説明

有機性廃水の嫌気性処理装置

【課題】 アルコールを主成分とし、全有機物に対するSSが少ない有機性廃水の安定かつ高性能なメタル発酵処理装置を提供する。
【解決手段】 廃水の全CODCrに対して、CODCr換算でアルコール成分が60%以上、SSが1%未満の有機性廃水を、廃水調整槽と1槽式のメタン発酵槽とで処理する装置において、該メタン発酵槽の流入水及び流出水のpH等の水質を測定する測定計を備え、また、ガス中のCO濃度の測定計を備え、これらの測定計からの測定値に基づいて、M−アルカリ度調整剤添加量を制御する制御装置を備え、該制御装置からの信号に基づいて、M−アルカリ度調整剤を被処理水流入部へ添加する添加装置を有する有機性廃水の嫌気性処理装置としたものであり、前記メタン発酵槽は、上向流嫌気性汚泥床又は膨張式汚泥床を用いるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品工場、化学工場、紙パルプ工場などの各種工場より排出される有機性廃水等の中で、蒸留廃水等のアルコールを主成分とし全有機物に対するSSが極端に少ないものを対象とし、この廃水を処理するメタン発酵処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機性廃水をメタン発酵により分解して処理するメタン発酵処理法は、活性汚泥法等の好気性処理に比べると曝気のためのエネルギーが不要であり、余剰汚泥が少なく、発生するバイオガスからエネルギーを回収できるため、省エネルギーの点で優れている。しかし、メタン生成菌は、増殖量が少なく沈降性が悪いので、微生物が処理水と共に流出しやすい。そのため、メタン発酵処理に用いる発酵槽内の微生物濃度を上げることが困難であった。さらに、コストや敷地等の面で問題点を抱えていた。
微生物濃度の高い高効率型のメタン発酵槽として、上向流嫌気性汚泥床法(Up-flow Anaerobic Sludge Blanket Process;以後「UASB」と記す)や膨張式汚泥床法(Expanded Granular Sludge Blanket ;以後「EGSB」と略す)がある。これは近年普及してきた方法で、メタン菌等の嫌気性菌をグラニュール状に造粒化することにより、メタン発酵槽内のメタン菌の濃度を高濃度に維持できるという特徴があり、その結果、廃水中の有機物の濃度が相当高い場合でも効率よく処理できる。
【0003】
糖分やたんぱく質からなる廃水においては、高効率型の処理を行う方法として、メタン発酵の前段に酸発酵を行う2相式(酸発酵−メタン発酵)が一般的である。この2相式の場合は、廃水が酸発酵槽にて有機物が低分子化し、酢酸などの揮発性有機酸に変換すると共に、炭酸ガスも生成する。この酸発酵槽では、有機酸生成でpHは減少するために、アルカリでpHを概ね6〜7の範囲とし、アルカリの節減のために、メタン発酵槽からメタン発酵処理水の一部を、pH調整用のアルカリの補給も兼ねて循環している。酸発酵槽流出液が、メタン発酵槽の原水となる。一般的には、UASB処理を行うときには、酸発酵液は、CODCr 5000mg/Lで、M−アルカリ度の範囲は、CaCO換算で2000mg/L以上はある。すなわち、酸発酵液のアルカリ度は、CODCrの40%〜150%値の範囲に通常なっている。
【0004】
酸発酵液は、メタン発酵槽で処理され、有機酸はメタンガスと炭酸ガスに分解され、バイオガスとして排出される。上記の酸発酵処理水がメタン発酵処理されると、アルカリ度は上昇すると共に、pHも上昇する。これは、有機酸が分解することで、水素イオンがメタンに変換し、水素イオン濃度が減少すること、有機酸が減少することによる。なお、アルカリ度は、液中のpHを4.8に下げるときの酸の必要量である。
汚泥や畜産廃棄物などの有機性廃棄物等を、汚泥の減容化とバイオガス発生を目的として、嫌気タンクの一過性の嫌気性消化槽で処理しているが、この場合は、供給汚泥濃度が少なくとも1%以上あり、消化槽で分解する間でM−アルカリ度は数千mg/Lとなり、pHは概ね8.5以上9程度まで上昇するし、緩衝性の非常に高いケースの処理として上げられる。
