説明

有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法及び装置

【課題】 有機性固形物を簡便に効率良く可溶化・低分子化し、メタンへの転換率を向上及び余剰汚泥を減容化できる嫌気性処理装置と方法を提供する。
【解決手段】 有機性固形物を含む廃棄物1の嫌気性処理装置であって、嫌気性条件下で可溶化・酸発酵を行う第1の嫌気性反応槽2と、嫌気性条件下でメタン発酵を行う第2の嫌気性反応槽5と、嫌気性を保持しつつ2の上部から5に送液する送液装置とを有し、2には、被処理物を撹拌する撹拌装置と、該撹拌装置を制御することによって、該被処理物が該2内において上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成するための制御機構とを備えることとしたものであり、前記2は、上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状を有し、前記5後段に固液分離装置が配備され、得られた固形物が濃縮された被処理物の一部を、前記2へ導入する返送配管を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難分解性の有機性固形物を含む廃棄物・排水を高効率で浄化すると共に、バイオガスによるエネルギー回収効率を向上することのできる嫌気性処理方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物の生物分解を利用した各種有機性廃棄物の処理・減容化方法は、次のような有用性を有する。すなわち、生ごみ、紙ごみ、し尿・浄化槽汚泥は、我々が日常生活を営む過程で大量に発生する代表的な有機性廃棄物であるが、水分を多く含むため、従来の焼却処分では大量の化石燃料を消費すると共に、多量の二酸化炭素を生成し、またダイオキシンなどの有害物質の発生源ともなっている。また、焼却灰を含めた廃棄物の埋め立て処分地の確保も困難になりつつある。2000年に、循環型社会基本法が施行されたことにより、生ごみ、食品製造廃棄物などの有機性固形物を含む廃棄物の処理は、焼却や埋め立てではなく、生物学的処理による資源・エネルギー回収型の処理へ移行することが有用であり、求められている。特に下水余剰汚泥や畜産廃棄物の有用な生物学的処理・減容化方法として、メタン発酵技術が知られている。この技術では、嫌気性環境条件下で複数の嫌気性細菌群の連係プレーにより、有機物をエネルギーとしてのメタンガスにまで転換することができる。また、メタン発酵は、従来焼却・埋め立て処理されてきた有機性廃棄物の処理及びエネルギー回収技術としても有効である。
【0003】
しかしながら、例えば、下水汚泥、生ゴミ、古紙・パルプ系又は茶・コーヒー抽出粕などの廃棄物は、生物分解を受け難い有機性固形物であるセルロースを多く含有し、そのような環境下でのメタン発酵においては、セルロースの加水分解・酸発酵反応が律速となっているため、30から40日程度の長い処理時間を必要とし、しかもその有機物分解率(セルロースのメタンへの転換率)が、易分解性の廃水などと比較してかなり低い(非特許文献1)。さらに、有機性固形物を含む廃棄物をメタン発酵で処理しエネルギーを安定的に回収するには、低負荷の条件で中温(35℃)メタン発酵処理を行うことになり効率に課題が有り、一方、高温(55℃)メタン発酵では安定しにくい。固形性廃棄物中の有機物を高効率かつ安定に分解し、できるだけ多くのメタンを回収すること、及び、最終廃棄物の量を減量化することが課題となっている。
【0004】
有機性固形物の嫌気性処理(メタン発酵)では、種々の技術が提案されているが、現段階においては、UASB(上向流式嫌気性スラッジブランケット)法による高濃度溶解性有機性廃水の高速処理、あるいは、高温メタン発酵法の適用によって技術革新は進歩しつつあるものの、有機性固形物の可溶化技術に関しては、依然として十分な解決には到っていない。
そのため、例えば、有機性固形物としてセルロースを多く含むような廃棄物は、メタン発酵の前処理として、酸処理あるいはアルカリ処理を行い、セルロースを低分子化する試みが為されている。しかし、これらの方法は、薬品添加が必要であり、さらに後段で中和処理などを行わなければならないため、ランニングコストが高くなるという欠点がある。
【0005】
その他に、メタン発酵の前段に生物的処理による可溶化槽を設け、可溶化処理を行うことが提案されているが、このままでは、後段のメタン発酵に投入する被処理物中に、メタン発酵の安定性を低下させる有機性固形物が含まれるため、可溶化槽の後段に有機性固形物を分離するための装置を別途設ける必要がある(特許文献1)。この固液分離装置には、膜分離装置や遠心分離装置などがあるが、これらは維持管理、例えば、膜分離装置などは膜の洗浄や交換などの維持管理が必要であり煩雑である。経済的な面でも、初期設置費用だけでなくその後のランニングコストが高い。また、可溶化槽の後段に別途有機性固形物の分離装置を設けずに、可溶化槽内で固形物の分離を行う場合(特許文献2)もあるが、これらは単に膜分離装置を可溶化槽内に浸漬したもので、上記と同様に初期設置費用だけでなくその後の維持管理によるランニングコストが高い。
【0006】
また、有機性固形物の可溶化率を向上させるため、環境試料から単離した分解微生物を用いた分解プロセスを開発する試みは古くから行われてきた。しかしながら、活性汚泥やメタン発酵のように複雑な複合微生物系においては、単離微生物を培養して添加しても、添加微生物が複合微生物系に定着することは極めて困難であることが知られている。例えば、Mladenovska Z. (非特許文献2)は、糞尿のメタン発酵において、そこに含まれるセルロースなどの繊維分の分解を促進させるためにセルロース分解菌の投与を行った。しかしながら、系外から投与した分解菌のメタン発酵系内での定着には成功しておらず、セルロース分解能を高めることができなかった。
