説明

有機性汚泥の可溶化方法および可溶化装置

【課題】有機性汚泥を効果的に可溶化できる有機性汚泥の可溶化方法およびその装置を提供する。
【解決手段】有機性汚泥にアルカリを添加する工程と、前記アルカリを添加した有機性汚泥に、アニオン性界面活性剤を添加する工程とを有することを特徴とする有機性汚泥の可溶化方法。有機性汚泥を可溶化する可溶化槽2と、有機性汚泥を可溶化槽2に供給する汚泥供給手段3とを有し、汚泥供給手段3には、アルカリを添加する第1添加手段4が設けられ、第1添加手段4より下流側の汚泥供給手段3に、または可溶化槽2に、アニオン性界面活性剤を添加する第2添加手段5が設けられていることを特徴とする有機性汚泥の可溶化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性汚泥の可溶化方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水の処理方法として、従来、活性汚泥法等の生物処理が広く行われている。しかし、活性汚泥法では、処理に伴い大量の汚泥が発生するため、汚泥の発生量を減らす試みが様々なされている。例えば特許文献1には、pHを11超とした状態で有機性汚泥とアルカリとを反応させた後、酸を添加して中和して、好気性生物処理する方法が開示されている。また、特許文献2には、界面活性剤を添加した有機性汚泥を加熱して、汚泥を可溶化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−190984号公報
【特許文献2】特許第3591086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、有機性汚泥にアルカリまたは界面活性剤を添加して、汚泥を減容化または可溶化する技術は既に知られている。しかし、特許文献1,2に開示されるように、有機性汚泥にアルカリのみ、または界面活性剤のみを添加するだけでは、汚泥の可溶化効果には限界がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機性汚泥を効果的に可溶化できる有機性汚泥の可溶化方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができた本発明の有機性汚泥の可溶化方法とは、有機性汚泥にアルカリを添加する工程と、前記アルカリを添加した有機性汚泥に、アニオン性界面活性剤を添加する工程とを有するところに特徴を有する。本発明では、アルカリとアニオン性界面活性剤とを組み合わせ、しかもアニオン性界面活性剤よりもアルカリを先に加えるようにすることで、汚泥の可溶化効果を効果的に高められることが見出された。すなわち、本発明の有機性汚泥の可溶化方法によれば、汚泥を効果的に可溶化できる。
【0007】
アニオン性界面活性剤は、アルカリを添加して1分以上経過後に添加することが好ましい。アルカリを添加して1分以上経過後にアニオン性界面活性剤を添加すれば、アルカリが汚泥中に拡散し、汚泥とアルカリとの反応が十分進んだ後、アニオン性界面活性剤が添加されるようになり、その結果、汚泥の可溶化が促進されることとなる。
【0008】
アルカリおよびアニオン性界面活性剤の有機性汚泥に対する添加率は、有機性汚泥の浮遊物質濃度が1,000mg/L〜30,000mg/Lの範囲の場合、アルカリを0.01mol/L〜0.5mol/L添加し、アニオン性界面活性剤を50mg/L〜1,000mg/L添加することが好ましい。前記構成によれば、汚泥の可溶化を効率的に行うことができる。
【0009】
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。ラウリル硫酸ナトリウムは、細胞膜の脂質二分子膜を容易に破壊し、汚泥の可溶化効果を高めやすいとともに、生物易分解性であり、入手も容易であることから、好ましく用いられる。
【0010】
本発明の有機性汚泥の可溶化方法は、さらに、アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥を中和して、生物処理する工程を有することが好ましい。前記構成によれば、可溶化処理により増大した汚泥中の溶解性の炭素成分や窒素成分が、生物的に除去されるようになる。従って、その後固液分離して処理水を得ることで、排水基準を満足する処理水を得やすくなる。
【0011】
本発明の有機性汚泥の可溶化装置は、有機性汚泥を可溶化する可溶化槽と、有機性汚泥を前記可溶化槽に供給する汚泥供給手段とを有し、前記汚泥供給手段には、アルカリを添加する第1添加手段が設けられ、前記第1添加手段より下流側の汚泥供給手段に、または前記可溶化槽に、アニオン性界面活性剤を添加する第2添加手段が設けられているところに特徴を有する。前記可溶化装置によれば、本発明の有機性汚泥の可溶化方法を好適に行うことができる。
