説明

有機質廃棄物の堆肥化方法

【課題】有機質廃棄物でなる堆肥原料の堆肥化の初期もアンモニアの発生抑制効果を有し、堆肥を作製するまでのアンモニア累積発生量を抑えることができる低コストの有機質廃棄物の堆肥化方法を提供する。
【解決手段】有機質廃棄物に放線菌を添加してなる堆肥原料に、セルロースとリグニンとが分離して含まれる製紙スラッジを、前記堆肥原料に対して15〜60重量%に相当する分量を配合した混合原料を作製する工程と、前記混合原料に通気を行って堆肥化を促進させる工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機質廃棄物の堆肥化方法に関し、さらに詳しくは、有機質廃棄物の分解によって発生するアンモニアの発生量を低減させる有機質廃棄物の堆肥化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の有機質廃棄物の堆肥化方法では、堆肥化過程で生ごみ等の有機質廃棄物の有機物分解によりアンモニアが発生する。アンモニアは、堆肥化過程において、発生する悪臭の中でも特に高濃度に発生する。そこで、脱臭機などを用いて強制的にアンモニアを除去する方策が講じられている。しかし、堆肥は付加価値が高いとは言えず、そのため初期投資や運転コストの安い経済的なアンモニア発生抑制方法が求められている。そこで、一つの方策として、堆肥中の微生物を用いて悪臭の発生そのものを抑制する方法がある。この種の技術としては、窒素を高濃度で含む汚泥を木材片とともに、微生物の存在下で所定の通気条件で発酵させる技術などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これまでの研究の結果、堆肥中の放線菌が、堆肥原料に配合したセルロースを資化・増殖して、その増殖過程でアンモニムイオンを吸収して堆肥から発生するアンモニアの総量を低減することが分かっている。特に、セルロース単体であるセルロースパウダー(CP)を添加剤として堆肥原料に配合することで、堆肥化過程で発生するアンモニアの総量を低減させることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように、セルロースパウダーを用いても、堆肥化初期は放線菌は増殖しないため、放線菌の働きによりアンモニアの発生を抑制することができないものであった。また、セルロースを含むバイオマスの代表であるおがくずを用いて、放線菌によるアンモニア発生抑制を図った場合、木粉中のセルロースは放線菌による分解が困難なリグニンに覆われているという問題点がある。したがって、このような木粉を用いた場合、放線菌がセルロースを資化して増殖できないため、放線菌によるアンモニア発生抑制効果が低いものであった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、有機質廃棄物でなる堆肥原料の堆肥化の初期もアンモニアの発生抑制効果を有し、堆肥を作製するまでのアンモニア累積発生量を抑えることができる低コストの有機質廃棄物の堆肥化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、有機質廃棄物に放線菌を添加してなる堆肥原料に、製紙スラッジを、前記堆肥原料に対して15〜60重量%(好ましくは、30〜60重量%)に相当する分量を配合した混合原料を作製する工程と、この混合原料に通気を行って堆肥化を促進させる工程と、を備えることを要旨とする。
【0008】
ここで、放線菌は、有機質廃棄物が堆肥化を開始する前に配合しておくことが好ましい。また、製紙スラッジは、セルロースの含有率が50%以上であることが放線菌の増殖を促進するために好ましい。この含有率が高いほどアンモニア累積発生量を抑制することに加え、有機物分の割合が高い良好な堆肥を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機質廃棄物でなる堆肥原料の堆肥化の初期もアンモニアの発生抑制効果を有し、堆肥を作製するまでのアンモニア累積発生量を抑えることができる低コストの有機質廃棄物の堆肥化方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機質廃棄物の堆肥化方法に用いる堆肥化装置の概略説明図である。
【図2】実験例のアンモニア低減率を示す図である。
【図3】実験例における各試料の配合例を示す図である。
【図4】実験例における各試料の炭酸ガス発生量と堆肥化時間との関係を示すグラフである。
