説明

有機化合物を含むガラス質のフレーク体とその製造方法

【課題】有機化合物の耐溶出性が改善され、かつ量産に適した方法で製造できるガラス質のフレーク体を提供する。
【解決手段】リン以外の元素(例えば、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル)の酸化物を主成分とし、有機化合物と、リン酸およびリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種と、を含有するガラス質のフレーク体1とする。このガラス質のフレーク体1は、いわゆるゾルゲル法を用いて得ることができる。リン酸(化合物)の導入により、有機化合物、例えば有機色素、の耐溶出性は大きく改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機色素等の有機化合物を含むガラス質のフレーク体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機色素を含むガラス質のフレーク体は、いわゆるゾルゲル法により製造されている。例えば、特開平4−292430号公報は、加水分解および脱水縮合が可能な金属化合物(例えばテトラメトキシシラン)と、有機色素とを含む溶液を基体上に塗布し、これを剥離することによりガラス質のフレーク体を得る方法を開示している。
【0003】
特開平8−60019号公報は、有機色素として酸性染料を用い、これを加水分解および脱水縮合が可能な金属化合物を含む溶液に添加し、基体に塗布し、乾燥させて剥離させ、さらに所定の熱処理を行うガラス質のフレーク体の製造方法を開示している。この方法によれば、高濃度(0.5〜30重量%)で色素(染料)を含有するガラス質のフレーク体を得ることができる。しかし、このガラス質のフレーク体における染料の耐溶出性、例えば耐水性、は充分と言えず、過酷な条件下ではガラス質のフレーク体から有機色素(酸性染料)が溶出する。
【0004】
特開平8−245341号公報は、加水分解および脱水縮合(縮重合)が可能な金属化合物を含む溶液を養生して加水分解した金属化合物をその重合度が100〜3500になるように縮重合し、次いでこれに酸性染料を添加して得た溶液を基体上に塗布し、乾燥させて剥離させ、さらに加熱するガラス質のフレーク体の製造方法を開示している。この方法によれば、有機色素の耐溶出性が改善される。
【特許文献1】特開平4−292430号公報
【特許文献2】特開平8−60019号公報
【特許文献3】特開平8−245341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開平8−245341号公報が開示する製造方法では、金属化合物の重合体の重合度を溶液中で所定範囲内に制御しなければならない。しかし、テトラメトキシシランに代表される上記金属化合物の縮重合は、時間の経過とともに進行を続け、かつその進行の速さも温度等の諸条件に影響を受けるため、重合度の制御は容易ではない。また、制御できたとしてもその溶液を使用できる時間は厳しく制限される。これらの理由から、特開平8−245341号公報が開示する製造方法は、ガラス質のフレーク体の量産には適していない。
【0006】
本発明は、有機化合物の耐溶出性が改善され、かつ量産に適した方法で製造できるガラス質のフレーク体を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、当該製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラス質のフレーク体は、リン以外の元素の酸化物を主成分とし、有機化合物と、リン酸およびリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種と、を含有する。
【0008】
本発明は、本発明のガラス質のフレーク体の製造方法として、加水分解可能でリンを含まない化合物の加水分解物と、リン酸およびリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種と、有機化合物と、を含む溶液を基体上に塗布して膜を形成し、この膜を基体から剥離させてガラス質のフレーク体を得る、ガラス質のフレーク体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ガラス質のフレーク体の成分の改善により有機化合物の耐溶出性を向上させた。このため、本発明の製造方法では、耐溶出性の改善のために原料とする化合物の重合体の重合度を所定範囲に制御する必要はない。本発明のガラス質のフレーク体は、有機化合物について改善された耐溶出性を有しながらも、量産に適した方法により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のガラス質のフレーク体は、リン以外の元素の酸化物を主成分として含有する。「主成分」は、慣用のとおり、本明細書においても50質量%以上を占める成分を指すが、本発明のガラス質のフレーク体では、上記酸化物が全体の70質量%以上、さらには90質量%以上、を占めていてもよい。
【0011】
リン以外の元素は、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0012】
