説明

有機電界発光素子及び発光装置

【課題】発光特性が優れ、長時間駆動した後も発光特性が大きく損なわれない有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成されている発光素子であって、該有機化合物層の少なくとも1層が金属を含有し、該金属が有機化合物と部分的に配位結合を形成している層における金属の総数に対する配位に関与している金属の数の比率が0.11以上0.42以下である有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子及びそれを利用した発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は液晶ディスプレイと比較して(1)消費電力が小さい、(2)視野角が良い、(3)更に薄くできる、(4)フレキシブル基板が利用できる等の特長を有することから次世代の表示素子として実用化が期待されている。
【0003】
しかしながら、発光特性の低さ、短寿命、数十ナノレベルの薄膜プロセスの困難さ等、実用化するための改善すべき課題がまだ多く残されている。特に発光特性の低さ、短寿命を解決する為には電極から有機化合物層への電荷注入の改善が必須とされている。
【0004】
それを解決する為に有機化合物層にアルカリ金属あるいはその酸化物、過酸化物、塩等をドーピングすることが知られている(特許文献1乃至3)。また、有機化合物とアルカリ金属の配位に関しては下記非特許文献1で知られている。
【0005】
【特許文献1】特許第3529543号公報
【特許文献2】特開平10−2701712号公報
【特許文献3】特表2005−510034号公報
【非特許文献1】Journal of chemical physics vol.111,No.5,2157,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電荷の注入性の改善により発光特性の低さは幾分解決してきているが、寿命に関しての課題は未だ不十分である。
【0007】
本発明は発光特性が優れ、長時間駆動した後も発光特性が大きく損なわれない有機電界発光素子及びそれを利用した発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成されている発光素子であって、該有機化合物層の少なくとも1層が金属を含有し、該金属が有機化合物と部分的に配位結合を形成している層における金属の総数に対する配位に関与している金属の数の比率が0.11以上0.42以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光特性及び寿命に優れ、生産性の高い有機電界発光素子を提供することができる。また、その素子を利用することでディスプレイの情報表示部に好適に用い得る発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、金属がセシウムである場合を例にとり本発明の詳細を説明する。
【0011】
図1(a)は、金基板上に金属セシウムディスペンサーとフェナントロリン誘導体を共蒸着した膜のX線光電子分光法により測定したN1s軌道に相応する結合エネルギーチャートの代表的な一例である。また、図1(b)は同じく共蒸着した膜のX線光電子分光法により測定したCs3d5軌道に相応する結合エネルギーチャートの代表的な一例である。
【0012】
図1(a)ではピークAとBの2種類のピークが確認される。ピークAは配位に関与しない窒素原子のピークであり、ピークBはセシウムと配位している窒素原子のピークである。また、フェナントロリン誘導体は窒素原子2個に対してセシウム1個が配位することより、ピークBの配位している窒素原子の半数が、配位に関与している(有機化合物と配位している)セシウムの数に相応する。図1(b)では配位に関与しているセシウムと配位に関与していないセシウムのピークが明確に分離せず、1つのピークCとして現れている。従って、共蒸着膜中のセシウムの総数は図1(b)のピークCから算出される。
【0013】
以上からセシウムの総数に対し配位に関与しているセシウムの数の比率(配位セシウム比率)は以下の式(I)で表わされる。
【0014】
配位セシウム比率=(ピークBの窒素原子数/2)/ピークCのセシウム原子数 (I)
【0015】
図1は金の基板上に成膜した共蒸着膜の測定例であるが、蒸着物の成分は不活性な基板上では変化しない。従って、本発明の素子中に存在する共蒸着膜もそれに順ずるものであると推測される。
【0016】
また、式(I)は金属がセシウム、有機化合物が配位に関与する窒素原子を2個有する場合であって、有機化合物が配位に関与する窒素原子をn個有する場合、金属の総数に対し配位に関与している金属の数の比率(配位金属比率)は一般式(II)で表わされる。
【0017】
配位金属比率=(配位窒素原子数/n)/金属原子総数 (II)
【0018】
また、窒素を有しない有機化合物であっても、窒素と同様にして配位している元素の原子数を定量化することで配位金属比率を算出することが可能である。
【0019】
本発明は配位金属比率に着目し鋭意検討したところ、配位金属比率を制御することで発光特性及び寿命を改善することができることを見出したものである。配位金属比率が0.11より小さいと発光効率が低下することが確認されている。これは配位している金属が少ないと伝導度の改善がなされない為であると推測される。また、配位金属比率が0.42より大きくなると寿命が悪くなることが確認されている。これは配位している金属が多すぎると、金属の他の有機層への拡散が促進される為であると推測される。また、本発明の効果をより顕著化する為には配位金属比率が0.22以上0.42以下であるものが好ましい。
【0020】
また、窒素原子総数から有機化合物のモル数を算出することで金属と有機化合物のモル比が得られる。前記有機化合物に対する金属のモル比は0.5以上3.0以下であるものが好ましい。0.5より小さいと前記特許文献1乃至3で示される本来の金属ドーピングの効果が小さくなり、3.0より多くなると電極間ショート等の弊害が出やすくなる。
【0021】
本発明で用いられる金属は有機化合物と配位するものであれば特に限定はされないが、配位のし易さの観点から金属のイオン化エネルギーが7以下であるものが好ましい。例えばLi、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Y、Ti、Zr、V等が挙げられる。また、好ましくはイオン化エネルギーが5以下のものである。例えばK、Rb、Csが挙げられる。
