説明

有機発光装置及びその製造方法

【課題】耐熱性を向上させるとともに、製造時における有機発光素子への熱的ダメージを抑制することができる有機発光装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による有機発光装置30は、有機発光素子20と、有機発光素子20の表面を覆う断熱材11と、有機発光素子20が電気的に接続されたインターポーザ14とを備えている。断熱材11は、シリカエアロゲルであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光装置及びその製造方法に関し、特に耐熱性を改善した有機発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子として、電界型発光素子である有機発光(エレクトロルミネセンス)素子が注目されている。これは、基板、光を発光するための有機発光層、電極、封止層等を有しており、インターポーザ(中継支持基板)に接合された有機発光装置として使用することができる。
【0003】
この種の有機発光装置の製造方法では、有機発光素子の陽極と陰極をそれぞれインターポーザの陽極及び陰極用の配線にハンダを介して配置し、還元雰囲気下でリフロー処理(例えば150℃程度でリフロー)を行う。これによりハンダを溶融し、有機発光素子をインターポーザに固定するとともに電気的に接続することができる。
しかしながら、このようなリフロー処理によって有機発光素子をインターポーザに固定させる場合、通常のリフローにおいては150〜180℃、高いところでは約250℃の温度にする必要があるため、有機発光素子に熱的ダメージを与えるといった問題があった。すなわち、有機発光素子は100℃以上では性能劣化することが知られており、リフロー処理により製造歩留りが悪化する懸念があった。
【0004】
一方、有機発光素子は、様々な環境の下で使用され得るが、例えば発熱体の近傍や温度の上がった車内等では高温に曝されることになり、厳しい温度環境では有機発光素子の性能劣化が促進され、寿命が短いという点で実用化上問題となっている。
【0005】
有機発光素子において、水分、アウトガス等から電極及び発光層を保護するためのバリア層の線膨張係数を電極や発光層に近い値に調整することが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、−20〜+80℃程度の温度変化に対しても、電極の剥離等を防止し、対環境性、耐温度性を向上させることができる。しかしながら、上述したように製造時にリフロー処理を伴う場合、200℃を超える高温に曝されることがあり、線膨張係数の調整のみでは有機発光素子への熱的ダメージを防ぐことは困難である。
【特許文献1】特開2001−060495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、耐熱性を向上させるとともに、製造時における有機発光素子への熱的ダメージを抑制することができる有機発光装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、有機発光素子と、前記有機発光素子の表面を覆う断熱材と、前記有機発光素子が電気的に接続されたインターポーザとを備えたことを特徴とする有機発光装置が提供される。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、有機発光素子を形成する工程と、前記有機発光素子を断熱材で被覆する工程と、リフロー処理により前記有機発光素子をインターポーザに電気的に接続する工程とを有することを特徴とする有機発光装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機発光素子の表面全体を断熱材により被覆するので、製造時において外部雰囲気からの熱拡散を抑制することができる。これによって、有機発光素子への熱的ダメージを防ぐことができる。
【0010】
また、使用時に、高温状態の環境にあっても優れた断熱性を有するので、有機発光素子の性能劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることに留意すべきである。
【0012】
[第1の実施の形態]
(有機発光装置の構成)
図1に示すように、有機発光装置30は、有機発光素子20と、有機発光素子20の表面を覆う断熱材11と、有機発光素子20が電気的に接続されたインターポーザ14とを備えている。
【0013】
有機発光素子20は、基板1上に、陽極層2、陰極引き出し端子6、発光部3、陰極層5、封止層8、および補強板10を備えており、陽極層2、発光部3及び陰極層5が順に積層されている(図3参照)。陰極引き出し端子6に接続された陰極層5は発光部3を覆うように形成され、陽極層2に絶縁層7を介して固定されている。絶縁層4、7は陽極層2と陰極層5又は陰極引き出し端子6とを絶縁するためのものであり、SiOやSiN等からなる。封止層8は、陽極層2、陰極層5、および発光部3を保護するためのものであり、エポキシ樹脂等からなる。この封止層8はガラスからなる補強板10により補強されている。
