説明

有機発光装置及びその製造方法

【課題】欠陥が無く、さらに撥水効果を持つ防湿層を有し、水分や酸素の浸入を防止して長寿命化が可能な有機発光装置を提供する。
【解決手段】基板1に積層された上部電極6と下部電極4と、上部電極6及び下部電極4の間に配置された少なくとも一層の有機化合物層5と、を有する有機発光素子と、上部電極6及び下部電極4と有機化合物層5とを覆う防湿層10とを、有する有機発光装置において、防湿層10が重水素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ等に用いられる有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を有する有機発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイとして、自発光型デバイスである有機発光素子が、注目されている。有機発光素子は、水分や酸素により、特性劣化を招き易く、わずかな水分により、有機化合物層と電極層の剥離が生じダークスポット発生の原因となる。そのため、有機発光装置をエッチングガラスカバーで覆い、シール剤により周辺を貼り付け、内部に吸湿剤を装着して、シール面から浸入する水分を、吸湿剤で吸湿し、有機発光装置の寿命を確保している。しかし、薄型の有機発光装置による省スペースのフラットパネルディスプレイを実現するためには、発光エリア周辺の吸湿剤のスペースを無くし、さらに薄型化を図っていかなければならず、大量の吸湿剤を必要としない有機発光素子の封止方法が必要である。その為、有機化合物層への水分や酸素の浸入を防止するための高機能なパッシベーション層による固体封止が要求されている。
【0003】
これらの問題を解決する為、近年、有機発光素子の防湿層として、CVD法やスパッタ法を用いた窒化シリコン膜や、酸化窒化シリコン膜などの無機膜、またはそれらを積層させた防湿層による固体封止が提案されている。
【0004】
スパッタリング法で形成される防湿膜は、ステップカバレッジが不十分であると同時に、膜が硬いため、クラックが生じやすい。
【0005】
また、プラズマCVD法で形成される半導体の防湿層は、一般的に、350℃以上500℃以下という高温で形成される。しかし、有機発光素子のホール注入層、ホール輸送層、電子注入層や発光層といった有機化合物層を形成する有機材料は、ガラス転移点が100℃程度から100数十度の低温であり、100℃程度の温度により、有機発光素子の特性は、劣化を起こす。そのため、少なくとも有機化合物層を形成した基板に上部電極やさらにその上層の防湿層を形成する時は、有機化合物層の温度が、100℃を下回るような極低温で形成することが必要である。
【0006】
特許文献1には、有機化合物層上にプラズマCVD法でモノシランガスと窒素ガスのみで防湿層を形成する方法について提案されている。
【0007】
また、特許文献2によれば、防湿層をECRプラズマCVD法により、30℃から100℃の温度範囲で被膜した有機エレクトロルミネッセンス素子の製法が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−100469号公報
【特許文献2】特許第3577117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような低温で形成される防湿層は、無数のダングリングボンド(水素原子の未結合手)がある膜となり、水分の付着で膜の劣化が進み、水分の浸透しやすい防湿層となる問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、欠陥が無く、さらに撥水効果を持つ防湿層を有し、水分や酸素の浸入を防止して長寿命化が可能な有機発光装置、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の有機発光装置は、基板と、前記基板上に形成されている有機発光素子と、前記有機発光素子を覆っている防湿層と、を有し、前記有機発光素子は、前記基板側から順に下部電極と、有機化合物層と、上部電極と、を有する有機発光装置において、前記防湿層は重水素を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機発光装置の製造方法は、基板と、前記基板上に順に配置されている下部電極と有機化合物層と上部電極とを有する有機発光素子と、前記有機発光素子を覆っている防湿層と、を有する有機発光装置の製造方法において、前記有機発光素子を、前記基板上に形成する工程と、前記防湿層を、重水素ガスとその他の原料ガスとを反応させることにより前記有機発光素子上及び前記有機発光素子の周辺に露出する前記基板上に、形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機発光装置は、撥水性を有し、防湿性能の高い防湿層を有するため、素子劣化やダークスポットの発生を防止することができる。
