説明

有機溶剤回収システム

【課題】酸の発生を抑制しつつ、被処理ガスから有機溶剤を高濃度かつ高収率で回収可能な有機溶剤回収システムを提供する。
【解決手段】有機溶剤回収システム1Aは、水と反応することで酸を発生する有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を回収するものであって、吸脱着処理装置100と、膜分離装置210と、凝縮回収装置300とを備える。吸脱着処理装置100は、被処理ガスに含有される有機溶剤を吸着および脱着可能な吸着材111,121を含み、被処理ガスを処理することで処理ガスと脱着ガスとを排出する。膜分離装置210は、吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスを有機溶剤を高濃度に含有する分離ガスと水蒸気とに分離して排出する。凝縮回収装置300は、膜分離装置210から排出された分離ガスを冷却することで凝縮し、有機溶剤を高濃度に含有する回収液として回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理ガスから有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムに関し、特に、水と反応することで酸を発生する有機溶剤を被処理ガスから分離して回収する有機溶剤回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を除去することで被処理ガスを清浄化して排出するとともに、除去した有機溶剤を高濃度に濃縮して回収する有機溶剤回収システムが知られている。この種の有機溶剤回収システムとしては、一般に、被処理ガスを吸着材に接触させて有機溶剤を吸着させ、これに高温の加熱ガスを吹き付けて有機溶剤を脱着させて高濃度の有機溶剤を含有する脱着ガスとして排出する吸脱着処理装置と、当該吸脱着処理装置から排出された高濃度の有機溶剤を含有する脱着ガスを凝縮させてこれを分離槽において分液することで分離水と高濃度の有機溶剤を含有する液とに分離し、このうちの高濃度の有機溶剤を含有する液を回収液として回収する凝縮回収装置との組み合わせにて構成されている(たとえば、実公昭7−2028号公報(特許文献1)、実公昭7−2029号公報(特許文献2)、実公昭7−2030号公報(特許文献3)等参照)。
【0003】
また、回収する有機溶剤の収率をさらに高めることを目的として、上述した従来の有機溶剤回収システムの凝縮回収装置の下流側にさらに浸透気化分離法に基づいた膜分離装置を追加した構成の有機溶剤回収システムが提案されている(特開2009−66530号公報(特許文献4)参照)。この特許文献4に開示された有機溶剤回収システムは、凝縮回収装置にて回収された高濃度の有機溶剤を含有する液をさらに浸透気化分離法に基づいた膜分離装置に導入し、膜分離装置において当該高濃度の有機溶剤を含有する液からさらに水を分離して除去することにより、より高濃度の回収液が得られるように構成したものである。また、当該有機溶剤回収システムにおいては、さらに膜分離装置にて分離された主として水を多く含む透過液を凝縮回収装置の分離槽に戻すことにより、有機溶剤の収率をさらに高めるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭7−2028号公報
【特許文献2】実公昭7−2029号公報
【特許文献3】実公昭7−2030号公報
【特許文献4】特開2009−66530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高濃度の有機溶剤を含有する回収液は、経済面や環境面の観点から、回収後においてその再利用が行なわれることが好ましい。しかしながら、被処理ガスに含有される有機溶剤が酢酸エステルや塩基性化合物である場合には、当該有機溶剤が被処理ガスに含まれる水蒸気や上述した吸脱着処理装置において導入される加熱ガスに含まれる水蒸気、あるいはこれら水蒸気が凝縮した後の水と反応して酸を発生させてしまうことが知られている。たとえば、被処理ガスに酢酸エステルが含有されている場合には、加水分解反応が起こることによって酢酸エステルの一部が分解して酢酸が発生することが知られている。
【0006】
そのため、従来の有機溶剤回収システムにおいては、回収した回収液に酸が一定の濃度で含有されてしまう場合があり、再利用の際に支障を来たすこととなっていた。したがって、このような水と反応することで酸を発生する有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムにおいては、酸の発生を可能な限り抑制する対策を採ることが必要となっている。
【0007】
