説明

有機無機複合組成物とその製造方法、成形体および光学部品

【課題】優れた透明性と高い屈折率を有する光学部品を提供する。
【解決手段】無機微粒子と、側鎖に前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含み、屈折率が波長589nmにおいて1.60以上であり、且つ、厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上である有機無機複合組成物を用いた光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れる有機無機複合組成物、並びに、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0004】
それに伴い、レンズの薄肉化や撮像素子の小型化を目的として、素材自体を高屈折率化することが求められるようになっている。例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(例えば、特許文献1および2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(例えば、特許文献3参照)等が活発に研究されてきた。しかし、屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。また、光ファイバーや光導波路では、異なる屈折率を有する材料を併用したり、屈折率に分布を有する材料を使用したりする。このように屈折率が部位によって異なる材料を提供するために、屈折率を任意に調節できる技術の開発も望まれている。
【0005】
有機物のみで屈折率を高めることは難しいことから、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって樹脂を高屈折率化する手法が報告されている(例えば、特許文献4参照)。レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子サイズが15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリックス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子サイズが15nm以下の1次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリックス中に均一に分散させることは極めて難しい。また、レンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得ない。このため、樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散することはこれまでできなかった。
【0006】
また、数平均粒子サイズ0.5〜50nmの超微粒子が分散した熱可塑性樹脂組成物を主体とする成形体であって、光波長1mm当たりの複屈折率の平均が10nm以下である樹脂組成物成形体(例えば、特許文献5参照)や、特定の数式で示される屈折率およびアッベ数を有する熱可塑性樹脂と、特定の平均粒子直径と屈折率とを有する無機微粒子とからなる熱可塑性材料組成物およびこれを用いた光学部品が報告されている(例えば、特許文献6、7参照)。これらも樹脂中に無機微粒子を分散させたものであるが、いずれも樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散するといった観点からは十分な性能を発揮するものではなかった。
【0007】
側鎖にカルボキシル基などの官能基を導入した樹脂に無機微粒子を分散した組成物に関する技術が特許文献8〜10に開示されているが、これらの特許文献にも高屈折率のレンズに使用可能な厚い透明成形体に関する記載はない。
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2003−73559号公報
【特許文献5】特開2003−147090号公報
【特許文献6】特開2003−73563号公報
【特許文献7】特開2003−73564号公報
【特許文献8】特表2004−524396号公報
【特許文献9】特開2004−352975号公報
【特許文献10】特開2004−217714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、高屈折性、透明性、および軽量性を併せ持ち、さらには屈折率を任意に制御できる材料組成物、およびそれを含んで構成される光学部品は未だ見出されておらず、その開発が望まれていた。
本発明は前記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性と高い屈折率を有する有機無機複合組成物、並びに、これを用いたレンズ基材等の光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の樹脂と無機微粒子とを原料とした組成物が、微粒子の均一分散効果により、優れた透明性を有することを見出し、以下に記載する本発明の完成に至った。
【0010】
[1] 無機微粒子と、側鎖に前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物であって、該有機無機複合組成物の屈折率が波長589nmにおいて1.60以上であり、且つ、該有機無機複合組成物の厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする有機無機複合組成物。
[2] 前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【0011】
【化1】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、金属アルコキシド基、−OH、−NH2、および、−SHからなる群より選択されることを特徴とする[1]に記載の有機無機複合組成物。
[3] 前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【0012】
【化2】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−CO2Hまたは−Si(OR5m63-m[R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。]であることを特徴とする[2]に記載の有機無機複合組成物。
[4] 前記官能基が前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均0.1〜20個の範囲で含まれていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[5] 前記熱可塑性樹脂が一般式(1)で表される繰り返し単位を含むコポリマーであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
一般式(1)
【0013】
【化3】