【0014】
また、本発明の有機発光装置の製造方法は、撥水性を有し、防湿性能の高い防湿層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の有機発光装置は、基板と、前記基板上に形成されている有機発光素子と、前記有機発光素子を覆っている防湿層と、を有する有機発光装置である。前記有機発光素子は、前記基板側から順に下部電極と、有機化合物層と、上部電極と、を有する。そして、前記防湿層が重水素を含むことを特徴とする。
【0016】
大気中に放置された有機発光素子の表面は、直ちに水分が付着し、付着した水分は防湿層表面に達する。この水分が、防湿層中のダングリングボンドと反応し、防湿層の酸化による劣化を促進すると考えられる。
【0017】
本発明者は、防湿層のダングリングボンドを減少させて防湿性を改善すべく、実験を重ねた結果、防湿層に、水素処理を施したものに比べ、重水素処理を施して重水素を含有させると、表層部が重水素でターミネートされ、撥水効果を発現することを見出した。これは、単に重水素でダングリングボンドがターミネートされただけでなく、表層の水素が重水素に置換されて、表面エネルギーが低下し、撥水性が高まったと考えられる。
【0018】
さらには、重水素ガスを原料ガスとして、他の原料ガスと反応させて防湿層を形成することによって、形成された防湿層に重水素処理を施すよりも撥水効果の高い防湿層を得ることができる。形成された防湿層に重水素処理を施す場合には防湿層内部のダングリングボンドを十分にターミネートすることが難しいのに対して、防湿層を、重水素ガスを原料として形成することによって防湿層内部のダングリングボンドをターミネートすることができる。さらに、防湿層内部に含有する水素を重水素に置き換えることができ、防湿層表層から内部につながるミクロな空孔欠陥からの透湿を防止するからである。
【0019】
防湿層は、有機発光素子を覆い、有機発光素子の周辺の基板表面まで延在している。さらには、防湿層が、取り出し電極部を除き、基板の側縁端部に延在して形成することが好ましく、防湿層周辺の防湿効果を高める上で効果的である。
【0020】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は本発明の有機発光装置の一例の断面の一部を表す概念図である。
【0022】
図1では、ガラス製の基板1上に、TFT層2(薄膜トランジスタ)、絶縁膜、有機平坦化膜の順で積層形成され、さらにその上部に画素単位の下部電極4であるCr電極が形成され、その各画素の周囲をポリイミド製の素子分離膜3が覆っている。この基板上に、例えば正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等からなる有機化合物層5が形成され、その上部に、上部電極6として透明電極が形成されている。そして、下部電極4、有機化合物層5、上部電極6によって有機発光素子が形成されており、電極間に電流を流すことによって有機化合物層5が発光する。有機発光素子は、基板1上に複数形成されている。有機化合物層5は少なくとも発光層を有していれば良く、その他にキャリア輸送、キャリア注入に関与する、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等を有していても良い。
【0023】
さらに、取り出し電極を除き、上部電極6、有機化合物層5、素子分離膜3、更にはTFT層2の有機平坦化層をほぼ全域覆って、防湿層10を形成する。そして、防湿層10の上部には、円偏光板9を設けて構成するものである。
【0024】
図1の防湿層10は、内部サブ防湿層7と、基板1と反対側の最表面の重水素を含有する外部サブ防湿層8とからなる。
【0025】
一般に、有機発光素子の上部電極6の表面には、上部電極6の数十nmの凹凸や、下部層の影響による1μmに達する凹凸が存在する。そのため、防湿層10は、図1に示すように、これらを平坦化する内部サブ防湿層7と、水分を遮断する外部サブ防湿層8を積層することが好ましい。
【0026】
そして、外部サブ防湿層8は、0.01atomic%以上の重水素を含むことが好ましい。これにより、撥水効果が抜群で、膜劣化を生じない防湿性の高い防湿層を実現できる。
