説明

有機化合物の加水分解方法

二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で水熱反応を行う有機化合物(特に、でんぷん、寒天、グアルガム又はセルロース等の多糖類)の加水分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、有機化合物の加水分解方法に関し、詳しくは二酸化炭素を加圧含有させた熱水中で水熱反応を行うことにより有機化合物(特にでんぷん等の多糖類)を加水分解する方法に関するものである。
【背景技術】
近年、化石燃料の枯渇やその利用による温室効果ガスの大量放出への懸念から、化石燃料に替わる新たな資源・エネルギー源としてバイオマスが有力な候補として考えられている。バイオマスとして代表的なセルロースを加水分解することによって得られるグルコースやそのオリゴマーは、付加価値のある化学製品、食品、医薬品原料、化粧品原料、飼料として期待されており、例えば更に醗酵させることによってエタノールを得ることができる。
従来、でんぷん等の多糖類の分解法には、(1)酸加水分解、(2)酵素加水分解、(3)亜臨界または超臨界水による加水分解の3つの方法が知られている(例えば、特開2000−210537号公報、Shiro Saka and Tomonori Ueno,Chemical conversion of various celluloses to glucose and its derivatives in supercritical water,Cellulose,6,p.177−191(1999)、Ortwin Bobleter,Hydrothermal degradation of polymers derived from plant,Prog.Polym.Sci.,19,p.797−841(1994)参照)。
酸加水分解は、塩酸、硫酸などの酸を用いて分解する方法である。この方法では、常温付近あるいは若干加温することにより常圧で操作することができるが、処理時間が比較的長く、処理後に酸の除去または中和操作が必要である。
酵素加水分解は、酵素を用いるためコストがかかり、処理時間も長くなる。
亜臨界または超臨界水による加水分解は、水の臨界温度(374℃)より高い状態の超臨界水または臨界温度よりわずかに低い亜臨界水中で高速加水分解を行う方法である。しかし、この方法はまだ実験・研究段階で実用化されておらず、現段階では粉末試料についてしか報告例がない。また、処理時間は非常に速いが、高温、高圧操作のため生成した単糖類(ブドウ糖など)の二次分解を抑制することが難しく、単糖類収率は低くその分解生成物の方が多くなるという難点がある。分解生成物の中でも、特に5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)は醗酵を阻害する原因となる。したがって、加水分解した溶液をそのまま醗酵原料として用いることを考慮すると、できるだけ副生物の生成を少なくして単糖類の収率を高くすることが望まれている。
【発明の開示】
本発明は、二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で水熱反応を行うことを特徴とする有機化合物の加水分解方法である。
また、本発明は、二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で、水熱反応により多糖類を加水分解することを特徴とする多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法である。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、添付の図面とともに考慮することにより、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、でんぷんの加水分解における、グルコース収率と二酸化炭素添加量との関係を示したグラフである(実施例1)。
図2は、でんぷんの加水分解における、グルコース収率に対する5−HMFの生成率の比と二酸化炭素添加量との関係を示したグラフである(実施例1)。
図3は、寒天の加水分解における、ガラクトース収率と二酸化炭素添加量との関係を示したグラフである(実施例2)。
図4は、グアルガムの加水分解における、単糖収率と二酸化炭素添加量との関係を示したグラフである(実施例3)。
【発明の開示】
本発明によれば、下記の手段が提供される。
(1)二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で、水熱反応により多糖類を加水分解することを特徴とする多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法。