一方、セルロースを単一基質として各種の汚泥を集積することで、各系内に存在しているセルロース分解細菌Clostridium sp.JC3株が、同集積体中で優占化し定着することを確認している(非特許文献3)。また、セルロース分解細菌Clostridium sp.JC3株は、セルロースに付着して(非特許文献4)セルロースを分解すること、さらに、滞留時間が長いほど系内での存在率が高いことが知られている。
【0007】
一般的に、高温(55℃)メタン発酵では、中温(35℃)メタン発酵よりも、処理時間が短縮できる事が知られている(非特許文献5)。これは、高温性の微生物が、中温性の微生物より数段高い代謝活性を有することと、高温条件下では、難分解性有機物である高級脂肪酸などの物質の分散性が高くなり、微生物との接触性が上がり、分解が進み易くなることによるものである。
【非特許文献1】De Baere L., Anaerobic digestion of solid waste: state-of-the-art, Water Sci. Technol. 2000;41(3):283-90
【非特許文献2】Mladenovska Z., Bioaugmentation of a mesophilic biogas reactor by anaerobic xylanolytic-and cellulolytic bacteria. Anaerobic Digestion. 2001;183-188
【非特許文献3】珠坪一晃ら,高温メタン発酵系におけるセルロース分解微生物群集の解析,生分解・処理メカニズムの解析と制御技術の開発国際ワークショップ講演要旨集,2003,29-33
【非特許文献4】K. Syutsubo,Behavior of cellulose-degrading bacteria in thermophilic anaerobic digestion process ,Water Science and Technology,Vol.52,No.1-2,P79-84
【非特許文献5】Eastman, J.A., Ferguson, J.F., Solubilization of particulateorganic carbon during the acid phase of anaerobic digestion., J. Water.Pollut.Control.Fed., 53:352-366,1981
【特許文献1】特開2002−336825号公報
【特許文献2】特開2001−314839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、生ごみ、食品製造廃棄物などの有機性固形物を含む廃棄物をメタン発酵処理する方法において、特に、嫌気性微生物の反応特性を利用して有機性固形物を簡便に効率良く可溶化・低分子化し、メタンへの転換率を向上及び余剰汚泥を減容化させることができる生物処理プロセスである二段メタン発酵処理装置と方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、メタン発酵槽内でのメタン生成効率を向上させるため、可溶化及び酸発酵を効率良く行うと共に、メタン生成菌群の資化しやすい有機酸を多く含む被処理物をメタン発酵槽に供給する第1の嫌気性反応槽、すなわち可溶化・酸発酵槽を前段に設けて嫌気性可溶化・酸発酵処理を行い、それに引き続く後段に、メタン発酵槽でのメタン発酵処理工程からなる二段発酵法によって、生物学的にメタンを回収することを特徴とする嫌気性処理方法及び装置の発明である。
すなわち、下記の構成により上記の課題を達成するものである。
本発明では、有機性固形物を含む廃棄物(以下、有機性固形廃棄物という)の嫌気性処理装置であって、嫌気性条件下で可溶化・酸発酵を行う第1の嫌気性反応槽と、嫌気性条件下でメタン発酵を行う第2の嫌気性反応槽と、嫌気性を保持しつつ第1の嫌気性反応槽の上部から被処理物を取り出して第2の嫌気性反応槽に送液する送液装置とを有し、第1の嫌気性反応槽には、被処理物を撹拌する撹拌装置と、該撹拌装置を制御することによって、該被処理物が該反応槽内において上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成するための制御機構とを備えることを特徴とする有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置としたものである。
【0010】
前記処理装置において、第1の嫌気性反応槽は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状を有するのがよく、前記第2の嫌気性反応槽の後段には、該第2の嫌気性反応槽から得られる被処理物を取り出してさらに固液分離する固液分離装置が配備され、該固液分離装置によって得られた固形物が濃縮された被処理物の一部を前記第1の嫌気性反応槽へ導入する返送配管を備えることができる。
また、前記処理装置において、第1及び第2の嫌気性反応槽は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状であり、各々の嫌気性反応槽において被処理物を撹拌する撹拌装置と、該撹拌装置を制御することによって被処理物が各々の嫌気性反応槽内において上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成するための制御機構とを備え、さらに前記第2の嫌気性反応槽の下部で固形物が濃縮された被処理物の一部を、前記第1の嫌気性反応槽へ導入する返送配管を備えることができ、前記固形物濃度分布を形成する嫌気性反応槽内には、被処理物採取口と、該採取した被処理物の固形物濃度を計測する計測装置を備えることができ、さらに前記第1の嫌気性反応槽には、被処理物を、30〜70℃の温度範囲、pH5〜8の範囲及び反応槽気相部の水素濃度を1%以下に維持する制御機構を有することができる。