したがって、本発明は、上述の問題点を解決すべくなされたものであり、水と反応することで酸を発生する有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を回収するに際し、酸の発生を抑制しつつ、有機溶剤を高濃度かつ高収率で回収可能な有機溶剤回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づく有機溶剤回収システムは、水と反応することで酸を発生する有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を回収するものであって、吸脱着処理装置と、膜分離装置と、凝縮回収装置とを備えている。上記吸脱着処理装置は、被処理ガスを接触させることで有機溶剤を吸着し、加熱ガスを接触させることで当該吸着した有機溶剤を脱着する吸着素子を含んでおり、上記吸着素子に被処理ガスを供給することで有機溶剤を上記吸着素子に吸着させて処理ガスとして排出し、上記吸着素子に加熱ガスを供給することで有機溶剤を上記吸着素子から脱着させて有機溶剤を含有する脱着ガスとして排出するものである。上記膜分離装置は、脱着ガスを接触させることで脱着ガスに含有される水蒸気を選択的に透過して分離する分離膜を含んでおり、上記吸脱着処理装置から排出された脱着ガスを上記分離膜に供給することで有機溶剤を含有する分離ガスと水蒸気とに分離して排出するものである。そして、上記凝縮回収装置は、上記膜分離装置から排出された分離ガスを冷却することで凝縮し、有機溶剤を高濃度に含有する回収液として回収するものである。
【0009】
上記本発明に基づく有機溶剤回収システムにあっては、上記吸着素子が活性炭素繊維であることが好ましい。
【0010】
上記本発明に基づく有機溶剤回収システムにあっては、上記加熱ガスが水蒸気であることが好ましい。
【0011】
上記本発明に基づく有機溶剤回収システムにあっては、上記分離膜が炭素膜であることが好ましい。
【0012】
上記本発明に基づく有機溶剤回収システムにあっては、上記分離膜が中空糸構造を有していることが好ましい。
【0013】
上記本発明に基づく有機溶剤回収システムは、上記被処理ガスが有機溶剤として酢酸エステルおよび塩基性化合物の少なくともいずれかを含んでいる場合に特に好適に利用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水と反応することで酸を発生する有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を回収するに際し、酸の発生を抑制しつつ、有機溶剤を高濃度かつ高収率で回収可能な有機溶剤回収システムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における有機溶剤回収システムのシステム構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における有機溶剤回収システムの膜分離装置の模式断面図である。
【図3】比較例に係る有機溶剤回収システムのシステム構成図である。
【図4】検証試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一または対応する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さないこととする。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態における有機溶剤回収システムのシステム構成図であり、図2は、図1に示す膜分離装置の模式断面図である。まず、これら図1および図2を参照して、本実施の形態における有機溶剤回収システムの構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Aは、吸脱着処理装置100と、膜分離装置210を含む分離装置200と、凝縮回収装置300とを備えている。
【0019】
吸脱着処理装置100は、吸着素子としての吸着材111,121がそれぞれ収容された第1処理槽110および第2処理槽120を有している。吸着材111,121は、被処理ガスを接触させることで被処理ガスに含有される有機溶剤を吸着する。したがって、吸脱着処理装置100においては、吸着材111,121に被処理ガスを供給することで有機溶剤が吸着材111,121によって吸着され、これにより被処理ガスが清浄化されて処理ガスとして排出されることになる。また、吸着材111,121は、加熱ガスとしての水蒸気を接触させることで吸着した有機溶剤を脱着する。したがって、吸脱着処理装置100においては、吸着材111,121に水蒸気を供給することで有機溶剤が吸着材111,121から脱着され、これにより水蒸気が有機溶剤を含有する脱着ガスとして排出されることになる。なお、有機溶剤の脱着のために吸脱着処理装置100に導入される加熱ガスとしては、水蒸気の他にも高温の不活性ガス等が利用可能である。
