説明

有機質原料発酵処理装置及び有機質原料発酵処理物の製造方法

【課題】有機質原料の発酵過程において有機質原料の通気を十分に行う。
【解決手段】有機質原料発酵処理装置(堆肥製造装置10)は、有機質原料を堆積する堆積部11と、堆積部11に設けられ、該堆積部11に堆積された有機質原料に下方から給気口15を介して空気を供給する給気手段(送風用パイプ14、給気口15)と、堆積部11に堆積された有機質原料の内部に吸引口21を含む少なくとも一部が埋め込まれる埋込部(給気ダクト20)を有し、吸引口21から有機質原料中の空気を吸引する吸引手段(吸気ダクト20、吸引用パイプ22)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機質原料発酵処理装置及び有機質原料発酵処理物の製造方法に関し、特に、送風機等によって空気を有機質原料中に送り込んで好気発酵を促すことにより有機質原料を分解処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家畜排泄物等の畜産廃棄物や、菌床栽培後の菌床、オガクズ等の木質系廃棄物などの農業廃棄物を原料(有機質原料)として、堆肥やバイオマス燃料などを製造することが一般に行われている。堆肥等の製造にあたっては、発酵槽内に投入された有機質原料内に通気して好気発酵を促す処理が行われている。このような処理として具体的には、例えば機械による撹拌やショベルカー等による切り返しを行ったり、あるいは、発酵槽内において、有機質原料を堆積する堆積面に給気口を設けておき、その給気口から送風機等によって有機質原料内に空気を供給したりすることが行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−217270号公報
【特許文献2】特開2005−67918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、撹拌や切り返しによる通気の場合には、撹拌等を行う毎に発酵熱の放散によって発酵温度が低下し、発酵の完了までに長時間を要する。
【0005】
一方、堆積された有機質原料の下方から給気口を介して空気を供給する形態では、微生物を取り巻く環境を急激に変えることなく発酵を行うことが可能である。しかしながら、有機質原料の下方から空気を供給するだけでは、堆積面に堆積された有機質原料の荷重によって給気口が圧迫されることにより、有機質原料内に空気を十分に拡散させることができない。そのため、堆積された有機質原料の内部に空気を十分に送ることができず、発酵の進みにムラができたり発酵完了までに長時間を要したりするのが現状である。また、この方法では、通気が不十分であるため、発酵完了までに有機質原料の撹拌や切り返しを数回(例えば5〜6回)行う必要があり、作業の手間が増えてしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、有機質原料の発酵過程において有機質原料の通気を十分に行うことができる有機質原料発酵処理装置及びこれを用いた有機質原料発酵処理物の製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0008】
本発明の有機質原料発酵処理装置において、第1の構成は、有機質原料を堆積する堆積部と、前記堆積部に設けられ、該堆積部に堆積された有機質原料に下方から給気口を介して空気を供給する給気手段と、前記堆積部に堆積された有機質原料の内部に吸引口を含む少なくとも一部が埋め込まれる埋込部を有し、前記吸引口から前記有機質原料中の空気を吸引する吸引手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成では、有機質原料の下方から給気口を介して供給される空気を、有機質原料の内部に埋め込まれた埋込部を介して吸引する。この場合、堆積された有機質原料の内部に、給気口から埋込部への空気の通路を積極的に形成させることができ、その形成された通路を介して有機質原料の通気を十分に行うことができる。
【0010】
