説明

有機太陽電池及びその製造方法

本発明は、有機太陽電池(20)及びその製造方法を提供する。該太陽電池(20)は、光反射性電極(11)、光反射性電極(11)上に位置する光増感層(23)、光増感層(23)上に位置する透明電極(16)、透明電極(16)上に位置するアップコンバージョン構造(18)、及び透明電極(16)とアップコンバージョン構造(18)との間に位置する透明絶縁層(17)を備え、その中で、該アップコンバージョン構造(18)は、スペクトルに対してアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含み、該光増感層(23)は、少なくとも、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を備える。該有機太陽電池は、高い光電変換性能及び電気性能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換の技術分野に属し、具体的に、有機太陽電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中のエネルギー源環境が次第に悪化し、石油化学資源から生じた二酸化炭素などの大気への影響につれて、再生可能なグリーン・エネルギー源の開発は、現在のエネルギー源の問題を解決するための主な課題となっている。その中で、太陽電池は、無公害、便利なエネルギー源の取り込み方式などのいろいろな利点を持っているため、応用展望、及び応用価値が最も高いグリーン・エネルギー源として認められている。太陽電池の開発は、20世紀50年代から始まり、今まで半世紀を経過した。材料による太陽電池の分類は、シリコン太陽電池、III−V族半導体太陽電池、銅−インジウム−セレン(もしくは、銅−インジウム−ガリウム−セレン)太陽電池、テルル化カドミウム太陽電池、ナノ・二酸化チタン(色素増感)太陽電池、及び有機太陽電池がある。その中で、有機太陽電池は、ここ20年以来発展された低コストの新規太陽電池であり、人間の生活習慣に対し本当に変化を与える可能性がある新規エネルギー源として認められている。
【0003】
有機太陽電池は、廉価でプロセスが簡単な有機材料を原料としているため、そのプロセスのコストを大幅に低下させた。また、有機太陽電池の電子供与体−電子受容体の励起子解離界面の効率が高く、かつ、有機材料が多くの種類から選択され得るため、これらはいずれも有機太陽電池に幅広い発展空間と莫大な応用潜在力を付与している。有機太陽電池は、低コストの利点のほか、また、折り畳み可能であり、靱性にも優れると言う特徴があって、非常に幅広い応用展望を持っている。その中で、ポリマー太陽電池は、特に、ゾル−ゲル法、スクリーン印刷法などの簡便で実用的な方法により製造されることができ、大規模量産化に非常に適しているため、科学研究機構や企業からの注目と投資が、ますます増えてきている。
【0004】
しかしながら、現在のポリマー太陽電池の効率は、一般的に非常に低く、まだ. 商業化には道のりが遠い。そのエネルギー変換率を制約する要因としては、電池のスペクトル応答範囲と太陽光の地面での放出スペクトルとがマッチングしていないこと、ポリマー材料自身のキャリア移動度が比較的に低いこと、及びキャリアの伝達速度が低いこと等がある。
【0005】
有機太陽電池のエネルギー変換率が比較的に低い原因にはいろいろあるが、その中で、有機分子材料の太陽光の放射に対する利用率が低く、材料の吸収スペクトルと太陽光の放出スペクトルとがマッチングしていないことが、1つの重要な原因となっている。伝統の有機分子材料において、太陽光に対する吸収は主に可視光域(波長範囲が380nm〜780nm)に集中されているが、太陽光の放出スペクトルには、例えば、紫外線帯域、赤外線帯域などの全帯域における光が含まれている。その中で、赤外線帯域の太陽光のエネルギーは、帯域全体における太陽光スペクトルエネルギーの47%程度を占める。これから分かるように、伝統の有機小分子太陽電池は、太陽スペクトルにおける赤外線部分を十分に利用することができず、巨大なエネルギー損失を招来する。そのため、有機分子材料の太陽光に対する吸収は、そのエネルギーのわずかな一部に過ぎず、太陽エネルギーの利用率は比較的に低いことになる。
【0006】
もう1つのエネルギー変換率が比較的に低い原因としては、伝統のヘテロ接合構造が、励起子の解離界面への拡散効率を制限して、その光電エネルギー変換能力を制限することにある。伝統のヘテロ接合構造の有機小分子太陽電池において、電池の光増感層は光を吸収した後、励起子(電子−正孔対)を生じ、該励起子は電気的中性を示しており、該励起子がヘテロ接合の部分へ拡散して自由キャリアに解離された場合にこそ、即ち自由電子−正孔に解離された場合にこそ、電池の光電出力に寄与することができる。しかしながら、有機材料における励起子の拡散距離は比較的に短く、通常、10〜20nmであるため、ヘテロ接合から10〜20nm以内にある励起子のみが界面まで拡散できで自由キャリアに解離され、ヘテロ接合より遠い所に生じた励起子のエネルギーは、むだに損失してしまい、光電変換に寄与しないことになる。そのため、有機太陽電池のエネルギー変換率が低くなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、太陽エネルギーの利用率が高く、励起子の利用率が高く、電気性能が強化された有機太陽電池、及びプロセスが簡単で低コストの有機太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機太陽電池は、光反射性電極、該光反射性電極上に位置する光増感層、該光増感層上に位置する透明電極、該透明電極上に位置するアップコンバージョン構造、及び前記透明電極とアップコンバージョン構造との間に位置する透明絶縁層を備え、前記アップコンバージョン構造は、スペクトルに対しアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含み、前記光増感層は、少なくとも、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を有する。
【0009】
また、本発明の有機太陽電池の製造方法は、
互いに反対側にある第1の表面及び第2の表面を有する透明絶縁層を提供する工程と、
前記透明絶縁層の第1の表面上に、透明電極を形成する工程と、
