説明

有機EL素子の製造方法

【課題】電極と有機機能膜との界面状態を良好にすることにより、長寿命化を図った有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板2上に第1の電極111を形成する工程と、第1の電極111上に少なくとも有機発光層70を有してなる有機機能層110を形成する工程と、有機機能層110上に第2の電極12を形成する工程と、を備えた有機EL素子の製造方法である。有機機能層のうちの、少なくとも第1電極111に接合する層を形成する工程の後に、基板2を低温にて放置する工程を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)やこれを備えた有機EL装置は、次世代ディスプレイへの期待が高いことから近年特に注目されており、数多くのメーカーにおいて研究がなされている。そして、一部の分野、例えば携帯電話などの小型ディスプレイの分野では、量産が可能なところまで技術が確立されている。
【0003】
ところが、現在では小型・大型を問わず、ディスプレイとしては液晶装置(LCD)が主流となっており、有機EL装置がこれに代わるためには、解決しなければならない課題がいくつか残されている。その一つとして、経時的に輝度が劣化すること、すなわち寿命が短いことが挙げられる。
このような背景のもとに従来では、新しい陰極の成膜方法を用いることにより、陰極界面での膜の密着性を改善し、長寿命化を図った技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、有機EL装置を作製するプロセスとしては、例えばボトムエミッションタイプの場合、基板上にパターニングされた陽極の上に発光層等の有機機能膜を形成し、この有機機能膜上に陰極を形成する。そして、有機機能膜や陰極に悪影響を及ぼす水分や酸素の浸入を防ぐ目的で、通常は吸着剤を用いて封止を行っている。
【特許文献1】特開平10−158821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、初期的な膜の密着性を上げることはできるとしても、連続駆動による経時的な界面変化については考慮されておらず、長寿命化に関しては不十分である。
また、前記の有機EL装置のプロセスにおいても、経時的な輝度劣化の要因がいくつか挙げられる。その一つとして、有機機能膜と陽極、または有機機能膜と陰極との界面状態が変化し、正孔や電子の注入・輸送性が低下することが考えられる。有機機能膜を形成する有機材料と、陽極や陰極といった電極を形成する無機材料とでは、化学的性質や物理的性質が大きく異なることから、その界面の状態が不安定になっている。したがって、キャリア注入型である有機EL素子は、有機機能膜と電極との間の界面状態に大きな影響を受けると、前記したように正孔や電子の注入・輸送性が低下してしまい、結果として経時的な輝度劣化が早まり、長寿命化が損なわれてしまうのである。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、電極と有機機能膜との界面状態を良好にすることにより、長寿命化を図った有機EL素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の有機EL素子の製造方法は、基板上に第1の電極を形成する工程と、前記第1の電極上に少なくとも有機発光層を有してなる有機機能層を形成する工程と、前記有機機能層上に第2の電極を形成する工程と、を備えた有機EL素子の製造方法において、
前記有機機能層のうちの、少なくとも前記第1電極に接合する層を形成する工程の後に、前記基板を低温にて放置する工程を有していることを特徴としている。
【0008】
この有機EL素子の製造方法によれば、低温にて放置することにより、無機材料からなる第1の電極と、有機材料からなる有機機能層との間の界面の状態が安定化し、良好になる。したがって、第1の電極と有機機能層との間の界面でのキャリアの注入・輸送性の経時的な低下が抑制され、これにより、経時的な輝度低下が抑制されて長寿命化が図られる。すなわち、有機機能層の形成には熱処理を伴うが、その際、無機材料からなる第1の電極と有機材料からなる有機機能層との間には比較的大きな熱膨張係数差があることから、この熱膨張係数差に起因して第1の電極と有機機能層との間に応力が生じ、その結果、これらの間の界面状態が不安定になる。そこで、前記したように低温にて放置することで、有機機能層または電極の収縮を起こさせ、その際の収縮差を利用することにより、第1の電極と有機機能層との間の応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを低減し、前記したように界面状態を安定化して良好にすることができる。
【0009】
また、前記有機EL素子の製造方法においては、前記の低温に放置する工程を、前記第2の電極を形成する工程の後に行うのが好ましい。