〔一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基から選ばれる2価の連結基を表す。Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表す。Zは
【0014】
【化4】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-m〔R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。mは0〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を表す。〕。
[6] 前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が1,000〜500,000であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[7] 前記熱可塑性樹脂の屈折率が1.55以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[8] 前記無機微粒子が589nmにおいて1.9〜3.0の屈折率を有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[9] 前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、または酸化チタンを含有することを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[10] 前記無機微粒子の数平均粒子サイズが1〜15nmであることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[11] 前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[12] 熱可塑性であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[13] 溶媒を含まない固体であることを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【0015】
[14]
【0016】
【化5】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-m〔R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。mは1〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を側鎖に有する熱可塑性樹脂と無機微粒子とを有機溶媒中で混合する工程を含むことを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
[15] 水、アルコール、または水とアルコールの混合物中において、無機微粒子を表面処理剤の存在下に表面処理する工程と、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出する工程と、抽出した該無機微粒子を側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂と混合する工程とを含むことを特徴とする[14]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[16] 無機微粒子の有機溶媒分散物と側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂とを混合する工程と、該混合液から溶剤を留去する工程とを含むことを特徴とする[14]または[15]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[17] 無機微粒子の有機溶媒分散物と側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂とを混合する工程と、該混合液を再沈澱させる工程を含むことを特徴とする[14]または[15]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[18] [14]〜[17]のいずれか一項に記載の製造方法により製造される有機無機複合組成物。
【0017】
[19] [1]〜[13]または[18]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を含むことを特徴とする成形体。
[20] 無機微粒子と側鎖に前記無機微粒子と結合しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含有する成形体であって、該成形体の波長589nmにおける屈折率が1.60以上であり、且つ、該成形体の厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする成形体。
[21] 最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする[19]または[20]に記載の成形体。
【0018】
[22] [20]または[21]に記載の成形体からなることを特徴とする光学部品。
[23] レンズ基材であることを特徴とする[22]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂の透明性を低下させずに高屈折率化を達成した有機無機複合組成物を提供することができる。また、本発明の有機無機複合組成物は熱可塑性を有するため、レンズ基材を始めとする光学部品等の成形体を成形しやすい。本発明の有機無機複合組成物を用いた成形体は、優れた透明性を有しながら、高い屈折率を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下において、本発明の有機無機複合組成物およびそれを含んで構成されるレンズ基材等の成形体について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
[有機無機複合組成物]
本発明の有機無機複合組成物は、無機微粒子と、側鎖に前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物であって、該有機無機複合組成物の屈折率が波長589nmにおいて1.60以上であり、且つ、該有機無機複合組成物の厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする。本発明の有機無機複合組成物は、後述する本発明の成形体の製造に用いられるものである。
【0022】
本発明の有機無機複合組成物は、固体であることが好ましい。溶媒含有量は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、溶媒を含まないことが最も好ましい。
【0023】
本発明の有機無機複合組成物の屈折率は波長589nmにおいて1.60以上であることが好ましく、1.63以上であることがより好ましく、1.65以上であることがさらに好ましく、1.67以上であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の有機無機複合組成物の光線透過率は、波長589nmにおいて厚さ1mm換算で70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。また波長405nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率は60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、有機無機複合組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0025】
本発明の有機無機複合組成物は、ガラス転移温度が100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0026】
以下において、本発明の有機無機複合組成物の必須構成成分である熱可塑性樹脂と無機微粒子について順に説明する。本発明の有機無機複合組成物には、これらの必須構成成分以外に、本発明の条件を満たさない樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
[熱可塑性樹脂]
本発明の有機無機複合組成物は、側鎖に前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂を含む。
【0028】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の基本骨格には特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルなど公知の樹脂骨格を利用することができる。好ましくはビニル重合体、ポリアリレート、およびポリカーボネートであり、より好ましくはビニル重合体である。
【0029】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、側鎖に無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられ、官能基が複数存在する場合は、それぞれ無機微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、後述する実施例に記載されるような有機溶媒中において熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が無機微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。本発明の有機無機複合組成物中において、熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが無機微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が無機微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0030】
側鎖に無機微粒子と結合しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成することによって、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に安定に分散させる機能を有する。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成しうるものであればその構造に特に制限されない。例えば、
【0031】
【化6】

−SO3H、−OSO3H、−CO2H、金属アルコキシド基(好ましくは−Si(OR5m63-m)、−OH、−NH2、−SH等が例示されるが、好ましくは
【0032】
【化7】

