説明

有機硝酸系爆発物に対する抗体およびその製作方法

【課題】対象の有機硝酸系爆発物に対して、選択的な結合能を有するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ならびに該モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を製造する方法を提供する。
【解決手段】免疫原性を示さない有機硝酸系爆発物に対する結合能を有する抗体として、前記有機硝酸系爆発物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体の群から、該有機硝酸系爆発物に対する交叉反応性を有する抗体を選別して、該交差反応性を有する抗体を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発物、特に有機硝酸系爆発物と特異的に結合するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機硝酸系の爆発物の1つとして1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン((1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine;以下、HMXと記述する)が知られており、軍用爆薬や爆薬テロで使われている。この化合物は下記の構造を有している。
【0003】
【化1】

【0004】
このため、爆薬管理やテロ対策用にこの爆発物を測定できる技術が求められている。この爆発物を検知する技術としては、従来、高速液体クロマトグラフィー法が用いられてきた(非特許文献1)。しかしながら、操作が複雑であることから、誰にでも簡便に測定することはできなかった。また、一回あたりの測定コストが高く、測定時間も3分以上を要していた。他に、簡便に測定する方法としては抗原抗体反応を利用する免疫測定法が有望視されているものの、HMXに対して免疫反応を示す抗体が製作できなかったため、免疫測定法を実施することができなかった。この理由は抗体製作時に使われる適切な抗原が見つかっていなかったためである。つまり、この抗体を製作することが課題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】インダストリアル&エンジニアリング・ケミストリー・リサーチ,ボリューム45,2006年,2954−2961ページ
【非特許文献2】ケミストリー・レター ボリューム35,ナンバー10,2006年,1126−1127ページ
【非特許文献3】インディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー,ボリューム43B,(2004年)432−436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗体を製作するには以下に示す課題を有していた。
【0007】
まず、適当な抗原が見出されていなかった。抗体製作には哺乳動物が認識できる抗原が必要であるが、HMXの分子量は296.2と小さいため、哺乳動物は抗原として認識することができなかった。
【0008】
一方で、分子量の小さな抗原を認識させる方法としては抗原にタンパク質を結合させ、見かけ上の分子量を大きくさせる方法がある(非特許文献2;ケミストリー・レター ボリューム35,ナンバー10,2006年,1126−1127ページ)。
【0009】
しかしながら、HMXはタンパク質と結合するためのペンダント基を持っていないため、この方法を用いて見かけ上の抗原を大きくすることは出来なかった。このため、HMXの抗体を製作することができなかった。
【0010】
本発明は上記理由に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、抗原決定基としてタンパク質に結合させることの出来るHMXの類似物質を提供することであり、より詳しくはタンパク質と結合させたHMXの類似物質を抗原として哺乳動物に免疫し、HMXと特異的に結合するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を製作することである。もしくはこれらの抗体を製作する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の抗体は、下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体である。
【0012】
【化2】

【0013】
式(I)
本発明の第1の抗体の製造方法は、下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【0014】
【化3】

【0015】
式(I)
該抗体は、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来のポリクローナル抗体であり、
該ヒト以外の哺乳動物由来のポリクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗血清を調製する工程;
調製された抗血清中に、前記式(I)に示す化合物に対する交叉反応性を有する抗体が存在することを、前記式(I)に示す化合物を抗原とする、抗原抗体反応によって、検証する工程
を含んでいることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の抗体の製造方法は、下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【0017】
【化4】

