説明

有機非線形光学材料

【課題】2光子吸収を起こし易く、しかもストークスシフトが大きい高発光効率の有機非線形光学材料を提供する。
【解決手段】下記式で表される化合物を含有する有機非線形光学材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非線形光学特性を持つ有機材料に関し、詳しくは多光子吸収断面積が大きい有機波長変換材料に関し、さらに詳しくは2光子吸収断面積が大きく、2光子吸収により励起した化合物からの発光効率が大きい有機非線形光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形効果とは強い光と物質との相互作用に基づく様々な現象であり、具体的な現象としては光高調波発生と光混合、誘導散乱、光学定数の光強度変化、多光子吸収等が挙げられる。近年、2次の非線形光学材料として2−メチル−4−ニトロアニリンをはじめとする有機化合物が、それまで使用されていたLiNbO3、LiTaO3などを遥かに凌ぐ非線形光学定数を示すことが報告され、これにより有機非線形光学材料が注目され、盛んに研究が行われるようになった。
【0003】
有機化合物の有する非線形光学特性の中でも、特に2光子吸収現象が注目されている。2光子吸収とは化合物が2つの光子を吸収して基底状態から励起状態へ遷移する現象であり、一光子励起波長の2倍程度の波長の光を用いて、2個の光子を1つの分子に当てることにより励起させることができる。1個の分子に同時に2個の光子が当たる確率は、光子密度の2乗に比例し、試料上でレーザー光が焦点を結ぶとき焦点面から離れるにつれ、光子密度は距離の2乗に比例して減少する。従って、2光子吸収の起こる確率は焦点面から離れるに伴い距離の4乗に比例して減少していく。この現象を利用して、光メモリー、2光子造形、2光子フォトダイナミックセラピー等の分野で2光子吸収の応用が期待されている。また、2光子吸収した励起状態から輻射失活過程において発光する2光子発光は、入射した光の波長より短波長の光(=エネルギーの高い光)を取り出せるため、光変換材料、光増感剤としても研究がなされている。
【0004】
2光子吸収を種々の分野で応用する場合において重要となるのが、2光子吸収の起こりやすさを示す2光子吸収断面積であり、近年、高い二光子吸収断面積を持つ化合物がChem. Mater.,10(7),1863(1998)、Tetrahedron Lett.,44,8121(2003)、Polymer 44,6851(2003)、Chem.Commun.,2003,2168で報告されている。しかしながら、これらの化合物は線形最大吸収波長と蛍光波長との差(ストークスシフト)が小さい(例えば、Chem. Mater.,10(7),1863(1998)のTable1に記載の化合物のストークスシフトは最大で118である。)ために、2光子励起により発生した蛍光の再吸収が起こる欠点があった。
【0005】
上述の如く、2光子吸収の応用のためには、2光子吸収断面積が大きいことが前提であるが、更に、2光子励起で発生した蛍光を効率的に利用するためには、ストークスシフトが大きい2光子吸収化合物であることが必要である。2光子吸収断面積とストークスシフトがともに大きい物質としては、非特許文献5に、ベンゾチアゾール環等に共役系を介して芳香族炭化水素環又は芳香属性を有する芳香環を結合させた化合物が提案されている。しかし、Chem.Commun.,2004,2342に提案されている物質は、ストークスシフトこそ125nm以上を達成しているものの、色素AF50の2光子吸収断面積を45GMとしたときの2光子吸収断面積は、2光子吸収材料として未だ十分ではなかった。
【非特許文献1】Chem. Mater.,10(7),1863(1998)
【非特許文献2】Tetrahedron Lett.,44,8121(2003)
【非特許文献3】Polymer 44,6851(2003)
【非特許文献4】Chem.Commun.,2003,2168
【非特許文献5】Chem.Commun.,2004,2342
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、2光子吸収断面積が大きく、2光子吸収を起こし易く、しかもストークスシフトが大きく、2光子励起により発生した蛍光を効率的に取り出すことができる高発光効率の有機非線形光学材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の化合物を構成成分の少なくとも一部として含有する材料であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
(1) 下記一般式(I)で表される化合物を構成成分の少なくとも一部として含有することを特徴とする有機非線形光学材料。
【化6】

[式(I)中、Tは3価の芳香環基又は、下記一般式(II)の構造を表し、
Ar1〜Ar3は各々独立に置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表し、
Ar4〜Ar6は各々独立に下記一般式(III)で表される2価の複素環基を表し、
Ar7〜Ar9は各々独立に置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表す。
ただし、TとAr1〜Ar3は共役系が繋がる状態で結合している。
【化7】

(式(II)中、Nは窒素原子を表し、Ar10〜Ar12は各々独立に置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表す。)
【化8】

(式(III)中、環Aと環Zは、炭素原子を2個共有して縮合した環を表し、各々置換基を有していてもよい。)]
【0009】
(2) 一般式(III)において、環Zは置換基を有していてもよい6員環を表し、環Aは置換基を有していてもよい5員環を表していることを特徴とする(1)に記載の有機非線形光学材料。
【0010】
(3) 一般式(III)が下記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表されることを特徴とする(1)又は(2)に記載の有機非線形光学材料。
【化9】

