説明

有機無機複合太陽電池

【課題】変換効率が高く、特に短絡電流を向上することができる有機無機複合太陽電池を提供する。
【解決手段】透明導電膜1、n型無機半導体膜2、n型有機半導体膜3、p型有機半導体膜4、p型無機半導体膜5及び金属電極6がこの順に積層されている。透明導電膜7、n型無機半導体膜8、p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜9、p型無機半導体膜10及び金属電極11がこの順に積層されている。n型透明導電膜12、n型有機半導体膜13、p型有機半導体膜14及びp型透明導電膜15がこの順に積層されている。n型透明導電膜16、p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜17及びp型透明導電膜18がこの順に積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機半導体と無機半導体の膜を備えた太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、従来その光電変換効率の高さから、シリコン、CdS、CdTe、CdAsなどの無機半導体が用いられてきた。これらの変換効率は、例えばシリコンを用いた場合には約15%にも達する。しかしながら、これら無機半導体を用いた太陽電池では、単結晶作製、ドーピングプロセスなどの多くのプロセスが電池作製に必要であるため、生産コストが非常に高くなるという問題点を有している。
【0003】
有機半導体を用いる太陽電池は、無機半導体を用いた太陽電池に比べ製造工程が容易であり、低コストで大面積化が可能であるという利点を持つところから、この太陽電池に用いられる光電変換素子に関し種々の提案がなされている(下記非特許文献1,2)。
【非特許文献1】第64回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2003年秋 福岡大学)31p−YL−18
【非特許文献2】第50回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集(2003.3 神奈川大学)29a−B−5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの有機材料を用いた太陽電池は大きく分けて、(1)金属/p型(n型)有機半導体膜/金属(ショットキー型)、(2)金属/p型有機半導体膜/n型有機半導体膜/金属(bi−layer型)、(3)金属/p型有機半導体とn型無機半導体との混合膜/金属、の三種類に分類できる。しかし、これらの太陽電池は開放電圧は高いものの電子の移動度が低いために短絡電流は小さく、太陽電池としての変換効率は低かった。
【0005】
本発明は、変換効率が高く、特に短絡電流を向上することができる有機無機複合太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の有機無機複合太陽電池は、1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、該半導体膜は、p型無機半導体膜/p型有機半導体膜/n型有機半導体膜/n型無機半導体膜の積層体よりなることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の有機無機複合太陽電池は、1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、該半導体膜は、p型無機半導体膜/p型有機半導体とn型有機半導体の混合膜/n型無機半導体膜の積層体よりなることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の有機無機複合太陽電池は、請求項1又は2において、p型無機半導体はCuO又はNiOであり、n型無機半導体はZnO、TiO、SnO又はInであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の有機無機複合太陽電池は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該電極が金属膜又は透明導電膜よりなることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5の有機無機複合太陽電池は、請求項1において、前記半導体膜は、CuO/MEH−PPV/フラーレン類/ZnOの積層体よりなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6の有機無機複合太陽電池は、請求項5において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、Al/CuO/MEH−PPV/フラーレン類/ZnO/ITOの積層体よりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項7の有機無機複合太陽電池は、請求項2において、前記半導体膜は、NiO/MEH−PPVとフラーレン類との有機混合膜/TiOの積層体よりなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項8の有機無機複合太陽電池は、請求項7において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、Al/NiO/MEH−PPVとフラーレン類との有機混合膜/TiO/ITOの積層体よりなることを特徴とするものである。
【0014】
請求項9の有機無機複合太陽電池は、1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、一方の電極がp型透明導電膜であり、他方の電極がn型透明導電膜であり、全体として、p型透明導電膜/p型有機半導体膜/n型有機半導体膜/n型透明導電膜の積層体よりなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項10の有機無機複合太陽電池は、1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、一方の電極がp型透明導電膜であり、他方の電極がn型透明導電膜であり、全体として、p型透明導電膜/p型有機半導体とn型有機半導体の混合膜/n型透明導電膜の積層体よりなることを特徴とするものである。
【0016】