【0005】
しかし、アルコールが主成分である蒸留廃液をメタン発酵する場合は、上記 糖や有機酸、汚泥などとは全く異なるため、この廃水の処理にあたっての操作条件は、特異的な面が多い。この廃水の排出工程では、炭酸ガスが蒸留過程で大気中に放出されるために、pH緩衝性の少ない廃水となる。この廃水処理のメタン発酵処理の例は極めて少なく、今までの文献にも、この廃水を処理した例は見当たらない。本発明者らは、メタノ−ルが主成分である紙パルプ工場廃水のUASB処理を行ったところ、UASB反応器で今までの糖質や有機酸が主成分の廃水処理とは異なる現象を観察した。
第1には、通常メタノサルシナ属のメタン菌により、直接メタンと炭酸ガスに分解される。この過程で式(3)に示すように、中性のメタノールから弱酸の炭酸が生成し、メタン発酵槽内のpHが低下することである。
4CHOH→3CH+HCO+HO・・・ 式(3)
第2には、メタノール基質でメタン発酵を行った場合、メタン発酵菌に対して栄養塩の不足等のストレスが与えられると、メタノールから酢酸が生成され、反応器内では酢酸生成によるpH低下がおこり、処理が極めて不安定となったことである。
【0006】
すなわち、紙パルプ工場廃水等のpH緩衝性の少ない有機性廃水での従来型UASB法には、以下に示すような課題がある。
(1)メタン発酵槽流入水のpHを、メタン発酵に適しているといわれる6.5
8.0にpH調節すると、 pH緩衝性の少ない廃水であるため、分解生成物であ
る二酸化炭素や生成した有機酸により、発酵槽内のpHは、メタン発酵に阻害を
及ぼす6.5以下、極端な場合は6以下まで低下する。
(2)過大なアルカリ剤の添加は、運転コストが高額になる。
(3)メタン発酵槽の水深が深いと、槽内底部では溶解する二酸化炭素が増加し、大気圧条件で測定される処理水pHに比べて、水深10mのメタン発酵槽の底部pHは0.3も低くなる。その結果、槽内のpH低下でメタン菌の活性が大幅に低下し、除去率が低く維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平5−67358号公報
【特許文献2】特開平7−136694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記既知事実に鑑み、食品工場、化学工場、紙パルプ工場などの各種工場より排出される有機性廃水の中でも、特異的な蒸留廃水等のアルコールを主成分とし、全有機物に対するSSが極端に少ない有機性廃水の安定かつ高性能なメタン発酵処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、廃水の全CODCrに対して、CODCr換算でアルコール成分が60%以上、SSが1%未満の有機性廃水を処理する嫌気性処理装置において、廃水調整槽と1槽式のメタン発酵槽とを有し、該メタン発酵槽には、被処理水の流入部と処理水の流出部とを有し、該流入部には、pHが測定できる水質測定計を備え、該流出部には、pH、M−アルカリ度及び有機酸濃度が各々測定できる水質測定計を備え、該メタン発酵槽からのバイオガス流出部には、ガス中の炭酸ガス(CO)濃度の測定計を備え、前記水質測定計及び濃度測定計からの測定値に基づいて、M−アルカリ度調整剤添加量を制御する制御装置を備え、該制御装置からの信号に基いて、M−アルカリ度調整剤を被処理水流入部へ添加する添加装置を有することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置としたものである。
前記嫌気性処理装置において、1槽式のメタン発酵装置は、上向流嫌気性汚泥床又は膨張式汚泥床を用いた発酵槽を用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機性廃水の嫌気性処理装置によって、メタン発酵槽流入水に制御されたM−アルカリ度調整剤を添加することにより、メタン発酵槽内のpHを適正範囲内に収め、高い負荷及び除去率を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の嫌気性処理装置の一例を示すフロー構成図。