[式(IIIa),(IIIb)において、環Zは一般式(III)における環Zと同義の環よりなる2価の基であり、一般式(IIIa)中、Yは16族元素を表し、一般式(IIIb)中、XはN又はSを表す。]
【0011】
(4) 下記一般式(III)で表される構造を有し、AF50の2光子吸収断面積を45GMとしたときの2光子吸収断面積が250〜5000GMであり、ストークスシフトが120〜300nmであることを特徴とする有機非線形光学材料。
【化10】

[式(III)中、環Aと環Zは、炭素原子を2個共有して縮合した環を表し、各々置換基を有していてもよい。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多光子吸収断面積、特に2光子吸収断面積が大きく、2光子吸収を起こし易く、しかもストークスシフトが大きく、2光子励起により発生した蛍光を効率的に取り出すことができる高発光効率の有機非線形光学材料が提供される。
【0013】
即ち、本発明の有機非線形光学材料によれば、ストークスシフトが大きく、AF50の2光子吸収断面積を45GMとしたときの2光子吸収断面積が150GM以上であり、2光子吸収現象を起こし、且つストークスシフトが大きく、好ましくは120nm以上である高発光効率の有機非線形光学材料が提供される。本発明の有機非線形光学材料の中で好ましいものは2光子吸収断面積が250〜5000GM、特に好ましいものは300〜1000GMである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の有機非線形光学材料の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0015】
本発明の有機非線形光学材料は、下記一般式(I)で示される化合物を構成成分の少なくとも一部として含むものである。
【0016】
【化11】

[式(I)中、Tは3価の芳香環基又は、下記一般式(II)の構造を表し、
Ar1〜Ar3は各々独立に置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表し、
Ar4〜Ar6は各々独立に下記一般式(III)で表される2価の複素環基を表し、
Ar7〜Ar9は各々独立に置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表す。
ただし、TとAr1〜Ar3は共役系が繋がる状態で結合している。
【化12】

(式(II)中、Nは窒素原子を表し、Ar10〜Ar12は各々独立に置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表す。)
【化13】