【図5】実験例における炭酸ガス累積発生量と堆肥化時間との関係を示すグラフである。
【図6】実験例における各試料のアンモニア発生量と堆肥化時間との関係を示すグラフである。
【図7】実験例におけるアンモニア累積発生量と堆肥化時間との関係を示すグラフである。
【図8】実験例における各試料の炭素発生率と堆肥化時間との関係を示すグラフである。
【図9】実験例における各試料のアンモニア低減率と堆肥化時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る有機質廃棄物の堆肥化方法について説明する。本実施の形態では、有機質廃棄物に放線菌を添加してなる堆肥原料に、30〜60重量%に相当する量の製紙スラッジを配合した混合原料を作製する工程と、この混合原料に通気を行って堆肥化を促進させる工程と、を備えている。通常、製紙スラッジは、セルロースとリグニンとが分離した状態である。
【0012】
ここで、放線菌は、有機質廃棄物が堆肥化を開始する前に配合しておくことが好ましい。また、製紙スラッジは、セルロース含有量が50%以上であることが放線菌の増殖を促進するために好ましい。なお、有機質廃棄物は、穀類や木粉を含むことが好ましい。
【0013】
堆肥原料としては、低濃度から高濃度の窒素を含有した有機質廃棄物が利用可能である。
【0014】
本実施の形態に係る有機質廃棄物の堆肥化方法では、製紙スラッジが堆肥原料の堆肥化が開始する前にもアンモニアの吸着作用を有し、堆肥化中期(72〜168時間)、後期(168〜336時間)においてもアンモニア累積発生量を抑えることができる。また、本実施の形態では、従来のような脱臭機などを用いることがないため、初期投資や運転コストが安い有機質廃棄物の堆肥化方法を実現できる。
【0015】
(堆肥化初期のアンモニア低減)
このように、本実施の形態では、製紙スラッジを配合することで、堆肥化初期(例えば、72時間目まで)のアンモニア発生量を低減することが可能となる。このアンモニア発生抑制効果は、主に製紙スラッジによるアンモニアの吸着よるものと考えられる。
【0016】
(堆肥化過程全体におけるアンモニア低減)
製紙スラッジの配合率が高くなるほどアンモニア低減率は高まり、堆肥原料の15〜60%に相当する量の製紙スラッジを配合することで堆肥化過程全体におけるアンモニア発生量を低減することが可能になる。なお、製紙スラッジは、無機分も含むため、60%を越えて配合させることは植物の栄養となる有機物分の割合が低下するので堆肥としては好ましくない。また、製紙スラッジの配合率を低くすると(特に、15%未満)、アンモニア低減率は10%未満になり好ましくない。堆肥化後半では、製紙スラッジに含まれるセルロースを資化して放線菌が増殖することによるアンモニア発生抑制と考えられる。この堆肥化後半において、木粉に含まれるセルロースは放線菌による分解が困難なリグニンに覆われているため、放線菌は製紙スラッジに含まれるセルロースを資化して増殖する。
【0017】
以上のように、本実施の形態の有機質廃棄物の堆肥化方法では、堆肥化初期において製紙スラッジのアンモニア吸着によりアンモニア発生を抑制でき、それ以降は放線菌の増殖に伴いアンモニア発生を抑制する効果がある。
【0018】
なお、本実施の形態では、製紙スラッジ(セルロースの含有量約50%程度)を用いたが、セルロースとリグニンとが分離している他の製紙スラッジを用いることもできる。
【0019】
[実験例]
以下、図1に示すような堆肥化装置1を用いて有機質廃棄物の堆肥化を行った実験例を説明する。
【0020】
図1に示す堆肥化装置1は、保温ケース2の外側に配置された流量計3を介して空気を導入するようになっている。保温ケース(インキュベータ)2内に導入された空気は、導入管を介して二酸化炭素捕捉器4へ導かれ、二酸化炭素捕捉器4でCOが除去された空気をバブリングするバブリング器5を介して堆肥化器6に導入し、堆肥化器6から発生した気体を気体バッグ11内に回収するようになっている。なお、気体バッグ11は、ポリビニルフルオライド(フッ化ビニル)フィルムを使用して形成されている。
【0021】
堆肥化器6は、ガラス管7の下部と上部にゴム栓8、9を嵌合し、これらゴム栓8、9の間にステンレススクリーン(ステンレス網)10を配置し、このステンレススクリーン10の上に堆肥原料を収容するようになっている。ゴム栓8、9は、中央に貫通孔が形成されており、下側のゴム栓8の貫通孔を介して空気が導入され、発生ガスを含む排出ガスが上側のゴム栓9の貫通孔を介して気体バッグ11へ回収されるようになっている。