【図2】実施例で用いた運転日数とCODCr容積負荷の関係を示すグラフ。
【図3】(a)、(b)は実施例1の処理経過を示すグラフ。
【図4】(a)、(b)、(c)は実施例2の処理経過を示すグラフ。
【図5】(a),(b)、(c)は実施例3の処理経過を示すグラフ。
【図6】(a),(b)、(c)は実施例4の処理経過を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、メタン発酵槽内で生成した二酸化炭素及び有機酸によるpH低下を最小限にとどめ、安定したメタン発酵処理を行うことにあり、メタン発酵槽内へのM−アルカリ度調整剤の添加量を最小限とする装置である。
つまり、二酸化炭素及び有機酸生成によるpHの低下、さらに、pH低下によるメタン発酵阻害が生じる悪循環を止めることができ、メタン発酵装置を停止することなく、運転を継続することができる。
本発明は、メタン発酵槽流出水のM−アルカリ度を有機酸濃度で補正した有効M−アルカリ度を算出し、少なくとも設定された有効M−アルカリ度以上の値となるように、メタン発酵槽流入水へM−アルカリ度調整剤を制御して添加することとした有機性廃水の嫌気性処理方法である。前にも述べたように、二酸化炭素及び有機酸によるpH低下を加味して有効M−アルカリ度という指標を用いる。
有効M−アルカリ度(mg/L)=M−アルカリ度(mg/L)−[有機酸濃度(mg/L)×0.83]・・・式(1)
【0013】
式(1)が理論的であるが、便宜上係数0.83を1として、廃水によっては以下の式(2)でも代用でき、実用上問題はない。実際は、反応が起こるメタン発酵槽内のM−アルカリ度及び有機酸濃度の測定が好ましいが、メタン発酵槽流出液の水質データで実用上支障はない。
有効M−アルカリ度(mg/L)=M−アルカリ度(mg/L)−[有機酸濃度(mg/L)] ・・・式(2)
また、本発明は、メタン発酵槽流出水のpH及び発生ガス中の二酸化炭素分圧Pcoより、アルカリ度に関係する有効K値を(3)式よりもとめる。
有効K値=7.36×10pH-6×分圧Pco ・・・式(3)
【0014】
メタン発酵が安定するためには、少なくとも該有効K値として1以上が必要となることが実験的に明らかとなっている。この方法は、pHと二酸化炭素の自動測定から、操作パラメーターである有効K値が精度よく連続測定できる特徴がある。実験的には処理の安定のためには、K値が1以上であることが必要であることが判明した。
さらに、本発明は、液状のアルカリを用いて、メタン発酵槽流入水のpHを低くても8.5以上とすることとし、この操作方法と前記した本発明の方法とを併用する方法である。
複数の方法を組み合わせてアルカリ剤の供給量を決定することで、適切なアルカリ剤の供給量とすることができ、過剰なアルカリ剤の供給によるランニングコストの増加を抑えることができるだけではなく、Ca含有のアルカリ剤を使用した場合に生じるスケールの問題を回避できる。
【0015】
本発明の対象とする廃水は、食品工場、化学工場、紙パルプ工場などの各種工場より排出される有機性廃水であるが、そのなかでも蒸留廃水等で、有機酸ではなくアルコールが主成分であり、全有機物に対するSSが極端に少ない有機性廃水が対象となる。具体的には、廃水の全CODCrに対してアルコール成分がCODCr換算60%以上、好ましくは70%以上、SSがCODCr換算で1%未満、CaCO換算のM−アルカリ度が10%以下であり、アルコールはメタノール、エタノール、イソプロパノール等炭化水素の水素原子を水酸基で置換した化合物で、一般式R−OHで表される。一価アルコール、二価アルコール、三価アルコールがあるが、本発明ではC以下の水に溶解するものが対象となる。特に、このような廃水には、有機酸は全CODCrに対して10%未満である。
