説明

有機溶剤精製装置および精製方法

【課題】有機溶剤の連続精製を実現し、基本的には吸着材の交換が必要なく、多量な有機溶剤中から水分を安定に除去することができる装置を提供することを課題とする。
【達成手段】水分を含有する有機溶剤を接触させることで前記水分を吸着し、加熱した空気および/または不活性ガスを接触させることで吸着した前記水分を脱着する吸着材を充填した吸着槽を備え、
前記吸着槽に水分を含有する有機溶剤を導入し、前記水分を前記吸着材に吸着させ、
前記吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および吸着材を加温し、
前記吸着槽に加熱した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する、
有機溶剤精製装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤から水分を除去して溶剤を精製する装置に関し、特に各種工場や研究施設等から発生した有機溶剤含有ガスから溶剤回収装置を用いて回収した溶剤の精製に用いられる装置である。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機溶剤から水分を除去して溶剤を精製する装置としては、蒸留精製装置が広く用いられている。すなわち、溶剤を加熱蒸発させ、沸点の違いを利用して有機溶剤と不純物を分留することで、純度の高い有機溶剤を取得することができる装置である。
しかしながら、蒸留精製装置は大型な装置であるために広い設置スペースが必要であり、かつイニシャルコスト、ランニングコスト共に高いことが問題となっている。
【0003】
かかる問題を解決するために、ゼオライト、イオン交換樹脂、モレキュラーシーブス、活性アルミナ等の吸着材を充填させた吸着塔に有機溶剤を通液させて不純物を取り除く方法が知られている(例えば特許文献1参照)が、多量の有機溶剤を精製する場合は多量の吸着材が必要であり、吸着材が破過状態になると吸着材の交換が必要であり、吸着材の交換労力とランニングコストが増大する面から、研究室レベルでは有効な手段であるが、工場や研究施設等から回収される多量の有機溶剤の精製を行うには満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−225316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、有機溶剤の連続精製を実現し、基本的には吸着材の交換が必要なく、多量な有機溶剤中から水分を安定に除去することができる装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来技術の課題を解決するため、鋭意検討した結果、ついに本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の通りである。
1.水分を含有する有機溶剤を接触させることで前記水分を吸着し、加熱した空気および/または不活性ガスを接触させることで吸着した前記水分を脱着する吸着材を充填した吸着槽を備え、
前記吸着槽に水分を含有する有機溶剤を導入し、前記水分を前記吸着材に吸着させ、
前記吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および吸着材を加温し、
前記吸着槽に加熱した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する、
有機溶剤精製装置。
2.水分を含有する有機溶剤を接触させることで前記水分を吸着し、かつ加熱した空気および/または不活性ガスを接触させることで吸着した前記水分を脱着する吸着材を充填した吸着槽を備え、
前記吸着槽に水分を含有する有機溶剤を導入し、前記水分を前記吸着材に吸着させ、
前記吸着槽に水を導入することで、前記吸着材に付着している有機溶剤を除去し、
前記吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および吸着材を加温し、
前記吸着槽に加熱した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する、
有機溶剤精製装置。
3.前記吸着材が、イオン交換樹脂、活性アルミナ、モレキュラーシーブス、シリカゲルの少なくとも1つから選ばれる吸着材である上記1または2に記載の有機溶剤精製装置。
4.前記吸着材が、水素イオン形、及びナトリウム形、及びアルカノールアミン形の少なくとも1つを有する陽イオン交換樹脂である上記1または2に記載の有機溶剤精製装置。
5.前記陽イオン交換樹脂が、粒状又は繊維状の形態をしている上記4に記載の有機溶剤精製装置。