【0011】
また、本発明では、有機性固形物を含む廃棄物の嫌気性処理方法であって、被処理物を嫌気性条件下で可溶化・酸発酵処理を行う第1の工程と、該第1の工程で固形物濃度が低められた被処理物を嫌気性条件下でメタン発酵処理を行う第2の工程とを有し、前記第1の工程は、被処理物の撹拌を制御することによって、前記被処理物に上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成することを特徴とする有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法としたものである。
前記処理方法において、第1の工程は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状の反応槽で行うのがよく、前記第2の工程には、得られる被処理物を、取り出して固液分離する工程をさらに有し、該固液分離する工程によって得られる固形物が濃縮された被処理物の一部を第1の工程の反応槽へ導入することができる。
【0012】
また、前記処理方法において、第1及び第2の工程は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状の反応槽で行い、かつ各々の被処理物の撹拌を制御することによって被処理物に上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成し、さらに第2の工程の反応槽の下部で固形物が濃縮された被処理物の一部を第1の工程の反応槽へ導入することができ、前記固形物濃度分布を形成する工程では、被処理物の固形物濃度分布を計測して撹拌を制御することができ、さらに、前記第1の工程は、処理条件を、温度30〜70℃、pH5〜8及び該反応槽気相部の水素濃度を1%以下に維持するように制御することができる。
【0013】
本発明において、嫌気性可溶化処埋方法は、撹拌手段により制御され、有機性固形物を自然沈降させることにより槽内下部に濃縮させ、槽内の見かけ上の処理滞留時間よりも有機性固形物の滞留時間を長く確保し、有機性固形物中のセルロースに付着し、セルロースを分解する細菌Clostridium sp.JC3株などによる生物処理により、有機性固形物の可溶化を促進させる。つまり、撹拌を制御することにより有機性固形物の可溶化に必要な時間を確保するので、可溶化・酸発酵槽内や、この後段に固液分離や膜分離などの装置を新たに設置する必要もなく、それらの維持管理をも必要としないので維持管理が簡便で、設備費や設置費用及び維持管理費用、また設置に必要な用地を必要せずより経済的である。さらに、有機性固形物の可溶化に必要な時間を確保するとともに、セルロース分解細菌などの有用細菌を槽外にフローアウトさせることを低減する効果がある。
また、メタン発酵工程からの流出成分(被処理物)の一部を、嫌気性可溶化・酸発酵処理槽に返送して二段発酵することがより好ましく、これによりメタン菌を添加することにより、濃縮された有機性固形物の酸発酵細菌による可溶化及び有機酸生成を更に促進させる。
可溶化・酸発酵槽は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状であることが好ましく、メタン発酵槽は少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法及び装置によれば、有機性廃棄物の処理の前段に嫌気性可溶化・酸発酵工程、それに引き続く後段にメタン発酵工程からなる二段発酵法によって、生物学的にメタンを回収する。有機性固形物を撹拌で制御される可溶化・酸発酵工程で簡便に効率良く可溶化・低分子化することができ、メタン菌の資化しやすい有機酸を多く含み、かつ固形物濃度が低められた被処理物を後段のメタン発酵工程に導入することによりメタン発酵を高速化させ、有機性廃棄物処理に伴い生じる有機性廃液のBODやCODを低減させると共に、バイオガスとしてメタンを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を更に詳細に説明する。
(1)処理対象廃棄物
本発明の嫌気性処理工程で処理できる有機性固形廃棄物とは、難分解性のセルロースなどを含む廃棄物である。ここで、有機性固形物とは、全廃棄物のCODcr測定値から全廃棄物の溶解性及び微細粒径の有機性固形物を含む画分(3000回転/分、10分間の遠心分離操作により沈殿しない成分)のCODcr測定値を引いたものである。例えば、下水汚泥、生ゴミ、古紙・パルプ系又は食品加工残渣である茶・コーヒー抽出粕の廃棄物や家畜糞尿などの有機性固形廃棄物を含む廃液であっても処理することができる。
【0016】
(2)前処理条件
本発明に係わる有機性固形廃棄物の処理方法では、嫌気性可溶化・酸発酵工程で撹拌により固形物の滞留時間を制御する。そこで、嫌気性可溶化・酸発酵工程の前段では、物理的破砕によって原料を微細化、均質化することが、撹拌を可能にし、さらに、後段の可溶化・酸発酵工程やメタン発酵工程での生物反応に非常に効果的である。特に、生ごみ、食品加工廃棄物、調理加工残渣、紙ごみのような固形状で大きさが種々異なる有機性固形廃棄物に対しては、石臼式破砕、ミンチ破砕、シュレッダー破砕、カッターポンプ破砕などを設けて固形物形状を微細化しておくことが好ましい。破砕工程としては、原料を粗破砕後、水中撹拌機を備えた原料調整槽で、下水、排水、水道水、水素・メタン発酵プロセス処理水などを用いて、有機物濃度(VS濃度,Volatile Solids )1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%にスラリー化して微細化、均質化しておくことが好ましい。更には、そのスラリーを石臼式摩砕機などで微細化、均質化しておくことが好ましい。こういった破砕工程に用いる機械装置としては、例えば、粗破砕機としては高速粉砕機RSCシリーズ(日本イーリング株式会社製)で粒径5〜20mmに粗破砕でき、水中ミキサSMシリーズ(新明和工業株式会社製)でVS濃度1〜15%にスラリー化と均質化ができ、石臼式摩砕機セレンディピターMKCAシリーズ(増幸産業株式会社製)を使用して、高速に粒径1〜0.1mm に湿式微細化ができる。