【0018】
式(I)
該抗体は、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体であり、
該ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から脾臓細胞を採取し、採取した脾臓細胞からモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を作製する工程;
作製された抗体産生ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の群から、前記式(I)に示す化合物に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を、前記式(I)に示す化合物を抗原とする、抗原抗体反応によって、選別する工程
を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、キャリア・タンパク質に結合させる反応基を有さない有機硝酸系爆発物の低分子化合物であっても、ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を創製することができるため、当該抗体を用いた免疫抗体反応により、当該硝酸系爆発物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1のポリクローナル抗体の交叉反応性についてELISA法により評価した結果を示すグラフである。
【図2】実施例2のモノクローナル抗体の交叉反応性についてELISA法により評価した結果を示すグラフである。
【図3】ハイブリドーマ細胞株のモノクローナル抗体H鎖の配列情報を示すものである。
【図4】ハイブリドーマ細胞株のモノクローナル抗体L鎖の配列情報を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる有機硝酸系爆発物の化合物に対する結合能を有する抗体と、その製造方法に関して、より詳しく説明する。
【0022】
低分子量の有機化合物に対する抗体を創製する手段として、対象の低分子量の有機化合物のみでは免疫原性を示さない場合、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法がある(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。
【0023】
具体的には、低分子量の有機化合物が反応性の官能基、例えば、アミノ基(−NH2)、ヒドロキシル基(−OH)、スルファニル基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)を具えている場合、該反応性の官能基を利用して、他の反応性官能基を有する有機化合物を共有結合的に直接または架橋剤を介して連結することが可能である。キャリア・タンパク質は、複数のアミノ酸残基が連結されてなるペプチド鎖で構成される、三次元構造を有しているが、その表面には、側鎖上に反応性官能基を有するアミノ酸残基が複数個存在している。例えば、リシン残基のアミノ基やシステイン残基のスルファニル基などである。従って、三次元構造を有している、キャリア・タンパク質の表面に存在するアミノ酸残基の側鎖上の反応性官能基を利用して、反応性の官能基を具えている低分子量の有機化合物を結合させることが可能である。この表面に低分子量の有機化合物に因る修飾が施された、修飾キャリア・タンパク質は、非天然型タンパク質分子であり、哺乳動物自体の内因性タンパク質分子と相違する、異質な物質として、認識される頻度が高い。特に、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位は、免疫原性を発揮する頻度が高い。修飾キャリア・タンパク質表面の、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する場合、該修飾キャリア・タンパク質を用いて、哺乳動物を免疫すると、該修飾キャリア・タンパク質に対する、特異的な抗体が創製される。
【0024】
該修飾キャリア・タンパク質の表面において、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)が複数存在する可能性がある。その場合、前記複数の免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)のそれぞれに特異的な抗体複数種が創製される。創製された、修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちには、その修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体が存在する頻度が高い。修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能に基づき、スクリーニングを行うことで、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体を選別することが可能である。
【0025】
但し、修飾キャリア・タンパク質の表面に存在する抗原決定基に対して、高い交叉反応性を示す抗体を、免疫対象の哺乳動物が既に保持している場合には、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。すなわち、免疫対象の哺乳動物が既に保持している抗体が示す高い交叉反応性を利用して、該修飾キャリア・タンパク質に対する免疫反応が可能である場合、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。
【0026】
さらには、修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)として機能する場合であっても、該抗原決定基に特異的な抗体は、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能は高くない場合も、少なくない。すなわち、前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を利用して、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に特異的な抗体を創製できるかどうかは、下記の要因に依存している。具体的には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造、利用するキャリア・タンパク質との組み合わせ、ならびに、該キャリア・タンパク質への結合形態、その修飾部位の選択などの要因に依存している。このような要因に関して、適切な組み合わせが選択できるかどうかによって、創製される抗体の結合能は影響を与える。
【0027】
一方、本発明にかかる有機硝酸系爆発物の化合物が、その分子内に反応性官能基を保持していない場合には、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を適用できない。勿論、本発明にかかる有機硝酸系爆発物の化合物は、低分子量の有機化合物であり、単独では免疫原性を示さない。
【0028】
そのため、本発明では、対象の有機硝酸系爆発物の化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数を創製し、その類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数のうち、対象の有機硝酸系爆発物の化合物に対して交叉反応性を有する抗体を選別する方法を採用する。
【0029】
(第一の実施形態)
以下に、対象の有機硝酸系爆発物の化合物として、下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine;以下、HMXとも記述する)を例に採り、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
【化5】

【0031】
式(I)
式(I)に示す化合物は反応性官能基を保持しておらず、架橋反応などによりキャリア・タンパク質に結合させることができない。そのため、キャリア・タンパク質に結合させるための反応官能基を有する式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を有し、キャリア・タンパク質に結合させるための反応性官能基を有する低分子化合物を、抗原決定基として選択する必要がある。そのような化合物として、下記の式(II)に示す構造を有する化合物:3,7−ジニトロ−[1,3,5,7]テトラゾカン−1,5−ジアミン(3,7−dinitro−[1,3,5,7]tetrazokan−1,5−diamine:;以下、HMXARとも記述する)を好適に用いることができる。
【0032】
【化6】

【0033】
式(II)
本発明では、式(II)に示す構造を有する化合物の分子内に存在する反応性官能基である、アミノ基(−NH2)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、例えば、カルボキシル基(−COOH)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させることで、キャリア・タンパク質の表面に結合させる形態を選択することができる。また、架橋剤を介して式(II)に示す化合物をキャリア・タンパク質表面に結合することができる。架橋剤としては、グルタルアルデヒドやビス[サルフォサクシンイミディル]サブエレイトなどを用いることができる。
【0034】
その際、キャリア・タンパク質は、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質を利用することができる。キャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA)、ウシサイログロブリン、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)などが好適に利用できる。
【0035】
キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する場合、免疫操作を施した哺乳動物中では、該修飾キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される。その際、利用するキャリア・タンパク質自体も、一般に、免疫原性を具えているため、該修飾キャリア・タンパク質中の修飾部位に特異的な抗体以外に、キャリア・タンパク質自体の抗原決定基に特異的な抗体の創製もなされる。
【0036】
その点を考慮すると、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質に対して、未修飾のキャリア・タンパク質の混入比率が低いことが好ましい。勿論、未修飾のキャリア・タンパク質の混入が無い、修飾キャリア・タンパク質を使用することがより好ましい。
【0037】
一方、利用されるキャリア・タンパク質上には、対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾を行なうことが可能な部位(修飾可能部位)が、一般に、複数箇所存在している。この修飾可能部位は、それぞれ、反応性官能基が存在しているが、その反応性には、一般に、差違が存在している。従って、反応性の高い修飾可能部位から優先的に、対象の低分子量の有機化合物の結合が進行し、対象の低分子量の有機化合物が消費されるため、反応性の低い修飾可能部位に対して、対象の低分子量の有機化合物の結合が達成される効率は一層低下する傾向がある。キャリア・タンパク質上に存在する、複数の修飾可能部位の全てに、対象の低分子量の有機化合物の結合を達成させるためには、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、複数の修飾可能部位の合計に対して、相当に過剰な量に選択することが望ましい。
【0038】
免疫操作は、該対象の低分子量の有機化合物を結合させた、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液を、例えば、免疫対象の哺乳動物に対して、注射により投与することにより行なうことが望ましい。その注射による投与の形態では、皮下注射、皮内注射、静脈注射、または腹腔内投与の形態が利用可能である。通常、皮下注射によって、前記溶液を投与する。その際、前記修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。通常、アジュバンドとしては、従来から免疫操作に利用されているアジュバンドが利用できる。利用可能なアジュバントとしては、フロイント完全アジュバントや水中油中水型乳剤、水中油乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバンドがある。フロイント完全アジュバンドは、汎用されており、本発明でも、好適に利用できる。例えば、初回の免疫操作(感作)時には、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましい。
【0039】
また、免疫操作では、初回の免疫操作(感作)後、所定の期間が経過した時点で、追加免疫を行う。この追加免疫においても、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。例えば、追加免疫時にも、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましいが、フロイント不完全アジュバントを利用することでも、相当の効果が得られる。
【0040】
初回の免疫操作(感作)後、実施される追加免疫は、複数回行うことが望ましい。その間隔は、前回の免疫操作(感作)に対する免疫反応に伴う、血圧中の抗体濃度が極大を示し、抗体濃度の減少期となった時点で、追加免疫を行うことが望ましい。前回の免疫操作(感作)後、血圧中の抗体濃度が極大に達するまでの日数は、通常、用いる免疫原の体内での代謝速度に依存する。従って、追加免疫の間隔は、用いる免疫原の種類、対象の免疫動物の種類、その健康状態に依存する。マウスなどの小動物を免疫動物に利用する際には、初回の免疫操作(感作)後、例えば、2週間、4週間、6週間、8週間後に、追加免疫を実施する形態を選択できる。
【0041】
科学的には、免疫対象の哺乳動物の種類は問わないが、倫理的な観点から、ヒト以外の哺乳動物から選択する。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を創製する場合、免疫対象の哺乳動物に利用可能な、ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、ヤギなどを選択することができる。
【0042】
免疫対象の哺乳動物としては、該修飾キャリア・タンパク質に対して、交叉反応性を示す抗体を既に保持している哺乳動物は好ましくない。すなわち、当該免疫対象の哺乳動物は、後天的に獲得した免疫が無い個体であることが、一般的に好ましい。前記の要件を考慮すると、各種の免疫原性物質に曝される機会が本質的にない環境下において、出産後、生育された哺乳動物を利用することが好ましい。あるいは、出産後、免疫操作を施すことが可能な程度に生育するまでの期間が短い哺乳動物を利用することが好ましい。これらの条件を考慮すると、医学的な研究に利用される、血統的に確立されている小型の哺乳動物を利用することがより好ましい。具体的には、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどが好ましく、特には、マウスまたはラット、更には、マウスを利用することがより好ましい。
【0043】
免疫操作に先立ち、免疫動物として利用される、ヒト以外の哺乳動物において、該修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、キャリア・タンパク質自体の免疫原性と、該キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される免疫条件を予め調査することが望ましい。上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質に関しては、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、前記の事項は、既に調査されており、その報告が利用できる。
【0044】
また、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に報告されている成功例を参照して、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を相当の確度で推定することも可能である。
【0045】
各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどに対する、免疫操作の手順は、既に報告されている成功例で利用された手順に沿って、選択することが望ましい。
【0046】
免疫対象の哺乳動物として、マウスまたはラットを選択する場合、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、その後の追加免疫の回数、その間隔を考慮して、選択される。具体的には、複数回の追加免疫を終了した後、当該免疫動物の血液中に、免疫原に特異的な抗体が存在することを検証する必要がある。従って、複数回の追加免疫を終了する時点で、当該免疫動物が抗体を生産する能力が低下する齢に達しないように、初回の免疫操作(感作)を実施する齢を選択することが好ましい。初回の免疫操作(感作)後、複数回の追加免疫を終了するまでの期間を、8週間程度に選択する場合、マウスまたはラットでは、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、10〜15週齢の範囲に選択することが好ましく、通常、12週齢程度に選択することがより好ましい。マウスまたはラットでは、12週齢程度に達すると、十分な抗体を生産する能力を有しており、新規な抗体を創製する能力が最も高くなることが知られている。