なお、汚泥や畜産廃棄物などの有機性廃棄物は、アルコール成分はCODCr換算で70%未満で、SSがCODCr換算で1%以上であり、このような有機性廃棄物は、アルコール以外の物質によりメタン発酵処理によりpH緩衝性が増加し、また、CaCO換算のM−アルカリ度が10%より多いと廃水中のアルカリ度でpHが維持でき、本発明のような、M−アルカリ度調整剤の添加を制御する必要がないため、本発明では前記のように、本発明を適用すべき有機性廃水を規定した。
【0016】
本発明におけるメタン発酵処理とは、溶解性物質を嫌気処理する上向流汚泥床法(UASB)、流動床法(EGSB)、固定床法などの高負荷嫌気性処理や、嫌気性消化槽(AD)方式であるが、いずれの方式でも良い。
メタン発酵装置が、GSS(ガスとグラニュールと処理液を分離するセパレーター)を多段に有し、外部壁面とGSSの角度が30度以下で且つ、各段のバイオガスを、水封槽を経由して排出する水封槽を外部に取り付けた多段UASB型あるいはEGSB型の反応器では、バイオガスを各GSSから排出できることで、バイオガスの成分から各GSSの下部の反応状況が判断される。特に、前記した本発明のように、バイオガスで処理状況がモニターできるので、アルカリ度の調整も容易となる。
【0017】
図1は、メタン発酵処理方法を実施するのに好ましい本発明の上向流嫌気性処理装置(UASB)の一形態の概要を例示したフロー構成図である。
原水送液管が連通し、上下を閉塞した筒状のメタン発酵槽2を設けてある。メタン発酵槽2内部の左右両側壁には、それぞれに一方の端部を固定し、他方の端部を反対側の側壁方向に向かって下降しながら延ばしているGSS4を設けてある。GSS4は、上下方向に2箇所左右交互に設けてある。反応が開始すると発生ガスが集まる気相部には、外部と通じる発生ガス回収配管の排出口を設けてある。
なお、気相部から接続されている発生ガス回収配管の吐出口は、水を充填した水封槽7の水中内で開口している。開口位置は、水圧が異なる適宜な水深位にあり、水封槽7には発生ガス回収配管から吐き出されたガス流量を測定するガスメーターを設けてある。ガスメーターの先には、ガスホルダー8が設けられている。また、メタン発酵槽の上端には上澄み液を排出する処理水配管及び必要に応じて原水を希釈する循環水配管が接続している。
【0018】
調整槽1には、pH計、処理水配管の途中には水質計(pH、M−アルカリ度、有機酸を測定)、バイオガスのラインには二酸化炭素濃度計が設置してある。これらの計測器は、制御方法に応じて適宜設置される。
メタン発酵槽2は、嫌気性菌からなるグラニュール汚泥を投入して使用する。本発明の対象となる嫌気性処理は、30 ℃〜35 ℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、及び、50 ℃〜55 ℃を至適温度とした高温メタン発酵処理の温度範囲の嫌気性処理を対象としている。嫌気性菌からなるグラニュール汚泥を投入し、原水5を調整槽1からメタン発酵槽2へ導入する。原水は、メタン発酵槽流出水の一部である循環液6や系外から供給する希釈水等により必要に応じて希釈を行い、メタン発酵槽流入水が、メタン発酵槽内部での通水速度が0.1〜5 m/hとなるように調節する。
【0019】
原水にCo、Ni、Feなどの微量金属を添加することで、メタン細菌の活性を高め、グラニュール形成能を向上させることができる。ここでは、メタン発酵槽でpH低下した場合に、アルカリ剤を使用する場合について説明する。
アルカリ剤の供給は、メタン発酵槽前段に廃水調整槽1を設けて、そこに供給してもよいし、メタン発酵槽2内に直接供給してもよい。メタン発酵槽内に直接アルカリ剤を供給する場合は、アルカリ剤の供給箇所を1箇所でも複数箇所でもよく、複数箇所の場合は供給箇所を高さ方向の異なる位置に配置しても良い。
