説明

有機無機複合体

【課題】透明性が高く、かつ、屈折率、靭性および耐熱性を向上させることが可能な有機無機複合体を提供する。
【解決手段】平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子と、主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂とを含有してなる有機無機複合体。前記親水性樹脂は、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリンのいずれかからなる。前記正方晶ジルコニア粒子は、前記親水性樹脂中に分散してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合体に関し、更に詳しくは、可視光線に対する光透過率が高く、屈折率および靭性を向上させることが可能な有機無機複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(EL)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)用基板としては、従来、ガラス基板が多く用いられてきた。しかしながら、ガラス基板には、割れ易い、曲げられない、比重が大きく軽量化に不向きであるなどの問題がある。そこで、ガラス基板の代わりに、柔軟性を有するプラスチック基板を用いる試みが数多く行われるようになってきた。
【0003】
フラットパネルディスプレイ(FPD)用途のプラスチック基板に要求される特性としては、透明性、屈折率、機械的特性などが挙げられる。
また、プラスチック材料の屈折率を向上させるための無機酸化物フィラーとしては、ジルコニア、チタニアなどの酸化物微粒子が高屈折率フィラーとして利用されている。
また、無機酸化物フィラーを樹脂と複合化するために、水系溶媒や有機溶媒中に無機酸化物フィラーを分散させた分散液が開発され、樹脂の屈折率の向上について検討されている。
この複合化の例としては、粒径10〜100nmのジルコニア粒子と樹脂とを複合化したジルコニア粒子複合化プラスチックを用いた高屈折率かつ高透明性の厚み数ミクロンの膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、親水性樹脂は、水や各種有機溶剤への溶解性・加工性に優れるため、医薬品、生活用品から工業用原料に至るまで幅広く使用されている。特に光学用途では、高い光透過率や高い屈折率などの特性が必要とされ、さらには、高い熱安定性、高い硬度など、様々な特性が要求される。
これら光学用途の親水性樹脂としては、屈折率を任意に制御する試みとして、ポリビニルアルコールに金属酸化物を複合化させた組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−161111号公報
【特許文献2】特表平09−500974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の無機酸化物粒子複合化プラスチックを用いた基板の透明性を評価する場合、基板の厚みを光路長として、この光路長における可視光線の透過率を求めている。したがって、基板が厚いと、その透明性を維持するのが困難になる。
例えば、上述した従来のジルコニア粒子複合化プラスチックからなる膜の場合、厚みを数μmとすることで高屈折率、高透明性を確保したものであるから、厚みが数十μm、あるいはそれ以上になると、透明性を維持するのが困難になる。
【0006】
また、ジルコニア粒子などの金属酸化物粒子を疎水性である樹脂と複合化しようとすると、この金属酸化物粒子の表面が親水性を有しているため、金属酸化物粒子と樹脂とが分離したり、分離はしないものの濁って失透したりなどの不具合が発生するおそれがあり、樹脂の透明性を維持したまま金属酸化物粒子と複合化することは困難である。
そこで、一般的な解決法として、金属酸化物粒子の表面を疎水化するために、有機高分子分散剤などを金属酸化物粒子の表面に付与することにより、金属酸化物粒子と樹脂との相溶性を高める工夫がなされている。
【0007】
しかしながら、有機高分子分散剤などを金属酸化物粒子の表面に付与することにより、金属酸化物粒子と疎水性樹脂との相溶性を高めることは可能であるが、結果として、得られる組成物には、有機高分子分散剤を多量に含有するため、金属酸化物粒子の添加量が制限され、ひいてはその光学機能の向上が制限されてしまうという問題があった。また、有機高分子分散剤に起因する耐熱性の低下を招くという問題があった。
【0008】
このような問題は、親水性樹脂であるポリビニルアルコールでもみられる場合があり、樹脂と金属酸化物粒子との水素結合による相互作用のために、樹脂自体が凝集してしまうため、金属酸化物粒子を、表面処理を施さずにポリビニルアルコール樹脂と複合化することは問題が生じる場合があった。そのため、金属酸化物粒子に表面処理を施した場合、金属酸化物粒子と樹脂との相溶性が高まり、透明なジルコニア粒子複合化プラスチックが得られるものの、金属酸化物粒子表面の有機成分による耐熱性の低下を生じるおそれがあった。
【0009】
また、従来の樹脂製の光学機能膜、光学フィルム、光学レンズでは、一般的に熱安定性が低く、特に高温環境下では光学特性が変動するなどの欠点を有しており、従来より要求されている高い熱安定性に対処することが難しいという問題点があった。
また、耐熱性および耐薬品性に優れているとされたプラスチックレンズにおいても、屈折率が低く、耐熱性もそれほど高いものではなく、高い熱安定性、高屈折率などの要求に応えることは難しかった。
【0010】
従来の高い屈折率を有する材料としては、ジルコニア、チタニア、酸化スズなどの高屈折率フィラーを樹脂中に含有させた複合材料がある。