【0047】
式(II)に示す構造を有する化合物(HMXAR)は、公知の化合物であり、その合成方法は、文献に既に報告されている(非特許文献3;インディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー,ボリューム43B,(2004年)432−436)。
【0048】
続いて合成したHMXARをキャリア・タンパク質に結合させる。キャリア・タンパク質としては牛血清アルブミン(BSA)やキーホールリンペツトヘモシアニンが好ましい。HMXARとキャリア・タンパク質を溶解させる液媒体は特に限定はされないが,ジメチルスルホキシドやホウ酸水溶液を好適に用いることが出来る。ホウ酸水溶液を用いる場合は,pHが中性からややアルカリ性が好ましく,通常は8.5前後がよい。ホウ酸水溶液のpH緩衝機能が発揮され,また,HMXARを効率的に溶解させることが出来るからである。
【0049】
続いて、グルタルアルデヒドを用いてHMXARとタンパク質を結合させる、グルタルアルデヒドは架橋剤として用いられ、HMXARのアミノ基とタンパク質のアミノ基、スルファニル基等との間で架橋構造を形成させて結合させるものである。また、その他の架橋方法としてはビス[サルフォサクシンイミディル]サブエレイト(以下、BS3)を用いてもよい。該架橋剤グルタルアルデヒドの量は、式(II)に示す構造を有する化合物1分子当たり、5分子〜20分子の範囲に選択することが好ましい。
【0050】
本発明では、上記の免疫操作に利用する、免疫原として、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を利用している。免疫操作によって新たに創製される、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、先ず検証する。
【0051】
上記の最終回の追加免疫を終了した後、免疫原として利用する、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体の血液中濃度の有意な上昇が見出される時点で、当該免疫動物から採血し、採取した血液から、抗血清を調製する。この抗血清中に含まれる、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、検証する。
【0052】
すなわち、キャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体を抗原決定基とする、ポリクローナル抗体の有無を検証する。複数種の抗体を含有している抗血清中に、特定の抗原決定基に特異的に結合する抗体が存在することを検証する手段としては、酵素免疫測定法(ELISA法)が好適に利用される。酵素免疫測定法(ELISA法)は、特定の抗原決定基に対する抗体の特異的な反応性を利用するため、選択性が高く、特に、抗血清中に含有されている、特定の抗原決定基に対する抗体の濃度が不明な場合に、その抗体価を簡便に評価することが可能である。
【0053】
本発明では、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体の検出を行うため、酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原として、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を利用する。勿論、その別種のキャリア・タンパク質自体は、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種と反応しないことが必要である。
【0054】
免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質と、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質を、免疫原の作製に好適に利用されるキャリア・タンパク質の群から、互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせとして選択することが好ましい。
【0055】
前記のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該キャリア・タンパク質自体の抗原決定基は、通常、相違しており、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が、前記別種のキャリア・タンパク質自体に反応性を示す可能性を排除できる。また、前記の互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該低分子量の有機化合物を結合可能な部位の局所的な構造(部分アミノ酸配列)が実質的に一致する可能性も極めて低い。従って、前記の組み合わせでは、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうち、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質に対して結合能を示す抗体は、該低分子量の有機化合物自体に結合する抗体とみなすことができる。
【0056】
特に、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ブロッキング用タンパク質として汎用されるウシ血清アルブミンを選択し、一方、免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン以外の汎用のキャリア・タンパク質、例えば、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することがより好ましい。前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する、修飾キャリア・タンパク質型の抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミンを選択すると、その修飾キャリア・タンパク質型の抗原の、ウシ血清アルブミン部分に非選択的に抗体分子が結合する現象も排除される。さらに、ウシ血清アルブミンをキャリア・タンパク質とする、該修飾キャリア・タンパク質型の抗原は、ELISAプレート上に、高密度で固定することが可能である。
【0057】
取得された抗血清中に、免疫原の作製に利用している、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有する抗体が存在することを検証した後、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するポリクローナル抗体が、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す構造を有する化合物(HMX)自体に対して、交叉反応性を示すか否かを検証する。
【0058】
本発明において、前記抗体の交叉反応性の検証は、二種の抗原の抗体に対する競合反応を利用することが好ましい。
【0059】
目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す構造を有する化合物(HMX)自体は、低分子量の有機化合物であり、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。また、上記の免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物も、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。
【0060】
従って、抗体が交叉反応性を有する場合、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物との結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位と、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)自体の結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位とは、一致する可能性が極めて高い。その場合、該抗体分子の相補性決定部位に、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)が結合すると、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物の結合を阻害する。この競争阻害の現象を利用することで、当該抗体分子の特定の相補性決定部位に対して、交叉反応性を示すか否かを検証することができる。
【0061】
具体的には、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性の検証に利用した、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を、ELISAプレート上に固定化する。一方、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)は、該ELISA法において、抗原抗体反応を行わせる反応液中に、ポリクローナル抗体の含む抗血清とともに溶解させる。
【0062】