供給方法は、連続的あるいは間欠的のいずれを選択しても良い。廃水のアルカリ度、有機成分の種類、濃度により供給方法を選択する。
【0020】
使用するM−アルカリ度調整剤は、1種類を選択できるが、溶解度の高い群、低い群の中から適宜組み合わせて使用することも可能である。(a)溶解度の高い群には(液状アルカリ)、NaOH、NaHCO、NaCO、があり、(b)溶解度の低い群には、Ca(OH)、CaCO、CaO、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、Mg(OH)、MgOなどがある。このほかにも、例えば紙パルプ工場において工場内に流通している黒液、白液、弱液、緑液をいった薬液を使用しても良いし、M−アルカリ度を生成するような廃液を使用してもよい。メタン発酵槽内に間欠的に投入する場合は、固形物として保持されるが、発酵槽内pHや二酸化炭素濃度に応じて徐々に溶解することで、アルカリ度の供給が可能であり、かつ、コストが低いCa(OH)、CaCOが適している。
【0021】
アルカリ剤の添加は、少なければ効果がなく、多すぎればコストがかかるだけでなく、スケール生成の危険性があるため、この点も考慮して適切なアルカリ度調整剤の選択が重要である。
メタン発酵処理水のpH緩衝性、すなわちM−アルカリ度を測定することで、適切なM−アルカリ度調整剤の添加量を制御することができる。ただし、メタン発酵処理水に有機酸が含まれている場合は、M−アルカリ度として測定されるが、有機酸はメタン発酵槽流入水に含まれていたM−アルカリ度を消費しているので、有機酸を酢酸とした上でM−アルカリ度を補正する必要がある。
補正は測定されるメタン発酵槽内もしくはメタン発酵槽流出水のM−アルカリ度から、有機酸のM−アルカリ度換算値を差し引く。有機酸は、すべて酢酸とみなすと、補正係数は、式(4)より0.83と求められる。
【0022】
50(炭酸カルシウムの等量)/60(酢酸の等量) = 0.83・・・式(4)
有効M−アルカリ度(mg/L)=M−アルカリ度(mg/L)−[有機酸濃度(mg/L)×0.83]・・・式(1)
式(1)が理論的であるが、便宜上係数0.83を係数1として、廃水によっては以下の式(2)でも代用でき実用上問題はない。実際は、反応が起こるメタン発酵槽内のM−アルカリ度及び有機酸濃度の測定が好ましいが、メタン発酵槽流出液の水質データで実用上支障はない。
有効M−アルカリ度(mg/L)=M−アルカリ度(mg/L)−[有機酸濃度(mg/L) ]・・・式(2)
【0023】
pH緩衝性の少ない有機性廃水をメタン発酵する方法において、メタン発酵槽内もしくはメタン発酵槽流出水のM−アルカリ度及び有機酸濃度を測定し、前述の(1)の式から有効M−アルカリ度を算出し、有効M−アルカリ度 の値が、少なくとも100mg/L以上、好ましくは200mg/L以上で、上限は特に定めないが400mg/Lが目安になる。少なくとも100mg/L以上の有効M−アルカリ度を満たすように、M−アルカリ調整剤をメタン発酵槽流入水もしくはメタン発酵槽内に連続あるいは間欠的に添加して運転することで、安定してメタン発酵処理を行え、pH調整剤のコストも低減できることが、実験の結果から確認できた。ここで、M−アルカリ度及び有機酸は、手分析や機器分析で測定しても良いし、滴定法による自動計測で測定してもよい。
【0024】
また、本発明では、メタン発酵槽内もしくはメタン発酵槽流出水のpH及びバイオガス中の二酸化炭素分圧からも、適切なアルカリ剤の添加量を求めることができる。
二酸化炭素と水の間には、気液平衡が成立し、式(5)で示される関係となる。
[H+]=K Pco / [HCO]・・・式(5)
ここで、水温35℃、イオン強度0.0において
= 0.48 × 10 -6
= 0.0257 mol/(L・atm)
pH : 処理水のpH
Pco :発生したバイオガス中の二酸化炭素の分圧(atm)
式(5)より、[HCO]をアルカリ度換算すると式(6)が導出される。
アルカリ度/100 = 7.36 × 10pH-6 × Pco = K値・・・式(6)
