説明

有機硫黄化合物含有液状油用脱硫剤及びそれを用いた脱硫方法

【課題】液状油に含まれる有機硫黄化合物、特に難分解性有機硫黄化合物を効率よく除去することのできる脱硫剤、及びその脱硫剤を用いた脱硫方法を提供する。
【解決手段】(A)成分として過酸化尿素、(B)成分としてカルボン酸及び(C)成分として無機酸及び/又は有機スルホン酸を含有することを特徴とする有機硫黄化合物含有液状油用脱硫剤及びその脱硫剤を用いて有機硫黄化合物含有液状油を処理することを特徴とする脱硫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状油に含まれる有機硫黄化合物を酸化脱硫するための脱硫剤及びそれを用いた脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や石炭などの化石資源を原料とする燃料油中に含まれる硫黄化合物類は、燃焼に際して硫黄酸化物を生成し、大気環境汚染の原因となる。その主な原因として、軽油等を燃料とする自動車の排出ガス中に含まれる硫黄酸化物が挙げられ、近年の燃料油の硫黄分は50ppm以下に規制され、将来的には更なる規制の強化が見込まれている。そのため、燃料油中に含まれる硫黄化合物の脱硫技術は、積極的に開発が進められてきており、現在精油所では、触媒の存在下に水素化処理を行う水素化脱硫方法が行われている。
【0003】
ところで、このような軽油等の燃料油中には、水素化脱硫法による除去が極めて困難な有機硫黄化合物、特に硫黄原子近傍にアルキル基などの立体障害性の置換基を持つアルキル置換ジベンゾチオフェン類が含まれており、硫黄分を50ppm以下へと低減させるためには、これらの難分解性有機硫黄化合物を効果的に脱硫する必要がある。そこで、超深度脱硫の達成のためには、このような難分解性有機硫黄化合物を有効に除去することのできる、新たな脱硫技術の開発が急務とされている。
【0004】
そこで様々な脱硫方法が考案されている。従来、脱硫の方法としては、金属系の触媒を使用することが一般的であり、現在もその方法が通常的に行われている。しかし、金属系の触媒だけを使用した場合、上記のような難分解性有機硫黄化合物を完全に脱硫するのは難しく、近年、金属系の触媒に酸化剤を併用することが考えられてきた(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0005】
しかし、こうした酸化剤を使用する方法はある程度の効果はあるものの、難分解性有機硫黄化合物は分解されにくく、また、特許文献1のように溶剤を使用すると溶剤処理のための処理時間増及びコスト増をまねくため、更に効率の良い脱硫方法が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−354978号公報
【特許文献2】特開2002−322483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、液状油に含まれる有機硫黄化合物、特に難分解性有機硫黄化合物を効率よく除去することのできる脱硫剤、及びその脱硫剤を用いた脱硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者等鋭意検討し、難分解性有機硫黄化合物も効率よく除去できる脱硫剤を見出し、本発明に至った。即ち、(A)成分として過酸化尿素、(B)成分としてカルボン酸及び(C)成分として無機酸及び/又は有機スルホン酸を含有することを特徴とする有機硫黄化合物含有液状油の脱硫剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は、液状油に含まれる有機硫黄化合物、特に難分解性有機硫黄化合物を効率よく除去することのできる脱硫剤、及びその脱硫剤を用いた脱硫方法を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
まず(A)成分について説明する。(A)成分の過酸化尿素は、尿素と過酸化水素を原料として製造するものであり、その製造方法としては、例えば、尿素1モルに対して過酸化水素を1〜3モル、好ましくは1.1〜2モル添加し、30〜80℃で1〜10時間混合させた後、冷却して過酸化尿素の結晶を析出させて分離・乾燥させればよい。過酸化水素が1モルより少ないと反応速度が遅くなり、更に未反応の尿素が大量に残存してしまう場合があり、過酸化水素が3モルより多いと未反応の過酸化水素が大量に残存してしまう場合がある。また、原料として使用する過酸化水素は通常水溶液の状態で流通しているが、過酸化水素の濃度の低いものを使用すると反応系内に水が大量に入ってしまい、過酸化尿素が析出しにくくなるので、50質量%以上の高濃度の過酸化水素水を使用するのが好ましい。
【0011】
次に、(B)成分のカルボン酸とは、カルボニル基を持つ化合物であれば特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、イソペンタン酸(イソ吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、ノナン酸(ペラルゴン酸)、イソノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、イソデカン酸、ウンデカン酸、イソウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、イソドデカン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソステアリン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、トルイル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸;モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のフルオロ酢酸が挙げられる。これらのカルボン酸の中でも、処理後の精製が容易なことや、添加量が少量ですむことから、分子量の小さなカルボン酸である、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、フルオロ酢酸が好ましく、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸がより好ましい。
【0012】
(C)成分の無機酸及び有機スルホン酸について説明する。まず、無機酸とは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、青酸、臭酸、よう素酸、亜硝酸、炭酸、硼酸等が挙げられる。これらの中でも取り扱いが容易で安価なことから、硫酸、硝酸、リン酸を使用することが好ましい。また、有機スルホン酸としては、例えば、ナフタレン−α−スルホン酸、ナフタレン−β−スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、イセチオン酸等が挙げられる。これらの中でも、添加量が少なく、反応終了時の精製が容易である比較的分子量の小さなメタンスルホン酸、イセチオン酸を使用することが好ましい。上記の無機酸及び有機スルホン酸は、それぞれ単独で使用しても併用してもよいが、取り扱いが容易で効果が高いので、無機酸を使用することが好ましい。
【0013】
上記の(A)〜(C)成分は任意の割合で配合して使用すればよいが、脱硫の効果をより高めるため、(A)成分100質量部に対して、(B)成分10〜1500質量部が好ましく、50〜500質量部がより好ましい。また(C)成分は、(A)成分100質量部に対して、1〜300質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましい。
【0014】
本発明に用いられる液状油に特に制約はなく、硫黄化合物を含有する一般的な燃料油や潤滑油等に利用することができる。こうした燃料油や潤滑油としては、例えば、ガソリン、軽油、重油、灯油、ジェット燃料、液化天然ガス、アルコール、LPG、ナフサ、アスファルト油、オイルサンド油、石炭液化油、シェルオイル、廃プラスチック油、バイオフューエル、GTL、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油類を用いることができる。これらの中でも、燃焼時の硫黄酸化物が問題となる燃料油が好ましく、ガソリン、軽油、灯油がより好ましい。
【0015】
これらの液状油には、主に原料由来の有機硫黄化合物が含まれるが、こうした有機硫黄化合物としては、例えば、チオール類、チオエーテル類、チオフェノール類、チオアニソール類、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類等が挙げられる。こうした有機硫黄化合物の中でも、骨格中に硫黄原子を含有する複素環化合物、特に硫黄原子周辺にアルキル基などの置換基を持つジベンゾチオフェン類は、通常の水素化脱硫方法では立体障害の影響により分解することが困難な化合物であるが、本発明ではこのような難分解性有機硫黄化合物でも容易に酸化させて除去することができる。
【0016】
本発明の脱硫方法は、本発明の脱硫剤と液状油とを接触させるものであるが、接触方法としては、例えば、吸着塔に本発明の脱硫剤を充填して液状油を流通させる方法、本発明の脱硫剤を内部に固定したタンクなどの容器に液状油を入れて静置又は撹拌する方法、タンクなどの容器に液状油と本発明の脱硫剤を入れて反応後に脱硫剤を除去する方法等が挙げられる。これら脱硫時の反応温度は、−40〜100℃が好ましく、−20℃〜80℃がより好ましい。反応温度が−40℃より低いと燃料油の流動性が低下し、反応がスムーズに進まない場合があり、100℃より高いと過酸化尿素の分解反応が優先的に進行する場合があるため好ましくない。また、反応時の圧力は常圧〜1MPaの範囲であるのが好ましい。また本発明の脱硫剤と液状油とを接触させる時間は、1〜20時間が好ましく、3〜15時間がより好ましい。1時間より短いと有機硫黄化合物の酸化反応が完全に終了しない場合があり、20時間を超える接触は反応率がほとんど変わらないため経済的な損失が大きくなる場合があるため好ましくない。
【0017】
有機硫黄化合物の酸化反応が進むと、本発明の脱硫剤の(A)成分である過酸化尿素に含有している過酸化水素が減少していく。過酸化水素が完全になくなってしまうと、(A)成分の酸化剤としての性能がなくなってしまうため、精製できる液状油の量には限界がある。そのため、液状油中の有機硫黄化合物の量にもよるが、通常、本発明の脱硫剤1質量部に対して、液状油は2000質量部以下が好ましく、1000質量部以下がより好ましい。
【0018】
酸化反応により生成した有機硫黄酸化物や(B)成分及び(C)成分を処理するには、抽出、吸着、蒸留等の各種分離操作を用いて除去すればよい。吸着操作の吸着剤には、例えば、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラシーブ、活性白土、イオン交換樹脂、吸着樹脂、粘度鉱物、活性炭等、分子極性吸着や分子篩い作用のある剤を挙げることができる。また、上記処理操作に加えて蒸留精製することにより、該有機硫黄酸化物は完全に除去することができる。なお、(A)成分については、固体として残留するので、ろ過や蒸留等によって簡単に除去することができる。
【実施例】
【0019】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において%及びppmは特に記載が無い限り質量基準である。なお、実施例及び比較例中の有効過酸化水素とは過酸化尿素に占める過酸化水素の割合である。
<分析方法>
モデル硫黄化合物として、難分解性の4,6−ジメチルジベンゾチオフェンを使用し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの分解率を確認した。また液中の硫黄濃度は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置にて硫黄分を確認した。結果を表1に記した。なお、両分析機器の詳細は以下の通りである。
(HPLC分析方法)
カラム :ODSカラム(LUNA 5C18 RS,φ4.6mm×250mm)
溶離液 :アセトニトリル/水=75/25
流速 :1.0mL/min
検出器 :UV、325nm
