説明

有機無機ハイブリッド樹脂組成物、有機無機ハイブリッド樹脂材料、光学素子および積層型回折光学素子

【課題】 可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、フレア発生量が少ない光学素子を作製するために用いられる有機無機ハイブリッド樹脂組成物および光学素子を提供する。
【解決手段】 重合性官能基を有する有機化合物と、金属酸化物微粒子と、重合開始剤とを少なくとも含有する有機無機ハイブリッド樹脂組成物からなり、前記有機無機ハイブリッド樹脂組成物を活性エネルギーの付与により硬化させた硬化物の屈折率ndが1.61以上1.65以下、アッベ数νdが13以上20以下、異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下である有機無機ハイブリッド樹脂組成物およびその硬化物からなる有機無機ハイブリッド樹脂材料。透明基板と、前記透明基板上に形成された前記有機無機ハイブリッド樹脂材料とからなる光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド樹脂組成物、有機無機ハイブリッド樹脂材料、光学素子および積層型回折光学素子に関し、特にカメラ等の撮像光学系に用いる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光の屈折を利用した屈折光学系では、分散特性の異なる硝材からなるレンズを組み合わせることによって色収差を減らしている。例えば、望遠鏡等の対物レンズでは分散の小さい硝材を正レンズ、分散の大きい硝材を負レンズとし、これらを組み合わせて用いることで軸上に現れる色収差を補正している。しかしながら、レンズの構成や枚数が制限される場合や、使用される硝材が限られている場合などでは、色収差を十分に補正することが困難な場合があった。
【0003】
非特許文献1には、屈折面を有する屈折光学素子と回折格子を有する回折光学素子とを組み合わせて用いることで、少ないレンズの枚数で色収差を抑制することが開示されている。
【0004】
これは、光学素子としての屈折面と回折面とでは、ある基準波長の光線に対する色収差の発生する方向が逆になるという物理現象を利用したものである。また回折光学素子に連続して形成された回折格子の周期を変化させることで、非球面レンズと同等の特性を発現することができる。
【0005】
しかしながら、回折光学素子に入射した1本の光線は、回折作用により各次数の複数の光に分かれる。この時、設計次数以外の回折光は、設計次数の光線とは別な所に結像してフレアの発生要因となる。
【0006】
特許文献1および特許文献2には、各光学素子の屈折率分散と、光学素子の境界面に形成される格子の形状を最適化することで、広波長範囲で高い回折効率を実現することが開示されている。使用波長領域の光束を特定の次数(以後設計次数と言う)に集中させることで、それ以外の回折次数の回折光の強度を低く抑え、フレアの発生を抑制している。
【0007】
具体的には、特許文献1の場合は、BMS81(nd=1.64,νd=60.1:オハラ製)とプラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成製)を用いている。特許文献2の場合は、COO1(nd=1.52,νd=50.8:大日本インキ製)、プラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成製)、BMS81(nd=1.64,νd=60.1:オハラ製)等を用いている。
【0008】
なお、アッベ数(νd)は、以下の式(1)により算出される。
νd=(nd−1)/(nF−nC) 式(1)
nd:d線(587.6nm)屈折率
nF:F線(486.1nm)屈折率
nC:C線(656.3nm)屈折率
【0009】
本発明者等が、前記回折光学素子の光学材料として、市販もしくは研究開発されている光学材料を調べたところ図2に示す様な分布となっていた。図2(a)は、一般の光学材料におけるアッベ数と屈折率の分布を示すグラフである。図2(b)は、一般の光学材料におけるアッベ数と異常分散性の分布を示すグラフである。特許文献1および特許文献2に記載の積層回折光学素子の材料も図2の分布内に含まれる。
【0010】
また、特許文献1には、広い波長範囲で高い回折効率を有する構成を得るために、相対的に屈折率分散の低い材料で形成された回折光学素子と、屈折率分散の高い材料で形成された回折光学素子を組み合わせて使用することも開示されている。
【0011】
すなわち、屈折率分散の高い材料と低い材料との屈折率分散の差が大きいほど、構成される光学素子の回折効率は高くなり、光学素子の画角は広くなる。従って、色収差を高精度に補正するには、より屈折率分散の高い(アッベ数が小さい)材料及びより屈折率分散の低い(アッベ数が大きい)材料を使用する事が必要である。
【0012】
特許文献3には、屈折率(nd)とアッベ数(νd)との関係が、nd>−6.667×10−3νd+1.70であり、屈折率の異常分散性(θg,F)とアッベ数(νd)との関係が、θg,F≦−2νd×10−3+0.59である光学材料が開示されている。これらの式を満足することで、可視光領域全域における回折効率を向上させることができる。
【0013】
なお、屈折率の異常分散性(θg,F)は、以下の式(2)により算出される。
θg,F=(ng−nF)/(nF−nC) 式(2)
ng:g線(435.8nm)屈折率
nd:d線(587.6nm)屈折率
nF:F線(486.1nm)屈折率
nC:C線(656.3nm)屈折率
【0014】
上記特許文献3における光学材料においては、屈折率分散が高く、異常分散性の低い性質を示す透明導電性金属酸化物としては、ITO、ATO、SnO等の透明導電性金属酸化物が挙げられている。
【0015】
特許文献4、特許文献5には、具体的に屈折率分散の高い材料としてITO等の金属酸化物微粒子を含有した材料、屈折率分散の低い材料としてZrO等の金属酸化物微粒子を含有した材料で形成された回折光学素子を組合わせて使用することが開示されている。
【0016】
特許文献4、特許文献5に記載されている積層型回折光学素子の代表的な全体構成について図3を用いて説明する。図3は、積層型回折光学素子201の模式図である。図3(a)は上面図、図3(b)は断面図である。この積層型回折光学素子は、ガラスやプラスチックからなる透明基板層202の上に、回折格子形状を有する高屈折率低分散特性の層203と低屈折率高分散特性の層204とが、空間無く積層された構成を有している。なお、高屈折率低分散特性の層203と低屈折率高分散特性の層204の積層の順序は逆であってもかまわない。また、透明基板層202の両面は、平面であっても、球面形状であっても、非球面形状であってもよい。また高屈折率低分散特性の層203と低屈折率高分散特性の層204は、両方のとも透明基板層で挟まれた構成であってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平09−127321号公報
