説明

有機光電変換素子及びその製造方法

【課題】製造方法として、材料の無駄を発生せず、光電変換層のp型半導体、n型半導体の濃度勾配を設けたり、p型、n型がミクロ的に層分離する際に有効なキャリアパス形成のコントロールし得る製造方法を提供する。
【解決手段】第一の電極と第二の電極の間に光電変換層14を有する有機光電変換素子10の製造方法において、前記光電変換層の形成工程がインクジェット装置の複数のノズルから光電変換層形成の溶液が射出される工程を含むことを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機光電変換素子及びその製造方法に関し、特に光電変換層の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機太陽電池は塗布法で形成できることから大量生産に適した太陽電池として注目され、多くの研究機関で盛んに研究がなされている。有機太陽電池は有機ドナー材料と有機アクセプター材料を混合した、所謂バルクヘテロジャンクション構造によって、課題だった電荷分離効率を向上させている(例えば、特許文献1参照)。結果としてエネルギー変換効率は5%台まで向上し、一気に実用レベルにまで発展してきた分野と言える。
【0003】
一般的に有機太陽電池の有機光電変換層はスピンコーター法、ブレード法、ディッピング法などの非常に簡便な製膜方法を用いて形成されるが、溶解、塗布、断裁等の工程を経ることによりロスが発生し、必要量以上の有機光電変換材料を消費することになる。また、取り出し電極を備えたセルを形成する場合、および複数のセルを直列もしくは並列で接続したモジュールを形成する場合には有機光電変換層のパターニングが必要になる。上述のスピンコーター法、ブレード法、ディッピング法では有機層のパターニングを行うためには製膜工程が複雑となったり、余分な領域に形成された有機光電変換層を取り除く必要があった。
【0004】
上記の問題を解決する塗布方法として、これまでにインクジェットによる塗布方法が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。これら提案では、1つの光電変換層の形成に1種類の塗布液を射出し製膜を行っていたが、この方法では発電層形成用の出射液は1種に限定されるため、発電層内のp型半導体とn型半導体がそれぞれ形成するドメインサイズ制御は材料、溶媒の特性により自由度が限定的であるばかりではなく、2つの電極間で挟まれた光電変換層のp型半導体、n型半導体の濃度勾配を設けたり、p型、n型がミクロ的に層分離する際に有効なキャリアパス形成のコントロールは不十分であり、十分な発電効率を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,331,183号明細書
【特許文献2】特開2008−71785号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ADVANCED MATERIALS,Vol.19,3973(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような従来の課題を解決することを目的とするもので、特に光電変換効率を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0009】
1.第一の電極と第二の電極の間に光電変換層を有する有機光電変換素子の製造方法において、前記光電変換層の形成工程がインクジェット装置の複数のノズルから光電変換層形成の溶液が射出される工程を含むことを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【0010】
2.少なくとも2種以上の異なる組成からなる溶液がインクジェット装置の複数のノズルからそれぞれ射出され、光電変換層を形成することを特徴とする前記1記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0011】
3.前記複数のノズルが時間差で溶液を射出することを特徴とする前記1または2に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0012】
4.p型半導体を含む第一の溶液と、n型半導体を含む第二の溶液をインクジェット装置の複数のノズルからそれぞれ射出して光電変換層を形成することを特徴とする前記1〜3の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0013】
5.前記複数のノズルから射出される溶液が、p型半導体とn型半導体が混合された溶液であることを特徴とする前記1〜4の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0014】
6.前記p型半導体とn型半導体が混合された溶液において、p型半導体とn型半導体の混合比率が異なる少なくとも2種以上の溶液であることを特徴とする前記5記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0015】
7.前記p型半導体とn型半導体が混合された溶液において、該混合された溶液が、p型半導体がn型半導体よりも多く含有される第一の溶液と、n型半導体がp型半導体よりも多く含有される第二溶液からなることを特徴とする前記6記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0016】
8.前記第一の溶液の溶媒と第二の溶液の溶媒が異なることを特徴とする前記1〜7の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0017】
9.前記1〜7の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする有機光電変換素子。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、高い変換効率が達成された有機光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子を示す断面図である。