前記透明電極上に、少なくとも、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を含む光増感層を形成する工程と、
前記光増感層上に、光反射性電極を形成する工程と、
前記透明絶縁層の第2の表面上に、スペクトルに対しアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含むアップコンバージョン構造を形成して、透明絶縁層を前記透明電極とアップコンバージョン構造との間に位置させる工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
前記有機太陽電池は、アップコンバージョン構造を設け、該アップコンバージョン材料のスペクトル変換機能を利用して、電池に十分に吸収・利用できない光、例えば、低エネルギーの近赤外線帯域の光子を、比較的に高いエネルギーの可視光帯域の光子に変換することで、その有機太陽電池の太陽光エネルギーに対する吸収・利用率を向上させて、光電変換性能を改善することができる。一方、アップコンバージョン構造と透明電極との間に1層の透明絶縁層を有するため、アップコンバージョン層と太陽電池の、電気学上での相対的な独立を確保することができ、アップコンバージョン材料の太陽電池の光電変換への不利な影響を避けて、有機太陽電池の電気性能を強めることができる。さらに、混合ヘテロ接合構造を利用して励起子が解離する領域を広げ、励起子の利用率を向上することで、電池の内部量子効率を向上した。有機太陽電池の製造方法において、所定の工程に準拠して各層の構造を形成することで、そのプロセスの工程が簡単になり、生産コストが低減されて、幅広い応用展望を持っている。
以下、図面及び実施形態に基づいて、本発明を更に具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る有機太陽電池の構造を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施形態に係る有機太陽電池の構造を示す模式図である。。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る有機太陽電池の製造方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の目的、技術案及び利点を更に明らかにするために、図面と実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。ただし、ここで具体的に記載された実施形態は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態の有機太陽電池の構造を示す。本実施形態の有機太陽電池10は、光反射性電極11、光反射性電極11の上に位置する光増感層13、光増感層13上に位置する透明電極16、及び透明電極16上に位置するアップコンバージョン構造18を備え、また、透明電極16とアップコンバージョン構造18との間には透明絶縁層17が設けられ、かつ、光増感層13は、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を有し、該アップコンバージョン構造18は、スペクトルに対してアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含む。具体的に、上記の各部分は、いずれも層状構造であり、各層が互いに積層された構造になっている。
【0014】
図1に示す実施形態において、光増感層13の両側面に、それぞれバッファ層が設けられ、即ち、光反射性電極11と光増感層13との間に位置する第1のバッファ層12、及び光増感層13と透明電極16との間に位置する第2のバッファ層15を含む。
【0015】
光反射性電極11としては、高反射率材料を用いてもよく、例えば、Au、Ag、Al、Ca−Al、又はMg−Agなどの金属薄膜電極、又はITOもしくはZnOなどの金属酸化物を含む高反射率電極であってもよいが、それらに限定されるものではなく、かつ、電池の陰極又は陽極とすることができる。本実施形態において、光反射性電極11は層状の構造であり、即ち電極層であり、その厚さは、マイクログレード、又はナノグレードであり、例えば、50nm〜2μmであり、100〜200nmであることが好ましいが、これに限定されるものではない。一つの具体的な実施形態において、光反射性電極11は、ストライプ電極パターンに形成されてもよく、例えば、長くて真っ直ぐなストライプ形状に形成されてもよい。
【0016】
本実施形態において、光増感層13は、混合ヘテロ接合構造を採用し、所定の比例で電子供与体材料及び電子受容体材料を混合してなり、例えば、電子供与体材料と受容体材料を、1:0.1〜1:10の質量比で混合してなり、好ましくは、1:0.5〜1:2の質量比で混合してなる。そのため、該混合ヘテロ接合構造は、電子供与体材料と電子受容体材料との混合体であり、2種の材料が互いに混合・ドープされて、電子供与体材料と電子受容体材料とが互いに均一に分布・混在されている。本実施形態の混合ヘテロ接合構造は、大面積の電荷発生界面を備え、且つ電子供与体及び電子受容体により形成されたネット・マトリックス構造であり、電池において、光から励起子を生成し、かつ、光生成励起子が自由電子及び正孔キャリアに解離されて、光電流を輸出する主な領域であり、該混合ヘテロ接合構造は、例えば、スピンコート製膜法を採用することで、その供与体材料及び受容体材料を比較的によい均一相に形成させて、光電流の順調な輸出を確保することができる。もちろん、真空メッキ法、又はスパッタリング法を用いて製造してもよく、これらに限定されたものではない。
【0017】
