説明

有機EL装置

【課題】生産性を向上するが可能な有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁基板の上方に画素電極を形成する工程と、有機層形成用の粉体を前記画素電極に向けて噴射し、前記粉体を前記画素電極の上に吸着させる工程と、前記粉体を溶融し、前記画素電極の上に固着した有機層を形成する工程と、前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型で、高速応答、広視野角、高コントラストの特徴を有し、かつ、更に薄型軽量化が可能な有機エレクトロルミネセンス(EL)素子を用いた表示装置の開発が盛んに行われている。
【0003】
この有機EL素子は、正孔注入電極(陽極)から正孔を注入するとともに、電子注入電極(陰極)から電子を注入し、発光層で正孔と電子とを再結合させて発光を得るものである。フルカラー表示を得るためには、赤(R)、緑(G)、青(B)にそれぞれ発光する画素を構成する必要がある。赤、緑、青の各画素を構成する有機EL素子の発光層には、赤色、緑色、青色といったそれぞれ異なる発光スペクトルで発光する発光材料を塗り分ける必要がある。このような発光材料を塗り分ける方法として、真空蒸着法がある。このような真空蒸着法によって低分子系の有機EL材料を成膜する場合、各色の画素毎に開口した金属性のファインマスクを用いてそれぞれ独立にマスク蒸着する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−157973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生産性を向上するが可能な有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
絶縁基板の上方に画素電極を形成する工程と、有機層形成用の粉体を前記画素電極に向けて噴射し、前記粉体を前記画素電極の上に吸着させる工程と、前記粉体を溶融し、前記画素電極の上に固着した有機層を形成する工程と、前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
絶縁基板の上方に画素電極を形成する工程と、前記画素電極の上に有機層を形成する工程と、前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、保護膜形成用の無機化合物からなる粉体を前記対向電極に向けて噴射し、前記粉体を前記対向電極の上に吸着させる工程と、前記粉体を溶融し、前記対向電極の上に固着した保護膜を形成する工程と、を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生産性を向上するが可能な有機EL装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施形態における有機EL表示装置の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した有機EL表示装置における第1乃至第3有機EL素子を含む表示パネルの断面図である。
【図3】図3は、図1に示した有機EL表示装置を製造するのに適用可能な製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3に示した製造装置のノズルの先端部の構造の一例を示す図である。
【図5】図5は、図3に示した製造装置において、処理基板に粉体を静電吸着させる工程を説明するための図である。
【図6】図6は、処理基板に静電吸着させた粉体を溶融し固着する工程を説明するための図である。
【図7】図7の(a)乃至(d)は、本実施形態における第1乃至第3有機EL素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図8】図8の(a)及び(b)は、本実施形態における保護膜の製造工程を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、有機EL装置の一例として、アクティブマトリクス駆動方式を採用した有機EL表示装置の構成を概略的に示す平面図である。
【0012】
すなわち、有機EL表示装置は、略矩形状の表示パネル1を備えている。この表示パネル1は、アレイ基板100及び封止基板200を備えている。アレイ基板100は、画像を表示する略矩形状のアクティブエリア(第1領域)102と、このアクティブエリア102の周辺に枠状に形成された周辺エリア(第2領域)104と、を有している。アレイ基板100のアクティブエリア102には、複数の有機EL素子OLEDがマトリクス状に配置されている。
【0013】
封止基板200は、アレイ基板100のアクティブエリア102において、有機EL素子OLEDと向かい合っている。この封止基板200は、ガラス基板やプラスチック基板などの光透過性を有する絶縁基板である。
【0014】
これらのアレイ基板100及び封止基板200は、アクティブエリア102を囲む枠状に形成されたシール材300によって貼り合わせされている。シール材300は、例えば、熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂などの有機系材料、あるいは、フリットガラスによって形成されている。表示パネル1は、アレイ基板100と封止基板200との間において、シール材300によって囲まれた内側に樹脂層を備えている場合もある。このような樹脂層は、充填層あるいは接着層などとも称され、例えば、熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂などの有機系材料によって形成されている。
【0015】
また、アレイ基板100の周辺エリア104には、封止基板200の端部200Eから外方に向かって延在した延在部110が形成されている。この延在部110には、接続部130が設けられている。このような接続部130には、有機EL素子OLEDに電源や各種制御信号などの有機EL素子OLEDに対して駆動に必要な信号を供給する駆動ICチップやフレキシブル・プリンテッド・サーキット(以下、FPCと称する)などの信号供給源が実装可能である。
【0016】
図2は、本実施形態における有機EL表示装置のスイッチング素子SW及び第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3を含む表示パネル1の断面図である。
【0017】
アレイ基板100は、ガラス基板やプラスチック基板などの光透過性を有する絶縁基板101を備えている。スイッチング素子SW、及び、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3は、絶縁基板101の上方において、画像を表示するアクティブエリア102にそれぞれ配置されている。
【0018】
絶縁基板101の上には、第1絶縁膜111が配置されている。このような第1絶縁膜111は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。この第1絶縁膜111は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。
【0019】
第1絶縁膜111の上には、スイッチング素子SWの半導体層SCが配置されている。この半導体層SCは、例えばポリシリコンによって形成されている。この半導体層SCには、チャネル領域SCCを挟んでソース領域SCS及びドレイン領域SCDが形成されている。
【0020】
半導体層SCは、第2絶縁膜112によって被覆されている。また、この第2絶縁膜112は、第1絶縁膜111の上にも配置されている。このような第2絶縁膜112は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。この第2絶縁膜112は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。