特に、堆積部に有機質原料を堆積した状態では、大気との接触によって有機質原料の表面が乾燥しやすい。また、空気は、乾燥が進んだ部分で抜けやすい。そのため、例えば埋込部が有する吸引口を有機質原料の上に載置するだけでは、乾燥が進んだ表層の空気を吸い込むだけとなり、給気口からの空気は、結局のところ、空気の流れやすい部分、例えば堆積面や側壁面との接触部分を通って抜けていき、有機質原料の内部を通らない。そうすると、有機質原料の内部に空気を十分に供給できず、発酵にムラが生じてしまう。その点、上記構成では、堆積された有機質原料の内部から吸引口を介して空気を吸引するため、堆積された有機質原料の内部に、給気口から埋込部への空気の通路を積極的に形成させることができる。また、発酵の過程では有機質原料に含まれる水分が発酵熱によって蒸発するが、その水蒸気についても、給気口と埋込部とを繋ぐ空気の通路を介して、有機質原料の内部から回収することができる。よって、有機質原料中の空隙に水分が溜まるのを抑制することができ、このことが通気性を更に改善することに繋がる。以上より、上記構成によれば、発酵過程における通気性を向上させることができ、好気発酵が促進される結果、発酵完了までの所要時間を短縮することができる。また、通気性が良好であることから、発酵完了までの期間において、有機質原料の撹拌や切り返しを行わなくて済む又はその実施回数を減らすことができる。
【0011】
第2の構成では、前記埋込部は、筒状をなす筒状体により構成されており、該筒状体の一端側の開口部が前記吸引口となっていることを特徴とする。
【0012】
上記構成では、埋込部が筒状体により構成されているため、埋込部が有機質原料に埋め込まれた状態では、埋込部(筒状体)の内側と外側とで有機質原料が区分けされる。この場合、有機質原料に対する空気の供給及び吸引によって埋込部の内側の有機質原料が乾燥しても、埋込部の内側では、埋込部周りの有機質原料からの押し込みが埋込部によって遮断される。したがって、埋込部の内側に形成された空気の通路が塞がれるのを抑制することができ、発酵の進行中において、埋込部を介しての空気の流れを良好な状態で維持することができる。
【0013】
本発明の第3の構成は、堆積部に堆積された有機質原料の発酵により発酵処理物を製造する有機質原料発酵処理物の製造方法に関する。また、第3の構成では、空気を吸引可能な吸引口を有する埋込部について、少なくとも前記吸引口を、前記堆積部に堆積された有機質原料の内部に埋め込む埋込工程と、前記堆積部に堆積された有機質原料に対して、前記堆積部に設けられた給気手段により下方から空気を供給するとともに、その給気状態で、前記吸引口から前記有機質原料中の空気を吸引する通気工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記製造方法は、有機質原料の発酵を行う際において、有機質原料の下方から給気口を介して供給される空気を、有機質原料の内部から埋込部を介して吸引する工程を有する。この工程では、給気口から埋込部への空気の通路を積極的に形成させることができ、その形成された通路を介して有機質原料の通気を十分に行うことができる。また、発酵熱により蒸発される有機質原料に含まれる水分についても、給気口と埋込部とを繋ぐ空気の通路を介して埋込部から回収することができる。よって、有機質原料中の空隙に水分が溜まるのを抑制することができ、通気性を更に改善することができる。以上より、上記構成によれば、発酵の進みにムラができるのを抑制することができるし、好気発酵が促進されることによって発酵完了までの所要時間を短縮することができる。また、通気性が良好であることから、発酵完了までの期間において、有機質原料の撹拌や切り返しを行わなくて済むか、又はその実施回数を減らすことができる。また更に、有機質原料内に含まれる水分を埋込部から排出することにより、該排出を行わない場合に比べて、水分含有率の少ない処理物を製造可能である。このような水分含有率の少ない処理物は、運搬や保存がしやすく、また、燃焼を目的として使用する場合には燃焼効率が高くなる点で有意である。
【0015】
第4の構成では、前記通気工程は、前記吸引口を介して前記有機質原料中から吸引する空気流量を、前記給気手段により前記有機質原料に供給する空気流量よりも大きくすることを特徴とする。
【0016】