【図2】光センサアレイの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者は、塗布プロセスで形成することが出来る光電変換層を有する有機光電変換素子の効率向上の課題に関して鋭意検討を行った結果、第一の電極と第二の電極の間に光電変換層を有する有機光電変換素子において、1つの光電変換層を複数のノズルを用いてインクジェット方式で塗布製膜することにより、有機光電変換素子の高効率化に最適な状態に制御することが可能であることを見出し本発明に至った。
【0021】
本発明で規定する構成を採ることにより、本願発明の目的効果が得られる理由については、本発明者らは以下のように推測している。
【0022】
有機光電変素子においては、光照射により発生した励起子がp型半導体とn型半導体の界面で電荷分離することでキャリアである電子と正孔に分離する。光電変換層としてp型半導体とn型半導体を共存させたバルクヘテロジャンクション構造を形成させた場合には、p型半導体とn型半導体の界面が増えることにより電荷分離が促進されるが、p型とn型の分子が共存するため、発生したキャリアが再結合してしまうことが生じたり、p型とn型は海島状の微視的なドメインを形成するためにキャリアが有効に取り出せなくなることがあるのが実情である。
【0023】
すなわち、バルクヘテロジャンクション構造では励起子が電子と正孔に電荷分離するための界面を確保しつつ、それぞれの発生した電子と正孔が電極に到達するためのキャリアパスが形成されていることが好ましく、両者はトレードオフの関係になっていた。そのため、p型半導体とn型半導体を含む有機光電変換層の微視的なドメイン構造を精密に制御することで、電荷分離効率を低下させることなく、発生したキャリアを効率良く電極に到達させることが可能となり、更なる光電変換効率の向上が見込めると考えられる。本発明では、複数のノズルを有するインクジェット方式により1つの光電変換層を製膜することを特徴としている。複数のノズルから異なる組成の溶液を出射して塗布を行うことにより、p型半導体とn型半導体のそれぞれのドメインの構造や濃度勾配を調整することが可能となり、キャリアの生成効率や取り出し効率を向上させることで光電変換効率が向上できると考えられる。
【0024】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0025】
(有機光電変換素子および太陽電池の構成)
図1は、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなる太陽電池の一例を示す断面図である。図1において、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子10は、基板11の一方面上に、透明電極12、バルクヘテロジャンクション層の光電変換層14及び対極13が順次積層されている。
【0026】
基板11は、順次積層された透明電極12、光電変換層14及び対極13を保持する部材である。本実施形態では、基板11側から光電変換される光が入射するので、基板11は、この光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材である。基板11は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が用いられる。この基板11は、必須ではなく、例えば、光電変換層14の両面に透明電極12及び対極13を形成することでバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子10が構成されてもよい。
【0027】
本発明に係る光電変換層14は、一つの光電変換層を複数のノズルから異なる組成の塗布液を出射して形成されることから、光電変換層14は組成の異なる複数の層からなるか、或いは組成が徐々に変化する濃度勾配を有するバルクヘテロジャンクション層として形成されている。
【0028】
本発明の好ましい構成としては、インクジェット方式で製膜した有機光電変換層は正孔輸送層側にp型半導体が多く含まれる層が積層されていることが望ましく、電子輸送層側にn型半導体が多く含まれる層が積層されていることが望ましい。
【0029】
なお、通常のバルクヘテロジャンクション層は、p型半導体材料とn型半導体層が混合した、i層単体であるか、或いは、該i層をp型半導体材料のみを含む層およびn型半導体材料のみを含む層で挟むことにより、高効率化が図られてきた。しかしながら、本発明は一つの光電変換層を形成するに当たり、複数のノズルを用いたインクジェット方式により、p型半導体材料がより多く含まれる層、およびn型半導体材料がより多く含まれる層を積層することにより、正孔及び電子の整流性がより高くなり、電荷分離した正孔・電子の再結合等によるロスが低減され、一層高い光電変換効率を得ることができたものである。
【0030】
なお、同様の層構成をスピンコート法やスクリーン印刷法等により得ようとしても、組成の異なる塗布液の塗布間隔を自由にコントロールすることは困難であり、本発明の複数のノズルを用いたインクジェット方式とすることにより、組成の異なる塗布をほぼ同時から、先行する塗布層の乾燥状況に応じて自在に塗布間隔を調整することができ、更には塗布液を無駄なく利用することができるという優れた製造方法であることがわかった。
【0031】
本発明における複数のノズルを用いるもおとしては、2個以上のノズルを用いるもので有れば特に数の制限はないが、好ましくは10本以下であり、更に好ましくは2〜5本程度である。
【0032】
また、組成の異なる塗布液としては、n型半導体材料、p型半導体材料が異なるもの、組成比が異なるもの、塗布液とする溶媒量、溶媒種が異なる等種々選択することが出来る。塗布間隔としては、同時に複数のノズルから吐出する方法であっても、塗布間隔をずらしてもよいが、間隔としては数秒から数分の間隔を有するものであっても良い。
【0033】
〔インクジェット方式〕
本発明に用いられるインクジェット方式としては、一般的なインクジェット方式を用いることが出来る。例えば、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)や電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等の圧力印加手段を用いたものを挙げることが出来る。また、本発明においては、後述する圧力印加手段と電界印加手段とを用いたインクジェット方式も用いることが出来る。