上記の競合反応が進行すると、前記反応液中に存在する、交叉反応性を示す抗体は、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)と抗原抗体反応する結果、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子の量が減少する。この競合反応に起因する、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子量の減少を、酵素免疫測定法(ELISA法)を応用して検出する。
【0063】
この手法を利用することで、抗血清中に含有される、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対するポリクローナル抗体中、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)と交叉反応性を示す抗体が含まれることを検証することができる。
【0064】
換言すると、前記の検証がなされた抗血清は、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する結合能を有するポリクローナル抗体を含むものである。
【0065】
前記の目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)と交叉反応性を示す抗体を産生していることの検証がなされた免疫動物の抗体産生細胞群を採取し、この抗体産生細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0066】
通常、前記の検証がなされた免疫動物から、その脾臓を摘出して、脾臓細胞群を調製する。この脾臓細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0067】
前記の細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株は、融合対象である、免疫動物由来の脾臓細胞と適合性を有することが必要である。また、細胞融合で創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能は、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株に依っており、増殖能力の優れた骨髄腫由来の細胞株を利用することが好ましい。
【0068】
例えば、免疫動物として、マウスを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、マウスの骨髄腫由来の細胞株である、P3X63 Ag8.653、P3X63Ag8U、Sp2/O Ag14、FO・1、S194/5.XX0 BU.1等が好適に使用される。特に、細胞株P3X63Ag8Uの利用は、創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能が高く、また、該ハイブリドーマ細胞の産生する抗体分子は、適正な組み立てがなされた全抗体であり、組み立ての完了していない抗体分子の断片を含まないので、より好ましい。
【0069】
例えば、免疫動物として、ラットを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、ラットの骨髄腫由来の細胞株、210、RCY3.Ag1.2.3、YB2/0などが挙げられる。
【0070】
上記のハイブリドーマ細胞を創製するための細胞融合の手法として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。ポリエチレングリコール法は、細胞毒性が少なく、融合操作も容易であり、特に、再現性が高いので、本発明により適している。すなわち、本発明では、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞のうち、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選別する必要がある。創製される、一群のハイブリドーマ細胞のうち、前記の交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞が含まれる頻度は、決して高く無いので、スクリーニング対象の一群のハイブリドーマ細胞の細胞株数(母数)を大きくする必要がある。従って、より再現性の高い細胞融合手法を選択することが好ましく、ポリエチレングリコール法は、前記の要請に適合している。
【0071】
創製された、一群のハイブリドーマ細胞は、分散した上で、マイクロプレートに分注して、利用した骨髄腫由来の細胞株に応じて、適宜選択される公知の培養条件で増殖させる。上記の培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株が産生するモノクローナル抗体について、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)と交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0072】
培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清を採取する。各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清は、該細胞株の産生するモノクローナル抗体を含んでいる。
【0073】
各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するか、否かを先ず検証する。
【0074】
その検証には、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を抗原とする、酵素免疫測定法(ELISA法)による検証手法が利用できる。その具体的な測定法は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の反応性に関する検証と、原理的には同じである。
【0075】
この検証によって、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株中から、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。この一次スクリーニングで選別される、ハイブリドーマ細胞の細胞株の群について、該ハイブリドーマ細胞の細胞株の産生するモノクローナル抗体は、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0076】
この交叉反応性に関する検証は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性に関する検証と、原理的には同じ手法を適用することで行うことが可能である。
【0077】
前記目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する交叉反応性の検証(二次スクリーニング)によって、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。なお、選択されるモノクローナル抗体のタイプは、酵素免疫測定法(ELISA法)に利用される、抗Ig抗体の示す抗体タイプ特異性に依存する。
【0078】
この二次スクリーニングによって、選別されるハイブリドーマ細胞の細胞株を使用して、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を生産することができる。
【0079】
選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株のin vitro細胞培養を行い、その培養上清を回収し、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。また、選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株を、免疫に利用したヒト以外の哺乳動物の腹腔内に接種すると、該腹腔内で増殖し、腹水内に産生されたモノクローナル抗体が蓄積される。その後、該腹水を採取して、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。
【0080】
腹水または培養上清中に含まれる、モノクローナル抗体の精製は、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法,エタノール分画法などを、適宜組み合わせ、目的の純度まで精製を施す。望ましい純度は、95%以上、より好ましくは98%以上である。例えば、目的とする有機硝酸系爆発物の化合物、例えば、式(I)に示す化合物(HMX)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を、当該有機硝酸系爆発物の検出装置、あるいは、濃度の測定装置に利用する際には、夾雑物に対する反応性を具える抗体が混入すると、その確度を低減させる要因となる。その点を考慮すると、前記の純度まで精製を行うことが望ましい。
【0081】
本発明の第一の実施形態における抗体、およびその製造方法は以下のとおりである。
【0082】