(式(III)中、環Aと環Zは、炭素原子を2個共有して縮合した環を表し、各々置換基を有していてもよい。)]
【0017】
なお、本発明において、「芳香環」とは、「芳香族性を有する環」を指し、「芳香族炭化水素環」とは「芳香族性を有する炭化水素環」を指し、「芳香族複素環」とは「芳香族性を有する複素環」を指す。また、単に「複素環」又は「炭化水素環」と称した場合には、芳香族性を有する環及び芳香族性を有しない環のいずれをも含むものとする。
また、本発明において、「置換基を有していてもよい」とは1個以上の置換基を有していてもよいことを意味する。
以下に、上記一般式(I)における各構成要素について説明する。
【0018】
〈Tについて〉
上記一般式(I)において、Tは共役系パイ電子を有する3価の基を表し、具体的には3価の芳香環基又は上記一般式(II)の構造を表す。化合物の安定性の点では、Tは3価の芳香環基が好ましく、高い2光子吸収断面積を有する点では上記一般式(II)の構造が好ましい。
【0019】
3価の芳香環基としては、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環由来の基、ピリジン環、フラン環、チオフェン環等の芳香族複素環由来の基が挙げられ、好ましくは芳香族炭化水素環由来の基、中でも合成が容易という点でベンゼン環由来の基が特に好ましい。
【0020】
上記一般式(II)のAr10〜Ar12は各々独立に2価の芳香環基であり、芳香族複素環基又は芳香族炭化水素環基、好ましくは5又は6員環の、単環又は2〜6縮合環からなる、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。中でも、合成の容易さの点で、Ar10〜Ar12は各々独立にベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環、ピリジン環、フラン環由来の基が好ましく、中でも安定で、電子供与効果を持つ環であるベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環由来の基が特に好ましい。
【0021】
これらの環が有していても良い置換基としては、アルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、チオアルキル基、ハロゲン原子が挙げられる。Ar10〜Ar12の芳香環基が有していても良い置換基としては、具体的には、
メチル基、エチル基、イソプロピル基、オクチル基等のアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、2−プロピルオキシ基、オクチルオキシ基等のアルキルオキシ基;
フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基等のアリールオキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基、2-プロピルチオ基、オクチルチオ基などのチオアルキル基;
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等のハロゲン原子;
が挙げられ、中でもアルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基は合成が容易な点で好ましい。
【0022】
Tは、Ar1〜Ar3以外に、アルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ジ置換アミノ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0023】
TがAr1〜Ar3以外に有し得る置換基としては、具体的には、
メチル基、エチル基、イソプロピル基、オクチル基等のアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、2-プロピルオキシ基、オクチルオキシ基等のアルキルオキシ基;
フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基等のアリールオキシ基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等のハロゲン原子;
が挙げられ、中でもジ置換アミノ基、アルキルオキシ基は電子供与性が高い点で好ましく、最も高い電子供与効果を持つジ置換アミノ基が特に好ましい。
【0024】
〈Ar1〜Ar3について〉
前記一般式(I)において、Ar1〜Ar3は各々独立に2価の芳香環基であり、芳香族複素環基又は芳香族炭化水素環基、好ましくは5又は6員環の、単環又は2〜6縮合環からなる、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。
【0025】
ここで芳香族炭化水素環基としては、好ましくは6員環の単環又は2〜10縮合環由来の基、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基、アントラニレン基、フェナンスリレン基、ピレニレン基などが挙げられ、特にナフチレン基、フェニレン基が合成の容易さや原料の入手のしやすさな点で好ましい。
【0026】
一方、芳香族複素環基としては、好ましくは5又は6員環、特に好ましくは5員環の、単環又は2〜10縮合環由来の基が挙げられる。複素環を構成するヘテロ原子としては特に制限はないが、通常、O、S、Se、N、P、Siなどの各原子が挙げられる。これらのヘテロ原子を2個以上含む場合、そのヘテロ原子は同じ原子であっても異なる原子であってもよい。芳香族複素環基の安定性の面から特に好ましいヘテロ原子はO,S,Nである。芳香族複素環基の具体例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾール、キサンテン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、フェナンスリジン、アクリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、ベンゾイミダゾール、1,8−ナフチリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン等の環由来の2価の芳香族複素環基が挙げられ、チオフェン、フラン、ピロール環由来の基は電子供与効果が高いために好ましく、チオフェン環由来の基が安定性及び電子供与性効果を併せ持つため特に好ましい。
【0027】
Ar1〜Ar3は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
Ar1〜Ar3が有していてもよい置換基としては、アルキル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアミノ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基などが挙げられる。より具体的には、以下の置換基群Qに具体例を挙げるような炭素数1〜9のアルキル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5又は6員環の単環又は2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数2〜18のヘテロアリールオキシ基、炭素数7〜18のアラルキルオキシ基、炭素数3〜18のヘテロアラルキルオキシ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数6〜30のアリールアミノ基、炭素数2〜30のヘテロアリールアミノ基、炭素数1〜20のアシル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基などである。
【0029】
[置換基群Q]
炭素数1〜9のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数3〜20の炭化水素環基としては、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、テトラデカヒドロアントラニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基などが挙げられる。
5又は6員環の単環又は2〜6縮合環由来の複素環基としては、1−ピレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−フェナントレニル基、1−ペリレニル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、デカヒドロキノリニル基、ジュロリジン−9−イル基などが挙げられる。
炭素数1〜9のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数2〜18のヘテロアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基や、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基等のヘテロアリールオキシ基などが挙げられる。
炭素数7〜18のアラルキルオキシ基、炭素数3〜18のヘテロアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基等のアラルキルオキシ基や、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基等のヘテロアラルキルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジオクチルアミノ基などが挙げられる。
炭素数6〜30のアリールアミノ基、炭素数2〜30のヘテロアリールアミノ基としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアリールアミノ基や、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基等のヘテロアリールアミノ基などが挙げられる。
炭素数1〜20のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基、シクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
炭素数2〜6のエステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基などが挙げられる。
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
【0030】
また、Ar1〜Ar3において、各々の環が有する上述のような置換基のうち、隣接する基同士が結合して環状構造を形成していてもよい。隣接する置換基同士が結合して環状構造を形成するものとしては、例えば、Ar1〜Ar3としてのベンゼン環基に、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して下記構造式に示すようなフェノキサチン、フェノチアジン、フェノキサジン環を形成したものが挙げられる。
【0031】
【化14】

【0032】
Ar1〜Ar3は、ジ置換アミノ基、特にアルキル基、アリール基、とりわけ電子供与性の大きいアリール基で置換されたジ置換アミノ基を置換基として有するものが好ましく、Ar1〜Ar3がすべてジ置換アミノ基で置換されているものが合成の容易さの面からより一層好ましい。
【0033】
なお、前記一般式(I)で表される化合物において、Ar1〜Ar3は各々Tと共役系が繋がる状態で結合している。この共役系が繋がる状態とは、Ar1−T(−Ar2)−Ar3の結合鎖間でπ電子が非局在化し得る状態を示し、例えば、Ar1〜Ar3の芳香環(炭化水素環、複素環)とTの芳香環又は窒素とが単結合、ビニレン基、エチニレン基等で連結されることにより共役系がつながる状態などが挙げられる。この結合鎖としては、具体的には、単結合、炭素/炭素二重結合、炭素/窒素二重結合、窒素/窒素二重結合、炭素/炭素三重結合が挙げられ、特に二光子吸収断面積が大きいことから、単結合、炭素/炭素二重結合が含まれるものが挙げられる。
【0034】
〈Ar4〜Ar6について〉
前記一般式(I)において、Ar4〜Ar6は芳香族性を有するものが高い2光子断面積を有する為好ましく、その基本構造は前記一般式(III)に表される2価の複素環基である。
【0035】
前記一般式(III)において、環Zとしては、置換基を有していてもよい5又は6員環の、単環又は2〜6縮合環からなる複素環又は芳香族炭化水素環が挙げられる。環Zが複素環である場合、この複素環を構成するヘテロ原子としては特に制限はないが、通常、O、S、Se、N、P、Siなどの各原子が挙げられ、環の安定性の面から好ましくはO、S、Nが挙げられ、複素環が電子吸引性になり易いことから特に好ましくはNが挙げられる。これらのヘテロ原子を環Zに2個以上含む場合、そのヘテロ原子は同じ原子であっても異なる原子であってもよい。
【0036】
環Zの具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環、イミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、チアゾール環、ジベンゾチオフェン環等が挙げられ、生成物の溶解性が高いことから単環が好ましく、合成の容易さから特に好ましくはベンゼン環等の6員環の芳香族炭化水素環、ピリジン環等のN等のヘテロ原子を有する芳香族複素環である。
【0037】
前記一般式(III)の環Aは、環Zと共有する2つの炭素原子とともに構成される、置換基を有してもよい複素環が挙げられ、この複素環を構成するヘテロ原子としては特に制限はないが、通常O、S、Se、N、P、Siなどの各原子が挙げられる。これらのヘテロ原子を環Aに2個以上含む場合、そのヘテロ原子は同じ原子であっても異なる原子であってもよい。環Aはヘテロ原子の電子吸引効果をπ共役系が分子全体に影響させる為に好ましくは芳香族複素環であり、特に好ましくは電子吸引効果の高いN、S、O等のヘテロ原子を有する5員環の芳香族複素環である。
【0038】
前記一般式(III)において、環A及び環Zが有していてもよい置換基としては、一般式(IIIa),(IIIb)における置換基として後述する置換基が挙げられる。
【0039】
特に、一般式(III)で表されるAr4〜Ar6は、下記一般式(IIIa),(IIIb)のいずれかで表される、互いに2つの炭素原子を共有する2つの環状構造からなる2価の複素環基であることが合成の容易である為に好ましく、特に、電子吸引性の5員環を有する下記一般式(IIIa)で表されることが好ましい。
【0040】
【化15】