上記電子供与体材料としては、ポリ(バラフェニレンビニレン)(PPV)もしくはその誘導体、ポリチオフェン材料、ポリフルオレン材料、ポリカルバゾール材料、又はポリジチオフェンシクロペンタン材料、及びその他のポリマー材料であってもよい。その中で、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)もしくはその誘導体は、例えば、ポリ[2−メトキシ−5−(2′−エチル−ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPVと略称する)、ポリ(2−メトキシ−5−(3’、7’−ジメチルオクチルオキシ)−1、4−パラフェニレンビニレン(MDMO−PPVと略称する)であってもよい。ポリチオフェン材料は、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HTと略称する)などであってもよい。ポリフルオレン材料は、例えば、ベンゾチアジアゾール単位及びフルオレン単位を含むコポリマーなどであってもよい。ポリカルバゾール材料は、例えば、ベンゾチアジアゾール単位とカルバゾールとを含むコポリマーなどであってもよく、ポリシクロペンタジチオフェン材料は、例えば、ベンゾチアジアゾール単位とジチオフェンとを含むコポリマーなどであってもよい。その他のポリマー材料は、キノキサリン、チエノピロール及びチエノピラジンなどの単位を含有するポリマーなどであってもよいが、これらに限定されるものではない。電子受容体材料としては、ペリレンポリイミド(perylene polyimide)材料、C60、C60誘導体(例えば、PCBM)、C70、又はC70誘導体(例えば、PC70BM)であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0018】
光増感層13は、電池全体において光子を吸収して光電流、光電圧を生じる光増感領域である。光増感層13の厚さはナノグレードであり、例えば、10〜200nmであり、20〜160nmであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
該第1のバッファ層12、第2のバッファ層15の材料は、同じ又は異なっていてもよく、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸複合材料(PEDOT:PSSと略称する)、チタン酸化物(TiO)、BCP、Alq、又はLiFから選ばれる1種、又は複数化合物の混合物である。その中で、Alqは、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(英語化学名:8−Tris−Hydroxyquinoline Aluminum)であり、BCPは、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(英語化学名:2,9−dimethyl−4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline)である。
【0020】
第1のバッファ層12、第2のバッファ層15は、同じ又は異なるナノグレードの厚さを有してもよく、具体的には、5〜20nmであり、5〜10nmであることが好ましい。
【0021】
上記材料からなる第1のバッファ層12、第2のバッファ層15は、主に電極と光増感層との間の界面を修飾する作用を発揮し、その界面をより平らにする一方、界面の電荷移動にも有利である。同時に、陽極の仕事関数を向上することができ、また、部分的に励起子を阻止する役割を有している。
【0022】
透明電極16は、導電性に優れた透明材料を用いることができ、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、酸化亜鉛ガリウム(GZO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの酸化物透明電極、又は金(Au)薄膜、アルミ(Al)薄膜、銀(Ag)薄膜などの金属薄膜電極、又はカーボン・ナノチューブ導電薄膜などを用いてもよいが、これらに限定されるものではない。透明電極16は、電池の陽極もしくは陰極とすることができ、又は光反射性電極の対電極とすることもできる。本実施形態において、透明電極16は層状構造の透明層であり、その厚さは、マイクログレード、又はナノグレードであり、例えば、50nm〜2μmであり、100〜200nmであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。一つの具体的な実施形態において、透明電極16は、光反射性電極11の構造に対応して、ストライプ電極パターンを有し、例えば、長くて真っ直ぐなストライプ形状にしてもよい。
【0023】
透明絶縁層17は、主に透明絶縁材料を採用し、例えば、ガラス層又は透明プラスチック層であってもよい。ガラス材料としては、石英ガラス、珪酸塩ガラス、高シリカガラス、又はソーダライムガラスなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。透明プラスチック層は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)又はポリエステル(PET)などを含有してもよいが、これらに限定されるものではない。該透明絶縁層17は、透明電極16とアップコンバージョン構造18との間に位置して、この2つの層構造を互いに絶縁・隔離させることで、アップコンバージョン構造18と光増感層13及び透明電極16との間の電気学上での相対的独立を確保し、アップコンバージョン材料の、有機太陽電池10内部の光電変換への不利な影響を避けることができで、これにより、それぞれ独立的にアップコンバージョン構造、有機太陽電池10の電池ユニット(即ち、少なくとも、光増感層13、透明電極16及び光反射性電極11を含む)に対して性能最適化を行うことができで、電池システム全体の性能最適化を達成することができる。透明絶縁層17の厚さは、0.5〜5mmであり、1〜3mmであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。比較的に厚い透明絶縁層17を用いて、その他の層を支持する基材層としてもよい。
【0024】
透明絶縁層17は、互いに反対側にある第1の表面17b及び第2の表面17aを有し、第1の表面17bは透明電極16と接する表面であり、第2の表面17aはアップコンバージョン構造18が形成される表面である。
【0025】