このようにすれば、第1の電極と有機機能層との間の界面状態を安定化するだけでなく、有機機能層と第2の電極との間の界面状態についても同様に安定化することができる。したがって、有機機能層と第2の電極との間の界面でのキャリアの注入・輸送性についても経時的な低下を抑制することができ、長寿命化を図ることができる。
【0010】
また、前記有機EL素子の製造方法においては、前記第2の電極を形成する工程の後に、該第2の電極を封止処理する封止工程を有しており、前記の低温に放置する工程を、前記封止工程の後に行うのが好ましい。
有機EL素子の最終的な工程となる封止工程においても、例えば封止樹脂を熱硬化させるなど、通常は熱処理を伴う。したがって、第1、第2の電極と有機機能膜との間の界面では、有機機能膜や第2の電極の形成に伴う熱処理に起因する応力に加えて、封止工程での熱処理に起因する応力も生じる。そこで、低温に放置する工程を封止工程の後に行うことにより、この低温放置で、有機機能層または電極の収縮による応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを全ての界面において低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
まず、本発明の有機EL素子の説明に先立ち、本発明によって得られる有機EL素子を多数備えてなる有機EL装置について説明する。
図1は、前記有機EL装置の配線構造を示す説明図、図2は、図1に示した有機EL装置の平面模式図、図3は、図1に示した有機EL装置の要部の断面模式図である。
【0012】
図1に示すように有機EL装置1は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101及び信号線102の各交点付近に、画素領域Aを形成したものである。
【0013】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ側駆動回路104が接続されている。走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路105が接続されている。また、画素領域Aの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の薄膜トランジスタ112と、このスイッチング用の薄膜トランジスタ112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量capと、該保持容量capによって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用の薄膜トランジスタ113と、この駆動用薄膜トランジスタ113を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む陽極(画素電極)111と、この画素電極111と陰極(対向電極)12との間に挟み込まれた発光機能層110とが設けられている。
なお、陽極(画素電極;第1の電極)111と陰極(対向電極;第2の電極)12と発光機能層110とを備えてなることにより、有機EL素子が構成されている。
【0014】
このような構成によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用の薄膜トランジスタ112がオンになると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、該保持容量capの状態に応じて、駆動用の薄膜トランジスタ113のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用の薄膜トランジスタ113のチャネルを介して、電源線103から画素電極111に電流が流れ、さらに発光機能層110を介して陰極12に電流が流れる。すると、発光機能層110はこれを流れる電流量に応じて発光する。
【0015】
また、図2及び図3に示すようにこの有機EL装置1は、ガラス等からなる透明な基板2と、マトリックス状に配置された有機EL素子とを具備して構成されている。図3に示すように本発明の一実施形態となる有機EL素子3は、基板2上に形成されたもので、画素電極111と、発光機能層110と、陰極12とを備えて構成されている。発光機能層110は、画素電極111側に正孔注入・輸送層60を有し、その陰極12側に発光層(有機発光層)70を有したものである。
【0016】
また、基板2の厚さ方向において、前記有機EL素子3を含むEL素子部10と基板2との間には、回路素子部14が形成されている。この回路素子部14には、前述の走査線、信号線、保持容量、スイッチング用の薄膜トランジスタ、駆動用の薄膜トランジスタ123等が形成されている。
また、陰極12は、その一端が基板2上に形成された陰極用配線(図示略)に接続されており、図2に示すように、この配線の一端部12aがフレキシブル基板5上の配線5aに接続されている。なお、この配線5aは、フレキシブル基板5上に備えられた駆動IC6(駆動回路)に接続されている。
【0017】