【0022】
本発明の有機電界発光素子は発光した光を基板側から取り出すボトムエミッション型(BE型)、あるいは基板と反対側から光を取り出すトップエミッション型(TE型)のどちらの構造においても有効である。図2及び図3を用いて本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
図2,3は本発明の有機電界発光素子を示した断面模式図の一例である。図2では、基板1上に陽極2が配置され、その上にホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、金属を含有する有機化合物層8、陰極9が順に配置されている。本発明の有機電界発光素子は、図3に示すように、基板1上に陰極9が配置され、その上に金属を含有する有機化合物層8、電子注入層7、電子輸送層6、発光層5、ホール輸送層4、ホール注入層3、陽極2が順に配置されていても良い。また、図中、金属を含有する有機化合物層8は陰極9と電子注入層7の間に位置しているが、発光素子中のどこに位置していても良い。本発明の必須な構成要素は金属を含有する有機化合物層8を含んでいること、及び陽極2、陰極9、発光層5であり、ホール注入層3及びホール輸送層4、電子輸送層6、電子注入層7の少なくとも1層はプロセスを簡略化する為に除くことが可能である。
【0024】
また、電極から有機化合物層への電荷注入を改善する為に金属を含有する有機化合物層8は陰極9と電気的に実質接しているものが好ましい。電気的に実質接しているとは陰極9と金属を含有する有機化合物層8の間に有機化合物層、あるいは無機化合物層あるいは有機・無機の混合層といった別な層が設けられていたとしても電子注入性が改善される場合を言う。
【0025】
次に本発明で用いる有機化合物層について説明する。
【0026】
ホール輸送層は、トリフェニルジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリフィリル誘導体、スチルベン誘導体等の低分子化合物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリピリジン誘導体等の共役高分子化合物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。本発明の低分子化合物とは分子量3,000以下の化合物を示す。好ましい構造を以下に示す。
【0027】
【化1】

【0028】
電子輸送層は、アルミキノリノール誘導体、フェナントロリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。更に発光特性が優れているフェナントロリン誘導体がより好ましい。好ましい構造を以下に示す。
【0029】
【化2】

【0030】
発光層は、前記したホール輸送層で用いた材料および電子輸送層で用いた材料、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン誘導体、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、これらのオリゴ体あるいは複合オリゴ体、Al錯体、Mg錯体、亜鉛錯体、Ir錯体、Au錯体、Ru錯体、Re錯体、Os錯体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。また、これらの発光材料の一種以上をホール輸送層または電子輸送層にドーピングすることで得られる混合層を発光層として用いても良い。好ましい構造を以下に示す。
【0031】
【化3】

【0032】
本発明で用いる陽極は、例えばAl、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr、Pd、Se、Ir等の金属材料およびそれらの合金材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2等の無機材料も好適であるが、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等が挙げられる。図2で示される有機電界発光素子の場合、BE型では好ましくは透明性の高いITO、ITZOまたはIZO等の透明電極が好ましい。TE型では反射率の高いAg、Cr等の金属材料が好ましい。また、Al/ITO、Ag/IZO、ITO/Al/ITOといった、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。
【0033】
本発明で用いる陰極は、例えばAl、Mg、Ca、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr、Pd、Se、Ir等の金属材料およびそれらの合金材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2等の無機材料、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等が挙げられる。また、Ag/Mg、Al/Mg、Ag/Mg/Agといった、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。発光を効率よく取り出す為には好ましくは透明性の高いITO、ITZOまたはIZO等の透明電極が好ましい。
【0034】
本発明で用いる基板としては特に限定されないが、例えばガラス、石英等の無機材料のほかアクリル系、ビニル系、エステル系、イミド系、ウレタン系、ジアゾ系、シンナモイル系等の感光性高分子化合物、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の有機材料、有機無機ハイブリッド材料を用いることができる。また、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。また、TFT等のアクティブ素子を備えていても良い。
【0035】
本発明の金属を含有する有機化合物層の製造方法は真空蒸着法による共蒸着が好ましい。
【0036】