−SO3H、−CO2H、または−Si(OR5m63-mであり、より好ましくは、
【0033】
【化8】

または−CO2Hであり、特に好ましくは
【0034】
【化9】

である。
【0035】
なお上記のR1、R2、R3、R4、R5、R6は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。アルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。アルケニル基は、炭素数2〜30が好ましく、より好ましくは炭素数2〜20であり、例えばビニル基、2−フェニルエテニル基を挙げることができる。アルキニル基は、炭素数2〜20が好ましく、より好ましくは炭素数2〜10であり、例えばエチニル基、2−フェニルエチニル基を挙げることができる。アリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。R1、R2、R3、R4、R5、R6として特に好ましいのは水素原子である。
上記のmは0〜3の整数を表す。好ましくは3である。
【0036】
熱可塑性樹脂の側鎖へ上記官能基を導入する方法としては、特に制限はなく、官能基を有するモノマーを共重合させる方法、官能基前駆体部位(例えばエステルなど)を有するモノマーを共重合させた後に加水分解などの手法により官能基に変換する方法、水酸基、アミノ基、芳香環などの反応性部位を有する前駆体樹脂を合成した後に該反応性部位に官能基を導入する方法などが挙げられる。好ましいのは、官能基を含有するモノマーを共重合する方法である。
【0037】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するコポリマーであることが特に好ましい。このようなコポリマーは、下記一般式(2)で表わされるビニルモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0038】
【化10】

【0039】
一般式(1)および一般式(2)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、および、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選ばれる2価の連結基を表し、より好ましくは−CO2−またはp−フェニレン基である。
【0040】
Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表す。炭素数は1〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。具体的には、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基を挙げることができ、好ましくはアルキレン基である。
【0041】
qは0〜18の整数を表す。より好ましくは0〜10の整数であり、さらに好ましくは0〜5の整数であり、特に好ましくは0〜1の整数である。
【0042】
Zは
【0043】
【化11】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-mからなる群より選ばれる官能基を表し、好ましくは
【0044】
【化12】

であり、さらに好ましくは、
【0045】
【化13】

である。R1、R2、R3、R4、R5、R6、mの定義と具体例は、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基の欄で述べたR1、R2、R3、R4、R5、R6、mの定義と具体例と同じである。ただし、好ましいR1、R2、R3、R4、R5、R6は、水素原子またはアルキル基である。
【0046】
以下に一般式(2)で表されるモノマーの具体例を挙げるが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0047】
【化14】


【0048】
本発明において一般式(2)で表わされるモノマーと共重合可能な他の種類のモノマーとしては、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを用いることができる。
【0049】
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0050】
前記スチレン誘導体としては、スチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2−フェニルスチレン等が挙げられる。
【0051】
前記アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸tert−ブチル、クロロクロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
【0052】
前記メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、クロロクロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられる。
【0053】
前記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0054】
前記メタクリルアミド類としては、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0055】
前記アリル化合物としては、アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノール等が挙げられる。
【0056】
前記ビニルエーテル類としては、アルキルビニルエーテル(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えば、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等が挙げられる。
【0057】
前記ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
【0058】
前記イタコン酸ジアルキル類としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等が挙げられ、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類としては、ジブチルフマレート等が挙げられる。
【0059】
その他、クロトン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリルなど等も挙げることができる。
【0060】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(分散ポリマー)の重量平均分子量は1,000〜500,000であることが好ましく、3,000〜300,000であることがさらに好ましく、10,000〜100,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が500,000より大きいと成形加工性が悪くなり、1,000未満の場合には十分な力学強度のある有機無機複合組成物を得ることができない。
【0061】
ここで、上述の重量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0062】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂において、無機微粒子と結合する上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、無機微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
【0063】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は80℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0064】
熱可塑性樹脂の屈折率と無機微粒子の屈折率差が大きい場合には、レイリー散乱が起こりやすくなるため透明性を維持して複合できる微粒子の量が少なくなる。熱可塑性樹脂の屈折率が1.48程度であれば屈折率1.60レベルの透明性成形体を提供することができるが、1.65以上の屈折率を実現するためには本発明に用いられる熱可塑性樹脂の屈折率は1.55以上であることが好ましく、1.58以上であることがより好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0065】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0066】
以下に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0067】
【化15】