6.前記吸着槽を少なくとも2槽有し、その内の1槽の吸着槽が加熱した空気および/または不活性ガスを導入しているとき、その他の吸着槽が水分を含有する有機溶剤を導入することで、連続的に有機溶剤の精製が可能な上記1〜5にいずれかに記載の有機溶剤精製装置。
7.水分を含有する有機溶剤を吸着槽に導入することで、該吸着槽に充填した吸着材に前記水分を吸着させる吸着工程と、
吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および前記吸着材を加温するスチーム加温工程と、
スチーム加熱工程後の吸着槽に、乾燥した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する脱着工程と、
を有する有機溶剤精製方法。
8.吸着工程の後の吸着槽に、水を導入することで、前記吸着材に付着している有機溶剤を除去する水パージ工程を有する上記7に記載の有機溶剤精製方法。
【0007】
本発明による有機溶剤精製装置は、多量の有機溶剤中の水分を高い効率で連続的に除去することができ、基本的に吸着材の交換の必要が無いため、低コストで、安定に、高い能力で有機溶剤中の水分を除去することができる利点がある。また、短時間で吸着材を脱着乾燥できるため、脱水性能を大幅に向上させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の好ましい一形態の例である、吸着槽2槽連続吸脱着方式の有機溶剤精製装置。
【図2】活性炭素繊維を用いた溶剤回収処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明にかかる有機溶剤精製装置は、水分を含有する有機溶剤を、吸着材を充填した吸着槽に導入して前記吸着材に接触させることで、水分を吸着材に吸着させる吸着工程設備と、前記吸着槽に加熱した空気および/または不活性ガスを導入させて、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する脱着工程設備を備え、かかる工程を交互に行う有機溶剤精製装置であることが好ましい。かかる構造を採用することにより、処理を連続的に行うことができるからである。
【0010】
以下、図面を参照して、本発明にかかる有機溶剤精製装置について詳細に説明する。図1は本発明の好ましい実施形態の例である。図1に例示した有機溶剤精製装置は、水分を含有した有機溶剤が貯蔵されている被処理有機溶剤タンク12より被処理有機溶剤導入ライン13を通じて吸着材11が充填された吸着槽10に送られ、吸着材11により被処理有機溶剤中の水分を吸着除去し、精製された有機溶剤を得、排出ラインを通じて精製有機溶剤タンク14に精製された有機溶剤が送られる吸着工程を有する。
【0011】
また、吸着槽10における吸着工程と同時に、スチーム23をスチーム導入ライン24から吸着槽20に導入し、吸着槽20および吸着材11を加温するスチーム加熱工程と、その後に送風機25から脱着ガス導入ライン26を通して加熱した空気および/または不活性ガスを吸着槽20に導入し、吸着材11に吸着されている水分を脱着する脱着工程を有する。
スチーム加熱工程は、脱着工程を短時間で終了させるため、脱着工程の前工程として吸着槽および吸着材の温度を上昇させるための工程である。脱着工程で用いる加熱乾燥空気は顕熱で吸着槽、吸着材を加熱するが、スチームは顕熱だけでなく潜熱が大きな熱量を持っているため、吸着槽と吸着材の加熱時間が加熱乾燥空気よりも短縮され、ランニングコストも低減させることができる。
【0012】
脱着工程において、加熱した空気および/または不活性ガスは80℃以上であることが好ましい。温度が高い程脱着効率が高くなり、吸着材から水分を脱着する脱着時間が短くすることができるため、脱水効率が向上し、より水分濃度の低い脱水溶剤を得ることができる。また、脱着時間を短くする代わりに脱着風量を少なくすることができ、このとき送風機の容量を小さくすることができるため、ランニングコストを低減することができる。更に、上記のような脱着効率を上げる手段として、加熱した空気および/または不活性ガスを前処理として乾燥することが挙げられる。このとき、送風機の前か後に乾燥機や除湿機を設置することが好ましい。しかし、吸着材の種類によっては耐熱温度が低いものもあるため、吸着材の耐熱温度よりも脱着温度は低く設定する必要がある。例えば、下記のスチレン樹脂系の陽イオン交換樹脂は耐熱温度が120℃であるため、脱着温度は120℃以下であることが好ましい。120℃以上では吸着材形状が保てずに破砕する可能性がある。
【0013】
本発明にかかる吸着材は、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、イオン交換樹脂等特に限定するものではないが、性能面から陽イオン交換樹脂であることが好ましい。また、陽イオン交換樹脂は、水素イオン形、及びナトリウム形、及びアルカノールアミン形に限定するものではないが、スルホン酸基が配位した水素イオン形またはナトリウム形の陽イオン交換樹脂が好ましい。該陽イオン交換樹脂はスチレン系樹脂であることがより好ましい。
