説明

有機溶剤含有廃水の処理方法

【課題】有機溶剤等を前処理で易分解化することにより、活性汚泥処理を行う廃水処理施設での負荷を軽減し、処理良好な処理水質を確保するとともに発生汚泥量を低減するようにした有機溶剤含有廃水の処理方法を提供すること。
【解決手段】炭化水素化合物又はアルコール類等を含む有機溶剤含有廃水を活性汚泥を用いて生物分解する有機溶剤含有廃水の処理方法において、活性汚泥処理を行う廃水処理施設の前段に電解装置Iを設け、活性汚泥処理を行う前に有機溶剤含有廃水Aに電解処理を施すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤含有廃水の処理方法に関し、特に、有機溶剤等を前処理で易分解化することにより、活性汚泥処理を行う廃水処理施設での負荷を軽減し、処理良好な処理水質を確保するとともに発生汚泥量を低減するようにした有機溶剤含有廃水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化水素化合物及びアルコール類といった有機溶剤等を製造工程で利用し、本有機溶剤を含んだ排水を活性汚泥で処理する場合、他の雑廃水と比較し、芳香族系化合物等の難分解成分を含むため、曝気槽の汚泥濃度を高く維持する必要があり、十分な固形物濃度、滞留時間を曝気槽で確保しなければ、処理水中に有機成分が流出し、もしくは、冬季等の固形物の沈降性の悪い時期は、沈殿槽から固形物が流出、もしくは良好な処理水を得られない場合もあった。
【0003】
一方、有機溶剤含有廃水の電解処理については、これまでに下記に示す技術が提案されている。
特許文献1では、黒鉛を含む黒鉛電極、ガラス質カーボン電極、カーボンワイヤー電極を作用電極とし、酸素を含む気体の存在下において、還元電位又は還元電流で電気分解を行うことにより、有機溶剤等の分解を行うことが提案されているが、カーボン系の電極は、電解時の電気量に比例し、カーボンが溶出し、金属電極と比較すると極めて消耗が激しく、また、陽極より発生した酸化物等によりカーボン自体が自己酸化されることから、実用化が困難であるという問題があった。
【0004】
特許文献2では、金属電極の使用が提案されているが、COD(化学的酸素要求量)1000ppm以上の有機物を含む廃液と限定されているため、1000ppm未満の廃水については、処理ができないといった問題があり、さらに、第一工程で電解処理、第二工程においては、第一工程からの電解処理水を紫外線反応槽に通液して分解を行うため、装置の大型化及びイニシャルコストが大きすぎ、実用化が困難といった問題があった。
【0005】
なお、特許文献3は、電解処理により難分解な炭素源を易分解化するが、限定された微生物に資化させる微生物の培養方法であり、用途が限定されている。
【特許文献1】特開平10−216727号公報
【特許文献2】特開2003−200171号公報
【特許文献3】特開平10−290687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の有機溶剤含有廃水の処理方法が有する問題点に鑑み、有機溶剤等を前処理で易分解化することにより、活性汚泥処理を行う廃水処理施設での負荷を軽減し、処理良好な処理水質を確保するとともに発生汚泥量を低減するようにした有機溶剤含有廃水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法は、炭化水素化合物又はアルコール類等を含む有機溶剤含有廃水を活性汚泥を用いて生物分解する有機溶剤含有廃水の処理方法において、活性汚泥処理を行う廃水処理施設の前段に電解装置を設け、活性汚泥処理を行う前に有機溶剤含有廃水に電解処理を施すことを特徴とする。
【0008】
この場合において、電解装置に用いる電極板として金属電極を用いることができる。
【0009】
また、チタン基材に白金及びイリジウム又は白金をコーティングした金属電極を用い、電解時の電流密度が0.1〜100A/dmとなるように金属電極に電流を供給することができる。
【0010】
また、有機溶剤含有廃水に電解質を添加することができる。
【0011】
また、有機溶剤含有廃水に塩化ナトリウム又は塩化カリウムを0.05〜10%(W/V)の濃度で添加することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法によれば、炭化水素化合物又はアルコール類等を含む有機溶剤含有廃水を活性汚泥を用いて生物分解する有機溶剤含有廃水の処理方法において、活性汚泥処理を行う廃水処理施設の前段に電解装置を設け、活性汚泥処理を行う前に有機溶剤含有廃水に電解処理を施すことから、活性汚泥を用いた廃水処理施設に流入する炭化水素化合物及びアルコール類等の有機溶剤を電解処理により易分解し、廃水処理施設へ流入させることにより、廃水処理施設の負荷を軽減することができ、良好な処理水質を確保するとともに、負荷の低減に伴って発生汚泥量を低減し、廃棄物を削減することができる。