請求項11の有機無機複合太陽電池は、請求項9において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、CuAlO/MEH−PPV/フラーレン類/ITOの積層体よりなることを特徴とするものである。
【0017】
請求項12の有機無機複合太陽電池は、請求項10において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、CuAlO/MEH−PPVとフラーレン類との混合膜/ITOの積層体よりなることを特徴とするものである。
【0018】
請求項13の有機無機複合太陽電池は、請求項5〜8,11,12のいずれか1項において、フラーレン類がフラーレン又はフラーレン誘導体であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項14の有機無機複合太陽電池は、請求項13において、フラーレン誘導体がPCBMであることを特徴とするものである。
【0020】
なお、MEH−PPVは下記構造式(化1)で示されるポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキロキシ)−1,4−フェニレンビニレンであり、PCBMは、下記構造式(化2)で表わされるものである。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【発明の効果】
【0023】
請求項1の有機無機複合太陽電池は、光吸収層をp型有機半導体膜とn型有機半導体膜との積層体で構成している。また、請求項2の有機無機複合太陽電池は、光吸収層をp型有機半導体とn型有機半導体との混合膜で構成している。いずれの有機無機複合太陽電池においても、上記の光吸収層の両側をp型無機半導体膜及びn型無機半導体膜で挟み込んでいるので光照射によって励起された電子を効率良く取り出すことができる。
【0024】
請求項9の有機無機複合太陽電池は、光吸収層をp型有機半導体膜とn型有機半導体膜との積層体で構成している。また、請求項10の有機無機複合太陽電池は、光吸収層をp型有機半導体とn型有機半導体との混合膜で構成している。いずれの有機無機複合太陽電池においても、上記の光吸収層の両側をp型透明導電膜及びn型透明導電膜で挟み込んでいるので光照射によって励起された電子を効率良く取り出すことができる。
【0025】
なお、請求項3〜8,11,12はより具体的な構造を特定したものであり、請求項13,14はフラーレン類を特定したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明についてさらに詳細に説明する。
【0027】
図1(a)は請求項1の有機無機複合太陽電池の構成を示す模式的な断面図であり、透明導電膜1、n型無機半導体膜2、n型有機半導体膜3、p型有機半導体膜4、p型無機半導体膜5及び金属電極6がこの順に積層されている。
【0028】
図1(b)は請求項2の有機無機複合太陽電池の構成を示す模式的な断面図であり、透明導電膜7、n型無機半導体膜8、p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜9、p型無機半導体膜10及び金属電極11がこの順に積層されている。
【0029】
図1(c)は請求項9の有機無機複合太陽電池の構成を示す模式的な断面図であり、n型透明導電膜12、n型有機半導体膜13、p型有機半導体膜14及びp型透明導電膜15がこの順に積層されている。
【0030】
図1(d)は請求項10の有機無機複合太陽電池の構成を示す模式的な断面図であり、n型透明導電膜16、p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜17及びp型透明導電膜18がこの順に積層されている。
【0031】
透明導電膜としては、ITO(インジウム・錫酸化物)、AZO(アンチモン・亜鉛酸化物)等が好適であり、その膜厚は5〜200nm程度が好適である。
【0032】
p型無機半導体膜としては、CuOやNiOなどの光透過性を有する無機化合物、特に金属酸化物が好適である。この膜厚は30〜800nm程度が好適である。
【0033】
n型無機半導体膜としては、ZnO、TiO、SnO、Inなどの光透過性を有する無機化合物、特に金属酸化物が好適である。
【0034】
p型透明導電膜としては、CuAlO等が好適であり、その膜厚は30nm〜1μm程度が好適である。
【0035】
n型透明導電膜としては、ITO、AZO等が好適であり、その膜厚は30nm〜1μm程度が好適である。
【0036】
金属電極としては、アルミニウム、白金などが好適であり、その膜厚は30nm〜1μm程度が好適である。
【0037】
これらの金属膜や金属酸化物膜はスパッタリングにより形成することができる。
【0038】
p型有機半導体膜としては、MEH−PPVが好適であり、特に分子量が1万〜30万程度のMEH−PPVが好適である。n型有機半導体膜としては、フラーレン(C60)やフラーレン誘導体が好適である。フラーレン誘導体としては、前記化学構造式で表わされるPCBMが好適である。これらの有機半導体膜の膜厚は3〜500nm程度が好適である。
【0039】
p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜における両者の混合割合は、50:1〜1:50であることが好ましい。
【0040】
この有機半導体膜は、クロロベンゼン等の有機溶媒にMEH−PPV、フラーレン類等を溶解ないし分散させ、スピンコート法等によって薄膜化させ、次いで溶媒を蒸発させることにより成膜することができる。
【0041】
上記の図1(a),(b)ではいずれも図の下側から光が照射される。図1(c),(d)では光は上側、下側のいずれから照射されてもよいが、下側の方が好適である。図1(a),(b)では最下段の層を透明導電膜1,7としているが、これを金属電極とし、代わりに最上層の層6,11を透明導電膜とし、図の上側から光が照射される構成としてもよい。
【0042】
図2(a)は図1(a)の具体的な構成を示す模式的な断面図であり、透明導電膜としてのITO膜1’、n型無機半導体膜としてのZnO膜2’、n型有機半導体膜としてのフラーレン膜3’、p型有機半導体膜としてのMEH−PPV膜4’、p型無機半導体膜としてのCuO膜5’及び金属電極としてのAl膜6’がこの順に積層されている。
【0043】
