説明

有機質汚泥の脱水処理方法

【課題】多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥を高効率で脱水処理でき、脱水ケーキの含水率を低減できる方法を提供する。
【解決手段】多糖類または生分解性高分子製造工程から排出される有機質汚泥を脱水した脱水ケーキに、水溶性の、多価金属の塩および/または多価金属の水酸化物を添加して混合した後に、スクリュープレス型脱水機で脱水することを特徴とする有機質汚泥の脱水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類または生分解性高分子製造工程から排出される有機質汚泥の脱水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥は、下水汚泥などの有機質汚泥に比べて濃度が高い。従って、そのままフィルタープレスなどの脱水機で脱水した後、焼却または埋立て処分されている。また、有機質汚泥の脱水により生じた廃水は、希薄に希釈して活性汚泥処理される。
【0003】
通常、有機質汚泥をフィルタープレスで脱水しても、含水率70〜75質量%程度にしか脱水できないため、脱水された汚泥(以下、「脱水ケーキ」という)の焼却に使用される燃料の大部分は、脱水ケーキ中の水分の蒸発に使用されてしまう。
また、近年は原油が高騰し、焼却処分における燃料費が増大しているので、燃料費削減のためには脱水ケーキの含水率の低減が求められる。加えて、COガスの削減、温暖化防止の観点からも、脱水ケーキの含水率の低減が求められている。
一般的に脱水ケーキ中の水分が1%低下すると焼却に使用される燃料を約10%程度節約できるとされている。
【0004】
有機質汚泥の脱水方法としては、有機質汚泥に特定の高分子凝集剤を用いて脱水する方法が数多く提案されている。これらの脱水方法は、その殆どが下水汚泥の処理、すなわち活性汚泥処理した余剰汚泥の凝集、脱水処理方法である。
汚泥の脱水処理に関して、脱水ケーキの含水率を低下させる方法として以下に示す方法などが開示されている。
(1)有機質汚泥に無機系凝集剤を添加後、両性系高分子凝集剤を用いて脱水処理する方法(特許文献1)。
(2)下水消化汚泥に無機系凝集剤添加後、アクリレート系カチオン高分子凝集剤を用いて脱水処理する方法(特許文献2)。
(3)汚泥にポリ硫酸鉄を添加後、ポリアミジンを含有し、かつカチオン当量値が5以上であるカチオン性高分子凝集剤を添加混合し、ベルトプレス型脱水機で脱水する方法(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−158200号公報
【特許文献2】特開平7−214100号公報
【特許文献3】特開平8−173999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の脱水方法は、何れも一般的な有機質汚泥(下水汚泥)に対しては有効であり、脱水ケーキの含水率を大幅に低下させることができるものの、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥に対しては、脱水ケーキの含水率を十分に低減することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥を高効率で脱水処理でき、脱水ケーキの含水率を低減できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥の性状や、各種脱水機の脱水性能について詳細に検討した結果、有機質汚泥を脱水した脱水ケーキに、水溶性の多価金属の塩や水酸化物を添加混合した後、スクリュープレス型脱水機で脱水することにより、脱水ケーキの含水率を大幅に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の有機質汚泥の脱水処理方法は、多糖類または生分解性高分子製造工程から排出される有機質汚泥を脱水した脱水ケーキに、水溶性の、多価金属の塩および/または多価金属の水酸化物を添加して混合した後に、スクリュープレス型脱水機で脱水することを特徴とする。
また、前記脱水ケーキ100質量部に対して、前記多価金属の塩および/または多価金属の水酸化物を0.5〜10.0質量部添加することが好ましい。