【0013】
この場合、電解装置に用いる電極板として金属電極を用いることにより、電極の長寿命化を図ることができる。
【0014】
また、チタン基材に白金及びイリジウム又は白金をコーティングした金属電極を用い、電解時の電流密度が0.1〜100A/dmとなるように金属電極に電流を供給することにより、電極の長寿命化を図りながら有機溶剤を効率的に電解処理することができる。
【0015】
また、有機溶剤含有廃水に電解質を添加することにより、有機溶剤を効率的に電解処理することができる。
【0016】
また、電解時の陽極近傍では、強酸化状態で被分解対象物質が酸化分解されるが、有機溶剤含有廃水に塩化ナトリウム又は塩化カリウムを0.05〜10%(W/V)の濃度で添加することにより、電極間で酸化作用の大きい次亜塩素酸が生成され、被分解対象物質はさらなる酸化分解を受ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1〜図2に、本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法の一実施例を示す。
図1に示すように、有機溶剤含有廃水Aは、電解装置Iで電解処理を施された後、易分解化された状態で、電解処理廃水Bとして曝気槽IIに供給される。
曝気槽IIでは、活性汚泥により電解処理廃水Bの有機成分を分解除去する。そして、この有機成分が除去された廃水と活性汚泥の混合液Cを沈殿槽IIIに流入させ、固液分離を経て、上澄み水が処理水Dとして放流される。
一方、固液分離された汚泥の大部分は、返送汚泥Eとして曝気槽IIに移送され、再び生物処理に供されるが、一部の汚泥は余剰汚泥Fとして、通常はさらに濃縮を行った後、濃縮汚泥の形でバキューム排出したり、濃縮汚泥を脱水して脱水ケーキの状態で搬出する。
【0019】
電解装置Iは、図2に示すように、仕切板3により電解部4と脱泡部5で分離されている。
有機溶剤含有廃水Aは、この電解装置Iの電解部4に流入するが、その前段で、電解液タンク1に貯留された塩化ナトリウム又は塩化カリウムが電解液供給ポンプ2より添加される。
電解部4には電極板8が浸漬されており、直流電源装置6から電流供給ケーブル7を介して電流が供給され、電解処理を行う。
電解処理後の被処理液は、仕切板3の後段の脱泡部5に流入し、攪拌機9により脱泡された後、電解処理廃水Bとして曝気槽IIに流入する。攪拌機9は、駆動装置91、攪拌軸92及びインペラ93を備えている。
【0020】
次に、本実施例の作用について説明する。
図2より、電解装置Iで炭化水素化合物及びアルコール類等といった有機溶剤を処理した場合の適用例を示す。
炭化水素化合物及びアルコール類、エーテル類といった有機溶剤を含む有機溶剤含有廃水Aに、電解液タンク1に貯留された塩化ナトリウム又は塩化カリウムを添加する。
これら塩化物の添加率は、0.05〜10%(W/V)、好ましくは、0.3〜7%(W/V)とする。
【0021】
電解部4では、陰陽両極間で被電解処理液が電解処理されるが、このときに使用する電極板は、金属電極で、白金及びイリジウム又は白金を熱処理もしくは電気メッキによりコーティングしたものを使用する。
被電解処理液中にCaもしくはMgといった陰極に析出する元素が混入している場合は、陰陽両極共、白金及びイリジウム又は白金をコーティングした金属電極を用い、定期的に極の変換を行い、スケールの除去を行う必要がある。
しかし、陰極への析出物が無いか、ごく少ない場合、陰極はSS、SUS304、SUS316材などでもよい。
【0022】
電解時の電流密度は、0.1〜100A/dm、好ましくは、1〜10A/dmとなるように供給する電流値を設定して電解処理を行うようにする。
電解処理時、陽極近傍では、被分解対象物質が強酸化状態で酸化分解されるとともに、塩化ナトリウムもしくは塩化カリウムといった塩素を含んだ電解質を被電解処理液に添加することにより、電極間で、酸化作用の大きい次亜塩素酸が生成され、被分解対象物質はさらに酸化分解を受ける。
これらの相乗効果により、被電解物質濃度が低濃度であっても十分な分解効果を有し、特に難分解な芳香族化合物の開環反応を促進することができる。
【0023】