リン酸化合物は、具体的には、リン酸塩およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。リン酸塩としては、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウムを例示できる。リン酸塩は、リン酸塩としてガラス質のフレーク体に添加されたものであってもよいし、リン酸と、これとは別に添加されたカルシウム等の金属イオンとから構成されたものであってもよい。リン酸エステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステルのいずれであってもよい。リン酸エステルは、例えば、界面活性剤として市販されている、リン酸エステル基およびポリオキシアルキレン基を含む親水性有機ポリマーであってもよい。
【0013】
ガラス質のフレーク体の主成分である酸化物の総量に対するリン酸およびリン酸化合物の合計量の比率は、例えば20モル%以下、さらに10モル%以下、特に2モル%以下、とするとよい。この比率の下限は0を超えていればよいが、0.001モル%以上とすることが好ましい。上記比率の算出に際し、リン酸およびリン酸化合物の合計量はリン酸(オルトリン酸:H3PO4)に換算することとする。
【0014】
本発明のガラス質のフレーク体における有機化合物は、色素、非線形光学材料、レーザー色素、フォトケミカルバーニング材料、液晶材料、光起電力材料、光化学センサー材料、光触媒材料のように、所定の機能を有する有機機能材料が好ましい。本発明のガラス質のフレーク体は、上記に例示した有機機能材料を担持する担体として機能し、その用途に応じ、種々のマトリックス(母体)に混合され、あるいは基体上に塗布されて使用される。
【0015】
本発明を適用すれば、水溶性の有機化合物を用いても、水に対する耐溶出性は向上する。
【0016】
代表的な水溶性の有機色素は酸性染料である。酸性染料に特徴的な官能基としては、−SO3Na,−COONaが挙げられる。
【0017】
酸性染料としては、褐色201号、黒色401号、紫色401号、青色1号、青色2号、青色202号、青色203号、青色205号、緑色201号、緑色204号、緑色205号、緑色3号、緑色401号、緑色402号、黄色201号、黄色202号-(1)、黄色202号-(2)、黄色203号、黄色4号、黄色402号、黄色403号-(1)、黄色406号、黄色407号、黄色5号、橙色205号、橙色207号、橙色402号、赤色102号、赤色104号-(1)、赤色105号-(1)、赤色106号、赤色2号、赤色213号、赤色227号、赤色230号-(1)、赤色230号-(2)、赤色231号、赤色232号、赤色3号、赤色401号、赤色502号、赤色503号、赤色504号、赤色506号を例示できる。
【0018】
ガラス質のフレーク体における有機化合物の含有率は、有機化合物の種類、添加目的等により適宜調整すればよい。本発明のガラス質のフレーク体には、ガラス質のフレーク体の0.1質量%程度以上、さらには1質量%以上、に有機化合物が含まれていてもよい。水溶性の有機化合物の含有率の上限についても制限はないが、通常は、ガラス質のフレーク体の20質量%以下が好適である。
【0019】
ガラス質のフレーク体の大きさおよび形状は、用途等に応じて適宜調整されるべきものではあるが、典型的には、厚さtが0.1〜15μmの範囲、アスペクト比(粒子径a/厚さt)が2〜1000の範囲にある。ガラス質のフレーク体1の形状を図1および図2に例示する。図2に示したように、粒子径aは、ガラス質のフレーク体1を平面視したときの面積Sの平方根として定めることとする(a=S0.5)。
【0020】
本発明の製造方法では、いわゆるゾルゲル法と呼ばれる手法を利用して、原料から成形体であるガラス質のフレーク体を得る。本発明では、加水分解触媒として酸触媒を使用する。従来から用いられてきた典型的な酸触媒は塩酸である。リン酸は、酸触媒として機能しうる酸ではある。しかし、塩酸、硫酸、硝酸に比べると弱い酸で触媒能が劣るとされ、また不揮発性であるために触媒としては用いづらかった。リン酸化物が耐水性に劣ることが広く知られているため、特に成形体の耐水性や含有成分の耐溶出性を考慮する必要がある場合には、使用を避けるべきと考えられてきた。例えば、上述した特許文献1〜3において、酸触媒として例示されているのは、塩酸、硫酸、硝酸のみである。
【0021】
しかし、ガラス質のフレーク体に含まれる有機化合物の耐溶出性を改善すべき場合には、リン酸および/またはリン酸化合物をガラス質のフレーク体に添加するとよいことが見出された。これらの添加による特性改善の理由は現段階では明らかではないが、本発明のガラス質のフレーク体では、リン酸と有機化合物との相互作用、もしくはリン酸(化合物)とリン以外の元素の酸化物と有機化合物との間にリン酸(化合物)の存在により新たに生じる作用により、またはリン酸(化合物)の存在によって酸化物のネットワークが強固になったことにより、有機化合物に作用する保持力が向上した、と考えられる。
【0022】