カラムオーブン温度 :40℃
(ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析の分析方法)
分析使用機器:島津製作所製 ICPS−8100
分析方法:内部標準補正法(希釈溶媒キシレン)
【0020】
<実施例1>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに過酸化尿素(有効過酸化水素:36.1%)0.185g、トリフルオロ酢酸0.35g及び硫酸(89質量%)0.08gを加え40℃で4時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。その後、得られたモデル軽油を蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0021】
<実施例2>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに過酸化尿素(有効過酸化水素:36.1%)0.185g、ギ酸0.6g及び硫酸(89質量%)0.08gを加え40℃で7時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。その後、得られたモデル軽油を蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0022】
<実施例3>
市販の軽油(全硫黄成分:350ppm)500mlに過酸化尿素(有効過酸化水素:36.1%)1.34g、ギ酸0.6g及び硫酸(89質量%)0.08gを加え40℃で10時間撹拌した。その後、得られた軽油中にシリカゲル10gを加え27℃で1時間攪拌した後、シリカゲルを濾過除去して蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0023】
<実施例4>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに過酸化尿素(有効過酸化水素:36.1%)0.185g、トリフルオロ酢酸0.35g及びイセチオン酸0.01gを加え40℃で4時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。その後、得られたモデル軽油を蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0024】
<比較例1>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに大過剰の過酸化尿素(有効過酸化水素:36.1%)1.11gを加え、40℃で10時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。
【0025】
<比較例2>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに過酸化尿素(有効過酸化水素:36.1%)0.185g、ギ酸0.6gを加え40℃で7時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。その後、得られたモデル軽油を蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0026】
<比較例3>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに35.6%の過酸化水素水0.19g、トリフルオロ酢酸0.35gを加え40℃で4時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。その後、得られたモデル軽油を蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0027】
<比較例4>
モデル軽油(4,6−ジメチルジベンゾチオフェン含有オクタン:全硫黄成分50ppm)500mlに過硫酸カリウム(硫黄原子に対して1.11当量)0.4g、トリフルオロ酢酸0.35g及び硫酸(89質量%)0.08gを加え40℃で4時間撹拌した後、HPLC分析によって残留する4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの濃度を調べた。その後、得られたモデル軽油を蒸留精製し、液中の全硫黄濃度をICPを使用して調べた。
【0028】
【表1】

【0029】
上記結果から、本発明の脱硫剤及び脱硫方法を用いると、液状油に含まれる有機硫黄化合物、特に難分解性有機硫黄化合物を効率よく除去することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分として過酸化尿素、(B)成分としてカルボン酸及び(C)成分として無機酸及び/又は有機スルホン酸を含有することを特徴とする有機硫黄化合物含有液状油用脱硫剤。
【請求項2】
前記(B)成分が、ギ酸、酢酸、及びトリフルオロ酢酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の脱硫剤。
【請求項3】
前記(C)成分が、メタンスルホン酸、イセチオン酸、リン酸、硝酸、及び硫酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱硫剤。
【請求項4】
前記(A)成分100質量部に対して、前記(B)成分を10〜1500質量部、前記(C)成分を1〜300質量部含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の脱硫剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の脱硫剤で有機硫黄化合物含有液状油を処理することを特徴とする脱硫方法。
【請求項6】
前記有機硫黄化合物含有液状油が、ガソリン、軽油、重油、灯油、ジェット燃料、液化天然ガス、アルコール、LPG、ナフサ、アスファルト油、オイルサンド油、石炭液化油、シェルオイル、廃プラスチック油、バイオフューエル、GTL、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の脱硫方法。