【特許文献2】特開平11−044808号公報
【特許文献3】特開2004−145273号公報
【特許文献4】特開2008−203821号公報
【特許文献5】特開2009−197217号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】“SPIE”,Vol.1354,International Lens Design Conference(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
積層型回折光学素子の構成に関して、積層型回折光学素子を多様なレンズ系で用いる場合は、格子の高さをより低くする必要がある。例えば広角系のレンズに搭載する場合は、画角が広いため格子に対し斜めに入る光の成分が多くなる。即ち、格子高さが高い程、入射した光が格子壁面でけられる割合が多くなり、フレア量が増加する。
【0020】
格子高さを低くするためには、2つの回折光学素子を形成する材料の屈折率分散特性に加えて、屈折率特性も大きく影響し、2つの回折光学素子の屈折率差が大きいほど格子高さを低く設計することができる。それにより格子高さに依存した格子壁面のフレア発生量を減少させることが可能となる。
【0021】
特許文献4、特許文献5に記載されている光学材料を用いて形成された回折光学素子は回折効率は可視光領域で99%以上と高いが、格子高さはいずれも7.3μm以上である。その結果、格子高さに依存したフレアの低減は不十分である。
【0022】
また特許文献4、特許文献5に記載されている材料で、格子高さを更に低くするために、それぞれの微粒子を増量させて屈折率分散特性を変化させることが考えられる。しかし、微粒子の添加量が増加すると、粘度の問題から材料の製造が困難になり、また散乱の増加により光学系への使用が困難になることが予測される。また分散剤も相対的に多くなることから所望の光学特性も得られにくくなる。
【0023】
従って、従来の技術においては、可視光域で回折効率を高く保ったまま、格子高さを低く設計できる材料は見つかっていないのが現状である。
【0024】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、フレア発生量が少ない光学素子を作製するために用いられる有機無機ハイブリッド樹脂組成物および有機無機ハイブリッド樹脂材料を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、フレア発生量が少ない光学素子および積層型回折光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の課題を解決する有機無機ハイブリッド樹脂組成物は、重合性官能基を有する有機化合物と、金属酸化物微粒子と、重合開始剤とを少なくとも含有し、前記有機無機ハイブリッド樹脂組成物を活性エネルギーの付与により硬化させた硬化物の屈折率ndが1.61以上1.65以下、アッベ数νdが13以上20以下、異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下であることを特徴とする。
【0027】
上記の課題を解決する有機無機ハイブリッド樹脂材料は、上記の有機無機ハイブリッド樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする。
【0028】
上記の課題を解決する光学素子は、透明基板と、前記透明基板上に形成された上記の有機無機ハイブリッド樹脂材料とからなることを特徴とする。
【0029】
上記の課題を解決する積層型回折光学素子は、上記の有機無機ハイブリッド樹脂材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、前記第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きいガラスにより形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し、該第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、フレア発生量が少ない光学素子を作製するために用いられる有機無機ハイブリッド樹脂組成物および有機無機ハイブリッド樹脂材料を提供することができる。
【0031】
また、本発明によれば、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、フレア発生量が少ない光学素子および積層型回折光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の積層型回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。
【図2】一般の光学材料におけるアッベ数と屈折率、アッベ数と異常分散性の分布を示すグラフである。
【図3】従来の積層型回折光学素子を示す概略図である。
【図4】屈折率の評価サンプルの作製方法を示す概略図である。
【図5】本発明の積層型回折光学素子の製造方法を示す概略図である。
【図6】実施例1における積層型回折光学素子(P1)の回折効率を示すグラフである。
【図7】比較例2における積層型回折光学素子(S2)の回折効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明に係る有機無機ハイブリッド樹脂組成物組成物は、分子内に重合性官能基を有する有機化合物と、金属酸化物微粒子と、重合開始剤とを少なくとも含有し、前記有機無機ハイブリッド樹脂組成物を活性エネルギーの付与により硬化させた硬化物の屈折率nd、アッベ数νdおよび異常分散性θg,Fの値が下記の範囲にあることを特徴とする。
屈折率ndが1.61以上1.65以下、好ましくは1.62以上1.64以下が望ましい。
アッベ数νdが13以上20以下、好ましくは14以上19以下が望ましい。
異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下、好ましくは0.43以上0.52以下が望ましい。
【0035】
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂材料は、上記の有機無機ハイブリッド樹脂組成物の硬化物からなり、光学材料として用いられる。
【0036】
本発明に係る光学素子は、透明基板と、前記透明基板上に形成された上記の有機無機ハイブリッド樹脂材料とからなることを特徴とする。
【0037】