この時、イオン化エネルギーの小さい金属は反応性が非常に高く取扱が困難である為に金属単体の代わりに金属を発生させる金属化合物を用いても良い。例えばSAES Getters社製の金属ディスペンサーあるいは金属炭酸塩、金属酸化物を用いることは有用である。また、成膜速度は金属及び有機化合物が安定に蒸着される範囲であれば特に限定はされない。例えば水晶振動子で測定した場合0.001nm/sec以上1nm/sec以下の範囲である。該金属と有機化合物の成膜速度比に関しても特に限定されないが、例えば(金属の成膜速度)/(有機化合物の成膜速度)は10以上0.1以下の範囲である。配位金属比率を制御する手法としては有機化合物の構造と金属元素の選択による相互作用の制御、蒸着時における基板の温度、真空度、チャンバー内の気体の分圧、それぞれの制御等が挙げられる。例えば、有機化合物がフェナントロリン誘導体である場合、金属はK、Rb、Csが有用である。また、基板の温度は50℃以上150℃以下の範囲に制御することが有効であり、真空度は1×10-5Pa以上1×10-7Pa以下の範囲に制御することが有効である。
【0037】
本発明で用いる有機化合物層、陽極及び陰極の形成方法は特に限定はされない。有機材料の場合、電解重合法、キャスティング法、スピンコート法、浸漬コート法、スクリーン印刷法、マイクロモールド法、マイクロコンタクト法、ロール塗布法、インクジェット法、LB法等で形成することができる。また、用いる材料により真空蒸着法、CVD法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等も有効な形成方法である。また、これらはフォトリソグラフおよびエッチング処理により所望の形状にパターニングすることができる。その他、ソフトリソグラフ、インクジェット法も有効なパターニング方法である。
【0038】
本発明の有機化合物層、陽極及び陰極の膜厚は特に限定はされないが0.1nm以上10μm以下の範囲が好ましい。更に本発明の有機電界発光素子は少なくとも陰極側から光を取り出すものが好ましい。
【0039】
本発明の発光装置は、上記本発明の有機電界発光素子を面内に複数有することを特徴とし、好ましくはディスプレイの情報表示部に用いられる。ディスプレイのサイズは特に制限されないが、例えば1インチから30インチまでが好ましい。画素数は制限はなく、例えばQVGA(320×240画素)、VGA(640×480画素)、XGA(1024×728画素)、SXGA(1280×1024画素)、UXGA(1600×1200画素)、QXGA(2048×1536画素)が挙げられる。また、カラー表示できることが好ましく、その場合、赤、青、緑の発光素子を独立に配列させることで表示する方法、またはカラーフィルターを用いる方法、何れにおいても有効である。また、駆動方法としては単純マトリックス方法、アクティブマトリックス方法、何れにおいても有効である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
図4は本実施例で製造した有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0042】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−1、発光層5としてH−1とA−9との混合物、電子輸送層6としてE−12、金属を含有する有機化合物層8としてE−12とセシウムとの混合物、陰極9としてアルミニウムを用いる。以下に製造手順を示す。
【0043】
ガラス基板1上にスパッタ法にてITOを膜厚100nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、ITO表面をUV/オゾン処理を行う。
【0044】
次に真空蒸着装置を用いて下記条件で、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6を連続蒸着し積層膜を得る。
【0045】
ホール輸送層4:H−1を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚80nm
発光層5:H−1を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下、A−9を成膜速度0.05nm/sec以上0.07nm/sec以下で膜厚30nm
電子輸送層6:E−12を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚30nm
【0046】
次に金属セシウムディスペンサーを抵抗加熱により成膜速度0.04nm/sec以上0.05nm/sec以下、E−12を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で共蒸着し膜厚30nmに成膜する(金属を含有する有機化合物層8)。この時、基板温度を30℃以上50℃以下、共蒸着時の真空度を2.0×10-6Pa以上5.0×10-6Pa以下の間で行う。
【0047】
その後、アルミニウムを成膜速度1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下にて膜厚150nmで成膜する(陰極9)。最後に窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。
【0048】
次に直流電圧を7V印加した時の電流効率を測定し初期値とする。次に、この有機電界発光素子を室温にて300時間連続発光させた後、同様にして電流効率を測定する。また変化率[(電流効率の初期値−300時間連続発光後の値)×100/電流効率の初期値(%)]を算出することで寿命を評価する。以下に結果を示す。
【0049】
初期の電流効率 9.6cd/A
300時間連続発光後の電流効率 8.9cd/A
変化率 7.3%
【0050】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて(測定装置:ESCALAB 220i−XLVG/Scientific社製)測定した。その結果、N1s軌道に相応する結合エネルギー400.2eV、399.0eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eVのピークCが得られた。その中のピークB(399.0eV)とピークC(726.0eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.11であった。また、E−12に対するセシウムのモル比は1.2であった。
【0051】