【0027】
防湿層10は、窒化シリコン、酸化シリコン、または酸窒化シリコンからなることが好ましく、水素化窒化シリコン、水素化酸化シリコン、または水素化酸窒化シリコンからなることがより好ましい。これにより、透明性が確保され、トップエミッション型への適用が可能となる。
【0028】
防湿層10を形成する原料ガスは、モノシラン、窒素、アンモニア、水素、酸素、亜酸化窒素の全て、又は一部を用いる事が好ましい。例えは、窒化シリコンを形成する場合の原料ガスは、モノシラン、窒素、水素を用いても良いし、窒素をアンモニアに変えても、混合しても良い。さらに水素を用いなくても良いが、外部サブ防湿層8形成時には重水素を用いて形成する。また、外部サブ防湿層8は、表面層近傍のみ重水素を用いて形成しても良い。
【0029】
防湿層10を形成する方法としては、例えば、プラズマCVD法、Cat−CVD法、熱CVD法、光CVD法等が挙げられ、外部サブ防湿層8形成時には、重水素を用いて成膜すればよい。プラズマCVD法の場合には、プラズマCVDの励起周波数として、27MHzから100MHzのVHF帯を用いることが好ましい。これにより、プラズマのイオン衝撃を弱め素子の熱ダメージを抑えるとともに、重水素の膜中含有率を高め、撥水性の高い防湿層を実現できる。また、防湿層10まで形成後、プラズマCVD法を用いて重水素処理を施しても良い。
【0030】
図2は本発明の有機発光素子の他の例の断面の一部を表す概念図である。
【0031】
図2の素子は、内部サブ防湿層を、下地層と密着性能の高い内部サブ防湿層7、平坦化性能の高い内部サブ防湿層7’の二層構成とした以外は、図1の素子と同様である。
【0032】
なお、防湿層10の層構成はこれらに限定されず、単層でもいいし、外部サブ防湿層を多層に形成しても良い。
【0033】
以上に説明した実施の形態の有機発光装置は、上部電極6が透明電極であり、有機化合物層5で発光する光は上部電極6を介して取り出される、いわゆるトップエミッション型の発光装置である。本発明はこのようなトップエミッション型の発光装置に限られず、有機化合物層5で発光する光が下部電極4側から取り出される、いわゆるボトムエミッション型の発光装置であっても良い。
【0034】
また、以上に説明した実施の形態の有機発光装置は、基板上の各有機発光素子の発光を制御するTFTが形成されている、いわゆるアクティブマトリクス型の有機発光装置である。本発明は、このようなアクティブマトリクス型の有機発光装置に限られず、ストライプ状の電極が交差した部分に有機発光素子が形成される、いわゆるパッシブマトリクス型の有機発光装置であってもよい。
【0035】
また、以上に説明した実施の形態の有機発光装置は、基板上に複数の有機発光素子が形成されているが、1つの有機発光素子であってもよい。複数の有機発光素子が形成されている場合には、表示装置として用いることができる。表示装置として、テレビ受像機、PCの表示部、携帯電話の表示部、デジタルカメラの背面表示部等が考えられる。また、1つの有機発光素子である場合には、液晶表示装置のバックライト等に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0037】
<実施例1>
図1に示す有機発光素子を形成する。
【0038】
まず、TFT層2を有するガラス製の基板1上に、下部電極4としてクロム電極を形成し、さらにその周辺をポリイミド製の素子分離膜3で絶縁する。
【0039】
次に、その基板の下部電極4上に有機化合物層5として、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の順で蒸着し、積層形成する。そして、その上層には、上部電極6としてITOからなる透明電極をスパッタにより200nm成膜する。
【0040】
さらにこれらの有機化合物層5、上部電極6、上部電極6周辺に露出する基板1を覆うように防湿層10をVHFプラズマCVDで次のように形成する。
【0041】
即ち、防湿層形成装置の放電炉の基板ホルダーに、上部電極6まで形成した基板をセットし、放電炉の圧力を10-3Pa台に真空引きした後、モノシランガス、窒素ガス、水素ガスをフローし、反応空間圧力を100Paに制御する。そして、60MHz高周波電力を高周波電極に供給し、窒化シリコンからなる内部サブ防湿層7を3μm形成する。さらに、連続してモノシランガス、窒素ガス、重水素ガスをフローし、反応空間圧力を100Paに制御する。そして60MHz高周波電力を高周波電極に供給し、重水素を含む窒化シリコンからなる外部サブ防湿層8を0.1μm形成する。