以下に本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0038】
(有機化合物)
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物を構成する有機化合物としては、硫黄原子を有する基および重合性官能基を含有している化合物が好ましい。重合性官能基としては、少なくともアクリル基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれか一種以上を含有していることが好ましい。硫黄原子を有する基としては、スルフィド基、スルホン基、スルフォキシド基、チオール(メルカプタン)基、チオエステル基のいずれか一種以上を含有していることが好ましい。
【0039】
本発明に用いられる有機化合物の具体例としては、ビス(4―ビニルチオフェニル)スルフィド、ビス(4―スチレニル)スルフィド、ビス(4―アクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビス(4―メタクリロイルチオフェニル)スルフィドビス(4−アクリロキシエチルチオフェニル)スルホン、ビス(4−メタクリロキシエチルチオフェニル)スルホン、ビス(4−ビニロキシエチルチオフェニル)スルホン、ビス(4−アクリロイルチオエチルチオフェニル)スルホン、ビス(4−メタクリロイルチオエチルチオフェニル)スルホン、ビス(4−ビニルチオエチルチオフェニル)スルホン等が挙げられる。上記の有機化合物は、単量体である前記モノマーだけでなく、それらのオリゴマー、ポリマーでもよい。好適な例としては、オプトクレーブシリーズのHV153(株式会社アーデル製)、UV1000(三菱化学株式会社製)、MPSMA、MPV(住友精化株式会社製)等が挙げられる。前記有機化合物は硬化性、屈折率特性等に合わせて1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0040】
また、本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物を構成する有機化合物としては、フルオレン基および重合性官能基を含有している化合物が好ましい。重合性官能基としては、少なくともアクリル基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれか一種以上を含有していることが好ましい。
【0041】
フルオレン基および重合性官能基を含有している有機化合物の具体例としては、下記の化学式(1)に示す化合物が挙げられる。
【0042】
【化1】

【0043】
n=1から5を示す。
【0044】
特に、有機化合物は、屈折率特性、硬化性の点からRにアクリル基を有する[9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンがより好ましい。上記の有機化合物は、単量体である前記モノマーだけでなく、それらのオリゴマー、ポリマーでもよい。好適な例としては、オグソールシリーズのEA−0200、EA−0500、EA−1000、EA−F5003、EA−F5503、PG、PG−100、EG、EG−210(大阪ガスケミカル株式会社製)等が挙げられる。前記有機化合物は硬化性、屈折率特性等に合わせて1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0045】
上記の有機化合物の硬化物の屈折率特性としては、屈折率ndが1.55以上1.70以下のものが好ましく、より好ましくは1.59以上1.66以下である。またアッベ数νdは16以上35以下のものが好ましい。更に好ましくは17以上30以下である。また異常分散特性θg,Fは0.50以上0.72以下のものが好ましい。更に好ましくは0.53以上0.69以下である。
【0046】
本発明における有機化合物には、必要に応じてアクリル基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基等の重合性官能基を有する他のモノマー、オリゴマー、ポリマーを添加することもできる。また、他のモノマー、オリゴマー、ポリマーは重合性官能基を有していなくとも良い。
【0047】
有機化合物に添加できる他のモノマー、オリゴマー、ポリマーは、具体的にはエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレートカルバメート、変性エポキシアクリレート、変性ビスフェノールAエポキシ(メタ)アクリレート、アジピン酸1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリル酸エステル、無水フタル酸プロピレンオキサイド(メタ)アクリル酸エステル、トリメリット酸ジエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、ロジン変性エポキシジ(メタ)アクリレート、アルキッド変性(メタ)アクリレートのようなオリゴマー、あるいはトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアクリルホルマール、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
(金属酸化物微粒子)
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物を構成する金属酸化物微粒子としては、透明導電性物質が好ましい。
【0049】
透明導電性物質の好適な例としては、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびフッ素をドープした酸化スズ(FTO)、SnOが挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて、Si、Ti、Sn、Zr等との複合酸化物微粒子を用いることもできる。
【0050】
有機無機ハイブリッド樹脂組成物に含有される金属酸化物微粒子の含有量は、有機無機ハイブリッド樹脂組成物に対して体積分率で10vol.%以上23vol.%以下ある。23vol.%より多いいと、散乱増加や透過率低下の原因となる。特に金属酸化物微粒子がITO等の可視光域に着色を有する物質の場合、使用する膜厚によっては透過率への影響が顕著なものとなる。また粘度も増加することとなり、その結果、成形性や取り扱い性、材料製造性が低下する恐れがある。分散に際して分散剤や表面処理剤を併用する場合は、金属酸化物微粒子の量が多くなるにつれて分散剤や表面処理剤も増加する。それにより所望の光学特性や機械物性が得られにくくなることもある。10vol.%より少ないと、微粒子に依存した屈折率、アッベ数、異常分散性等の光学特性が得られなくなる。
【0051】
