説明

有機成分定量法及び装置

【課題】試料中に含まれる有機成分の濃度を成分毎に簡便かつ迅速に測定する。
【解決手段】既知濃度の特定有機成分が特定有機溶媒に含まれる既知試料を水で抽出して水中の抽出濃度を取得することにより、特定有機溶媒と水とに関する特定有機成分の分配率を取得する分配率取得工程と、未知濃度の特定有機成分が含まれる測定対象水を特定有機溶媒で抽出し、特定有機溶媒中における特定有機成分の抽出濃度を測定する抽出濃度取得工程と、抽出濃度と分配率とに基づいて測定対象水における特定有機成分の濃度を求める測定対象水濃度取得工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分定量法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場排水や河川水などの水質指標として、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand:BOD)および化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand:COD)がある。BODおよびCODは水中の有機成分が酸化されるのに必要とする酸素量を示したものであり、各有機成分毎の濃度を示すものではなく、その総合量を示すものである。工場などの排水と環境水とでは、その中に含まれる有機成分は異なり、それらの性状をBODやCODで一括して評価するには無理があり、各有機成分毎の濃度を測定する要望がある。
【0003】
排水などに含まれる雑多な有機成分を同定して、定量する方法は既に提案されているが、いずれも測定対象の有機成分を、試料水から分離、精製した後、成分毎の適当な方法で定量するので、多大な手間と時間とがかかり、迅速性に欠け、コスト高になる。
一方で、排水や環境水中に含まれる有毒な有機成分を検出する目的で、排水や環境水中の特定有機成分を溶媒抽出して検液とした後、この検液を測定することで有機成分の同定、定量を行う方法についても種々の提案が成されている。
【0004】
特許文献1には、分析対象試料中からダイオキシン類を高圧高温下で溶媒抽出し、抽出したダイオキシン類を多層シリカゲルカラムに通じて夾雑物を除去し、吸着力の異なる活性炭を積層したカラムに通じてダイオキシン類を吸着し、これらを溶出して分析計に導入してダイオキシン類の濃度を測定する簡易分析方法と装置とが開示されている。
【0005】
特許文献2には、重金属で汚染された土壌とその浄化処理のための調査として行われる試験方法として、調査対象の土壌に有機溶媒を加え、分析対象物質である重金属を抽出した溶出検液を得た後に、この溶出検液中の重金属濃度を簡易分析法、イオン電極法、吸光光度法、原子吸光分析法、ICP発光分析法、蛍光X線分析法等によって、測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−214816号公報
【特許文献2】特開2005−331409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の各方法では、溶媒抽出後の有機成分の分離、精製に大変な労力を必要とし、その測定には最低でも数時間、通常は数日間を要し、多大な時間とコストがかかる上に、迅速性に欠けるという問題がある。特に、排水処理場の現場などでは、排水中の有機成分の濃度を成分毎に迅速に評価する要望があり、低コストで簡易的な有機成分定量法の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、試料中に含まれる有機成分の濃度を成分毎に簡便かつ迅速に測定することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、有機成分定量法に係る第1の解決手段として、既知濃度の特定有機成分が特定有機溶媒に含まれる既知試料を水で抽出して水中の抽出濃度を取得することにより、特定有機溶媒と水とに関する特定有機成分の分配率を取得する分配率取得工程と、未知濃度の特定有機成分が含まれる測定対象水を特定有機溶媒で抽出し、特定有機溶媒中における特定有機成分の抽出濃度を測定する抽出濃度取得工程と、抽出濃度と分配率とに基づいて測定対象水における特定有機成分の濃度を求める測定対象水濃度取得工程とを有する、という手段を採用する。
【0010】
