻蒸ガスをガス処理塔の微生物層に接触させて該微生物層の分解微生物以外の微生物を燻蒸処理するようにした。これにより、有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物が雑微生物によって悪影響を受けにくくなると共に、雑微生物を殺菌又は失活することで分解微生物が優先繁殖し易くなるので、分解微生物の分解性能が向上する。したがって、高い処理効率で且つ長時間処理が可能となるので、メンテナンスの点でも有利であり、有機ハロゲン化合物を効率的且つ経済的に処理することができる。また、長期間の排ガス処理運転を行っても有機ハロゲン化合物を高い除去レベルで安定除去することができる。
【0015】
ここで、殺菌又失活とは、雑微生物の全てを完全に殺菌又は失活することに限定するものではなく、雑微生物濃度を低減したり、雑微生物の性能を弱らせたりする場合も含む。
【0016】
本発明を適用する有機ハロゲン化合物の一例としては、工場等において溶剤として一般的に使用され、しかも難分解性な性質のジクロロメタンがあり、排気ガス中のジクロロメタンを効率的に除去することは大気汚染防止の観点から重要である。ジクロロメタンを分解する分解微生物としてはHyphomicrobium sp.のコンソーシアムを好適に使用できる。
【0017】
本発明の処理方法において、燻蒸工程における燻蒸ガスの有機ハロゲン化合物濃度は、ガス処理塔で処理する排ガスの有機ハロゲン化合物濃度の10倍以上1000倍以下であることが好ましい。10倍以上の燻蒸ガスで微生物層を燻蒸することで、雑微生物を効果的に殺菌又は失活することができるからである。また、1000倍以上にしても燻蒸効果が横ばいになることや、燻蒸ガスの無駄遣いになり経済的でないと共に、高濃度がゆえに分解微生物自身が損傷を受ける場合もある。したがって、10倍以上1000倍以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の処理方法において、燻蒸工程は、ガス処理塔の立ち上げ時に行うことが好ましい。これにより、分解微生物の分解性能が向上するので、排ガスの運転処理開始時から高い有機ハロゲン化合物除去率を達成することができる。
【0019】
本発明の処理方法において、燻蒸工程は、ガス処理塔で排ガス処理の途中に間欠的に行うことが好ましい。ガス処理塔での排ガス処理を継続すると、微生物層の雑微生物が増殖するので分解微生物の分解性能が次第に低下する。したがって、排ガス処理の途中に間欠的に燻蒸処理を行って、微生物層の雑微生物を殺菌又は失活させることで分解微生物の分解性能を回復することができる。また、燻蒸工程は、立ち上げ時と排ガスの処理中の両方行えば特に好ましい。
【0020】
本発明の処理方法において、生物分解処理工程では、分解微生物に培養液を供給することにより、分解微生物の湿潤状態の維持と分解微生物の活性化を行うと共に、培養液中の窒素濃度を100pp以上4000ppm以下とし、リン濃度を100ppm以上3000ppm以下とすることが好ましい。
【0021】
これは、分解微生物の栄養源として、炭素の他に窒素やリンの濃度を規定することが重要であり、培養液中の窒素濃度を100pp以上4000ppm以下とし、リン濃度を100ppm以上3000ppm以下とすることにより、分解微生物の活性性能を向上できるからである。より好ましい培養液中の窒素濃度は200pp以上3000ppm以下であり、特に好ましい培養液中の窒素濃度は300pp以上2000ppm以下である。また、より好ましい培養液中のリン濃度は150pp以上2000ppm以下であり、特に好ましい培養液中のリン濃度は200pp以上1000ppm以下である。
【0022】
本願請求項8の装置は、前記目的を達成するために、有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理する処理装置において、前記有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物が担体に担持された微生物層を有するガス処理塔と、前記ガス処理塔下部から前記排ガスをガス処理塔内に供給するガス供給手段と、前記ガス処理塔上部から前記微生物層に水又は前記分解微生物の培養液を散布する散布手段と、炭素成分として前記有機ハロゲン化合物のみを含有するガスであって前記排ガス中の有機ハロゲン化合物濃度よりも高濃度の燻蒸ガスを前記微生物層に接触させる燻蒸手段と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置を提供する。
【0023】
本発明請求項8は、本発明を装置として構成したものであり、炭素成分として有機ハロゲン化合物のみを含有するガスであって排ガス中の有機ハロゲン化合物濃度よりも高濃度の燻蒸ガスを微生物層に接触させる燻蒸手段を設けたので、微生物層における分解微生物以外の雑微生物を殺菌又は失活させることができる。これにより、有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物が雑微生物によって悪影響を受けにくくなると共に、分解微生物が優先繁殖し易くなるので、分解微生物の分解性能が向上する。したがって、高い処理効率で且つ長時間処理が可能となるので、メンテナンスの点でも有利であり、有機ハロゲン化合物を効率的且つ経済的に処理することができる。また、長期間の排ガス処理運転を行っても有機ハロゲン化合物を高い除去レベルで安定除去することができる。