しかしながら、従来の複合材料では、一次粒子径が数μmの粗大なものから数nmの微細なものまでのいずれの高屈折率フィラーであっても、凝集が激しく、樹脂中に混練しても粒子径が数μmの粗大粒の状態で存在するため、樹脂中に高屈折率フィラーを均一に分散させることができなかった。したがって、複合材料の可視光線に対する光透過率、屈折率および靭性をさらに向上させることが難しいという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、透明性が高く、かつ、屈折率、靭性および耐熱性を向上させることが可能な有機無機複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、無機フィラーとしてのジルコニア粒子、特に、正方晶ジルコニアを複合材料の第2相として添加した場合、この複合材料がマルテンサイト変態と称される体積膨張により高い靭性を示すことに着目し、従来のジルコニア粒子が有する、一次粒子径が数μmの粗大なものから数nmの微細なものまでのいずれであっても凝集が激しく、樹脂中に混練しても粒子径が数μmの粗大粒の状態で存在し、透明性が失われるという欠点を克服するために鋭意検討を重ねた結果、ジルコニア粒子として平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子を用い、この正方晶ジルコニア粒子を含む有機無機複合体により光学機能膜、光学フィルムおよび光学レンズを構成すれば、高光透過率、高屈折率、高い熱安定性、高硬度および耐候性を満足することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の有機無機複合体は、平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子と、主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂とを含有してなることを特徴とする。
【0014】
前期親水性樹脂は、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリンのいずれかからなることが好ましい。
前記正方晶ジルコニア粒子は、前記親水性樹脂中に分散してなることが好ましい。
前記正方晶ジルコニア粒子の含有率は1質量%以上かつ90質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機無機複合体によれば、平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子と、主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂とを含有してなるので、透明性を維持することができ、屈折率および靭性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の有機無機複合体の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
「有機無機複合体」
図1は、本発明の有機無機複合体を備えた複合基材の一実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態の複合基材10は、平板状の透明基材11と、この透明基材11の一方の面11aに形成された有機無機複合体12とから概略構成されており、透明基材11と有機無機複合体12全体が光透過領域をなしている。
【0018】
有機無機複合体12は、平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子を、主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂中に分散した透明複合体である。
【0019】
ここで、ジルコニア粒子を正方晶ジルコニア粒子に限定した理由は、微粒子の粒径が20nm以下のように小さくなると、正方晶の方が従来知られている単斜晶よりも安定になること、および、硬度が高く、透明複合体の機械的特性を向上させることができる上に、ジルコニア粒子を樹脂中に分散させた透明複合体においては、その第2相として正方晶ジルコニア粒子を添加すると、単斜晶ジルコニア粒子を添加した場合と比べて、マルテンサイト変態と称される体積膨張により高い靭性を示すからである。
【0020】
また、正方晶ジルコニア粒子の平均分散粒径を1nm以上かつ20nm以下と限定した理由は、平均分散粒径が1nm未満であると、結晶性が乏しくなり、屈折率などの粒子特性を発現することが難しくなるからであり、一方、平均分散粒径が20nmを超えると、分散液や透明複合体とした場合に透明性が低下するからである。
このように、正方晶ジルコニア粒子は、ナノサイズの粒子であるから、樹脂と複合化して透明複合体としても、光散乱が小さく、複合体の透明性を維持することが可能である。
【0021】
有機無機複合体12は高い透明性を維持できるため、有機無機複合体12の厚みは、光学機能を得るため、0.1μm以上かつ1cm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上かつ1mm以下である。
【0022】
有機無機複合体12における正方晶ジルコニア粒子の含有率は、1質量%以上かつ90質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上かつ80質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上かつ75質量%以下である。