[式(IIIa),(IIIb)において、環Zは一般式(III)における環Zと同義の環よりなる2価の基であり、一般式(IIIa)中、Yは16族元素を表し、一般式(IIIb)中、XはN又はSを表す。]
【0041】
上記一般式(IIIa)において、Yは電子吸引効果が高い為好ましくはO又はSである。
【0042】
上記一般式(IIIa),(IIIb)で表されるAr4〜Ar6が有していてもよい置換基、即ち、環Z、或いは一般式(IIIa)におけるY原子を含む複素環、一般式(IIIb)におけるX原子を含む複素環が有し得る置換基としては、アルキル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアミノ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0043】
より具体的には、置換基群Qとして具体例を挙げたような炭素数1〜9のアルキル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5又は6員環の単環又は2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数2〜18のヘテロアリールオキシ基、炭素数7〜18のアラルキルオキシ基、炭素数3〜18のヘテロアラルキルオキシ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数6〜30のアリールアミノ基、炭素数2〜30のヘテロアリールアミノ基、炭素数1〜20のアシル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基などである。
【0044】
また、一般式(IIIa)、(IIIb)において、各々の環が有する上述のような置換基のうち、隣接する基同士が結合して環状構造を形成していてもよい。隣接する置換基同士が結合して環状構造を形成するものとしては、例えば、一般式(IIIa)、(IIIb)における環Zのベンゼン環に、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して前述のフェノキサチン、フェノチアジン、フェノキサジン環を形成したものが挙げられる。
【0045】
Ar4〜Ar6が有する置換基としては、好ましくは炭素数10以下の有機基、特にニトロ基、シアノ基、エステル基、カルボキシル基などの電子吸引性の基が挙げられる。特に、シアノ基、エステル基、カルボキシル基が好ましい。
【0046】
〈Ar7〜Ar9について〉
前記一般式(I)中のAr7〜Ar9は各々独立に芳香環基、即ち複素環基又は芳香族炭化水素環基、好ましくは5又は6員環の、単環又は2〜6縮合環からなる、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していてもよい。
【0047】
ここで芳香族炭化水素環基として、好ましくは6員環の単環又は2〜10縮合環由来の基が挙げられる。具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ピレニル基などが挙げられ、特に合成の容易さや、原料の入手のしやすさからフェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0048】
一方、芳香族複素環基としては、好ましくは5又は6員環、特に好ましくは5員環の、単環又は2〜10縮合環由来の基が挙げられる。複素環を構成するヘテロ原子としては特に制限はないが、通常、O、S、Se、N、P、Siなどの各原子が挙げられる。これらのヘテロ原子を2個以上含む場合、そのヘテロ原子は同じ原子であっても異なる原子であってもよい。複素環の安定性の面から特に好ましいヘテロ原子はO,S,Nである。芳香族複素環基の具体例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾール、キサンテン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、フェナンスリジン、アクリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、ベンゾイミダゾール、1,8−ナフチリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン等の環由来の1価の芳香族複素環基が挙げられる。これらのうち、チオフェン、フラン、ピロール環由来の基は電子供与効果が高いために好ましく、チオフェン環由来の基が安定性及び電子供与性効果を併せ持つ為特に好ましい。
【0049】
これらAr7〜Ar9は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
これらAr7〜Ar9が有していてもよい置換基としては、アルキル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアミノ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0051】
より具体的には、置換基群Qとして具体例を挙げたような炭素数1〜9のアルキル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5又は6員環の単環又は2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数2〜18のヘテロアリールオキシ基、炭素数7〜18のアラルキルオキシ基、炭素数3〜18のヘテロアラルキルオキシ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数6〜30のアリールアミノ基、炭素数2〜30のヘテロアリールアミノ基、炭素数1〜20のアシル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基などである。
【0052】
また、Ar7〜Ar9において、各々の環が有する上述のような置換基のうち、隣接する基同士が結合して環状構造を形成していてもよい。隣接する置換基同士が結合して環状構造を形成するものとしては、例えば、Ar7〜Ar9としてのベンゼン環基に、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して前述のフェノキサチン、フェノチアジン、フェノキサジン環を形成したものが挙げられる。
【0053】
Ar7〜Ar9は、ジ置換アミノ基、特にアルキル基、(ヘテロ)アリール基、とりわけ電子供与性の大きい(ヘテロ)アリール基で置換されたジ置換アミノ基を置換基として有するものが好ましく、Ar7〜Ar9のいずれもジ置換アミノ基で置換されているものが合成の容易さの面からより一層好ましい。
【0054】
なお、前記一般式(I)で表される化合物は、蛍光を有し、通常水に不溶性であり、その分子量は通常5000以下、好ましくは3000以下である。
【0055】
以下に、前記一般式(I)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基である。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
【表10】