【0068】
【化16】

【0069】
【化17】

【0070】
【化18】

【0071】
【化19】

【0072】
【化20】

【0073】
【化21】

【0074】
【化22】

【0075】
【化23】

【0076】
これらの熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。本発明の有機無機複合組成物には、本発明の条件を満たす熱可塑性樹脂とともに、本発明の条件を満たさない樹脂を含有させてもよい。例えば、側鎖に官能基を有さない樹脂と本発明の条件を満たす熱可塑性樹脂を混合して使用してもよい。側鎖に官能基を有さない樹脂の種類に特に制限はないが、前記で挙げた光学物性、熱物性、分子量を満たすものが好ましい。
【0077】
[無機微粒子]
本発明で用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子等が挙げられる。より具体的には酸化ジルコニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化チタン微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に、金属酸化物微粒子が好ましく、中でも酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることが好ましく、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることがより好ましく、さらには可視域透明性が良好で光触媒活性の低い酸化ジルコニウム微粒子を用いることが特に好ましい。本発明では、屈折率や透明性や安定性の観点から、これらの無機物の複合物を用いてもよい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドーピングしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面修飾したものであってもよい。
【0078】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。
【0079】
具体的には、酸化ジルコニウム微粒子またはその懸濁液を得る方法として、ジルコニウム塩を含む水溶液をアルカリで中和し水和ジルコニウムを得た後、乾燥および焼成し、溶媒に分散させて酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得た後、限外ろ過する方法;ジルコニウムアルコキシドを加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;およびジルコニウム塩を含む水溶液を水熱の加圧下で加熱処理することにより酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法等が知られており、これらのいずれの方法を用いてもよい。
【0080】
また、酸化チタン微粒子の合成原料としては硫酸チタニルが例示され、酸化亜鉛ナノ粒子の合成原料として酢酸亜鉛や硝酸亜鉛等の亜鉛塩が例示される。テトラエトキシシランやチタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も無機微粒子の原料として好適である。このような無機微粒子の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の方法を挙げることができる。
【0081】
特にゾル生成法により酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し、次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。得られたヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名「エレミノールJS−2」)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよく、例えば、「色材」57巻6号,305〜308頁(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0082】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法も挙げることができる。このとき、有機溶媒中には、本発明で用いる熱可塑性樹脂が溶解していてもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
【0083】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズとしては、1nm〜15nmが好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
ここで、上述の数平均粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0084】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率の範囲は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜2.7であり、特に好ましくは2.1〜2.5である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば熱可塑性樹脂との屈折率差がさほど大きくないためレイリー散乱を抑制しやすい傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化を図りやすい傾向がある。
【0085】
無機微粒子の屈折率は例えば本発明で用いられる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0086】
本発明の有機無機複合組成物における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20〜95質量%が好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。また、本発明における前記無機微粒子と熱可塑性樹脂(分散ポリマー)との質量比は、分散性の点から、1:0.01〜1:100が好ましく、1:0.05〜1:10がさらに好ましく、1:0.05〜1:5が特に好ましい。
【0087】
[添加剤]
本発明の有機無機複合組成物には、上記の熱可塑性樹脂や無機微粒子以外に、均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂の合計量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがより好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0088】
<表面処理剤>
本発明では、後述するように水中またはアルコール溶媒中に分散された無機微粒子を熱可塑性樹脂と混合する際に、有機溶媒への抽出性または置換性を高める目的、熱可塑性樹脂への均一分散性を高める目的、微粒子の吸水性を下げる目的、あるいは耐候性を高める目的など種々目的に応じて、上記熱可塑性樹脂以外の微粒子表面修飾剤を添加してもよい。該表面処理剤の重量平均分子量は50〜50,000であることが好ましく、より好ましくは100〜20,000、さらに好ましくは200〜10,000である。
【0089】
前記表面処理剤としては、下記一般式(3)で表される構造を有するものが好ましい。
一般式(3)
A−B
【0090】
一般式(3)中、Aは本発明で用いられる無機微粒子の表面と化学結合を形成しうる官能基を表し、Bは本発明で用いられる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂マトリックスに対する相溶性または反応性を有する炭素数1〜30の1価の基またはポリマーを表す。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等をいう。
【0091】
Aで表わされる基の好ましい例は、本発明で用いられる熱可塑性樹脂の官能基として前記したものと同じである。
一方、Bで表される基の化学構造は、相溶性の観点から該樹脂マトリックスの主体である熱可塑性樹脂の化学構造と同一または類似するものであることが好ましい。本発明では特に高屈折率化の観点から、前記熱可塑性樹脂とともにBの化学構造が芳香環を有していることが好ましい。
【0092】
本発明で好ましく用いられる、表面処理剤の例としては例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ-α-ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名;日本化薬社製)、KAYAMER PM−2(商品名;日本化薬社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、あるいは特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報記載のシランカップリング剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
これらの表面処理剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
これら表面処理剤の添加量の総量は無機微粒子に対して、質量換算で0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましい。
【0094】
<可塑剤>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、本発明の組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。可塑化剤を添加する場合の添加量は有機無機複合組成物の総量の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用する可塑剤は、樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などを総合的に勘案して決定する必要があり、最適な材料は他の組成物に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましく、代表的な例として下記一般式(4)で表される構造を有するものを挙げることができる。
【0095】
一般式(4)
【0096】
【化24】

