説明

有機溶剤回収システム

【課題】有機溶剤が十分に吸着除去された排ガスのみを排気する。
【解決手段】有機溶剤を可逆的に吸着および脱着可能な吸着素子を有する有機溶剤濃縮装置200と、有機溶剤濃縮装置200により有機溶剤が濃縮された排ガスを冷却して有機溶剤を凝縮させて回収する冷却回収装置とを備える。吸着素子は、所定の温度以上の排ガスを通流されると吸着していた有機溶剤を脱着し、かつ、所定の温度より低い排ガスを通流されると排ガス中の有機溶剤を吸着する。有機溶剤濃縮装置200は、所定の温度以上の排ガスを通流される脱着部、および、所定の温度より低い排ガスを通流される吸着部を含む。有機溶剤回収システムは、吸着部を通流した所定の温度より低い排ガスのうち、有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスG10aのみを系外に排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤回収システムに関し、特に、排ガスから有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスから有機溶剤を回収する有機溶剤含有ガス処理システムを開示した先行文献として特許文献1がある。特許文献1に記載された有機溶剤含有ガス処理システムにおいては、吸着材を含有した吸着素子により有機溶剤含有ガス中の有機溶剤を吸着除去させると共に、一方で吸着した有機溶剤を加熱空気により脱着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−44595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着素子の有機溶剤を吸着する性能は、吸着素子の温度が高くなると低くなる。そのため、排ガスの温度によっては吸着素子の吸着性能が十分に発揮されずに有機溶剤の吸着除去が不十分となる場合がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、有機溶剤が十分に吸着除去された排ガスのみを排気することができる、有機溶剤回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づく有機溶剤回収システムは、有機溶剤を含有する排ガスを循環させつつ排ガスから有機溶剤を分離して回収する有機溶剤回収システムである。有機溶剤回収システムは、有機溶剤を可逆的に吸着および脱着可能な吸着素子を有する有機溶剤濃縮装置と、有機溶剤濃縮装置により有機溶剤が濃縮された排ガスを冷却して有機溶剤を凝縮させて回収する冷却回収装置とを備える。吸着素子は、所定の温度以上の排ガスを通流されると吸着していた有機溶剤を脱着し、かつ、所定の温度より低い排ガスを通流されると排ガス中の有機溶剤を吸着する。有機溶剤濃縮装置は、所定の温度以上の排ガスを通流される脱着部、および、所定の温度より低い排ガスを通流される吸着部を含む。有機溶剤回収システムは、吸着部を通流した所定の温度より低い排ガスのうち、有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスのみを系外に排気する。
【0007】
好ましくは、有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスの一部のみを系外に排気し、排ガスの残部を系内で循環させる。
【0008】
本発明の一形態においては、有機溶剤濃縮装置が、回転軸および回転軸の周囲に吸着素子が位置して回転軸の軸方向に排ガスを通流される筒状吸着体を含む。所定の温度以上の排ガスは、筒状吸着体の軸方向の一方端側から筒状吸着体の一部に通流される。所定の温度より低い排ガスは、筒状吸着体の軸方向の他方端側から筒状吸着体の他の一部に通流される。筒状吸着体が回転軸を中心に回転されることにより、一部が脱着部となり、かつ、他の一部が吸着部となる。
【0009】
好ましくは、有機溶剤濃縮装置が、筒状吸着体の一方端側の端部に、吸着部を通流して有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスのみを排気する排気部を有する。
【0010】
本発明の一形態においては、排気部が、回転軸を中心に筒状吸着体に対して移動可能である。
【0011】
好ましくは、有機溶剤濃縮装置が、脱着部と吸着部との間に、吸着部を通流した所定の温度より低い排ガスを通流されるパージ部をさらに有する。筒状吸着体が回転軸を中心に回転されることにより、筒状吸着体の一部が脱着部の終端と吸着部の始端との間でパージ部となる。パージ部に排ガスが通流されることにより、パージ部の吸着素子が冷却される。パージ部を通流された排ガスは、冷却回収装置により冷却された排ガスと混合されて吸着部に通流される。
【0012】