【0024】
また、本発明の処理装置において、燻蒸手段を、ガス処理塔の立ち上げ時に行うように制御する第1制御と、ガス処理塔で排ガス処理の途中に間欠的に行うように制御する第2制御と、第1制御と第2制御の両方を行う第3制御と、を切り換え制御する燻蒸制御手段を設けることが好ましい。
【0025】
これにより、排ガス処理の運転開始時から運転終了時まで常に高い除去率で有機ハロゲン化合物を除去できるように、ガス処理塔における微生物層の状態をコントロールすることができる。
【0026】
本発明の処理装置において、ガス処理塔から排気される燻蒸ガス中に残留する有機ハロゲン化合物を除去する除去手段が設けられることが好ましい。
【0027】
燻蒸ガスに含有される有機ハロゲン化合物は微生物層に接触することである程度消費される。しかし、排ガスよりも高濃度の有機ハロゲン化合物が含有されているので、ガス処理塔から排出される燻蒸ガスに有機ハロゲン化合物が残留する場合があるからである。
【0028】
また、分解微生物を担持させる担体は、活性炭をベース材料としたものであることが分解微生物の分解性能を向上する上で好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置によれば、分解微生物の有機ハロゲン化合物に対する分解性能を向上させることができると共に分解性能の経時低下が小さいので、メンテナンスフリーで長時間の高効率運転が可能となる。したがって、有機ハロゲン化合物を効率的且つ経済的に処理することができる。また、長期間の排ガス処理運転を行っても有機ハロゲン化合物を高い除去レベルで安定除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置の基本構成を説明する概念図
【図2】本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置の基本構成に第1例の前処理手段を組み合わせた場合を説明する概念図
【図3】本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置の基本構成に第2例の前処理手段を組み合わせた場合を説明する概念図
【図4】本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置の基本構成に第3例の前処理手段を組み合わせた場合を説明する概念図
【図5】本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置の基本構成に第4例の前処理手段を組み合わせた場合を説明する概念図
【図6】実施例でDCM微生物層を形成するための馴致培養に使用した培養液の組成を説明する説明図
【図7】実施例Aの結果を説明する説明図
【図8】実施例Bの結果を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0032】
なお、本発明における有機ハロゲン化合物としては、例えばジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、四塩化炭素、クロロエタン、クロロホルム、塩化ビニル、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、ジクロロブロモエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、ブロモジクロロメタン、クロロジブロモメタン、ブロモホルムなどが挙げられるが、本実施の形態ではジクロロメタンの例で以下に説明する。
【0033】
図1は、本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置10の基本構成を示す概念図である。なお、ジクロロメタンを分解する分解微生物をDCM分解微生物と言うことにする。
【0034】
図1に示すように、ジクロロメタンを含有する排ガスは、排ガス配管12を流れてガス処理塔24の下部に供給される。ガス処理塔24の高さ方向中央部には、ジクロロメタンを分解するDCM分解微生物が担体に担持されたDCM微生物層25が設けられる。DCM微生物層25の下面に簀の子又は金網等の多孔性部材を設けることで、DCM微生物層25を保持することができる。DCM分解微生物としては、Hyphomicrobium sp.を好適に使用でき、Hyphomicrobium sp.を含むコンソーシアム(複数菌の集合体)を使用することが好ましい。
【0035】
担体に担持されるDCM分解微生物は、純粋培養したものでもよいが通常はDCM分解微生物を含有する活性汚泥を使用すると簡便である。例えば、ジクロロメタンが含有される廃水を処理する処理場の活性汚泥、土壌、湖沼の底泥等を用いてDCM分解微生物を培養した汚泥を好適に使用することができる。これにより、担体の表面には、ジクロロメタンを分解するDCM分解微生物を含有する活性汚泥の生物膜(バイオフィルム)が形成され、この生物膜によって排ガス中のジクロロメタンが生物分解される。ジクロロメタンは生物分解により二酸化炭素と水と塩酸(塩化物イオン)とに分解される。