有機質原料に対する空気の供給側の空気流量(風量)の方が吸引側の空気流量(風量)よりも多いと、有機質原料の下方から供給した空気を埋込部を介して十分に吸引しきれず、空気の抜けやすい部分での空気の通路の形成が促進されてしまう。その点、上記構成では、有機質原料に対する空気の吸引側の空気流量を供給側よりも多くするため、有機質原料の下方から供給された空気を、できるだけ埋込部を介して回収することができる。これにより、有機質原料の下方から埋込部への空気の通路を有機質原料の内部に形成させるのを促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】堆肥製造装置の全体概略構成図。
【図2】発酵槽の床面の上方からの概略構成図。
【図3】堆肥原料の水分含有率の時間的推移を示す図。
【図4】堆肥原料内温度の時間的推移を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、家畜排泄物等の堆肥原料を発酵することにより堆肥を製造する堆肥製造装置に具体化している。図1は、堆肥製造装置10の構成を示す全体概略構成図である。
【0019】
図1に示すように、堆肥製造装置10は堆積部11を備えている。堆積部11は、例えば四角状の堆積面12を備えており、その堆積面12に堆肥原料Mを堆積可能になっている。堆肥原料Mとしては、家畜排泄物等の畜産廃棄物や、菌床栽培後の菌床、オガクズ等の木質系廃棄物、米ぬかなどが用いられる。堆積部11において、その周囲の三方(両側方及び後方)には、堆積面12から起立する壁部13が設けられ、堆積部11の前面及び上面が開放された状態になっている。
【0020】
なお、本実施形態では、堆積部11の周囲の三方に壁部13が設けられている構成としたが、壁部13は必ずしも必要でなく、三方に設けた壁部13の少なくともいずれかが設けられていない構成であってもよい。また、堆積部11の周囲の全体を壁部13が取り囲んでいてもよいし、更に天井部が設けられていてもよい。
【0021】
堆積部11の底部11aには送風用パイプ14が配置されている。本実施形態では、底部11aにおいて、底部11aの上面を構成する堆積面12に溝部11bが設けられており、その溝部11bの内部に送風用パイプ14が配置されている。送風用パイプ14は、溝部11bの幅よりも若干小さい径を有しており、パイプ側壁部分において、送風用パイプ14の中空部に連通し空気を通過させる給気口15が所定間隔で複数形成されている。
【0022】
ここで、送風用パイプ14について図2を用いて説明する。図2は、堆積部11の堆積面12を上方から見た概略構成図である。図2に示すように、堆積部11には送風用パイプ14が複数設けられており、それら送風用パイプ14が所定間隔ごとに平行に配置されている。送風用パイプ14の各々の側壁部には、複数の給気口15が形成されている。複数の送風用パイプ14は、各々の一端が主管パイプ16に接続されており、主管パイプ16の一端部において、加圧した空気を送出可能な送風機としての送風ブロア18に接続されている。そして、送風ブロア18が駆動されることにより、主管パイプ16及び送風用パイプ14を介して給気口15から空気を吹き出し可能(供給可能)になっている。
【0023】
なお、給気口15の大きさは適宜設定すればよいが、給気口15が目詰まりしない程度であるとよく、例えば数ミリメートルとするのがよい。また、給気口15の数についても、例えば堆積面12の大きさや堆肥原料Mの堆積量などによって適宜設定すればよい。本実施形態では、送風用パイプ14及び給気口15により給気手段が構成されている。
【0024】
堆積面12の上方(給気口15の上方)には、堆積面12に堆積された堆肥原料Mの表面側から内側に向かって埋め込まれる埋込部としての吸気ダクト20が配置されている。吸気ダクト20は、例えば樹脂製の筒状をなす筒状体であり、堆積面12に対向する側に配置された先端部19の開口部が吸引口21になっている。吸気ダクト20には、吸引配管部としての吸引用パイプ22が接続されており、吸引用パイプ22によって吸気ダクト20が吊り下げ支持されている。具体的には、吸引用パイプ22は、柔軟性又は伸縮性を有するフレキシブルチューブ等になっており、その一部が壁部13に固定され、吸気ダクト20が接続された部分が堆肥原料Mの上から垂れ下がった状態になっている。これにより、吸気ダクト20の高さ位置を、吸引用パイプ22に繋がった状態で上下方向に調整可能になっている。