【0012】
本発明の有機性汚泥の可溶化装置は、さらに、可溶化した汚泥を生物反応槽に供給する可溶化汚泥供給手段を有していてもよく、前記可溶化槽と前記生物反応槽との間には、可溶化した汚泥を中和する中和手段が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機性汚泥の可溶化方法および装置は、有機性汚泥を効果的に可溶化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機性汚泥の可溶化装置の一例を表す。
【図2】実施例の連続実験で用いた汚泥可溶化装置を表す。
【図3】実施例の連続実験における投入BOD量と余剰汚泥排出量との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の有機性汚泥の可溶化方法は、有機性汚泥にアルカリを添加する工程と、前記アルカリを添加した有機性汚泥に、アニオン性界面活性剤を添加する工程とを有する。
【0016】
本発明で用いられる有機性汚泥とは、有機物を含むものであれば特に制限されず、有機物のほかに無機物を含んでいてもよい。有機性汚泥としては、例えば、下水処理、し尿処理、食品工場や紙パルプ工場、化学工場等から発生する工場排水の処理、家畜糞尿等の畜産廃棄物の処理等により発生する汚泥が挙げられる。これらの汚泥は、単一種であってもよく、2種類以上を混合したものであってもよい。
【0017】
前記各処理では、処理プロセスに応じて様々な種類の汚泥が発生するが、本発明に用いられる有機性汚泥は処理プロセスに制限を受けるものではなく、例えば、初沈汚泥、余剰汚泥、混合生汚泥、活性汚泥、消化汚泥、濃縮汚泥等を用いることができる。これらの汚泥には凝集剤等の各種薬剤が添加されていてもよい。これらの汚泥は、単一種であってもよく、2種類以上を混合したものであってもよい。
【0018】
本発明で用いられる有機性汚泥はスラリー状であることが好ましい。前記有機性汚泥は、浮遊物質濃度(SS濃度)が1,000mg/L以上が好ましく、3,000mg/L以上がより好ましく、5,000mg/L以上がさらに好ましく、また30,000mg/L以下が好ましく、25,000mg/L以下がより好ましく、20,000mg/L以下がさらに好ましい。有機性汚泥の浮遊物質濃度が1,000mg/L〜30,000mg/Lの範囲にあれば、汚泥の可溶化が好適に行われる。なお、浮遊物質濃度は、下水試験方法に従い求められる。
【0019】
有機性汚泥に含まれる有機物量は特に限定されないが、有機物量が多いほど汚泥削減効果が高まるため、好ましい。一般に汚泥中に含まれる有機物の割合を表す指標として強熱減量が用いられるが、有機性汚泥の強熱減量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。なお、強熱減量は、下水試験方法に従い求められる。
【0020】
本発明の有機性汚泥の可溶化方法では、有機性汚泥に添加された界面活性剤により、汚泥に含まれる生物の細胞膜(脂質二分子膜)が破壊され、生物すなわち汚泥が可溶化するものと考えられる。しかし、単に有機性汚泥に界面活性剤を添加する場合、汚泥の可溶化率を高めるには限界がある。例えば、細胞壁は、単に界面活性剤を加えるのみでは、破壊することが困難である。
【0021】
そこで、本発明では、界面活性剤とともにアルカリを有機性汚泥に加えている。アルカリを加えることで、細胞壁の構成成分が変性して結合が弱まり、細胞が破壊されやすくなると考えられる。しかし、この際、アルカリと界面活性剤の添加順序が重要となる。例えば、界面活性剤を先に加える場合、アルカリを先に加える場合と比較して、汚泥の可溶化率が劣る。これは、界面活性剤を先に汚泥に加えると、界面活性剤がミセルを形成するなど会合して、細胞膜に反応する界面活性剤の割合が減るためと考えられる。また、アルカリと界面活性剤を直接混合する場合も、界面活性剤の会合や分解が起こりやすくなり、汚泥の可溶化効果が劣る。従って、本発明では、有機性汚泥にアルカリを添加した後、界面活性剤を添加している。
【0022】