さらに、前記多価金属がカルシウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機質汚泥の脱水処理方法によれば、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥を高効率で脱水処理でき、脱水ケーキの含水率を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の有機質汚泥の脱水処理方法は、有機質汚泥を脱水した脱水ケーキに水溶性の、多価金属の塩および/または多価金属の水酸化物(以下、「多価金属の塩および/または水酸化物」と省略する。)を添加して混合した後に、スクリュープレス型脱水機で脱水することを特徴とする。
なお、本発明において多価金属の塩および/または水酸化物を添加する前の脱水ケーキを「処理前の脱水ケーキ」、多価金属の塩および/または水酸化物を添加し、これを脱水した後の脱水ケーキを「処理後の脱水ケーキ」という。
【0012】
本発明により脱水処理される有機質汚泥は、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥である。具体的には、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、タラガムなどの多糖類の製造工程より排出される有機質汚泥;酢酸セルロース、硝酸セルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム、プルラン、カードラン、脂肪族系高分子等の微生物産生高分子、ポリヒドロキシ酪酸、エステル化澱粉、ポリアミノ酸などの生分解性高分子の製造工程より排出される有機質汚泥が挙げられる。
【0013】
多価金属としては、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄などが挙げられる。中でも、脱水性が良好、市販品として容易に入手できる、安価であるなどの点でカルシウムが特に好ましい。
これら多価金属の塩や水酸化物は水溶性である。
多価金属の塩、および多価金属の水酸化物としては、具体的に塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸鉄などが挙げられる。
これら多価金属の塩、および多価金属の水酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ここで、本発明の有機質汚泥の脱水処理方法の一例について、具体的に説明する。
まず、有機質汚泥を脱水して脱水ケーキ(処理前の脱水ケーキ)を得る。有機質汚泥は濃度が高いので、そのままフィルタープレス型脱水機などの脱水機にて脱水するのが好ましい。脱水条件としては特に制限されない。
【0015】
ついで、処理前の脱水ケーキに多価金属の塩および/または水酸化物を添加し、パドルミキサーなどの混合機を用いて混合した後に、スクリュープレス型脱水機で脱水し、処理後の脱水ケーキを得る。
スクリュープレス型脱水機による脱水条件としては特に制限されない。
【0016】
多価金属の塩および/または水酸化物の添加量は、処理前の脱水ケーキ100質量部に対して、0.1〜20.0質量部が好ましく、0.5〜10.0質量部がより好ましい。多価金属の塩および/または水酸化物の添加量が上記範囲内であれば、処理前の脱水ケーキをさらに脱水することができ、処理後の脱水ケーキの含水率をより低減できる。なお、処理後の脱水ケーキの含水率は、多価金属の塩および/または水酸化物の添加量が増えるほど低下する傾向にはあるが、添加量が増えると、多価金属の塩は余剰分が多価金属の水酸化物となるので、余剰となる多価金属の水酸化物の割合が増える。多価金属の水酸化物は微細で、親水性が強く、脱水性に劣るため、多価金属の水酸化物の割合が増えると脱水ケーキの処理量が増大する傾向にある。また、処理後の脱水ケーキを焼却したときに、多価金属の水酸化物が酸化物として残りやすいため、残渣が増える。またコストも上昇する。多価金属の塩および/または水酸化物の添加量が20.0質量部以下であれば、処理量や上記残渣が増大するのを抑制できる。特に、添加量が10.0質量部以下であれば、処理後の脱水ケーキの含水率をより効果的に低減できる。
【0017】
本発明によれば、有機質汚泥の脱水ケーキ(処理前の脱水ケーキ)に多価金属の塩および/または水酸化物を添加して混合した後に、スクリュープレス型脱水機で脱水処理を行なうことにより、処理後の脱水ケーキの含水率を、処理前の脱水ケーキの含水率よりさらに10〜20質量%低下させることができる。かかる理由は以下のように考えられる。
すなわち、処理前の脱水ケーキに多価金属の塩および/または水酸化物を添加して混合すると、処理前の脱水ケーキ中に含まれる酸性多糖類や生分解性高分子が架橋しやすくなる。その結果、酸性多糖類や生分解性高分子は不溶化して析出しやすくなるので、高効率で脱水処理できるものと考えられる。
なお、一価金属の塩や水酸化物を処理前の脱水ケーキに添加しても、酸性多糖類や生分解性高分子は架橋しにくく不溶化しにくいので、脱水ケーキの含水率の低減効果が得られない。