ここで、正方晶ジルコニア粒子の含有率を1質量%以上かつ90質量%以下と限定した理由は、下限値の1質量%は屈折率、機械的特性および熱的特性の向上が可能となる添加率の最小値であるからであり、一方、上限値の90質量%は樹脂自体の特性(柔軟性)を維持することができる添加率の最大値であるからである。
【0023】
有機無機複合体12では、正方晶ジルコニア粒子の含有率を25質量%とした場合、光路長を1mmとしたときの可視光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは92%以上である。
この可視光透過率は、有機無機複合体12における正方晶ジルコニア粒子の含有率により異なり、正方晶ジルコニア粒子の含有率が1質量%では95%以上、正方晶ジルコニア粒子の含有率が40質量%では80%以上である。
【0024】
なお、正方晶ジルコニア粒子の屈折率は2.15であるから、この正方晶ジルコニア粒子を樹脂中に分散させることにより、ポリビニルピロリドン樹脂の屈折率1.25程度と比べて、屈折率をそれ以上に向上させることが可能である。
また、正方晶ジルコニア粒子は、単斜晶ジルコニア粒子に比べてマルテンサイト変態による靭性値の向上を期待できる上に、靭性、硬度が高く、複合体の機械的特性向上に適している。
また、正方晶ジルコニア粒子は、ナノサイズの粒子であるから、樹脂と複合化させた場合においても、光散乱が小さく、複合体の透明性を維持することが可能である。
【0025】
主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂としては、ポリビニルピロリドンあるいはポリオキサゾリンが好適に用いられる。ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone、PVP)としては、特に限定されないが、例えば、分子量が1000以上かつ1000000以下のものが用いられる。
ポリオキサゾリンとしては、特に限定されないが、例えば、分子量が1000以上かつ1000000以下のものが用いられる。
また、主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂としては、上記以外に、ポリ2−メチル2−オキサゾリン、ポリ2−ブチル2−オキサゾリンなどのポリオキサゾリン類、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルホルムアミド、ポリビニルアセトアミド、ポリビニルイソブチルアミドなどのポリアミド類が挙げられる。
【0026】
ポリビニルピロリドンおよびポリオキサゾリンは、親水基を有する親水性樹脂である。
ここで、親水基を有することは、この樹脂中に表面処理を施さない正方晶ジルコニア粒子を分散させるための必須条件である。さらに、樹脂が水溶性であれば、正方晶ジルコニア粒子の水分散液に樹脂を溶解させることができるから、容易に、水中で正方晶ジルコニア粒子と樹脂とを均一に混合させることができる。そして、混合後に水を除去することにより、容易に、樹脂中に正方晶ジルコニア粒子を均一に分散させた有機無機複合体を製造することができる。
【0027】
この有機無機複合体は、上記以外に、その特性を損なわない範囲において、他の無機酸化物粒子、樹脂モノマーなどを含有していてもよい。
上記以外の無機酸化物粒子としては、例えば、単斜晶または立方晶のジルコニア粒子、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモン添加酸化スズ(ATO)、スズ添加酸化インジウム(ITO)などが挙げられる。
【0028】
透明基材11としては、無機材料からなる基材または樹脂基材が用いられる。
無機材料からなる基材としては、例えば、石英ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラスなどのガラスや、サファイヤなどのセラミックスからなる基材が挙げられる。
樹脂基材としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリシクロヘキシルメタクリレートなどのアクリレート、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアクリル酸エステル、ポリアミド、フェノール−ホルムアルデヒド(フェノール樹脂)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクレート・スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリ−4−メチルペンテン、ノルボルネン系ポリマー、ポリウレタン、エポキシ、シリコーンなどからなる基材が挙げられる。
【0029】
この有機無機複合体は、平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子を主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含有する親水性樹脂に分散したので、透明性が維持されるとともに、屈折率および靭性も向上する。これにより、透明性、屈折率、熱安定性、硬度および耐候性が向上し、よって、長期に亘って信頼性が向上する。
【0030】
「有機無機複合体の製造方法」
次に、本発明の有機無機複合体の製造方法を説明する。
この有機無機複合体を作製する際、以下に示すジルコニア透明分散液を用いる。
このジルコニア透明分散液は、分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子と、分散媒とを含む分散液である。
【0031】