<実施例2>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、基板温度を70℃以上100℃以下とした以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0052】
初期の電流効率 10.5cd/A
300時間連続発光後の電流効率 9.6cd/A
変化率 8.6%
【0053】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー400.1eV、399.0eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eVのピークCが得られた。その中のピークB(399.0eV)とピークC(726.0eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.42であった。また、E−12に対するセシウムのモル比は1.2であった。
【0054】
<比較例1>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、真空度を5.0×10-3Pa以上7.0×10-3Paとした以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0055】
初期の電流効率 4.1cd/A
300時間連続発光後の電流効率 3.8cd/A
変化率 7.3%
【0056】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー400.1eV、398.9eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.1eVのピークCが得られた。その中のピークB(398.9eV)とピークC(726.1eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.08であった。また、E−12に対するセシウムのモル比は1.2であった。
【0057】
<比較例2>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、基板温度を150℃以上170℃以下とした以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0058】
初期の電流効率 10.3cd/A
300時間連続発光後の電流効率 4.2cd/A
変化率 59.2%
【0059】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー400.1eV、399.0eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eVのピークCが得られた。その中のピークB(399.0eV)とピークC(726.0eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.58であった。また、E−12に対するセシウムのモル比は1.2であった。
【0060】
<実施例3>
図4は本実施例で製造した有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0061】
基板1としてガラス、陽極2としてクロム,ホール輸送層4としてH−2、発光層5としてE−1、電子輸送層6としてE−2、金属を含有する有機化合物層8としてE−1とリチウムとの混合物、陰極9としてIZOを用いる。以下に製造手順を示す。
【0062】
ガラス基板1上にスパッタ法にてクロムを膜厚100nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、クロム表面をUV/オゾン処理を行う。
【0063】
次に真空蒸着装置を用いて下記条件で、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6を連続蒸着し積層膜を得る。
【0064】
ホール輸送層4:H−2を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚100nm
発光層5:E−1を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚30nm
電子輸送層6:E−2を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚20nm
【0065】
次に金属リチウムを成膜速度0.06nm/sec以上0.08nm/sec以下、及びE−1を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で共蒸着し膜厚20nmに成膜する(金属を含有する有機化合物層8)。この時、基板温度を30℃以上50℃以下、共蒸着時の真空度を2.0×10-6Pa以上5.0×10-6Pa以下の間で行う。
【0066】
その後、スパッタ法によりIZOを膜厚150nmで成膜する(陰極9)。最後に窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。
【0067】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0068】
初期の電流効率 6.3cd/A
300時間連続発光後の電流効率 5.8cd/A
変化率 7.9%
【0069】
[配位リチウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー402.6eV、401.4eVの2種類のピークA、B、Li1s軌道に相応する結合エネルギー55.8eVのピークCが得られた。その中のピークB(401.4eV)とピークC(55.8eV)の面積から前記式(II)(n=2)に従い配位リチウム比率を算出したところ0.31であった。また、E−1に対するリチウムのモル比は1.8であった。
【0070】
<実施例4>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、基板温度を90℃以上120℃以下とした以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0071】
初期の電流効率 6.5cd/A
300時間連続発光後の電流効率 5.6cd/A
変化率 13.8%
【0072】