金属酸化物微粒子の平均粒径としては、透過率、散乱等に悪影響を及ぼさない大きさの粒子径が望ましく、2nm以上50nm以下、特に2nm以上30nm以下の範囲が好ましい。しかし例えば平均粒径が30nm以下であっても、微粒子の凝集した場合も含めて、粒子径の分布が幅広く30nmより大きな粒子径の粒子が体積分率で全微粒子の5%以上の割合になると散乱に大きな悪化の影響を及ぼす。そうした場合は材料製造段階で、取り除きたい粒子サイズより比較的小さな細孔を持つフィルターで濾過処理をして、不要な大きな微粒子を取り除くことが好ましい。
【0052】
(重合開始剤)
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物には、重合性官能基を有する有機化合物等に重合開始剤を含有させることで、活性エネルギーを付与し重合させて硬化物とすることができる。
【0053】
活性エネルギーとしては、光源から発せられる紫外線、通常、20から2000kVの電子線加速器から取り出される電子線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線、赤外線等の光照射が挙げられる。光源は、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等が挙げられる。また熱や超音波等の活性エネルギー付与も挙げられるが、これに限定させるものではない。
【0054】
光照射により重合させる場合の重合開始剤(以下、光重合開始剤)としては、ラジカル重合開始剤を利用して、光照射によるラジカル生成機構を利用することができる。通常、レンズ等のレプリカ成形に好ましいものとなる。前記重合可能な成分において、利用可能な光重合開始剤としては、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、4−フェニルベンゾフェノン、4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジフェニルベンゾフェノン、4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン等を挙げることができる。ラジカル重合開始剤に限らず、カチオン、アニオン重合開始剤も用いることができる。なお、光重合開始剤の添加比率は、光照射量、更には、付加的な加熱に応じて適宜選択することができ、また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整することもできる。
【0055】
本発明にかかる樹脂の硬化・成形に利用する場合、用いる微粒子の種類、添加量によっても異なってくるが、重合可能な成分に対して光重合開始剤の添加量は0.01wt%以上10.00wt%以下の範囲に選択することが好ましい。光重合開始剤は重合しうる成分との反応性、光照射の波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0056】
また加熱により重合させる場合の重合開始剤(以下、熱重合開始剤)としては、前記同様にラジカル重合開始剤を利用して、加熱によるによるラジカル生成機構を利用することができ、通常、レンズ等のレプリカ成形に好ましい。前記重合可能な成分において、利用可能な熱重合開始剤としては、例えば、アゾビソイソブチルニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等を挙げることができる。ラジカル重合開始剤に限らず、カチオン、アニオン重合開始剤も用いることができる。なお、熱重合開始剤の添加比率は、加熱温度、更には、付加的な光照射に応じて、適宜選択することができ、また、得られる成形体の目標とする重合度に応じて、調整することもできる。
【0057】
本発明にかかる樹脂の硬化・成形に利用する場合、用いる微粒子の種類、添加量によっても異なってくるが、重合可能な成分に対して熱重合開始剤の添加量は0.01wt%以上10.00wt%以下の範囲に選択することが好ましい。光重合開始剤は重合しうる成分との反応性、光照射の波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0058】
(表面処理剤、分散剤)
本発明における金属酸化物微粒子には必要に応じて表面処理を施しておくことが望ましい。各表面処理は金属酸化物微粒子の合成、製造段階で行っても良いし、金属酸化物微粒子を得た後に別途行っても良い。
【0059】
本発明において金属酸化物微粒子を凝集しないよう均一に分散させるための表面処理剤(界面活性剤)、分散剤は以下のものが望ましい。一般に表面処理剤、分散剤を用いて微粒子を溶媒、樹脂等に分散する場合、添加する表面処理剤、分散剤の種類、添加量、分子量、極性、親和性等によって全く異なった分散状態を示すことが知られている。本発明に使用する表面処理剤、分散剤としては顔料の誘導体や樹脂型や活性剤型のものを好適に用いることができる。ここで表面処理剤、分散剤としては、カチオン系、弱カチオン系、ノニオン系あるいは両性界面活性剤が有効である。特にポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカルボン酸塩、ポリリン酸塩、ハイドロステアリン酸塩、アミドスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、オレフィンマレイン酸塩共重合物、アクリル−マレイン酸塩共重合物、アルキルアミン酢酸塩、アルキル脂肪酸塩、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系、シリコーン系、フッ素系を用いることができるが、本発明においてはポリカプロラクトン系から選択される少なくとも一種のものを用いることが好適である。またディスパービックシリーズ(ビッグケミー・ジャパン社製)の中ではディスパービック161、162、163、164、ソルスパースシリーズ(ゼネガ社製)の中ではソルスパース3000、9000、17000、20000、24000、41090等も好適である。
【0060】
かかる表面処理剤、分散剤の添加量としては、大きく分けて表面処理剤、分散剤の種類、微粒子の種類、微粒子の表面積(微粒子径)、微粒子を混合する樹脂の種類、溶媒の種類等に応じて異なってくる。本発明においては金属酸化物微粒子の重量に対して0.1wt%以上30.0wt%以下、好ましくは5.0wt%以上25.0wt%以下が望ましい。分散剤の添加量が多すぎると白濁の原因となり散乱が生じてしまうため、また微粒子を含有して得られた最終的な組成物の特性(屈折率、アッベ数、異常分散性、弾性率等)を必要以上に低下させる。また分散剤は1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0061】