【0034】
インクジェット方式による有機光電変換層を形成する溶液の粘度は1mPa・s〜20mPa・sの範囲が好ましい。特に、2mPa・s〜4mPa・sの範囲に設定することが好ましい。有機光電変換層を形成する溶液の粘度が1mPa・s未満の場合、ノズル孔における光電変換層用組成物のメニスカスが安定せず、吐出制御が困難となる。一方、粘度が20mPa・sを超えると、ノズル孔から有機光電変換層を形成する溶液を円滑に吐出させることができず、ノズル孔を大きくする等のインクジェット式記録ヘッドの仕様を変更しない限り、インク吐出が困難となる。さらに、粘度が大きい場合、ノズル孔の目詰まり頻度が高くなる。
【0035】
有機光電変換層を形成する溶液の表面張力は20×10−5N〜70×10−5Nの範囲に設定することが好ましい。特に、25×10−5N〜40×10−5Nの範囲内に設定することが好ましい。この範囲内の表面張力に設定することにより、上述した接触角と同様、飛行曲がりを抑制し、飛行曲がり頻度を低減することができる。表面張力が70×10−5N以上になると、ノズル先端でメニスカス形状が安定しないため、有機光電変換層を形成する溶液の吐出量、吐出タイミングの盛業の制御が困難となる。一方、表面張力が20×10−5N未満であると、ノズル面の構成材料に対する光電変換層用組成物の濡れ性が増大するため、上記接触角の場合と同様、飛行曲がりが生じ、飛行曲がり頻度が高くなる。
【0036】
以下、本発明の有機光電変換素子を構成する材料について述べる。
【0037】
〔n型半導体材料〕
本発明の有機光電変換素子は、n型半導体材料及びp型半導体材料を混合したバルクヘテロジャンクション層の光電変換層を形成するに当たり、インクジェット方式を用い、複数のノズルを用いて形成することを特徴とする。
【0038】
一般に、p型、n型とは、半導体材料で電気伝導に寄与するのが、正孔であるか、電子であるかを示している。
【0039】
n型半導体材料の母核の例としては、フラーレン、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物が挙げられる。
【0040】
また、n型有機半導体母核としては、フラーレンが好ましい。これは、p型有機半導体材料との電荷分離が50fsと非常に速い時間で電荷分離を起こせるためであり、その結果、分離された電荷の再結合などが起こりにくく、高い光電変換効率を得ることができる。
【0041】
なおフラーレン母核としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、等が挙げられるが、フラーレンC60およびC70が好ましく、中でもフラーレンC60が好ましい。
【0042】
〔p型半導体材料〕
本発明の有機光電変換素子は、n型半導体材料及びp型半導体材料を混合したバルクヘテロジャンクション層を形成するに当たり、インクジェット方式を用い、複数のノズルを用いて形成することを特徴とする。
【0043】
本発明のバルクヘテロジャンクション層に用いられるp型半導体材料としては、種々の縮合多環芳香族低分子化合物や共役系ポリマー・オリゴマーが挙げられる。
【0044】
縮合多環芳香族低分子化合物としては、例えば、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、クリセン、ピセン、フルミネン、ピレン、ペロピレン、ペリレン、テリレン、クオテリレン、コロネン、オバレン、サーカムアントラセン、ビスアンテン、ゼスレン、ヘプタゼスレン、ピランスレン、ビオランテン、イソビオランテン、サーコビフェニル、アントラジチオフェン等の化合物、ポルフィリンや銅フタロシアニン、テトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体、ビスエチレンテトラチアフルバレン(BEDTTTF)−過塩素酸錯体、及びこれらの誘導体や前駆体が挙げられる。
【0045】
また上記の縮合多環を有する誘導体の例としては、国際公開第03/16599号パンフレット、国際公開第03/28125号パンフレット、米国特許第6,690,029号明細書、特開2004−107216号公報等に記載の置換基をもったペンタセン誘導体、米国特許出願公開第2003/136964号明細書等に記載のペンタセンプレカーサ、J.Amer.Chem.Soc.,vol127.No14.4986、J.Amer.Chem.Soc.,vol.123、p9482、J.Amer.Chem.Soc.,vol.130(2008)、No.9、2706等に記載のトリアルキルシリルエチニル基で置換されたアセン系化合物等が挙げられる。
【0046】
共役系ポリマーとしては、例えば、ポリ3−ヘキシルチオフェン(P3HT)等のポリチオフェン及びそのオリゴマー、またはTechnical Digest of the International PVSEC−17, Fukuoka, Japan, 2007, P1225に記載の重合性基を有するようなポリチオフェン、Nature Material,(2006)vol.5,p328に記載のポリチオフェン−チエノチオフェン共重合体、WO2008000664に記載のポリチオフェン−ジケトピロロピロール共重合体、Adv Mater,2007p4160に記載のポリチオフェン−チアゾロチアゾール共重合体,Nature Mat.vol.6(2007),p497に記載のPCPDTBT等のようなポリチオフェン共重合体、ポリピロール及びそのオリゴマー、ポリアニリン、ポリフェニレン及びそのオリゴマー、ポリフェニレンビニレン及びそのオリゴマー、ポリチエニレンビニレン及びそのオリゴマー、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリシラン、ポリゲルマン等のσ共役系ポリマー、等のポリマー材料が挙げられる。
【0047】
また、ポリマー材料ではなくオリゴマー材料としては、チオフェン6量体であるα−セクシチオフェンα,ω−ジヘキシル−α−セクシチオフェン、α,ω−ジヘキシル−α−キンケチオフェン、α,ω−ビス(3−ブトキシプロピル)−α−セクシチオフェン、等のオリゴマーが好適に用いることができる。