有機成分定量法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、分配率取得工程では、異なる既知濃度の特定有機成分が含まれる複数の標準濃度液の抽出濃度を測定することにより分配率を求める、という手段を採用する。
【0011】
有機成分定量法に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、分配率取得工程では、計算機化学手法に基づく理論的推定によって分配率を取得する、という手段を採用する。
【0012】
また、本発明では、有機成分定量装置に係る第1の解決手段として、特定有機溶媒中の特定有機成分を水で抽出した場合における特定有機溶媒と水とに関する特定有機成分の分配率を記憶する記憶手段と、測定対象水に特定有機溶媒を添加し、該特定有機溶媒中に特定有機成分を抽出する抽出部と、特定有機成分の抽出濃度を測定する測定部と、該測定部の測定値と記憶手段に記憶された分配率とに基づいて測定対象水中に含まれる特定有機成分の濃度を算出する算出部とを具備する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、予め取得した特定有機成分の分配率に測定対象水における特定有機成分の抽出濃度を適用することによって測定対象水中に含まれる特定有機成分の濃度を取得するので、測定時に必要とされる操作数が減少できて、簡便かつ迅速に特定有機成分の定量を行うことができる。したがって、本発明によれば、測定対象水中に含まれる特定有機成分の濃度を低コストで迅速に測定できるので、測定対象水の水質を即時評価をできて工業的に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機成分定量法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態に係る有機成分定量法の特徴を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る有機成分定量装置100の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る有機成分定量法は、分配率取得工程、抽出濃度取得工程及び測定対象水濃度取得工程という3つの基本要素工程からなる。
【0016】
各基本要素工程の概要を説明すると、分配率取得工程は、他の抽出濃度取得工程及び測定対象水濃度取得工程の前準備として事前に行われるものであり、既知濃度の特定有機成分が特定有機溶媒に含まれる既知試料を水で抽出して水中の抽出濃度を取得することにより、特定有機溶媒と水とに関する特定有機成分の分配率を取得する工程である。このような分配率取得工程は、以下に説明する標準濃度液調製(ステップS5)、抽出(ステップS2)、層分離(ステップS3)、抽出濃度測定(ステップS4)、検量線作成(ステップS6)、分配率取得(ステップS7)及びデータベース登録(ステップS8)からなる。
【0017】
抽出濃度取得工程は、未知濃度の特定有機成分が含まれる測定対象水を特定有機溶媒で抽出し、特定有機溶媒中における特定有機成分の抽出濃度を測定する工程であり、以下に説明する試料採取(ステップS1)、抽出(ステップS2)、層分離(ステップS3)、抽出濃度測定(ステップS4)からなる。また、測定対象水濃度取得工程は、分配率取得工程で得られた分配率と抽出濃度取得工程で得られた抽出濃度とに基づいて測定対象水Xにおける特定有機成分の濃度を求める工程であり、以下に説明する濃度算出(ステップS9)からなる。
【0018】
説明の都合上、抽出濃度取得工程の詳細を先に説明する。
試料採取:ステップS1
試料は、測定対象水の一部を分離したものであって、測定対象となる特定有機成分を含む水溶液である。測定対象水は、特に限定されるものではなく、工場排水、水処理施設などの処理水、河川水などの環境水などである。排水口や排水管等から所定量を採取することによって試料とする。この採取の際に必要に応じて、フィルターなどによって、不溶の固体分などを濾別してもよい。上記特定有機成分は、特に限定されないが、石炭排水中に含まれる有機成分として、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p−キシレン、フェノール、m−、p−クレゾール等を例示できる。
【0019】