また、有機EL装置1は、発光機能層110から基板2側に発した光が、回路素子部14及び基板2を透過して基板2の外側(観測者側)に出射されるとともに、発光機能層110から基板2と反対の側に発した光も、陰極12に反射されて回路素子部14及び基板2を透過し、基板2の外側(観測者側)に出射される、いわゆるボトムエミッション型となっている。
【0018】
図3に示すように回路素子部14には、基板2上にSiOを主体とする下地保護層281が下地として形成され、その上にはシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO及び/又はSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。
また、前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域が、チャネル領域241aとされている。なお、このゲート電極242は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0019】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain )構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続されている。
【0020】
ソース電極243およびドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層には、平坦化膜284が形成されている。この平坦化膜284は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、駆動用TFT123やソース電極243、ドレイン電極244などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0021】
そして、この平坦化膜284の表面上には画素電極(陽極)111が形成されており、この画素電極111は、前記平坦化膜284に設けられたコンタクトホール111aを介してドレイン電極244に接続されている。すなわち、画素電極111は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。なお、画素電極111は、ボトムエミッション型である本実施形態では、透明導電材料によって形成され、具体的にはITOが好適に用いられている。
【0022】
画素電極111が形成された平坦化膜284の表面上には、画素電極111と、これの周縁部を覆う無機隔壁25とが形成されており、さらにこの無機隔壁25上には、有機隔壁221が形成されている。ここで、無機隔壁25はSiOからなっており、有機隔壁221はアクリル系やポリイミド系等の耐熱性絶縁性樹脂からなっている。
そして、画素電極111上には、無機隔壁25に形成された開口25aと、有機隔壁221に形成された開口221aとの内部、すなわち画素領域に、前記した正孔注入・輸送層60と発光層70とが、画素電極(陽極)111側からこの順に形成され、これによって発光機能層110が形成されている。
【0023】
正孔注入・輸送層60は、その形成材料として、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT−PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられている。ただし、これ以外にも、従来公知の正孔注入・輸送性材料を用いることができるのはもちろんである。
【0024】
正孔注入・輸送層60上には、発光層70が形成されている。この発光層70を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。発光層70の形成材料として具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。さらに、Ir(ppy)などの燐光材料を用いることもできる。
なお、このような発光層70を形成する材料としては、特にフルカラー表示をなす場合、赤色、緑色、青色の各波長域に対応する光を発光する材料が用いられ、それぞれが予め設定された状態に形成配置される。
【0025】
陰極12は、前記発光層70を覆って形成されたもので、例えばCaが厚さ5nm程度に形成され、その上にAlが厚さ300nm程度に形成されて構成されたものである。このような積層構造の電極とされたことにより、特にAlは反射層としても機能するものとなっている。なお、陰極12についても透明な材料を用いれば、発光した光を陰極側からも出射させることができる。透明な材料としては、ITO、Pt、Ir、Ni、もしくはPdを用いることができる。膜厚としては、透明性を確保するうえで、75nm程度とするのが好ましく、さらにこの膜厚より薄くするのがより好ましい。
また、この陰極12上には、接着剤(吸着剤)からなる接着層51を介して封止基板(図示せず)が貼着されている。
【0026】