【0048】
〔正孔輸送層・電子ブロック層〕
本発明の有機光電変換素子10は、バルクヘテロジャンクション層と透明電極(陽極)との中間には正孔輸送層を設けることにより、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0049】
これらの層を構成する材料としては、例えば、正孔輸送層としては、スタルクヴイテック社製、商品名BaytronP等のPEDOT、ポリアニリン及びそのドープ材料、WO2006019270号公報等に記載のシアン化合物、などを用いることができる。なお、バルクヘテロジャンクション層に用いられるn型半導体材料のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有する正孔輸送層には、バルクヘテロジャンクション層で生成した電子を透明電極側には流さないような整流効果を有する、電子ブロック機能が付与される。このような正孔輸送層は、電子ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する正孔輸送層を使用するほうが好ましい。このような材料としては、特開平5−271166号公報等に記載のトリアリールアミン系化合物、また酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化タングステン等の金属酸化物等を用いることができる。また、バルクヘテロジャンクション層に用いたp型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。バルクヘテロジャンクション層を形成する前に、下層に塗布膜を形成すると塗布面をレベリングする効果があり、リーク等の影響が低減するため好ましい。
【0050】
〔電子輸送層・正孔ブロック層〕
本発明の有機光電変換素子10は、バルクヘテロジャンクション層と対極(陰極)との中間には電子輸送層を形成することで、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0051】
また電子輸送層しては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)を用いることができるが、同様に、バルクヘテロジャンクション層に用いられるp型半導体材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する電子輸送層には、バルクヘテロジャンクション層で生成した正孔を対極側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与される。このような電子輸送層は、正孔ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する電子輸送層を使用するほうが好ましい。このような材料としては、バソキュプロイン等のフェナントレン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、及び酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物及びフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属化合物等を用いることができる。また、バルクヘテロジャンクション層に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0052】
〔その他の層〕
エネルギー変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層などを挙げることができる。
【0053】
〔透明電極(陽極)〕
本発明の透明電極は、陰極、陽極は特に限定せず、素子構成により選択することができるが、通常陽極として用いることが一般的である。なお本発明において陽極とは、正孔を取り出す電極のことを意味する。例えば、陽極として用いる場合、好ましくは380〜800nmの光を透過する電極である。材料としては、例えば、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の透明導電性金属酸化物、金、銀、白金等の金属薄膜、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブ用いることができる。
【0054】
またポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる導電性高分子等も用いることができる。また、これらの導電性化合物を複数組み合わせて透明電極とすることもできる。
【0055】
〔対電極(陰極)〕
本発明の対電極は、陰極、陽極は特に限定せず、素子構成により選択することができるが、通常陰極として用いることが一般的である。なお本発明において陰極とは、電子を取り出す電極のことを意味する。例えば、陰極として用いる場合、対電極は導電材単独層であっても良いが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用しても良い。対電極は導電材単独層であっても良いが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用しても良い。対電極の導電材としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。
【0056】
このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子の取り出し性能及び酸化等に対する耐久性の点から、これら金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。対電極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0057】
対電極の導電材として金属材料を用いれば対電極側に来た光は反射されて第1電極側に反射され、この光が再利用可能となり、光電変換層で再度吸収され、より光電変換効率が向上し好ましい。