ガラス質のフレーク体の主成分である酸化物の原料となる加水分解可能な化合物は、アルコキシド、カルボキシレート、硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物等を用いればよいが、アルコキシドが適している。なお、ゾルゲル法の分野では、一般に、非金属元素として分類すべきシリコンのような元素のアルコキシドを含め、原料とするアルコキシドを「金属アルコキシド」と称する。本明細書でも、この慣例に従い、シリコン等の非金属元素のアルコキシドを含め、「金属アルコキシド」と表記する。同様に、金属アルコキシド等の原料を総称して「金属化合物」と表記することがある。ガラス質のフレーク体の主成分をリン以外の元素の酸化物とするために、加水分解可能な化合物としてはリンを含まない化合物を用いる。この化合物は、例えば、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種の元素を含んでいてもよく、この元素を「金属」元素とする金属アルコキシド等であってもよい。
【0023】
ガラス質のフレーク体の原料となる金属アルコキシドは、元素Mと、元素Mと結合した少なくとも1つの−OR基を含んでいればよい。ここで、Rは、アルキル基、好ましくは炭素数が1〜5であるアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。ただし、元素Mは、−OR基以外の官能基、例えばアルキル基、フェニル基、アシル基と結合していても構わない。上述したように、元素Mは、例えばシリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
上記金属アルコキシドは、加水分解を受けて、M−ORで示される結合の少なくとも一部がM−OHへと変化し、縮重合(M−OHどうしの縮重合は脱水縮合となる)を経て、M−O−Mで示される結合を形成し、縮重合の進行に伴い、左記結合が網目状に広がったネットワーク構造を形成する。
【0025】
極性溶媒中でプロトンを供給できるリン酸化合物、例えばリン酸モノエステルやリン酸ジエステルは、リン酸とともに、ゾルゲル法における加水分解触媒として機能する。リン酸化合物が加水分解触媒として機能しない場合、あるいはリン酸化合物の触媒作用が充分でない場合には、加水分解触媒として、従来から用いられてきた酸触媒、例えば塩酸、硝酸、硫酸を用いることが好ましい。酸触媒として、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸を用いても構わない。リン酸化合物が加水分解触媒として充分に機能する場合であっても、上記に例示したリンを含まない酸触媒を併用してもよい。
【0026】
本発明の製造方法では、加水分解可能でリンを含まない化合物の加水分解物と、リン酸および/またはリン酸化合物と、有機化合物と、を含む溶液が塗布液として調製される。この溶液の調製手順に特に制限はなく、例えば、加水分解と加水分解物の縮重合とが可能な化合物である金属アルコキシドが溶解し、所定の機能を有する有機化合物である有機色素が溶解または分散した溶液を調製し、この溶液にリン酸を加水分解触媒として投入して金属アルコキシドを加水分解してゾル化することにより、得ることができる。この場合、溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが適している。
【0027】
引き続き、調製した溶液を基体に塗布する。基体の材質に特に制限はなく、ガラス、金属、半導体、セラミックス、樹脂等を用いればよい。ただし、樹脂を用いる場合には、塗布した溶液に含まれる溶媒の沸点以上の耐熱温度を有する材料を選択することが好ましい。平板状で厚みが揃ったガラス質のフレーク体を得るという観点からは、溶液を塗布する基体の表面は平滑であることが好ましい。ガラス質のフレーク体の剥離性に優れている基体としては、ステンレス鋼が挙げられる。
【0028】
基体への溶液の塗布は、公知の技術を用いて行えばよく、具体的には、ロールコーティング法(フレキソ印刷法等)、スクリーン印刷法等の各種印刷法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、浸漬引き上げ(ディップコーティング)法、流し塗り(フローコーティング)法等を用いればよい。
【0029】
溶液を塗布して形成した膜は、基体上で乾燥させる。この乾燥の手法にも制限はないが、溶媒の除去を促進するために、ガラス質のフレーク体に含まれる有機化合物が分解せず、基体の耐熱温度以下である温度に基体を加熱して溶液を乾燥させるとよい。基体を加熱して行う乾燥工程における好ましい温度としては、80℃〜250℃を例示できる。
【0030】
乾燥の進行に伴い、基体上の膜は収縮し、この収縮に伴う応力によりクラックが発生し、このクラックが伸長し、ついには膜が基体から剥離してガラス質のフレーク体となる。ガラス質のフレーク体が自然に剥離しない場合には、外部から力を加えて基体から剥離させればよい。ガラス質のフレーク体を剥離させ、収集するには、吸引したり、ブラシ等を用いて掻き取ったりするとよい。
【0031】
なお、本発明のガラス質のフレーク体の製造には、上記で説明した本発明による方法が最も簡便であって量産にも適しているが、本発明のガラス質のフレーク体の製造方法が本発明による方法に制限されるわけではない。本発明のガラス質のフレーク体は、例えば高速で塗布液を噴射することにより、大気中で平板状の金属酸化物液体を形成させ、それをそのまま乾燥させることによっても作製できる。また、本発明のガラス質のフレーク体は、有機化合物を含み、上記酸化物を主成分とするが、その他の成分、例えば水酸化物、ハロゲン化物、窒化物を含んでいてもよい。
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、上記と同様、以下の実施例も本発明の好ましい実施形態の例示に過ぎない。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