(溶媒)
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物に用いる溶媒は、有機化合物や重合開始剤を溶解するため若しくは金属酸化物微粒子を溶媒に分散させておくため、必要に応じて表面処理剤、分散剤を溶解させるために用いられる。溶媒の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、DMF、DMAc、NMP等のアミド系、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ブチルカルビトール等のエチル類、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いる有機化合物や重合開始剤の溶解性、金属酸化物微粒子の親和性、表面処理剤、分散剤の親和性に合わせて分散溶媒を選択することができる。また有機溶媒は1種類のみで使用することもできるし、溶解性や微粒子の分散性を損なわない範囲において2種類以上を併用して使用することもできる。
【0062】
次に、本発明の有機無機ハイブリッド樹脂材料は、上記の有機無機ハイブリッド樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする。
【0063】
以下に、本発明における有機無機ハイブリッド樹脂材料の製造工程について説明する。
【0064】
光重合機構を用いた本発明に係る有機無機ハイブリッド樹脂組成物の硬化物を製造する方法を説明する。
【0065】
まず、溶媒に表面処理剤若しくは分散剤を適量溶解させる。次に、所望の金属酸化物微粒子を添加し、種々の方法で分散処理することで、金属酸化物微粒子が溶媒に均一に分散したスラリを得る。分散処理としては、超音波ミル、サンドミル、ジェットミル、ディスクミル、ビーズミル等の分散機を用いて調製することができる。前記の分散処理手法の内、特にビーズミル分散処理装置で処理することで極めて散乱の低いスラリを製造することができる。ビーズミル処理に用いるメディアにはシリカ、アルミナ、ジルコニア製等、種々の材質のメディアを用いることができるが、硬度の面からジルコニア製のメディアが好ましい。メディアの平均粒径は10μmから500μmのサイズのものを用いることができる。分散させる金属酸化物微粒子の平均粒径や分散度合いにより、メディアの粒径を調整することができ、より好ましくは10μmから100μmのサイズのものを用いることができる。
【0066】
次に、得られたスラリに有機化合物、重合開始剤等を溶解させる。必要に応じて同時に離型剤、増感剤、酸化防止剤、安定剤、増粘剤等を含有させても良い。その際は金属酸化物微粒子の分散状態の悪化がより少ない溶媒、表面処理剤、分散剤の組み合わせにすることが望ましい。また必要に応じてフィルタリング処理を行い、凝集微粒子を除去することができる。金属酸化物微粒子の沈殿等がなく好適に微粒子が分散していることを確認した後、エバポレーター等を用いて溶媒を除去することにより、硬化する前の有機無機ハイブリッド樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
溶媒除去の際、溶媒の沸点、残留溶媒量等に応じて減圧度、加熱温度を適宜調整することが望ましい。減圧度が高すぎると、または減圧と同時に過剰に加熱を伴うことで、若しくは長時間にわたる減圧工程を経ることで、溶媒と共に添加した表面処理剤、分散剤およびその他添加した成分も留去される恐れがある。そのため個々の分子量、沸点、昇華性等を考慮した減圧度、温度、時間等の調整が必要である。また急激な溶媒の蒸発、除去により微粒子の凝集の程度を悪化させ、分散性を損なうことがある。
【0068】
また上記で得られた硬化する前の有機無機ハイブリッド樹脂組成物には除去し切れなかった残留溶媒を含有することがある。その含有率によっては後の成形品等における耐久性、光学特性に影響を及ぼすことが考えられる。そのため、残留溶媒の含有率は全重量に対して、0.01wt%から0.50wt%の範囲であることが望ましい。
【0069】
次に、前記有機無機ハイブリッド樹脂組成物を活性エネルギーの付与により硬化させて硬化物からなる有機無機ハイブリッド樹脂材料を得る。
【0070】
具体例として、本発明に係る回折光学素子の製造における、光照射による重合機構を利用して型成形体層を形成する過程により硬化物を得る工程を示す。
【0071】
基板に利用する透過性材料上に膜厚の薄い層構造を形成する際には、例えば、ガラス平板を基板に利用し、一方、微細な回折格子構造に対応する型に金属材料を利用する。両者の間に、硬化する前の有機無機ハイブリッド樹脂組成物を設置し、圧力をかけ型形状に前記樹脂を充填させることで、型成形を成す。その状態に保ったまま光照射をすることで重合を行う。その後、前記型から離型することで硬化した有機無機ハイブリッド樹脂材料で形成された回折光学素子を得る。
【0072】
かかる光重合反応に供する光照射は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に対応して、好適な波長の光、通常、紫外光もしくは可視光を利用して行う。例えば、前記基板に利用するガラス基板を介して、充填されている樹脂に対して、均一に光照射を実施する。照射される光量は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に応じて、また、含有される光重合開始剤の含有比率に応じて、適宜選択される。
【0073】
一方、かかる光重合反応による型成形体層の作製においては、照射される光が充填されている樹脂組成物に均一に照射されることがより好ましい。従って、利用される光照射は、ガラス基板を介して、均一に照射することが可能な波長の光を選択することが一層好ましい。また、基板に利用する透過性材料上に形成する型成形体を含む回折格子の総厚を薄くすることが好ましい。
【0074】
同様に、加熱による重合機構を利用して型成形体層を形成することもできる。この場合、全体の温度をより均一とすることが望ましく、基板に利用する透過性材料上に形成する型成形層を含む回折格子の総厚を薄くすることが好ましい。
【0075】
従って、本発明における有機無機ハイブリッド樹脂組成物を用いて上記方法を利用することで、屈折率分散特性の異なる材料からなる複数層を基板上に積層することができる。それにより使用波長域全域で特定次数(設計次数)の回折効率を高くする設計とした回折光学素子を、短時間で作製することができる。
【0076】
本発明の光学素子は、透明基板と、前記透明基板上に形成された上記の有機無機ハイブリッド樹脂材料とからなることを特徴とする。前記有機無機ハイブリッド樹脂材料の表面は、回折形状が形成された回折面であることが好ましい。
【0077】