アップコンバージョン構造18におけるアップコンバージョン材料は、希土類イオンを単一ドープ、又は二重ドープしたハロゲン化物、酸化物、硫化物、又はこれらの組成物であることができる。その中で、ハロゲン化物はフッ化物であることが好ましく、酸化物は希土類酸化物、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、又は複合酸化物であることができる。硫化物は希土類硫化物であってもよい。具体的に、アップコンバージョン材料として、例えば、希土類イオンを単一ドープ又は二重ドープしたBaY、KZnF、NaYF、NaYb(WO、Ga−La、Y、Gd、ZrO、ZnO、BaTiO、ZrF−SiO、又はZnO−SiOが挙げられるが、これらに限定されるものではない。単一ドープ又は二重ドープする希土類イオンとしては、Er3+、Ho3+、Tm3+、Pr3+、Yb3+/Ho3+、Yb3+/Tm3+、Yb3+/Pr3+、Yb3+/Er3+、又はTb3+/Er3+が挙げられる。その中で、希土類イオンの合計ドープモル比は、特に限定されず、必要に応じて具体的に決めることができる。例えば、基質(即ち、ハロゲン化物、酸化物、硫化物又はこれらの組成物)に対する希土類イオンの合計ドープモル比は、1%〜60%であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
二重ドープした希土類イオンにおいて、Yb3+/Ho3+、Yb3+/Tm3+、Yb3+/Pr3+、Yb3+/Er3+、又はTb3+/Er3+である場合、2種イオンの混合モル比は1:0.1〜1:1であり、1:0.1〜1:0.5であることが好ましい。
【0027】
アップコンバージョン構造18には、アップコンバージョン材料の薄膜様態、又は酸化物薄膜を用いてアップコンバージョン材料を被覆した複合構造の様態が含まれる。被覆用の酸化物薄膜は、ZnO:Al、SnO:Sbであることができる。このようなアップコンバージョン材料を被覆した複合構造により、即ちこのような酸化物薄膜でアップコンバージョン材料を被覆した複合構造の様態において、アップコンバージョン材料の安定性を確保することができるため、アップコンバージョン構造18のアップコンバージョン機能を安定化・持久化させることができる。アップコンバージョン構造18の厚さは、500−600nmであってもよいが、これに限定されるものでもない。アップコンバージョン材料は、「スペクトルを制御する」という機能を持ち、電池に十分に吸収・利用できない低エネルギーの光を、例えば、近赤外帯域、遠赤外帯域、又は他の帯域の光子を、比較的に高いエネルギーの可視光帯域の光子に変換して、太陽光に対する吸収・利用率を向上させるため、その光電変換性能を改善することができる。
【0028】
図1に示すように、太陽光14の照射する場合、太陽光は、アップコンバージョン構造18の側から入射し、アップコンバージョン過程を経て、例えば赤外帯域の光子を可視光帯域の光子に変換する過程を経て、透明絶縁層17及び透明電極16を透過し、ポリマー太陽電池の光増感層13中の混合ヘテロ接合構造に吸収されて、自由キャリアに変換し、キャリア輸送層により輸送されて、光電流を形成する。その中で、光増感層13が混合ヘテロ接合構造を用いているため、電子供与体材料と電子受容体材料とが互いに均一に混合・ドープされて、電子供与体及び電子受容体からなるネット・マトリックス構造を形成し、光生成励起子が自由キャリアに解離されて光電流を形成する領域を広げることで、励起子解離の効率を向上させ、かつ、励起子の拡散・移動を便利にさせることに寄与して、光電流を順調に導出することを確保し、既存のヘテロ接合の励起子拡散における欠陥を避けるため、電池の太陽光エネルギーに対する光電変換率を大幅に向上することができる。
【0029】
図2は、本発明の第2実施形態の有機太陽電池の構造を示す。本実施形態の有機太陽電池20の構造は、第1の実施形態の有機太陽電池とほぼ同じであり、相違点は光増感層の構造にある。図2において、図1と同様な素子について、同一の符号を付与し、ここで重複の説明を省略する。
【0030】
本実施形態の光増感層23は、3層の構造を有し、順次に積層して設置された第1の光増感層23a、第2の光増感層23b、及び第1の光増感層23aと第2の光増感層23bとの間に位置する第3の光増感層23cを含む。第1の光増感層23aは、電子供与体材料を含む。第2の光増感層23bは、電子受容体材料を含む。第3の光増感層23cは、上記光増感層13の構造を備える。電子供与体材料としては、上記光増感層13の材料のほか、例えば、フタロシアニン染料、ペンタセン、ポルフィリン化合物、シアニン染料から選ばれる少なくとも1種であってもよいが、これらに限定されるものではない。電子受容体材料としては、上記光増感層13の材料のほか、例えば、テトラカルボキシルペリレン誘導体(tetracarboxylic perylene derivative)(例えば、3、4、9、10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、PTCDAと略称する。)、C60、C70、ペリレン、又はペリレン誘導体から選ばれる少なくとも1種であってもよいが、これらに限定されるものではない。好ましくは、第1の光増感層23a及び第2の光増感層23bの電子供与体材料及び受容体材料として、それぞれ、第3の光増感層23cと同様な電子供与体材料及び受容体材料を用いる。即ち、光増感層23a、23b、23cの電子供与体材料及び受容体材料として、第1の実施形態の光増感層13に対応する電子供与体材料及び受容体材料を用いてもよく、又は第2の実施形態の前記電子供与体材料及び受容体材料を用いてもよい。
【0031】
図面に示す実施形態において、第2の光増感層23bは、透明電極16の近くに設置され、即ち、光に近い側に設置され、第1の光増感層23aは、光反射性電極11の近くに設けられている。第1の光増感層23a、第2の光増感層23bの位置は、上記と逆の順序で設置されてもよく、即ち、第1の光増感層23aが、透明電極16の近くに設置され、つまり光に近い側に設置され、第2の光増感層23bが、光反射性電極11の近くに設置されてもよい。
【0032】
このような3層の光増感層構造において、第1の光増感層23a、第2の光増感層23bは、光の吸収及びキャリア輸送層として機能し、もちろん第3の光増感層23cもこのような役割を果たすことができ、同時に、第1の実施形態における光増感層13と同様な構造を備えている。このような3層の構造によれば、光生成励起子が自由キャリアに解離されて光電流を形成する領域を広げることができ、励起子解離の効率を向上したため、光電変換率の向上により有益となる。
【0033】
上記の2つの実施形態において光増感層に用いられる材料は、互いに交換して使用してもよく、例えば、第2の実施形態の3層の光増感層23a、23b、23cにおける電子供与体材料及び受容体材料は、光増感層13においてそれぞれ対応する供与体及び受容体としてのポリマー材料を使用することができ、逆の場合も同じである。
【0034】