(式中、B1およびB2は炭素数6〜18のアルキル基または炭素数6〜18のアリールアルキル基を表し、mは0または1を表し、Xは
【0097】
【化25】

のうちのいずれかであり、R11 およびR12 はそれぞれ独立に水素原子または炭素数4以下のアルキル基を示す。)
【0098】
また、一般式(4)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなる場合があり添加効果が不十分となることがある。
【0099】
前記B1,B2としては、具体的に、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。また、前記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、次に示すものが挙げられ、中でも、W−1(花王株式会社製の商品名「KP−L155」)が好ましい。
【0100】
【化26】

【0101】
<その他の添加剤>
上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良したりする目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加してもよい。これらを配合する場合は、有機無機複合組成物の全固形分に対して0.1〜5質量%程度とすることが好ましい。
【0102】
[有機無機複合組成物の製造方法]
本発明に用いられる無機微粒子は、側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂と化学結合して樹脂中に分散される。
本発明に用いられる無機微粒子は粒子サイズが小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、無機微粒子は溶液中に分散された状態で熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。複合物の好ましい製造方法としては、(1)無機粒子を上記表面処理剤の存在下に表面処理を行い、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該無機微粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法、(2)無機微粒子と熱可塑性樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて両者を均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法が挙げられる。
【0103】
上記(1)の方法によって無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面処理剤と前記熱可塑性樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよいが、好ましく用いられる表面処理剤については、前述<表面処理剤>の欄で述べたものが挙げられる。
有機溶媒中に抽出された無機微粒子と熱可塑性樹脂を混合する際に、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0104】
上記(2)の方法を採用する場合は、溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、tert−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加してもよい。水/メタノールに分散された微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。このとき、前記表面処理剤を添加してもよい。
【0105】
上記(1)、(2)の方法によって得られた有機無機複合組成物の溶液は、そのままキャスト成形して成形体とすることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の手法によって成形することが好ましい。
【0106】
[成形体]
本発明の有機無機複合組成物を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。本発明の成形体は、有機無機複合組成物の説明の欄で前記した屈折率と光学特性を示すものが有用である。
【0107】
また本発明の成形体は最大厚みが0.1mm以上であることが好ましい。最大厚みは、好ましくは0.1〜5mmであり、さらに好ましくは1〜3mmである。これらの厚みを有する成形体は、高屈折率の光学部品として特に有用である。このような厚い成形体は、溶液キャスト法で製造しようとしても溶剤が抜けにくいため一般に容易ではない。しかしながら、本発明の有機無機複合組成物を用いれば成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に実現することができる。このように、本発明によれば、微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する成形体を得ることができる。
【0108】
[光学部品]
本発明の成形体は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れた成形体である。本発明の光学部品は、このような成形体からなるものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。特に、有機無機複合組成物の優れた光学特性を利用した光学部品、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かかる光学部品を備えた光学機能装置としては、例えば、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
【0109】
また、光学機能装置に用いられる前記パッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【0110】
本発明の有機無機複合組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合組成物を用いて製造されたレンズ基材は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合組成物を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0111】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0112】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0113】
[分析および評価方法]
(1)X線回折(XRD)スペクトル測定
リガク(株)製「RINT1500」(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、23℃で測定した。
【0114】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0115】
(3)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)を用いて波長589nmの値を測定した。
【0116】
(4)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて、波長589nmの光について行った。
【0117】
(5)分子量測定
重量平均分子量および数平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0118】
[無機微粒子分散液の調製]
(1)酸化ジルコニウム水分散物の調製
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水を溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。
【0119】
(2)酸化ジルコニウムトルエン分散物(1)の調製
前記(1)で調製した酸化ジルコニウム微粒子懸濁液100gと日本化薬製の「KAYAMER PM−21」3gをトルエン100gに溶解させたトルエン溶液を混合後、30℃で8時間攪拌した後、トルエン溶液を抽出し、濃度調節することで酸化ジルコニウム微粒子トルエン分散液(15質量%)を作製した。
【0120】
(3)酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散物(2)の調製
前記(1)で調製した酸化ジルコニウム分散物(15質量%水分散物)500gに500gのN,N'−ジメチルアセトアミドを加え約500g以下になるまで減圧濃縮して溶媒置換を行った後、N,N'−ジメチルアセトアミドの添加で濃度調整をすることで15質量%の酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散物(2)を得た。
【0121】
[熱可塑性樹脂の合成]
(1)熱可塑性樹脂(B−1)の合成
ユニケミカル(株)製の「ホスマーPE(商品名)」0.05gとメタクリル酸メチル4.95gとアゾビスイソブチロニトリル0.25gとを、2−ブタノン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(B−1)を合成した。
GPCで測定したところ重量平均分子量は80,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.49であった。
【0122】
(2)熱可塑性樹脂(B−2)の合成
ユニケミカル(株)製の「ホスマーPE(商品名)」0.05gとスチレン4.95gとアゾビスイソブチロニトリル0.25gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(B−2)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は86,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.58であった。
【0123】
(3)熱可塑性樹脂(B−3)の合成
ユニケミカル(株)製の「ホスマーPE」0.05gと第一工業製薬(株)製のニューフロンティアBR−30 4.95gとアゾビスイソブチロニトリル0.25gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(B−3)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は90,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0124】
(4)熱可塑性樹脂(B−11)の合成
スチレン247.5g、β‐カルボキシエチルアクリレート2.50g、および和光純薬(株)製重合開始剤V−601(商品名)の2.5gを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(B−11)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は35,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
同様にして開始剤濃度および溶媒量を変えることで重量平均分子量400,000および1,700の熱可塑性樹脂(B−11)を合成した。該樹脂の屈折率はいずれも1.59であった。
【0125】
(5)熱可塑性樹脂(B−14)の合成
スチレン247.5g、前記官能基含有モノマー(A−6)2.50g、および和光純薬(株)社製重合開始剤V−601(商品名)の2.5gを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(B−14)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は28,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0126】
(6)熱可塑性樹脂(B−17)の合成
スチレン247.5g、前記官能基含有モノマー(A−9)2.50g、および和光純薬(株)社製重合開始剤V−601(商品名)の2.5gを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(B−17)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は28,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0127】
(7)比較樹脂(P−1)の合成
メタクリル酸メチル5.00g、アゾビスイソブチロニトリル0.15gを2−ブタノン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、側鎖に微粒子結合性の官能基を有さない比較樹脂P−1を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は100,000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.49であった。
【0128】
比較樹脂(P−1)
【0129】
【化27】