【0022】
図1に示した堆肥化装置1を用いて有機質廃棄物の堆肥化を行う場合、ガラス管7の上部のゴム栓9を外し、ステンレススクリーン10の上に有機質廃棄物でなる所定量の堆肥原料を収容し、その後、ガラス管7の上部にゴム栓9を装着する。
【0023】
次いで、流量計3を制御して空気の導入量を調整するとともに、保温ケース2内の温度設定を行えばよい。
【0024】
図2は、上述の堆肥化装置1を用いて、図3に示す配合例の堆肥原料の堆肥化を行ったときの、72時間目と336時間目のアンモニア低減率の結果を示す図である。
【0025】
この実験例では、図3に示すように、堆肥原料は、モデル的な生ごみとしての乾燥おから(食用)と、通気性改良剤としての木粉(主に、針葉樹)、種菌(製品名:オーレスG、松本微生物研究所株式会社)と、でなる。これらの原料の比率は、図3に示すように、乾燥重量2.40g:2.16g:0.24g、すなわち10:9:1の重量割合とした。
【0026】
○コントロール
図3において、添加剤添加パターンにおけるコントロールは、セルロースを含む添加剤を添加しない比較例である。
【0027】
○CP30%
図3において、添加剤添加パターンにおけるCP30%は、上記堆肥原料に対して、セルロースパウダー(CP)を30%の割合(1.44g)添加した。このCP30%では、セルロース量は1.44gである。このセルロースパウダー(CP)は、Cellulose microcrystalline for thin-layer chromatography(MERCK製)を用いた。
【0028】
○PS15%
図3において、添加剤添加パターンにおける製紙スラッジ(PS)15%は、上記堆肥原料に対して、製紙スラッジを15%の割合(0.72g)添加した。この実験例では、製紙スラッジとして、セルロースが50.19%含まれるもの(巴川製紙株式会社製)を用いた。
【0029】
○PS30%
図3において、添加剤添加パターンにおける製紙スラッジ(PS)30%は、上記堆肥原料に対して、製紙スラッジを30%の割合(1.44g)添加した。このPS30%では、添加剤量は1.44gである。
【0030】
○PS60%
図3において、添加剤添加パターンにおける製紙スラッジ(PS)60%は、上記堆肥原料に対して、製紙スラッジを60%の割合(2.88g)添加した。このPS60%では、添加剤量は2.88gである。
【0031】
上記実験例1では、これら堆肥原料に種菌を入れた状態で30分ごとに撹拌しながら保温ケース2で80℃、1時間の加熱処理を行った。但し、コントロールとなる堆肥原料については加熱処理を施さなかった。
【0032】
また、上記堆肥原料は、含水率が60%、pH8.0となるように滅菌蒸留水、水酸化カルシウムを添加した。
【0033】
そして、堆肥化装置1のリアクター(内径45mm、高さ100mm)に充填して、60℃で堆肥化を行った。
【0034】
気体バッグ11に捕集したガスを、96時間まで12時間毎に、それ以降は24時間毎に336時間(実験終了時)のまで検知管で炭酸ガス濃度とアンモニアガス濃度を測定した。図4は、実験終了時のアンモニア低減率を示す図である。
【0035】
上記実験例1の結果としては、図4および図5に示すように、製紙スラッジを30%以上配合すると12時間までの炭酸ガス発生量は低下した。それ以降では、期間中ほぼ一貫して、製紙スラッジ配合の炭酸ガス発生速度はコントロールよりも上回っていた。したがって、12時間以降は製紙スラッジを配合しても堆肥化(おからの分解)は阻害されることなく、順調に進んでいたことが示唆されている。
【0036】
図8は、有機物分解率の指標となる炭素発生率を示す。コントロール(主におからの分解)の炭素発生率は実験終了後に60%に達していた。この値に達すれば、堆肥は完熟したと考えられる。上述のように、製紙スラッジ配合でも堆肥化期間中、ほぼ一貫して堆肥化が阻害されないので、製紙スラッジの炭素発生率も60%に達しており、完熟と考えられる。なお、炭素発生率は、原料中の全炭素量に対する炭素累積発生量と定義される。製紙スラッジの配合で炭素発生率が常にコントロールより低くなるのは、これらの原料中の炭素量がコントロールよりも多いからである。
【0037】
製紙スラッジ60%配合と同様に、堆肥化初期において製紙スラッジ30%配合でも、アンモニア発生抑制効果が認められた。この時期には、未だ放線菌の発生は見られないため、アンモニア発生量の減少は製紙スラッジへの吸着と考えられる。しかし、製紙スラッジ15%配合の効果はそれほど高くはなく、図6に示すように、CP30%配合とコントロールのアンモニア発生量と大きな差はなかった。