(2)前記多糖類が、でんぷん、寒天、グアルガム又はセルロースであることを特徴とする(1)項に記載の多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法。
(3)前記二酸化炭素の含有量が、前記熱水の溶解度の飽和量に達する最大限度量であることを特徴とする(1)又は(2)項に記載の多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法。
(4)二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で水熱反応を行うことを特徴とする有機化合物の加水分解方法。
(5)前記二酸化炭素の含有量が、前記熱水の溶解度の飽和量に達する最大限度量であることを特徴とする(4)項に記載の有機化合物の加水分解方法。
(6)でんぷん含有農業生産物、木材または紙類を原料とし、(1)〜(5)項のいずれか1項に記載された方法を用いることを特徴とするグルコース及びそのオリゴ糖の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で水熱反応を行うことを特徴とする有機化合物の加水分解方法である。本明細書における有機化合物はエステル結合またはエーテル結合を有する化合物であり、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロンなどのポリエステル類やポリアミド類等の縮合重合により生成する高分子;モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド等のグリセリド類;タンパク質類;多糖類などが挙げられる。本発明では、多糖類が特に好ましい。
本明細書において「多糖類」とは、加水分解によって単糖類を生ずる高分子化合物をいい、具体的には、でんぷん、寒天、グアルガム、セルロース、グリコーゲン、ペクチン酸等が挙げられる。本発明は、特にでんぷん、寒天、グアルガム又はセルロースのいずれかについて適用するのが好ましい。なお、セルロースとでんぷんとは、共にブドウ糖が重合した天然多糖類であるが、化学構造が全く異なるため物理的、化学的性質が全く異なる。でんぷんは、セルロースと比べて低温で分解されるため、従来法の超臨界水中での加水分解法ではセルロースの場合より反応時間をさらに短く制御する必要があり、実験的に実現するのは困難であった。これに対し、本発明の加水分解法は、でんぷん及びセルロースはもちろん、天然多糖類全般について問題なく適用できる。
本発明における加水分解反応による生成物は、反応対象である有機化合物が多糖類である場合、単糖(グルコース、ガラクトース等)またはオリゴ糖であることが好ましい。処理条件(温度、時間)を適宜調節することで、単糖類から重合度の高いオリゴ糖まで任意に合成することができる。
本発明では、熱水中で加水分解を行う。水は、水素イオンと水酸化物イオンとによる加水分解作用を持つが、高温高圧水では、これらのイオン量を示すイオン積が大きくなり加水分解作用が激しくなる。
本明細書において「熱水」とは、圧力が5〜100MPa、好ましくは10〜50MPa、より好ましくは10〜30MPaで、かつ、140℃以上、好ましくは140〜300℃、より好ましくは150〜300℃の条件の水をいう。本明細書において「超臨界水」とは、臨界点(375℃、22MPa)以上の条件の水をいい、「亜臨界水」とは、圧力が8.5〜22MPaで、かつ、300℃を超え375℃未満の条件の水をいう。したがって、本明細書では、熱水は、超臨界水または亜臨界水とは明確に区別される。多糖類の分解の場合、処理温度が高いほど、多糖類ならびに生成物の単糖及びオリゴ糖は変性しやすい。熱水中で加水分解を行う本発明では、超臨界水や亜臨界水よりも温度が低いため、多糖類などの変性が少ないという利点がある。
熱水の好ましい温度は加水分解される有機化合物の種類によって異なる。多糖類を例に挙げると、でんぷん及びグアルガムの場合は160℃以上が好ましく、180〜260℃がより好ましく、180〜240℃が特に好ましい。セルロースの場合は240℃以上が好ましく、280〜300℃がより好ましい。寒天及びペクチン酸の場合は140℃以上が好ましく、160〜260℃がより好ましい。
本発明では、二酸化炭素を加圧含有した熱水中で加水分解を行う。本発明における二酸化炭素の添加方法は、炭酸塩を熱水へ添加して二酸化炭素を発生させるのではなく、二酸化炭素を熱水中に直接溶解させる。二酸化炭素は気体、液体又は固体のいずれの状態であってもよい。炭酸塩を用いる場合、熱水は塩基性又は中性となる。これに対して、本発明のように熱水中に二酸化炭素を溶解させる場合、温度及び圧力を上げることで二酸化炭素溶解量が増加し、これに伴い熱水の水素イオン濃度は上昇し、pHは低下する。すなわち、本発明では、硫酸などの酸を用いずに酸性条件での加水分解が可能であり、硫酸などの酸を用いた加水分解と同等の効果が得られる。また、減圧して常圧に戻すだけで溶液中の二酸化炭素濃度を低下させ酸性度を低下させることができるので、反応後に中和操作を行う必要がない。また、高温での処理のため、常温あるいは加熱酸溶液(100℃以下)による酸加水分解(時間オーダー)に比べて非常に速い(30分以下)処理速度が得られる。