【0130】
(8)比較樹脂(P−2)の合成
スチレン5.00gとアゾビスイソブチロニトリル0.15gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、側鎖に微粒子結合性の官能基を含まない比較樹脂(P−2)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は105,000であった。またアッベ屈折計で測定した官能基を含まない該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0131】
比較樹脂(P−2)
【化28】

【0132】
(9)比較樹脂(P−3)の合成
第一工業製薬(株)製のニューフロンティアBR−30を5.00gとアゾビスイソブチロニトリル0.15gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、側鎖に微粒子結合性の官能基を含まない比較樹脂(P−3)を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は11,0000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0133】
比較樹脂(P−3)
【0134】
【化29】

【0135】
[有機無機複合組成物の調製および成形体の作製]
(1)実施例1
前記で調製した酸化ジルコニウム微粒子トルエン分散物(1)にZrO2微粒子が固形分の56質量%になる様に熱可塑性樹脂B−1を加え、溶媒を濃縮留去した後、該濃縮残渣を、加熱圧縮成形し(温度;180℃、圧力;13.7MPa、時間2分)、厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。実施例1で得られた成形体をそれぞれ切削し、断面をTEMで観察した結果、無機微粒子が樹脂中に均一に分散していることを確認した。また、光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0136】
(2)実施例2〜4
実施例1における熱可塑性樹脂B−1を熱可塑性樹脂B−2,3,11に変更した以外は実施例1と同様にして有機無機複合組成物、および透明成形体(レンズ基材)を作成した。実施例2〜4で得られた成形体をそれぞれ切削し、断面をTEMで観察した。また、光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0137】
(3)実施例5
前記酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散液に熱可塑性樹脂B−11、n−オクチル安息香酸、および可塑化剤としてKP−L155(商品名;花王株式会社製)を質量比が、ZrO2固形分/B−11/n−オクチル安息香酸/KP−L155=35.7/42.9/7.1/14.3の比率になるように添加して均一に攪拌混合した後、加熱減圧下ジメチルアセトアミド溶媒を濃縮した。該濃縮残渣を実施例1と同様の条件で加熱圧縮成形して透明成形体(レンズ基材)を作成した。実施例5で得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察した。また、光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0138】
(4)実施例6,7
実施例5における熱可塑性樹脂B−11をB−14,17に変更した以外は実施例5と同様にして実施例6,7の透明成形体(レンズ基材)を作成した。実施例6,7で得られた成形体をそれぞれ切削し、断面をTEMで観察した。また、光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0139】
(5)実施例8
実施例5に記載した有機無機複合組成物の濃縮前のジメチルアセトアミド溶液を大過剰の水に投入して得られた沈澱を濾過、乾燥することにより実施例8の有機無機複合組成物を得た。該有機無機複合組成物を実施例1と同様にして実施例8の透明成形体(レンズ基材)を得た。実施例8で得られた透明成形体を切削し、断面をTEMで観察した。また、光線透過率測定および屈折率測定を行なった。結果を下記表1に示す。
【0140】
(6)実施例9