【0025】
式(6)より、pH緩衝性の少ない有機性廃水をメタン発酵する方法において、メタン発酵槽内もしくはメタン発酵槽流出水のpH、及び、発生するバイオガス中の二酸化炭素分圧を測定し、(6)の式からK値を算出し、K値が少なくとも1以上で好ましくは2以上で、特に上限はないが目安として4が上限としては十分であり、これを満たすようにM−アルカリ調整剤をメタン発酵槽流入水に添加することで、安定してメタン発酵処理を行え、pH調整剤のコストも低減できることが実験の結果から確認できた。
メタン発酵槽内もしくはメタン発酵槽流出水のpH及びバイオガス中の二酸化炭素は、手分析や機器分析で測定しても良い。
M−アルカリ度、有機酸、処理水pH及びバイオガス中の二酸化炭素は、連続測定可能であるので、これらのデータをもとにpH調節剤の添加量を自動制御することができる。
【0026】
さらに、本発明は、液状のアルカリを用いてメタン発酵槽流入水のpHを低くても8.5以上とすることとし、この操作方法と前記の本発明とを併用する方法である。
安定したメタン発酵処理を行うためには、処理水pHを6.5以上に保つ必要があるが、原水にアルカリ剤を添加したメタン発酵槽流入水のpHが高くなりすぎた場合には、メタン発酵槽内部で局所的に高アルカリとなり、メタン菌に阻害を及ぼす可能性がある。pH緩衝性の少ない有機性廃水を、メタン発酵すると分解生成した二酸化炭素によりただちにpHが低下するので、あらかじめメタン発酵流入水pHを高くすることで、メタン発酵槽内のpHを適切に保つことができる。このときのメタン発酵槽流入水pHを、11以下、好ましくは8.5以上10以下とすることで、メタン発酵槽内の流入水吹き込み部付近のpHを、メタン発酵が可能な中性域に保つことができる。この操作は単独でも可能であるが、単独よりは、前記した本発明との併用が、よりM−アルカリ調整剤の節減やメタン発酵処理の安定性に効果がある。
すなわち、複数の方法を組み合わせてアルカリ剤の供給量を決定することで、適切なアルカリ剤の供給量とすることができ、過剰なアルカリ剤の供給によるランニングコストの増加を抑えることができるだけではなく、Ca含有のアルカリ剤を使用した場合に生じるスケールの問題を回避できる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1〜4
メタノ−ル含有の紙パルプ廃水を対象としたUASB処理を行った。
図1に示す本発明の装置にて処理した。メタン発酵槽の容量は3mである。各GSSで捕集された発生ガスの量は、水封槽に設けられたガスメーターで測定した。メタン発酵槽内部の水温は35℃に保たれるよう温度制御されている。処理水の一部を循環液として原水とともにメタン発酵槽へ流入させることで、通水速度を3m/hに設定した。原水流量と処理水循環水量の割合は、CODCr負荷に応じて設定した。
原水には、メタノールを主成分とする廃水(CODCr:2200〜2500mg/L、M−アルカリ度100〜200mg/L)に、窒素、リンなどの無機栄養塩類、微量元素としてNi、Co、Feを添加したものを用いた。運転は、図2に示すように、CODCr容積負荷をかけた。第三の発明については、90日目に比較例から実施例に運転を切り替えた。
【0028】
(1)実施例1と比較例1
実施例1は、処理水の水質計を設置し、処理水のM−アルカリ度及び有機酸濃度を測定し、有効M−アルカリ度(mg−CaCO/L)として200mg/Lを維持できるように、調整槽に炭酸カルシウム(CaCO)の注入量を制御した。有効M−アルカリ度の算出には、式(1)を用いた。このとき、有機酸は、ほぼ0mg/Lとなり、CODCr除去率81%となった。
有効M−アルカリ度(mg/L)=M−アルカリ度(mg/L)−[有機酸濃度(mg/L)×0.83]・・・式(1)
比較例1は、実施例1と同じ装置を用い、有効M−アルカリ度が50mg/Lを維持するように、調整槽に炭酸カルシウム(CaCO)の注入量を制御した。このとき、有機酸は460mg/L残留して、CODCr除去率55%となった。