本発明の一形態においては、パージ部を通流された排ガスの一部は、脱着部または冷却回収装置に通流される。パージ部を通流された排ガスの残部は、冷却回収装置により冷却された排ガスと混合されて吸着部に通流される。吸着部に通流される排ガスの残部と冷却された排ガスとの流量比を調節することにより、吸着部に通流される排ガスの温度を調節する。
【0013】
好ましくは、有機溶剤濃縮装置におけるパージ部の吸着部に対する割合は、5%以上50%以下である。
【0014】
本発明の一形態においては、有機溶剤は、n−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはn−デカンである。
【0015】
本発明の一形態においては、上記の所定の濃度が50ppmである。
好ましくは、吸着素子が、活性炭または疎水性ゼオライトを含有している。
【0016】
本発明の一形態においては、上記の所定の温度が50℃である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機溶剤が十分に吸着除去された排ガスのみを排気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係る有機溶剤回収システムの構成を示す系統図である。
【図2】同実施形態に係る有機溶剤濃縮装置の構造を通流される排ガスとともに示す斜視図である。
【図3】同実施形態に係る有機溶剤濃縮装置において、吸着処理され後の排ガスの有機溶剤濃度によって吸着部を複数の吸着領域に区分けして示す筒状吸着体の側面図である。
【図4】同実施形態に係る有機溶剤濃縮装置において、吸着処理され後の排ガスの有機溶剤濃度を吸着部の吸着領域ごとに示す図である。
【図5】同実施形態に係る有機溶剤濃縮装置において、排ガスを系外に排出するためのチャンバーを配置した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る有機溶剤回収システムの構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態1に係る有機溶剤回収システムについて図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る有機溶剤回収システムの構成を示す系統図である。図1に示すように、本発明の実施形態1に係る有機溶剤回収システム1には、各種工場または研究施設などに設けられて、有機溶剤を含有する排ガスを排出する生産設備1000が含まれている。
【0021】
本実施形態に係る有機溶剤回収システム1は、生産設備1000から排出された有機溶剤を含有する排ガスを循環させつつ排ガスから有機溶剤を分離して回収する有機溶剤回収システムである。
【0022】
有機溶剤回収システム1においては、生産設備1000と有機溶剤濃縮装置200と冷却器300および回収タンク400を有する冷却回収装置と熱交換器600と給気ヒータ100とが接続されている。以下、各構成の機能を説明する。
【0023】
有機溶剤濃縮装置200は、有機溶剤を可逆的に吸着および脱着可能な吸着素子を有する。吸着素子は、所定の温度以上の排ガスを通流されると吸着していた有機溶剤を脱着し、かつ、所定の温度より低い排ガスを通流されると排ガス中の有機溶剤を吸着する。
【0024】
本実施形態においては、活性炭を含有する吸着素子を用いたが、疎水性ゼオライトを含有する吸着素子を用いてもよい。活性炭および疎水性ゼオライトを含有する吸着素子を用いた場合には、約50℃以上の排ガスを通流されると吸着していた有機溶剤を脱着し、かつ、約50℃より低い排ガスを通流されると排ガス中の有機溶剤を吸着する。また、本実施形態の排ガスは、n−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびn−デカンなどの有機溶剤を含有する排ガスである。
【0025】
有機溶剤濃縮装置200は、所定の温度以上の排ガスを通流される脱着部21、および、所定の温度より低い排ガスを通流される吸着部22を含む。本実施形態においては、有機溶剤濃縮装置200は、脱着部21と吸着部22との間に、吸着部22を通流した所定の温度より低い排ガスを通流されるパージ部23をさらに有する。ただし、有機溶剤濃縮装置200は、パージ部23を有さなくてもよい。
【0026】
冷却回収装置は、上述の通り冷却器300および回収タンク400を有し、有機溶剤濃縮装置200により有機溶剤が濃縮された排ガスを冷却して有機溶剤を凝縮させて回収する。冷却器300は、冷却水などを用いて排ガスを冷却して凝縮させることにより、有機溶剤を高濃度に含有する回収液と、有機溶剤を低濃度に含有する排ガスとを分離する。有機溶剤を高濃度に含有する回収液は、回収タンク400に回収される。
【0027】
熱交換器600においては、異なる配管を通流される排ガス同士の間で熱交換が行なわれる。給気ヒータ100は、生産設備1000に給気される排ガスを所定の温度まで加熱する。
【0028】
以下、各構成の接続関係について説明する。
生産設備1000と有機溶剤濃縮装置200とは、配管L1により接続され、配管L1にはバルブV111が設けられている。配管L1は、有機溶剤濃縮装置200の脱着部21に接続されている。
【0029】
有機溶剤濃縮装置200と熱交換器600とは、配管L5により接続されている。配管L5は、有機溶剤濃縮装置200の脱着部21に接続されている。配管L1の生産設備1000とバルブV111との間の位置に、配管L5と繋がった配管L9が接続されている。配管L9にはバルブV112が設けられている。
【0030】
熱交換器600と冷却器300とは、配管L7により接続されている。冷却器300と回収タンク400とは、配管L6により接続されている。冷却器300と有機溶剤濃縮装置200とは、配管L2により接続されている。配管L2は、有機溶剤濃縮装置200の吸着部22に接続されている。
【0031】
有機溶剤濃縮装置200と熱交換器600とは、配管L3により接続されている。配管L3にはバルブV113が設けられている。配管L3の有機溶剤濃縮装置200の吸着部22とバルブV113との間の位置に、有機溶剤濃縮装置200のパージ部23に繋がった配管L10が接続されている。配管L10にはバルブV114が設けられている。配管L2には、有機溶剤濃縮装置200のパージ部23に繋がった配管L11が接続されている。
【0032】
熱交換器600と給気ヒータ100とは、配管L8により接続されている。給気ヒータ100と生産設備1000とは、配管L4により接続されている。有機溶剤濃縮装置200の吸着部22には、排ガスを系外に排気するための配管L12が接続されている。配管L12には、配管L8に繋がった配管L13が接続されている。配管L13にはバルブV117が設けられている。
【0033】
図1においては、簡単のため、熱交換器600を2つ図示しているが、設けられる熱交換器は1つでよい。熱交換器600は、配管L3,L8間の熱エネルギーと、配管L5,L7間の熱エネルギーとを交換することができる。
【0034】
以下、有機溶剤回収システム1を循環する排ガスの流動経路について説明する。
図1に示すように、生産設備1000から排出された排ガスG1の少なくとも一部は、配管L1内を通過して有機溶剤濃縮装置200の脱着部21に通流される排ガスG1aとなる。排ガスG1の残部は、配管L9内を通過して脱着部21を通流せずに配管L5内に到達する排ガスG1bとなる。
【0035】
たとえば、排ガスG1は、風量が380NCMN、有機溶剤濃度が1830ppm、温度が110℃である。排ガスG1aと排ガスG1bとの流量比は、バルブV111およびバルブV112の開閉により調節される。
【0036】
排ガスG1aは、有機溶剤濃縮装置200の脱着部21を通流することにより排ガスG2となる。排ガスG1aは、50℃以上の温度であるため、脱着部21の吸着素子が吸着していた有機溶剤を脱着させる。なお、排ガスG1aの温度が50℃より低くなる場合には、排ガスG1aを昇温させるための再生ヒータを配管L1の区間に設けてもよい。
【0037】
その結果、排ガスG2の有機溶剤濃度は、排ガスG1aの有機溶剤濃度より高くなる。たとえば、排ガスG2は、風量が380NCMN、有機溶剤濃度が2763ppm、温度が94℃である。この場合、バルブV112は完全に閉鎖されている。
【0038】
排ガスG2は、排ガスG1bと混合されて熱交換器600に通流されることにより、熱を放出して排ガスG3となる。たとえば、排ガスG3は、風量が380NCMN、有機溶剤濃度が2763ppm、温度が71℃である。
【0039】
排ガスG3は、冷却器300に通流されて冷却されることにより、含有していた有機溶剤の一部を凝縮されて分離される。本実施形態においては、冷却器300により分離されて回収タンク400に回収されるNMP(n−メチル−2−ピロリドン)の濃度は、97wt%である。
【0040】
冷却器300を通流された排ガスG4は、温度が50℃以下となるように冷却されている。たとえば、排ガスG4は、風量が380NCMN、有機溶剤濃度が1000ppm、温度が37℃である。排ガスG4はパージ部23を通流された排ガスG6bと混合されて排ガスG5になって、有機溶剤濃縮装置200の吸着部22に通流される。排ガスG5が50℃以下の温度となるように、排ガスG6bの排ガスG4への混合量が調節される。
【0041】
たとえば、排ガスG6bは、風量が30NCMN、有機溶剤濃度が500ppm、温度が100℃である。たとえば、排ガスG5は、風量が410NCMN、有機溶剤濃度が963ppm、温度が42℃である。
【0042】
排ガスG5は、有機溶剤濃縮装置200の吸着部22を通流することにより含有する有機溶剤を吸着される。吸着部22を通流した排ガスの一部は、パージ部23に通流される排ガスG6aとなる。吸着部22を通流した排ガスのうち、含有する有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスは外部に通じる配管L12内に送られる。吸着部22を通流した排ガスの残部は、熱交換器600に通流される排ガスG7となる。たとえば、排ガスG7は、風量が342NCMN、有機溶剤濃度が30ppm、温度が48℃である。
【0043】
排ガスG7は、熱交換器600に通流されることにより、熱を吸収して排ガスG8となる。たとえば、排ガスG8は、風量が342NCMN、有機溶剤濃度が30ppm、温度が71℃である。
【0044】
排ガスG8は、給気ヒータ100に通流されることにより昇温されて排ガスG9となる。たとえば、排ガスG9は、風量が342NCMN、有機溶剤濃度が30ppm、温度が120℃である。排ガスG9は、生産設備1000で新たに排気された排ガスと混合されて排ガスG1となって系内を循環する。
【0045】
有機溶剤濃縮装置200の吸着部22から配管L12内に送られた排ガスの一部は、配管L13内を通過して熱交換器600を通流せずに配管L8内に到達する排ガスG10bとなる。有機溶剤濃縮装置200の吸着部22から配管L12内に送られた排ガスの残部は、外部に排気される排ガスG10aとなる。たとえば、排ガスG10aは、風量が38NCMN、有機溶剤濃度が5ppm、温度が43℃である。この場合、バルブV117は完全に閉鎖されている。
【0046】
以下、本実施形態に係る有機溶剤濃縮装置200の構造について説明する。
図2は、本実施形態に係る有機溶剤濃縮装置の構造を通流される排ガスとともに示す斜視図である。なお、図2においては、後述するチャンバーは図示していない。
【0047】
図2に示すように、本実施形態の有機溶剤濃縮装置200はローター式であり、回転軸211および回転軸211の周囲に吸着素子が位置して回転軸211の軸方向に排ガスを通流される筒状吸着体210を含む。回転軸211は、図示しないアクチュエータなどにより回転駆動される。
【0048】
具体的には、筒状吸着体210は、ハニカム構造の吸着素子が同心円状に複数の層に亘って積層されている。図2において、紙面の手前側に位置する筒状吸着体210の端部を、筒状吸着体210の回転軸211の軸方向における一方端214とする。一方、紙面の奥側に位置する筒状吸着体210の端部を、筒状吸着体210の回転軸211の軸方向における他方端215とする。
【0049】
所定の温度である50℃以上の排ガスG1aは、筒状吸着体210の一方端214側から筒状吸着体210の一部である脱着部21に通流されて排ガスG2となる。
【0050】
所定の温度である50℃より低い排ガスG5は、筒状吸着体210の他方端215側から筒状吸着体210の他の一部である吸着部22に通流される。吸着部22に通流されて有機溶剤が所定の濃度である50ppm以下となった排ガスの一部である排ガスG10aは系外に排気される。残りの排ガスG7,G6a,G10bは、排気されずに再び系内を循環する。
【0051】
筒状吸着体210が回転軸211を中心に回転されることにより、筒状吸着体210の一部が脱着部21となり、かつ、筒状吸着体210の他の一部が吸着部22となる。また、筒状吸着体210の一部が脱着部21の終端と吸着部22の始端との間でパージ部23となる。本実施形態においては、筒状吸着体210の上半分が吸着部22となり、下半分のうちの一部が脱着部21となり、脱着部21と吸着部22との間の斜め下方の一部がパージ部23となる。
【0052】
筒状吸着体210は、回転軸211を回転中心として、図中の矢印201で示す方向に所定の速度で回転する。これにより、筒状吸着体210の吸着素子は、吸着部22から脱着部21に移動し、脱着部21からパージ部23を経て再び吸着部22に移動する。このように筒状吸着体210を回転させながら排ガスを処理することにより、吸着処理と脱着処理とパージ処理とを同時に行ないつつ、連続的に有機溶剤の回収を行なうことができる。
【0053】
パージ部23は、パージ部23に所定の温度より低い排ガスが通流されることにより、パージ部23の吸着素子を冷却するために設けられている。パージ部23の吸着部22に対する割合は、5%以上50%以下であることが好ましい。この割合が5%より小さい場合、吸着素子を所望の温度まで冷却することができない。この割合が50%より大きい場合、筒状吸着体における有機溶剤の吸着処理を行なう部分の割合が小さくなりすぎて有機溶剤の回収効率が低下する。
【0054】
図3は、本実施形態に係る有機溶剤濃縮装置において、吸着処理され後の排ガスの有機溶剤濃度によって吸着部を複数の吸着領域に区分けして示す筒状吸着体の側面図である。