【0058】
また、対電極は、金属(例えば金、銀、銅、白金、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)、炭素からなるナノ粒子、ナノワイヤー、ナノ構造体であってもよく、ナノワイヤーの分散物であれば、透明で導電性の高い対電極を塗布法により形成でき好ましい。
【0059】
また、対電極側を光透過性とする場合は、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、銀及び銀化合物等の対電極に適した導電性材料を薄く1〜20nm程度の膜厚で作製した後、上記透明電極の説明で挙げた導電性光透過性材料の膜を設けることで、光透過性対電極とすることができる。
【0060】
〔中間電極〕
また、タンデム構成の場合に必要となる中間電極の材料としては、透明性と導電性を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましく、前記透明電極で用いたような材料(ITO、AZO、FTO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au等の非常に薄い金属層またはナノ粒子・ナノワイヤーを含有する層、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等)を用いることができる。
【0061】
なお前述した正孔輸送層と電子輸送層の中には、適切に組み合わせて積層することで中間電極(電荷再結合層)として働く組み合わせもあり、このような構成とすると1層形成する工程を省くことができ好ましい。
【0062】
〔基板〕
基板側から光電変換される光が入射する場合、基板はこの光電変換される光を透過させることが可能な、即ちこの光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることが望ましい。本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜800nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0063】
本発明に用いられる透明基板には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
【0064】
また、酸素及び水蒸気の透過を抑制する目的で、透明基板にはバリアコート層が予め形成されていてもよい。
【0065】
〔光学機能層〕
本発明の有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していて良い。光学機能層としては、たとえば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、対極で反射した光を散乱させて再度発電層に入射させることができるような光拡散層などを設けても良い。
【0066】
反射防止層としては、各種公知の反射防止層を設けることができるが、例えば、透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基板と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化スズゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0067】
集光層としては、例えば、支持基板の太陽光受光側にマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせたりすることにより特定方向からの受光量を高めたり、逆に太陽光の入射角度依存性を低減することができる。
【0068】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付き、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0069】
また光散乱層としては、各種のアンチグレア層、金属または各種無機酸化物などのナノ粒子・ナノワイヤー等を無色透明なポリマーに分散した層などを挙げることができる。
【0070】
〔各種の層の形成方法〕
塗布後は残留溶媒及び水分、ガスの除去、及び半導体材料の結晶化による移動度向上・吸収長波化を引き起こすために加熱を行うことが好ましい。製造工程中において所定の温度でアニール処理されると、微視的に一部が凝集または結晶化が促進され、バルクヘテロジャンクション層を適切な相分離構造とすることができる。その結果、バルクヘテロジャンクション層のキャリア移動度が向上し、高い効率を得ることができるようになる。
【0071】
〔パターニング〕
本発明に係る電極、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。
【0072】
可溶性の材料であれば、ダイコート、ディップコート等の全面塗布後に不要部だけ拭き取っても良いし、インクジェット法やスクリーン印刷等の方法を使用して塗布時に直接パターニングしても良い。
【0073】
電極材料などの不溶性の材料の場合は、電極を真空堆積時にマスク蒸着を行ったり、エッチング又はリフトオフ等の公知の方法によってパターニングすることができる。また、別の基板上に形成したパターンを転写することによってパターンを形成しても良い。
【0074】
(封止)
また、作製した有機光電変換素子10が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、有機光電変換素子だけでなく有機エレクトロルミネッセンス素子などで公知の手法によって封止することが好ましい。例えば、アルミまたはガラスでできたキャップを接着剤によって接着することによって封止する手法、アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等のガスバリア層が形成されたプラスチックフィルムと有機光電変換素子上10を接着剤で貼合する手法、ガスバリア性の高い有機高分子材料(ポリビニルアルコール等)をスピンコートする方法、ガスバリア性の高い無機薄膜(酸化ケイ素、酸化アルミニウム等)または有機膜(パリレン等)を真空下で堆積する方法、及びこれらを複合的に積層する方法等を挙げることができる。