実施例1では、加水分解可能な化合物としてテトラメトキシシランを用い、テトラメトキシシランの加水分解触媒としてリン酸(オルトリン酸:H3PO4)を用いた。また、水溶性の有機化合物として、有機色素(酸性染料)である赤色1号(Food Red 1; Trisodium 3-hydroxy-4-(4-sulfonato-1-naphthylazo)-2,7-naphthalenedisulfonate)を用いた。
【0034】
イソプロパノール66.0gとテトラメトキシラン(東京化成製)57.5gと赤色1号0.06gとを混ぜ合わせ、これに0.05mol/l(0.1N)のリン酸水溶液102gを滴下し、25℃で24時間攪拌し、ゾルを得た。
【0035】
次いで、このゾルを大きさ100x100mmのステンレス(SUS304)基体上に、スピンコート法により、10回転/秒(600rpm)の速度で塗布して膜を形成した。塗布後30秒間静置した後、予め200℃に昇温させたマッフル炉に入れ、60秒間乾燥させた。この乾燥工程において、膜からは、縮重合により離脱した水およびメタノールと、溶媒としたイソプロパノールとが離脱する。乾燥後、基体から自然剥離したガラス質のフレーク体を回収した。
【0036】
得られたガラス質のフレーク体の厚みtは約1μmであった。粒子径aは約5〜50μmであった。なお、以下の実施例および比較例においても、同様のtおよびaを有するガラス質のフレーク体が得られた。
【0037】
実施例1から得たガラス質のフレーク体は、赤色1号を全体の約2.5質量%含み、酸化物の約1.4モル%相当のリン酸を含む、ガラスフレークである。
【0038】
このガラス質のフレーク体の溶出性を以下の方法で測定した。まず、サンプル瓶にガラス質のフレーク体50mgを測り取り、さらに水10g加え、マグネチックスターラーにより8.33回転/秒(500rpm)の速度で1時間攪拌した。なお、このスターラーの回転速度は、これ以上に攪拌しても溶出量に変化がない程度であって充分に大きい。この懸濁液から吸引ろ過によりガラス質のフレーク体を除去した後、可視分光光度計(島津製作所:UV−3100)を用いて、赤色1号由来の522nmの吸収ピーク強度を求め、このピーク強度から、ガラス質のフレーク体から溶出した色素量を算出した。
【0039】
上記測定の結果、ガラス質のフレーク体に含まれている色素の0.19%が溶出した。
【0040】
(実施例2)
実施例2では、実施例1からリン酸濃度を変更した。
【0041】
滴下するリン酸の濃度を0.05mol/lから0.005mol/l(0.01N)に変更した以外は、リン酸の滴下量も含めて実施例1と同様にして、ガラス質のフレーク体を得た。
【0042】
このガラス質のフレーク体について、実施例1と同様にして測定した色素の溶出量は0.16%であった。
【0043】
実施例2から得たガラス質のフレーク体は、酸化物の約0.14モル%相当のリン酸を含む。
【0044】
(実施例3)
実施例3においても、実施例1からリン酸濃度を変更した。
【0045】
滴下するリン酸の濃度を0.05mol/lから0.5mol/l(1N)に変更した以外は、リン酸の滴下量も含めて実施例1と同様にして、ガラス質のフレーク体を得た。
【0046】
このガラス質のフレーク体について、実施例1と同様にして測定した色素の溶出量は0.22%であった。
【0047】
実施例3から得たガラス質のフレーク体は、酸化物の約14モル%相当のリン酸を含む。
【0048】
(実施例4)
実施例4では、有機化合物(有機色素)を変更した以外は、実施例1と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。
【0049】
溶液に添加する有機色素を、0.06gの赤色1号から0.11gの緑色401号(Acid Green 1; Sodium tris(1,2-naphthalenedione 1-oximato-O,O')ferrate(II))とした以外は、実施例1と同様にして、ガラス質のフレーク体を得た。
【0050】
このガラス質のフレーク体について、実施例1と同様にして測定した色素の溶出量は0.08%であった。ただし、本実施例における吸収ピーク強度は、緑色401号由来の715nmを測定した。
【0051】
実施例4から得たガラス質のフレーク体には、緑色401号が全体の約5質量%含まれている。
【0052】
(比較例1)
比較例1では、酸を変更した以外は、実施例1と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。
【0053】
リン酸に代えて、0.1mol/l(0.1N)の硝酸を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。このガラス質のフレーク体について、実施例1と同様にして測定した色素の溶出量は0.58%であった。
【0054】
(比較例2)
比較例2でも、酸を変更した以外は、実施例1と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。
【0055】
リン酸に代えて、0.05mol/l(0.1N)の硫酸を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。このガラス質のフレーク体について、実施例1と同様にして測定した色素の溶出量は0.69%であった。