さらに、多糖類を加水分解する場合、グルコースなどの生成物は生成後反応器中に存在すると分解していき、醗酵阻害の原因となる5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)の生成原因となるが、本発明の方法によれば、減圧して常圧に戻すだけで二酸化炭素は溶液から霧散し、これにより水の酸性度が低下し、加水分解反応が急激に減速し、その結果として生成物の二次分解を抑制することができる。
使用する二酸化炭素の量は多いほど好ましく、熱水の溶解度の飽和量に達する最大限度量が特に好ましい。例えば、圧力が50MPa、温度が200℃である熱水の場合、液相中の二酸化炭素の量はモル分率で4.7%であることが好ましい。
多糖類を加水分解する場合、熱水条件に加えて二酸化炭素を使用することで、単糖類の二次分解を抑制しつつ生成物中の単糖の収率が著しく向上する。例えばでんぷんでは収率を10倍近く増大させることができる。また、熱水のみでは短時間ではほとんど分解しない寒天およびグアルガムでは収率を約10〜25%に向上させることができる。
本発明によれば、多糖類を加水分解する場合、処理時間を適宜調節することにより、重合度が大きい微粒子からモノマー(グルコース)まででんぷんの重合度を調節することができる。具体的には、単糖としてのグルコースと、オリゴ糖としてマルトース、マルトオリゴ糖が生成し、単糖から重合度50程度のオリゴ糖まで生成する。全体の生成物中に単糖としてのグルコースを主として生成させるには反応条件を、熱水温度200〜240℃、反応時間5〜90分とするのが好ましい。なお、最適な反応条件は、熱水温度が高ければ反応時間は短くてもよく、熱水温度が低ければ反応時間は長くなると考えられる。
本発明において単糖とオリゴ糖との分離は、クロマトグラフィー(特にゲルろ過クロマトグラフィー)や、溶解度の差を利用した晶析などによって行うことができる。
本発明では、加水分解反応後は減圧して常圧に戻す。減圧することにより溶液中の二酸化炭素濃度が低下し、酸性度が低下する。高温ほど二酸化炭素の溶解度は低いため、溶液はほぼ弱酸性となる(常温での二酸化炭素の飽和溶解度からはpH=5程度)。したがって、本発明では、反応後に中和操作を行う必要性がなく、プロセスを簡略化することができ、コストやエネルギーを削減することができる。
本発明において、反応器は回分式であっても連続式であってもよいが、工業的観点から連続式反応器の方が好ましい。回分式反応器を用いる場合、反応器中に試料及び水を導入し、さらに所定量の気体状の二酸化炭素を反応器中に加圧してから反応器を密閉し、反応を行う。導入する二酸化炭素は気体状に限定されず、液体状または固体状であってもよい。連続式反応器を用いる場合は、試料を含んだ水及び二酸化炭素を所定の流量比で連続的に反応器に供給し、反応を行う。反応終了後は、反応器を冷却し、減圧して常圧に戻すことにより溶液中の二酸化炭素濃度を低下させる。
次に、でんぷん含有農業生産物、木材または紙類を原料としたグルコースの製造方法ならびにペクチン酸含有農業生産物を原料としたガラクツロン酸の製造方法について説明する。
でんぷん含有農業生産物、木材もしくは紙類、またはペクチン酸含有農業生産物を原料として上記の加水分解方法を行うことにより、ブドウ糖やガラクツロン酸及びそれらのオリゴ糖を製造することができる。
でんぷん含有農業生産物の具体例としては、例えば、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、トウモロコシ、米、麦などが挙げられる。また、ペクチン酸含有農業生産物の具体例としては、例えば、柑橘類、リンゴ、シュガービートなどが挙げられる。
この方法を利用して、でんぷん含有農業生産物やペクチン酸含有農業生産物を含む食品廃棄物、木材、または紙類を資源として利用することが可能となる。具体的には、得られたブドウ糖やそのオリゴ糖は、食品、医薬品原料などの分野で利用することができる。
また、でんぷんを含む食品廃棄物、木材または紙類をブドウ糖及びそのオリゴ糖に変換し、醗酵原料へ変換することもできる。具体的には、エタノール醗酵、乳酸醗酵、メタン醗酵の原料を製造することができる。
エタノール醗酵の場合、エタノールを製造することができ、燃料として利用することができる。また、エタノールからエチレンを生産することができ、工業的に有用な各種化合物を製造することができる。