つまり、前記陽イオン交換樹脂は、スルホン酸基等のイオン交換基が樹脂表面に有するため、有機溶剤は吸着されずに水分のみを吸着可能である特徴を持つ有効な水分吸着材である。また、ゼオライト、シリカゲル、または活性アルミナとは吸着機構が異なり、陽イオン交換樹脂は樹脂内に水分を吸収してゲル膨潤するため、水分の吸着容量が非常に大きい特徴を持つ有効な水分吸着材である。中でもスチレン系の陽イオン交換樹脂は、例えばアクリル系の陽イオン交換樹脂よりも吸水時に強度があまり低下しないためより有効な水分吸着材である。
【0014】
本発明にかかる吸着材の構造は、粒状、粉体状、ポーラス状、ハニカム状、繊維状等特に限定されるものではないが、粒状または繊維状が好ましい。つまり、水分を含有した有機溶剤が吸着材を通液する際、吸着材の表面面積が広いほど、吸着材と水分の接触効率が高くなり水分吸着能が高くなるため、構造が粒状または繊維状が好ましいと言える。
【0015】
本発明の装置は、吸着工程→スチーム加熱工程→脱着工程→吸着工程を繰り返すが、吸着工程とスチーム加熱工程の間に、水タンク21からパージ水導入ライン22を通じて吸着槽20にパージ水を導入することで、吸着材表面に付着残存する有機溶剤を除去する水パージ工程を有することが望ましい。水パージ工程を行わず、例えば窒素のような不活性ガスを用いて、脱着工程を行っても良いが、有機溶剤を水でパージして除去することにより、脱着工程の際にコストが高い不活性ガスを用いる必要がなくなるため、より有効な手段である。
【0016】
水パージ工程において、脱着空気排出ライン28より排出されたパージ水は、有機溶剤を含むものであり、集積して焼却等してもよいが、戻りライン29より被処理有機溶剤タンク12に戻すことが好ましい。かかる方法によれば、工程数を省略できるだけでなく、廃棄される溶剤を回収することができ、効率的である。
【0017】
脱着工程において、脱着空気排出ライン28より排出されるガスは微量の有機溶剤を含有している。そのため、直接燃焼装置や触媒燃焼装置、蓄熱式燃焼装置等の燃焼装置や活性炭素繊維を使用した溶剤回収装置等の一般的に用いられるガス処理装置にて処理することが好ましい。
【0018】
水パージ工程を含む本発明の装置は、吸着工程→水パージ工程→スチーム加熱工程→脱着工程を連続的に繰り返すことで、有機溶剤から水分を効果的、かつ経済的に連続吸着除去できる装置となる。かかる連続的な吸着−乾燥空気および/または不活性ガス脱着により、低コストで、安定に、高除去能で有機溶剤中の水分を除去することができる。
【0019】
本発明において精製可能な有機溶剤は、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、プロピオン酸等特に限定されるものではなく、多種の有機溶剤において適応可能である。
【0020】
本発明において精製可能な有機溶剤は、フィルムを積層させるドライラミネート工程等、多分野における工場等から排出される有機溶剤を含有したガスを、溶剤回収処理装置を用いて回収される有機溶剤にも適応可能である。
例えば、図2に示すような溶剤回収処理装置は、被処理ガス31が吸着ファン32より導入されて吸着塔に充填されている活性炭素繊維エレメント34で有機溶剤が吸着し、清浄ガス36として外気に排出される吸着工程と、活性炭素繊維エレメント34にスチーム35を導入することで有機溶剤を脱着し、コンデンサー38で冷却凝縮してセパレーター39で溶剤と水を分離し、回収溶剤40を回収する脱着工程があり、吸着工程と脱着工程を交互に行うことで連続的に処理可能なシステムである。このタイプの溶剤回収処理装置は脱着にスチームを用いることや、冷却凝縮をすることから回収溶剤中に水分が混入することから、本発明における装置を適用することで、回収溶剤から水分を効果的に除去することが可能である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例から本発明の詳細を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、評価は下記の方法により行った。
【0022】
(有機溶剤中からの水分除去の評価方法)
3重量%濃度の水分を含有する各種有機溶剤を一定流量で流し、サンプリングした精製後の有機溶剤中の水分濃度を測定した。
【0023】
(水分濃度評価方法)
吸着材入口・出口の水分濃度をカールフィッシャー水分測定法により測定した。
【0024】
(水中の溶剤濃度評価方法)
吸着材出口のパージ水中の溶剤(酢酸エチル、塩化メチレン)濃度をGC−FID法により分析した。
【0025】