【0056】
(比較例3)
比較例3では、酸を変更した以外は、実施例4と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。
【0057】
リン酸に代えて、0.1mol/l(0.1N)の硝酸を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス質のフレーク体を得た。このガラス質のフレーク体について、実施例1と同様にして測定した色素の溶出量は0.42%であった。
【0058】
以上の実施例および比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0059】
表1に示したとおり、リンの導入により、有機化合物(赤色1号、緑色401号)の水に対する耐溶出性は大きく改善された。赤色1号について見ると、リンの添加により、上記の大きさを有し、赤色1号を全体の2.5質量%含有するガラス質のフレーク体50mgを水10gとともに1時間充分な速度で攪拌したときの、水溶性の有機化合物(有機色素)からの溶出量を全体の0.5%以下とすることができる。
【0060】
上記実施例では、リン以外の元素としてシリコンを、リン供給源としてリン酸をそれぞれ用いたが、シリコン以外の元素の酸化物を用い、リン酸に代えてリン酸化合物を添加しても、上記と同様、有機化合物の耐溶出性を改善する効果が得られる。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、有機化合物の耐溶出性が改善され、かつ量産に適した方法で製造できるガラス質のフレーク体を提供できる。この有機化合物を含むガラス質のフレーク体は、従来品が使用されてきた各種製品において、有機化合物の耐溶出性を改善することができるものとして大きな利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のガラス質のフレーク体の形状を例示する斜視図である。
【図2】本発明のガラス質のフレーク体の形状を例示する平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン以外の元素の酸化物を主成分とし、有機化合物と、リン酸およびリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種と、を含有するガラス質のフレーク体。
【請求項2】
前記リン以外の元素が、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のガラス質のフレーク体。
【請求項3】
前記リン酸化合物が、リン酸塩およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のガラス質のフレーク体。
【請求項4】
前記有機化合物が水溶性である請求項1に記載のガラス質のフレーク体。
【請求項5】
前記有機化合物が有機色素である請求項1に記載のガラス質のフレーク体。
【請求項6】
前記有機色素が酸性染料である請求項5に記載のガラス質のフレーク体。
【請求項7】
請求項1に記載のガラス質のフレーク体の製造方法であって、
加水分解可能でリンを含まない化合物の加水分解物と、リン酸およびリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種と、有機化合物と、を含む溶液を基体上に塗布して膜を形成し、
前記膜を前記基体から剥離させてガラス質のフレーク体を得る、ガラス質のフレーク体の製造方法。
【請求項8】
前記加水分解可能でリンを含まない化合物が、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種の元素を含む請求項7に記載のガラス質のフレーク体の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸化合物が、リン酸塩およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載のガラス質のフレーク体の製造方法。
【請求項10】
前記有機化合物が水溶性である請求項7に記載のガラス質のフレーク体の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物が有機色素である請求項7に記載のガラス質のフレーク体の製造方法。
【請求項12】
前記有機色素が酸性染料である請求項11に記載のガラス質のフレーク体の製造方法。
【請求項13】
前記加水分解可能でリンを含まない化合物が、金属アルコキシドである請求項7に記載のガラス質のフレーク体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−534413(P2008−534413A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530019(P2006−530019)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【国際出願番号】PCT/JP2006/306069
【国際公開番号】WO2006/109548
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】