【0017】
(3)可溶化・酸発酵槽条件
本発明における第1の嫌気性反応槽で行われる可溶化とは、上記に記載した有機性固形物画分のCODcr濃度の40〜70%が、同じく上記に記載した溶解性及び微細粒径の固形物を含む画分のCODcr濃度に移行することである。
本発明では、撹拌方法を制御することにより、槽内の上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される有機性固形物濃度分布を形成することを特徴としているが、この撹拌手段の制御としては、有機性固形物の少なくとも40〜70%が可溶化する滞留時間を、第1の嫌気性反応槽内で維持できる撹拌方法である。
撹拌装置としては、撹拌羽根を用いた機械撹拌やガス撹拌などを用いることができる。
可溶化・酸発酵処理槽の有効槽内で、沈殿物層の流動性を維持するために、撹拌速度や頻度および撹拌羽根による強度を、処理対象原水の性状や、自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布からなる沈殿物の性状により換えることができる。
つまり、自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布からなる沈殿物の性状が固まりやすい場合などで、テーパー形状が処理槽底部にある場合には、沈殿物が堆積しやすい底部部分のみ、撹拌速度を速めたり、撹拌頻度を高めたり、撹拌羽根による撹拌強度を高くし、処理槽底部より上方の有効槽内で、撹拌を制御し自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成させることもできる。あるいは、処理対象原水の有機性固形物が固まりやすい場合などに、処理槽下部では撹拌により完全に混合し、可溶化・酸発酵処理槽の有効槽内上部に撹拌方法を制御することにより、槽内の上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される有機性固形物濃度分布を形成することもできる。
【0018】
本発明の嫌気性可溶化・酸発酵槽は、汚泥の採取口を備えるもので、そこから可溶化・酸発酵槽の上澄みの被処理汚泥を採取し、SS濃度をSVアナライザ(株式会社荏原製作所製)などを用いてオンラインでモニタリングしながら、有機性固形物の少なくとも40〜70%が可溶化する撹拌速度、頻度を制御して、又は、メタン発酵槽への被処理物投入前に撹拌の停止により撹拌手法を制御し、槽内で上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布により固形物を固液分離させ、酸発酵処理物を得ることができる。また、前記のモニタリング方法としては、嫌気性可溶化・酸発酵槽の他の汚泥採取口より、自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布により分離された固形物からなる沈殿物の状況を、光電汚濁系管汚泥計(株式会社荏原製作所製)や汚泥濃度計DSアナライザー(株式会社荏原製作所製)などの汚泥濃度計を用いて行うこともできる。
可溶化・酸発酵槽の形状を、槽の少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状にすることにより、さらに有機性固形物の濃縮、すなわち、上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布により促すことができる。
つまり、処理対象原水の性状や自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布からなる沈殿物の性状により、有効槽の高さ(液高)の10%から100%までの範囲で、好ましくは20%から80%、さらに好ましくは30%から60%で、槽の少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状をとることができる。テーパー形状の位置は、処理対象原水の性状および自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布からなる沈殿物の性状により、適宜換えることができる。テーパー形状の角度は、上部から下部に向かって、処理装置底部からの垂線(重力方向)に対し処理槽の内側の方向に20°〜70°の範囲でしぼるにことができる(図13)。また、処理対象原水の性状や自然沈降により上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布からなる沈殿物の性状により、テーパー形状の角度を上記範囲で適宜換えることができる。
【0019】
本発明の少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状である槽の類似例として、溶解性有機物を高濃度に含む廃水の処理に適用されるメタン発酵プロセスUASB(上向流嫌気性汚泥床:Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法の反応槽などが挙げられる。UASB法では、メタン発酵が良好に行われている場合にはメタン発酵汚泥床から活発なガスが生じ、上向流とメタンガスの気泡上昇とがあいまって、槽内が激しく撹拌される。これに対し、可溶化・酸発酵槽に同様の形状の反応槽を適用した場合には、メタン発酵と異なり、活発なガスは生じないため、上向流のみでは栓流状態になり、溶解性及び微細粒径の固形物を含む画分の可溶化・酸発酵処理水への効率的な移行は期待できない。従って、可溶化・酸発酵槽の形状としてUASB法の反応槽は容易に転用できない。ちなみに、可溶化・酸発酵槽では、メタン発酵とは違い活発なガス発生がないのは、次に示す理由による。