【0055】
図4は、本実施形態に係る有機溶剤濃縮装置において、吸着処理され後の排ガスの有機溶剤濃度を吸着部の吸着領域ごとに示す図である。図4においては、縦軸に吸着処理後の排ガスに含まれる有機溶剤の濃度を、横軸に吸着領域を示している。
【0056】
図3に示すように、吸着部22は4つの吸着領域A1,A2,A3,A4に区分けされる。吸着領域A1は、筒状吸着体210の回転方向において、吸着部22の中で最も脱着部21に近い領域であって、十分に吸着素子が冷却されていない領域である。本実施形態においては、パージ部23を設けて吸着素子の冷却を行なっているが、吸着領域A1,A2では吸着素子の冷却が十分ではない。
【0057】
吸着領域A2は、吸着領域A1に比較して吸着素子は冷却されているが、吸着処理後の排ガスの有機溶剤濃度を所定の濃度L以下に低減可能な程度にまで吸着素子が冷却されていない領域である。所定の濃度Lは、系外に排気可能な排ガスの有機溶剤の許容濃度である。上述の通り、本実施形態においては、所定の濃度Lは50ppmである。
【0058】
吸着領域A3は、吸着素子が十分に冷却されて吸着処理後の排ガスの有機溶剤濃度を所定の濃度L以下に低減可能な領域である。吸着領域A4は、吸着素子が十分に冷却されて吸着処理後の排ガスの有機溶剤濃度を所定の濃度L以下に低減可能な領域である。ただし、筒状吸着体210の回転速度が遅い場合には、吸着領域A4において吸着素子が飽和して破過することがある。
【0059】
図4に示すように、吸着領域A1に位置する吸着素子による吸着処理後の排ガスの有機溶剤濃度は、所定の濃度Lを大幅に超えている。吸着領域A2に位置する吸着素子による吸着処理後の排ガスの有機溶剤濃度は、所定の濃度Lを越えている。吸着領域A3および吸着領域A4に位置する吸着素子による吸着処理後の排ガスの有機溶剤濃度は、所定の濃度L以下となっている。仮に、吸着領域A4において破過が起きた場合、図4に示す吸着領域A4における有機溶剤濃度が所定の濃度Lより高くなる。
【0060】
本実施形態の有機溶剤回収システム1においては、有機溶剤が所定の濃度L以下となった排ガスのみを系外に排気する。言い換えると、筒状吸着体210の吸着領域A3,A4を通流された排ガスのみを系外に排気する。吸着領域A4において破過が起きている場合には、筒状吸着体210の吸着領域A3を通流された排ガスのみを系外に排気する。
【0061】
図5は、本実施形態に係る有機溶剤濃縮装置において、排ガスを系外に排出するためのチャンバーを配置した状態を示す斜視図である。なお、図5においては、排ガスを系内で循環させるためのチャンバーは図示していない。
【0062】
図5に示すように、筒状吸着体210の一方端214側の端部に、吸着領域A3を通流された排ガスG10aを排気するための排気部であるチャンバー212が配置される。チャンバー212には、排気筒213が接続されている。排気筒213は、図1に示す配管L12に相当する。なお、排気部はチャンバーに限られず、配管など排気可能な構造を有するものであればよい。
【0063】
筒状吸着体210の吸着領域A3を通流されて有機溶剤が所定の濃度L以下となった排ガスG10aは、チャンバー212内から排気筒213を通過して系外に排気される。本実施形態においては、吸着領域A3に対応する位置にチャンバー212を配置したが、吸着領域A3と吸着領域A4との両方に対応する位置にチャンバー212を配置してもよいし、吸着領域A4に対応する位置のみにチャンバー212を配置してもよい。
【0064】
この構成により、有機溶剤が十分に吸着除去されて所定の濃度L以下の有機溶剤を含む排ガスのみを排気できるため、環境への負荷を低減することができる。
【0065】
また、筒状吸着体210の吸着領域A1を通流されて有機溶剤濃度の高い排ガスは系外に排気されないため、系外に排気される排ガスの平均有機溶剤濃度を低減することができる。そのため、有機溶剤回収システム1から系外に排気される排ガスの平均有機溶剤濃度を所定の濃度L以下にするために必要な筒状吸着体210の大きさを小さくすることができる。よって、有機溶剤回収システム1の小型化を図ることができる。
【0066】
チャンバー212は、回転軸211を中心に筒状吸着体210に対して移動可能に設けられてもよい。この場合、筒状吸着体210の吸着領域A3および吸着領域A4の中で最も有機溶剤濃度が低くなる吸着領域の位置に対応してチャンバー212の位置を変更することができる。この構成により、有機溶剤濃度を最も低くすることができる吸着領域を通流された排ガスのみを系外に排気することができる。
【0067】