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、多糖類製造工程や生分解性高分子製造工程より排出される有機質汚泥を高効率で脱水処理でき、脱水ケーキの含水率を低減できる。
また、本発明の脱水処理方法は、脱水ケーキの含水率を低減できるので、有機質汚泥の処理コストの大幅な削減が可能となる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<含水率の測定>
処理前の脱水ケーキおよび処理後の脱水ケーキの含水率は、常法((財)日本下水道協会編、「下水道試験法上巻1997年度版」p296−297)により測定した。
【0021】
[実施例1]
ポリサッカライド工場から排出された有機質汚泥(ローカストビーンズ(豆)からローカストビーンガムを抽出した後の粕、および珪藻土などが主成分)を、フィルタープレス型脱水機(株式会社石垣製、「ISD型ラースターフィルター」)で脱水処理して、処理前の脱水ケーキを作製した。この処理前の脱水ケーキの含水率は75.9質量%であった。
得られた処理前の脱水ケーキ100質量部に対して、水酸化カルシウム0.5質量部を添加し、パドルミキサーにて混合した。その後、スクリュープレス型脱水機(富国工業株式会社製、「SHX−200X1500L型」)で脱水して、処理後の脱水ケーキを得た。
得られた脱水ケーキの含水率を測定した。結果を表1に示す。
【0022】
また、脱水性および操作性などの総合評価について下記基準にて評価した。結果を表1に示す。
◎:脱水性および操作性が非常に良好。
○:脱水性および操作性が良好。
△:脱水性は良好であるが、操作性がやや不良。
×:脱水性が不良。
【0023】
[実施例2〜7]
多価金属の塩または水酸化物の種類と添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして有機質汚泥を脱水処理し、処理後の脱水ケーキを得た。得られた処理後の脱水ケーキの含水率、および総合評価の結果を表1に示す。
【0024】
[比較例1]
水酸化カルシウムの代わりに、塩化ナトリウムを2.0質量部用いた以外は、実施例1と同様にして有機質汚泥を脱水処理し、処理後の脱水ケーキを得た。得られた処理後の脱水ケーキの含水率、および総合評価の結果を表1に示す。
【0025】
[比較例2]
水酸化カルシウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして有機質汚泥を脱水処理し、処理後の脱水ケーキを得た。得られた処理後の脱水ケーキの含水率、および総合評価の結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、実施例1〜7では、多糖類製造工程から排出される有機質汚泥を高効率で脱水処理でき、脱水ケーキ(処理後の脱水ケーキ)の含水率を十分に低減することができた。
なお、実施例7の場合、処理後の脱水ケーキの含水率を低減することはできたが、水酸化カルシウムの添加量が30質量部と多かったため処理量が増大し、経済的ではなかった。
【0028】
一方、水酸化カルシウムの代わりに、塩化ナトリウム(一価の金属塩)を用いた比較例1では、処理後の脱水ケーキの含水率は殆ど低下せず、比較例2(無添加)の場合と同程度であった。
多価金属の塩および/または水酸化物を添加しなかった比較例2では、処理前の脱水ケーキをスクリュープレス型脱水機にかけても含水率の低下は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類または生分解性高分子製造工程から排出される有機質汚泥を脱水した脱水ケーキに、水溶性の、多価金属の塩および/または多価金属の水酸化物を添加して混合した後に、スクリュープレス型脱水機で脱水することを特徴とする有機質汚泥の脱水処理方法。
【請求項2】
前記脱水ケーキ100質量部に対して、前記多価金属の塩および/または多価金属の水酸化物を0.5〜10.0質量部添加することを特徴とする請求項1に記載の有機質汚泥の脱水処理方法。
【請求項3】
前記多価金属がカルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機質汚泥の脱水処理方法。

【公開番号】特開2011−140004(P2011−140004A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2846(P2010−2846)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】