【0020】
例に、嫌気性条件下でグルコース1モルからメタンが生成されるメタンガス量と、酸発酵により有機酸を生成したときに生成する二酸化炭素又は水素の発生量をモルで比較すると、UASBのようなメタン発酵では、メタン3モルと炭酸ガス3モル(下式a)が得られるのに対し、グルコース1モルが全て酢酸(下式b)又は乳酸(下式c)になった場合にはガス発生は無く、また、プロピオン酸(下式d)の場合は炭酸ガス2/3モルであり、さらにまた、酪酸生成(下式e)の場合でも炭酸ガス2モルと水素1モルと、いずれも発生ガス量はメタン発酵に比べて少ない(下式e)。従って、単に一部のUASBのような、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状を、可溶化・酸発酵に転用しても、本発明の効果は得られない。
12 →3CH+3CO ・・・(a)
12 →3CHCOOH ・・・(b)
12 →2CHCHOHCOOH・・・(c)
12 →2/3(2CCOOH+CHCOOH+CO+HO)・・・(d)
12 →CCOOH+2CO+2H・・・(e)
【0021】
本発明に係わる有機性廃棄物処理の可溶化・酸発酵工程では、反応温度30〜70℃で行うことが好ましい。特に、有機性廃棄物の種類によっては、可溶化段階が反応律速となりやすいことから、反応温度45〜70℃の高温反応で行うことがより好ましい。これは、高温反応による熱処理と好熱性微生物による可溶化が同時に達成され、嫌気的な可溶化・酸発酵工程が可能となる。
本発明では、酸発酵細菌による有機性固形廃棄物の嫌気性可溶化・酸発酵処理工程において、可溶化・酸発酵槽内のpHを5〜8、好ましくは6.5〜7.5の範囲、特に酸発酵過程で発生する水素ガスを消費し、可溶化・酸発酵槽内の水素濃度を制御するためのメタン生成菌の生育及び活性を維持できるpH6.5〜7.5の範囲に制御することが好ましい。
【0022】
嫌気性酸発酵細菌による可溶化・酸発酵の進行に伴い、低分子化された被処理物のpHは低下する。有機性高分子物質含有廃液のpHが6.5以下に低下すると、有機性固形廃棄物の代表的なセルロース性固形物の分解細菌の分解活性が低下し、可溶化・酸発酵が進行しにくくなる。また、pH6.5以下の条件では、酢酸を始めとする種々の有機酸が産生されるが、低分子化の際に水素ガスが発生し、嫌気性酸発酵細菌の分解活性を抑制する。そこで、メタン発酵槽の汚泥を返送することで、可溶化・酸発酵槽内の汚泥pHを5〜8に、より好ましくはpH6.5〜7.5に維持することができる。また、可溶化・酸発酵槽の気相部の水素濃度は1%以下、より好ましくは0.6%以下であることが望まれるが、メタン発酵処理汚泥中のメタン生成菌を、可溶化・酸発酵槽内に返送することにより制御することができる。好ましくは、第2の嫌気性反応槽の下部から、もしくは第2の嫌気性反応槽の被処理液を固液分離した後の濃縮汚泥を、第1の嫌気性反応槽の下部へ返送することが望ましい。
従って、汚泥返送量を制御するため、可溶化・酸発酵槽内気相部に水素ガス濃度を測定する採取口を設けることが望ましい。
また、この返送により、メタン発酵処理汚泥を再度可溶化・酸発酵処理することで、余剰汚泥の減容化が期待できる。
【0023】
(4)メタン発酵槽条件
本発明に係わる有機性固形廃棄物処理の第2の嫌気性反応槽で行われるメタン発酵工程では、反応処理形式として、浮遊床型、固定床型、流動床型、UASB型のいずれにおいても適用可能であるが、可溶化・酸発酵工程から供給される原料性状に応じて選択する必要がある。
メタン発酵工程での運転方法に関しては、発酵温度は30〜70℃、好ましくは50〜65℃の高温性メタン発酵領域であり、最も好ましくは50〜60℃で行う。これは、多くの高温性メタン生成菌群やその他の嫌気性酸発酵細菌群の生育至適温度がこれらの範囲内にあるためである。なお、メタン発酵槽内においては、中性脂肪や高級脂肪酸は温度が高いほうがより分散性が増すため、油脂成分が多く含まれる廃棄物原料を適用する場合には、50〜65℃の高温メタン発酵方法を選択することが好ましい。また、メタン発酵時の好適なpHはpH 5.0〜 8.5、最も好ましくはpH 6.5〜8.0である。
【0024】
また、メタン発酵工程の後段にメタン発酵槽からの流出成分の一部を固液分離処理し、可溶化・酸発酵工程に返送することができる。固液分離方法として、流出した嫌気汚泥を重力沈降濃縮、あるいは機械濃縮の手法として遠心脱水機、スクリュープレス式脱水機などの汚泥用脱水機などが適用できる。また、メタン発酵の後段に別途固液分離装置を設置しない場合は、メタン発酵槽の少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状にし、撹拌を制御することによりメタン発酵汚泥を槽内での上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成させることにより、反応槽の下部に濃縮することもできる。また、さらに、嫌気性処理工程より流出したメタン発酵汚泥などの嫌気汚泥をそのまま返送してもよい。
【0025】
(5)メタン発酵後のその他の処理工程
本発明の嫌気性可溶化・酸発酵処理を行い、それに引き続く後段のメタン発酵槽でのメタン発酵処理工程からなる二段発酵法の後段に、窒素及びリン除去工程として、RF型アンモニア接触分解装置(荏原製作所製)やバイオエルグ(荏原製作所製)などを備えることもできる。
【0026】
次に、図面を用いて本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明に係わる有機性固形廃棄物の可溶化・酸発酵及びメタン発酵からなる二段発酵装置の第一の形態を示すフロー構成図である。図1において、有機性固形廃棄物処理の前段として、嫌気性反応槽の少なくとも一部が、上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状である可溶化・酸発酵槽2と、それに引き続く後段としてメタン発酵槽5が設けられていることが特徴である。