【0075】
(光センサアレイ)
次に、以上説明したバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子10を応用した光センサアレイについて詳細に説明する。光センサアレイは、前記のバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子が受光によって電流を発生することを利用して、前記の光電変換素子を細かく画素状に並べて作製し、光センサアレイ上に投影された画像を電気的な信号に変換する効果を有するセンサである。
【0076】
図2は、光センサアレイの構成を示す図である。図2(a)は、上面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A′線断面図である。
【0077】
図2において、光センサアレイ20は、保持部材としての基板21上に、下部電極としての透明電極22、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換部24及び透明電極22と対をなし、上部電極としての対電極23が順次積層されたものである。光電変換部24は、バルクヘテロジャンクション層を有してなる光電変換層24bと、バッファ層24aから構成されている。なお、本発明の光電変換層24bは、p型半導体材料を多く含むバルクヘテロジャンクション層、p型半導体材料とn型半導体材料と混合したバルクヘテロジャンクション層、n型半導体材料を多く含むバルクヘテロジャンクション層を有する層或いはそれらが濃度勾配を持った層で構成される。図2に示す例では、6個のバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子が形成されている。
【0078】
基板21には、例えば、ガラスが用いられ、透明電極22には、例えば、ITOが用いられ、対電極23には、例えば、アルミニウムが用いられる。そして、光電変換層24bのp型半導体材料には、例えば、P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)等が用いられ、n型半導体材料には、例えば、PCBM(6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)等が用いられる。また、光電変換層24bと透明電極との間にはバッファ層24aを有していることが好ましく、バッファ層24aには、PEDOT(ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン)−PSS(ポリスチレンスルホン酸)導電性高分子(スタルクヴイテック社製、商品名BaytronP)等が用いられる。このような光センサアレイ20は、次のようにして製作された。
【0079】
ガラス基板上にスパッタリングによりITO膜を形成し、フォトリソグラフィにより所定のパターン形状に加工した。ガラス基板の厚さは、0.7mm、ITO膜の厚さは、200nm、フォトリソグラフィ後のITO膜における測定部面積(受光面積)は、5mm×5mmであった。次に、このガラス基板21上に、スピンコート法(条件;回転数=1000rpm、フィルター径=1.2μm)によりPEDOT−PSS膜を形成した。その後、該基板を、オーブンで140℃、10分加熱し、乾燥させた。乾燥後のPEDOT−PSS膜の厚さは30nmであった。
【0080】
次に、上記PEDOT−PSS膜の上に、本発明のインクジェット方式により、複数のノズルを用いて光電変換層を形成した。詳しくは実施例において具体的に示す。
【0081】
光電変換層の形成後、窒素ガス雰囲気下においてオーブンで180℃、30分加熱しアニール処理を施した。アニール処理後の混合した光電変換層の厚さは100nmであった。
【0082】
その後、所定のパターン開口を備えたメタルマスクを用い混合した光電変換層の上に、上部電極としてのアルミニウム層を蒸着法により形成(厚さ=10nm)した。その後、PVA(polyvinyl alcohol)をスピンコートで1μm形成し、150℃で焼成することで不図示のパッシベーション(不導化)層を作製した。以上により、光センサアレイ20が作製された。
【実施例】
【0083】
(溶液A、Bの調液)
P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)(リーケメタル製;Mn=45000、レジオレギュラータイプ、高分子p型半導体材料)3.0質量%のクロロベンゼン溶液を50℃で一晩攪拌させ溶液Aを調製した。
【0084】
PCBM(6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)(Mw=911、低分子n型半導体材料)を3.0質量%を含有するクロロベンゼン溶液を50℃で一晩攪拌させ溶液Bを調製した。
【0085】
〈有機光電変換素子SC−101〉
バリア層を有するPENフィルム(全光透過率90%)上にITOを平均膜厚150nmで蒸着し、第1電極を作製した。
【0086】
第1電極上に、導電性高分子であるPEDOT/PSS(poly(3,4−ethylenedioxythiophene)−poly(styrenesulfonate))(Baytron P4083、H.C.Starck製)を30nmの膜厚でスピンコートした後、140℃で大気中10分間加熱乾燥し、陽極バッファー層を形成した。
【0087】
これ以降は、基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下で作業した。まず、窒素雰囲気下で上記基板を140℃で3分間加熱処理した。
【0088】
次いで、溶液Aをノズル1から射出し膜厚30nmになるまで製膜を行った後1分間時間を置いた、次いで溶液Aと溶液Bをそれぞれノズル1、ノズル2から射出し合計膜厚が70nmになるまで製膜を行った後1分間時間を置いた。さらに溶液Bをノズル2から射出し、合計膜厚約100nmの有機光電変換層を形成した後、140℃で10分間加熱乾燥した。
【0089】