分散媒は、基本的には、水、有機溶媒、液状の樹脂モノマー、液状の樹脂オリゴマーのうち1種または2種以上を主成分としたものである。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
上記の液状の樹脂モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどのアクリル系またはメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマーなどが好適に用いられる。
また、上記の液状の樹脂オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマーなどが好適に用いられる。
【0033】
このジルコニア透明分散液における正方晶ジルコニア粒子の含有率は、1質量%以上かつ70質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上かつ50質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上かつ30質量%以下である。
ここで、正方晶ジルコニア粒子の含有率を1質量%以上かつ70質量%以下と限定した理由は、この範囲は正方晶ジルコニア粒子が良好な分散状態を取りうる範囲であり、含有率が1質量%未満では、正方晶ジルコニア粒子としての効果が低下し、一方、70質量%を超えると、ゲル化や凝集沈澱が生じ、分散液としての特徴を消失するからである。
【0034】
このジルコニア透明分散液は、上記以外に、その特性を損なわない範囲において、他の無機酸化物粒子、樹脂モノマーなどを含有していてもよい。
正方晶ジルコニア粒子以外の無機酸化物粒子としては、単斜晶または立方晶のジルコニア粒子、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモン添加酸化スズ(ATO)、スズ添加酸化インジウム(ITO)などが挙げられる。
【0035】
このジルコニア透明分散液は、正方晶ジルコニア粒子の含有率を5質量%とした場合、光路長を10mmとしたときの可視光線透過率が90%以上が好ましく、より好ましくは95%以上である。
この可視光線透過率は、ジルコニア粒子の含有率により異なり、正方晶ジルコニア粒子の含有率が1質量%では95%以上、正方晶ジルコニア粒子の含有率が40質量%では80%以上である。
【0036】
次いで、上述のジルコニア透明分散液と、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリンのいずれかからなる親水性樹脂を混合し、流動性の高い状態の混合溶液を調製する。
次いで、この混合溶液を、スピンコート法、バーコート法、フローコート法、ディップ法などの各種塗布方法により、透明基材11の一方の面11aを覆うように塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を加熱して溶媒(分散媒)を除去し、透明基材11上に、樹脂中に正方晶ジルコニア粒子が均一に分散した有機無機複合体12を形成する。
以上により、図1に示す本実施形態の有機無機複合体12を作製することができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子を親水性樹脂に分散した有機無機複合体12を備えたので、有機無機複合体12の光透過率、屈折率、熱安定性、硬度および耐候性を向上させることができる。
したがって、高光透過率、高屈折率、高い熱安定性、高硬度および耐候性に優れた有機無機複合体を提供することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
「実施例1」
(ジルコニア透明分散液の調製)
オキシ塩化ジルコニウム8水塩2615gを純水40L(リットル)に溶解させたジルコニウム塩溶液に、28%アンモニア水344gを純水20Lに溶解させた希アンモニア水を攪拌しながら加え、ジルコニア前駆体スラリーを調整した。
次いで、このスラリーに、硫酸ナトリウム300gを5Lの純水に溶解させた硫酸ナトリウム水溶液を攪拌しながら加えた。このときの硫酸ナトリウムの添加量は、ジルコニウム塩溶液中のジルコニウムイオンのジルコニア換算値に対して30質量%であった。
次いで、この混合物を、乾燥器を用いて、大気中、130℃にて24時間、乾燥させ、固形物を得た。
次いで、この固形物を自動乳鉢により粉砕した後、電気炉を用いて、大気中、500℃にて1時間焼成した。
次いで、この焼成物を純水中に投入し、攪拌してスラリー状とした後、遠心分離機を用いて洗浄を行い、添加した硫酸ナトリウムを十分に除去した後、乾燥器にて乾燥させ、正方晶ジルコニア粒子を作製した。
【0040】
次いで、この正方晶ジルコニア粒子15gに、分散媒として水85gを加え、0.1mmφのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、ジルコニア透明分散液(Z1)を調製した。
次いで、このジルコニア透明分散液(Z1)における正方晶ジルコニア粒子の平均分散粒径を測定した。
正方晶ジルコニア粒子の平均分散粒径の測定には、動的光散乱式粒径分布測定装置(Malvern社製)を用い、ジルコニア透明分散液(Z1)中の正方晶ジルコニア粒子の含有量を1質量%に調製したものを測定用試料とした。
その結果、ジルコニア透明分散液(Z1)における正方晶ジルコニア粒子の平均分散粒径は7nmであった。
【0041】
(有機無機複合体の作製)
次いで、上記のジルコニア透明分散液(Z1)1.00gに、メタノール7.11gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.85gを加えて混合し、ジルコニア/ポリビニルピロリドン混合溶液を調製した。