図2は、本発明に係わる有機性固形廃棄物の可溶化・酸発酵とメタン発酵からなる二段発酵装置の第二の形態を示すフロー構成図である。図2において、有機性固形廃棄物処理の前段として、嫌気性反応槽の少なくとも一部が、上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状である可溶化・酸発酵槽2と、それに引き続く後段としてメタン発酵槽5が設けられている。後段のメタン発酵槽5から排出される被処理物を、固液分離装置8により固液分離し、固液分離処理濃縮液を、可溶化・酸発酵槽2の下部に返送9することが特徴である。
【0027】
図3は、本発明に係わる有機性固形廃棄物の可溶化・酸発酵及びメタン発酵からなる二段発酵装置の第三の形態を示すフロー構成図である。
図3において、有機性固形廃棄物処理の前段として、嫌気性反応槽の少なくとも一部が、上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状である可溶化・酸発酵槽2と、それに引き続く後段として、可溶化・酸発酵槽2と同じ形態である嫌気性反応槽下部が、テーパーの形状をしたメタン発酵槽5が設けられている。後段のメタン発酵槽5の底部から排出される沈降濃縮された汚泥(被処理物)を、可溶化・酸発酵槽2の下部に返送9することが特徴である。
図4は、本発明に係わる有機性固形廃棄物の可溶化・酸発酵・メタン発酵からなる二段発酵装置の第四の形態を示すフロー構成図である。
図4において、有機性固形廃棄物処理の前段として、嫌気性反応槽の少なくとも一部が、上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状である可溶化・酸発酵槽2と、それに引き続く後段としてメタン発酵槽5が設けられている。後段のメタン発酵槽5で発生するガス7を採取し、これを可溶化・酸発酵槽2の底部に送り込み10排気することで、可溶化・酸発酵槽2の槽内処理物を撹拌することが特徴である。
【0028】
図5は、本発明に係わる有機性固形廃棄物の可溶化・酸発酵・メタン発酵からなる二段発酵装置の第五の形態を示すフロー構成図である。
図5において、有機性固形廃棄物処理の前段として、嫌気性反応槽の少なくとも一部が、上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状である可溶化・酸発酵槽2と、それに引き続く後段としてメタン発酵槽5が設けられている。後段のメタン発酵槽5から排出される被処理物を、硝化脱窒素処理する工程である硝化脱窒素装置11が設けられていることが特徴である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
実施例1
コーヒー粕を原水とした連続高温メタン発酵実験
撹拌羽根による機械撹拌機構を有し、底部がテーパー状の有効容積2Lの可溶化・酸発酵槽と、円筒状の有効容積20L(酸発酵槽とメタン発酵槽のHRT比を1:10とした。)の完全混合型メタン発酵槽からなる二段メタン発酵装置を用い、コーヒー粕を原水として連続処理実験を行った。装置のフローシートを図6に、原水組成を表1に示す。酸発酵槽では、底部及び上部の2ヶ所から定期的に槽内汚泥を採取し、上部の汚泥濃度が50〜63g/L、底部の汚泥濃度が70〜160g/Lとなるように撹拌羽根の回転数を調整した。原水は、1日1回原水貯留槽からチューブポンプを用いて酸発酵槽の底部に一定量供給した。酸発酵槽上部からチューブポンプを用いて被処理物を1日1回一定量引き抜き、メタン発酵槽へ供給した。同量の原水を原水貯留槽からチューブポンプを用いて酸発酵槽の底部に供給した。酸発酵槽のpHは7.5に調整した。
【0030】
【表1】

【0031】
比較として、図7に示した同一の二段メタン発酵装置において、酸発酵槽を完全混合型で運転した比較例1、及び、図8に示した完全混合型メタン発酵装置からなる比較例2を用いて、同一の原水について連続処理実験を行った。実施例1及び比較例1の二段メタン発酵装置においては、実験開始当初は酸発酵槽の水理学的滞留時間(HRT)が5日、メタン発酵槽のHRTが50日となるように原水供給量を設定した。その後、実施例1のメタン発酵槽におけるメタン生成速度が安定したことが確認された後、徐々にHRTを短縮した。比較例1の装置では、実施例1の装置と同時にHRTを短縮した。比較例2の完全混合型メタン発酵装置においては、HRTが二段メタン発酵装置の酸発酵槽HRTとメタン発酵槽のHRTとを合計した長さ(日)になるように設定した。その後、二段メタン発酵装置のHRT短縮にあわせてHRTを短縮した。
【0032】
発生ガス中のメタンガス及び水素ガス組成の分析には、GLサイエンス製GC323型ガスクロマトグラフ(TCD検出器、電流値50mA、分離カラムUNibeads60/80、カラム温度150℃、アルゴンガス1.3kgf/cm)を用いた。
揮発性脂肪酸(Volatile FattyAcid,VFA)は、エルマ光学製ERC-8710高速液体クロマトグラフ〔検出器RI、カラムShodex Ionpack KC-811(昭和電工株式会社製)、カラム温度60℃、移動相0.1%りん酸〕で分析した。CODcrの分析は、米国のStandard Methods(18thEdition,1992年)による閉鎖型還流法で行った。pH測定には、東亜電波工業(株)製のpH複合電極GST-5311C及び自動適定装置AUT-301型を用いた。TS(Total Solids)、VS(Volatile Solids)、SS(Suspended Solids)及びVSS(VolatileSuspendedSolids)の分析については下水試験方法(1984年版)に準じた。
【0033】