【0020】
第1処理槽110および第2処理槽120には、配管ラインL1,L2,L3,L4がそれぞれ接続されている。配管ラインL1は、有機溶剤を含有する被処理ガスを第1処理槽110および第2処理槽120に供給するための配管ラインであり、バルブV101,V102によって第1処理槽110および第2処理槽120に対する接続/非接続状態が切り替えられる。配管ラインL2は、水蒸気を第1処理槽110および第2処理槽120に供給するための配管ラインであり、バルブV103,V104によって第1処理槽110および第2処理槽120に対する接続/非接続状態が切り替えられる。配管ラインL3は、処理ガスを第1処理槽110および第2処理槽120から排出するための配管であり、バルブV105,V106によって第1処理槽110および第2処理槽120に対する接続/非接続状態が切り替えられる。配管ラインL4は、脱着ガスを第1処理槽110および第2処理槽120から排出するための配管ラインであり、バルブV101,V102によって第1処理槽110および第2処理槽120に対する接続/非接続状態が切り替えられる。
【0021】
第1処理槽110と第2処理槽120とは、上述したバルブV101〜V106の開閉を操作することによって交互に吸着槽および脱着槽として機能し、具体的には、第1処理槽110が吸着槽として機能している場合には、第2処理槽120が脱着槽として機能し、第1処理槽110が脱着槽として機能している場合には、第2処理槽120が吸着槽として機能する。すなわち、本実施の形態における吸脱着処理装置100においては、吸着槽と脱着槽とが経時的に交互に切り替わるように構成されている。なお、配管ラインL1は、第1処理槽110および第2処理槽120のうち、吸着槽として機能している槽に接続されて当該吸着槽に被処理ガスを供給し、配管ラインL2は、第1処理槽110および第2処理槽120のうち、脱着槽として機能している槽に接続されて当該脱着槽に水蒸気を供給する。また、配管ラインL3は、第1処理槽110および第2処理槽120のうち、吸着槽として機能している槽に接続されて当該吸着槽から処理ガスを排出し、配管ラインL4は、第1処理槽110および第2処理槽120のうち、脱着槽として機能している槽に接続されて脱着ガスを排出する。
【0022】
吸着材111,121は、活性炭、活性炭素繊維またはゼオライトの少なくともいずれかを含む部材にて構成されている。好適には、吸着材111,121としては、粒状、粒体状、ハニカム状等の活性炭やゼオライトが利用されるが、より好適には、活性炭素繊維が利用される。活性炭素繊維は、表面にミクロ孔を有する繊維状構造を有しているため、ガスとの接触効率が高く、他の吸着素子に比べて高い吸着効率を実現できる部材である。
【0023】
分離装置200は、膜分離装置210と、コンデンサ220とを有している。膜分離装置210は、いわゆる蒸気透過分離法(ガス透過分離法)に基づいて脱着ガスに含有される水蒸気を当該脱着ガスから選択的に分離するための装置であり、コンデンサ220は、膜分離装置210にて分離された水蒸気を冷却水等を用いて凝縮させて分離水として排出するための装置である。
【0024】
膜分離装置210は、配管ラインL4,L5,L7にそれぞれ接続されており、コンデンサ220は、配管ラインL5,L6にそれぞれ接続されている。配管ラインL4は、上述した吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスを膜分離装置210に供給するための配管ラインであり、配管ラインL5は、膜分離装置210にて分離されて排出された水蒸気をコンデンサ220に供給するための配管ラインである。配管ラインL6は、コンデンサ220で凝縮することで得られた分離水をコンデンサ220から排出するための配管ラインであり、配管ラインL7は、膜分離装置210にて分離されて排出された分離ガスを膜分離装置210から排出するための配管ラインである。なお、膜分離装置210は、図示する如く単数基にて構成してもよいが、複数基を並列や直列に配置して構成することも可能である。さらには、膜分離装置210から排出される分離ガスを再び脱着ガスとして膜分離装置210に戻して循環させて処理することとしてもよい。このように構成することにより、有機溶剤の収率を高めることが可能になる。
【0025】
図2に示すように、膜分離装置210は、外殻となるシェル211と、シェル211の内部に収容された内部中空の分離膜212と、分離膜212の内部中空に連通するように接続された吸引管214とを主として備えている。ここで、分離膜212は、脱着ガスを接触させることで脱着ガスに含有される水蒸気を選択的に透過して当該脱着ガスに含まれる他の成分から分離する膜である。
【0026】