【0066】
【表11】

【0067】
【表12】

【0068】
【表13】

【0069】
【表14】

【0070】
【表15】

【0071】
【表16】

【0072】
【表17】

【0073】
【表18】

【0074】
【表19】

【0075】
【表20】

【0076】
【表21】

【0077】
【表22】

【0078】
以下に、一般式(I)において、Ar1、Ar2及びAr3が芳香環Araであり、Ar4、Ar5及びAr6が一般式(III)で表され、Ar7、Ar8及びAr9が芳香環Arbであり、Tが一般式(II)で表される構造であり、一般式(II)中、Ar10、Ar11及びAr12が芳香環Arcであり、一般式(III)中、環Aと環Zは、炭素原子を2個共有して縮合した環で表される構造である化合物の一般的な合成法を説明する。
【0079】
【化16】

【0080】
下記一般式(IV)で表される複素環化合物を臭化水素酸中で、過剰の臭素を用いて臭素化を行い、下記一般式(V)で表されるジブロモ体(V)を製造する。このジブロモ体(V)を下記一般式(VI)で表される化合物とパラジウム触媒を用いてモル比1:1で反応を行うと、下記一般式(VII)で表されるモノブロモ体が合成される。このモノブロモ体(VII)と下記一般式(VIII)で表される化合物とをパラジウム触媒を用いてモル比1:1でカップリング反応を行い、下記一般式(IX)で表されるアルデヒド体を製造する。このアルデヒド体(IX)を1.2倍モルの水素化硼素ナトリウムで還元して、下記一般式(X)で表されるアルコール体とした後、過剰の三臭化燐で臭素化を行うことで、下記一般式(XI)で表されるブロモメチル体を製造することができる。このブロモメチル体(XI)を過剰の亜リン酸トリエチルで処理することで下記一般式(XII)で表されるリン酸エステル体を製造し、このリン酸エステル体(XII)を下記一般式(XIII)で表される化合物と金属アルキルオキシドに代表される塩基存在下で反応させることにより目的化合物(XIV)を得ることができる。
【0081】
【化17】

【0082】
また、アルデヒド体(IX)と下記一般式(XV)で表されるトリリン酸エステル体を金属アルキルオキシドに代表される塩基存在下で反応させることにより目的化合物(XVI)を得ることができる。
【0083】
【化18】

【0084】
本発明の有機非線形光学材料は、前記一般式(I)で表される化合物の1種のみを含むものであっても良く、また、2種以上を任意の組み合せ及び任意の比率で含むものであっても良い。
【0085】
本発明の有機非線形光学材料は、前記一般式(I)で表される化合物、例えば、各種合成法で得られた前記一般式(I)で表される化合物の粉末状結晶をそのままの状態で、ブロックや粉末として、或いは、ヘキサン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、エーテル、テトラハイドロフラン、酢酸エチル、アセトン、2−ブタノン、メタノール、エタノール、トリフルオロメチルベンゼン、酢酸、トリエチルアミン等の溶媒、或いはポリマー、又はゲル中に溶解ないし分散させた液状物として、或いは、このような液状物を基板に塗布した後溶媒を除去して得られる薄膜状物として、各種用途に供することができる。
【0086】
なお、有機非線形光学材料が、前記一般式(I)で表される化合物を含んでいることは、該材料を分解、抽出等の処理を施した後、例えば、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)や核磁気共鳴スペクトル法(NMR)などで分析することにより確認することができる。
【0087】
前記一般式(I)で表される化合物を構成成分の少なくとも一部として含有する本発明の有機非線形光学材料、その中でも特に前記一般式(III)で表される構造を有する本発明の有機非線形光学材料、によれば、2光子吸収を起こし易く、ストークスシフトが大きく、AF50の2光子吸収断面積を45GMとしたときの2光子吸収断面積の下限が通常150GM、好ましくは250GM、特に好ましくは300GMで、上限は5000GM、好ましくは1000GMであるような発光効率に優れた有機非線形光学材料が提供される。なお、本発明の有機非線形光学材料のストークスシフトは下限が通常120nm、上限は300nmである。
【0088】
前記一般式(I)で表される構造を有する本発明の有機非線形光学材料が高い2光子吸収断面積を示すのは高い極性を持ったパイ共役性分子の3量体であることにより、またストークスシフトが大きいのは、強い電子吸引性を有する一般式(III)で表される部位と電子供与効果を有する部位が分子内に存在しており、分子内電荷移動が生じる為であると推定される。
【実施例】
【0089】
以下に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
[合成例1]
[1]4-[(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]-7-(4-ヒドロキシメチル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール(b)の合成
【化19】