なお、その他の実施形態において、第1の光増感層23aと第2の光増感層23bから選ばれる1層、及び第3の光増感層23cのみを採用する合計2層の構造態様を用いることができ、又はより多くの層(例えば、光増感層13又は23cを含む多層構造)の構造態様を用いてもよく、これらは、いずれも本発明が保護しようとする範囲内に収まれ、上記実施形態に記載の層数及びその配列・設置方式などに限定されるものではない。
【0035】
図3に示すように、本発明の実施形態に係る有機太陽電池の製造方法は、
S01:互いに反対側にある第1の表面及び第2の表面を有する透明絶縁層を提供する工程と、
S02:透明絶縁層の第1の表面上に、透明電極を形成する工程と、
S03:透明電極上に、少なくとも、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を含む光増感層を形成する工程と、
S04:光増感層上に、光反射性電極を形成する工程と、
S05:透明絶縁層の第2の表面上に、スペクトルに対しアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含むアップコンバージョン構造を形成して、透明絶縁層を透明電極とアップコンバージョン構造との間に位置させる工程と、
を含むことを特徴とする。
【0036】
上記各工程において、各層構造の材料は、それぞれ、以上に説明した材料と構成及び構造形式に対応され、ここで重複の説明を省略する。以下、第1の実施形態及び第2の実施形態の二つの有機太陽電池の製造方法について、それぞれ、詳細に説明する。
【0037】
先ず、第1の実施形態の構造を例とし、図1に示す構造に基づいて説明する。透明絶縁層17は、第1の表面17b及び第2の表面17aを有する。上記に記載のように、ガラス又はプラスチックなどの透明絶縁材料を用いることができ、同時に、透明絶縁層17は、後述する各層薄膜が成長するためのサブマウント(sub−mount、基板)である。
【0038】
工程S02において、透明電極16は、真空蒸着法又はスパッタリング法により、透明絶縁層17の第1の表面17b上にメッキされて透明薄膜状の構造を形成する。一つの具体的な実施形態において、さらにフォトリソグラフィ法を用いて透明電極16を所望のストライプ電極パターンに形成して、有機太陽電池10の陽極とすることができ、具体的なパターンは必要に応じて決めることができる。
【0039】
上記の構造に対応して、透明電極16上には、さらに第2のバッファ層15を形成することができ、例えば、スピンコート技術により、PEDOT:PSSなどのポリマー導電薄膜を形成し、又は蒸着法により、TiO、BCP、Alq、又はLiFなどの材料を成長させて、図1中のバッファ層15とする。
【0040】
光増感層13は、スピンコート技術を採用し、湿式メッキ法により、所定の比例で電子供与体材料及び電子受容体材料を混合してなる混合層を第2のバッファ層15上にスピンコートして、混合ヘテロ接合構造を形成し、図1に示す光増感層13とする。該湿式メッキを行う前に、予め有機溶媒を用いて電子供与体材料及び電子受容体材料を溶解すると共に、マグネチックスターラーで十分に撹拌・溶解して、例えば供与体材料/受容体材料が1:0.1〜1:10の質量比で電子供与体材料及び電子受容体材料を含む溶液を配合しておき、スピンコートによる湿式製膜に用いる。有機溶媒としては、クロロホルムを用いてもよいが、これに限定されるものではない。電子供与体材料溶液及び電子受容体材料溶液を所定の配合比でスピンコートして所望の光増感層13を形成し、その中で、スピンコートの回転速度は1500rpm程度である。そして、さらにスピンコート産物を60〜100℃で数十分間乾燥することができる。
【0041】
同様に、上記の構造に対応して、光増感層13上に、さらに第1のバッファ層12を形成することができ、例えば、スピンコート技術により、PEDOT:PSSなどのポリマー導電薄膜を作成し、又は真空蒸着法により、TiO、BCP、Alq、又はLiFなどの材料を成長させて、図1に示す第1のバッファ層12とすることができる。スピンコート技術により、PEDOT:PSSなどのポリマー導電薄膜を形成する場合、コーディングした後にオーブンに入れ、60〜100℃で20〜60分間ベーキングする。一つの具体的な実施形態において、オーブンでのベーキング温度が90℃であり、ベーキング時間は25分間である。
【0042】
光反射性電極11は、真空蒸着法、又はスパッタリング法を用い、ストライプマスク板を介して、ナノグレード厚さの電極層を形成することができる。アップコンバージョン構造18の形成方法は、以下の通りである:アップコンバージョン材料における各元素源化合物(例えば、元素に対応する酸化物、硝酸塩、シュウ酸塩、又は炭酸塩など)を原料として、ゾル−ゲル法を用い、かつ、スピンコートにより、透明絶縁層17の第2の表面17a、即ち、透明電極16がメッキされていない表面に形成して、透明絶縁層17が透明電極16とアップコンバージョン構造18との間に位置するようにする。
【0043】
なお、上記の各層を形成した後、さらに、構造全体を100〜200℃程度の温度で5〜30分間アニールし、例えば、具体的に作業する際に、160℃温度で5分間アニールしてもよい。もう1つの実施形態において、アップコンバージョン構造18として、酸化物薄膜でアップコンバージョン材料を被覆して透明絶縁層17の第2の表面17aに形成することができ、例えば、化学的均一共沈法により、上記希土類イオンを単一ドープ又は二重ドープしたハロゲン化物、酸化物、硫化物、又はそれらの組成物などの材料の表面に、ZnO:Alなどを被覆して透明アップコンバージョン構造を形成する。
【0044】
第2の実施形態の有機太陽電池20の製造方法は、ほとんど、上記の工程と類似するが、光増感層の製造工程に相違点がある。有機太陽電池20の光増感層23が3層構造をを有するため、3つのステップに分けて行い、それぞれ、順次に第2の光増感層23b、第3の光増感層23c、及び第1の光増感層23aを形成する。同様に、図2に示す構造に対応して、第1の光増感層23a、第2の光増感層23bを形成する前に、透明電極16上に第2のバッファ層15を形成することができる。2つの光増感層23a、23bは、いずれも、真空蒸着法により形成されることができ、具体的に、真空度10−6Pa程度の真空蒸着システムの成長チャンバーにおいて、真空蒸着法で第2の光増感層23b(例えば、C60電子受容体層)を成長させ、ここで、成長速度を0.4nm/sに制御して、所望の厚さになるまで成長させた。その後、メッキしたばかりの第2の光増感層23b上に、真空蒸着方式で第3の光増感層23c(例えば、CuPcフタロシアニン銅及びC60混合層)を成長させ、ここで、成長速度を0.15nm/sに制御して、所望の厚さになるまで成長させた。その後、第3の光増感層23c上に真空蒸着法により第1の光増感層23a(例えば、CuPcフタロシアニン銅電子供与体層)を成長させ、ここで、成長速度を0.3nm/sに制御して、所望の厚さになるまで成長させた。上記に述べた光増感層23の構造に対応して、第1の光増感層23a、第2の光増感層23bの順序を交換する場合、両者を形成する順序も相応的に交換される。