【0036】
DCM分解微生物を担持させる担体としては、表面積が大きく微生物が担持され易い性質、DCM分解微生物と親和性を有する性質のものであることが好ましい。例えば、活性炭や、活性炭と微生物に対して親和性を有するプラスチックとのコンパウンド等のように活性炭をベース材料とした担体が好適である。具体的には、生物親和性の高いPVA(ポリビニルアルコール)のスポンジを基幹としたマイクロブレスHGB10やマイクロブレスHLL10(アイオン(株)製)、同様に生物親和性のPVAを原料としたクラゲール(クレラ(株)製)、多孔質プラスチックと活性炭のコンパウンド担体であるACP担体やBCP担体(デンカエンジニアリング(株)製)、活性炭繊維を加工したアドールFMI(ユニチカ(株)製)を好適に採用できる。
【0037】
また、排ガス処理を長時間行うと、生物膜を構成する微生物が増殖して生物膜の厚みが徐々に厚くなる。生物膜が厚くなり過ぎると、DCM微生物層25を排ガスが通気しにくくなると共に、DCM分解微生物以外の雑微生物が増殖するので、ジクロロメタンの分解性能が低下する。したがって、DCM微生物層25の下方位置にエア曝気手段(図示せず)を設けて、担体をエア攪拌して互いに擦ることにより、厚くなり過ぎた生物膜の一部を剥離することが好ましい。また、DCM微生物層25の上面にも簀の子又は金網等の多孔性部材を設けて、DCM微生物層25が一定の層厚みになるようにすることにより、DCM微生物層25の担体の密度を調整することも好ましい。これにより、排ガスがDCM微生物層25を通気する通気抵抗が小さく、且つ排ガスが生物膜に効率的に接触されるように担体密度を保持することができる。
【0038】
また、ガス処理塔24の頂部には散布管26が設けられると共にガス処理塔24の底部にはDCM分解微生物の培養液が貯留されたタンク28が形成される。そして、散布管26とタンク28とが循環配管30により連結されると共に、循環配管30には循環ポンプ32が設けられる。これにより、タンク28に貯留された培養液は散布管26からDCM微生物層25に散布され、DCM分解微生物に必要な水分と栄養成分が供給される。
【0039】
DCM分解微生物の培養液の組成としては、炭素、窒素、リンを主成分とした組成のものを使用することができる。かかる培養液中の成分として特に窒素濃度を100pp以上4000ppm以下とし、リン濃度を100ppm以上3000ppm以下とすることが好ましい。これは、培養液中の窒素濃度を100pp以上4000ppm以下とし、リン濃度を100ppm以上3000ppm以下とすることが、分解微生物の活性化に重要だからである。より好ましい培養液中の窒素濃度は200pp以上3000ppm以下であり、特に好ましい培養液中の窒素濃度は300pp以上2000ppm以下である。また、より好ましい培養液中のリン濃度は150pp以上2000ppm以下であり、特に好ましい培養液中のリン濃度は200pp以上1000ppm以下である。
【0040】
また、ガス処理塔24には、DCM微生物層25を燻蒸するための燻蒸手段23が設けられる。即ち、ガス処理塔24におけるDCM微生物層25の下方であってタンク28の上方には、ガスを散気する散気管27がDCM微生物層25に向けて設けられ、燻蒸ガス供給管29を介して燻蒸ガスボンベ31に接続される。燻蒸ガスボンベ31には、炭素成分としてジクロロメタンのみを含有するガスであって排ガス中のジクロロメタン濃度よりも高濃度の燻蒸ガスが液化した状態で貯留される。燻蒸ガス供給管29には、流量調整バルブ33が設けられる。これにより、流量調整バルブ33を開くと、燻蒸ガスボンベ31の燻蒸ガスが散気管27から微生物層25に向けて放出され、DCM微生物層25が燻蒸処理される。
【0041】
このように、燻蒸ガスにDCM分解微生物の炭素栄養源であるジクロロメタンのみを高濃度に含有させることにより、DCM微生物層25に存在する各種の微生物のうち、DCM分解微生物を増殖又は活性化させ、ジクロロメタンを栄養源としない雑微生物を殺菌又は失活させることができる。燻蒸ガスに含有されるジクロロメタン濃度は、排ガスに含有されるジクロロメタン濃度の10倍以上1000倍以下であることが好ましい。燻蒸ガス中のジクロロメタン濃度で見た場合には、0.1〜100ppmの範囲が好ましく、0.5〜50ppmの範囲が更に好ましく、1.0〜10ppmの範囲が特に好ましい。
【0042】
また、ガス処理塔24の頂部には処理配管34が設けられ、DCM微生物層25で生物分解処理工程を行った処理ガスは、処理配管34を介して大気に放出される。この処理配管34にはバイパス配管43が設けられ、バイパス配管43に燻蒸ガス中に残留するジクロロメタンを除去する除去手段39が設けられる。そして、処理配管34とバイパス配管43との分岐位置には、流路切り換え用の切り換え弁41が設けられる。
【0043】
除去手段39としては、ジクロロメタンを溶解可能な吸収液に吸収させたり、活性炭に吸着させたりする等の手段を好適に使用できる。これにより、燻蒸処理する場合にも、燻蒸ガスに残留するジクロロメタンが大気に放出されることを確実に防止できると共に、バイパス配管43を使用することで排ガス運転時にもDCM除去率を一層向上できる。
【0044】