本発明の積層型回折光学素子は、上記の有機無機ハイブリッド樹脂材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、前記第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きいガラスにより形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有する。前記第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする。
【0078】
第1の回折光学素子は、本発明の有機無機ハイブリッド樹脂材料により形成される。第1の回折光学素子の屈折率ndは1.61以上1.65以下、アッベ数νdが13以上20以下、異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下が好ましい。
【0079】
第2の回折光学素子は、ガラスにより形成される。ガラスには、例えばHOYA株式会社製のM―NBF1が用いられる。第2の回折光学素子の屈折率ndは1.70以上1.75以下、アッベ数νdが40以上55以下、異常分散性θg,Fは0.53以上0.58以下が好ましい。
【0080】
本発明の積層型回折光学素子の代表的な全体構成について図1を用いて説明する。
【0081】
図1は本発明の積層型回折光学素子101の模式図である。図1(a)は上面図、図1(b)は断面図である。この積層型回折光学素子は、ガラスからなる回折格子形状を有する高屈折率低分散特性の層102と本発明に係る有機無機ハイブリッド樹脂材料からなる低屈折率高分散特性の層103とが、空間無く積層された構成を有している。なお、高屈折率低分散特性の層102と低屈折率高分散特性の層103の積層順は逆であってもかまわない。また、高屈折率低分散特性の層102と低屈折率高分散特性の層103の両面は、平面であっても、球面形状であっても、非球面形状であってもよい。また低屈折率高分散特性の層103は、ガラスやプラスチック等の透明基板層で挟まれた構成であってもよい。
dは格子高さであり、格子高さは7.0μm以下が望ましい。
【0082】
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂材料は光学材料として用いられる。本発明の積層型回折光学素子は、一方の回折光学素子より、相対的に低屈折率で、且つ屈折率分散の高い特性を有する他方の回折光学素子を有する。そのため、前記有機無機ハイブリッド樹脂材料で形成された他方の回折光学素子と、対応する一方の回折光学素子からなる積層型回折光学素子は、効率良く色収差を除去でき、小型軽量化が可能になる。得られる光学素子の回折効率は極めて高く、格子高さが低く設計出来るため格子の高さに依存したフレア発生量が少ない。
【0083】
また本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物は、材料構成として重合開始剤を含有することから、種々の活性エネルギーにより硬化させて硬化物を得ることができ、高い加工性を付与することができる。そのため所望の形状の光学素子を低コストで効率良く製造できる。製造時、金型等を用いて形状を転写する場合には、最適なものとなる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の好適な実施例について説明するが、本発明がそれらによって何ら制限されるものではない。
【0085】
図1および図3に示す構成からなる積層型回折光学素子の実施例を示す。
【0086】
[低屈折率高分散層103を構成する低屈折率高分散材料の製造]
本発明に係る有機無機ハイブリッド樹脂組成物である低屈折率高分散材料A1からA15は、以下の様にして製造した。
【0087】
まずキシレン溶媒126.28gに分散剤としてポリカプロラクトン2.87gを溶解させ、続いて金属酸化物微粒子として平均粒径15nmのITO微粒子14.35gを添加し、分散剤とITO微粒子が混合したキシレン溶液を得た。得られたキシレン溶液を平均粒径30nmのジルコニア製ビーズを用いて、ビーズミル分散処理後、細孔が100nmのフィルターで濾過処理して、キシレン溶媒にITO微粒子が10wt%で分散したスラリを得た。
【0088】
続いて前記スラリに、光重合開始剤と有機化合物の混合物である紫外線硬化樹脂HV153(株式会社アーデル製)(硬化後の屈折率nd=1.63、νd=25、θg,F=0.65)6.1gを混合した。この混合溶液をエバポレーターに入れ、45℃、100ヘクトパスカルから徐々に圧力を下げ、最終的には3ヘクトパスカルとした。キシレン溶媒を12時間かけて十分に除去し、低屈折率高分散材料A1を作製した。
【0089】
金属酸化物微粒子のITO微粒子の添加量を変えて、上記と同様の方法により、低屈折率高分散材料A2からA5を作製した。
【0090】
なお、平均粒径は、レーザー方式の粒度分布計(ELS:大塚電子株式会社製)で測定を行った。
【0091】
また、紫外線硬化樹脂HV153に変えて、紫外線硬化樹脂UV1000(三菱化学株式会社製)(硬化後の屈折率nd=1.63、νd=23、θg,F=0.68)を用いて、上記と同様の方法により、低屈折率高分散材料A6からA7を作製した。
【0092】
また、紫外線硬化樹脂HV153に変えて、EA―0200(三菱ガスケミカル株式会社製)に光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンを3wt%添加した紫外線硬化樹脂(硬化後の屈折率nd=1.63、νd=25、θg,F=0.62)を用いて、上記と同様の方法により、低屈折率高分散材料A8からA12を作製した。
【0093】
また、紫外線硬化樹脂HV153に変えて、EA―F5503(三菱ガスケミカル株式会社製)に光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンを3wt%添加した紫外線硬化樹脂(硬化後の屈折率nd=1.61、νd=27、θg,F=0.62)を用いて、上記と同様の方法により、低屈折率高分散材料A13からA15を作製した。
【0094】
表1に低屈折率高分散材料A1からA15のそれぞれの有機化合物、金属酸化物微粒子の種類、ならびに各低屈折率高分散材料における金属酸化物微粒子の体積分率を示す。
【0095】
[高屈折率低分散層102を構成する高屈折率低分散材料]
積層型回折光学素子を製造する上で、高屈折率低分散層102を構成する高屈折率低分散材料B1からB5としては、表2のガラス(HOYA株式会社製)を用いた。
【0096】
表2に高屈折率低分散材料B1からB5のガラスの種類を示す。
【0097】
[低屈折率高分散層204を構成する低屈折率高分散材料の製造]