【0045】
そのいずれか1つの光増感層が第1の実施形態のポリマー材料を用いる場合、前者のスピンコート法により、湿式メッキのスピンコート方式で相応するポリマー材料の光増感層を形成することができる。同様に、第1の実施形態における光増感層13が第3の光増感層23cと同様な材料を用いる場合、光増感層13も真空蒸着法で形成することができる。即ち、異なる種類の光増感層に対し、上記の2種の方法を交換して用いることができ、上記実施形態の形式に限定されるものではない。
【0046】
さらに、第1の光増感層23a上に、第1のバッファ層12を形成することができる。第1のバッファ層12(例えば、TiO、BCP、Alqなどの材料)としては、真空蒸着法で、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)薄膜を形成することができ、ここで、成長速度を0.1nm/sに制御して所望の厚さになるまで成長させた。2つのバッファ層12、15として同じ又は異なる材料を用いることができるため、PEDOT:PSSなどのポリマー導電薄膜を用いる場合、スピンコート法を採用して、透明電極12、又は光増感層13上にスピンコートすることができる。また、TiO、BCP、Alqなどの材料を用いる場合、真空蒸着法を採用して透明電極12、又は光増感層13上に形成してもよく、必要に応じて決めることができる。
【0047】
本発明の1つの好ましい実施形態において、各光増感層及び2つのバッファ層は、それぞれ、同じ種類の材料を用い、例えば、各光増感層及び2つのバッファ層は、いずれもポリマー材料を用い、又はいずれも真空蒸着法により形成された低分子化合物を用いる。1つの具体的な実施形態において、光増感層13及び光増感層23における電子供与体材料及び受容体材料は、いずれも、第1の実施形態で説明したポリマー材料を用いてもよく、2つのバッファ層は、いずれも、PEDOT:PSSなどのポリマー導電薄膜を用いている。このため、これらの層を作成する際に、いずれもスピンコート法を用いて、スピンコートにより形成することができる。このような場合に、複数の連続工程にて、いずれもスピンコート法を用いることができるため、プロセスの操作手順及び設備の稼動を簡略化することができ、さらに、製造コストを低下させることができる。同様に、もう1つの具体的な実施形態において、各光増感層及び2つのバッファ層は、いずれも、真空蒸着法により形成された化合物を用い、例えば、光増感層13及び光増感層23における電子供与体材料は、いずれも、フタロシアニン染料、ペンタセン、ポルフィリン化合物、又はシアニン染料を用いてもよく、電子受容体材料は、いずれも、テトラカルボキシルペリレン誘導体(例えば、3、4、9、10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、PTCDAと略称する)、C60、C70、ペリレン、又はペリレン誘導体を用いてもよく、2つのバッファ層は、いずれも、TiO、BCP、Alq、又はLiFなどの導電薄膜を用いることができる。このため、これらの層を作成する際に、いずれも、真空蒸着法により形成することができる。このような場合、複数の連続工程にて、いずれも真空蒸着法を用いることができる。さらに有利なことは、透明電極16及び光反射性電極11のいずれも、真空蒸着法により形成できることである。このため、プロセスの操作手順及び設備の稼動をより簡略化することに有利であり、さらに製造コストを低下させることができる。
【0048】
以下、本発明の実施形態における有機太陽電池10及び20の構成及びその製造方法、並べにその性能などについて、具体的な実施例を挙げて説明する。
【0049】
実施例1
本実施例の構造は図1を参照する。その中で、光反射性電極11はアルミ(Al)薄膜電極を用い、第1のバッファ層12はLiF薄膜を用い、光増感層13はP3HT:PC70BMポリマー混合体ヘテロ接合薄膜を用い、第2のバッファ層15はPEDOT:PSSポリマー薄膜を用いる。透明電極16はITOストライプ電極を用い、かつ、可視光領域の透過率が85%より大きい。透明絶縁層17は石英ガラスを用い、アップコンバージョン構造18はYb3+/Er3+を共ドープしたフッ化イットリウムナトリウム薄膜を用い、各層の厚さは、以下の製造方法に記載する通りである。
【0050】
上記実施例の有機太陽電池10の具体的な製造方法は、以下の通りである。
(1) 石英ガラスをサブマウントとし、スパッタリング法により、石英ガラスの一側面に、1層のITO導電薄膜をメッキした。石英ガラスの厚さは約1.1mmであり、ITO薄膜の厚さは約110nmであり、そのシート抵抗は15〜17Ω/□である。
(2) フォトリソグラフィ一法により、ITO導電薄膜を所望のストライプ電極パターンにエッチングして陽極とし、かつ、ITO電極板を製作した。
(3) ITO電極板の全体を、無水メタノール、アセトンでスクラブ洗浄し、そして無水メタノール中で1〜1.5時間の超音波洗浄を行い、その後、ITO電極板を150℃(摂氏度)の高温炉内に入れて15分間ベーキングして、ITO電極板表面の前処理を行った。
(4) スピンコート法を用いて、ITO電極板上にPEDOT:PSS薄膜を、スピンコート回転速度5000rpmで薄膜の厚さが35nm程度になるようにスピンコートし、スピンコートした後の産物をオーブンに入れて、90℃で25分間ベーキングした。
(5) P3HT:PC70BM混合薄膜を湿式で作成するための溶媒として、クロロホルム5mlを用い、ここで、P3HT及びPC70BMの質量比が1:0.8であり、P3HTのクロロホルム溶液における質量比濃度が1wt%であり、PC70BMのクロロホルム溶液における質量比濃度が0.8wt%である。配合した溶液を、マグネチックスターラーで十分に撹拌・溶解しておき、スピンコートによる湿式製膜に用いる。