【0038】
図7に示すように、アンモニア累積発生量の結果から、アンモニア発生抑制効果は、(製紙スラッジ60%配合)>(製紙スラッジ30%配合)≒(CP30%配合)>(製紙スラッジ15%配合)の関係となる。つまり、製紙スラッジの量を減らすとアンモニア発生抑制効果も低下することがわかった。
【0039】
144時間付近以降は、いずれの配合パターンにおいても、アンモニアは再発生した。144〜336時間のアンモニア累積発生量は、コントロール、PS15%配合、PS30%配合でそれぞれ35×10−5mol、34×10−5mol、27×10−5molと近接しているが、セルロースパウダー(CP)配合では、22×10−5molと少量であった。PS15%、PS30%配合のセルロース量(おがくずのセルロースは除く)は、配合したCP量の約50%、25%である。したがって、堆肥化後期では、セルロースの配合量が少なければアンモニアの再発生量が増加することがわかった。セルロースの量が少ないほど放線菌の増殖量が少なくアンモニウムイオンの吸収量も減少するためであると考えられる。
【0040】
図9は、上記の各堆肥原料に対する堆肥化を行った場合のアンモニア低減率と経過時間との関係を、PS22.5%配合の予想値、配合PS45%配合の予想値、PS7.5%配合の予想値を含めて示す図である。
【0041】
この図9からわかるように、PS60%配合以上でもアンモニア発生量は減少すると考えられるが、製紙スラッジなどの無機分が多くなることで、実際に植物の栄養となる有機物分の割合が低下するため、堆肥としては好ましくない。一方、製紙スラッジの割合を著しく低くすると(特にPS15%未満)では、アンモニア低減率は10%未満になる可能性があり、そのため製紙スラッジを配合する意義が薄れる。
【0042】
なお、図9からわかるように、堆肥原料に対してセルロースパウダー(CP)を30%配合した場合は、堆肥化初期ではアンモニア発生抑制効果がない。このCP30%配合の堆肥原料と、堆肥化中期、後期においてアンモニア発生抑制効果を同等な効果を備える、製紙スラッジを配合した堆肥原料としては、図9に示すように、PS30%配合の堆肥原料がある。このPS30%配合の堆肥原料は、堆肥化初期においても製紙スラッジがアンモニア吸着を行うため、CP30%配合の堆肥原料よりも、アンモニア累積発生量を低く抑えることが可能であると言える。
【0043】
以上のことから、製紙スラッジ(PS)の配合量は、30〜60%の範囲であることがより好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0044】
1…堆肥化装置
2…保温ケース
3…流量計
4…二酸化炭素捕捉器
5…バブリング器
6…堆肥化器
7…ガラス管
8,9…ゴム栓
10…ステンレススクリーン
11…気体バッグ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質廃棄物に放線菌を添加してなる堆肥原料に、セルロースとリグニンとが分離して含まれる製紙スラッジを、前記堆肥原料に対して15〜60重量%に相当する分量を配合した混合原料を作製する工程と、
前記混合原料に通気を行って堆肥化を促進させる工程と、
を備えることを特徴とする有機質廃棄物の堆肥化方法。
【請求項2】
前記混合原料は、製紙スラッジを、前記堆肥原料に対して30〜60重量%に相当する分量を配合したことを特徴とする請求項1に記載された有機質廃棄物の堆肥化方法。
【請求項3】
前記放線菌は、前記有機質廃棄物が堆肥化を開始する前に配合しておくことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された有機質廃棄物の堆肥化方法。
【請求項4】
前記製紙スラッジは、セルロースの含有率が50%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された有機質廃棄物の堆肥化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−37658(P2011−37658A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185276(P2009−185276)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】