本実施形態においては、図1に示すバルブV117を開いて、有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスのうちの一部である排ガスG10aを排気し、残部である排ガスG10bを系内で循環させることができる。この場合、系外に排気される排ガスG10aの風量が減少するため、有機溶剤濃縮装置システムから排気される有機溶剤の総量を低減することができる。その結果、排気される排ガスに含まれる有機溶剤濃度のみならず、排出される有機溶剤の総量を調節することができる。
【0068】
なお、本実施形態における有機溶剤回収システム1においては、排ガスG1の温度の一例として110℃を想定した場合を示しているが、生産設備から排出される排ガスG1の温度としては、50℃〜200℃が想定される。
【0069】
以下、本発明の実施形態2に係る有機溶剤回収システムについて説明する。なお、実施形態2に係る有機溶剤回収システムは、有機溶剤濃縮装置のパージ部と繋がった配管の経路のみ実施形態1の有機溶剤回収システムと異なるため、他の構成については説明を繰り返さない。
【0070】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係る有機溶剤回収システムの構成を示す系統図である。図6に示すように、本発明の実施形態2に係る有機溶剤回収システム10においては、有機溶剤濃縮装置200のパージ部23と繋がった配管L11と配管L5とが配管L14により接続されている。配管L14にはバルブV115が設けられている。
【0071】
配管L14のバルブV115と配管L11との間の位置に、配管L1のバルブV111と有機溶剤濃縮装置200の脱着部21との間の位置に繋がった配管L15が接続されている。配管L15にはバルブV116が設けられている。
【0072】
上記のように接続することにより、有機溶剤濃縮装置200のパージ部23を通流された排ガスG6bの一部を、排ガスG1aと混合して有機溶剤濃縮装置200の脱着部21に通流させることが可能になる。また、有機溶剤濃縮装置200のパージ部23を通流された排ガスG6bの一部を、排ガスG2と混合して熱交換器に通流させて排ガスG3として冷却回収装置に通流させることが可能になる。さらに、有機溶剤濃縮装置200のパージ部23を通流された排ガスG6bの残部を、排ガスG4と混合して排ガスG5として有機溶剤濃縮装置200の吸着部22に通流させることが可能になる。
【0073】
バルブV115およびバルブV116の開閉を調節して、有機溶剤濃縮装置200の吸着部22に通流される排ガスG6bの残部と冷却された排ガスG4との流量比を調節することにより、有機溶剤濃縮装置200の吸着部22に通流される排ガスG5の温度を調節することができる。
【0074】
有機溶剤濃縮装置200の吸着部22に通流される排ガスG5の温度を調節することにより、筒状吸着体210の吸着部22における吸着領域A3,A4の吸着部22に占める割合を所望の割合とすることが可能となる。
【0075】
具体的には、パージ部23を通流された排ガスG6bを全く混合せずに排ガスG5を吸着部22に通流することにより、排ガスG5の温度が低いため吸着部22における吸着領域A3,A4の吸着部22に占める割合を高くすることができる。逆に、パージ部23を通流された排ガスG6bを全て混合して排ガスG5として吸着部22に通流することにより、排ガスG5の温度が高くなるため吸着部22における吸着領域A3,A4の吸着部22に占める割合を低くすることができる。このようにしても、系外に排気する排ガスが系内の全体の排ガスに占める割合である排気割合を調節することができる。この場合、チャンバー212の大きさおよび配置を変更可能にされていることが好ましい。
【0076】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1,10 有機溶剤回収システム、21 脱着部、22 吸着部、23 パージ部、100 給気ヒータ、200 有機溶剤濃縮装置、210 筒状吸着体、211 回転軸、212 チャンバー、213 排気筒、214 一方端、215 他方端、300 冷却器、400 回収タンク、600 熱交換器、1000 生産設備、A1,A2,A3,A4 吸着領域、G1,G1a,G1b,G2,G3,G4,G5,G6a,G6b,G7,G8,G9,G10a,G10b 排ガス、L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8,L9,L10,L11,L12,L13,L14,L15 配管、V111,V112,V113,V114,V115,V116,V117 バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含有する排ガスを循環させつつ排ガスから有機溶剤を分離して回収する有機溶剤回収システムであって、
有機溶剤を可逆的に吸着および脱着可能な吸着素子を有する有機溶剤濃縮装置と、