有機性汚泥に添加されるアルカリとしては、汚泥のpHを上げるものであれば特に限定されない。しかし、アルカリとしては、汚泥中での溶解度が高く、沈殿物が生成しにくいものが好ましい。アルカリの添加により、汚泥中の固形分が増えるのは好ましくないからである。また、アンモニアやアミン等の窒素を含むアルカリはあまり好ましくない。窒素を含むアルカリを添加することにより、汚泥中の溶解性窒素(例えば、アンモニア性窒素や硝酸性窒素等)濃度が高くなると、それらを除去するための処理が必要となる場合があるためである。従って、アルカリとしては、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。アルカリは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0023】
アルカリの添加率は、有機性汚泥に対し、0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.03mol/L以上がさらに好ましく、また0.5mol/L以下が好ましく、0.4mol/L以下がより好ましく、0.3mol/L以下がさらに好ましい。アルカリの添加率が0.01mol/L以上であれば、さらにアニオン性界面活性剤を添加することで、汚泥を可溶化しやすくなる。アルカリの添加率が0.5mol/L以下であれば、アルカリが過剰に添加されることによる汚泥の過剰な変性を防ぎやすくなるとともに、後段で汚泥を中和する場合、中和剤の使用量が抑えられる。
【0024】
アルカリが添加された有機性汚泥は、pHが11.0以上になることが好ましく、11.5以上になることがより好ましく、また13.0以下になることが好ましく、12.5以下になることがより好ましい。アルカリが添加された有機性汚泥のpHが11.0〜13.0の範囲になれば、さらにアニオン性界面活性剤を添加することで、汚泥を可溶化しやすくなるとともに、汚泥の変性を防ぎやすくなる。前記pH範囲は、少なくともアニオン性界面活性剤が添加されるまで維持されればよく、アニオン性界面活性剤を添加後は、有機性汚泥のpHは前記範囲から外れてもよい。なお、pHは、JIS Z 8802に従い測定される。
【0025】
アルカリを汚泥に添加する方法は特に制限されないが、アルカリは水溶液として汚泥に添加することが好ましい。アルカリを水溶液として添加すれば、汚泥中にアルカリが速やかに拡散し、汚泥とアルカリとの反応が速やかに進みやすくなる。アルカリが添加された汚泥は、アルカリの拡散を促進するために、公知の混合手段により混合されることが好ましい。例えば、汚泥にアルカリを添加した後、汚泥を撹拌してもよく、管内を流れている汚泥に対しアルカリを添加することで、管内でアルカリと汚泥とが混合されるようにしてもよい。なお、アルカリを添加する際の有機性汚泥の温度は特に制限されない。
【0026】
アルカリを添加した有機性汚泥には、アニオン性界面活性剤をさらに添加する。界面活性剤としてアニオン性界面活性剤を用いることで、カチオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤や両性界面活性剤を使用する場合と比べ、汚泥の可溶化効果が向上する。
【0027】
アニオン性界面活性剤としては、親水基部分が電離して負電荷を有する界面活性剤であれば特に限定されないが、疎水基部分に炭素数10〜18の直鎖アルキル基を有するアニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤が、疎水基部分に炭素数10〜18の直鎖アルキル基を有していれば、脂質二分子膜を破壊しやすくなる。炭素数10〜18の直鎖アルキル基の長さは、一般に脂質二分子膜の疎水性部分の厚さの0.5〜1.0倍の範囲の長さに相当するため、そのような長さのアルキル基を有する界面活性剤であれば、脂質二分子膜を容易に破壊できるようになると考えられる。
【0028】
アニオン性界面活性剤としては、また、生物易分解性のものであることが好ましい。生物易分解性の界面活性剤を用いれば、有機性汚泥を可溶化処理して発生した排水の環境に対する悪影響が低減され、排水処理が容易になる。生物易分解性の界面活性剤としては、ベンゼン環等の芳香環を有さないものが好ましい。
【0029】
従って、アニオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18の直鎖アルキル硫酸塩や炭素数10〜18の直鎖アルキルスルホン酸塩等を用いることが好ましく、前記塩としてはナトリウム塩が好ましい。とりわけ、入手容易性やコストの点から、アニオン性界面活性剤としてはラウリル硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0030】