なお、前記発光機能層110において正孔注入・輸送層60は、その内部において正孔を輸送する機能を有するとともに、正孔を発光層70側に注入・輸送する機能をも有している。このような正孔注入・輸送層60を画素電極111と発光層70との間に設けることにより、発光層70の発光効率、寿命等の素子特性を向上させることができる。
発光層70は、正孔注入・輸送層60から注入された正孔と、陰極12から注入される電子とを再結合させ、発光をなすようになっている。
【0027】
次に、このような構成からなる有機EL装置1の製造方法に基づき、本発明の製造方法の一実施形態を説明する。
まず、従来と同様にして基板2上に回路素子部14を形成する。そして、基板2の全面を覆うように画素電極111となる透明導電膜を、ITOによって形成する。次いで、この導電膜をパターニングすることにより、図4(a)に示すように平坦化膜284のコンタクトホール111aを介してドレイン電極244と導通する画素電極111を形成する。
【0028】
次いで、画素電極111上および平坦化膜284上に、SiO等の無機絶縁材料をCVD法等で成膜して隔壁層(図示せず)を形成し、続いて、公知のホトリソグラフィー技術、エッチング技術を用いて隔壁層をパターニングする。これにより、図4(b)に示すように、形成する各有機EL素子3の画素領域毎に開口25a(図示略)を形成すると同時に、無機隔壁25を形成する。
【0029】
次いで、図4(c)に示すように、無機隔壁25の所定位置、詳しくは画素領域を囲む位置に樹脂等によって有機隔壁221を形成する。
次いで、画素電極111の表面を洗浄処理し、続いて、画素電極111と無機隔壁25と有機隔壁221とを形成した側の面酸素プラズマ処理を行うことにより、その表面に付着した有機物等の汚染物を除去して濡れ性を向上させる。具体的には、基板2を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、続いて大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。
【0030】
次いで、撥液化処理を行うことにより、特に有機隔壁221の上面及び側面の濡れ性を低下させる。具体的には、大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基板2を室温まで冷却することで、有機隔壁221の上面及び側面を撥液化し、その濡れ性を低下させる。
なお、このCFプラズマ処理においては、画素電極111の露出面および無機隔壁25についても多少の影響を受けるが、画素電極111の材料であるITOおよび無機隔壁25の構成材料であるSiOなどはフッ素に対する親和性に乏しいため、酸素プラズマ処理で濡れ性が向上した面は濡れ性がそのままに保持される。
【0031】
次いで、前記有機隔壁221に囲まれた領域内に正孔注入・輸送層60を形成する。この正孔注入・輸送層60の形成工程では、スピンコート法や液滴吐出法が採用されるが、本実施形態では、有機隔壁221に囲まれた領域に正孔注入・輸送層60の形成材料を選択的に配する必要上、特に液滴吐出法であるインクジェット法が好適に採用される。このインクジェット法により、正孔注入・輸送層60の形成材料であるPEDOT−PSSの分散液を前記画素電極111の露出面上に配し、その後、熱処理(乾燥・焼成処理)を例えば200℃で10分間程度行うことにより、厚さ20nm〜100nm程度の正孔注入・輸送層60を形成する。なお、この正孔注入・輸送層60の形成方法については、特に無機隔壁25や有機隔壁221によって画素領域を区画しない場合、前記したようにスピンコート法を採用することもできる。
【0032】
次いで、図5(a)に示すようにこの正孔注入・輸送層60上に、発光層70を形成する。この発光層70の形成工程でも、前記の正孔注入・輸送層60の形成と同様に、液滴吐出法であるインクジェット法が好適に採用される。すなわち、インクジェット法により、発光層の形成材料を正孔注入・輸送層60上に吐出し、その後、窒素雰囲気中にて130℃で30分間程度熱処理を行い、有機隔壁221に形成された開口221a内、すなわち画素領域上に厚さ50nm〜200nm程度の発光層70を形成する。なお、発光層70の形成材料中に用いる溶媒としては、前記正孔注入・輸送層60を再溶解させないもの、例えばキシレンなどが好適に用いられる。また、この発光層70の形成方法については、特に無機隔壁25や有機隔壁221によって画素領域を区画しない場合、正孔注入・輸送層60の形成の場合と同様に、スピンコート法を採用することもできる。
【0033】
次いで、図5(b)に示すように、前記発光層70及び有機隔壁221を覆って例えばカルシウムを厚さ5nm程度、アルミニウムを厚さ300nm程度に積層し、陰極12を形成する。この陰極12の形成に際しては、有機EL素子3を効率よく発光させるため、例えば電子注入層としてフッ化リチウムやAlq3[トリス(S−キノリノラト)アルミニウム]を発光層70側に形成してもよい。さらに、陰極12の形成に先立ち、有機機能層110の一部として、前記発光層70の上に例えばBAlq[ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム]からなるホールブロック層(図示せず)を形成してもよい。
【0034】
また、この陰極12の形成では、前記正孔注入・輸送層60や発光層70の形成とは異なり、蒸着法やスパッタ法等で行うことにより、画素領域にのみ選択的に形成するのでなく、基板2のほぼ全面に陰極12を形成する。
その後、前記陰極12上に接着剤(吸着剤)を用いて接着層51を形成し、さらにこの接着層51によって封止基板(図示せず)を接着し、封止を行う。
【0035】
その後、封止工程までを行った有機EL素子の形成基板を、低温の環境に放置する。低温環境としては、例えば0℃以下、−50℃以上とされる。−0℃以下とすることにより、後述するように、電極および有機機能層に十分な収縮(熱収縮)を起こさせ、これによって電極と有機機能層との間の界面に生じる応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを低減することができるからである。また、−50℃より低くしても、前記の応力による影響を低減する効果がほぼ飽和するため、低温環境温度としては−50℃以上であればよい。
また、放置時間としては、例えば30分以上、12時間以下とされる。30分以上放置することにより、電極および有機機能層に十分な収縮(熱収縮)を起こさせ、界面の応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを低減することができるからである。また、12時間を越えて放置しても、前記の応力による影響を低減する効果がほぼ飽和するため、低温放置時間としては12時間以下であればよい。
【0036】
なお、封止工程後の低温放置環境については、不活性雰囲気にする必要がなく、大気雰囲気とすることができる。
また、低温放置を実施する装置としては、公知の冷蔵・冷凍装置や、ペルチェ冷却ユニットなどを用いたボードなど、種々のものが使用可能である。
【0037】
このようにして低温放置処理(工程)を行うと、無機材料からなる画素電極(第1の電極)111や陰極(第2の電極)12と、有機材料からなる有機機能層110との間の界面の状態が安定化し、良好になる。
すなわち、封止工程までを完了した有機EL素子には、画素電極111と有機機能層110(正孔注入・輸送層60)との間の界面、および有機機能層110(発光層70)と陰極12との間の界面に、有機機能膜110や陰極12の形成に伴う熱処理に起因する応力や、さらに封止工程での熱処理に起因する応力が生じており、これによって前記の各界面は、その状態が不安定になっている。
【0038】
そこで、前記したように低温放置処理(工程)を行うことにより、熱処理に起因する応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを低減する収縮を起こさせている。すなわち、例えば陰極12に用いられている金属の熱膨張係数が20×10−6/℃程度であるのに対し、有機機能層110を形成する有機材料の熱膨張係数は60×10−5/℃程度であり、有機材料の熱膨張係数の方が1桁大きい。したがって、得られる有機EL装置からなるパネルの画素サイズが100μm×100μmである場合、例えば−40℃の低温環境下で放置処理すると、電極(陰極12)と有機機能膜110との間の熱膨張係数差に基づく線膨張差は5μmとなり、電極(陰極12)と有機機能膜110との間においては5%の収縮差が生じることになる。よって、この収縮差が、先に熱処理によって電極(画素電極111、陰極12)と有機機能膜110との間の界面に生じていた応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを低減し、これを取り除くように作用するのである。
【0039】
このようにして低温放置処理(工程)を行い、電極(画素電極111、陰極12)と有機機能膜110との間の界面の応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを取り除いた後、常温に戻す。これにより、本発明の有機EL素子3を備える有機EL装置1を得る。
ここで、低温から常温に戻すことにより、前記の各界面では再度熱膨張が起こるが、一旦応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さが取り除かれて良好になった各界面は、この常温への復帰時には熱処理によって生じた応力の影響ほど大きな影響を受けず、したがってその良好な状態が保持される。
なお、前記の低温放置処理(工程)については、封止工程の後に行う以外に、例えば正孔注入・輸送層60の形成後や、陰極12の形成後に行ってもよく、さらに、正孔注入・輸送層60の形成工程、陰極12の形成工程、封止工程の全ての工程後に行うようにしてよい。
【0040】
このような有機EL素子3の製造方法にあっては、低温放置を行うことにより、電極(画素電極111、陰極12)と有機機能膜110との間の界面の応力による剥離等によって影響を受けるキャリア注入・輸送性の不安定さを低減し取り除くことができるので、電極(画素電極111、陰極12)と有機機能層110との間の界面でのキャリアの注入・輸送性の不安定さを防止し、これによって経時的な輝度低下を抑制して長寿命化を図り、さらには駆動電圧の低下や経時的な電圧上昇を抑制することができる。