【0014】
有機発光素子20は、陽極端子部2a及び陰極端子部6aを除いて表面全体が断熱材11により被覆されている。陽極端子部2aにはAg等の導電性部材32が、陰極端子部6aにはAg等の導電性部材36が形成されており、導電性部材32はインターポーザ14の陽極用配線12に、導電性部材36はインターポーザ14の陰極用配線13にそれぞれハンダ42及びハンダ46を介して電気的に接続されている。
【0015】
この有機発光素子20では、基板1側から光が発光するように構成されているので、基板1は、ガラス基板等の光を透過する透明基板が用いられる。同様に、陽極層2及び陰極引き出し端子6も、光を透過可能な厚さ約150〜約160nmのITO(インジウム−スズ酸化物)の透明電極からなる。
【0016】
発光部3は、図2に示すように、基板1側から、正孔注入層31、正孔輸送層32、有機発光層33、電子輸送層34、および電子注入層35が順次積層されている。
【0017】
正孔注入層31は、陽極層2からの正孔の注入率を向上させるものであり、例えば厚さ約70nmの銅フタロシアニン(CuPc)からなる。正孔輸送層32は、正孔注入層31を介して陽極層2から注入された正孔を円滑に有機発光層33に輸送するためのものであり、例えば厚さ約60nmのNPB(N,N−ジ(ナフタリル)−N,N−ジフェニル−ベンジデン)からなる。
【0018】
有機発光層33は、注入された正孔及び電子が再結合して発光するためのものであり、例えば発光種であるクマリン化合物(C545T)が約1%ドーピングされた厚さ約30nmのAlq(アルミニウムキノリノール錯体)からなる。
【0019】
電子輸送層34は、電子注入層35を介して陰極層5から注入された電子を円滑に有機発光層33に輸送するためのものであり、例えば厚み約35nmのAlqからなる。電子注入層35は、陰極層5からの電子の注入率を向上させるものであり、例えば厚さ約0.5nmのLiFからなる。
【0020】
陰極層5は、例えば厚さ約150nmのAlからなる。
【0021】
本発明の有機発光素子20は、上述したように、表面が断熱材11により被覆されている。断熱材11としては、光透過性があり、断熱性を有するものであれば、特に限定はされないが、シリカエアロゲルを用いることが好ましい。
【0022】
シリカエアロゲルは、体積の90%以上を空隙が占める、透明な発泡スチロール状の物質であり、樹枝状に凝集した数十nmの微細なシリカ粒子から構成されている。シリカ粒子径が光の波長より小さいため光透過性があり、かつ細孔径が小さく空気の対流が妨げられるために、優れた断熱性能を示す。その熱伝導率は約0.017W/(m・K)、融点は約1200℃である。
【0023】
なお、断熱材11として光透過性のよいシリカエアロゲルを用いるので、有機発光素子20の表面を覆っても光の取り出し効率を十分維持することができる。
【0024】
本発明の実施の形態に係るインターポーザ14は、例えば、ガラスシート、セラミックシート、あるいは樹脂シートなどで作製した配線基板15と、陽極用配線12及び陰極用配線13からなる。有機発光素子20と電気的に接続するための陽極用配線12及び陰極用配線13は、Au/Ni合金を用いる。これによればハンダ付け性が向上するので、導電性部材32、36を良好に固着することができる。
【0025】
次に、上述した有機発光装置30の動作説明を行う。
【0026】
まず、インターポーザ14の陽極用配線12及び陰極用配線13を介して、有機発光素子20の陽極層2及び陰極層5の間に一定の電圧が印加される。これにより、陽極層2から正孔注入層31及び正孔輸送層32を介して有機発光層33に正孔が注入されるとともに、陰極層5から電子注入層35及び電子輸送層34を介して有機発光層33に電子が注入される。そして、有機発光層33に注入された正孔と電子とが再結合することによって、光を発光する。発光された光は、基板1を介して外部に出射される。
【0027】
(製造方法)
次に、上述した有機発光装置30の製造方法について説明する。図3〜図7は、本発明の実施の形態による有機発光装置の製造方法を説明する図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係る有機発光装置の製造方法は、有機発光素子20を形成する工程と、有機発光素子20を断熱材11で被覆する工程と、リフロー処理により有機発光素子20をインターポーザ14に電気的に接続する工程とを有する。
【0029】
以下に、製造工程を説明する。
【0030】
まず、図3に示すように、ガラス基板1上の陽極層2及び陰極引き出し端子6をパターニング、エッチングした後、陽極層2と陰極引き出し端子6の間に絶縁層4を、そして陽極層2上に絶縁層7を形成する。次に、真空蒸着装置で、正孔注入層31、正孔輸送層32、有機発光層33、電子輸送層34、および電子注入層35を順に成膜して発光部3を形成し、次いで陰極層5を成膜する。次に、陽極端子部2a及び陰極端子部6aを除いて封止層8で被覆する。この封止層8をガラスからなる補強板10を貼り付けて固定し、有機発光素子20が得られる。