抽出:ステップS2
このような試料中に含まれる特定有機成分を特定の有機溶媒(抽出溶媒)で抽出する。特定有機溶媒としては、測定対象水の溶媒である水と不溶で、かつ測定対象の特定有機成分を溶解する性質の有機溶媒、特に水中の特定有機成分を高効率で抽出可能な有機溶媒が良い。このような特定有機溶媒としては、疎水性の有機溶剤であればどのようなものでも良いが、より具体的なものとしてクロロホルム、n―ヘキサン、塩化メチレン(ジクロロメタン)等を例示できるが、ジエチルエーテルが最も好適である。
【0020】
特定有機成分の抽出は、試料と特定有機溶媒とを混合することによって行われる。混合の方法は特に限定されるものではなく、例えば分液ロートなどに試料と特定有機溶媒とを加えて、振とう器で30分〜1時間程度、振とうする。試料と特定有機溶媒との混合量は特に限定されるものではなく、操作の都合上、500ml〜1000ml程度が好適であるが、試料と特定有機溶媒とは同量とすることが好ましい。振とう中、特定有機溶媒が揮発するので、10分間おき程度にガス抜きを行う。振とう速度は速い方が良く、例えば60rpm以上とする。
【0021】
層分離:ステップS3
試料中の特定有機成分が充分に特定有機溶媒中に抽出されたら、所定時間静置し、試料と特定有機溶媒とを2層に分離させた後、分液する。通常は、試料の溶媒である水に対して、特定有機溶媒の方が比重が小さくなるので、下部の水層は廃棄し、上部の特定有機溶媒層を回収して試料液とする。なお、必要に応じて水層を廃棄せずに別に分析を行ってもよい。
【0022】
抽出濃度測定:ステップS4
上記試料液を周知のGC−MSで測定する。試料液中には複数の有機成分が含まれているが、ガスクロマトグラフ(GC)で各有機成分を分離し、質量分析計(MS)で特定有機成分の同定と定量とを行う。特定有機成分の同定はGCの保持時間毎のMSのスペクトルによって行い、定量は所定スペクトルピークの面積値を用い、これらをそれぞれ測定値として得る。すなわち、このステップS4では、上述したステップS3で得られた特定有機溶媒層をGC−MSで測定することにより、測定対象水から得られた試料液について特定有機溶媒中に抽出された特定有機成分を同定すると共に、当該特定有機成分の抽出濃度Nx(mg/L)を求める。
【0023】
使用するGC−MSおよびその測定条件は、例えば以下の通りである。
装置:株式会社島津製作所製 GCMS−QP5050
カラム:キャピラリーカラム Inert Cap(ジーエルサイエンス株式会社製)
長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm
カラム温度:40℃で10分間保持し、その後20分間かけて昇温して250℃に到達後に10分以上保持する。
気化室温度:200℃
インターフェース温度:200℃
カラム入口圧:100kPa
カラム流量:1.8ml/分
全流量:20ml/分
MS分析部:四重極型
なお、このようなステップS1〜S4を経ることによって抽出濃度取得工程が完了する。
【0024】
次に、分配率取得工程について説明する。このような抽出濃度取得工程に先立って、ステップ5、標準濃度液に関するステップS1〜S4、またステップS6〜S8からなる分配率取得工程が行われる。
【0025】
標準濃度液調製:ステップ5
既知濃度の特定有機成分が特定有機溶媒に溶かし込まれた標準濃度液(既知試料)を用意する。すなわち、このステップ5では、測定対象水に含まれる特定有機成分(測定対象)と同一の溶質とステップS2の抽出で用いた抽出溶媒(特定有機溶媒)とからなる溶液である標準濃度液を調製する。
【0026】
通常、検量線作成のための標準濃度は、測定範囲の範囲全体にほぼ等間隔となるようにできるだけ多く設定されるが、本有機成分定量法では、測定対象水が取り得る濃度範囲内の異なる3つの濃度を標準濃度として設定し、当該3つの濃度に対応する3つの標準濃度液を調製する。この3つの濃度は、例えば測定対象水Xが取り得る濃度範囲のうち、最低濃度、最高濃度及び最低濃度と最高濃度との中間濃度である。なお、最低濃度と最高濃度との2点を標準濃度としても良い。
【0027】
例えば石炭排水を測定する場合には、抽出溶媒であるジエチルエーテルに、例えば10、50、250mg/lなどの濃度で、上述したベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p−キシレン、フェノール、m−、p−クレゾール等をそれぞれ個別に溶解して、各特定有機成分の標準濃度液とする。