また、排ガス配管12には開閉バルブ37が設けられると共に、この開閉バルブ37と燻蒸ガス供給管29に設けられた流量調整バルブ33と前記した切り換え弁41は、それぞれ信号ケーブルを介して燻蒸制御装置35に接続される。
【0045】
そして、燻蒸制御装置35が流量調整バルブ33、開閉バルブ37、及び切り換え弁41を制御することにより、ガス処理塔24の立ち上げ時に燻蒸処理を行う第1制御と、ガス処理塔24で排ガス処理の途中に燻蒸処理を間欠的に行う第2制御と、第1制御と第2制御の両方を行う第3制御と、の切り換えを行うと共に、処理配管34とバイパス配管43との切り換えを行う。これにより、排ガス処理の運転開始時から運転終了時まで常に高い除去率で有機ハロゲン化合物を除去できるように、ガス処理塔24におけるDCM微生物層25の状態をコントロールすることができる。
【0046】
例えば、ガス処理塔24の立ち上げ時にDCM微生物層25の燻蒸を行う第1制御の場合には、排ガス配管12の開閉バルブ37を閉成した状態で、流量調整バルブ33を適量開いてDCM微生物層25の燻蒸を行う。また、切り換え弁41をバイパス配管43側に切り換える。これにより、排ガス運転前のDCM微生物層25におけるDCM分解微生物の濃度を向上させることができるので、排ガス運転の最初から高いジクロロメタン除去率を達成することができる。また、燻蒸ガスに残留するジクロロメタンが大気に放出されることもない。
【0047】
ガス処理塔24で排ガス処理の途中に燻蒸処理を間欠的に行う第2制御を行う場合には、排ガス配管12の開閉バルブ37を閉成した状態で、流量調整バルブ33を間欠的に開閉する。また、切り換え弁41をバイパス配管43側に切り換える。このように、排ガス運転を継続したときに、DCM微生物層25の雑微生物が増殖してDCM分解微生物の活性が低下してきた場合には、燻蒸処理を間欠的に行うことにより、DCM微生物層25におけるDCM分解微生物の活性を再び回復させることができる。これにより、排ガス運転時におけるDCM除去率を高いレベルで安定化することができる。
【0048】
排ガス運転中の燻蒸処理の頻度は7日〜180日の範囲で1回行うことが好ましく、14日〜90日の範囲で1回行うことが更に好ましく、28日〜45日の範囲で1回行うことが特に好ましい。また、燻蒸している期間は、1日〜30日が好ましく、2日〜20日が更に好ましく、3日〜10日が特に好ましい。
【0049】
立ち上げ時の燻蒸と排ガス運転途中に間欠燻蒸を行う第3制御の場合には、上記した第1制御と第2制御を組み合わせればよい。
【0050】
次に、本発明における燻蒸処理に、排ガス中のジクロロメタン以外の夾雑ガス成分を除去する前処理を組み合わせた態様を説明する。これは、ガス処理塔24での生物分解処理を行う前に、排ガス中に含有されるジクロロメタン以外の夾雑ガス成分を前処理手段で除去するように処理装置を構成したものである。これにより、DCM分解微生物が夾雑ガス成分から受ける悪影響を小さくできるので、燻蒸処理によるDCM分解微生物の性能向上と相俟って、高い処理効率で且つ長時間の安定処理を一層向上させることができる。
【0051】
[前処理手段の第1例]
図2は、本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置の基本構成に前処理手段の第1例を組み合わせた概念図であり、前処理手段としてスクラバー塔を設けた場合である。
【0052】
図2に示すように、ジクロロメタンを含有する排ガスは、排ガス配管12を流れて先ずスクラバー塔14の下部に供給される。一方、スクラバー塔14の上部には散布管16が設けられ、スクラバー塔14内を上昇する排ガスに対して水が散布される。散布された水はスクラバー塔14の底部に溜まり、循環配管18及び循環ポンプ20により再び散布管16に循環される。これにより、排ガスと水とが気液接触する前処理工程が行われ、排ガス中に含有されるジクロロメタン以外の夾雑ガス成分のうち水溶性の夾雑ガス成分(メタノール、エタノール等)が水中に溶解されて除去又は低減される。この場合、散布管16から散布する水としてアルカリ性の水又は酸性の水を散布することにより、夾雑ガス成分中の有機酸や有機塩基のような酸性成分やアルカリ性成分を効果的に除去することができる。また、排ガスと水との気液接触効率を高めるために、スクラバー塔14の高さ方向中央部に、ラヒリングを充填したラヒリング層を設けることが好ましい。なお、スクラバー塔14による排ガスの水洗浄を継続すると、スクラバー塔14の底部に溜まった水の夾雑ガス成分濃度が高くなるので、水を定期的に交換または補充等で連続希釈するための手段を付設することが好ましい。
【0053】
夾雑ガス成分としては、工業的に通常使用される有機化合物を挙げることができる。例えば、メタノール,エタノール,フェノール等のアルコール類、エチルアミン,アニリン等のアミン類、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類、ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド等のアルデヒド類、メチルエチルエーテル,ジエチルエーテル等のエーテル類、ギ酸 酢酸等のカルボン酸類、及びメタンエタン,エチレン,ベンゼン等の炭化水素類を挙げることができる。
【0054】