[実施例1]
φ200mmでH300mmの吸着槽に、吸着材として平均粒形1mmの陽イオン交換樹脂(Na型、スルホン酸基、MuromacDW2−1、ムロマチテクノス株式会社)を1100重量g充填させ、図1の吸着槽2槽連続吸脱着方式の有機溶剤精製装置のシステムフローに組み立て、水分3重量%、酢酸エチル94重量%とエタノール3%の混合液を導入した。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、SV=5(1/h)のとき初期の出口水分濃度は0.05重量%であり、出口平均水分濃度が0.7重量%に達達したときの水分吸着量(q)が0.6(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0026】
次に、水パージ工程として、水パージ導入ライン22から水を吸着槽に導入した。その際の出口水中の酢酸エチル濃度を測定したとき、SV=20(1/h)のとき吸着材体積の4倍量の水量で吸着材に付着している酢酸エチルを95%以上除去可能と良好な除去性能を示した。
続いて、スチーム加熱工程において吸着槽に0.4MPaのスチームを5分間導入した。このときの吸着材温度は20℃から110℃まで上昇した。
その後、脱着工程における脱着ガスとして、80℃、10℃DPの加熱空気を使用し、脱着のSVを5000(1/h)とした。吸着工程における吸着時間は8時間、水パージ工程における時間を30分間、脱着工程における脱着時間は7.5時間として吸脱着サイクルとした。
【0027】
本実施例の有機溶剤精製装置により精製された混合溶剤は、吸着工程→水パージ工程→スチーム加熱工程→脱着工程の吸脱着サイクルを20サイクル繰り返しても混合溶剤中の出口平均水分濃度は0.7重量%以下を維持することが可能であった。吸着と脱着を連続して運転させて精製するため、性能低下がなく、安定して高効率で精製が可能であり、スチームを導入することで加温時間が短縮化されて脱水性能が高くなった。
【0028】
[実施例2]
φ200mmでH300mmの吸着槽に、平均粒形1mmの陽イオン交換樹脂(Na型、スルホン酸基、MuromacDW2−1、ムロマチテクノス株式会社)の吸着材を1100重量g充填させ、図1の吸着槽2槽連続吸脱着方式の有機溶剤精製装置のシステムフローに組み立て、水分3重量%、酢酸エチル94重量%とエタノール3%の混合液を導入した。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、SV=5(1/h)のとき初期の出口水分濃度は0.01重量%であり、出口平均水分濃度が0.5重量%に達したときの水分吸着量(q)が0.55(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0029】
次に水パージ工程として、水パージ導入経路から水を吸着槽に導入した。その際の出口水中の酢酸エチル濃度を測定したとき、SV=20(1/h)のとき吸着材体積の4倍量の水量で吸着材に付着している酢酸エチルを95%以上除去可能と良好な除去性能を示した。
続いて、スチーム加熱工程において吸着槽に0.4MPaのスチームを5分間導入した。このときの吸着材温度は20℃から110℃まで上昇した。
その後、脱着工程における脱着ガスとして図1の送風機25で送風する空気を乾燥機で10℃DPから−40℃DPに乾燥し、この乾燥空気を加熱した80℃、−40℃DPの加熱乾燥空気を使用し、脱着のSVを5000(1/h)とした。吸着工程における吸着時間は7時間、水パージ工程における時間を30分間、脱着工程における脱着時間は6.5時間として吸脱着サイクルとした。
【0030】
本実施例の溶剤精製装置により精製された酢酸エチルは、吸着工程→水パージ工程→スチーム加熱工程→脱着工程の吸脱着サイクルを20サイクル繰り返しても溶剤中の出口平均水分濃度は0.5重量%以下を維持することが可能であった。吸着と脱着を連続して精製するため、性能低下がなく安定して高効率で精製が可能である。また、加熱に加えて乾燥した空気を脱着に用いることで、脱着効率が向上し、吸着時間を短くすることができたことから脱水効率が上がり、脱水溶剤中の水分濃度を低減させることができた。
【0031】
[実施例3]
φ200mmでH300mmの吸着槽に、平均粒形1mmの陽イオン交換樹脂(Na型、スルホン酸基、MuromacDW2−1、ムロマチテクノス株式会社)の吸着材を1100重量g充填させ、図1の吸着槽2槽連続吸脱着方式の有機溶剤精製装置のシステムフローに組み立て、水分0.2重量%、塩化メチレン97重量%とメタノール2.8重量%の混合溶剤を導入した。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、SV=10(1/h)のとき初期の出口水分濃度は0.005重量%であり、出口平均水分濃度が0.02重量%に達したときの水分吸着量(q)が0.04(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0032】