【0091】
エタノール(20mL)に4-[7-(4-ジフェニルアミノフェニル)-ベンゾ[1,2,5]チアジアゾール-4-イル]-ベンズアルデヒド(非特許文献6)(a)(150mg,0.31mmol)と水素化ホウ素ナトリウム(35mg,0.93mmol)を加え、80℃で1時間加熱攪拌した。放冷後、反応溶液を水(60mL)に注ぎ、析出した沈殿を濾別してヘキサンで洗浄し、クロロホルムとヘキサンで再結晶することにより、赤色粉末状の4-[(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]-7-(4-ヒドロキシメチル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール(b)を収率93%(140mg,0.29mmol)で得た。
【0092】
融点(融点測定機にて測定):203-204℃
赤外吸収スペクトル(KBr)νmax:3427(・OH),1590,1486,1324,1283,1195,1179,890,818cm-1
プロトン−核磁気共鳴スペクトル法1H NMR(CDCl3):δ1.69(t,J=5.6Hz,2H,OH),4.81(d,J=5.6Hz,2H,CH2),7.07(t,J=7.3Hz,2H,ArH),7.17-7.34(m,10H,ArH),7.56(d,J=8.1Hz,2H,ArH),7.76(d,J=7.6Hz,1H,ArH),7.79(d,J=7.6Hz,1H,ArH),7.88(d,J=8.7Hz,2H,ArH),7.97(d,J=8.1Hz,2H,ArH)
高速原子衝突イオン化質量分析法FAB-MS(NBA,positive):485(M+)
元素分析Anal.Calcd for C31H23N3OS・0.03CHCl3:C=76.18,H=4.75,N=8.59
Found:C=76.15,H=4.80,N=8.62
非特許文献6:A.S.D. Sandanayaka,K.Matsukawa,T.Ishi-i,S.Mataka,Y.Araki,O.Ito,J.Phys.Chem.A,2004,108,19995
【0093】
[2]4-[4-(ブロモメチル)フェニル]-7-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]-2,1,3-ベンゾチアジアゾール(c)の合成
【化20】

【0094】
アルゴン雰囲気下、THF(テトラヒドロフラン)(20mL)に、化合物(b)(100mg, 0.21mmol)を溶解した後、0℃で三臭化リン(10μL, 0.10mmol)を滴下し、室温まで昇温して3時間攪拌した。反応溶液を氷浴に注いだ後にトルエンで抽出した(50mL×3回)。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(KANTO 60N)に付し、クロロホルムとヘキサン(=1:1体積比)で展開した。得られた固体をクロロホルムとヘキサンで再結晶することにより、赤色針状晶の4-[4-(ブロモメチル)フェニル]-7-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]-2,1,3-ベンゾチアジアゾール(c)を収率53%(62mg, 0.11mmol)で得た。
【0095】
融点(融点測定機にて測定):186-188℃
赤外吸収スペクトル(KBr)νmax:1589,1481,1318,1279,887,823,752cm-1
プロトン−核磁気共鳴スペクトル法1H NMR(CDCl3):4.59(s,2H,CH2),7.07(t,J=7.3Hz,2H,ArH),7.18-7.34(m,10H,ArH),7.58(d,2H,J=8.3Hz,ArH),7.76(d,J=7.6Hz,1H,ArH),7.79(d,J=7.6Hz,1H,ArH),7.89(d,J=8.7Hz,2H,ArH),7.97(d,J=8.3Hz,2H,ArH)
高速原子衝突イオン化質量分析法FAB-MS(NBA,positive):547,549[(M+H)+]
元素分析Anal.Calcd for C31H22BrN3S:C=67.88,H=4.04,N=7.66
Found:C=67.99,H=4.02,N=7.62
【0096】
[3]4-[4-(ジメトキシホスフォリルメチル)フェニル]-7-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]-2,1,3-ベンゾチアジアゾール(d)の合成
【化21】