図2(b)は図1(b)の具体的な構成を示す模式的な断面図であり、透明導電膜としてのITO膜7’、n型無機半導体膜としてのTiO膜8’、p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜としてのMEH−PPVとPCBMとの混合膜9’、p型無機半導体膜としてのNiO膜10’及び金属電極としてのAl膜11’がこの順に積層されている。
【0044】
図2(b)の有機無機複合太陽電池にあっては、光照射によって励起された混合膜9’中の電子がPCBMに局在するが、隣接するn型半導体のTiO膜8’に電子が受け渡される。一方、MEH−PPVからはホールがp型半導体のNiO膜10’に受け渡され、電子・正孔対が効率的に電極7’,11’に流れていく。
【0045】
図2(c)は図1(c)の具体的な構成を示す模式的な断面図であり、n型透明導電膜としてのITO膜12’、n型有機半導体膜としてのフラーレン膜13’、p型有機半導体膜としてのMEH−PPV膜14’及びp型透明導電膜としてのCuAlO膜15’がこの順に積層されている。
【0046】
図2(d)は図1(d)の具体的な構成を示す模式的な断面図であり、n型透明導電膜としてのITO膜16’、p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜としてのMEH−PPVとフラーレンとの混合膜17’及びp型透明導電膜としてのCuAlO膜18’がこの順に積層されている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施の形態に係る有機無機複合太陽電池の構造図である。
【図2】実施の形態に係る有機無機複合太陽電池の具体的な構造図である。
【符号の説明】
【0048】
1,7 透明導電膜
2,8 n型無機半導体膜
3,13 n型有機半導体膜
4,14 p型有機半導体膜
5,10 p型無機半導体膜
6,11 金属電極
9,17 p型有機半導体とn型有機半導体との混合膜
12,16 n型透明導電膜
15,18 p型透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、
該半導体膜は、p型無機半導体膜/p型有機半導体膜/n型有機半導体膜/n型無機半導体膜の積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項2】
1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、
該半導体膜は、p型無機半導体膜/p型有機半導体とn型有機半導体の混合膜/n型無機半導体膜の積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項3】
請求項1又は2において、p型無機半導体はCuO又はNiOであり、n型無機半導体はZnO、TiO、SnO又はInであることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該電極が金属膜又は透明導電膜よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項5】
請求項1において、前記半導体膜は、CuO/MEH−PPV/フラーレン類/ZnOの積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項6】
請求項5において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、Al/CuO/MEH−PPV/フラーレン類/ZnO/ITOの積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項7】
請求項2において、前記半導体膜は、NiO/MEH−PPVとフラーレン類との有機混合膜/TiOの積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項8】
請求項7において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、Al/NiO/MEH−PPVとフラーレン類との有機混合膜/TiO/ITOの積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項9】
1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、
一方の電極がp型透明導電膜であり、他方の電極がn型透明導電膜であり、
全体として、p型透明導電膜/p型有機半導体膜/n型有機半導体膜/n型透明導電膜の積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項10】
1対の電極間に半導体膜が設けられている太陽電池において、
一方の電極がp型透明導電膜であり、他方の電極がn型透明導電膜であり、
全体として、p型透明導電膜/p型有機半導体とn型有機半導体の混合膜/n型透明導電膜の積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項11】
請求項9において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、CuAlO/MEH−PPV/フラーレン類/ITOの積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項12】
請求項10において、該有機無機複合太陽電池は、全体として、CuAlO/MEH−PPVとフラーレン類との混合膜/ITOの積層体よりなることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項13】
請求項5〜8,11,12のいずれか1項において、フラーレン類がフラーレン又はフラーレン誘導体であることを特徴とする有機無機複合太陽電池。
【請求項14】
請求項13において、フラーレン誘導体がPCBMであることを特徴とする有機無機複合太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−13097(P2006−13097A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187418(P2004−187418)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】