次に、上記一連の有機光電変換層を成膜した第1電極を真空蒸着装置内に移動し、1×10−4Pa以下まで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.01nm/秒でフッ化リチウムを0.6nm積層し、更に続けて、2mm幅のシャドウマスクを通して(受光部が2×2mmに成るように直行させて蒸着)、蒸着速度0.2nm/秒でAlメタルを100nm積層することで第2の電極を形成した。得られた有機光電変換素子SC−101を窒素チャンバーに移動し、封止用キャップとUV硬化樹脂を用いて封止を行って、受光部が2×2mmサイズの有機光電変換素子SC−101を作製した。
【0090】
得られた有機光電変換素子SC−101は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0091】
光電変換層のZ方向のダイナミックシムスの結果から、陽極バッファー層側から順にp型半導体層、p型半導体とn型半導体のバルクヘテロジャンクション層、n型半導体層が緩やかに分布していると推定される。
【0092】
(溶液Cの調液)
P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)(リーケメタル製;Mn=45000、レジオレギュラータイプ、高分子p型半導体材料)1.5質量%、PCBM(6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)(Mw=911、低分子n型半導体材料)を1.5質量%を含有するクロロベンゼン溶液を50℃で一晩攪拌させ溶液Cを調製した。
【0093】
〈有機光電変換素子SC−102〉
有機光電変換素子SC−101において、溶液Aをノズル1から射出し膜厚30nmになるまで製膜を行った後、溶液Cをノズル3から射出し合計膜厚が70nmになるまで製膜を行った。さらに溶液Bをノズル2から射出し、陽極バッファー層上に合計膜厚約100nmの光電変換層を積層した以外は有機光電変換素子SC−101と同様にして有機光電変換素子SC−102を作製した。得られた有機光電変換素子SC−102は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0094】
光電変換層のZ方向のダイナミックシムスの結果から、陽極バッファー層側から順にp型半導体層、p型半導体とn型半導体のバルクヘテロジャンクション層、n型半導体層が緩やかに分布していると推定される。
【0095】
(溶液D、Eの調液)
P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)(リーケメタル製;Mn=45000、レジオレギュラータイプ、高分子p型半導体材料)2.0質量%、PCBM(6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)(Mw=911、低分子n型半導体材料)を1.0質量%を含有するクロロベンゼン溶液を50℃で一晩攪拌させ溶液Dを調製した。
【0096】
同様にP3HT1.0質量%、PCBM2.0質量%を含有するクロロベンゼン溶液を50℃で一晩攪拌させ溶液Eを調製した。
【0097】
〈有機光電変換素子SC−103〉
有機光電変換素子SC−101において、インクジェット方式に用いた溶液Aを溶液D、溶液Bを溶液Eに変更して、合計膜厚が100nmになるように陽極バッファー層上に光電変換層を積層した以外は有機光電変換素子SC−101と同様にして有機光電変換素子SC−103を作製した。得られた有機光電変換素子SC−103は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0098】
光電変換層のZ方向のダイナミックシムスの結果から、陽極バッファー層側から順にp型が多いバルクヘテロジャンクション層、p型半導体とn型半導体のバルクヘテロジャンクション層、n型が多いバルクヘテロジャンクション層が緩やかに分布していると推定される。
【0099】
(溶液Fの調液)
PCBMを3.0質量%を含有するキシレン溶液を50℃で一晩攪拌させ溶液Fを調製した。
【0100】
〈有機光電変換素子SC−104〉
有機光電変換素子SC−101において、インクジェット方式に用いた溶液Bを溶液Fに変更して、合計膜厚が100nmになるように陽極バッファー層上に光電変換層を積層した以外は有機光電変換素子SC−101と同様にして有機光電変換素子SC−104を作製した。得られた有機光電変換素子SC−104は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0101】
光電変換層のZ方向のダイナミックシムスの結果から、正孔輸送層側から順にp型半導体層、p型半導体とn型半導体のバルクヘテロジャンクション層、n型半導体層が層分離した状態で分布していると推定される。
【0102】
〈有機光電変換素子SC−105〉
有機光電変換素子SC−102において、溶液Dと溶液Eを同時に射出して膜厚が100nmになるように正孔輸送層上に光電変換層を製膜した以外は有機光電変換素子SC−102と同様に有機光電変換素子SC−105を作製した。得られた有機光電変換素子SC−105は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0103】
〈有機光電変換素子SC−106〉
有機光電変換素子SC−102において、溶液Aをノズル1から射出し膜厚25nmになるまで製膜を行い1分間置いて乾燥させた後、溶液Eをノズル2から射出し合計膜厚が50nmになるまで製膜を行い1分間乾燥させた。さらに溶液Dをノズル3から射出し合計膜厚が75nmになった後溶液Bをノズル4から射出して製膜を行い、陽極バッファー層上に合計膜厚約100nmの光電変換層を積層した以外は有機光電変換素子SC−102と同様にして有機光電変換素子SC−106を作製した。得られた有機光電変換素子SC−106は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0104】
〈有機光電変換素子SC−107〉