【0025】
吸引口21は、その内径D1が、吸引用パイプ22の内径D2よりも大きくなっており、本実施形態では、吸引用パイプ22の内径D2の5倍以上(例えば50〜60センチメートル)に設定されている。なお、本実施形態では、吸気ダクト20、吸引口21及び吸引用パイプ22により吸引手段が構成されている。
【0026】
吸引用パイプ22において、吸気ダクト20が接続された側とは反対側の端部には、空気を吸引する吸引ブロア23が接続されている。吸引ブロア23は、モータによってプロペラ等を回転させて空気の流れを発生させることにより、堆肥原料Mの内部に、吸気ダクト20の先端部19(吸引口21)が埋め込まれた状態において、堆肥原料M中の空気を吸引口21を介して吸い込み可能になっている。また、吸引用パイプ22において、吸気ダクト20と吸引ブロア23との間には脱臭装置24及び水回収機25が設けられている。これにより、吸引口21を介して回収された空気から臭気成分を除去するとともに、回収空気の中に含まれる水蒸気を凝集した水分として回収可能になっている。
【0027】
次に、堆肥製造装置10を用いて堆肥原料Mを発酵処理する方法(堆肥を製造する方法)について説明する。
【0028】
作業に際しては、まず、予め調製した堆肥原料Mを運搬装置(例えばショベルカー)を用いて堆積部11に運搬し、運搬した堆肥原料Mを堆積部11の堆積面12に載置する(堆積工程)。次に、堆積させた堆肥原料Mの内部に吸気ダクト20を埋め込む(埋込工程)。吸気ダクト20の埋め込みは、少なくとも先端部19が堆肥原料Mの内部に埋め込まれればよく、吸気ダクト20の一部が埋め込まれてもよいし、全部が埋め込まれてもよい。埋め込み作業は、吸気ダクト20を上下方向に移動させ、堆積面12に堆積された堆肥原料Mに吸気ダクト20を差し込むことにより行う。あるいは、吸気ダクト20を所定の高さ位置に予め位置決めしておき、その位置決めされた吸気ダクト20の少なくとも先端部19が堆肥原料Mの内部に埋め込まれるように、吸気ダクト20の周囲に堆肥原料Mを積み上げることにより行ってもよい。なお、図1では、吸気ダクト20の側壁の内側に堆肥原料Mが入った状態になっているが、吸気ダクト20の側壁の内側に堆肥原料Mが存在しない状態にしてもよい。要は、吸気ダクト20の少なくとも吸引口21が堆肥原料Mの中に埋め込まれていればよい。
【0029】
ここで、吸気ダクト20の配置について、図1を用いて詳細に説明する。吸気ダクト20は、先端部19が、堆積部11に堆積された堆肥原料Mの表面m1よりも内部に埋め込まれた状態で配置されている。より詳細には、堆積部11に堆肥原料Mを堆積した状態では、大気との接触によって堆肥原料Mの表面m1が乾燥しやく、乾燥が進んだ表層の部分に硬い層(硬化層S1)が次第に形成される。本実施形態では、この硬化層S1の厚みt1よりも内側、具体的には堆肥原料Mの表面m1からt2の深さに吸引口21が配置されるよう吸気ダクト20を埋め込む。例えば、堆肥原料Mを高さ200〜250センチメートルに堆積した場合、堆肥原料Mの表面m1から深さ方向(上下方向)に20〜30センチメートルの表層部分に硬化層S1が形成される。したがって、堆肥原料Mの表面から深さ方向に30〜40センチメートルの位置に先端部19(吸引口21)が配置されるように吸気ダクト20を位置決めする。
【0030】
次に、堆積部11に設けられた給気口15を介して堆肥原料Mに下方から空気を供給するとともに、その給気状態で、堆肥原料M中に埋め込まれた状態の吸引口21から堆肥原料M中の空気を吸引する(通気工程)。このとき、吸引ブロア23の風量を送風ブロア18の風量よりも大きくして行うとよい。堆肥原料Mの下方からの空気の供給と、堆肥原料M中からの空気の吸引とを並行して行う通気処理は、発酵の開始(堆肥原料Mの堆積部11への搬入)から発酵完了までの少なくとも一部の期間において実施されればよい。したがって、発酵の開始から完了までの全期間において上記通気処理を継続的に又は断続的に行ってもよいし、あるいは、発酵の開始から完了までの一部の期間、具体的には、発酵を開始した後、発酵温度が所定温度(例えば70℃)に到達した後に上記処理を行ってもよい。