【0028】
このようにして各標準濃度液の調製が完了すると、当該各標準濃度液に関するステップ2〜4を経ることにより各標準濃度液における抽出濃度が測定される。ここで、各標準濃度液に対するステップ2では、特定有機溶媒ではなく、水を抽出溶媒として標準濃度液中に含まれる特定有機成分を抽出する。また、標準濃度液に対するステップ3では、特定有機溶媒層ではなく、上記ステップ2によって特定有機成分を含むようになった水層を分離する。さらに、標準濃度液に対するステップ4では、ステップS3で得られた水層をGC−MSで測定することにより、3つの各標準濃度液について水層中に抽出された特定有機成分を同定すると共に特定有機成分の抽出濃度(mg/L)を取得する。
【0029】
検量線作成:ステップS6
3つの各標準濃度液について特定有機成分の抽出濃度に最小二乗法を適用することにより、標準濃度液に関する漸近線を検量線として作成する。この検量線は、標準濃度液について、特定有機成分の抽出濃度とGC−MSの測定値(特定有機成分に相当するスペクトルピークの面積値)との関係を示すものである。
【0030】
分配率取得:ステップS7
ステップS6で得られる検量線は、あくまでも特定有機成分の抽出濃度とGC−MSの測定値との関係を示すものであり、標準濃度液には水に抽出されることなく残留する特定有機成分が含まれている。すなわち、ステップS6で得られる検量線は、標準濃度液に含まれる特定有機成分の一部に関する検量線である。
【0031】
ステップS7では、標準濃度液における特定有機成分の濃度(既知)と検量線によって与えられる特定有機成分の濃度(GC−MSの測定値)とに基づいて特定有機成分に関する分配率Pを取得する。すなわち、この分配率Pは、標準濃度液における特定有機成分の濃度Nu(既知)と水(水層)における特定有機成分の濃度Ns(GC−MSの測定値)との比率であり、P=Nu/Nsで表される。
【0032】
なお、このような分配率Pは、GC−MS等の測定器を用いた実測の他に計算機化学手法で理論的推定することができる。実測は、煩雑で長時間を要し簡便性を欠くが、計算機化学による理論的推定は、専用ソフトウェアを用いて分配率Pを計算するので、極めて簡便である。このような専用ソフトウェアは、種々提案されており、特に限定されるものではないが、例えば株式会社アスペンテックジャパン製のAspen Plus(登録商標)がある。
【0033】
このAspen Plus(登録商標)を用いて分配率Pを求める場合の設定条件は、例えば以下の通りである。また、各特定有機成分に関する分配率Pの計算結果を下記表1に示す。
温度:20℃(一定)
圧力:1bar(一定)
物性推定法:NRTL−RK式
溶媒: 水:ジエチルエーテル=1:1(v/v)
溶質:ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p−キシレン、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール
【0034】
計算値 実測値 誤差(%)
ベンゼン:1.0019 0.9974 0.45
トルエン:1.0003 0.9987 0.16
エチルベンゼン:1.0002 0.9852 1.52
p−キシレン:1.0002 0.991 0.92
フェノール:1.1118 0.9143 21.6
m―、p−クレゾール:1.0243 0.9275 10.4
〔表 1〕
【0035】
この表1に示すように、計算値と実測値との誤差は殆どなく、Aspen Plus(登録商標)による計算値を分配率Pとして用いても問題ないことが分かる。なお、フェノールとクレゾールは、ともに水中での水素結合の影響を受けて、分配率の計算値と実測値とに1〜2割の誤差があるが、本有機成分定量法を実施するにあたって、2割の誤差は充分に実用範囲内とみなすことができる。本有機成分定量法を実施する現場として、排水処理施設での運転状況確認や処理水の管理などが考えられるが、処理水中の特定有機成分の濃度変化は2割程度の変動があり、この変動幅以内の誤差であれば、充分に簡易測定として使用可能であり、特定有機成分の濃度を即時評価できる点が重要である。
【0036】
データベース登録:ステップS8