次に水パージ工程として、水パージ導入経路から水を吸着槽に導入した。その際の出口水中の塩化メチレン濃度を測定したとき、SV=20(1/h)のとき吸着材体積の4倍量の水量で吸着材に付着している塩化メチレンを95%以上除去可能と良好な除去性能を示した。
続いて、スチーム加熱工程において吸着槽に0.4MPaのスチームを5分間導入した。このときの吸着材温度は20℃から110℃まで上昇した。
その後、脱着工程における脱着ガスとして、80℃、10℃DPの乾燥空気を使用し、脱着のSVを5000(1/h)とした。吸着工程における吸着時間は8時間、水パージ工程における時間を30分間、脱着工程における脱着時間は7.5時間として吸脱着サイクルとした。
【0033】
本実施例の溶剤精製装置により精製された混合溶剤は、吸着工程→水パージ工程→スチーム加熱工程→脱着工程の吸脱着サイクルを20サイクル繰り返しても塩化メチレン中の出口平均水分濃度は0.02重量%以下を維持することが可能であった。吸着と脱着を連続して精製するため、性能低下がなく安定して高効率で精製が可能である。
【0034】
[比較例1]
φ200mmでH300mmの吸着槽に、吸着材として平均粒形1mmの陽イオン交換樹脂(Na型、スルホン酸基、MuromacDW2−1、ムロマチテクノス株式会社)を1100重量g充填させ、図1の吸着槽2槽連続吸脱着方式の有機溶剤精製装置のシステムフローに組み立て、水分3重量%、酢酸エチル94重量%とエタノール3%の混合液を導入した。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、SV=5(1/h)のとき初期の出口水分濃度は0.03重量%であり、出口水分濃度が1重量%に達達したときの水分吸着量(q)が0.6(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0035】
次に、水パージ工程として、水パージ導入ライン22から水を吸着槽に導入した。その際の出口水中の酢酸エチル濃度を測定したとき、SV=20(1/h)のとき吸着材体積の4倍量の水量で吸着材に付着している酢酸エチルを95%以上除去可能と良好な除去性能を示した。
スチーム加熱工程は省略し、続いて脱着工程における脱着ガスとして30℃、10℃DPの空気を使用し、脱着のSVを5000(1/h)とした。吸着工程における吸着時間は8時間、水パージ工程における時間を30分間、脱着工程における脱着時間は7.5時間として吸脱着サイクルとした。
【0036】
比較例1の溶剤精製装置により精製された初期の混合溶剤中の出口平均水分濃度は0.7重量%であったが、吸着工程→水パージ工程→脱着工程の吸脱着サイクルを繰り返したとき、20サイクル後の出口平均水分濃度は1.8重量%まで上昇した。これは、スチーム加熱工程を行っていないことから吸着材の温度上昇速度が低下し、更に脱着空気の入口温度が低いことで脱着効率が大幅に低下していることが要因である。
【0037】
[比較例2]
φ200mmでH300mmの吸着槽に、平均粒形1mmの陽イオン交換樹脂(Na型、スルホン酸基、MuromacDW2−1、ムロマチテクノス株式会社)の吸着材を1100重量g充填させ、図1の吸着槽2槽連続吸脱着方式の有機溶剤精製装置のシステムフローに組み立て、水分0.2重量%、塩化メチレン97重量%とメタノール2.8重量%の混合溶剤を導入した。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、SV=10(1/h)のとき初期の出口水分濃度は0.005重量%であり、出口平均水分濃度が0.02重量%に達したときの水分吸着量(q)が0.04(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0038】
続いて水パージ工程として、水パージ導入経路から水を吸着槽に導入した。その際の出口水中の塩化メチレン濃度を測定したとき、SV=20(1/h)のとき吸着材体積の4倍量の水量で吸着材に付着している塩化メチレンを95%以上除去可能と良好な除去性能を示した。その後スチーム加熱工程を省略し、脱着工程における脱着ガスとして、80℃、10℃DPの乾燥加熱空気を使用し、脱着のSVを5000(1/h)とした。吸着工程における吸着時間は8時間、水パージ工程における時間を30分間、脱着工程における脱着時間は7.5時間として吸脱着サイクルとした。
【0039】