【0031】
図3に、堆肥製造装置10を用いて堆肥原料Mの発酵を行った場合の堆肥原料Mにおける水分含有率の時間的推移を示す。図3の横軸は、堆肥原料Mの発酵を開始してからの日数であり、縦軸は、堆肥原料M中における水分含有率(重量%)である。また、図中、実線は、堆肥原料Mに対する空気の供給及び吸引を行った場合を示し、破線は、堆肥原料Mに対して空気の供給のみを行った場合(吸引を行わなかった場合)を示している。なお、堆肥原料Mとしては生牛糞を用いた。風量については、送風ブロア18の風量に対し吸引ブロア23の風量を2倍にして行った。
【0032】
図3に示すように、堆肥原料Mに対する空気の供給及び吸引を行った場合には、吸引を行わなかった場合に比べて、堆肥原料Mの水分含有率(堆肥原料Mの全体の重量に対する水分の重量)が速やかに低下した。また、吸引ありの場合には、吸引なしの場合よりも水分含有率が少なくなった。このことから、空気の吸引を併用することにより、堆肥原料Mに含まれる水分が抜けやすいことが分かる。これは、堆肥原料Mに対する空気の供給及び吸引を行うことにより、堆肥原料Mの通気性が良好になる、換言すれば、堆肥原料Mにおいて空気の通路が積極的に形成されていることによるものと考えられる。
【0033】
図4に、堆肥製造装置10を用いて堆肥原料Mの発酵を行った場合の堆肥原料M内温度の時間的推移を示す。図4の横軸は、堆肥原料Mの発酵を開始してからの日数であり、縦軸は、堆肥原料内の温度(℃)である。また、図中、丸印は、堆肥原料Mに対する空気の供給及び吸引を行った場合を示し、四角印は、堆肥原料Mに対して空気の供給のみを行った場合(吸引を行わなかった場合)を示している。実施条件は図3の場合と同じである。
【0034】
図4に示すように、吸引ありの場合と吸引なしの場合とでは温度の推移が略同じであり、発酵の開始からの時間経過に伴い温度が徐々に上昇していき、所定温度(65℃程度)に達した後、その温度で略一定に維持された。また、切り返しによる攪拌後においても、両者の温度推移は略同じであった。このことから、堆肥原料Mに対する空気の吸引を行っても堆肥原料内の温度を高い状態で維持できる、つまり発酵温度を低下させずに堆肥化できると言える。
【0035】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0036】
有機質原料発酵処理装置(堆肥製造装置10)の構成を、堆肥原料Mを堆積する堆積部11に、該堆積部11に堆積された堆肥原料Mに下方から空気を供給する給気手段(送風用パイプ14、給気口15)と、堆積部11に堆積された堆肥原料Mの内部に吸引口21を含む少なくとも一部が埋め込まれる埋込部としての吸気ダクト20を有し、吸引口21から堆肥原料M中の空気を吸引する吸引手段と、を備える構成とした。この構成によれば、堆肥原料Mの下方から給気口15を介して供給される空気を、堆肥原料Mの内部に埋め込まれた吸気ダクト20の吸引口21を介して吸引することができ、堆積された堆肥原料Mの内部に、給気口15から吸引口21への空気の通路を積極的に形成させることができる。したがって、その形成された通路を介して堆肥原料Mの通気を十分に行うことができる。また、通気性向上によって好気発酵が促進される結果、発酵完了までの所要時間を短縮することができるし、発酵完了までの期間において、堆肥原料Mの撹拌や切り返しを行わなくて済むか又はその実施回数を減らすことができる。
【0037】
発酵の過程において発酵熱によって蒸発した水分についても、給気口15と吸引口21とを繋ぐ空気の通路を介して堆肥原料Mの内部から回収することができ、堆肥原料M中の空隙に水分が溜まりにくくすることができる。これにより、通気性を良好にすることができる。また、堆肥原料Mの水分の蒸発を速やかに行うとともに水分含有率をより小さい値にすることができる。これにより、濃縮された完熟堆肥を製造することができるし、製造された堆肥の運搬性や保存性も良好となる。更には、通気性が良好であることから、発酵によって発生した炭酸ガスが堆肥原料M内に蓄積するのを抑制することができ、これにより、微生物の活動をより活発化させることができる。