【0031】
次に、図4に示すように、封止層8で被覆されなかった陽極端子部2a及び陰極端子部6aにそれぞれマスク用テープ21を貼り付ける。
【0032】
次に、図5に示すように、有機発光素子20の表面全体を断熱材11としてのシリカエアロゲルを用いて5μmの厚さで真空蒸着装置によりコーティングする。
【0033】
なお、シリカエアロゲルは、通常、塩基を触媒としたゾルゲル法でシリカの湿潤ゲルを作り、このゲルをアルコールまたはCO-アルコール系の超臨界条件の下で、徐々に溶媒を抜いて乾燥(超臨界乾燥)して得ることができる。
【0034】
次に、図6に示すように、マスク用テープ21を剥離する。
【0035】
次に、図7に示すように、マスク用テープ21を剥離することにより露出した陽極端子部2a及び陰極端子部6aと、断熱材11の側面とに導電性部材32、36としてのAgペーストを塗布する。次いで、リフロー処理が行われる。すなわち、このリフロー処理では雰囲気温度が150〜180℃で約2時間、約250℃で約5分間保持される。これにより有機発光素子20とインターポーザ14は導電性部材32、36を介してハンダ42、46により接合される。最後に、室温まで冷却して、図1に示す有機発光装置30が完成する。
【0036】
本発明の有機発光装置30によれば、上述したように、有機発光素子20の表面が断熱材11により被覆されているので、製造時において、有機発光素子20が熱的ダメージを受けることを抑制することができる。
【0037】
また、本発明の有機発光装置30によれば、使用時に、高温状態の環境にあっても優れた断熱性を有するので、有機発光素子20の性能劣化が促進するのを防止することができる。
【0038】
[その他の実施の形態]
以上、上述した第1の実施の形態によって本発明を詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した第1の実施の形態に限定されるものではないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更形態として実施することができる。従って、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本発明に対して何ら制限的な意味を有するものではない。以下、上述した第1の実施の形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0039】
例えば、各層の厚みや構成する材料を変更することは可能である。
【0040】
また、上述した第1の実施の形態に係る有機発光素子20においては、断熱材11により表面全体が被覆された構成を説明したが、基板1の外表面のみが被覆された構成としてもよい。この構成においても上述した第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機発光装置の断面構造を模式的に示した図である。
【図2】図1の発光部部分の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る有機発光装置の製造方法を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る有機発光装置の製造方法を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る有機発光装置の製造方法を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る有機発光装置の製造方法を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る有機発光装置の製造方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 陽極層
3 発光部
5 陰極層
11 断熱材
12 陽極用配線
13 陰極用配線
14 インターポーザ
15 配線基板
20 有機発光素子
30 有機発光装置
32、36 導電性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光素子と、
前記有機発光素子の表面を覆う断熱材と、
前記有機発光素子が電気的に接続されたインターポーザとを備えたことを特徴とする有機発光装置。
【請求項2】
前記断熱材は、シリカエアロゲルであることを特徴とする請求項1に記載の有機発光装置。
【請求項3】
有機発光素子を形成する工程と、
前記有機発光素子を断熱材で被覆する工程と、
リフロー処理により前記有機発光素子をインターポーザに電気的に接続する工程とを有することを特徴とする有機発光装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate