説明

有機高分子の回収システム

【課題】水に易溶解性の有機高分子と難溶解性の有機高分子とを含む排水中から難溶解性の有機高分子を吸着し、水に易溶解性の有機高分子を含む溶液を再利用する。
【解決手段】水に易溶解性の第1の有機高分子及び難溶解性の第2の有機高分子を含む廃液に、前記第2の有機高分子を吸着する、磁性体コア粒子及びこの磁性体コア粒子を覆うようにして形成された吸着層からなる吸着材を混合する。次いで、前記廃液中から、前記吸着材ととともに前記第2の有機高分子を磁気分離によって回収し、前記第1の有機高分子を含む溶液を得、前記溶液を再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子の回収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、工業排水などの廃液の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには廃液の浄化、すなわち廃液中から他の物質を分離することが必要である。
【0003】
液体からほかの物質を分離する方法としては、各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集、さらには所定の吸着材による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。
【0004】
これらのうち、膜分離はもっとも一般的に使用されている方法のひとつであるが、水中に分散した油類を除去する場合には膜の細孔に油が詰まり易く、膜の寿命が短くなりやすいという問題がある。このため、水中の油類を除去するには膜分離は適切でない場合が多い。
【0005】
また、重油等の油類が含まれている水からそれらを除去する手法としては、例えば重油の浮上牲を利用し、水上の設置されたオイルフェンスにより水の表面に浮いている重油を集め、表面から吸引および回収する方法、または、重油に対して吸着性をもった疎水性材料を水上に敷設し、重油を吸着させて回収する方法等が挙げられる。
【0006】
一方、切削加工や研削加工などの機械加工には、加工の過程で生じる摩擦や磨耗を軽減するため、潤滑や冷却などを目的に水溶性(水易溶解性)の切削液が用いられる。これらは、機械内や工場内を循環して再利用されているが、加工時にギアオイルなどの油(水難溶解性)が混入して切削液を汚染する。このギアオイルの除去には、表面に浮いた油をとるオイルスキマーなどの簡易的な装置が使用されているが、その除去能力は低く、切削液の循環利用に支障が出る場合が多い(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−200331号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題に鑑み、水に易溶解性の有機高分子と難溶解性の有機高分子とを含む排水中から難溶解性の有機高分子を吸着し、水に易溶解性の有機高分子を含む溶液を再利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、水に易溶解性の第1の有機高分子及び難溶解性の第2の有機高分子を含む廃液に、前記第2の有機高分子を吸着する、磁性体コア粒子及びこの磁性体コア粒子を覆うようにして形成された吸着層からなる吸着材を混合するステップと、前記廃液中から、前記吸着材ととともに前記第2の有機高分子を磁気分離によって回収し、前記第1の有機高分子を含む溶液を得るステップと、前記溶液を再利用するステップと、を具えることを特徴とする、有機高分子の回収方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水に易溶解性の有機高分子と難溶解性の有機高分子とを含む排水中から難溶解性の有機高分子を吸着し、水に易溶解性の有機高分子を含む溶液を再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態における有機高分子の回収方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。
【0013】
(吸着材)
本実施形態において、吸着材は、磁性体コア粒子及びこの磁性体コア粒子を覆うようにして形成された吸着層からなる。
【0014】
<磁性体コア粒子>
上述のように、吸着材を構成するコア粒子は磁性体であることが必要である。これは以下に示すように、実際の有機高分子の回収を行う場合に、有機高分子を吸着した吸着材を磁気によって廃液中から分離することに起因している。
【0015】
磁性体コア粒子を構成する磁性体としては、室温領域において強磁性を示す物質であることが望ましい。しかしながら、本実施形態に当ってはこれらに限定されるものではなく、強磁性物質を全般的に用いることができ、例えば鉄、および鉄を含む合金、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライトなどが挙げられる。
【0016】
フェライト系化合物は、水中での安定性に優れているので、本実施形態のように、廃液から有機高分子を回収するような操作においては好適に用いることができる。特に、磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0017】
なお、磁性体コア粒子の大きさは、特に限定されるものではなく、以下に示すように、最終的な吸着材の大きさが所定の値となるように設定するが、例えば、0.05〜100μm、好ましくは0.2〜5μmである。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。
【0018】
上記磁性体コア粒子の平均粒子径が100μmよりも大きいと、凝集する粒子が大きくなりすぎて、最終的に得られる吸着材の水(廃液)への分散が悪くなる傾向がある。さらに、コア粒子、すなわち吸着材の実効的な表面積が減少して、目的とする有機高分子の吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また粒子径が0.05μmより小さくなると、コア粒子が緻密に凝集し、吸着材の表面積が小さくなって、上記同様の不利益を生じる場合がある。
【0019】
磁性体コア粒子の大きさは特に限定されるものではなく、球状、多面体、不定形など任意の形状とすることができる。望ましい磁性体コア粒子の粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すれば良く、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。磁性体コア粒子が鋭角な角を持つと、後にその表面に対して吸着層を形成する際に、この吸着層を傷つけてしまい、目的とする吸着材の形状を維持しにくくなってしまうことがある。
【0020】
なお、磁性体コア粒子に対しては、必要に応じてCuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理を施すことができる。また、表面の腐食防止などの観点から表面処理することもできる。
【0021】
<吸着層>
吸着材を構成する吸着層は、第1に、スチレン樹脂、水添加スチレン樹脂、ブタジエン樹脂、イソプレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、及びフェノール樹脂、及びアルキルメタアクリレート樹脂等から構成することができる。これらの樹脂は、水易溶解性の有機高分子に対しての親和性が低いため吸着性を示さず、水難溶解性の有機高分子に対しての親和性が高いために吸着性を示すようになる。したがって、上記樹脂から吸着層を構成することによって、廃液中から目的とする水難溶解性の有機高分子のみを取り出すことができる。
【0022】
また、上述した樹脂は、水に対する溶解性が低く、水に対する溶解度が10mg/L以下であり、さらには10μg/L以下である。したがって、吸着材を廃液中に浸漬させて水難溶解性の有機高分子を吸着する際において、上記樹脂が廃液中に溶出するのを防止し、有機高分子の吸着材としての本来的な効果を奏することができるようになる。
【0023】
さらに、吸着材は、以下に説明するような回収操作において、吸着した水難溶解性の有機高分子を所定の溶媒を用いて洗浄し除去した後、再利用に供するが、上述した樹脂は、このような溶媒に対しても高い耐性(例えば1000mg/L以下の溶解度)を示す。したがって、上述した樹脂は、溶媒による洗浄後においても再利用に供することができ、有機高分子の回収方法における吸着材の吸着層として好ましく用いることができる。
【0024】
なお、スチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、アルキルメチルメタクリレート樹脂は、上述した溶媒による洗浄を50回程度実施した場合においても劣化することがないので、特に好ましく用いることができる。
【0025】
また、上述した樹脂は単独で用いることもできるが、複数の樹脂の複合物とすることもできる。さらには、上述した樹脂を構成するモノマー同士を共重合させることにより、上記樹脂を構成する骨格を含むような共重合体とすることもできる。
【0026】
磁性体コア粒子に対する樹脂吸着層の形成は、所定の溶媒中に上述した磁性体コア粒子を分散させるとともに、上記樹脂を溶解させた溶液を準備し、スプレードライ法などによる造粒の工程を経て実施することができる。
【0027】
吸着材を構成する吸着層は、第2に、カップリング剤とすることができる。この場合、磁性体コア粒子の表面をカップリング剤で処理する。処理は、乾式及び湿式のいずれであってもよい。
【0028】
カップリング剤としては、シランカップリング剤、すなわち、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン、ドデカトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ナフタレントリメトキシシラン等の芳香族シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシメトキシシラン等のビニルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランを挙げることができる。その他、チタネート、アルミキレート、ジルコアルミネート等のカップリング剤をも用いることができる。
【0029】
但し、水難溶解性の有機高分子の吸着性に優れているとの観点から、シランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0030】
なお、磁性体コア粒子の表面に形成した吸着層であるカップリング剤に対して、水難溶解性の有機高分子と親和性の高い官能基を付加することもできる。例えば、炭素数が1〜30の置換非置換脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などの炭化水素を上記カップリング剤と反応させることによって、上述のような官能基を付加することができる。この場合、上記官能基は、アルキル基等の炭化水素基である。
【0031】
吸着材を構成する吸着層は、第3に、カップリング剤の縮合物とすることができる。このような縮合物は、湿式法で形成することができ、例えば、酸性物質あるいはアルカリ性物質を含む溶液にシランカップリング剤を加えて加水分解反応を起こさせ、噴霧乾燥させると同時に縮合反応させることにより形成することができる。有機溶剤をスラリーの溶媒として使用する場合には、有機溶剤の揮発・漏洩対策を十分に行う必要があるため、プロセスコストが上昇してしまう。したがって、工場等における量産プロセスを考慮した場合には、有機溶剤を使用せずに、環境負荷がほとんど無い水を溶媒としたスラリーを用いることが、プロセスコストの削減や安全性の面から非常に有効である。
【0032】
なお、カップリング剤としては上述したカップリング剤を用いることができ、好ま
しくはシランカップリング剤を用いる。
【0033】
また、カップリング剤の縮合物の縮合度は、10〜数百万程度である。
【0034】
吸着材を構成する吸着層は、第4に、酸化物とすることができる。具体的には、Si、Ti、Zr、Al、Zn、Ba、Sn、W、Mo、Cr、In、Sb、Co、Fe、Nb、Pb、Yb、La、Re、Sr、Th、Taなどの酸化物であって、例えば三酸化コバルト(CoO)、酸化コバルト(CoO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)、インジウムスズオキサイド(ITO)、酸化インジウム(In)、酸化鉛(PbO)、PZT、酸化ニオビウム(Nb)、酸化トリウム(ThO)、酸化タンタル(Ta)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、コバルト酸ランタン(LaCoO)、三酸化レニウム(ReO)、酸化クロム(Cr)、酸化鉄(Fe)、クロム酸ランタン(LaCrO)、チタン酸バリウム(BaTiO)などを挙げることができる。
【0035】
なお、上述した酸化物は、予め粉末状の酸化物を準備しておき、所定の溶媒中に上述した磁性体コア粒子及び粉末状の酸化物を分散させ、スプレードライ法などによる造粒の工程を経て実施することができる。
【0036】
また、上記酸化物を準備する代わりに、上述した金属を含むアルコキシド、アセテート、金属有機酸塩、金属塩、金属石鹸、ハロゲン化物などの前駆体を準備しておき、造粒の際に熱分解等を生ぜしめることによって、上述のような酸化物を形成するようにすることもできる。
【0037】
<吸着材の製造>
本実施形態の吸着材は、例えば上述したように、造粒を行う際に、磁性体コア粒子の表面に油分吸着層を形成することによって得ることができる。造粒に関しては種々の方法が提案されているが、好ましくはスプレードライ法を用いる。スプレードライ法によれば、スプレードライの環境温度や噴出速度などを調整することにより、1次粒子である磁性体コア粒子が凝集した2次凝集体の平均粒子径が調整できる上、凝集した1次粒子の間から有機溶媒が除去される際に孔が形成され、吸着材として好適な多孔質構造を容易に形成させることもできる。
【0038】
スプレードライ法は公知のいかなるものでも構わないが、例えばディスクタイプ、加圧ノズルタイプ、2流体ノズルタイプの装置を用いて行うことができる。
【0039】
スプレードライ法を用いる場合は、上述したように、所定の溶媒を準備し、この溶媒中に磁性体コア粒子を分散させるとともに、樹脂成分を溶解させる、又は粉末状の酸化物を分散させた後、噴出速度等の条件を適宜に設定した状態で、得られた溶液を噴霧することにより、磁性体コア粒子の表面に上記樹脂からなる吸着層又は上記酸化物からなる吸着層を形成することができ、目的とする吸着材を得ることができる。
【0040】
一方、吸着層をカップリング剤又はカップリング剤の縮合物から構成する場合は、上述したように、磁性体粒子の表面をカップリング処理等することによって、目的とする吸着材を得ることができる。
【0041】
なお、スプレードライ法に用いる溶媒は、好ましくは極性溶媒とする。極性溶媒は親水性に優れるので、磁性体コア粒子の表面に微量に存在する水酸基及び/又は酸化物の表面に微量に存在する水酸基と溶媒とが親和し、磁性体コア粒子及び/又は酸化物が凝集せず溶媒中に均一に分散するようになる。このため、得られた吸着材の組成が均一になるので、実際の有機高分子の吸着に対して適しているか否かは、吸着材の大きさのみを考慮すればよい。
【0042】
また、吸着層を樹脂から構成する場合は、樹脂自体は上記溶媒中に溶解しているので、上述のように、溶媒中での磁性体コア粒子の分散性が優れていれば、必然的に均一な組成の吸着材を得ることができる。
【0043】
したがって、得られた吸着材が不良か否かは、分級による選別だけで判断することができ、組成分析等の複雑な操作を必要としない。
【0044】
なお、本実施形態で、“親水性”とは、水と自由に混和するものと定義し、具体的には1気圧において温度20℃で同容量の純水と緩やかにかき混ぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものである。
【0045】
上記極性溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。好ましくは、様々な樹脂を溶解させることのできるアセトン、テトラヒドロフランがよい。
【0046】
本実施形態の吸着材は、5μm以上1mm以下好ましく、さらには10μm以上100μm以下の平均粒子径を持つことが好ましい。このような範囲であると、外部からの磁気力を吸着材の磁性体コア粒子に十分に作用させることができ、以下に説明する有機高分子の磁気(磁力)による分離回収を効果的かつ効率的に行うことができるようになる。
【0047】
(有機高分子の回収)
次に、上述のような吸着材を用いた有機高分子の回収方法の一例について説明する。具体的には、機械加工において、切削剤(水易溶解性の第1の有機高分子)及び潤滑油(水難溶解性の第2の有機高分子)を含む廃液から、潤滑油のみを分離除去して切削剤を含む溶液を得、この溶液を再利用する場合について説明する。
【0048】
図1は、本回収方法を説明するためのフローチャートである。
最初に、機械加工、具体的には切削加工に供する加工部品を準備する(ステップS1)。この加工部品は、その用途に応じてSUS等の材料から適宜構成する。次いで、加工部品を加工機械、本例では切削加工の機械に組み込み、切削加工を行う。この際、加工機械のギア等の駆動部分に対して潤滑油を供給するとともに、加工部品に対して切削剤を供給する(ステップS2)。
【0049】
潤滑油は汎用の鉱物油とすることができる。切削剤は、JIS分類のA1,A2,A3に該当するエマルジョン、ソリューブル、ソリューションのタイプが挙げられる。A1のエマルジョン及びソリューブルは厳密には水易溶解性ではないが、鉱物油等と比較した場合においては、水易溶解性であるので、本例では、このようなエマルジョンも水易溶解性の有機高分子として扱う。
【0050】
次いで、使用済みの潤滑油及び切削剤(廃液)を回収し、例えば貯留槽内に貯める(ステップS3)。次いで、貯留槽内に、上述のようにして得た、本実施形態の吸着材を浸漬させ、潤滑油を吸着するとともに、磁気的な手段を用いて廃液から分離回収する(ステップS4)。吸着材の投入量は潤滑油の濃度及び吸着材の性能に依存するが、潤滑剤の1倍〜10倍量程度投入することが好ましい。なお、潤滑油を吸着材に吸着させるに際しては、適宜攪拌等を実施して、潤滑油と吸着材との接触度合を高めるようにする。
【0051】
吸着材を廃液から磁気的に分離するに際しては、例えば、電磁石や永久磁石による磁力によって吸着材を貯留槽内に固定させ、残液を貯留槽から排出させることによって吸着材を貯留槽内に残存させることができるので、結果的に、吸着材を廃液から磁気的に分離することができるようになる。
【0052】
上述のようにして、廃液から吸着材を除去した後は、切削剤を含む溶液を得ることができる。この溶液は、例えば貯留槽から排出させた残液である。切削剤を含む溶液は、適宜タンクに貯蔵する。
【0053】
本例では、上述したように、廃液の段階において潤滑油を吸着材によって除去するようにしているので、前記溶液中には潤滑油がほとんど含まれない。したがって、前記溶液中の切削剤に潤滑油が混入する度合を極めて低くすることができる。したがって、上記切削剤を含む溶液は、再度上述のような切削加工を行う際に供給すべき切削剤として再利用することができる(ステップS5)。
【0054】
一方、潤滑油を吸着した吸着材は、上記のように分離除去した後、所定の溶媒を用いて洗浄し、潤滑油を分離除去する(ステップS6)。前記溶媒としては、前記吸着材に使用されている樹脂等の吸着層を溶解しないものでなくてはならない。このような溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールや、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、イソブタノール、イソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、キシレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、ジオキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ジブチルエーテル、ジメチルアニリン、テトラヒドロフラン、トルエン、ブタノール、フロン、ヘキシルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0055】
この中でも、特に非極性の溶媒が好ましい。非極性の溶媒は疎水性を示し、特に油分との親和性が高くなるので、吸着材に吸着した潤滑油の洗浄を簡易かつ効率的に行うことができる。また非極性溶媒を用いた場合には、劣化した吸着材の分離除去が非常に容易になる。なお、“疎水性”とは、水の溶解度が10%以下で、水と分離するものと定義する。特に、ヘキサンが油の溶解力が高く、沸点も約70度であって室温では常に安定した液体であるため、扱いやすく好ましい。
【0056】
上述のようにして吸着材から上記溶媒による洗浄によって潤滑油を除去した後は、
潤滑油を含んだ溶媒をそのまま廃棄してもよいが、環境の観点から潤滑油を分離させて、溶媒を回収するのが好ましい。このような分離工程においては、蒸留法を用いることができ、分離して回収した潤滑油を適宜燃焼させて熱源とすることができる。なお、蒸留によって分離された溶媒は、吸着材と潤滑油との分離工程において再利用することができる。
【0057】
また、吸着材から潤滑油を除去した後は、洗浄に使用した溶媒を吸着材から除去する(ステップS7)。溶媒の除去は、他の溶媒(例えば水など)と置換したり、乾燥させたりする方法が挙げられる。この中でも乾燥による除去が好ましい。乾燥工程は特に限定されないが、例えば風通しの良いところで乾燥させたり、減圧乾燥させたり、カラムにつめて通風したりして溶媒を除去する。
【0058】
この時、先の分離工程で分離した潤滑油を燃焼した熱を用いると、使用済みの潤滑油を有効活用できるため好ましい。この際、吸着材の温度が樹脂等の吸着層の軟化温度以下になるようにすると、吸着材の劣化を防ぐことができる。また好ましくは溶剤の蒸気圧が400mmHg以上となるような温度であることが好ましい。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
<吸着材の製造>
ポリメチルメタクリレート138重量部を2400mlのアセトン中に溶解させて溶液とし、その溶液中に平均粒子径2000nmの八面体マグネタイト粒子1500重量部を分散させて溶液とした。この溶液をミニスプレードライヤー(柴田科学株式会社製、B−290型)を用いて噴霧し、球状に凝集した平均2次粒子径が40μmの樹脂複合体、すなわち吸着材を作製した。
【0060】
<油分吸着>
模擬排水として、水溶性切削剤としてポリビニルアルコール1000ppmとジエタノールアミン10000ppmを含む溶液を用い、機械油にベニサンミシン油B-111(株式会社紅椿化学工学所社製)1000ppmを含む溶液を準備した。ビーカー中にこの溶液20mlに対し、上述のようにして製造した吸着材を2000ppm添加し、3分間混合した。
【0061】
<吸着材の分離>
上記溶液から、磁石を用いて吸着材を取り出した後、この溶液と同量のヘキサンを混合して油分を抽出し、GC/MSを用いて濃度分析したところ、溶液中の95%の油分(機械油)が除去されていることが分かった。また、水溶性切削剤の濃度には変化が見られなかった。
【0062】
<吸着材の洗浄>
上述のようにして、溶液から取り出した吸着材に20mlのヘキサンを加え、3分混合し、吸着材を洗浄した。このヘキサン中に含まれる油分をGC/MSを用いて濃度分析したところ、吸着した溶液中の95%の油分のほぼ全量が含まれていることが分かった。また、水溶性切削剤の成分は検出されなかった。このようにして洗浄した吸着材を60℃の乾燥機で30分間乾燥させ、吸着材を再生した。
【0063】
以上より、上記吸着材は、上記機械油を吸着させた後にヘキサンで洗浄することによって再利用できることが確認されるとともに、機械油を除去した上記溶液中はほぼ水溶性切削剤であるポリビニルアルコールとジエタノールアミンのみが残留しているので、この水溶性切削剤中に上述した機械油がほとんど混入しない。したがって、前記水溶性切削剤も再利用できることが分かる。
【0064】
(実施例2)
本実施例では、実施例1に対して吸着材の製造方法のみを代えるのみで、その他の油分吸着等に関しては、実施例1と同様にして実施した。
【0065】
すなわち、磁性体粒子(平均粒子径1μm)を準備し、その表面を洗浄して水酸基を形成させた。具体的には、エタノール中に磁気微粒子を添加し、室温で攪拌した後、5000rpmで3分間遠心分離を実施した。上澄みを除去した後、さらに超純水で同様に3回洗浄を実施した。その後、100℃で30分間乾燥させ、完全に水分を除去した。次に、精製された磁気微粒子(7g)をポリビニルピロリドン(20mg)を含む水(350ml)に入れて12時間攪拌した。
【0066】
次いで、デカンテーションによって水を除去した後、エタノール100mlを加えた。さらに、アンモニア水(25%、10ml)を加えた後、テトラエトキシシラン(TEOS、70mg)を加え、12時間攪拌した。反応終了後、デカンテーションによりエタノール溶液を除去した後、エタノールを加えて再度デカンテーションによりエタノールを除去した。得られた磁気微粒子を50℃で乾燥させ、吸着材を得た。
【0067】
この吸着材に対して、実施例1と同様にして油分の吸着等の操作を実施した。その結果、機械油であるベニサンミシン油1000ppmを含む溶液から、その98%の油分(機械油)を回収できることが判明した。また、前記溶液中における水溶性切削剤の濃度変化は認められなかった。また、前記溶液より分離した吸着材をヘキサンで洗浄したところ、吸着した溶液中の98%の油分のほぼ全量が含まれていることが分かった。また、水溶性切削剤の成分は検出されなかった。このようにして洗浄した吸着材を60℃の乾燥機で30分間乾燥させ、吸着材を再生した。
【0068】
以上より、本実施例においても、上記吸着材は、上記機械油を吸着させた後にヘキサンで洗浄することによって再利用できることが確認されるとともに、機械油を除去した上記溶液中はほぼ水溶性切削剤であるポリビニルアルコール及びジエタノールアミンのみが残留しているので、この水溶性切削剤中に上述した機械油がほとんど混入しない。したがって、前記水溶性切削剤も再利用できることが分かる。
【0069】
(実施例3)
水溶性切削剤をポリビニルアルコール及びジエタノールアミンからスギカットCE-14GA(スギムラ化学工業社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして吸着材を製造し、油分の吸着を実施した。その結果、機械油であるベニサンミシン油1000ppmを含む溶液から、その95%の油分(機械油)を回収できることが判明した。また、前記溶液中における水溶性切削剤の濃度変化は認められなかった。また、前記溶液より分離した吸着材をヘキサンで洗浄したところ、吸着した溶液中の95%の油分のほぼ全量が含まれていることが分かった。また、水溶性切削剤の成分は検出されなかった。このようにして洗浄した吸着材を60℃の乾燥機で30分間乾燥させ、吸着材を再生した。
【0070】
以上より、本実施例においても、上記吸着材は、上記機械油を吸着させた後にヘキサンで洗浄することによって再利用できることが確認されるとともに、機械油を除去した上記溶液中はほぼ水溶性切削剤であるスギカットCE-14GAのみが残留しているので、この水溶性切削剤中に上述した機械油がほとんど混入しない。したがって、前記水溶性切削剤も再利用できることが分かる。
【0071】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0072】
例えば、上記具体例では、水易溶解性の有機高分子として切削剤を挙げたが、これ以外の例えば水溶性多糖類、アミン化合物、アルコール、であっても、本発明を適用することができる。同様に、水難溶解性の有機高分子として潤滑油を挙げたが、これ以外の動植物性油脂、炭化水素、芳香油などを挙げることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に易溶解性の第1の有機高分子及び難溶解性の第2の有機高分子を含む廃液に、前記第2の有機高分子を吸着する、磁性体コア粒子及びこの磁性体コア粒子を覆うようにして形成された吸着層からなる吸着材を混合するステップと、
前記廃液中から、前記吸着材ととともに前記第2の有機高分子を磁気分離によって回収し、前記第1の有機高分子を含む溶液を得るステップと、
前記溶液を再利用するステップと、
を具えることを特徴とする、有機高分子の回収方法。
【請求項2】
前記吸着層は、スチレン樹脂、水添加スチレン樹脂、ブタジエン樹脂、イソプレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、アルキルアクリレート樹脂、フェノール樹脂及びアルキルメタアクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機高分子の回収方法。
【請求項3】
前記吸着層は、カップリング剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機高分子の回収方法。
【請求項4】
前記吸着層は、カップリング剤の縮合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機高分子の回収方法。
【請求項5】
前記吸着層は、酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の有機高分子の回収方法。
【請求項6】
前記第1の有機高分子は切削剤であり、前記第2の有機高分子は油であって、前記廃液は前記切削剤及び前記油を含む機械加工において生成した廃油であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の有機高分子の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−83710(P2011−83710A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238697(P2009−238697)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】