次に、スクラバー塔14で前処理工程を行った前処理ガスは、スクラバー塔14の頂部から排出され、配管22を流れてガス処理塔24の下部に供給され、生物分解処理工程が実施される。かかる生物分解処理工程の立ち上げ時及び/又は排ガス運転の途中に上記したと同様に燻蒸処理がなされる。
【0055】
このように、燻蒸手段23を備えたガス処理塔24での生物分解処理工程の前段に前処理工程を設けて排ガスを多段処理することにより、DCM分解微生物のジクロロメタンに対する分解性能を向上させることができると共に分解性能の経時低下を小さくすることができる。したがって、高い処理効率で且つ長時間のメンテナンスフリー運転が可能となるので、ジクロロメタンを効率的且つ経済的に処理することができる。
【0056】
ジクロロメタン以外の夾雑ガス成分を除去する前処理工程を行うことでDCM分解微生物のジクロロメタンに対する分解性能を向上させることができる理由は、次の3つの理由であると考察される。
【0057】
(1)ジクロロメタンは難分解性の化合物であるため、排ガス中にジクロロメタン以外の夾雑ガス成分が多く存在すると、DCM分解微生物がジクロロメタンよりも分解し易い易分解性の化合物である例えばメタノール、エタノール等の夾雑ガス成分を分解してしまい、本来分解しなくてはならないジクロロメタンの分解率が低下する。
【0058】
(2)夾雑ガス成分がDCM分解微生物の代謝に悪影響を及ぼすために、DCM分解活性が低下する。
【0059】
(3)夾雑ガス成分を栄養源として代謝するDCM分解微生物以外の雑微生物が優先繁殖し易くなるため、DCM分解微生物の菌濃度が低下して分解性能が低下する。
【0060】
上記(1)〜(3)はジクロロメタンで説明したが、上記した他の有機ハロゲン化合物についても同様である。
【0061】
[前処理手段の第2例]
図3は、前処理手段の第2例を備えた有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置10の場合である。なお、第1例と同じ部材や装置は同符号を付して説明する。
【0062】
図3の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置10は、前処理手段として水槽36を設けた場合であり、その他は図1と同様である。図3に示すように、ジクロロメタンを含有する排ガスは、排ガス配管12を流れて水槽36内に貯留された水中に供給される。これにより、排ガスは気泡となって水中を上昇し、水槽36内上部のヘッドスペース部38に溜まる。したがって、排ガスと水とが気液接触する前処理工程が行われ、排ガス中に含有されるジクロロメタン以外の水溶性の夾雑ガス成分が水中に溶解されて除去又は低減される。この第2例の場合も、水槽36内に貯留された水としてアルカリ性の水又は酸性の水を使用することが好ましい。
【0063】
水槽36において前処理工程が行われた前処理ガスは、配管22を流れてガス処理塔24に送られ、図1で説明したと同様の燻蒸処理を備えた生物分解処理工程が行われる。
【0064】
[前処理手段の第3例]
図4は、前処理手段の第3例を備えた有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置10の場合であり、前処理手段として夾雑ガス成分を生物学的に除去するための前処理塔40を設けた場合である。
【0065】
前処理塔40の高さ方向中央部には、排ガスと複数の微生物が混在する複合微生物とを接触させることにより、排ガス中に含まれる夾雑ガス成分を複合微生物で分解して除去する複合微生物層42が設けられる。この場合、夾雑ガス成分を構成する主たる化合物を予め検出して、検出した化合物を分解可能な微生物同士を寄せ集めた複合微生物とすることが好ましい。具体的には、夾雑ガス成分を構成する主たる化合物の1つ又は複数を含有する廃水処理場の活性汚泥や、夾雑ガス成分が排気される工場周辺の土壌等を採取して分解微生物を培養し、担体に担持する方法を採用できる。
【0066】
また、前処理塔40の上部には散布管44が設けられ、散布管44と前処理塔40底部の貯留タンク部46との間が循環配管48で連結されると共に、循環配管48には循環ポンプ50が設けられる。散布管44からは水又は複合微生物の培養液が散布される。
【0067】
上記の如く構成された前処理手段の第3例によれば、ジクロロメタンを含有する排ガスは、排ガス配管12を流れて前処理塔40の下部に供給される。前処理塔40に供給された排ガスは複合微生物層42を通気する際に複合微生物と接触して排ガス中の夾雑ガス成分を生物分解する前処理工程が行われる。
【0068】
前処理工程で処理された前処理ガスは、配管22を流れてガス処理塔24に供給され、図1で説明したと同様の燻蒸処理を備えた生物分解処理工程が行われる。
【0069】
[前処理手段の第4例]
図5は、前処理手段の第4例を備えた有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置10の場合であり、前処理手段として1段目に水槽36を設け、2段目に前処理塔40を設けた場合である。1段目の水槽36による水溶性の夾雑ガス成分の除去は第1の実施の形態の変形例と同様であり、2段目の前処理塔40による夾雑ガス成分の複合微生物による除去は第2の実施の形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。符号52は水槽36と前処理塔40とをつなぐ配管である。