【0097】
化合物(c)(130mg, 0.24mmol)と亜リン酸トリメチル(285mg, 2.35mmol)の混合物を150℃で12時間加熱攪拌し、放冷後、反応混合物をヘキサン(150mL)に注いだ。沈殿物を濾別してヘキサンで洗浄することにより、橙色プリズム晶の4-[4-(ジメトキシホスフォリルメチル)フェニル]-7-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]-2,1,3-ベンゾチアジアゾール(d)を収率83%(115mg, 0.20mmol)で得た。
【0098】
融点(融点測定機にて測定):198-201℃
赤外吸収スペクトルIR(KBr)νmax:1590,1483(・P=O),1329,1282,1248,1180,1055,1027,888,861,830cm-1
プロトン−核磁気共鳴スペクトル法1H NMR(CDCl3):3.27(d,J=21.8Hz,2H,CH2),3.74(d,J=10.9Hz,6H,OCH3),7.07(t,J=7.3Hz,2H,ArH),7.17-7.33(m,10H,ArH),7.48(dd,J=2.6,8.3Hz,2H,ArH),7.75(d,J=7.9 Hz,1H,ArH),7.78(d,J=7.9Hz,1H,ArH),7.88(d,J=8.3Hz,2H,ArH),7.95(d,J=7.6Hz,2H,CHO)
高速原子衝突イオン化質量分析法FAB-MS(NBA,positive):577(M+)
元素分析Anal.Calcd for C33H28N3O3PS:C=68.62,H=4.89,N=7.29
Found:C=68.68,H=4.91,N=7.27
【0099】
[4]トリス{4-{2-{4-[7-(4-N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゾチアジアゾールイル}フェニル}-(E)-エテニル}フェニル}アミン(前掲の化合物57)の合成
【化22】

【0100】
アルゴン雰囲気下、室温で無水THF(20mL)に化合物(d)(110mg, 0.19mmol)とトリス(4-ホルミルフェニル)アミン(e)(19mg, 0.058mmol)を溶解し、カリウムt-ブトキシド(38mg, 0.34mmol)を加えた後に8時間攪拌した。反応溶液を1.2規定塩酸水溶液(50mL)に注いだ後にクロロホルムで抽出した(30mL×3回)。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(KANTO 60N)に付し、クロロホルムとヘキサン(5:2, 体積比)で展開した。得られた固体をクロロホルムとヘキサンで再結晶することにより、赤色粉末状のトリス{4-{2-{4-[7-(4-N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゾチアジアゾールイル}フェニル}-(E)-エテニル}フェニル}アミン(化合物57)を収率59%(58mg, 0.034mmol)で得た。
【0101】
融点(融点測定機にて測定):186-188℃
赤外吸収スペクトル(KBr)νmax:2924,1590,1480,1278,1073,888,824,753,697cm-1
プロトン−核磁気共鳴スペクトル法1H NMR(CDCl3):7.08(t,J=7.3Hz,6H,ArH),7.18-7.34(m,42H,olefinic H and ArH),7.50(d,J=8.6Hz,6H,ArH),7.69(d,J=8.6Hz,6H,ArH),7.77(d,J=7.4Hz,3H,ArH),7.82(d,J=7.4Hz,3H,ArH),7.89(d,J=8.9Hz,6H,ArH),8.01(d,J=8.6Hz,6H,ArH)
マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法MALDI-TOF MS(dithranol,positive):1683.81[(M+H)+,Calcd for C114H78N10S3: 1682.56]
元素分析Anal.Calcd for C114H78N10S3:C=81.30,H=4.67,N=8.32
Found:C=80.98,H=4.79,N=8.15
【0102】
[合成例2]
1,3,5-トリス{2-{4-{7-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゾチアジアゾールイル}フェニル}-(E)-エテニル}ベンゼン(前掲の化合物1)の合成
【化23】

【0103】
アルゴン雰囲気下、室温で無水THF(30mL)に1,3,5-トリス(ジメトキシホスフォリルメチル)ベンゼン(f)(61mg, 0.14mmol)とエタノール(20mL)に4-[7-(4-ジフェニルアミノフェニル)-ベンゾ[1,2,5]チアジアゾール-4-イル]-ベンズアルデヒド(非特許文献6)(a)(200mg, 0.41mmol)を溶解し、カリウムt-ブトキシド(71mg, 0.63mmol)を加えた後に40℃で12時間加熱攪拌した。反応溶液を1.2規定塩酸水溶液(100mL)に注いだ後にクロロホルムで抽出した(40mL×3回)。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(KANTO 60N)に付し、クロロホルムで展開した。得られた固体をクロロホルムとヘキサンで再結晶することにより、赤色粉末状の1,3,5-トリス{2-{4-{7-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゾチアジアゾールイル}フェニル}-(E)-エテニル}ベンゼン(化合物1)を収率63%(130mg, 0.088mmol)で得た。
【0104】
融点(融点測定機にて測定):176-178℃
赤外吸収スペクトル(KBr)νmax:1590,1481,1280,888,830,753cm-1
プロトン−核磁気共鳴スペクトル法1H NMR(CDCl3):7.08(t,J=7.3Hz,6H,ArH),7.19-7.34(m,30H,ArH),7.68(s,3H,ArH),7.77(d,J=8.6Hz,6H,ArH),7.79(d,J=7.3Hz,3H,ArH),7.80(d,J=15.8Hz,3H,olefinic H),7.83(d,J=15.8Hz,3H,olefinic H),7.85(d,J=7.3Hz,3H,ArH),7.90(d,J=8.6Hz,6H,ArH),8.06(d,J=8.3Hz,6H,ArH)
高速原子衝突イオン化質量分析法FAB-MS(NBA,positive):1517(M+)
元素分析Anal.Calcd for C102H69N9S3:C=80.76,H=4.58,N=8.31
Found:C=80.46,H=4.65,N=8.20
【0105】
[実施例及び比較例]
合成例1,2で得られた各化合物57,1について、2光子吸収断面積、2光子励起蛍光ピーク波長、及び線形吸収ピーク波長を下記方法で測定し、結果を表12に示した(実施例1,2)。
また、各化合物のストークスシフトを2光子励起蛍光ピーク波長と線形吸収ピーク波長との差で算出し、結果を表23に示した。
【0106】
比較のため、下記化合物X−1についても同様に評価を行い、結果を表12に示した(比較例1)。
【0107】
【化24】