乳酸醗酵の場合、乳酸を製造することができ、生分解性プラスチックの原料として利用することができる。
メタン醗酵の場合、メタンを製造することができ、燃料として利用することができる。また、メタンから水素を生産することができ、燃料電池の原料として利用することができる。
得られたガラクツロン酸単糖およびそのオリゴ糖は食品添加物として利用することができる。また、最近は重金属の吸着剤としての利用が検討されている。
本発明の加水分解方法によれば、短時間で反応を行うことができ、しかも反応後に中和操作を行う必要がなく、効率よく加水分解を行うことができる。
また、本発明の多糖類の分解方法によれば、処理時間を適宜調節することにより多糖類の重合度を調節することができ、ポリマーからモノマーまで分解生成することができ、単糖類やオリゴ糖を生成することもできる。
また、本発明の方法によれば、でんぷん等の多糖類を高速で分解し、効率よくグルコース等の単糖類を製造することができる。
さらに、本発明の方法によれば、でんぷん含有農業生産物、木材または紙類からグルコースを比較的短時間に高効率で製造することができる。食品廃棄物の多くは含水率が高くその処理が問題となっている。また、廃棄物中に含まれる木材や紙類の量は膨大で再生されず廃棄される割合も多い。本発明によれば、食品廃棄物(でんぷん含有農業生産物)、木材または紙類をブドウ糖まで低分子化することにより、エタノール醗酵、乳酸醗酵、メタン醗酵等の醗酵原料に転換でき、食品廃棄物、農業廃棄物、木材または紙類を資源化することができるという優れた効果を奏する。
また、本発明の方法によれば、ペクチン酸含有農業生産物からガラクツロン酸を比較的短時間に高効率で製造することができる。ガラクツロン酸単糖およびそのオリゴ糖は食品添加物として利用することができ、また重金属の吸着剤としても利用することも考えられる。
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
[実施例1]
室温の回分式小型反応器(内容積3.6mL)にでんぷん0.03g、水3mLを入れ、更に固体の二酸化炭素(ドライアイス)を所定量(g)導入してから反応器を閉じ、200℃に保ってある溶融塩浴に反応器を投入し水熱反応を開始させた。15分後、反応器を溶融塩浴から取り出し、水で急冷して反応を停止させた。なお、ここで溶融塩浴を用いたのは電気炉加熱式より短時間で所定温度に達するためであり、約1分程度で所定温度に達する。
上記の実験において二酸化炭素を導入せずに反応を行った場合、反応終了後の反応液のpHは3.6であった。反応終了後の反応液のpHは、反応生成物のために低下する。一方、二酸化炭素を導入した場合、反応終了後の反応液のpHは3.8で二酸化炭素を導入しない場合とほぼ同様であり、減圧して常圧に戻すことで溶液中の二酸化炭素濃度を低下させることができるため中和操作は不要であった。
また、反応後のグルコース収率(質量%)は、
(グルコースの炭素質量(g)/でんぷんの炭素質量(g))×100
の数式より求めた。
結果を図1のグラフに示す。図1のグラフにおいて、縦軸は上記の計算により求めたグルコース収率(%)であり、横軸は反応器に仕込んだ二酸化炭素の質量(g)である。図1から明らかなように、二酸化炭素を全く添加しない場合はグルコース収率が5%以下であったが、仕込んだ二酸化炭素量の増加と共にグルコース収率が増加した。このことから、熱水と二酸化炭素を組み合わせて加水分解を行うと、熱水のみで加水分解を行うのに比べてグルコース収率が増加することがわかった。また、二酸化炭素の添加量が多いほど、グルコース収率が増加することがわかった。
さらに、上記の実験において副生した5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)についても同様に生成率を計算し、グルコース収率に対する5−HMFの生成率の比を求めた。結果を図2のグラフに示す。図2のグラフにおいて、縦軸はグルコース収率に対する5−HMFの生成率の比であり、横軸は反応器に仕込んだ二酸化炭素の質量(g)である。図2から明らかなように、二酸化炭素の添加量が多いほど、グルコース生成量に対する副生5−HMF量が少なくなることがわかった。
また、二酸化炭素を添加した場合と添加しない場合について反応時間を変動させて試験を行った。その結果、いずれの場合も反応時間が長すぎると副生成物である5−HMFの生成量が増加してしまうが、二酸化炭素を添加しない場合に特に顕著に5−HMFが副生し、グルコース収率/5−HMF生成率の比が減少することがわかった。
したがって、本実施例の結果から、短時間で反応を行うことができ、しかも反応後に中和操作を行う必要がなく、効率よく加水分解を行うことができることがわかった。また、二酸化炭素の添加量が多いほど、主生成物であるグルコースの収率を増加させ、副生物である5−HMFの生成を抑制することができることがわかった。