【0070】
このように、前処理手段として、水槽36と前処理塔40との両方を設けて予め排ガス中の夾雑ガス成分を水洗浄と複合微生物との両方で処理することで、単独で用いる場合に比べてガス処理塔24に供給される前処理ガス中の夾雑ガス成分濃度を一層低減することができる。
【0071】
前処理工程で処理された前処理ガスは、配管22を流れてガス処理塔24に供給され、図1で説明したと同様の燻蒸処理を備えた生物分解処理工程が行われる。
【0072】
これにより、DCM分解微生物のジクロロメタンに対する分解性能を一層向上させることができると共に分解性能の経時低下を小さくすることができる。
【0073】
なお、第4例では前処理工程の1段目に水槽36を設け、2段目に前処理塔40を設けたが、1段目に前処理塔40を設け、2段目に水槽36を設けてもよい。また、第4例では水槽36の例で説明したが、水槽36に代えてスクラバー塔14を設けてもよいことは言うまでもない。
【0074】
なお、本実施の形態では、有機ハロゲン化合物の一例として、ジクロロメタンの例で説明したが、本発明が他の有機ハロゲン化合物を含有する排ガスにも適用できることは言うまでもない。また、他の有機ハロゲン化合物を含有する排ガスの場合、除去したい有機ハロゲン化合物が存在する土壌、廃水汚泥、湖沼の底泥等を採取して培養することで、分解微生物を得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法及び装置の実施例を、ジクロロメタンの例で説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0076】
[実施例A]
実施例Aでは、排ガス(試料ガス)中のジクロロメタンをDCM分解微生物で分解するガス処理塔24における燻蒸処理の効果を調べた。なお、前処理手段は使用せずにガス処理塔24に排ガスを直接導入した。
【0077】
実験に用いたジクロロメタン(DCM)含有排ガスは、ガスボンベ(容量47リットル:(株)巴商会製)から50ppmDCM濃度のDCMガスをガス混合装置MX−2S((株)ユタカ製)において空気と混合し、3〜5ppmDCM濃度に調製したものを使用した。
【0078】
そして、調製した排ガスを10リットル/分の流速でガス処理塔24に導入した。また、DCM以外の夾雑ガス成分としてメタノールを夾雑させた。メタノールを夾雑させる方法は、上記のガス混合装置と処理装置10との間にガラス製のガストラップ器を設置し、その容器内に50%メタノールを入れ、DCM含有空気の流れに応じてメタノールが排ガス中に混入するようにした。
【0079】
実験に使用したガス処理塔24は、内径10cmの透明塩化ビニル製の円筒のものを使用した。そして、穴明き塩化ビニル板から作成した簀の子をガス処理塔24内に設置し、その上にDCM分解微生物を含有する活性汚泥を担持させた担体を層状に敷きつめてDCM微生物層25を形成した。DCM微生物層25の容量(体積)は5リットルとした。ガス処理塔24の底部には、内容量40リットルのタンク28が設けられ、排ガスをタンク28と簀の子との間に導入した。ガス処理塔24の頂部には処理配管34が設置され、処理配管34とDCM微生物層25の上端との間に散布管26を設けた。そして、タンク28に貯留された培養液が循環配管30及び循環ポンプ32により散布管26からDCM微生物層25に散布されるようにした。タンク28には必要に応じて培養液を排出して新しい培養液に交換したり、培養液を補充して連続希釈したりするためのバルブ(図示せず)を設けた。
【0080】
処理配管34から排出される処理後の排ガス中DCM濃度の測定は、作業環境測定ガイドブック5有機溶剤関係((社)日本作業環境測定協会)に記載の個体捕集法(活性炭管)−ガスクロマトグラフ分析法に従って行なった。
【0081】
ガス処理塔24のDCM微生物層25を形成するためのDCM分解微生物担持担体は次のようにして作成した。即ち、富士フイルム神奈川工場足柄サイトの終末処理場内の排水貯水槽から採取した活性汚泥を図6に示す組成の培養液に分散し、DCM(液体)を約50〜200ppmの濃度になるよう随時添加しながら馴致培養した。この馴致培養によりDCM分解微生物が培養されていることは、ジクロロメタンが分解することにより発生する塩化物イオン(HCl)の濃度上昇等で確認した。そして、塩化物イオンの上昇等によりDCM分解微生物の培養が確認された後の培養液に担体を投入して、約1週間そのまま放置することにより、担体表面にDCM分解微生物が存在する活性汚泥の生物膜を形成し、DCM分解微生物担持担体を作成した。
【0082】
DCM分解微生物担持担体の担体は、マイクロブレスHGB10(アイオン(株))とアドールFMI(ユニチカ(株)製)との2種類を使用した。そして、上記2種類の担体を別々のガス処理塔24にそれぞれ5リットル充填してDCM微生物層25を形成した。
【0083】
図7の表における試験1は担体としてマイクロブレスHGB10を使用した場合であり、試験2は担体としてアドールFMIを使用した場合である。
【0084】
そして、試験1及び2について、(I)燻蒸前通気の充填直後、(II)燻蒸前通気の1カ月後、(III)燻蒸後通気の燻蒸直後、及び(IV)燻蒸後通気の1カ月後の4点におけるDCM除去率を調べた。
