説明

有機脱共役剤

本発明は、バニリン、ペンタエリトリトール及び一般式(1):(R)3+−[CH2]n−CO2-(ここで、基Rは同一であっても異なっていてもよく、1〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐鎖状アルキル基から選択され、nは1〜5の範囲の数である)のベタインから選択される有効量の脱共役剤を水性系に加え又は水性系と接触させることを含む、水性系中の細菌バイオマスの増大を制御するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機誘導体及び脱共役剤としてのその使用に関する。本発明は、水性系中、特に廃水浄化施設中の細菌バイオマスの調節の枠内で使用するためのこれらの脱共役剤、並びにこれらの剤の使用及びこれらの剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子の脱共役作用は、有機分子の生物学的分解による細菌細胞の浄化活性を保ちながら、廃水のバイオマス産出を減らすように細菌細胞エネルギーに対して作用することから成る。細胞呼吸に伴われる生化学及びメカニズムの詳細は、例えば「Biochemistry」第3版、Lubert Stryer著、W. H. Freemen and Company編集、米国ニューヨーク州、1998年;及び「General Microbiology」第3版、Roger Y. Stanier, Michael Doudoroff及びEdward A. Adelberg著、Macmillan編集、1971年に論じられている。
【0003】
細菌の増殖に対する分子の脱共役作用は、最終的に、細菌エネルギーの不均衡によって誘発される酸素の過剰消費となって現れてくる。
【0004】
この分子の脱共役作用は、活性汚泥(sludge)生成源を有意に減らすことが可能である場合に、廃水浄化施設(以下、STEPと示す)における用途について興味深い。
【0005】
廃水処理におけるバイオマス産出及びその結果としての活性汚泥生成は、廃水中の栄養分の消費から生じる。呼吸プロセスにより、栄養分が酸化され、これが細胞分裂の枠内で微生物に利用され得るエネルギーを放出する。ここで、栄養分の消費は、酸化的リン酸化現象によって細菌膜においてプロトンの流れを誘発する;この流れはプロトンの勾配を確立し、これがそれ自体でプロトンポンプを動作させ、ATP(アデノシントリホスフェート)合成酵素複合体においてADP+PからのATPの合成を可能にする。ATPは、細胞プロセス(細胞分裂を含む)の際に細胞にエネルギーを提供する。
【0006】
もしもこのエネルギー放出が回避できたら、エネルギー発生を抑制することによりバイオマス産出の減少につながるであろう。脱共役は、ATPの形でのエネルギー供給物の形成の防止に相当する。脱共役剤は、CO2に酸化される炭素の割合を増やしつつ、炭素燃焼のエネルギー収率を低下させる。従って、脱共役は、より少ないバイオマス産出及びより多い酸素消費となって現れてくる。
【0007】
廃水処理の際に産出する細菌バイオマスは取り除くのに経費がかかり、従ってバイオマスの減少は除去コストの減少につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2004/113236号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Biochemistry」第3版、Lubert Stryer著、W. H. Freemen and Company編集、米国ニューヨーク州、1998年
【非特許文献2】「General Microbiology」第3版、Roger Y. Stanier, Michael Doudoroff及びEdward A. Adelberg著、Macmillan編集、1971年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、脱共役分子であって、その有効性が、水源、即ち都市浄水施設の曝気槽(エアレーションタンク)における生物学的汚泥の生成が少なくとも30%減少することによって量られる前記脱共役分子を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、脱共役分子であって、その有効性が、(生物学的汚泥生成の減少についての有効性が国際公開WO2004/113236号に示された)参照用分子THPS(硫酸テトラキスヒドロキシメチルホスホニウム)のものと実質的に同等又はそれ以上である前記脱共役分子を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、THPSに代わる脱共役分子であって、非生物的分解及び生物的分解性はTHPSほど迅速ではないものの、環境上の問題を提起してしまうほど非分解性ではない前記脱共役分子を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、脱共役分子であって、毒性及び環境毒性プロファイルがSTEPにおける用途に適した満足できるものである前記脱共役分子を提供することにある。実際、これらの分子は、細菌バイオマスに対する反応性が満足できるものとなるような生物的分解性及び非生物的分解性を有しつつ、環境に対する影響が少なくなければならず、最終的に生物分解性でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的及びその他の目的は、本発明によって達成される。本発明は実際、水性媒体中における細菌バイオマスの増大を制御することを可能にする方法であって、
バニリン、ペンタエリトリトール及び一般式(1):
(R)3+−[CH2]n−CO2- (1)
(ここで、基Rは同一であっても異なっていてもよく、1〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐鎖状アルキル基から選択され、nは1〜5の範囲の数である)
のベタインから選択される有効量の脱共役剤を水性系に加え又は前記水性系と接触させることを含む、前記方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましくは、Rはメチル基であり、nは1であり、式(1)の物質は文献中でトリメチルグリシン、N−トリメチルグリシン、グリシンベタイン又は式(2):
(CH3)3+−CH2−CO2- (2)
のグリシンと示されている。
【0016】
水性系に加えられる脱共役剤の有効量は、5000mg/リットルまで、例えば3000mg/リットルまで、例えば1000mg/リットルまでであることができる。好ましくは、水性系に加えられる脱共役剤の有効量は、0.005mg/リットル〜500mg/リットル、例えば0.01mg/リットル〜300mg/リットル、例えば0.05mg/リットル〜100mg/リットルである。より一層好ましくは、脱共役剤の有効量は、0.1〜10mg/リットル、例えば0.5mg/リットル〜7.5mg/リットル、例えば1〜5mg/リットルである。
【0017】
脱共役剤は、廃水の処理において従来から用いられている以下の1種以上の化学物質と共に配合することができる:
・界面活性剤;
・消泡剤;
・スケール防止剤;
・腐蝕防止剤;
・殺生物剤、
・凝集剤;
・固体/水分離促進剤;及び
・分散剤。
【0018】
好ましくは、前記水性系は、産業廃水又は都市廃水を処理するために用いられる廃水処理工場であろう。この施設は、工業プロセス(例えば紙生産、食品産業、化学産業)並びに/又は家庭用住居及び商業用ビル及び同様の施設からの廃水を、有機汚染物質を消費するため及び水を再利用したり環境中に捨てたりするのに適したものにするために無酸素、好気性プロセス(例えば脱窒素)において微生物を用いることによって、回収するものである。
【0019】
従って本発明は、水性系中の細菌バイオマスの増大を制御するための方法であって、前記の有効量の脱共役剤を細菌バイオマスに直接接触させることを含む前記方法を提供する。この方法を実施するためには、限られた時間内で最適な脱共役剤の有効性を得るために最大容量の活性汚泥と脱共役剤とを接触させることが推奨される。
【0020】
かくして、実験室での生物学的パイロット試験については、脱共役剤と細菌バイオマスとの直接接触は、「瞬間薬量」又は「瞬間混合」(フラッシュ混合)という表現で示される。
【0021】
さらに、脱共役剤の有効量は、水性系中の(乾燥材料で表した)汚泥中に存在する固体1g当たり0.1〜1000mgであることができ、好ましくは0.5〜750mg/g、例えば1〜500mg/g、例えば5〜100mg/gである。
【0022】
細菌バイオマスと脱共役剤との直接的な素早い接触(言い換えれば最適混合)が、細菌バイオマスの制御による脱共役剤の有効性の改善をもたらすことがわかった。汚泥を含有するバイオリアクターに脱共役剤を単純に直接加えた場合には、脱共役剤はバイオリアクター中に存在する他の物質と相互作用してこの脱共役剤の作用が実質的に低減してしまうため、脱共役剤の有効性が実質的に低下することがわかった。
【実施例】
【0023】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、その範囲を限定するものではない。
【0024】
例1:
【0025】
Oxitopスクリーニング試験における有機誘導体による汚泥減少の実証
【0026】
スクリーニングにおける化学脱共役剤による汚泥生成の減少を評価するために、Oxitop(登録商標)シリンダーの呼吸計測技術を用いる。活性汚泥において代表的な既知の細菌菌株(それらは曝気槽中で単離されるので)を、所定濃度の脱共役剤の存在下で培地中に7日間接種する。被処理接種物の呼吸を対象物(未処理接種物)と比較することにより、細菌に対する脱共役効果の生理学的徴候である酸素の過剰消費を量ることができる。
【0027】
用いた方法及び装置は、参考文献として引用する国際公開WO2004/113236号の例3に記載されたものである。
【0028】
細菌菌株Shinella granuliに対するスクリーニング試験において得られた結果を下記の表1にまとめる。これらは、対照例(脱共役剤を含まないもの)と比較した脱共役%として表される。THPS(硫酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム)はOxitop(登録商標)呼吸計測試験において3ppmの定格濃度について16±8%の脱共役効果をもたらした。脱共役ファクターに関するTHPSの95%信頼区間は10〜22である(26回のOxitop(登録商標)試験において得られた結果から計算した値)。
【0029】
【表1】