シェル211は、配管ラインL4に接続されることで吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスをシェル211の内部に導入するための導入口215と、配管ラインL7に接続されることでシェル211の内部に通風された後の脱着ガスを分離ガスとしてシェル211から導出するための導出口216とを有している。分離膜212は、その一端が支持部材213aによって支持されるとともに、他端が支持部材213bによって支持されて吸引管214に接続されている。吸引管214は、配管ラインL5に接続されることで図示しない真空ポンプおよびコンデンサ220に接続されている。
【0027】
ここで、分離膜212としては、たとえば各種の無機膜や高分子膜の利用が可能であるが、特に好適には炭素膜が利用される。これは、脱着ガスが高温のガスであることや、脱着ガスに酸が僅かながら含有される可能性があるためであり、耐熱性や耐酸性等に優れた炭素膜を利用することで、膜分離装置210の高寿命化が図られるためである。
【0028】
なお、分離膜212として炭素膜を利用した場合にも、炭素膜に含有される金属によって膜分離装置210内においても水分との反応によって酸が発生する場合がある。そのため、炭素膜中の金属種や量を適宜調節することで酸の発生を抑制することが好ましい。具体的には、原料の選定や炭素膜製造条件の調整によって、F,P,S,Cl,K,Ca,Cr,Fe,Zn,Na,Mg,Cu,Co,Mn,Ni等の金属の含有量がそれぞれ500ppm以下に抑えることが好ましい。さらには、炭素膜の製造過程もしくは後処理によって、例えば塩酸等の無機酸で炭素膜中の金属を洗浄することで炭素膜中の金属量を低減することも可能である。
【0029】
また、分離膜212は、中空糸構造を有していることが好ましい。これは、中空糸構造を有する分離膜212を利用することにより、他のチューブ構造等を有する分離膜を利用する場合に比べて、分離膜の単位容積当たりの表面積を大きくすることが可能となって膜分離装置210の分離能を高めることができるためであり、その結果、膜分離装置210の小型化、低コスト化および省エネルギー化が可能になることになる。
【0030】
なお、中空糸構造を有する炭素膜の原料としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフルフリルアルコール、フェノール樹脂などが挙げられるが、特にその原料が限定されるものではない。
【0031】
上述した中空糸構造を有する炭素膜とは、上述の樹脂原料等を中空状に加工し、さらにそれを不活性雰囲気中で熱処理したものである。熱処理温度としては、樹脂の熱分解開始温度以上であり、一般的には250℃以上である。不活性雰囲気中の熱処理温度は、膜分離の性能に直結するため、最適な温度を選定することができる。しかし、温度が高すぎると熱収縮で炭素膜の細孔が閉塞してしまうため、上限としては1300℃程度までが望ましい。
【0032】
また、不活性雰囲気中の熱処理の前に、空気中での熱処理(耐炎化、不融化、熱安定化ともいう)や、樹脂に難燃剤などを付与することも可能である。また、不活性雰囲気中の熱処理の後に、薬品による処理や、熱処理などによる表面処理を加えてもよい。炭素膜は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄などの元素と、前述の金属成分で構成され、主成分としては炭素であり、その含有率は60%以上である。炭素の含有量の上限としては、特に制限はないが、99.9%程度が事実上の上限である。
【0033】
凝縮回収装置300は、コンデンサ310と、回収タンク320とを有している。コンデンサ310は、冷却水等を用いて分離ガスを凝縮させて液化させるための装置であり、回収タンク320は、コンデンサ310にて凝縮されることで得られる高濃度の有機溶剤を含有する液を回収液として貯留するためのタンクである。
【0034】
コンデンサ310は、配管ラインL7,L8にそれぞれ接続されており、回収タンク320は、配管ラインL8,L9にそれぞれ接続されている。配管ラインL7は、上述した膜分離装置210から排出された分離ガスをコンデンサ310に供給するための配管ラインであり、配管ラインL8は、コンデンサ310で凝縮されることで得られた回収液を回収タンク320に供給するための配管ラインである。配管ラインL9は、回収タンク320に貯留された回収液を外部に排出するための配管ラインである。
【0035】
次に、上記図1を参照して、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Aにおいて行なわれる処理の詳細について説明する。なお、以下の説明は、吸脱着処理装置100の第1処理槽110が吸着槽として機能し、第2処理槽120が脱着槽として機能している状態に基づいたものであるが、これら吸着槽と脱着槽とが入れ替わった場合にも、同様の処理が行なわれる。
【0036】
図1に示すように、酢酸エステルまたは塩基性化合物を含む被処理ガスは、配管ラインL1を経由して吸脱着処理装置100に導入される。導入された被処理ガスは、第1処理槽110に送られて吸着材111と接触し、当該被処理ガスに含有される有機溶剤が吸着材111によって吸着される。有機溶剤が吸着材111によって吸着された後のガスは、配管ラインL3に導入されて処理ガスとして吸脱着処理装置100から排出される。
【0037】
一方、吸脱着処理装置100には、上記被処理ガスの導入と並行して、配管ラインL2を経由して水蒸気が導入される。導入された水蒸気は、第2処理槽120に送られて吸着材121と接触し、吸着材121に吸着された有機溶剤を脱着させる。吸着材121から脱着された有機溶剤を含む水蒸気は、配管ラインL4に導入されて脱着ガスとして吸脱着処理装置100から排出される。
【0038】
吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスは、配管ラインL4を経由して分離装置200に送られる。分離装置200に送られた脱着ガスは、まず膜分離装置210に導入される。膜分離装置210においては、シェル211に設けられた導入口215を介して配管ラインL4から脱着ガスが導入され、導入された脱着ガスは、シェル211の内部を通過する際に分離膜212に接触する。このとき、図示しない真空ポンプの作用により、脱着ガスに含有される水蒸気が分離膜212を透過し、分離膜212の内部中空に導入され、さらに真空ポンプの作用によって吸引管214を介して膜分離装置210の外部へと排出される。膜分離装置210から排出された水蒸気は、配管ラインL5を経由してコンデンサ220へと供給され、コンデンサ220にて冷却されることで凝縮して分離水となり、配管ラインL6を介して排出される。一方、シェル211の内部を通過した後の脱着ガスは、シェル211に設けられた導出口216を介して分離ガスとして配管ラインL7に導入されて膜分離装置210から排出される。
【0039】
膜分離装置210から排出された分離ガスは、配管ラインL7を経由して凝縮回収装置300に送られる。凝縮回収装置300に送られた分離ガスは、まずコンデンサ310に導入されて冷却される。冷却されることで凝縮して液化した高濃度の有機溶剤を含有する液は、配管ラインL8を介して回収液として排出され、回収タンク320にて貯留される。その後、回収タンク320に貯留された回収液は、所定量が貯まった時点で配管ラインL9を介して有機溶剤回収システム1Aの外部へと排出される。
【0040】
以上において説明した本実施の形態における有機溶剤回収システム1Aとすることにより、吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスを凝縮回収装置300において凝縮させる前に、分離装置200の膜分離装置210に導入して当該膜分離装置210において脱着ガスに含有される水蒸気を選択的に脱着ガスから分離することが可能になるため、有機溶剤と水蒸気または水とが混在する時間を可能な限り短くすることができる。すなわち、脱着ガスを早期に有機溶剤と水蒸気とに分離することにより、水と反応することで酸を発生する有機溶剤と水または水蒸気との接触時間を従来の有機溶剤回収システムに比して大幅に少なくすることができ、酸が生じる反応が起こることを効果的に抑制することができる。したがって、上述した本実施の形態における有機溶剤回収システム1Aとすることにより、酸の発生を抑制しつつ、有機溶剤を高濃度かつ高収率で回収することが可能になる。
【0041】
特に、酸が生じる反応は、従来の有機溶剤回収システムにおける凝縮回収装置の分離槽において有機溶剤と水とが共存した状態でこれを長時間滞留させているためにその進行が顕著となっていた。そのため、従来の有機溶剤回収システムにおいては、特に夜間等設備の稼動を停止した後に分離槽において酸が生じる反応が進行していたことになるが、上述した本実施の形態における有機溶剤回収システム1Aとすれば、このような分離槽における有機溶剤と水との共存状態がそもそも存在しないため、酸の発生を確実に抑制することができる。
【0042】
以下においては、本発明による効果を検証するために行なった検証試験について詳説する。本検証試験においては、実施例として上述した本実施の形態における有機溶剤回収システム1Aを試作し、これを用いて有機溶剤を回収した場合に回収液に含まれることとなる酸の濃度を測定するとともに、比較例として上述した従来の有機溶剤回収システムを製作し、これを用いて有機溶剤を回収した場合に回収液に含まれることとなる酸の濃度を測定し、これらの結果を比較することによって本発明の効果を検証した。
【0043】
図3は、比較例に係る有機溶剤回収システムのシステム構成図であり、図4は、検証試験の結果を示す表である。以下においては、まず、図3を参照して比較例に係る有機溶剤回収システムの構成について詳細に説明し、その後に、図4を参照して検証試験の結果について説明する。
【0044】
比較例に係る有機溶剤回収システム1Bは、実施例に係る有機溶剤回収システム(図1に示す有機溶剤回収システム1A)と、吸脱着処理装置100を除く部分において相違している。すなわち、比較例に係る有機溶剤回収システム1Bは、実施例に係る有機溶剤回収システム1Aの分離装置200および凝縮回収装置300に代えて、分液回収装置400を備えている。
【0045】
分液回収装置400は、コンデンサ410と、セパレータ420とを有している。コンデンサ410は、冷却水等を用いて脱着ガスを凝縮させて液化させる装置であり、セパレータ420は、脱着ガスを液化させることで得られる液を比重差に基づいて分液することで有機溶剤を高濃度に含有する回収液と分離水とに分離する装置である。
【0046】
コンデンサ410は、配管ラインL4,L10にそれぞれ接続されており、セパレータ420は、配管ラインL10,L11,L12にそれぞれ接続されている。配管ラインL4は、吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスをコンデンサ410に供給するための配管ラインであり、配管ラインL10は、コンデンサ410で生成された液をセパレータ420に供給するための配管ラインである。配管ラインL11は、セパレータ420で分液された回収液をセパレータ420から排出するための配管ラインであり、配管ラインL12は、セパレータ420で分液された分離水をセパレータ420から排出するための配管ラインである。
【0047】
上記比較例に係る有機溶剤回収システム1Bにおいては、吸脱着処理装置100から排出された脱着ガスが、配管ラインL4を経由して分液回収装置400に導入される。導入された脱着ガスは、コンデンサ410に送られて凝縮されて液化する。コンデンサ410で生成された液は、配管ラインL10を経由してセパレータ420に送られ、セパレータ420において比重差に基づいて分液され、有機溶剤を高濃度に含有する回収液と分離水とに分離される。有機溶剤を高濃度に含有する回収液は、配管ラインL11に導入されて分液回収装置400から排出されて回収され、分離水は、配管ラインL12に導入されて分液回収装置400から排出される。
【0048】
本検証試験においては、水と反応することで酸を発生する有機溶剤として酢酸エチルを2000ppmの濃度で含有する40℃の被処理ガスを用い、これを実施例に係る有機溶剤回収システム1Aおよび比較例に係る有機溶剤回収システム1Bにそれぞれ導入することで処理を行なった。ここで、吸脱着処理装置100は、いずれの有機溶剤回収システムにおいても同様のものを使用し、吸着材111,121としては、平均細孔径17.4Å、BET比表面積1650m2/g、全細孔容積0.66cm3/gの活性炭素繊維を用いた。
【0049】
まず、上記被処理ガスを図示しない送風機を用いて吸脱着処理装置100の一方の処理槽に風量100Nm3/minで10分間送風することによって吸着処理を行ない、当該被処理ガスを清浄化して処理ガスとして排出した。その場合に、吸脱着処理装置100から排出される処理ガスに含有される酢酸エチルの濃度は、実施例に係る有機溶剤回収システム1Aおよび比較例に係る有機溶剤回収システム1Bのいずれにおいても20ppmであることが確認され、99%の除去率で吸脱着処理装置100によって酢酸エチルが除去されていることが確認された。
【0050】
上述した10分間の送風の後、バルブV101〜V106を切り替え操作し、上記一方の処理槽を脱着槽に切り替えるとともに、残る処理槽を吸着槽とした。脱着槽においては、水蒸気を導入することで吸着材の脱着処理を行ない、吸着槽においては、上述した条件と同様の条件で吸着処理を行なった。この吸着処理と脱着処理の操作を各処理槽で交互に繰り返して実施した。
【0051】
実施例に係る有機溶剤回収システム1Aにおいては、膜分離装置210の分離膜212として中空糸構造を有する炭素膜を使用し、脱着槽から排出される100℃の脱着ガスを当該膜分離装置210に導入し、蒸気透過分離法により酢酸エチルと水蒸気に分離した。その後、酢酸エチルを高濃度で含有する分離ガスを凝縮回収装置300に導入して32℃の冷却水で冷却して凝縮させ、酢酸エチルを高濃度で含有する回収液を得た。得られた回収液の濃度を分析した結果、当該回収液における酢酸エチルの含有率が99.15wt%であり、酢酸の濃度が502ppmであり、エタノールの濃度が248ppmであり、水の含有率が0.1wt%であることが確認された(図4参照)。
【0052】