ステップS8では、ステップS7で求めた標準濃度液に関する特定有機成分の分配率Pをデータベースに登録する。すなわち、分配率取得工程では、測定対象となり得る複数種類の特定有機成分について分配率P1,P2,P3,……を求め、各特定有機成分の分配率P1,P2,P3,……を抽出濃度取得工程に先立って分配率データベースに予め登録しておく。以上によって分配率取得工程が完了する。
【0037】
濃度算出:ステップS9
以上のようにして分配率取得工程が完了すると、続いて測定対象水濃度取得工程を行う。この測定対象水濃度取得工程では、抽出濃度取得工程で得られた測定対象水の試料液について得られた特定有機成分の抽出濃度Nx(mg/L)と標準濃度液に関する分配率Pとを乗算することによって測定対象水における特定有機成分の全濃度Nyを求める。すなわち、測定対象水における特定有機成分の全濃度Nyは、Nx・P=Nx・Nu/Nsによって与えられる。
【0038】
すなわち、上記抽出濃度Nyは、測定対象水に含まれる特定有機成分の一部、つまり特定有機溶媒中に抽出された特定有機成分に関するものであり、測定対象水に含まれる特定有機成分の全量を示すものではない。また、分配率Pを規定する一方の濃度Nuは、標準濃度液に含まれる全ての特定有機成分に関するものであり、また分配率Pを規定する他方の濃度Nsは、標準濃度液に含まれる全ての特定有機成分のうち水に抽出された特定有機成分に関するものである。したがって、測定対象水における特定有機成分の全濃度Nyは、図2に示すように、抽出濃度取得工程で得られた抽出濃度Nxを変数とし、分配率取得工程で得られた分配率Pを係数(傾き)とする一次関数として与えられる。
【0039】
このような本実施形態に係る有機成分定量法によれば、標準濃度液を用いて予め取得しておいた分配率を用いるので、測定対象水の濃度を取得する際に行う測定作業は測定対象水に関する抽出濃度のみである。したがって、測定対象水の濃度を取得する際の時間と手間とを従来よりも大幅に短縮することができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る有機成分定量装置100について、図3を参照して説明する。本有機成分定量装置100は、抽出溶媒貯留槽1、抽出溶媒供給部2、抽出部3、試料供給部4、測定部5、コンピュータ14、データベース6(記憶手段)及び算出部7とから構成されている。これら各構成要素のうち、抽出溶媒貯留槽1、抽出溶媒供給部2、抽出部3及び試料供給部4は抽出手段を構成している。
【0041】
抽出溶媒貯留部1は抽出溶媒供給部2を介して抽出部3に抽出溶媒供給管8で接続されている。抽出部3には、試料供給部4が試料供給管9で接続されており、試料液供給管10で測定部5と接続されている。測定部5には、データベース6と算出部7とを内蔵したコンピュータ14が信号線11で接続されている。データベース6と算出部7とは、互いに信号線12で接続されている。
【0042】
抽出溶媒貯留部1は、抽出溶媒を貯留する容器であって、一般の有機溶媒を貯留する汎用のガロン瓶等である。抽出溶媒供給部2はポンプ等であり、抽出溶媒貯留部1から所定量の抽出溶媒を採取して、抽出溶媒供給管8を介して抽出部3へ移送する。
【0043】
試料供給部4もまた、ポンプ等であり、その一端が工場や排水処理場からの排水口や排水管に開口した試料供給管9を介して、所定量の試料を採取して、抽出部3へ移送する。必要に応じて、試料供給部4には、試料中の不溶性の固体分を除去するフィルターなどが備えられていてもよい。
【0044】
抽出部3は、抽出溶媒と試料とを混合して、試料中の特定有機成分を抽出溶媒中に抽出した後に、試料液を分離するものであって、抽出溶媒と試料とを収容する容器31と、この容器31の内容物を混合するための振とう手段32とを備えている。容器31の上部には試料液供給管10が接続されており、所定量の試料液を容器31から採取して測定部5へ移送する。また、容器31の底部には、排水管33が接続されており、水層が容器31から排出される。振とう手段32は、汎用の振とう機などである。
【0045】
測定部5は試料液を分析し、その測定値から試料液中の特定有機成分を同定、定量可能な機器分析器であって、試料および測定対象の特定有機成分の種類に応じて選択されるが、各種のクロマトグラム質量分析器、赤外分光分析器、吸光分析器などであって、GC−MSが好適である。測定部5で測定されたクロマトグラムやスペクトルは測定値として、信号線11によって算出部7へ送信される。