(6) PEDOT:PSS薄膜上に、スピンコート法により、前記の工程(5)で配合したPC70BM溶液及びP3HT溶液をスピンコートして、P3HT:PC70BM光増感層を作成した。スピンコートの回転速度は1500rpmであり、その薄膜の厚さは150nm程度である。
(7) 工程(6)で形成した産物を真空オーブン内に入れて、80℃の温度で10分間ベーキングした後に取り出した。
(8) 工程(7)で形成した生成物を、真空度10-6Pa以上の真空蒸着室内に転送した。P3HT:PC70BM混合光増感層上に、真空蒸着法により、フッ化リチウム(LiF)薄膜を形成し、ここで、フッ化リチウム薄膜の厚さは0.5nmであり、蒸着成長速度は0.005nm/sである。
(9) LiF薄膜上に、ストライプ電極のマスク板を介して、120nm厚さのアルミニウム・ストライプ電極を真空蒸着して、ポリマー太陽電池の陰極とした。
(10) 石英ガラスのメッキされていない側の面に、ゾル−ゲル法により、Yb3+/Er3+を共ドープしたフッ化イットリウム・ナトリウム薄膜を1層形成し、最後に、構造全体において、外部バイアス電圧2.5VをITO陽極に印加し、同時に、160℃で5分間アニールすることで、本実施例の有機太陽電池10を実現した。
【0051】
実施例2
本実施例の構造は図2を参照する。その中で、光反射性電極11は酸化亜鉛(ZnO)薄膜電極を用い、第1のバッファ層12はAlq薄膜を用い、第1の光増感層23aはC60薄膜を用い、第3の光増感層23cはCuPcフタロシアニン銅及びC60により混合蒸着された混合体ヘテロ接合薄膜を用い、第2の光増感層23bはCuPcフタロシアニン銅薄膜を用い、第2のバッファ層15はPEDOT:PSSポリマー薄膜を用いる。また、透明電極16はITOストライプ電極を用い、そのシート抵抗は15Ω/□であり、かつ、可視光領域の透過率が85%より大きい。透明絶縁層17は石英ガラスを用い、アップコンバージョン構造18はYb3+/Er3+を共ドープしたフッ化イットリウムナトリウム薄膜を用い、各層の厚さは、以下の製造方法に記載する通りである。
【0052】
上記実施例の有機太陽電池20の具体的な製造方法は以下の通りである。
(1) 石英ガラスをサブマウントとし、スパッタリング法により、石英ガラスの一側の面に、ITO導電薄膜を1層メッキした。ここで、石英ガラスの厚さは1.1mmであり、サイズは37cm×48cmである。
(2) ITO導電薄膜を、フォトリソグラフィ一法により所望のストライプ電極パターンにエッチングして、太陽電池の陽極とした。
(3) スピンコート法を用いて、ITO透明電極上にPEDOT:PSS薄膜をスピンコートし、そのスピンコート産物をオーブンに入れて、85℃で25分間ベーキングした。
(4) スピンコート産物をオーブンから取り出して、真空度10−8Torr程度の真空蒸着システムの成長チャンバーに転送し、真空蒸着方式により、成長速度0.3nm/sで、厚さ20nmのCuPcフタロシアニン銅の電子供与体層を成長させた。
(5) CuPc薄膜上に、体積比1:0.5でCuPc及びC60を混合して混合蒸着層を成長させ、ここで、CuPcの成長速度は0.3nm/sであり、C60の成長速率は0.15nm/sであり、その混合蒸着層の厚さは10nmであった。このように、供与体及び受容体材料の混合ヘテロ接合構造を形成した。
(6) CuPc薄膜上に、成長速度0.4nm/sで厚さ35nmのC60電子受容体層を真空蒸着した。
(7) C60薄膜上に、成長速度0.2nm/sで厚さ5nmのトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)を真空蒸着した。
(8) Alq薄膜の上に、ストライプマスク板を介して、厚さ110nmの酸化亜鉛ストライプ電極を真空蒸着した。
(9) 石英ガラスのメッキされていない側の面に、ゾル−ゲル法により、Yb3+/Er3+を共ドープしたフッ化イットリウム・ナトリウム薄膜を1層形成し、最後に、構造全体に対し115℃で15分間アニールすることで、本実施例の有機太陽電池20を実現した。
【0053】
前記有機太陽電池において、アップコンバージョン構造を設け、該アップコンバージョン材料のスペクトル変換機能を利用して、電池に十分に吸収・利用できない光を、例えば、低エネルギーの近赤外線帯域の光子を、比較的に高いエネルギーの可視光帯域の光子に変換することで、その有機太陽電池の太陽光エネルギーに対する吸収・利用率を向上させて、光電変換性能を改善することができた。一方、アップコンバージョン構造と透明電極との間に1層の透明絶縁層を有するため、アップコンバージョン層と太陽電池の、電気学上での相対的な独立を確保することができ、アップコンバージョン材料の太陽電池の光電変換への不利な影響を避けて、有機太陽電池の電気性能を強めることができた。さらに、混合ヘテロ接合構造を利用して励起子が解離する領域を広げ、励起子の利用率を向上することで、電池の内部量子効率を向上した。有機太陽電池の製造方法において、所定の工程に準拠して各層の構造を形成することで、そのプロセスの工程が簡単になり、生産コストが低減されて、幅広い応用展望を持っている
【0054】
以上は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内で行なった任意の変更・同等の入替・改良などは、すべて本発明の保護範囲に含まれるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性電極、前記光反射性電極上に位置する光増感層、前記光増感層上に位置する透明電極を備える有機太陽電池であって、
さらに、前記透明電極上に位置するアップコンバージョン構造、及び前記透明電極と前記アップコンバージョン構造との間に位置する透明絶縁層を備え、
前記アップコンバージョン構造は、スペクトルに対してアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含み、
前記光増感層は、少なくとも、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を備えることを特徴とする、有機太陽電池。
【請求項2】
前記アップコンバージョン材料が、希土類イオンを単一ドープ又は二重ドープしたハロゲン化物、酸化物、硫化物、又はそれらの組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項3】