特開2003−73559号公報の合成例9に記載される方法に従い、酸化チタン微粒子を合成した。X線解析(XRD)と透過型電子顕微鏡(TEM)により、アナタ−ス型酸化チタン微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。前記酸化チタン微粒子を1−ブタノールに懸濁させ、超音波処理を30分行った後、100℃にて30分加熱した。得られた白濁液を、酸化チタンの固形部分が全固形分の40質量%となる様に、熱可塑性樹脂B−2が10質量%で溶解したクロロホルム溶液に撹拌しながら常温で5分かけて滴下した。得られた混合液から溶媒を留去し、濃縮残渣を実施例1と同様にして加熱成形し、厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。成形体を切削し、断面をTEMで観察した結果、無機微粒子が樹脂中に均一に分散していることを確認した。また、光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0141】
(7)比較例1
実施例1における熱可塑性樹脂B−1を比較樹脂P−1に置き換えた以外は、実施例1と同様にして成形体を作成した。得られた成形体は著しく白濁していたため屈折率測定はできなかった。得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察したところ微粒子の凝集が認められた。
【0142】
(8)比較例2
実施例10で合成した酸化チタン微粒子を1−ブタノールに懸濁させ、超音波処理を30分行った後、100℃にて30分加熱した。得られた白濁液を酸化チタンの固形部分が全固形分の40質量%となる様に、P−1が10質量%で溶解したクロロホルム溶液に撹拌しながら常温で5分かけて滴下した。得られた混合液から溶媒を留去し、得られた残渣を実施例1と同様にして実施例1と同様にして成形体を作成した。得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察したところ微粒子の凝集が認められた。
【0143】
(9)比較例3,4
比較例1の比較樹脂をP−1からP−2およびP−3置き換えた以外は、実施例1と同様にしてそれぞれ比較例3,4の成形体を作成した。得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察した結果、いずれも樹脂と粒子が相分離し、粒子が凝集していることを確認した。得られた成形体はいずれも著しく白濁していたため屈折率測定はできなかった。得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察したところいずれも微粒子の凝集が認められた。
【0144】
(10)比較例5
特表2004−524396号公報の実施例3,4と類似の下記実験を行なった。実施例10で合成した酸化チタン微粒子をエタノール中に鹸濁させた液に、アミノプロピルトリメトキシシランを20質量%加え、特表2004−524396号公報と同様に、表面処理した酸化チタン微粒子10質量部とポリアクリル酸(重量平均分子量25,000、和光純薬工業社製)90質量部をエタノール中で混合した後、溶媒を濃縮留去して得られた残渣を実施例1と同様にして成形体を作製した。得られた成形体は著しく白濁していたため屈折率測定はできなかった。得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察したところそれぞれの微粒子は凝集せず分散しているが、粗密ムラがあることが確認された。
【0145】
(11)比較例6,7
実施例5において、B−11(重量平均分子量/数平均分子量、35,000/200,000、ポリマー1本あたりの平均官能基数4.39本)を共重合比同等(酸価同等)で分子量のみ変えてポリマー鎖1本あたりの平均官能基数を変えた熱可塑性樹脂B−11(重量平均分子量/数平均分子量はそれぞれ400,000/250,000および1,700/1,000、ポリマー鎖1本あたりの平均官能基数はそれぞれ23.9本および0.095本)に置き換えて同様の実験を行なったところいずれも成形体は白濁が著しく、屈折率測定はできなかった。得られた成形体を切削し、断面をTEMで観察したところ平均官能基数23.9本の樹脂では微粒子は凝集せず分散しているが、粗密ムラがあることが確認された。平均官能基数0.095本の樹脂では微粒子の凝集が確認された。
【0146】
【表1】