【0038】
筒状体によって埋込部(吸気ダクト20)を構成し、その筒状体の一端側の開口部を吸引口21にしたため、埋込部が堆肥原料Mに埋め込まれた状態において、埋込部の内側と外側とで有機質原料が区分けされる。この場合、堆肥原料Mに対する空気の供給及び吸引によって埋込部の内側の堆肥原料Mが乾燥しても、埋込部の内側では、埋込部周りの堆肥原料Mからの押し込みを埋込部によって遮断することができる。したがって、埋込部の内側に形成された空気の通路が塞がれるのを抑制することができ、発酵の進行中において、埋込部を介しての空気の流れを良好な状態で維持することができる。
【0039】
堆積部11に堆肥原料Mを堆積した状態では、大気との接触によって堆肥原料Mの表面が乾燥しやく、また、乾燥が進んだ部分から空気が抜けやすい。そのため、埋込部の埋め込みが浅いと、表層に形成された空気の抜けやすい部分を介して空気を吸引することになり、堆積された堆肥原料Mの内部に空気の通路を十分に形成できないことがある。この点、本実施形態では、堆肥原料Mの表層に形成される硬化層S1よりも内側に吸引口21を埋め込んで堆肥原料Mの中の空気を吸引するようにしたため、埋込部を介しての空気の流れを堆肥原料Mの内部に十分に形成させることができる。
【0040】
吸引手段により堆肥原料M中から吸引する空気流量を、給気手段により堆肥原料Mに供給する空気流量よりも大きくして堆肥原料Mの発酵を行うようにしたため、堆肥原料Mの下方から供給される空気を、できるだけ埋込部を介して回収することができる。これにより、堆肥原料Mの下方から埋込部への空気の通路を堆肥原料Mの内部に形成させるのを促進することができる。
【0041】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態の内容に限定されず、例えば以下のように実施されてもよい。
【0042】
・埋込部としての吸気ダクト20の外表面に、有機質原料に対する埋込量(埋め込み深さ)を示す埋込表示部を設ける。堆積した有機質原料の表面には、内側よりも乾燥が進んだ層(硬化層S1)が形成されるが、吸気ダクト20の埋め込みが浅いと、硬化層S1での空気の吸い込みが積極的に行われることになり、有機質原料の内側の空気を吸い込みにくくなる。これを考慮すると、有機質原料の発酵処理の際には、埋込部を、有機質原料の表層に形成される硬化層S1よりも内部に埋め込むことが望ましい。この点、上記構成によれば、簡易な構成を用いつつも、有機質原料に対する埋込部の埋込量を作業者が容易に把握できる。これにより、有機質原料の通気を好適に行うことができる。埋込表示部としては、例えば、埋込部としての吸気ダクト20の外表面のマーキング、目盛り、突起等とすることができる。
【0043】
・上記実施形態では、堆積部11の堆積面12に設けた溝部11bの内部に送風用パイプ14を配置することにより、給気口15を介しての堆肥原料Mへの空気の供給を行ったが、送風用パイプ14の位置はこれに限定しない。例えば堆積面12の上に、給気口15が形成された送風用パイプ14を載置する。この場合にも、堆積面12に堆肥原料Mが堆積されることで、給気口15を介して堆肥原料Mの下方から空気を供給可能である。
【0044】
・上記実施形態では、堆肥原料Mを堆積面12上に堆積する前に、送風用パイプ14を堆積部11に予め設置しておくことにより、送風用パイプ14を堆肥原料Mの下部に配置したが、堆積面12の上に堆肥原料Mを堆積した後、その堆積された堆肥原料Mの側方から送風用パイプ14を例えば重機等を用いて差し込むことにより、送風用パイプ14を堆肥原料Mの下部に配置するようにしてもよい。
【0045】
・吸気ダクト20の数は、堆肥原料Mの種類や水分含有量、堆肥原料Mの堆積量などに応じて適宜設定すればよく、複数であってもよい。吸気ダクト20が複数設けられている場合、1つの吸引用パイプ22に対して1つの吸気ダクト20が接続され、その組み合わせが複数設けられていてもよい。あるいは、1つの吸引用パイプ22に対して複数の吸気ダクト20が、吸引用パイプ22から分岐する分岐パイプを介して各々接続されていてもよい。
【0046】