【0041】
(実験例)
発光材料としてTFB(poly(2,7-(9,9-di-n-octylfluorene)-alt-(1,4-phenylene-((4-sec-butylphenyl)imino-1,4-phenylene))))とF8BT(ジオクチルフルオレンとベンゾチアジアゾールの交互共重合体)とを1:1(重量比)で混合した材料を用い、それ以外は、前記実施形態と同様にして封止工程までを行い、次いで、−40℃の低温環境に10時間放置し、その後常温に戻した。得られた有機EL素子を所定輝度で連続駆動させたところ、500時間連続駆動させた後の輝度は、初期輝度に対して90%の輝度を有していた。
【0042】
また、比較のため、封止工程までを同様にして形成し、低温放置処理(工程)を行わないで得られた有機EL素子についても、所定輝度で連続駆動させた。すると、この有機EL素子では、500時間連続駆動させた後の輝度は、初期輝度に対して60%の輝度しか有していなかった。
したがって、低温放置処理(工程)を行う本発明の製造方法は、得られる有機EL素子の長寿命化に有効であることが確認された。
【0043】
次に、このようにして得られた有機EL装置1の応用例として、該有機EL装置1を備えた電子機器の具体例について説明する。
図6は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図6(a)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は前記有機EL装置1からなる表示部を示している。
図6に示した携帯電話は、前記有機EL装置1を備えているので、この有機EL装置1からなる表示部1001が長寿命化していることにより、この携帯電話自体も、表示部1001が長寿命化し、長期信頼性が確保されたものとなる。
【0044】
なお、本発明は前記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、前記実施形態では、発光機能層110を正孔注入・輸送層60と発光層70とから構成したが、正孔注入・輸送層を従来公知の正孔注入層と正孔輸送層との二層構造としてもよく、さらに、発光層70と陰極12との間に、前記したようにホールブロック層や電子注入層を形成してもよい。
また、前記実施形態では、発光層70で発光した光を基板2側から出射させる、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置に本発明の有機EL素子を適用した例を示したが、基板2と反対側の、封止基板側から光を出射させる、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る有機EL素子を備えた有機EL装置の配線構造説明図である。
【図2】図1の有機EL装置の平面模式図である。
【図3】図1の有機EL装置の要部断面模式図である。
【図4】(a)〜(c)は図1の有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図5】(a)、(b)は図4に続く製造方法を説明する工程図である。
【図6】は本発明の電子機器の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1…有機EL装置、2…基板、12…陰極(第2の電極)、60…正孔注入・輸送層、70…発光層、110…発光機能層、111…画素電極(陽極;第1の電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の電極を形成する工程と、前記第1の電極上に少なくとも有機発光層を有してなる有機機能層を形成する工程と、前記有機機能層上に第2の電極を形成する工程と、を備えた有機EL素子の製造方法において、
前記有機機能層のうちの、少なくとも前記第1電極に接合する層を形成する工程の後に、前記基板を低温にて放置する工程を有していることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記の低温に放置する工程を、前記第2の電極を形成する工程の後に行うことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の電極を形成する工程の後に、該第2の電極を封止処理する封止工程を有しており、前記の低温に放置する工程を、前記封止工程の後に行うことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−293666(P2008−293666A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135077(P2007−135077)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】