本発明の第一の実施形態における抗体は、前記式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体である。
【0083】
前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体として、該式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体であり、前記式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する抗体を好適に用いることができる。
【0084】
また、前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、前記式(II)に示す構造を有する化合物:3,7−ジニトロ−[1,3,5,7]テトラゾカン−1,5−ジアミン(3,7−dinitro−[1,3,5,7]tetrazokan−1,5−diamine)を用いることができる。
【0085】
また、前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体として、前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する抗体を用いることが出来る。免疫する哺乳動物としては例えば、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、モルモット、ロバ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、またはサルを用いることができ、好ましくはマウスを用いることができる。
【0086】
また、前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体として、前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する抗体を用いることが出来る。免疫する哺乳動物としては例えば、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、モルモット、ロバ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、またはサルを用いることができ、好ましくはマウスを用いることができる。
【0087】
前記低分子化合物をキャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することができる。
【0088】
本発明の第一の実施形態にかかるポリクローナル抗体を製造する方法は、前記式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体を製造する方法である。本方法で製造される抗体は、前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来のポリクローナル抗体である。本製造方法におけるポリクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、以下の(i)〜(iii)の工程を有する。
(i)前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程。
(ii)前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗血清を調製する工程。
(iii)調製された抗血清中に、前記式(I)に示す化合物に対する交叉反応性を有する抗体が存在することを、前記式(I)に示す化合物を抗原とする、抗原抗体反応によって、検証する工程。
【0089】
本発明の第一の実施形態にかかるモノクローナル抗体を製造する方法は、前記式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体を製造する方法である。本方法で製造される抗体は、前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体である。本製造方法におけるモノクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、以下の(i)〜(iii)の工程を有する。
(i)前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程。
(ii)前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から脾臓細胞を採取し、採取した脾臓細胞からモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を作製する工程。
(iii)作製された抗体産生ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の群から、前記式(I)に示す化合物に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を、前記式(I)に示す化合物を抗原とする、抗原抗体反応によって、選別する工程。
【0090】
本発明の第一の実施形態にかかるポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を製造する方法において、前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、前記式(II)に示す構造を有する化合物:3,7−ジニトロ−[1,3,5,7]テトラゾカン−1,5−ジアミン(3,7−dinitro−[1,3,5,7]tetrazokan−1,5−diamine)を用いることができる。また、免疫する哺乳動物としては例えば、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、モルモット、ロバ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、またはサルを用いることができ、好ましくはマウスを用いることができる。また、前記低分子化合物をキャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することができる。
【0091】
ハイブリドーマ細胞株が産生するモノクローナル抗体において、抗原との特異的な結合に関与する可変領域のアミノ酸配列を特定することは、配列情報により抗体の特徴を解析したり、他の抗体の配列と比較する場合、あるいは、遺伝子組み換え技術などを利用して得られた抗体の可変領域断片を他の抗体に由来する定常領域と連結して人工的に抗体を構築する場合に有用である。IgG抗体の未知の可変領域のアミノ酸配列の特定は、従来用いられる配列解析方法により行うことができ、例えば、IgG抗体の可変領域をコードする塩基配列をシークエンシングすることにより行うことができる。または、エドマン分解法などにより直接IgG抗体タンパクのアミノ酸配列を決定することができる。エドマン分解法を用いると実際に発現しているIgG抗体分子の可変領域のN末端を特定することができる。DNAシークエンシングを行う場合、IgG抗体遺伝子の可変領域を含む領域をCloningする必要がある。IgG抗体の可変領域を含む領域のCloningは、配列が既知である定常領域の上流側(5’側)に可変領域が存在するため、定常領域に対してプライマーを設計して逆転写反応および5’RACE法を行うことができる。定常領域の配列はサブクラス検定によりH鎖およびL鎖のそれぞれの定常領域のサブクラスを特定することで推定することができる。
【0092】
このように本発明のHMXに対して交差反応性を有するモノクローナル抗体の可変領域のアミノ酸配列を特定すると、本発明のIgG抗体の可変領域をその他の抗体に由来する定常領域のアミノ酸配列と結合した人工のIgG抗体を作製することができる。その他の抗体に由来する定常領域のアミノ酸配列は、特に限定されないが例えば以下のようなものを選択することができる。本発明のマウスIgG抗体とは異なる種の哺乳類の定常領域であって例えば、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ヤギなどに由来する定常領域のアミノ酸配列、本発明のIgG抗体と異なるアイソタイプの定常領域であって、例えば、IgA、IgM、IgDおよびIgEの免疫グラブリンの定常領域のアミノ酸配列、ならびに、標識等による検出やアフィニティー精製などのために少なくとも一部のアミノ酸配列が置換、削除もしくは付加された定常領域のアミノ酸配列など。このようなアミノ酸配列を組み換えた抗体の作製には公知の遺伝子組み換え技術を用いて遺伝子組み換えIgG抗体遺伝子を作製して発現させることができる。または、本発明の可変領域のアミノ酸配列とその他の抗体に由来する定常領域のアミノ酸配列とを直接結合させて作製することができる。
【0093】
(ハイブリドーマ株の寄託)
本発明にかかる、式(I)に示す化合物(HMX)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、実施例に記載のmAb−H004のハイブリドーマ細胞株が、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託されています(受領日;平成21年5月12日、受領番号;FERM ABP−11127)。
【0094】
【表1】