有機光電変換素子SC−102において、溶液Aをノズル1から射出し膜厚20nmになるまで製膜を行い1分間置いて乾燥させた後、溶液Eをノズル2から射出し合計膜厚が40nmになるまで製膜を行い1分間乾燥させた。さらに溶液Cをノズル3から射出し合計膜厚が60nmにない1分間乾燥させた後、溶液Dをノズル4から射出し合計膜厚が80nmになるまで製膜を行い1分間乾燥させた後、ノズル5から溶液Bを射出して陽極バッファー層上に合計膜厚約100nmの光電変換層を積層した以外は有機光電変換素子SC−102と同様にして有機光電変換素子SC−107を作製した。得られた有機光電変換素子SC−107は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0105】
〈有機光電変換素子SC−108〉(比較)
有機光電変換素子SC−101において、インクジェット方式に用いて溶液Cを膜厚が100nmになるように陽極バッファー層上に光電変換層を形成した以外は有機光電変換素子SC−101と同様にして比較となる有機光電変換素子SC−108を作製した。得られた有機光電変換素子SC−108は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0106】
〈有機光電変換素子SC−109〉(比較)
有機光電変換素子SC−101において、溶液Cを100nmの膜厚でスピンコート法を用いて光電変換層を塗布した以外は有機光電変換素子SC−101と同様にして、比較となる有機光電変換素子SC−109を得た。得られた有機光電変換素子SC−109は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0107】
調製した各溶液の組成を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
形成した各光電変換素子SC−101〜109の光電変換効率を、ソーラシミュレーターにより、100mW/cm(AM1.5G)の照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定し、変換効率を算出した。尚、表2には試料SC−109の光電変換効率を100とした相対値で示した。
【0110】
各光電変換素子SC−101〜109の塗布液とノズル構成及び光電変換効率の測定結果を表2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
比較例に示すように、スピンコートで光電変換層を塗布した素子や一つのインクジェットノズルで光電変換層を塗布した素子では、p型半導体とn型半導体が形成するドメインの大きさを制御することが難しく光電変換効率が低下していた。
【0113】
それに対し、SC−103に示すように、異なる溶媒を用いた溶液をインクジェット塗布を行い光電変換層を製膜すると、素子の光電変換効率が高くなった。これは、同一溶媒を用いたときよりもp型半導体とn型半導体の混同が少なく、層分離したドメインが出来やすいため、電荷分離効率とキャリア輸送効率が良くなるためと考えられる。また、SC−101、SC−102、SC−103に示すように時間差射出のインクジェット塗布で製膜した光電変換層を有する素子も効率が高い傾向にある。これも同様の理論で、時間差射出により膜面が乾燥することからドメインの混同が抑制されるためと考えられる。
【符号の説明】
【0114】
10 有機光電変換素子
11 基板
12 透明電極
13 対極
14 光電変換層
20 光センサアレイ
21 基板
22 透明電極
23 対電極
24 光電変換部
24a 陽極バッファー層
24b 光電変換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と第二の電極の間に光電変換層を有する有機光電変換素子の製造方法において、前記光電変換層の形成工程がインクジェット装置の複数のノズルから光電変換層形成の溶液が射出される工程を含むことを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
少なくとも2種以上の異なる組成からなる溶液がインクジェット装置の複数のノズルからそれぞれ射出され、光電変換層を形成することを特徴とする請求項1記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記複数のノズルが時間差で溶液を射出することを特徴とする請求項1または2に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
p型半導体を含む第一の溶液と、n型半導体を含む第二の溶液をインクジェット装置の複数のノズルからそれぞれ射出して光電変換層を形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記複数のノズルから射出される溶液が、p型半導体とn型半導体が混合された溶液であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記p型半導体とn型半導体が混合された溶液において、p型半導体とn型半導体の混合比率が異なる少なくとも2種以上の溶液であることを特徴とする請求項5記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記p型半導体とn型半導体が混合された溶液において、該混合された溶液が、p型半導体がn型半導体よりも多く含有される第一の溶液と、n型半導体がp型半導体よりも多く含有される第二溶液からなることを特徴とする請求項6記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記第一の溶液の溶媒と第二の溶液の溶媒が異なることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載の有機光電変換素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする有機光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−124467(P2011−124467A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282571(P2009−282571)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】