【0147】
表1から、本発明の微粒子含有透明性成形体は高い屈折率を有するとともに、1mmの厚い成形体でも良好な透明性を示しており、光学用途に好適に使用できることが分る。
また熱可塑性樹脂を主体とした本発明の有機無機複合組成物は、生産性よくかつ型の形状に合わせて正確にレンズ形状を形成することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の光学部品であるレンズ基材は、光線透過性と軽量性を併せ持つ有機無機複合組成物を含むものである。本発明によれば、屈折率を任意に調節したレンズを比較的容易に提供することができる。また、機械的強度や耐熱性が良好なレンズも提供しやすい。このため、本発明は、高屈折レンズ等の広範な光学部品の提供に有用であり、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子と、側鎖に前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物であって、該有機無機複合組成物の屈折率が波長589nmにおいて1.60以上であり、且つ、該有機無機複合組成物の厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする有機無機複合組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【化1】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−OSO3H、−SO3H、−CO2H、金属アルコキシド基、−OH、−NH2、および、−SHからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【化2】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−CO2H、−SO3H、または−Si(OR5m63-m[R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。]であることを特徴とする請求項2に記載の有機無機複合組成物。
【請求項4】
前記官能基が前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均0.1〜20個の範囲で含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が一般式(1)で表される繰り返し単位を含むコポリマーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
一般式(1)
【化3】

〔一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基から選ばれる2価の連結基を表す。Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表す。Zは
【化4】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-m〔R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。mは0〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を表す。〕。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が1,000〜500,000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂の屈折率が1.55以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項8】
前記無機微粒子が589nmにおいて1.9〜3.0の屈折率を有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項9】
前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、または酸化チタンを含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項10】
前記無機微粒子の数平均粒子サイズが1〜15nmであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項11】
前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項12】
熱可塑性であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項13】
溶媒を含まない固体であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項14】
【化5】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-m〔R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。mは1〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を側鎖に有する熱可塑性樹脂と無機微粒子とを有機溶媒中で混合する工程を含むことを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項15】
水、アルコール、または水とアルコールの混合物中において、無機微粒子を表面処理剤の存在下に表面処理する工程と、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出する工程と、抽出した該無機微粒子を側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂と混合する工程とを含むことを特徴とする請求項14に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項16】
無機微粒子の有機溶媒分散物と側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂とを混合する工程と、該混合液から溶剤を留去する工程とを含むことを特徴とする請求項14または15に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項17】
無機微粒子の有機溶媒分散物と側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂とを混合する工程と、該混合液を再沈澱させる工程を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれか一項に記載の製造方法により製造される有機無機複合組成物。
【請求項19】
請求項1〜13または18のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を含むことを特徴とする成形体。
【請求項20】
無機微粒子と側鎖に前記無機微粒子と結合しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含有する成形体であって、該成形体の波長589nmにおける屈折率が1.60以上であり、且つ、該成形体の厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする成形体。
【請求項21】
最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする請求項19または20に記載の成形体。
【請求項22】
請求項20または21に記載の成形体からなることを特徴とする光学部品。
【請求項23】
レンズ基材であることを特徴とする請求項22に記載の光学部品。

【公開番号】特開2007−238929(P2007−238929A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28164(P2007−28164)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】