【0085】
ここで、燻蒸前通気の充填直後とは、ガス処理塔24にDCM分解微生物担持担体を充填して排ガスを流し始めた直後、即ちガス処理塔24の運転開始直後におけるDCM除去率である。そして、燻蒸前通気の1カ月後とは、ガス処理塔24の運転開始から1カ月後におけるDCM除去率である。
【0086】
また、燻蒸後通気の燻蒸直後とは、ガス処理塔24の運転開始から1カ月後に一旦運転を停止して燻蒸処理を行い、再び運転を開始した直後のDCM除去率である。即ち、ガス処理塔24の運転開始から1カ月後に排ガス配管12の開閉バルブ37を閉成してガス処理塔24への排ガスの供給を停止すると共に、流量調整バルブ33を開成して50ppmDCM濃度の燻蒸ガスを散気管からDCM微生物層25に向けて72時間散気し、DCM微生物層25を燻蒸した。このときの燻蒸処理は、ガス処理塔24に燻蒸ガスを充満滞留させるか、又は燻蒸ガスの流量が1L/分以下の低流量になるようにして行った。燻蒸ガスのDCM濃度は排ガス中のDCM濃度の10倍〜17倍に相当する高濃度であるので、切り換え弁41はバイパス配管43側に切り換えて行った。そして、燻蒸後通気の1カ月後とは、燻蒸処理してから1カ月後のDCM除去率である。
【0087】
なお、散布管26、44からは培養液を散布した。散布した培養液の組成は上記したDCM分解微生物の馴致培養に用いたものと同様であるが、塩化アンモニウム及びリン酸水素二カリウムの量を調節し、培養液中の窒素分(N)が105ppm、リン分(P)が102ppmになるようにした。
【0088】
そして、上記の(I)〜(IV)について、ガス処理塔24へ供給前の排気ガス中のDCMガス濃度と処理配管34から排出される処理後の排ガス中のDCMガス濃度の濃度差からDCM除去率を求めた。即ち、通気前の排ガス中のDCMガス濃度をAとし、通気後の排ガス中のDCMガス濃度をBとしたときに、
DCM除去率(%)=[(A−B)/A]×100の式で表される。
【0089】
(実験結果)
実験結果を図7の表に示す。
【0090】
図7の表の試験1(担体:マイクロブレスHGB10)から分かるように、DCM微生物層25を燻蒸していない燻蒸前通気の場合には、運転開始直後のDCM除去率が50%あったものが、運転1カ月後で27%まで低減した。しかし、除去率が低減したDCM微生物層25を燻蒸することによりDCM除去率は55%まで回復し、その後の運転1カ月後であってもDCM除去率は51%で殆ど低下しなかった。
【0091】
担体の種類をアドールFMIに代えた試験2は、DCM微生物層25を燻蒸していない燻蒸前通気の場合には、運転開始直後のDCM除去率が84%あったものが、運転1カ月後で48%まで低減した。しかし、除去率が低減したDCM微生物層25を燻蒸することによりDCM除去率は88%まで回復し、その後の運転1カ月後であってもDCM除去率は80%で殆ど低下しなかった。
【0092】
このように、燻蒸処理により、DCM除去率が低下したDCM微生物層25の活性化を図ることができると共に、長期間高いレベルでのDCM除去率を維持できることが実証された。
【0093】
また、実施例Aの結果から、活性炭系の担体であるアドールFMIは高いDCM除去率を得ることができることが分かった。
【0094】
[実施例B]
実施例Bは、ガス処理塔24の散布管26から散布する培養液の窒素濃度及びリン濃度の影響を調べたものである。
【0095】
ガス処理塔24の散布管26から散布する培養液中の塩化アンモニウム及びリン酸水素二カリウムの量を調節し、培養液中の窒素分(N)及びリン分(P)を変化させた培養液を調製した。この培養液で実施例Aにおける試験1と試験2のガス処理塔24の構成で且つメタノール混入ありの系で排ガス処理実験を実施例Aと同様に実施した。試験1のガス処理塔24で行った試験を試験1−2とし、試験2のガス処理塔24で行った試験を試験2−2とする。
【0096】
試験結果を図8の表に示すと共に、表のDCM除去率は燻蒸後通気1.5カ月後の値である。
【0097】
図8の表から分かるように、窒素(N)濃度が93ppm、リン(P)濃度が87ppmのように、窒素及びリンの濃度が100ppm未満の場合には、試験1−2のDCM除去率が35%、実施例2−2のDCM除去率が59%でいずれの場合にも低いDCM除去率であった。
【0098】
一方、窒素(N)濃度が4200ppm、リン(P)濃度が3110ppmのように、窒素濃度が4000ppmを超えまたリン濃度が3000ppmを超える場合には、試験1−2のDCM除去率が31%、試験2−2のDCM除去率が58%でいずれの場合にも低いDCM除去率であった。
【0099】
これに対して、窒素(N)濃度が112〜3920ppmの間で、リン(P)濃度が104〜2800ppmの間のように、窒素濃度が100ppm以上4000ppm以下、リン濃度が100ppm以上3000ppm以下の場合には、試験1−2のDCM除去率は69〜74%の高い除去率であった。また、試験2−2の場合にもDCM除去率は85〜92%と顕著に高かった。
【0100】
したがって、実施例Bの結果から、培養液中の窒素濃度を100pp以上4000ppm以下とし、リン濃度を100ppm以上3000ppm以下とすることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0101】