低屈折率高分散材料C1からC3は、特許文献4、特許文献5に基づいて製造した。その製造方法は、有機化合物に対する金属酸化物微粒子の配合量を適宜変えることで行った。
【0098】
なお、C1は微粒子の体積分率が多いためか、溶媒除去途中で高粘度になり、溶媒を完全に除去することができなかった。
【0099】
表3に低屈折高分散材料C1からC3のそれぞれの有機化合物、金属酸化物微粒子の種類、ならびに各低屈折率高分散材料における金属酸化物微粒子の体積分率を示す。
【0100】
[高屈折率低分散層203を構成する高屈折率低分散材料の製造]
高屈折率低分散材料D1からD3は、特許文献4、特許文献5に基づいて製造した。その製造方法は、有機化合物に対する金属酸化物微粒子の配合量を適宜変えることで行った。
【0101】
表4に高屈折率低分散材料D1からD3のそれぞれの有機化合物、金属酸化物微粒子の種類、ならびに各低屈折率高分散材料における金属酸化物微粒子の体積分率を示す。
【0102】
[屈折率特性の評価]
次に、前述の低屈折率高分散材料A1からA15、高屈折率低分散材料B1からB5、低屈折率高分散材料C1からC3、高屈折率低分散材料D1からD3の屈折率特性の評価方法を記述する。
【0103】
低屈折率高分散材料A1からA15、低屈折率高分散材料C1からC3、高屈折率低分散材料D1からD3の屈折率特性は、次のようにしてサンプルを作製して測定した。
【0104】
まず、図4に示すように、厚さ1mmの高屈折率ガラス301の上に、厚さ10μmのスペーサー302と、上記の方法で製造した材料、例えば低屈折率高分散材料A1を配置した(図4(a))。その上に厚みが1mmの合成石英ガラス303をスペーサー302を介して乗せ、低屈折率高分散材料A1を押し広げてサンプル(硬化前)304とした(図4(b))。この屈折率評価用サンプル(硬化前)304に20mW/cm、1000秒の条件で高圧水銀ランプ(EXECURE250、HOYA CANDEO OPTRONICS(株))を照射し、低屈折率高分散材料A1を硬化させた(図4(c))。それにより屈折率測定用サンプル(硬化後)305を得た(図4(d))。
【0105】
前記屈折率測定用サンプル(硬化後)305は、屈折計(KPR−30、株式会社島津製作所)を用いて、g線435.8nm、F線486.1nm、e線546.1nm、d線587.6nm、C線656.3nmの屈折率を測定した。また、測定した屈折率より、アッベ数νd、異常分散性θg,Fを算出した。なお、屈折率特性の評価は23℃の環境で行った。
【0106】
表1、表3から4には、低屈折率高分散材料A1からA15、高屈折率低分散材料C1からC3、D1からD3の屈折率特性として、屈折率nd、アッベ数、異常分散性θg,Fを示す。
【0107】
高屈折率低分散材料B1からB5は、厚さ1cm角のブロックを切削研磨加工により作製したものをサンプルとし、屈折率の測定、算出は上記と同様に行った。
【0108】
表2には、高屈折率低分散材料B1からB5の屈折率特性として、屈折率nd、アッベ数、異常分散性θg,Fを示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
[積層型回折光学素子101]
低屈折率高分散材料A1からA15、高屈折率低分散材料B1からB5を用いて、図1に示す構成の積層型回折光学素子を作製した。
【0114】
積層型回折光学素子は、図5の示す方法により作製した。実施例1は低屈折率高分散材料A1と高屈折率低分散材料B1を用いた積層型回折光学素子である。
【0115】
まず、高屈折率低分散材料B1を切削研磨加工により格子高さ(d)6.0μm、ピッチ幅(x)200μm、表面粗さRa2nmになるように回折格子を加工した(図5(a))。本実施例では切削研磨加工により回折格子を作製したが、ガラスの種類によってはガラスモールド成形で回折格子を作製しても良い。
【0116】
得られた回折光学素子401の回折格子面上に低屈折率高分散材料A1を乗せた(図5(b)。低屈折率高分散材料A1の上に透明基板402を乗せて低屈折率高分散材料A1を押し広げた(図5(c))。続いて透明基板402を介して20mW/cm、1000秒の条件で高圧水銀ランプ(EXECURE250、HOYA CANDEO OPTRONICS(株))を照射し、低屈折率高分散材料A1を硬化させた(図5(d))。それにより低屈折率高分散材料A1と高屈折率低分散材料B1から形成された積層型回折光学素子P1を得た(図5(e))。
【0117】
同様にして、他の積層型回折光学素子P2からP15も製造した。
【0118】
表5に実施例1から15の低屈折率高分散材料と高屈折率低分散材料の各材料の組合せ、及び積層型回折光学素子P1からP15の回折格子の形状(格子高さ、ピッチ幅)を示す。
【0119】
非接触三次元表面形状・粗さ測定機(NewView5000、ザイゴ株式会社)を用いて、得られた回折光学素子の格子高さを測定した結果、設計通りに格子高さが形成されていることを確認した。
【0120】
[積層型回折光学素子201]
低屈折率高分散材料C1からC3、高屈折率低分散材料D1からD3を用いて、図3に示す構成の積層型回折光学素子を作製した。
【0121】
積層型回折光学素子は、特許文献4、特許文献5に基づいて作製した。
【0122】
比較例1は低屈折率高分散材料C1と高屈折率低分散材料D1を用いた積層型回折光学素子である。それにより低屈折率高分散材料C1と高屈折率低分散材料D1を用いた積層型回折光学素子S1を得た。
【0123】
同様にして、他の積層型回折光学素子S2とS3を製造した。
【0124】
表5に比較例1から3の低屈折率高分散材料と高屈折率低分散材料の各材料の組合せ、また積層型回折光学素子S1からS3の回折格子の形状(格子高さ、ピッチ幅)を示す。
【0125】
[回折効率の評価]
積層型回折光学素子P1からP15、S1からS3の回折効率を測定した。回折効率は、積層型回折光学素子の回折格子の設計次数の光量を照射した場合の透過率である。その結果を表5に示す。表中の○は回折効率が波長400nmから700nmにおいて99%以上であることを表す。回折効率の評価は23℃の環境で行った。
【0126】
【表5】

【0127】
[評価結果]
(実施例1から15)
表1、表5から分るように、実施例1から15に用いた低屈折率高分散材料A1からA15の硬化物の屈折率ndは1.61以上1.65以下、アッベ数νdは13以上20以下、異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下の範囲である。また低屈折率高分散材料のそれぞれの微粒子の体積分率は10vol.%以上23vol.%以下であった。
【0128】