【0108】
〈2光子吸収断面積の評価方法〉
2光子吸収断面積評価は、Guang S.He,Lixiang Yuan,Ning Cheng,Jayant D.Bhawalkar,Paras N.Prasad,Lawrence L.Brott,Stephen J.Clarson,Bruce A.Reinhardt,J.Opt.Soc.Am.B Vol.14,No.5(1997)pp.1079-1087記載の方法を参考にして行った。測定光源には、フェムト秒チタンサファイアレーザ(波長:800nm、パルス幅:100fs、繰り返し:1kHz、平均出力:2W、ピークパワー:20GW)を用い、レーザからの出力を適当に減衰させて2光子吸収断面積を測定した。測定にはZ−scan法を用いて励起光密度1〜40GW/cm2の範囲で変化させた。測定試料には、下記表12に示す濃度で各化合物をトルエンに溶かした溶液を用い、この溶液を4面透明の1cm角石英セルに入れて測定に供した。
【0109】
また、それぞれの化合物の測定時に、標準サンプルとなるAF50を測定した。上記のシステムではAF50の数値は45GMから55GMの値で得られる。2光子吸収断面積を規格化するために、すべての2光子吸収断面積の値は、サンプルを測定した後にAF50を測定し、そのAF50の2光子吸収断面積を45として算出した。
【0110】
〈2光子励起蛍光ピーク波長の評価方法〉
2光子励起蛍光波長評価は2光子吸収断面積の評価方法に準じた方法で実施した。光源からのレーザを試料に照射する部分までは2光子吸収断面積と同じ配置で行なった。試料及び試料セルは2光子吸収断面積測定と同じものを用いた。励起光強度10mW、励起光密度10GW/cm2の条件で試料を励起し、試料から発生した蛍光は入射レーザ光と直交する方向にレンズを置き集光した後、分光測定し蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトルは装置の波長依存性を補正した後、ピーク波長を読み取った。なお、ピーク波長は、±1nmの誤差を含むものとする。
【0111】
〈線形吸収ピーク波長の評価方法〉
島津製作所製紫外可視分光光度計UV−3100Sを用いて実施した。測定試料には下記表12に示す濃度で各化合物をトルエンに溶かした溶液を用い、この溶液をセル長1cmの石英セルに入れ、トルエンのみを同じセルに入れたものを参照試料として測定に供した。なお、ピーク波長は、±1nmの誤差を含むものとする。
【0112】
【表23】

【0113】
表23より、本発明の有機非線形光学材料は、二光子吸収断面積が大きく、またストークスシフトが大きく、発光効率に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の有機非線形光学材料は、光メモリー、2光子造形、2光子フォトダイナミックセラピー等の分野で2光子吸収化合物としての応用が期待される。特に、本発明の有機非線形光学材料は2光子発光効率に優れることから、光変換材料、光増感剤としての応用も期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を構成成分の少なくとも一部として含有することを特徴とする有機非線形光学材料。
【化1】

[式(I)中、Tは3価の芳香環基又は、下記一般式(II)の構造を表し、
Ar1〜Ar3は各々独立に置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表し、
Ar4〜Ar6は各々独立に下記一般式(III)で表される2価の複素環基を表し、
Ar7〜Ar9は各々独立に置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表す。
ただし、TとAr1〜Ar3は共役系が繋がる状態で結合している。
【化2】

(式(II)中、Nは窒素原子を表し、Ar10〜Ar12は各々独立に置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表す。)
【化3】

(式(III)中、環Aと環Zは、炭素原子を2個共有して縮合した環を表し、各々置換基を有していてもよい。)]
【請求項2】
一般式(III)において、環Zは置換基を有していてもよい6員環を表し、環Aは置換基を有していてもよい5員環を表していることを特徴とする請求項1に記載の有機非線形光学材料。
【請求項3】
一般式(III)が下記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機非線形光学材料。
【化4】

[式(IIIa),(IIIb)において、環Zは一般式(III)における環Zと同義の環よりなる2価の基であり、一般式(IIIa)中、Yは16族元素を表し、一般式(IIIb)中、XはN又はSを表す。]
【請求項4】
下記一般式(III)で表される構造を有し、AF50の2光子吸収断面積を45GMとしたときの2光子吸収断面積が250〜5000GMであり、ストークスシフトが120〜300nmであることを特徴とする有機非線形光学材料。
【化5】

[式(III)中、環Aと環Zは、炭素原子を2個共有して縮合した環を表し、各々置換基を有していてもよい。]

【公開番号】特開2006−251350(P2006−251350A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67580(P2005−67580)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】