次いで、50mm×50mm×2mmのソーダライムガラス基板上に、バーコート法により、この混合溶液を塗布した後、乾燥機により60℃にて24時間加熱して予備乾燥した後、減圧下、80℃にて24時間乾燥して、実施例1の有機無機複合体を作製した。
なお、この有機無機複合体は、ジルコニア/ポリビニルピロリドン混合溶液の塗布と乾燥を繰り返し、硬化後の膜厚が100μmとなるように調整した。
得られた有機無機複合体における正方晶ジルコニア粒子の含有率は15質量%であった。
【0042】
「実施例2」
ジルコニア透明分散液(Z1)2.00gに、メタノール6.29gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.70gを加えた以外は実施例1と同様にして、実施例2の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における正方晶ジルコニア粒子の含有率は30質量%であった。
【0043】
「実施例3」
ジルコニア透明分散液(Z1)3.33gに、メタノール5.20gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.50gを加えた以外は実施例1と同様にして、実施例3の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における正方晶ジルコニア粒子の含有率は50質量%であった。
【0044】
「実施例4」
ジルコニア透明分散液(Z1)4.67gに、メタノール3.69gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.30gを加えた以外は実施例1と同様にして、実施例4の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における正方晶ジルコニア粒子の含有率は70質量%であった。
【0045】
「実施例5」
ジルコニア透明分散液(Z1)1.00gに、メタノール7.11gとポリ2−エチル2−オキサゾリン(平均分子量50000、Aldrich製)0.85gを加えた以外は実施例1と同様にして、実施例5の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における正方晶ジルコニア粒子の含有率は15質量%であった。
【0046】
「実施例6」
ジルコニア透明分散液(Z1)4.67gに、メタノール3.69gとポリ2−エチル2−オキサゾリン(平均分子量50000、Aldrich製)0.30gを加えた以外は実施例1と同様にして、実施例6の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における正方晶ジルコニア粒子の含有率は70質量%であった。
【0047】
「比較例1」
メタノール7.9gに、ポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)1.0gを加えて混合し、ポリビニルピロリドン溶液を調製した。
次いで、50mm×50mm×2mmのソーダライムガラス基板上に、バーコート法により、このポリビニルピロリドン溶液を塗布した後、乾燥機により60℃にて24時間加熱して予備乾燥した後、減圧下、80℃にて24時間乾燥して、比較例1の有機無機複合体を作製した。
なお、この有機無機複合体は、ポリビニルピロリドン溶液の塗布と乾燥を繰り返し、硬化後の膜厚が100μmとなるように調整した。
【0048】
「比較例2」
ジルコニア透明分散液(Z2)として、アモルファスジルコニア粒子の含有率が20質量%のZirconium(IV)oxide、colloidal dispersion(Alfa−Aesar社製)を用いた。
なお、アモルファスジルコニア粒子の平均粒子径は8nmであった。
次いで、このジルコニア透明分散液(Z2)1.50gに、メタノール6.74gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.70gを加えて混合し、ジルコニア/ポリビニルピロリドン混合溶液を調製した。
以下、実施例1と同様にして、比較例2の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体におけるアモルファスジルコニア粒子の含有率は30質量%であった。
【0049】
「比較例3」
ジルコニア透明分散液(Z2)2.50gに、メタノール5.95gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.50gを加えた以外は実施例1と同様にして、比較例3の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体におけるアモルファスジルコニア粒子の含有率は50質量%であった。
【0050】
「比較例4」
ジルコニア透明分散液(Z3)として、微結晶ジルコニア粒子の含有率が20質量%のZirconium(IV)oxide、colloidal dispersion(Alfa−Aesar社製)を用いた。
なお、微結晶ジルコニア粒子の平均粒子径は100nmであった。
次いで、このジルコニア透明分散液(Z3)1.50gに、メタノール6.74gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.70gを加えて混合し、ジルコニア/ポリビニルピロリドン混合溶液を調製した。
以下、実施例1と同様にして、比較例4の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における微結晶ジルコニア粒子の含有率は30質量%であった。