表5に示したように、表1の低屈折率高分散材料A1からA15、表2の高屈折率低分散材料B1からB5のそれぞれの材料を組み合わせて作製した積層型回折光学素子P1からP15の回折効率は、可視光領域の波長400nmから700nmの範囲でいずれも99%以上と良好であった。またその際の格子高さはいずれも7μm以下であり、これにより格子高さに依存して発生するフレア量も非常に低く良好である。
【0129】
図6に、実施例1の積層型回折光学素子P1の各波長における回折効率を示したグラフを示す。
【0130】
(比較例1から3)
低屈折率高分散材料C1は微粒子の体積分率が多いためか、溶媒除去途中で高粘度になり、溶媒を完全に除去することができなかった。そのため低屈折率高分散材料C1の屈折率特性の評価、および低屈折率高分散材料C1を用いた回折光学素子の作製ができなかった。
【0131】
表3、表5から分るように、比較例2から3に用いた低屈折率高分散材料C2からC3の硬化物の屈折率ndは、1.50から1.54の範囲であり、実施例1から15に用いた低屈折率高分散材料A1からA15より低かった。また低屈折率高分散材料C2からC3のそれぞれの微粒子の体積分率は16.2vol.%から22.9vol.%の範囲であった。
【0132】
表5に示したように、表3の低屈折率高分散材料C2からC3、表4の高屈折率低分散材料D2からD3のそれぞれの材料を組み合わせて作製した積層型回折光学素子S2からS3の回折効率は可視光領域でいずれも99%以上と非常に良好であった。しかしその際の格子高さはいずれも7μmを超える値であった。即ち、いずれも本実施例の積層型回折光学素子の格子高さより高い値となり、その結果、フレア量も多くなる。
【0133】
図7に、比較例2の積層型回折光学素子S2の各波長における回折効率を示したグラフを示す。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物および有機無機ハイブリッド樹脂材料は、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、フレア発生量が少ない光学素子および積層型回折光学素子の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0135】
101 積層型回折光学素子
102 高屈折率低分散特性の層
103 低屈折率高分散特性の層
201 積層型回折光学素子
202 透明基板層
203 高屈折率低分散特性の層
204 低屈折率高分散特性の層
301 高屈折率ガラス
302 スペーサー
303 合成石英ガラス
304 屈折率評価用サンプル(硬化前)
305 屈折率測定用サンプル(硬化後)
401 回折光学素子
402 透明基板
d 格子高さ
x ピッチ幅
P1 積層型回折光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性官能基を有する有機化合物と、金属酸化物微粒子と、重合開始剤とを少なくとも含有する有機無機ハイブリッド樹脂組成物からなり、前記有機無機ハイブリッド樹脂組成物を活性エネルギーの付与により硬化させた硬化物の屈折率ndが1.61以上1.65以下、アッベ数νdが13以上20以下、異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下であることを特徴とする有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機化合物が硫黄原子を有する基および重合性官能基を含有し、前記重合性官能基が少なくともアクリル基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれか一種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機化合物がフルオレン基および重合性官能基を含有し、前記重合性官能基が少なくともアクリル基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれか一種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子が透明導電性物質であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項5】
前記透明導電性物質が、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびフッ素をドープした酸化スズ(FTO)、SnOよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項4に記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子の含有量が、有機無機ハイブリッド樹脂組成物に対して体積分率で10vol.%以上23vol.%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項7】
前記金属酸化物微粒子の平均粒径が2nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする有機無機ハイブリッド樹脂材料。
【請求項9】
透明基板と、前記透明基板上に形成された請求項8に記載の有機無機ハイブリッド樹脂材料とからなることを特徴とする光学素子。
【請求項10】
前記有機無機ハイブリッド樹脂材料の表面は、回折形状が形成された回折面であることを特徴とする請求項9に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項8に記載の有機無機ハイブリッド樹脂材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、前記第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きいガラスにより形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し、該第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする積層型回折光学素子。
【請求項12】
前記有機無機ハイブリッド樹脂材料により形成される第1の回折光学素子の屈折率ndは1.61以上1.65以下、アッベ数νdが13以上20以下、異常分散性θg,Fが0.42以上0.54以下であることを特徴とする請求項11に記載の積層型回折光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−162595(P2012−162595A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21741(P2011−21741)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】