【0046】
データベース6は、分配率データのほか、試料中の特定有機成分を同定するのに必要な各種データ、例えばGC−MSの場合には、特定有機成分毎の保持時間やスペクトルなどが登録されたものである。データベース6と算出部7とは信号線12によって接続されており、算出部7からデータベース6に登録された情報の検索と取得とができる。
【0047】
算出部7は、入力された測定値と、データベース6から取得したデータとを用いて試料中の特定有機成分を同定すると共に、この特定有機成分の濃度を測定結果として算出するものである。本実施形態においては、データベース6と算出部7とは、共にコンピュータ14に内蔵されており、算出部7で得られた測定結果はコンピュータ14から出力される。
【0048】
次に、このように構成された有機成分定量装置100の動作について説明する。
この有機成分定量装置100では、試料供給部4が所定量の試料を採取し抽出部3の容器31内に注入し、また抽出溶媒供給部2が抽出溶媒貯留部1から上記試料と同量の抽出溶媒を採取して抽出部3の容器31内に注入する。そして、振とう手段32は、容器31内の試料と抽出溶媒とを所定時間に亘って振とうする。この結果、容器31内では、試料中の特定有機成分が抽出溶媒中に抽出される。
【0049】
この後、容器31を所定時間、静置することによって、容器31内の液は2層に分離する。そして、上部の抽出溶媒層から試料液が分離されて試料液供給管10から測定部5に供給される。測定部5は、試料液に含まれる特定有機成分の濃度を測定し、信号線11を介して算出部7に出力する。算出部7は、測定部5から入力された測定値の特定有機成分をデータベース6に登録されたデータを用いて特定し、当該特定された特定有機成分に関する分配率データをデータベース6から検索・取得する。そして、算出部7は、測定値に分配率を乗算することによって試料液中に含まれる特定有機成分の濃度を算出し、測定結果として外部に出力する。
【0050】
このような有機成分定量装置100によれば、データベース6に予め登録された各種の特定有機成分に関する分配率データを用いて試料液中に含まれる特定有機成分の濃度を容易に取得することができるので、測定対象水の濃度を取得する際の時間と手間とを従来よりも大幅に短縮することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…抽出溶媒貯留槽、2…抽出溶媒供給部、3…抽出部、5…測定部、6…データベース(記憶手段)、7…算出部、14…コンピュータ、100…有機成分定量装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知濃度の特定有機成分が特定有機溶媒に含まれる既知試料を水で抽出して水中の抽出濃度を取得することにより、特定有機溶媒と水とに関する特定有機成分の分配率を取得する分配率取得工程と、
未知濃度の特定有機成分が含まれる測定対象水を特定有機溶媒で抽出し、特定有機溶媒中における特定有機成分の抽出濃度を測定する抽出濃度取得工程と、
抽出濃度と分配率とに基づいて測定対象水における特定有機成分の濃度を求める測定対象水濃度取得工程と
を有することを特徴とする有機成分定量法。
【請求項2】
分配率取得工程では、異なる既知濃度の特定有機成分が含まれる複数の標準濃度液の抽出濃度を測定することにより分配率を取得することを特徴とする請求項1記載の有機成分定量法。
【請求項3】
分配率取得工程では、計算機化学手法に基づく理論的推定によって分配率を取得することを特徴とする請求項1記載の有機成分定量法。
【請求項4】
特定有機溶媒中の特定有機成分を水で抽出した場合における特定有機溶媒と水とに関する特定有機成分の分配率を記憶する記憶手段と、
測定対象水に特定有機溶媒を添加し、該特定有機溶媒中に特定有機成分を抽出する抽出手段と、
特定有機成分の抽出濃度を測定する測定部と、
該測定部の測定値と記憶手段に記憶された分配率とに基づいて測定対象水中に含まれる特定有機成分の濃度を算出する算出部と、
を具備することを特徴とする有機成分定量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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