10…有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置、12…排ガス配管、14…スクラバー塔、16、26、44…散布管、18、30、48…循環配管、20、32、50…循環ポンプ、23…燻蒸手段、22、52…配管、24…ガス処理塔、27…散気管、28…タンク、29…燻蒸ガス供給管、31…燻蒸ガスボンベ、33…流量調整バルブ、34…処理配管、35…燻蒸制御装置、36…水槽、37…開閉バルブ、38…ヘッドスペース、39…除去手段、40…前処理塔、41…切り換え弁、42…複合微生物層、43…バイパス配管、46…貯留タンク部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理する処理方法において、
前記有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物が担体に担持された微生物層を有するガス処理塔の下部から前記排ガスをガス処理塔内に供給すると共に、前記ガス処理塔上部から窒素とリンを含有する培養液を散布することによって前記微生物層の湿潤状態の維持と前記分解微生物の活性化を行いながら、前記有機ハロゲン化合物を前記分解微生物で生物学的に分解する生物分解処理工程と、
炭素成分として前記有機ハロゲン化合物のみを含有するガスであって前記排ガス中の有機ハロゲン化合物濃度よりも高濃度の燻蒸ガスを前記微生物層に接触させて該微生物層の前記分解微生物以外の微生物を燻蒸処理する燻蒸工程と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記有機ハロゲン化合物はジクロロメタンであることを特徴とする請求項1の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記燻蒸ガスの有機ハロゲン化合物濃度は、前記排ガスの有機ハロゲン化合物濃度の10倍以上1000倍以下であることを特徴とする請求項1又は2の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記燻蒸工程は、前記ガス処理塔の立ち上げ時に行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記燻蒸工程は、前記ガス処理塔で前記排ガス処理の途中に間欠的に行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項6】
前記燻蒸工程は、前記ガス処理塔の立ち上げ時に行うと共に前記ガス処理塔で前記排ガス処理の途中に間欠的に行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項7】
前記培養液中の窒素濃度を100pp以上4000ppm以下とし、リン濃度を100ppm以上3000ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜6の何れか1の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項8】
有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理する処理装置において、
前記有機ハロゲン化合物を分解する分解微生物が担体に担持された微生物層を有するガス処理塔と、
前記ガス処理塔下部から前記排ガスをガス処理塔内に供給するガス供給手段と、
前記ガス処理塔上部から前記微生物層に水又は前記分解微生物の培養液を散布する散布手段と、
炭素成分として前記有機ハロゲン化合物のみを含有するガスであって前記排ガス中の有機ハロゲン化合物濃度よりも高濃度の燻蒸ガスを前記微生物層に接触させる燻蒸手段と、
を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置。
【請求項9】
前記燻蒸手段を、前記ガス処理塔の立ち上げ時に行うように制御する第1制御と、前記ガス処理塔で前記排ガス処理の途中に間欠的に行うように制御する第2制御と、前記第1制御と前記第2制御の両方を行う第3制御と、を切り換え制御する燻蒸制御手段を設けたことを特徴とする請求項8の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置。
【請求項10】
前記ガス処理塔から排気される前記燻蒸ガスに残留する有機ハロゲン化合物を除去する除去手段が設けられることを特徴とする請求項8又は9の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置。
【請求項11】
前記担体は、活性炭を主成分としたものであることを特徴とする請求項8〜10の何れか1の有機ハロゲン化合物含有排ガスの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−179280(P2010−179280A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27435(P2009−27435)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】