[配位リチウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー402.7eV、401.5eVの2種類のピークA、B、Li1s軌道に相応する結合エネルギー55.7eVのピークCが得られた。その中のピークB(401.5eV)とピークC(55.7eV)の面積から前記式(II)(n=2)に従い配位リチウム比率を算出したところ0.41であった。また、E−1に対するリチウムのモル比は1.8であった。
【0073】
<比較例3>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、真空度を3.0×10-3Pa以上5.0×10-3Pa以下とした以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0074】
初期の電流効率 2.9cd/A
300時間連続発光後の電流効率 2.3cd/A
変化率 20.7%
【0075】
[配位リチウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー402.7eV、401.5eVの2種類のピークA、B、Li1s軌道に相応する結合エネルギー55.8eVのピークCが得られた。その中のピークB(401.5eV)とピークC(55.8eV)の面積から前記式(II)(n=2)に従い配位リチウム比率を算出したところ0.08であった。また、E−1に対するリチウムのモル比は1.8であった。
【0076】
<比較例4>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、基板温度を150℃〜170℃とした以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0077】
初期の電流効率 6.4cd/A
300時間連続発光後の電流効率 2.2cd/A
変化率 65.6%
【0078】
[配位リチウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー402.7eV、401.5eVの2種類のピークA、B、Li1s軌道に相応する結合エネルギー55.7eVのピークCが得られた。その中のピークB(401.5eV)とピークC(55.7eV)の面積から前記式(II)(n=2)に従い配位リチウム比率を算出したところ0.68であった。また、E−1に対するリチウムのモル比は1.8であった。
【0079】
<実施例5>
図4は本実施例で製造した有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0080】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−9、発光層5としてE−1とA−3との混合物、電子輸送層6としてE−2、金属を含有する有機化合物層8としてE−2とセシウムとの混合物、陰極9としてIZOを用いる。以下に製造手順を示す。
【0081】
ガラス基板1上に反射電極としてアルミニウムを成膜し、その上にスパッタ法にてITOを膜厚100nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、ITO表面をUV/オゾン処理を行う。
【0082】
次に真空蒸着装置を用いて下記条件で、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6を連続蒸着し積層膜を得る。
【0083】
ホール輸送層4:H−9を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚100nm
発光層5:E−1を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下、A−3を成膜速度0.05nm/sec以上0.07nm/sec以下で膜厚30nm
電子輸送層6:E−2を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚20nm
【0084】
次に炭酸セシウムを成膜速度0.10nm/sec以上0.12nm/sec以下、及びE−12を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で共蒸着し膜厚30nmに成膜する。この時、基板温度を30℃以上50℃以下、共蒸着時の真空度を1.0×10-5Pa以上3.0×10-5Pa以下の間で行う(金属を含有する有機化合物層8)。
【0085】
その後、スパッタ法にてIZOを膜厚150nmで成膜する(陰極9)。最後に窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。
【0086】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0087】
初期の電流効率 11.6cd/A
300時間連続発光後の電流効率 10.8cd/A
変化率 6.9%
【0088】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー399.8eV、398.6eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eVのピークCが得られた。その中のピークB(398.6eV)とピークC(726.0eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.22であった。また、E−2に対するセシウムのモル比は2.8であった。
【0089】
<実施例6>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、基板温度を70℃以上100℃以下とした以外は実施例5と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0090】
初期の電流効率 12.0cd/A
300時間連続発光後の電流効率 10.6cd/A
変化率 11.7%
【0091】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー399.7eV、398.6eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eVのピークCが得られた。その中のピークB(398.6eV)とピークC(726.0eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.36であった。また、E−2に対するセシウムのモル比は2.8であった。