【0095】
上記のハイブリドーマ細胞株は、後述する実施例に開示する手順によって、創製され、選別されたハイブリドーマ細胞株である。
【0096】
本発明にかかる有機硝酸系爆発物にかかる化合物に対する結合能を有する抗体と、その作製方法について実施例を示し具体的に説明するが、実施例によって本発明の技術的範囲は限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
対象となる有機硝酸系爆発物の化合物として、上記式(I)に示す化合物(HMX)を選択した。該式(I)に示す化合物(HMX)と類似性を具えた構造を持つ下記式(II)に示す3,7−ジニトロ−[1,3,5,7]テトラゾカン−1,5−ジアミン(HMXAR)を抗原決定基として選択した。
【0098】
【化7】

【0099】
式(II)
<式(II)に示す構造を有する化合物の合成>
式(II)に示す化合物(HMXAR)は、公知の化合物であり、その合成方法は、文献に既に報告されている(非特許文献3:インディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー,ボリューム43B,(2004年)432−436)。
【0100】
前記文献に記載する合成法に従って、式(I)に示す化合物(HMX)(AccuStandard社製)にエーテルと水酸化アルミニウムリチウムを添加し、30−40℃で一晩反応させ、水を添加して反応を停止させ、合成した。質量分析計を備えた液体高速クロマトグラフィー(LC−MS)を用いて測定したところ、HMXARが合成されていることを確認した。
【0101】
<式(II)に示す化合物(HMXAR)により修飾された、免疫原用修飾キャリア・タンパク質の調製>
続いて、3mgのHMXARを含有するDMSO溶液1.8mlに、10mgのキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有するDMSO溶液2mlを混合後、25%グルタルアルデヒドを16μl添加した。そして、1時間室温で放置、その後1Mのグリシンを0.1ml添加し、PBS透析を行った。この溶液をGA架橋溶液とする。
【0102】
つづいて、3mgのHMXARを含有するDMSO溶液1.8mlに10mgのキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有するDMSO溶液2mlを混合後、10mgのBS3((株)テクノケミカル社製)を含有する溶液0.5mlを添加した。そして、1時間室温で放置、その後1Mのグリシンを0.1ml添加し、PBS透析を行った。この溶液をBS3溶液とする。
【0103】
<免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いる免疫操作>
上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いて、マウス(SLC:C57BL/6)に感作を行った。マウス1匹あたりの注射の溶液組成は0.075mlのGA溶液、0.075mlのBS3溶液、そして0.15mlのフロイント完全アジュバント(フナコシ社製)とした。この溶液を12週齢のマウス(SLC:C57BL/6)に皮下注射を行った。注射は初日、22日目、35日目、および49日目に実施した。66日目に、該免疫したマウスから採血を行った。
【0104】
<取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性の検証>
採決した血液から抗血清を取得し、血清内のポリクローナル抗体に対するHMXの競合反応をELISA法で測定した。
【0105】
測定にはHMXARを牛血清アルブミン(BSA)に結合させたものを用意し、測定プレート上に固定化して実施した。結合条件は3mgのHMXARを含有するDMSO溶液1.8ml、純水に溶解させた30mgの牛血清を含有する溶液0.1ml、0.2Mの炭酸バッファー(pH9.5)0.9ml、そして10mgのBS3を含有するDMSO溶液0.5mlを添加し、5時間室温で反応させ、1Mのグリシンを0.6ml添加し、反応を停止させた。この得られた溶液をHMXAR−BSA溶液とした。
【0106】
1000倍に希釈したHMXAR−BSA溶液をELISA測定用のプレートに自然吸着法で固定化し、終濃度が100ppmとなる濃度のHMX(アキュースタンダード社製)溶液50μl、および、100倍に希釈した抗血清50μlをプレートに入れ、室温で2時間反応させた。
【0107】
反応終了後、3回PBSで洗浄を行い、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)を50μl入れ、1時間室温で反応させた。続いて、4回PBSで洗浄し、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ、フナコシ社製)を50μl入れ、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)で反応を停止させた。そして、450nmの吸光を測定した。
【0108】
その結果、1つのプレートにおいて、100ppmのHMXに対して競合反応を示すことが分かりHMXのポリクローナル抗体が得られていることが確認された。図1に吸光度を測定したデータを示す。図1に示す結果のとおり、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、HMXに対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0109】
(実施例2)
実施例1の最初の感作後66日目に取得した抗血清中にHMXARに対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが確認されたマウスから、脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製した。
【0110】
調製されたマウスの脾臓細胞と、P3−X63−Ag8−Uマウスミエローマ細胞とを、細胞数5:1の比率で、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)中、重合度1500の50%ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製)存在下で、37℃、2分間混合し、細胞融合させた。前記細胞融合処理後、得られたハイブリドーマ細胞は、HAT培地(20%牛胎児血清)に懸濁した後、マイクロプレートに分注し、4日に1回の割合で、HAT培地の半量を新しいHT培地(10%牛胎児血清)に交換した。培養条件は37℃、5%CO2であった。
【0111】
HAT培地は、RPMI1640培地に、HATサプリメント(インビトロジェン社製)を適量加えたものである。本実施例では、RPMI1640培地1ml当たり、HATサプリメント20μlを添加した。
【0112】
HT培地は、RPMI1640培地に、HTサプリメント(インビトロジェン社製)を適量加えたものである。本実施例では、RPMI1640培地1ml当たり、HTサプリメント20μlを添加した。
【0113】
上記の培養条件で、マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、2週間培養して、それぞれハイブリドーマ細胞株を確立した。そして、2週間培養し、培養上清中の抗体の有無を実施例1と同様にしてELISA法で確認した。
【0114】
その結果、4つのプレートにおいて、100ppmのHMXに対して競合反応を示すことが分かりHMXモノクローナル抗体が得られていることが確認された。図2にハイブリドーマから得られた4種類の株から得られたモノクローナル抗体の吸光度を測定したデータを示す。バッファー(グラフ中ではBorate Bufferと記述)の吸光度に対してHMXの吸光度が低下していることから、これらの抗体がHMXと結合していることを反映している。
【0115】
(実施例3)
ハイブリドーマ細胞株が産生するIgG抗体の可変領域の塩基配列を解析するため、可変領域を含むcDNA断片のクローニングを行った。可変領域のcDNAのクローニングは、5’−RACE法によりtotal RNAからcDNAを増幅することで行い、クローニングした可変領域のcDNAについてDNAシークエンシングにより塩基配列の解析を行った。詳細は以下のとおりである。
【0116】
はじめに、実施例2で取得したハイブリドーマ細胞株(mAb−H004;受領番号FERM ABP−11127)を106の細胞となるまで培養した。total RNAの抽出と品質検定を行うため、培養細胞全量をRNAiso(タカラバイオ社製)中でホモジェナイズし,total RNA抽出キット(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてtotal RNAを精製した。つづいて、マウス抗体(IgG)配列特異的RT反応を実施するため、精製後のtotal RNAとマウス抗体(IgG)配列特異的RT Primerを用いて1stストランドcDNA合成を行った。逆転写反応のプライマーの配列として、IgG抗体のH鎖およびL鎖のそれぞれの定常領域に相補的な配列を図3、4に示すように設定した。なお、ハイブリドーマ細胞株について、Mouse MonoABID KIT(HRP)を用いてサブクラス検定を実施した結果、IgGを生産する細胞であり、H鎖はγ1鎖のサブクラスを有し、L鎖はκ鎖のサブクラスを有するものであった。
【0117】
次に、マウス抗体(IgG)配列特異的RACE PCR反応を実施するため、SMARTTM RACE cDNA Amplification Kit(タカラバイオ社)を用いて5’RACE PCR解析を行った。まず、逆転写反応により合成した1stストランドcDNAの3’末端に図3、4に示すアダプター配列を付加した。なお、H鎖、L鎖のいずれにも共通である。
【0118】
つづいて、H鎖、L鎖のそれぞれについて、得られたアダプター配列を付加した1stストランドcDNAを鋳型として、H鎖、L鎖のそれぞれのRT反応に用いたPrimerをReverse Primerとし、Kitに含まれるUniversal primer mixをForward PrimerとしてRACE PCR反応を実行させた。
【0119】
続いて、得られたPCR産物を3% Agarose Gelで電気泳動を行い、2つのLaneのPCR産物をゲル抜きの精製を行った。
【0120】
次に、Cloningと塩基配列解析を行うため、ゲル抜き精製したPCR産物を、Cloning Plasmid pMD20- TにLigationした。続いて、形質転換を行い、それぞれ2 cloneについてPlasmid調整を行った。そして、得られたPlasmid DNAをPlasmid由来Primerを用いて塩基配列解析を行った。Sequence反応はBigDye Terminators v 3.1 Cycle Sequencing Kit (ABI社製)を使用し、プロトコルに従って実施した。図3および4はSequence反応により解析された配列情報をまとめたものである。上記のCloningにより得られたH鎖の可変領域を含むcDNA断片の塩基配列(配列番号1)を以下の表2に示し、L鎖の可変領域を含むcDNA断片の塩基配列(配列番号2)を以下の表3に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
【表3】