前記有機溶剤濃縮装置により有機溶剤が濃縮された排ガスを冷却して有機溶剤を凝縮させて回収する冷却回収装置と
を備え、
前記吸着素子は、所定の温度以上の排ガスを通流されると吸着していた有機溶剤を脱着し、かつ、前記所定の温度より低い排ガスを通流されると排ガス中の有機溶剤を吸着し、
前記有機溶剤濃縮装置は、前記所定の温度以上の排ガスを通流される脱着部、および、前記所定の温度より低い排ガスを通流される吸着部を含み、
前記吸着部を通流した前記所定の温度より低い排ガスのうち、有機溶剤が所定の濃度以下となった排ガスのみを系外に排気する、有機溶剤回収システム。
【請求項2】
有機溶剤が前記所定の濃度以下となった前記排ガスの一部のみを系外に排気し、前記排ガスの残部を系内で循環させる、請求項1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項3】
前記有機溶剤濃縮装置が、回転軸および該回転軸の周囲に前記吸着素子が位置して前記回転軸の軸方向に排ガスを通流される筒状吸着体を含み、
前記所定の温度以上の排ガスは、前記筒状吸着体の前記軸方向の一方端側から前記筒状吸着体の一部に通流され、
前記所定の温度より低い排ガスは、前記筒状吸着体の前記軸方向の他方端側から前記筒状吸着体の他の一部に通流され、
前記筒状吸着体が前記回転軸を中心に回転されることにより、前記一部が前記脱着部となり、かつ、前記他の一部が前記吸着部となる、請求項1または2に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項4】
前記有機溶剤濃縮装置が、前記筒状吸着体の前記一方端側の端部に、前記吸着部を通流して有機溶剤が所定の濃度以下となった前記排ガスのみを排気する排気部を有する、請求項3に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項5】
前記排気部が、前記回転軸を中心に前記筒状吸着体に対して移動可能である、請求項4に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項6】
前記有機溶剤濃縮装置が、前記脱着部と前記吸着部との間に、前記吸着部を通流した前記所定の温度より低い排ガスを通流されるパージ部をさらに有し、
前記筒状吸着体が前記回転軸を中心に回転されることにより、前記筒状吸着体の一部が前記脱着部の終端と前記吸着部の始端との間で前記パージ部となり、
前記パージ部に前記排ガスが通流されることにより、前記パージ部の前記吸着素子が冷却され、
前記パージ部を通流された前記排ガスは、前記冷却回収装置により冷却された排ガスと混合されて前記吸着部に通流される、請求項3から5のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項7】
前記パージ部を通流された前記排ガスの一部は、前記脱着部または前記冷却回収装置に通流され、
前記パージ部を通流された前記排ガスの残部は、前記冷却回収装置により冷却された排ガスと混合されて前記吸着部に通流され、
前記吸着部に通流される前記排ガスの前記残部と前記冷却された排ガスとの流量比を調節することにより、前記吸着部に通流される排ガスの温度を調節する、請求項6に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項8】
前記有機溶剤濃縮装置における前記パージ部の前記吸着部に対する割合は、5%以上50%以下である、請求項6または7に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項9】
前記有機溶剤は、n−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはn−デカンである、請求項1から8のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項10】
前記所定の濃度が50ppmである、請求項9に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項11】
前記吸着素子が、活性炭または疎水性ゼオライトを含有している、請求項1から10のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項12】
前記所定の温度が50℃である、請求項11に記載の有機溶剤回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−139670(P2012−139670A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1135(P2011−1135)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】