【0042】
その後、円偏光板9を接着シールし、有機発光素子を得る。
【0043】
比較のため、防湿層を形成しない以外は同様に製作した有機発光素子をガラスキャップにゲッターシートを入れて封止し、室内放置する。
【0044】
両方の有機発光素子を、気温60度、相対湿度90%環境に1000時間放置後、素子を発光させて素子の輝度を輝度計にて測定する。また、光学顕微鏡にて有機発光素子を発光させながら、ダークスポットを観察評価する。
【0045】
その結果、実施例の有機発光素子と比較例の有機発光素子は同等で、輝度特性に劣化は見られない。また、初期特性との差も見られない。さらに、画素周辺の輝度劣化及びΦ1μm以上のダークスポットも、生じていない。
【0046】
<実施例2>
上部電極6の膜厚を60nmとし、防湿層をVHFプラズマCVDで次のように形成した以外は実施例1と同様にして、図2に示す有機発光素子を形成する。
【0047】
防湿層形成装置の放電炉の基板ホルダーに、上部電極6まで形成した基板をセットし、放電炉の圧力を10-3Pa台に真空引きした後、モノシランガス、窒素ガス、水素ガスをフローし、反応空間圧力を100Paに制御する。そして、60MHz高周波電力を高周波電極に供給し、窒化シリコンからなる内部サブ防湿層7を0.5μm形成する。その後、モノシランガス、窒素ガス、亜酸化窒素ガス、水素ガスをフローし、反応空間圧力を100Paに制御する。そして、60MHz高周波電力を高周波電極に供給し、酸窒化シリコンからなる内部サブ防湿層7’を5μ形成する。次に、モノシランガス、窒素ガス、重水素ガスをフローし、反応空間圧力を100Paに制御する。そして、60MHz高周波電力を高周波電極に供給し、重水素を含む窒化シリコンからなる外部サブ防湿層8を0.5μm形成する。
【0048】
比較のため、防湿層を形成しない以外は同様に製作した有機発光素子をガラスキャップにゲッターシートを入れて封止し、室内放置する。
【0049】
実施例1と同様に評価したところ、実施例の有機発光素子と比較例の有機発光素子は同等で、輝度特性に劣化は見られない。さらに、画素周辺からの輝度劣化及びΦ1μm以上のダークスポットも、生じていない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の有機発光装置の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の有機発光装置の他の例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 基板
2 TFT層
3 素子分離膜
4 下部電極
5 有機化合物層
6 上部電極
7,7’ 内部サブ防湿層
8 外部サブ防湿層
9 円偏光板
10 防湿層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成されている有機発光素子と、前記有機発光素子上に形成されており、前記有機発光素子を覆っている防湿層と、を有し、前記有機発光素子は、前記基板側から順に下部電極と、有機化合物層と、上部電極と、を有する有機発光装置において、前記防湿層は重水素を含むことを特徴とする有機発光装置。
【請求項2】
前記防湿層は、0.01atomic%以上の重水素を含む層を前記基板とは反対側の最表面に有することを特徴とする請求項1に記載の有機発光装置。
【請求項3】
前記防湿層は、窒化シリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコンのいずれかからなることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項4】
基板と、前記基板上に順に配置されている下部電極と有機化合物層と上部電極とを有する有機発光素子と、前記有機発光素子を覆っている防湿層と、を有する有機発光装置の製造方法において、
前記有機発光素子を、前記基板上に形成する工程と、
前記防湿層を、重水素ガスとその他の原料ガスとを反応させることにより前記有機発光素子上及び前記有機発光素子の周辺に露出する前記基板上に、形成する工程と、を有することを特徴とする有機発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−294416(P2007−294416A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56762(P2007−56762)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】