【0030】
その後の生物学的パイロットにおける評価段階に通す前に、最も有望な分子を選別するためにこの段階においてこれらの分子の毒性及び環境毒性特性を評価した。
【0031】
表1から、次のことがわかる:
・バニリンは0.5ppmで早くも有効性を示し、20ppmまで有効である。
・ペンタエリトリトールはスクリーニング試験において2〜20ppmの濃度範囲で20%付近の有意の脱共役ファクターで有効性を示す。
・グリシンベタインは、2〜8ppmの濃度範囲で最適有効性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性系中における細菌バイオマスの増大を制御する方法であって、
バニリン、ペンタエリトリトール及び一般式(1):
(R)3+−[CH2]n−CO2- (1)
(ここで、基Rは同一であっても異なっていてもよく、1〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐鎖状アルキル基から選択され、nは1〜5の範囲の数である)
のベタインから選択される有効量の脱共役剤を水性系に加え又は水性系と接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
式(1)においてRがメチル基であり且つnが1であり、式(1)の物質がトリメチルグリシン、N−トリメチルグリシン、グリシンベタイン又はグリシンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱共役剤の有効量が0.005〜5000mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱共役剤の有効量が0.01〜1000mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脱共役剤の有効量が0.01〜300mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記脱共役剤の有効量が0.05mg/リットル〜100mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記脱共役剤の有効量が0.1mg/リットル〜10mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記脱共役剤の有効量が0.5mg/リットル〜7.5mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脱共役剤の有効量が1mg/リットル〜5mg/リットルの範囲であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脱共役剤の有効量が水性系中の汚泥中に存在する(乾燥材料で表した)固体1g当たり0.1mg〜1000mgの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記脱共役剤の有効量が水性系中の汚泥中に存在する固体1g当たり1mg〜500mgの範囲であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記脱共役剤の有効量が水性系中の汚泥中に存在する固体1g当たり5mg〜100mgの範囲であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水性系が産業廃水又は都市廃水を処理するための廃水処理工場であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2013−505277(P2013−505277A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530187(P2012−530187)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060792
【国際公開番号】WO2011/035949
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】