次に、白金及びイリジウム又は白金をコーティングした金属電極を用い、5%の塩化ナトリウムを含んだ図3(a)に示す組成の廃水を10A/dmで電解処理した。
図3(a)より、処理前の廃水は、エタノール及びイソプロピルアルコール(以降、IPAと称す)をリッチに含む。また、廃水の総COD値は、80000mg/Lであるが、エタノール及びIPAを除いた各組成のCOD値は、1000mg/L未満の低濃度である。
【0024】
次に、電解処理後の各組成の分解率を図3(b)に示す。エタノール及びIPAの分解率は50〜60%程度であるのに対し、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレンといった芳香族系炭化水素は、何れも90%以上の高い分解率を示している。これは、電解による開環反応の促進効果が極めて大きいことを表している。
また、本廃水の処理前のBOD値が、30万mg/Lであるのに対し、電解処理後のBOD値が40万mg/Lとなり易分解化することが確認されている。
【0025】
易分解化した電解処理廃水Bを曝気槽IIに流入させることによって、汚泥転換速度が速くなり、その分、曝気槽IIに供給される酸素の消費が活性汚泥の自己消化に費やされ、余剰汚泥の発生量を70〜30%程度削減することが可能となる。
なお、電解装置Iの電解部4で電解処理を行った被電解処理液は、電解過程で一部の水の分解が進行し、酸素ガス等が発生するため、脱泡部5で攪拌機9により脱泡を行うのが望ましいが省略することも可能である。
【0026】
以上、本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法は、有機溶剤等を電解処理で易分解化することにより、活性汚泥処理を行う廃水処理施設での負荷を軽減し、処理良好な処理水質を確保するとともに発生汚泥量を低減するという特性を有していることから、例えば、炭化水素化合物及びアルコール類等の有機溶剤を製造工程で利用し、この有機溶剤を含んだ排水を活性汚泥で処理する施設で好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の有機溶剤含有廃水の処理方法の一実施例を示すフロー図である。
【図2】同有機溶剤含有廃水の処理方法で使用する電解装置を示す断面図である。
【図3】(a)は廃水の組成と濃度の一例を示すグラフ、(b)は同廃水の電解処理後の各組成の分解率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
A 有機溶剤含有廃水
B 電解処理廃水
C 混合液
D 処理水
E 返送汚泥
F 余剰汚泥
I 電解装置
II 曝気槽
III 沈殿槽
1 電解液タンク
2 電解液供給ポンプ
3 仕切板
4 電解部
5 脱泡部
6 直流電源装置
7 電流供給ケーブル
8 電極板
9 攪拌機
91 駆動装置
92 攪拌軸
93 インペラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素化合物又はアルコール類等を含む有機溶剤含有廃水を活性汚泥を用いて生物分解する有機溶剤含有廃水の処理方法において、活性汚泥処理を行う廃水処理施設の前段に電解装置を設け、活性汚泥処理を行う前に有機溶剤含有廃水に電解処理を施すことを特徴とする有機溶剤含有廃水の処理方法。
【請求項2】
電解装置に用いる電極板として金属電極を用いることを特徴とする請求項1記載の有機溶剤含有廃水の処理方法。
【請求項3】
チタン基材に白金及びイリジウム又は白金をコーティングした金属電極を用い、電解時の電流密度が0.1〜100A/dmとなるように金属電極に電流を供給することを特徴とする請求項1又は2記載の有機溶剤含有廃水の処理方法。
【請求項4】
有機溶剤含有廃水に電解質を添加することを特徴とする請求項1、2又は3記載の有機溶剤含有廃水の処理方法。
【請求項5】
有機溶剤含有廃水に塩化ナトリウム又は塩化カリウムを0.05〜10%(W/V)の濃度で添加することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の有機溶剤含有廃水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−259930(P2008−259930A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102827(P2007−102827)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】