【0092】
<比較例5>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、真空度を5.0×10-3Pa以上7.0×10-3Pa以下とした以外は実施例5と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0093】
初期の電流効率 3.1cd/A
300時間連続発光後の電流効率 2.7cd/A
変化率 12.9%
【0094】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー399.7eV、398.5eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.1eVのピークCが得られた。その中のピークB(398.5eV)とピークC(726.1eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.07であった。また、E−2に対するセシウムのモル比は2.8であった。
【0095】
<比較例6>
金属を含有する有機化合物層8を成膜する際に、基板温度を150℃〜170℃とした以外は実施例5と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0096】
初期の電流効率 11.8cd/A
300時間連続発光後の電流効率 4.3cd/A
変化率 63.6%
【0097】
[配位セシウム比率の算出]
ガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に金属を含有する有機化合物層8と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところN1s軌道に相応する結合エネルギー399.8eV、398.6eVの2種類のピークA、B、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.1eVのピークCが得られた。その中のピークB(398.6eV)とピークC(726.1eV)の面積から前記式(I)に従い配位セシウム比率を算出したところ0.55であった。また、E−2に対するセシウムのモル比は2.8であった。
【0098】
以上の結果から、実施例1、2と比較例1、2、実施例3、4と比較例3、4、実施例5、6と比較例5、6それぞれを比較することで明らかなように本発明の有機電界発光素子は発光特性および寿命が優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】(a)は、金属セシウムディスペンサーとフェナントロリン誘導体を共蒸着した膜のX線光電子分光法により測定したN1s軌道に相応する結合エネルギーチャートの代表的な一例であり、(b)金属セシウムディスペンサーとフェナントロリン誘導体を共蒸着した膜のX線光電子分光法により測定したCs3d5軌道に相応する結合エネルギーチャートの代表的な一例である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の断面模式図の一例である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の断面模式図の一例である。
【図4】本実施例及び比較例で製造する有機電界発光素子の断面模式図である。
【符号の説明】
【0100】
1 基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 金属を含有する有機化合物層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成されている発光素子であって、該有機化合物層の少なくとも1層が金属を含有し、該金属が有機化合物と部分的に配位結合を形成している層における金属の総数に対する配位に関与している金属の数の比率が0.11以上0.42以下であることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記配位に関与している金属の数の比率が0.22以上0.42以下であることを特徴とする請求項1記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物に対する前記金属のモル比が0.5以上3.0以下であることを特徴とする請求項1または2記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記金属のイオン化エネルギーが7以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記金属のイオン化エネルギーが5以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物が低分子化合物であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記有機化合物がフェナントロリン誘導体であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記金属を含有する有機化合物層が前記陰極と電気的に接していることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記陰極が透明電極であることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
少なくとも前記陰極側から光を取り出すことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載の有機電界発光素子を面内に複数有することを特徴とする発光装置。
【請求項12】
ディスプレイの情報表示部であることを特徴とする請求項11記載の発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−273703(P2007−273703A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97178(P2006−97178)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】