【0051】
「比較例5」
ジルコニア透明分散液(Z3)2.50gに、メタノール5.95gとポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)0.50gを加えた以外は実施例1と同様にして、比較例5の有機無機複合体を作製した。
得られた有機無機複合体における微結晶ジルコニア粒子の含有率は50質量%であった。
【0052】
「比較例6」
メタノール7.9gに、ポリ2−エチル2−オキサゾリン(平均分子量50000、Aldrich製)1.0gを加えて混合し、ポリオキサゾリン溶液を調製した。
次いで、50mm×50mm×2mmのソーダライムガラス基板上に、バーコート法により、このポリビニルピロリドン溶液を塗布した後、乾燥機により60℃にて24時間加熱して予備乾燥した後、減圧下、80℃にて24時間乾燥して、比較例6の有機無機複合体を作製した。
なお、この有機無機複合体は、ポリオキサゾリン溶液の塗布と乾燥を繰り返し、硬化後の膜厚が100μmとなるように調整した。
【0053】
「有機無機複合体の評価」
実施例1〜6および比較例1〜6で作製した有機無機複合体の各々について、可視光透過率、屈折率およびガラス転移温度の評価を下記の方法により行った。
【0054】
(1) 可視光透過率
分光光度計(V−570、日本分光社製)を用いて、波長350nm〜800nmの範囲で、可視光線の透過率を測定した。
ここでは、50mm×50mm×2mmのソーダライムガラス基板に、ポリビニルピロリドン(k30、和光純薬工業社製)を塗布した厚み100μmの有機膜を基準用試料とし、ガラス基板とポリビニルピロリドン膜の透過率を100%としたとき、可視光線の透過率が95%以上を「○」、95%未満を「×」とした。結果を表1に示す。
【0055】
(2)屈折率
実施例1〜6および比較例1〜6にて調製した混合溶液を、スピンコート法によりシリコンウェハー上に塗布し、乾燥して有機無機複合体を形成し、得られた有機無機複合体について、分光エリプソメーターを用いて、屈折率を測定した。
結果を表1に示す。
【0056】
(3)ガラス転移温度
実施例1〜6および比較例1〜6にて調製した混合溶液を、60℃にて24時間加熱して予備乾燥した後、減圧下、80℃にて24時間乾燥して有機無機複合体を形成し、得られた有機無機複合体について、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製)を用いて、窒素ガスフロー下、昇温速度5℃/minの条件でガラス転移温度を測定した。
結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、実施例1〜6の有機無機複合体は、可視光透過率、屈折率ともに良好であり、ガラス転移温度も大幅に向上していることから、高光透過率、高屈折率、高い熱安定性、高硬度および耐候性に優れていることが分かった。
一方、比較例1〜6の有機無機複合体は、可視光透過率、屈折率、ガラス転移温度のいずれかの特性が実施例1〜6と比べて劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の有機無機複合体は、平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子と、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリンのいずれかからなる親水性樹脂とを含有してなり、正方晶ジルコニア粒子の表面が表面処理剤により修飾されない構成としたことにより、屈折率、靭性および耐熱性の向上と共に透明性の維持を図ることができるものであるから、液晶表示装置用基板、有機EL表示装置用基板、カラーフィルタ用基板、タッチパネル用基板、太陽電池用基板などの光学シート、半導体レーザ(LED)の封止材、透明板、光学レンズ、光学素子、光導波路などはもちろんのこと、これ以外の様々な工業分野においても、その効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の有機無機複合体を備えた複合基材の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 複合基材
11 透明基材
12 有機無機複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子と、主鎖あるいは側鎖に窒素原子を有する親水性樹脂とを含有してなることを特徴とする有機無機複合体。
【請求項2】
前記親水性樹脂は、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリンのいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記正方晶ジルコニア粒子は、前記親水性樹脂中に分散してなることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合体。
【請求項4】
前記正方晶ジルコニア粒子の含有率は1質量%以上かつ90質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機無機複合体。


【図1】
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【公開番号】特開2009−235293(P2009−235293A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85153(P2008−85153)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】