(比較例1)
所定量の固体の二酸化炭素(ドライアイス)の代わりに炭酸アンモニウム0.1質量%もしくは1質量%、または炭酸ナトリウム1mMもしくは10mMのいずれかを用いたこと以外は実施例1と同様にして実験を行った。その結果、グルコースをほとんど得ることができなかった。これは塩の影響によりグルコースの副反応が起きたものと考えられる。
二酸化炭素を炭酸塩として導入した場合、反応前の炭酸塩水溶液のpHは8.5〜10.5と弱アルカリ性であった。
[実施例2]
原料のでんぷんに代えて寒天を用い、熱水温度を160℃とし、反応時間を15分及び30分としたこと以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を図3のグラフに示す。図3から明らかなように、寒天の場合、熱水のみではほとんど単糖が得られなかったが、熱水と二酸化炭素を組み合わせて水熱反応による加水分解を行うと、熱水のみで加水分解を行うのに比べて著しく単糖収率が増加することがわかった。
[実施例3]
原料のでんぷんに代えてグアルガムを用いたこと以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を図4のグラフに示す。図4から明らかなように、グアルガムの場合も、熱水と二酸化炭素を組み合わせて水熱反応による加水分解を行うと、熱水のみで加水分解を行うのに比べて著しく単糖類の収率が増加することがわかった。
[実施例4]
でんぷん試料をでんぷん含有農業生産物であるさつまいも由来のでんぷん0.2gとし、水を2mLとし、二酸化炭素添加量を0.52gとして、200℃、30分間反応を行ったところ、71.2%の高収率でグルコースに変換することができた。また、小麦、馬鈴薯、とうもろこし由来のでんぷんについても同様に試験を行ったところ、高収率でグルコースに変換することができた。このことからでんぷん含有農業生産物を資源化して有効活用することができることがわかった。
[実施例5]
食品廃棄物として小麦、馬鈴薯、さつまいも、米、パン、せんべいを用いて、実施例1と同様に試験を行ったところ、いずれも高収率でグルコースに変換することができた。このことから食品廃棄物を資源化して有効活用することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
本発明の加水分解方法によれば、短時間で反応を行うことができ、しかも反応後に中和操作を行う必要がなく、効率よく加水分解を行うことができる。特に、でんぷん等の多糖類を効率よく加水分解して、単糖類やオリゴ糖を生成することができる。生成した単糖類やオリゴ糖は、付加価値のある化学製品、食品、飼料として利用でき、更に醗酵させることによってエタノールを得ることもできる。したがって、本発明は、化石燃料に替わる新たな資源・エネルギー源として期待されているバイオマスに利用することができる。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で、水熱反応により多糖類を加水分解することを特徴とする多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法。
【請求項2】
前記多糖類が、でんぷん、寒天、グアルガム又はセルロースであることを特徴とする請求項1記載の多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素の含有量が、前記熱水の溶解度の飽和量に達する最大限度量であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多糖類の単糖化、オリゴ糖化方法。
【請求項4】
二酸化炭素を加圧含有させた、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で水熱反応を行うことを特徴とする有機化合物の加水分解方法。
【請求項5】
前記二酸化炭素の含有量が、前記熱水の溶解度の飽和量に達する最大限度量であることを特徴とする請求項4記載の有機化合物の加水分解方法。
【請求項6】
でんぷん含有農業生産物、木材または紙類を原料とし、請求項1〜5のいずれか1項に記載された方法を用いることを特徴とするグルコース及びそのオリゴ糖の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/049869
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515701(P2005−515701)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017638
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)