アニオン性界面活性剤の添加率は、有機性汚泥に対し、50mg/L以上が好ましく、100mg/L以上がより好ましく、また1,000mg/L以下が好ましく、700mg/L以下がより好ましい。アニオン性界面活性剤の添加率が50mg/L以上であれば、汚泥を十分可溶化しやすくなる。一方、アニオン性界面活性剤の添加率が1,000mg/Lを超えても、汚泥の可溶化効果は大きく向上しないため、アニオン性界面活性剤の添加率は1,000mg/L以下が好ましい。
【0031】
アニオン性界面活性剤を添加するタイミングは、アルカリを添加した後であれば特に限定されないが、アルカリを添加して1分以上経過後、アニオン性界面活性剤を添加することが好ましい。アルカリを添加して1分以上経過後にアニオン性界面活性剤を添加すれば、アルカリが汚泥中に拡散し、汚泥とアルカリとの反応が十分進んだ後、アニオン性界面活性剤が添加されるようになりやすい。従って、その結果、アルカリにより細胞壁が破壊された後、アニオン性界面活性剤が細胞膜に反応し、汚泥の可溶化が促進されることとなる。
【0032】
アニオン性界面活性剤を添加するタイミングは、アルカリを添加した後、より長い時間が経過するほど、可溶化効果が向上するが、アルカリとアニオン性界面活性剤の添加のタイミングの間隔があくほど、可溶化効果の向上の程度は小さくなる。従って、設備を過剰に大きくしないようにする点から、アニオン性界面活性剤の添加は、アルカリを添加して60分以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
【0033】
アニオン性界面活性剤を汚泥に添加する方法は特に制限されないが、アニオン性界面活性剤は水溶液として汚泥に添加することが好ましい。アニオン性界面活性剤を水溶液として添加すれば、汚泥中にアニオン性界面活性剤が速やかに拡散し、汚泥とアニオン性界面活性剤との反応が速やかに進みやすくなる。アニオン性界面活性剤が添加された汚泥は、アニオン性界面活性剤の拡散を促進するために、公知の混合手段により混合されることが好ましい。例えば、汚泥にアニオン性界面活性剤を添加した後、汚泥を撹拌してもよく、管内を流れている汚泥に対しアニオン性界面活性剤を添加することで、管内でアニオン性界面活性剤と汚泥とが混合されるようにしてもよい。なお、アニオン性界面活性剤を添加する際の有機性汚泥の温度は特に制限されない。
【0034】
アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥は、アニオン性界面活性剤と有機性汚泥との反応が十分に進むようにするために、滞留させることが好ましい。この際、汚泥を撹拌しながら滞留させることが好ましい。アニオン性界面活性剤を添加した汚泥の滞留時間は、2時間以上が好ましく、4時間以上がより好ましく、6時間以上がさらに好ましく、また24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。前記滞留時間が2時間以上であれば、汚泥の可溶化が十分進みやすくなる。一方。前記滞留時間が長くなるほど汚泥の可溶化がより進むが、効率よく汚泥の可溶化を進行させ、設備が過剰に大きくならないようにするために、前記滞留時間は24時間以内が好ましい。
【0035】
アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥を滞留させる際の汚泥の温度は特に限定されないが、汚泥の温度は10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましく、80℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。汚泥の温度が10℃以上であれば、汚泥の可溶化反応が速やかに進みやすくなる。汚泥の温度が高くなるほど可溶化率が上がる傾向を示すが、汚泥を加温するエネルギーが必要となる場合がある。従って、汚泥の温度が80℃以下であれば、過剰なエネルギーをかけることなく、汚泥の可溶化率を向上しやすくなる。しかし、処理コストの点からは、汚泥の加温にエネルギーをかけない方が好ましい。また、可溶化の対象となる有機性汚泥自身が、前記温度範囲の熱を保有していれば、なお好ましい。
【0036】
アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥を滞留させた場合、時間の経過とともに、汚泥のpHが低下する場合がある。例えば、アニオン性界面活性剤を添加した直後の汚泥のpHが12であったものが、汚泥を12時間滞留させることでpHが10程度やそれ以下まで下がる場合がある。しかし、本発明においては、汚泥を滞留させることによりpHが低下しても、必ずしも元のpHを維持するように調整しなくてもよい。
【0037】