図3に処理の経過を示す。
【0029】
(2)実施例2と比較例2
実施例2は、処理水ラインにpH計及びバイオガスのラインに二酸化炭素濃度計を設置し、有効K値が少なくとも2以上になるように設定し、メタン発酵流入水である調整槽での炭酸カルシウム(CaCO)の注入量を制御した。このとき、有機酸はほぼ0mg/Lとなり、CODCr除去率80%となった。
比較例2は、実施例2と同じ装置を用い、有効K値が0.5を維持するようにメタン発酵流入水である調整槽での炭酸カルシウム(CaCO)の注入量を制御した。このとき、有機酸は400mg/L残留して、CODCr除去率62%となった。
図4に処理の経過を示す。
【0030】
(3)実施例3と比較例3
比較例3では、有効M−アルカリ度を100mg/L以上に設定したところ、炭酸カルシウムの添加率は170〜300 mg/Lであった。このときの流入水のpHは7.5〜8.0、有機酸は190mg/L残留して、CODCr除去率73%となった。
実施例3では、この原水に炭酸カルシウム添加量は同量として、流入水のpHをNaOHの水溶性アルカリを用いて9.0まであげた。その結果、有機酸はほぼ0mg/Lとなり、CODCr除去率83%となった。すなわち、流入pHをあげることとの併用効果が確認された。
図5に処理の経過を示す。
【0031】
(4)実施例4と比較例4
比較例4では、有効K値が少なくとも1に設定したところ、水酸化マグネシウムの添加率は100〜180 mg/Lであった。このときの流入水のpHは7.5〜8.0、有機酸は220mg/L残留して、CODCr除去率72%となった。
実施例4では、この原水に水酸化マグネシウム添加量は同量として、流入水のpHをNaOHの水溶性アルカリを用いて9.0まであげた。このときの有効K値は2.2となった。その結果、有機酸はほぼ0mg/Lとなり、CODcr除去率85%となった。すなわち、流入pHをあげることとの併用効果が確認された。
図6に処理の経過を示す。
これらの結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【符号の説明】
【0033】
1:調製槽、2:メタン発酵槽、3:処理水槽、4:GSS、5:原水、
6:循環水、7:水封塔、8:ガスホルダー、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水の全CODCrに対して、CODCr換算でアルコール成分が60%以上、SSが1%未満の有機性廃水を処理する嫌気性処理装置において、廃水調整槽と1槽式のメタン発酵槽とを有し、該メタン発酵槽には、被処理水の流入部と処理水の流出部とを有し、該流入部には、pHが測定できる水質測定計を備え、該流出部には、pH、M−アルカリ度及び有機酸濃度が各々測定できる水質測定計を備え、該メタン発酵槽からのバイオガス流出部には、ガス中の炭酸ガス(CO)濃度の測定計を備え、前記水質測定計及び濃度測定計からの測定値に基づいて、M−アルカリ度調整剤添加量を制御する制御装置を備え、該制御装置からの信号に基いて、M−アルカリ度調整剤を被処理水流入部へ添加する添加装置を有することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置。
【請求項2】
前記1槽式のメタン発酵槽は、上向流嫌気性汚泥床又は膨張式汚泥床を用いた発酵槽であることを特徴とする請求項1記載の有機性廃水の嫌気性処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−59729(P2013−59729A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200138(P2011−200138)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】