【0123】
また、H鎖の可変領域を含むcDNA断片から翻訳されるアミノ酸配列(配列番号3)を表4に示し、L鎖の可変領域を含むcDNA断片から翻訳されるアミノ酸配列(配列番号4)を以下の表5に示す。
【0124】
【表4】

【0125】
【表5】

【0126】
また、表4に示すアミノ酸配列(配列番号3)の18番目のメチオニンが開始コドンと推測される。さらに、定常領域のアミノ酸配列から推測されるH鎖の可変領域のC末端のアミノ酸は表4に示すアミノ酸配列(配列番号3)において179番目のグリシンである。これらの解析に基づいて得られるH鎖の可変領域のアミノ酸配列(配列番号5)を表6に示す。
【0127】
【表6】

【0128】
また、エドマン分解により特定したL鎖のN末端のアミノ酸は、表5に示すアミノ酸配列(配列番号4)において31番目のアスパラギン酸であった。さらに、既知の定常領域のアミノ酸配列から推測されるL鎖の可変領域のC末端のアミノ酸は表5に示すアミノ酸配列(配列番号4)において165番目のフェニルアラニンであった。これらの解析に基づいて得られるL鎖の可変領域のアミノ酸配列(配列番号6)を表7に示す。
【0129】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明にかかる有機硝酸系爆発物に結合能を有する抗体は、当該有機硝酸系爆発物の検出に利用できる。
【受託番号】
【0131】
本発明にかかる、式(I)に示す化合物(HMXAR)について、実施例に開示するmAb−H004のハイブリドーマ細胞株が、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託されています(受領日;平成21年5月12日、受領番号;FERM ABP−11127)。
【0132】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体。
【化1】

式(I)
【請求項2】
前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体は、
該式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体であり、前記式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、
下記の式(II)に示す構造を有する化合物:3,7−ジニトロ−[1,3,5,7]テトラゾカン−1,5−ジアミン(3,7−dinitro−[1,3,5,7]tetrazokan−1,5−diamine)であることを特徴とする請求項2に記載の抗体。
【化2】

式(II)
【請求項4】
前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の抗体。
【請求項5】
前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の抗体。
【請求項6】
前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスである
ことを特徴とする請求項4または5に記載の抗体。
【請求項7】
前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択する
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体は、
ハイブリドーマ細胞株(FERM ABP−11127)が産生するモノクローナル抗体である
ことを特徴とする請求項5に記載の抗体。
【請求項9】
H鎖の可変領域のアミノ酸配列が以下の(1)の配列であり、L鎖の可変領域のアミノ酸配列が以下の(2)の配列である、請求項5に記載のモノクローナル抗体。
(1)MGWSCIILILVAAATGVHSQVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYWITWVKQRPGQGLEWIGDI
YPGSGTTNYNEKFKSKATLTVDTSSSTAYMQLSSLTSEDSAVFYCVRPNYYGSSYWGQGTTLTVSSAKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLG(配列番号5)
(2)DIQMTQSPSSLSASLGERVSLTCRASQEISGYLSWLQQKPDGTIKRLIYAASTLDSGVPKRFSGSRSGSD
YSLTISSLESEDFADYYCLQYASYPFTFGSGTKLEIKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCF(配列番号6)
【請求項10】
H鎖のサブクラスがγ1鎖あり、L鎖のサブクラスがκ鎖である、請求項9に記載のモノクローナル抗体。
【請求項11】
下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【化3】

式(I)
該抗体は、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来のポリクローナル抗体であり、
該ヒト以外の哺乳動物由来のポリクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗血清を調製する工程;
調製された抗血清中に、前記式(I)に示す化合物に対する交叉反応性を有する抗体が存在することを、前記式(I)に示す化合物を抗原とする、抗原抗体反応によって、検証する工程
を含んでいる
ことを特徴とする抗体の製造方法。
【請求項12】
下記の式(I)に示す構造を有する化合物:1,3,5,7−テトラニトロパーハイドロ−1,3,5,7−テトラゾシン(1,3,5,7−tetranitroperhydro−1,3,5,7−tetrazocine)に対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【化4】

式(I)
該抗体は、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す化合物に対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体であり、
該ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から脾臓細胞を採取し、採取した脾臓細胞からモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を作製する工程;
作製された抗体産生ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の群から、前記式(I)に示す化合物に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を、前記式(I)に示す化合物を抗原とする、抗原抗体反応によって、選別する工程
を含んでいる
ことを特徴とする抗体の製造方法。
【請求項13】
前記式(I)に示す化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、
下記の式(II)に示す構造を有する化合物:3,7−ジニトロ−[1,3,5,7]テトラゾカン−1,5−ジアミン(3,7−dinitro−[1,3,5,7]tetrazokan−1,5−diamine)であることを特徴とする請求項11または12に記載の抗体の製造方法。
【化5】

式(II)
【請求項14】
前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスである
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
【請求項15】
前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択する
ことを特徴とする請求項11〜14のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
【請求項16】
前記式(I)に示す化合物に対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株(FERM ABP−11127)が産生するモノクローナル抗体を選択する
ことを特徴とする請求項12に記載の抗体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285418(P2010−285418A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66202(P2010−66202)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】