アルカリを添加した後、アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥(以下、「可溶化汚泥」と称する場合がある)は、細胞壁や細胞膜が破壊されて細胞内容物が流出し、可溶化した状態となっている。従って、可溶化汚泥には、溶解性の炭素成分や窒素成分等が多く含まれ、可溶化汚泥を固液分離して得られた処理水をそのまま放流すると、排水基準を満足しない処理水を放流する場合が出てくる。このような場合は、可溶化汚泥を中和して、生物処理することが好ましい。
【0038】
可溶化汚泥の中和は、汚泥のpHが6.0以上になるように行うことが好ましく、6.5以上がより好ましく、7.0以上がさらに好ましく、また8.5以下が好ましく、8.0以下がより好ましい。可溶化汚泥のpHが6.0〜8.5の範囲に調整されれば、生物処理が好適に行われやすくなる。
【0039】
可溶化汚泥はアルカリ性である場合が多く、従って、可溶化汚泥の中和には基本的に酸が用いられる。酸としては、可溶化汚泥のpHを下げるものであれば特に限定されない。しかし、酸としては、汚泥への溶解度が高く、沈殿物が生成しにくいものが好ましい。酸の添加により、汚泥中の固形分が増えるのは好ましくないからである。また、リン酸や硝酸等のリンや窒素を含む酸はあまり好ましくない。リンや窒素を含む酸を添加することにより、汚泥中の溶解性リン(例えば、リン酸性リン)濃度や溶解性窒素(例えば、アンモニア性窒素や硝酸性窒素等)濃度が高くなると、それらを除去するための処理が必要となる場合があるためである。従って、酸としては、硫酸や塩酸を用いることが好ましい。酸は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0040】
酸を汚泥に添加する方法は特に制限されない。酸が添加された汚泥は、酸の拡散を促進するために、公知の混合手段により混合されることが好ましい。例えば、中和槽を設け、中和槽に貯められた可溶化汚泥に酸を添加し、汚泥を撹拌してもよい。また、管内を流れている可溶化汚泥に対し酸を添加することで、管内で酸と汚泥とが混合されるようにしてもよい。
【0041】
中和された可溶化汚泥は、生物処理することが好ましい。可溶化汚泥は、単独で生物処理されてもよく、他の排水と混合されて生物処理されてもよい。可溶化汚泥は、可溶化の対象とした有機性汚泥の発生元である生物処理工程へ返送されて処理されてもよく、他の生物処理工程により処理されてもよい。可溶化汚泥が生物処理されることにより、可溶化処理により溶出した炭素成分や窒素成分が除去され、その後固液分離して処理水を得ることで、排水基準を満足する処理水を得やすくなる。
【0042】
生物処理としては好気性処理が好ましく、例えば、標準活性汚泥法、長時間エアレーション法、オキシデーションディッチ(OD)法、ステップエアレーション法等の浮遊法;回転円板法等の固定法等を採用すればよい。さらに、前記浮遊法には、担体投入活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等を組み合わせて用いてもよい。また、前記好気性処理に嫌気性処理を組み合わせてもよい。
【0043】
本発明の有機性汚泥の可溶化方法では、前記生物処理により発生した汚泥を再び可溶化処理してもよい。すなわち、本発明の有機性汚泥の可溶化方法は、有機性排水を生物処理する工程と;前記生物処理により発生した汚泥にアルカリを添加する工程と;前記アルカリを添加した有機性汚泥に、アニオン性界面活性剤を添加する工程と;前記アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥を中和して、前記生物処理に返送する工程を有するものであってもよい。
【0044】
次に、本発明の有機性汚泥の可溶化装置について、図1を参照して説明する。なお、上記説明と重複する部分は、説明を省略する。
【0045】
本発明の有機性汚泥の可溶化装置1は、有機性汚泥を可溶化する可溶化槽2と、有機性汚泥を可溶化槽2に供給する汚泥供給手段3とを有し、汚泥供給手段3には、アルカリを添加する第1添加手段4が設けられ、第1添加手段4より下流側の汚泥供給手段3に、または可溶化槽2に、アニオン性界面活性剤を添加する第2添加手段5が設けられている。
【0046】
汚泥供給手段3は、有機性汚泥を可溶化槽2に供給するためのものである。汚泥供給手段3としては、例えば、可溶化槽2に連通した管が挙げられ、前記管には必要に応じて有機性汚泥を可溶化槽2に搬送するためのポンプ11が設けられる。
【0047】
汚泥供給手段3には、アルカリを添加する第1添加手段4が設けられる。第1添加手段4は、例えば、一方が汚泥供給手段3に連通し、搬送手段12(例えば、ポンプ)を有する管と、前記管の他方に連通したアルカリ貯留槽13とからなる。汚泥供給手段3に第1添加手段4が設けられることにより、撹拌装置等を設けなくとも、汚泥供給手段3において、アルカリが有機性汚泥と混合されるようになる。
【0048】
汚泥供給手段3には、さらに、第1添加手段4の下流側に、アニオン性界面活性剤を添加する第2添加手段5が設けられてもよい。第2添加手段5は、例えば、一方が汚泥供給手段3に連通し、搬送手段14(例えば、ポンプ)を有する管と、前記管の他方に連通したアニオン性界面活性剤貯留槽15とからなる。汚泥供給手段3に第2添加手段5が設けられることにより、撹拌装置等を設けなくとも、汚泥供給手段3において、アニオン性界面活性剤が有機性汚泥と混合されるようになる。汚泥供給手段3に第2添加手段5が設けられない場合、第2添加手段5は可溶化槽2に設けられる。なお、第1添加手段4と第2添加手段5の設置位置は、それらの間の汚泥搬送時間が1分以上となるように、設定されることが好ましく、例えば、配管長を調整したり、第1添加手段4と第2添加手段5との間に滞留槽を設けたり、第1添加手段4を滞留槽に設けることで対応できる。
【0049】
アニオン性界面活性剤としては、上記説明したように、炭素数10〜18の直鎖アルキル硫酸塩や炭素数10〜18の直鎖アルキルスルホン酸塩等を用いることが好ましく、ラウリル硫酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0050】
可溶化槽2は、アルカリとアニオン性界面活性剤が添加された有機性汚泥を可溶化するための槽である。可溶化槽2には、撹拌装置16が設けられることが好ましい。可溶化槽2の大きさは、有機性汚泥の水理学的滞留時間(HRT)が2時間〜24時間となるように設定することが好ましい。なお、水理学的滞留時間(HRT)は、(可溶化槽2の有効容積)/(時間当たりの可溶化槽2への有機性汚泥流入量)により算出される。
【0051】
有機性汚泥の可溶化装置1は、さらに、可溶化した汚泥を生物反応槽9に供給する可溶化汚泥供給手段6を有し、可溶化槽2と生物反応槽9との間に、可溶化した汚泥を中和する中和手段7が設けられていることが好ましい。
【0052】
可溶化汚泥供給手段6は、可溶化汚泥を生物反応槽9に供給するためのものである。可溶化汚泥供給手段6としては、例えば、可溶化槽2と生物反応槽9とに連通した管が挙げられ、前記管には必要に応じて可溶化汚泥を生物反応槽9または後述する中和槽8に搬送するためのポンプ17が設けられる。
【0053】
中和手段7は、可溶化した汚泥を中和するためのものである。中和手段7は、可溶化汚泥供給手段6に設けてもよく、可溶化槽2と生物反応槽9との間に中和槽8を設け、中和槽8に中和手段7を設けてもよい。中和手段7としては、例えば、一方が可溶化汚泥供給手段6または中和槽8に連通し、搬送手段18(例えば、ポンプ)を有する管と、前記管の他方に連通した中和剤貯留槽19とからなる。
【0054】
生物反応槽9は、活性汚泥処理等の生物処理が行われる槽である。生物反応槽9には、散気装置20が設けられることが好ましく、生物反応槽9において膜分離活性汚泥処理が行われる場合には、さらに膜分離装置が設けられることが好ましい。生物反応槽9で膜分離活性汚泥法による処理を行わない場合には、生物反応槽の後段に沈殿槽や沈殿池等の公知の固液分離手段を設けることが好ましい。また、生物反応槽9には、前記汚泥供給手段3が連通していてもよい。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0056】
下記実施例では、汚泥の可溶化の指標として、汚泥の溶解性全窒素濃度(溶解性T−N濃度)を用いた。細胞内容物のうち窒素を含有する成分としてタンパク質や核酸が挙げられるが、汚泥中の溶解性T−N濃度を測定することにより、細胞が破壊されて内容物が放出された量をみて、それを可溶化の指標とした。また、実施例で窒素を含むアルカリや界面活性剤を用いなかったことも、溶解性T−N濃度を可溶化の指標として用いた理由の一つである。なお、可溶化の指標として溶解性T−N濃度を用いることは、本発明において、窒素を含むアルカリや界面活性剤を用いることを排除するものではない。
【0057】
(1)バッチ実験
(1−1)実験1:アルカリとアニオン性界面活性剤の併用効果
表1に示す性状の汚泥(活性汚泥)に、水酸化ナトリウム0.1mol/Lおよび/またはラウリル硫酸ナトリウム100mg/Lを添加した後、またはいずれの薬剤も添加せず、汚泥を30℃に保持しながら3時間撹拌し、可溶化処理を行った。撹拌後、1500Gで10分間遠心分離し、得られた上澄みの全窒素濃度(T−N濃度)を測定し、それを汚泥の溶解性全窒素濃度(溶解性T−N濃度)とした。
【0058】
前記操作において、水酸化ナトリウムとラウリル硫酸ナトリウムとを添加する場合は、水酸化ナトリウムを添加して1分経過後、ラウリル硫酸ナトリウムを添加した。また、水酸化ナトリウムを添加した場合は、前記3時間撹拌後、硫酸を添加して、pHを7.0に調整した。
【0059】
【表1】

【0060】
実験条件と結果を表2に示す。有機性汚泥に何も薬剤を添加しない場合の溶解性T−N濃度は、3.0mg/Lであった(実験No.1−1)。これに対し、アルカリとして水酸化ナトリウムを添加した後、アニオン性界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを添加することにより、溶解性T−N濃度は114.1mg/Lと非常に高い値となり、汚泥が可溶化したことが確認できた(実験No.1−4)。一方、アルカリのみ(実験No.1−2)、またはアニオン性界面活性剤のみ(実験No.1−3)を添加した場合は、アルカリとアニオン性界面活性剤を両方添加した場合(実験No.1−4)と比較して、溶解性T−N濃度は低い値となった。アルカリとアニオン性界面活性剤の両方を添加することにより、汚泥の可溶化が促進されたことが分かった。
【0061】
【表2】

【0062】
(1−2)実験2:アルカリとアニオン性界面活性剤の添加順序の効果
表3に示す性状の汚泥(食品工場の排水処理設備の活性汚泥)に、水酸化ナトリウム(NaOH)0.1mol/Lとラウリル硫酸ナトリウム(SDS)1,000mg/Lとを添加した。実験では、水酸化ナトリウムまたはラウリル硫酸ナトリウムのいずれかを先に加え撹拌し、10分または30分の間隔をあけてから、もう一方の薬剤を添加し50分間または30分間撹拌し、トータルの撹拌時間が60分になるように調整した。その後、実験1と同じ手順で硫酸により中和後、遠心分離を行い、汚泥の溶解性T−N濃度を測定した。
【0063】
【表3】

【0064】
実験条件と結果を表4に示す。アルカリとして水酸化ナトリウムを先に添加した場合(実験No.2−1,2−3)、アニオン性界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを先に添加した場合(実験No.2−2,2−4)と比較して、可溶化処理後の溶解性T−N濃度は高くなった。アルカリとアニオン性界面活性剤の両方を添加する場合でも、アルカリを先に添加することで、汚泥の可溶化が促進されることが分かった。
【0065】
【表4】

【0066】
(1−3)実験3:界面活性剤の種類の影響
表1に示す性状の汚泥に、水酸化ナトリウム(NaOH)0.1mol/Lを添加して1分経過後、界面活性剤100mg/Lを添加し、汚泥を30℃に保持しながら3時間撹拌し、可溶化処理を行った。その後、実験1と同じ手順で硫酸により中和後、遠心分離を行い、汚泥の溶解性T−N濃度を測定した。界面活性剤として、和光純薬工業株式会社より入手した下記の4種類を用いた。
アニオン性界面活性剤:ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)
カチオン性界面活性剤:trimethylstearylammmonium chloride(TSAC)
ノニオン性界面活性剤:polyoxyethylene sorbitan monolaurate(Tween20)
両性界面活性剤:3-[(3-cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate(CHAPS)
【0067】
【表5】

【0068】
実験結果を表5に示す。汚泥の溶解性T−N濃度は、界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを用いた場合に最も高くなり、アニオン性界面活性剤が汚泥の可溶化に効果的であることが明らかになった。
【0069】
(2)連続実験
図2に示す生物反応槽および可溶化槽を有する装置を用いて、連続実験を行った。生物反応槽21は容量12Lであり、槽内には、膜ろ材22とその下部に散気装置23が設けられていた。前記膜ろ材22としては、膜面積0.11m2、公称孔径0.4μmの平板状有機膜(膜材質:ポリオレフィン)を用いた。生物反応槽21には、表6に示す組成の模擬排水25を18L/日の速度で供給し、生物反応槽21で膜分離活性汚泥法による好気性処理を行い、膜ろ材22により槽内水をろ過することにより、膜ろ過水30を得た。生物反応槽21内の活性汚泥は27±2℃に保ち、汚泥26を2.6L/日の割合で引き抜いた。生物反応槽21から引き抜いた汚泥26には、水酸化ナトリウム27を0.033mol/Lの割合でライン注入し、その下流側でラウリル硫酸ナトリウム28を167mg/Lの割合でライン注入した。ラウリル硫酸ナトリウム28は、水酸化ナトリウム27を添加して2分経過後に添加するタイミングとなるように、注入位置を設定した。水酸化ナトリウムを添加することで、汚泥のpHは12まで上がった。水酸化ナトリウムとラウリル硫酸ナトリウムを添加した汚泥は、可溶化槽24で8時間撹拌した。その結果、pHは約10まで下がった。可溶化槽24から排出した汚泥は、硫酸29を添加してpHを7に調整してから、生物反応槽21に返送した。連続実験中、生物反応槽21内の活性汚泥の浮遊物質濃度が10,000mg/Lを維持するように、活性汚泥を定期的に余剰汚泥31として系外に排出した。生物反応槽21における水理学的滞留時間(HRT)は16時間であり、BOD−容積負荷は2.0kg−BOD/m3/日であり、BOD−SS負荷は0.18kg−BOD/kg−SS/日であった。
【0070】
上記処理区に対し、対照区として、図2に示す装置において、可溶化槽およびそれに付随する生物反応槽との循環ラインを有さない装置を用いて、汚泥の可溶化処理を行わなかった以外は、上記と同様に活性汚泥による好気性処理を行った。
【0071】
【表6】

【0072】
連続実験は2ヶ月間行った。処理区において、可溶化槽前後での固形分減少率は37.5%であった。すなわち、可溶化処理により汚泥は37.5%可溶化された。
【0073】
模擬排水の投入BOD量と余剰汚泥排出量との相関を求め、その結果を図3に示す。図3における近似直線の傾きは、BOD−汚泥転換率を表す。BOD−汚泥転換率は、対照区では39.1%であったのに対し、処理区では5.1%に減少した。すなわち、可溶化処理により、処理区では対照区と比較して、余剰汚泥発生量が87%減少した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、下水処理、し尿処理、食品工場や紙パルプ工場、化学工場等から発生する工場排水の処理、家畜糞尿等の畜産廃棄物の処理等により発生する有機性汚泥の処理に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1: 可溶化装置
2: 可溶化槽
3: 汚泥供給手段
4: 第1添加手段
5: 第2添加手段
6: 可溶化汚泥供給手段
7: 中和手段
8: 中和槽
9: 生物反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性汚泥にアルカリを添加する工程と、
前記アルカリを添加した有機性汚泥に、アニオン性界面活性剤を添加する工程とを有することを特徴とする有機性汚泥の可溶化方法。
【請求項2】
アルカリを添加して1分以上経過後、アニオン性界面活性剤を添加する請求項1に記載の有機性汚泥の可溶化方法。
【請求項3】
前記有機性汚泥の浮遊物質濃度が1,000mg/L〜30,000mg/Lの範囲にあり、
アルカリを有機性汚泥に対し0.01mol/L〜0.5mol/L添加し、
アニオン性界面活性剤を有機性汚泥に対し50mg/L〜1,000mg/L添加する請求項1または2に記載の有機性汚泥の可溶化方法。
【請求項4】
前記アニオン性界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウムを用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機性汚泥の可溶化方法。
【請求項5】
さらに、前記アニオン性界面活性剤を添加した有機性汚泥を中和して、生物処理する工程を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機性汚泥の可溶化方法。
【請求項6】
有機性汚泥を可溶化する可溶化槽と、
有機性汚泥を前記可溶化槽に供給する汚泥供給手段とを有し、
前記汚泥供給手段には、アルカリを添加する第1添加手段が設けられ、
前記第1添加手段より下流側の汚泥供給手段に、または前記可溶化槽に、アニオン性界面活性剤を添加する第2添加手段が設けられていることを特徴とする有機性汚泥の可溶化装置。
【請求項7】
さらに、可溶化した汚泥を生物反応槽に供給する可溶化汚泥供給手段を有し、
前記可溶化槽と前記生物反応槽との間に、可溶化した汚泥を中和する中和手段が設けられている請求項6に記載の有機性汚泥の可溶化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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