比較例に係る有機溶剤回収システム1Bにおいては、脱着槽から排出される100℃の脱着ガスを分液回収装置400に導入して32℃の冷却水で冷却して凝縮させ、凝縮後の液を分離槽420にて分液することで酢酸エチルを高濃度で含有する回収液を得た。得られた回収液の濃度を分析した結果、当該回収液における酢酸エチルの含有率が96.85wt%であり、酢酸の濃度が994ppmであり、エタノールの濃度が506ppmであり、水の含有率が3.0wt%であることが確認された(図4参照)。
【0053】
以上の結果より、実施例に係る有機溶剤回収システム1Aとすることにより、比較例に係る有機溶剤回収システム1Bとするよりも、酢酸の発生を抑制しつつ、酢酸エチルを高濃度かつ高収率で回収することができることが確認された。
【0054】
なお、上述した本実施の形態における有機溶剤回収システムにおいては、ポンプやファン等の流体搬送手段やストレージタンク等の流体貯留手段などの構成要素を特に詳細に示すことなく説明を行なったが、これら構成要素は必要に応じて適宜の位置に配置すればよい。
【0055】
また、上述した本実施の形態における有機溶剤回収システムにおいては、吸脱着処理装置として、吸着材が収容された処理槽を2つ具備し、これらが経時的に交互に吸着槽および脱着槽に切り替えられることで連続的に被処理ガスの処理が可能に構成されたものを例示して説明を行なったが、必ずしも連続的に被処理ガスを処理する必要がない場合には、吸脱着処理装置を単一の処理槽を具備したもので構成してもよい。また、被処理ガスを連続的に処理する必要がある場合にも、上述の切り替え式の吸脱着処理装置に代えて、吸着材の一部分を吸着処理ゾーンとして使用するとともに、吸着剤の残る部分を脱着処理ゾーンとして使用し、これら吸着処理ゾーンおよび脱着処理ゾーンが吸着材の回転動作に伴って徐々に移動するように構成した回転式の吸着材を具備した吸脱着処理装置を使用することとしてもよい。
【0056】
このように、今回開示した上記一実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0057】
1A 有機溶剤回収システム、100 吸脱着処理装置、110 第1処理槽、111 吸着材、120 第2処理槽、121 吸着材、200 分離装置、210 膜分離装置、211 シェル、212 分離膜、213a,213b 支持部材、214 吸引管、215 導入口、216 導出口、220 コンデンサ、300 凝縮回収装置、310 コンデンサ、320 回収タンク、L1〜L9 配管ライン、V101〜V106 バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と反応することで酸を発生する有機溶剤を含有する被処理ガスから当該有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムであって、
被処理ガスを接触させることで有機溶剤を吸着し、加熱ガスを接触させることで当該吸着した有機溶剤を脱着する吸着素子を含み、前記吸着素子に被処理ガスを供給することで有機溶剤を前記吸着素子に吸着させて処理ガスとして排出し、前記吸着素子に加熱ガスを供給することで有機溶剤を前記吸着素子から脱着させて有機溶剤を含有する脱着ガスとして排出する吸脱着処理装置と、
脱着ガスを接触させることで脱着ガスに含有される水蒸気を選択的に透過して分離する分離膜を含み、前記吸脱着処理装置から排出された脱着ガスを前記分離膜に供給することで有機溶剤を含有する分離ガスと水蒸気とに分離して排出する膜分離装置と、
前記膜分離装置から排出された分離ガスを冷却することで凝縮し、有機溶剤を高濃度に含有する回収液として回収する凝縮回収装置とを備えた、有機溶剤回収システム。
【請求項2】
前記吸着素子が、活性炭素繊維である、請求項1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項3】
前記加熱ガスが、水蒸気である、請求項1または2に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項4】
前記分離膜が、炭素膜である、請求項1から3のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項5】
前記分離膜が、中空糸構造を有している、請求項1から4のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項6】
前記被処理ガスが、有機溶剤として酢酸エステルおよび塩基性化合物の少なくともいずれかを含んでいる、請求項1から5のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−92870(P2011−92870A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249812(P2009−249812)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】