実施例1では、酸発酵槽HRT2日、メタン発酵槽HRT20日で安定的なメタン生成が達成され、メタン発酵槽における有機酸の蓄積も生じなかった。一方、比較例1では、酸発酵槽HRT3日、メタン発酵槽HRT30日に設定した期間の後半から有機酸の蓄積が観察され始め、酸発酵槽HRT2日、メタン発酵槽HRT20日ではメタンガス生成が急激に悪化した。また、比較例2では、メタン発酵槽HRT44日に設定した直後からメタン生成量が低下した。実施例1のメタンガス生成速度が安定した期間の平均的な処理結果、及び同期間の比較例1及び比較例2の平均的な処理結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例2
試料には、コーヒー粕、緑茶粕及び余剰汚泥からなる有機性固形廃棄物含有原水(表3)と、同原水を重炭酸ナトリウムでpH7に調整したものの2種類の試料を用いた。
【0036】
【表3】

【0037】
嫌気性処理装置には、底部がテーパー状の有効容積5Lの可溶化・酸発酵処理槽(図9)を用いた。撹拌羽根による機械撹拌機構を有し、槽内の上部から下部に向かって垂直方向に有機性固形物が濃縮される濃度分布を形成するように、撹拌速度10回転/分で制御し連続で撹拌した。
上記2種類の試料の各有機性固形物画分CODが、溶解性及び微細粒径の有機性固形物を含む画分のCOD濃度にどの程度移行するかを調査するため、55℃で種汚泥を用いずにバッチ式で可溶化実験を行い撹拌の制御による効果を確認した。
【0038】
比較例3として、上記と同じ2種類の試料について、有機性固形物の濃度分布が形成しないように、完全混合するための図10の有効容積5Lの可溶化・酸発酵処理槽を用いて、可溶化実験を行った。
pH7の調整試料については、実施例2及び比較例3共に、可溶化実験実施中にpHを経時的にモニタリングして、重炭酸ナトリウムを用いてpH7±0.2に(1〜2回/d)調整した。
有機性固形物からの溶解性画分及び微細粒径の有機性固形物を含む画分への可溶化の作用を調査するため、各槽の上部より各試料(処理汚泥)を120mL採取し、CODを測定した。
【0039】
尚、有機性固形物画分、溶解性画分、微細粒径の有機性固形物を含む画分のCOD値は、下記の方法で求めた。
溶解性画分COD:全有機性固形廃棄物試料を15000回転/分、10分間で遠心分離処理した上澄部をさらに孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過したろ液のCOD測定値。
微細粒径の有機性固形物を含む画分COD:全試料を3000回転/分、10分間で遠心分離処理した上澄みのCOD測定値から溶解性COD値を引いた値。
有機性固形物画分COD:全有機性固形廃棄物試料のCOD測定値から溶解性
画分COD測定値及び微細粒径の有機性固形物を含む画分COD値を引いた値。
CODの分析は、米国のStandard Methods (18thEdition,1992年)による閉鎖型還流法で行った。
【0040】
結果は、次のとおりである。
経時7日の可溶化状況では、撹拌を制御しながら処理した本発明の実施例2の撹拌制御系(pH7調整)で、試料中の有機性固形物画分CODが、溶解性画分及び微細粒径の有機性固形物を含む画分のCODへ移行した比率、すなわち可溶化率(下式a)が70%と高く、比較例3である底部が平面の有効容積5Lの可溶化・酸発酵処理槽で完全混合処理した対照系完全混合系(pH7調整)より23%可溶化率を向上させることができた(図11)。さらに、撹拌制御系(pH7調整)で得られた可溶化液中の微細粒径の有機性固形物を含む画分CODが、比較例3の対照系完全混合系(pH7調整)より4倍多く得ることができることが示された(図12)。すなわち、本発明の方法で、可溶化・酸発酵処理をすることで、有機性固形物を可溶化させ、溶解性及び微細粒径の有機性固形物を含む画分のCOD濃度へ移行させることができることが確認された。
【0041】
従来、固形性の有機物をメタン発酵処理する場合、有機物中の分解し易さ、逆にいえば、し難さの違いにより酸発酵つまり酸生成速度が異なり、メタン生成菌に安定した酸を供給することができず、さらに、急激な酸生成が起きた場合には、メタン発酵汚泥のpHの低下を引き起こすため、メタン発酵の運転処理は不安定である。しかし、この溶解性及び微細粒径の有機性固形物である酸発酵処理液をメタン発酵槽に投入することができれば、メタン発酵槽内での酸発酵を制御でき、また、既に酸発酵処理により得られた有機酸をメタン生成菌が資化することができるので、メタン生成菌の活性を維持しやすい、つまり、安定運転が可能となる。
【0042】
【数1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の二段発酵装置の第一の形態を示すフロー構成図。
【図2】本発明の二段発酵装置の第二の形態を示すフロー構成図。
【図3】本発明の二段発酵装置の第三の形態を示すフロー構成図。
【図4】本発明の二段発酵装置の第四の形態を示すフロー構成図。
【図5】本発明の二段発酵装置の第五の形態を示すフロー構成図。
【図6】本発明の実施例1に用いた装置のフロー構成図。
【図7】比較例1に用いた装置のフロー構成図。
【図8】比較例2に用いた装置のフロー構成図。
【図9】本発明の実施例2に用いた可溶化・酸発酵槽の構造説明図。
【図10】本発明の比較例3に用いた可溶化・酸発酵槽の構造説明図。
【図11】実施例2及び比較例3における有機性固形物からの可溶化率の変化を示すグラフ。
【図12】実施例2及び比較例3における経時7日の各可溶化状況を示すグラフ。
【図13】本発明で用いる可溶化・酸発酵槽のテーパー形状を示す説明図。
【符号の説明】
【0044】
1:原水、2:可溶化・酸発酵槽、3:バイオガス、4:被処理物送液ライン、