前記アップコンバージョン材料が、希土類イオンを単一ドープ又は二重ドープしたBaY、KZnF、NaYF、NaYb(WO、Ga−La、Y、Gd、ZrO、ZnO、BaTiO、ZrF−SiO、又はZnO−SiOであることを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項4】
前記単一ドープ又は二重ドープした希土類イオンが、Er3+、Ho3+、Tm3+、Pr3+、Yb3+/Ho3+、Yb3+/Tm3+、Yb3+/Pr3+、Yb3+/Er3+、又はTb3+/Er3+であることを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の有機太陽電池。
【請求項5】
前記アップコンバージョン構造が、前記アップコンバージョン材料の薄膜、又は酸化物薄膜を用いてアップコンバージョン材料を被覆した複合構造であることを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項6】
前記光増感層は、さらに第1の光増感層及び第2の光増感層を含み、
前記混合ヘテロ接合構造は第3の光増感層であり、かつ、前記第1の光増感層と第2の光増感層との間に挟まれ、
前記第1の光増感層は、前記混合ヘテロ接合構造における電子供与体材料を含み、
前記第2の光増感層は、前記混合ヘテロ接合構造における電子受容体材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項7】
さらに、前記光反射性電極と光増感層との間に位置する第1のバッファ層、及び前記光増感層と透明電極との間に位置する第2のバッファ層を含み、
前記第1のバッファ層、第2のバッファ層の材料は、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸複合材料、チタンの酸化物、BCP、Alq、又はLiFから選ばれたものであることを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項8】
前記光増感層の電子供与体材料は、ポリ(バラフェニレンビニレン)もしくはその誘導体、ポリチオフェン材料、ポリフルオレン材料、ポリカルバゾール材料、ポリシクロペンタジチオフェン材料、又はキノキサリン、チエノピロール及びチエノピラジンの単位を含有するポリマーから選択され、
前記光増感層の電子受容体材料はペリレンポリイミド材料であり、
前記の各バッファ層の材料は、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸複合材料であることを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項9】
前記光増感層の電子供与体材料は、フタロシアニン染料、ペンタセン、ポルフィリン化合物、又はシアニン染料から選ばれたものであり、
前記光増感層の電子受容体材料は、テトラカルボキシルペリレン誘導体、C60、C70、ペリレン、又はペリレン誘導体から選ばれたものであり、
前記の各バッファ層の材料は、チタンの酸化物、BCP、Alq、又はLiFから選ばれたものであることを特徴とする、請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項10】
互いに反対側にある第1の表面及び第2の表面を有する透明絶縁層を提供する工程と、
前記透明絶縁層の第1の表面上に、透明電極を形成する工程と、
前記透明電極上に、少なくとも、電子供与体材料と電子受容体材料とを混合してなる混合ヘテロ接合構造を含む光増感層を形成する工程と、
前記光増感層上に、光反射性電極を形成する工程と、
前記透明絶縁層の第2の表面上に、スペクトルに対しアップコンバージョン機能を有するアップコンバージョン材料を含むアップコンバージョン構造を形成して、透明絶縁層を前記透明電極とアップコンバージョン構造との間に位置させる工程と、
を含むことを特徴とする、有機太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記光増感層は、さらに第1の光増感層及び第2の光増感層を含み、
前記混合ヘテロ接合構造は第3の光増感層であり、かつ、前記第1の光増感層と第2の光増感層との間に挟まれ、
前記第1の光増感層は、前記混合ヘテロ接合構造における電子供与体材料を含み、
前記第2の光増感層は、前記混合ヘテロ接合構造における電子受容体材料を含むことを特徴とする、請求項10に記載の有機太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記3層の光増感層が、いずれも、スピンコート法、又は真空メッキ法から選ばれる1つの方法により形成されることを特徴とする、請求項11に記載の有機太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記アップコンバージョン構造は、ゾル−ゲル法により、前記アップコンバージョン材料を前記透明絶縁層の第2の表面に成長させることで形成され、又は化学共沈法により、酸化物薄膜が被覆されたアップコンバージョン材料を前記透明絶縁層の第2の表面に形成することで形成されることを特徴とする、請求項10に記載の有機太陽電池の製造方法。
【請求項14】
前記光増感層はスピンコート法により形成され、かつ、スピンコートする前に、有機溶媒を用いて電子供与体材料及び電子受容体材料を予め溶解させると共に、マグネティックスターラーで十分に撹拌して、電子供与体材料及び電子受容体材料を含有する溶液を配合した後、電子供与体材料溶液及び電子受容体材料溶液をスピンコートして、前記光増感層を得ることを特徴とする、請求項10に記載の有機太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−521634(P2013−521634A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555278(P2012−555278)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/CN2010/071056
【国際公開番号】WO2011/113195
【国際公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(511210109)海洋王照明科技股▲ふん▼有限公司 (21)
【Fターム(参考)】