・壁部13や天井部に埋込部としての吸気ダクト20が支持されている構成とする。この場合、埋込部を、壁部13や天井部に対して変位可能とし、埋込部の高さ位置を調整可能にするとよい。例えば、発酵に伴い有機質原料の表面高さが低下する場合に、その表面高さの低下に合わせて埋込部の高さ位置を調整するとよい。
【0047】
・吸引用配管部としての送風用パイプ14に、埋込部としての吸気ダクト20を接続したが、吸引用配管部と埋込部とが一つの配管(チューブ)により構成されていてもよい。この場合、吸引用配管部及び埋込部を構成する配管としては、断面積一定でもよいし、埋込部の先端部に向かって拡径又は縮径されていてもよい。
【0048】
・埋込部としての筒状体の筒壁部において、有機質原料に埋め込まれる部分(埋込部の下部)に通気孔部が複数形成されている構成でもよい。
【0049】
・埋込部は筒状体に限らず、種々の形状とすることができる。例えば、断面多角形の構造体としてもよい。また、上記実施形態では、埋込部は、断面積一定の形状としたが、これに限定せず、例えば先端部に向かって拡径された形状でも縮径された形状でもよい。
【0050】
・有機質原料の発酵に際し、空気の供給の開始から終了(又は中断)までの期間と、空気の吸引の開始から終了(又は中断)までの期間とが一致していなくてもよい。すなわち、空気の供給を先に開始してその後に空気の吸引を開始してもよいし、空気の吸引を開始してその後に空気の供給を開始してもよい。また、空気の供給を先に終了してその後に空気の吸引を開始してもよいし、空気の吸引を開始してその後に空気の供給を開始してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、有機質原料から堆肥を製造する堆肥製造装置に本発明を具体化したが、有機質原料の発酵によりバイオマス燃料を得る場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…堆肥製造装置、11…堆積部、12…堆積面、14…送風用パイプ、15…給気口、18…送風ブロア、19…先端部、20…吸気ダクト(埋込部)、21…吸引口、22…吸引用パイプ、23…吸引ブロア、M…堆肥原料、S1…硬化層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質原料を堆積する堆積部と、
前記堆積部に設けられ、該堆積部に堆積された有機質原料に下方から給気口を介して空気を供給する給気手段と、
前記堆積部に堆積された有機質原料の内部に吸引口を含む少なくとも一部が埋め込まれる埋込部を有し、前記吸引口から前記有機質原料中の空気を吸引する吸引手段と、
を備えることを特徴とする有機質原料発酵処理装置。
【請求項2】
前記埋込部は、筒状をなす筒状体により構成されており、該筒状体の一端側の開口部が前記吸引口となっている請求項1に記載の有機質原料発酵処理装置。
【請求項3】
堆積部に堆積された有機質原料の発酵により発酵処理物を製造する有機質原料発酵処理物の製造方法であって、
空気を吸引可能な吸引口を有する埋込部について、少なくとも前記吸引口を、前記堆積部に堆積された有機質原料の内部に埋め込む埋込工程と、
前記堆積部に堆積された有機質原料に対して、前記堆積部に設けられた給気手段により下方から空気を供給するとともに、その給気状態で、前記吸引口から前記有機質原料中の空気を吸引する通気工程と、
を含むことを特徴とする有機質原料発酵処理物の製造方法。
【請求項4】
前記通気工程は、前記吸引口を介して前記有機質原料中から吸引する空気流量を、前記給気手段により前記有機質原料に供給する空気流量よりも大きくする請求項3に記載の有機質原料発酵処理物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91050(P2013−91050A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236001(P2011−236001)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(512164676)ソラネクスジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】