5:メタン発酵槽、6:処理水、7:バイオガス、8:固液分離装置、9汚泥返送ライン、10:バイオガス循環ライン、11:硝化脱窒素装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性固形物を含む廃棄物の嫌気性処理装置であって、嫌気性条件下で可溶化・酸発酵を行う第1の嫌気性反応槽と、嫌気性条件下でメタン発酵を行う第2の嫌気性反応槽と、嫌気性を保持しつつ第1の嫌気性反応槽の上部から被処理物を取り出して第2の嫌気性反応槽に送液する送液装置とを有し、第1の嫌気性反応槽には、被処理物を撹拌する撹拌装置と、該撹拌装置を制御することによって、該被処理物が該反応槽内において上部から下部へ向っての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成するための制御機構とを備えることを特徴とする有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項2】
前記第1の嫌気性反応槽は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状を有することを特徴とする請求項1に記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項3】
前記第2の嫌気性反応槽の後段には、該第2の嫌気性反応槽から得られる被処理物を取り出してさらに固液分離する固液分離装置が配備され、該固液分離装置によって得られた固形物が濃縮された被処理物の一部を、前記第1の嫌気性反応槽へ導入する返送配管を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の嫌気性反応槽は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状であり、各々の嫌気性反応槽において被処理物を撹拌する撹拌装置と、該撹拌装置を制御することによって、被処理物が各々の嫌気性反応槽内において上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成するための制御機構とを備え、さらに、前記第2の嫌気性反応槽の下部で固形物が濃縮された被処理物の一部を、前記第1の嫌気性反応槽へ導入する返送配管を備えることを特徴とする請求項1に記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項5】
前記固形物濃度分布を形成する嫌気性反応槽には、被処理物採取口と、該採取した被処理物の固形物濃度を計測する計測装置を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項6】
前記第1の嫌気性反応槽には、被処理物を、30〜70℃の温度範囲、pH5〜8の範囲及び反応槽気相部の水素濃度を1%以下に維持する制御機構を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項7】
有機性固形物を含む廃棄物の嫌気性処理方法であって、被処理物を嫌気性条件下で可溶化・酸発酵処理を行う第1の工程と、該第1の工程で固形物濃度が低められた被処理物を嫌気性条件下でメタン発酵処理を行う第2の工程とを有し、前記第1の工程は、被処理物の撹拌を制御することによって、前記被処理物に上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成することを特徴とする有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項8】
前記第1の工程は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状の反応槽で行うことを特徴とする請求項7に記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項9】
前記第2の工程には、得られる被処理物を取り出して固液分離する工程をさらに有し、該固液分離する工程によって得られる固形物が濃縮された被処理物の一部を、前記第1工程の反応槽へ導入することを特徴とする請求項7又は8に記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項10】
前記第1及び第2の工程は、少なくとも一部が上部から下部に向かって徐々に狭くなるテーパー形状の反応槽で行い、かつ各々の被処理物の撹拌を制御することによって被処理物に上部から下部へ向かっての垂直方向に濃縮される固形物濃度分布を形成し、さらに、第2の工程の反応槽の下部で固形物が濃縮された被処理物の一部を、第1工程の反応槽へ導入することを特徴とする請求項7に記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項11】
前記固形物濃度分布を形成する工程では、被処理物の固形物濃度分布を計測して撹拌を制御することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項12】
前記第1の工程は、処理条件を、温度30〜70℃、pH5〜8及び反応槽の気相部の水素濃度を1%以下に維持するように制御することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項記載の有機性固形廃棄物の嫌気性処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−289946(P2007−289946A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90092(P2007−90092)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】国などの委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構業務委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】