比較例2の溶剤精製装置により精製された初期の混合溶剤中の出口平均水分濃度は0.02重量%であったが、吸着工程→水パージ工程→脱着工程の吸脱着サイクルを20サイクル繰り返したとき、出口平均水分濃度が0.05重量%まで上昇した。これは、スチーム加熱工程を行っていないことから脱着効率が大幅に低下していることが要因である。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の有機溶剤精製装置は、溶剤の連続精製を実現し、基本的に吸着材の交換が必要なく、多量の水分を高効率、かつ安定に除去することができる精製装置であるため、吸着材交換作業を省略でき、コストを低減でき、水分を安定除去できる。さらに脱着時の工程を工夫したことにより、装置設置スペースを大幅に小さくすることができる利点があり、これによるコスト低減も大いに見込まれる。これより、特に研究所や工場等の幅広い分野から発生する排ガスから溶剤回収処理装置を用いて回収される溶剤の精製に利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【符号の説明】
【0042】
10 吸着槽
11 吸着材
12 被処理溶剤タンク
13 被処理溶剤導入ライン
14 処理溶剤タンク
20 脱着槽
21 パージ水タンク
22 パージ水導入ライン
23 スチーム
24 スチーム導入ライン
25 送風機
26 脱着ガス導入ライン
27 加熱ヒーター
28 脱着ガス排出ライン
29 戻り溶剤ライン
31 被処理ガス
32 吸着ファン
33 吸着槽
34 活性炭素繊維エレメント
35 スチーム
36 清浄ガス
37 ダンパー
38 コンデンサー
39 セパレーター
40 回収溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含有する有機溶剤を接触させることで前記水分を吸着し、加熱した空気および/または不活性ガスを接触させることで吸着した前記水分を脱着する吸着材を充填した吸着槽を備え、
前記吸着槽に水分を含有する有機溶剤を導入し、前記水分を前記吸着材に吸着させ、
前記吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および吸着材を加温し、
前記吸着槽に加熱した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する、
有機溶剤精製装置。
【請求項2】
水分を含有する有機溶剤を接触させることで前記水分を吸着し、かつ加熱した空気および/または不活性ガスを接触させることで吸着した前記水分を脱着する吸着材を充填した吸着槽を備え、
前記吸着槽に水分を含有する有機溶剤を導入し、前記水分を前記吸着材に吸着させ、
前記吸着槽に水を導入することで、前記吸着材に付着している有機溶剤を除去し、
前記吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および吸着材を加温し、
前記吸着槽に加熱した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する、
有機溶剤精製装置。
【請求項3】
前記吸着材が、イオン交換樹脂、活性アルミナ、モレキュラーシーブス、シリカゲルの少なくとも1つから選ばれる吸着材である請求項1または2に記載の有機溶剤精製装置。
【請求項4】
前記吸着材が、水素イオン形、及びナトリウム形、及びアルカノールアミン形の少なくとも1つを有する陽イオン交換樹脂である請求項1または2に記載の有機溶剤精製装置。
【請求項5】
前記陽イオン交換樹脂が、粒状又は繊維状の形態をしている請求項4に記載の有機溶剤精製装置。
【請求項6】
前記吸着槽を少なくとも2槽有し、その内の1槽の吸着槽が加熱した空気および/または不活性化ガスを導入しているとき、その他の吸着槽が水分を含有する有機溶剤を導入することで、連続的に有機溶剤の精製が可能な請求項1〜5にいずれかに記載の有機溶剤精製装置。
【請求項7】
水分を含有する有機溶剤を吸着槽に導入することで、該吸着槽に充填した吸着材に前記水分を吸着させる吸着工程と、
吸着槽にスチームを導入することで、前記吸着槽および前記吸着材を加温するスチーム加温工程と、
スチーム加熱工程後の吸着槽に、乾燥した空気および/または不活性ガスを導入することで、前記吸着材に吸着されている水分を脱着する脱着工程と、
を有する有機溶剤精製方法。
【請求項8】
吸着工程の後の吸着槽に、水を導入することで、前記吸着材に付着している有機溶剤を除去する水パージ工程を有する請求項7に記載の有機溶剤精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81410(P2012−81410A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229345(P2010−229345)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】