【0021】
第2絶縁膜112の上には、チャネル領域SCCの直上にスイッチング素子SWのゲート電極Gが配置されている。この例では、スイッチング素子SWは、トップゲート型のpチャネル薄膜トランジスタである。ゲート電極Gは、第3絶縁膜113によって被覆されている。また、この第3絶縁膜113は、第2絶縁膜112の上にも配置されている。このような第3絶縁膜113は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。この第2絶縁膜112は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。
【0022】
第3絶縁膜113の上には、スイッチング素子SWのソース電極S及びドレイン電極Dが配置されている。ソース電極Sは、半導体層SCのソース領域SCSにコンタクトしている。ドレイン電極Dは、半導体層SCのドレイン領域SCDにコンタクトしている。スイッチング素子SWのゲート電極G、ソース電極S、及び、ドレイン電極Dは、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの導電材料を用いて形成されている。
【0023】
これらのソース電極S及びドレイン電極Dは、第4絶縁膜114によって被覆されている。また、この第4絶縁膜114は、第3絶縁膜113の上にも配置されている。このような第4絶縁膜114は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。この第4絶縁膜114は、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などの有機化合物や、シリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。
【0024】
第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3を構成する各々の画素電極PEは、第4絶縁膜114の上に配置されている。第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の各々の画素電極PEは、スイッチング素子SWのドレイン電極Dに電気的に接続されている。この画素電極PEは、例えば陽極に相当する。
【0025】
このような画素電極PEの構造については、特に制限はなく、反射層及び透過層が積層された2層構造であっても良いし、反射層単層、あるいは、透過層単層であっても良いし、さらには、3層以上の積層構造であっても良い。反射層は、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)などの光反射性を有する導電材料によって形成されている。透過層は、例えば、インジウム・ティン・オキサイド(ITO)、インジウム・ジンク・オキサイド(IZO)などの光透過性を有する導電材料によって形成されている。第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3が封止基板200の側から光を放射する上面発光型の場合には、画素電極PEは少なくとも反射層を含んでいる。
【0026】
第4絶縁膜114の上には、隔壁PIが配置されている。この隔壁PIは、画素電極PEの周縁に沿って配置されている。また、この隔壁PIは、画素電極PEの一部に重なっている。このような隔壁PIは、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などの有機化合物や、シリコン窒化物などの各種無機化合物などの絶縁材料によって形成されている。第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3は、このような隔壁PIによって分離されている。
【0027】
第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3を構成する有機層ORGは、各画素電極PEの上に配置されている。この有機層ORGは、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在した連続膜であり、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在している。この有機層ORGは、少なくとも発光層EMLを含んでいる。図示した例では、有機層ORGは、例えばホール輸送層HTL、発光層EML、電子輸送層ETLを含んでいる。これらのホール輸送層HTL、発光層EML、電子輸送層ETLは、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在した連続膜である。
【0028】
ホール輸送層HTLは、各画素電極PE及び隔壁PIを被覆している。発光層EMLは、ホール輸送層HTLの上に配置されている。電子輸送層ETLは、発光層EMLの上に配置されている。なお、この有機層ORGは、さらに、ホール注入層、電子注入層などを含んでいても良い。また、発光層EMLは、蛍光材料によって形成されていても良いし、燐光材料によって形成されていても良い。
【0029】
第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3を構成する対向電極CEは、有機層ORGの上に配置されている。この例では、対向電極CEは、電子輸送層ETLの上に配置され、陰極に相当する。この対向電極CEは、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在した連続膜であり、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在し、有機層ORGを被覆している。
【0030】
このような対向電極CEは、例えば半透過層によって形成されている。半透過層は、例えば、マグネシウム(Mg)・銀(Ag)などの導電材料によって形成されている。なお、対向電極CEは、半透過層及び透過層が積層された2層構造であっても良いし、透過層単層構造、または、半透過層単層構造であっても良い。透過層は、例えば、ITOやIZOなどの光透過性を有する導電材料によって形成可能である。第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3が絶縁基板101の側から光を放射する下面発光型の場合には、対向電極CEは少なくとも反射層あるいは半透過層を含んでいる。
【0031】
対向電極CEの上方には、保護膜115が配置されている。このような保護膜115は、アクティブエリア102の全体に亘って延在している。つまり、保護膜115は、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3を覆うとともに、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の周囲に配置された隔壁PIの直上にも延在している。図示した例では、保護膜115は、対向電極CEの上に配置されているが、保護膜115と対向電極CEとの間に他の薄膜が介在していても良い。この保護膜115は、光透過性を有し且つ水分が浸透しにくい材料、例えば、シリコン窒化物やシリコン酸窒化物などの無機化合物によって形成されている。つまり、この保護膜115は、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3への水分の浸透を防止する水分バリア膜として機能する。
【0032】
なお、上述した第1絶縁膜111、第2絶縁膜112、第3絶縁膜113、第4絶縁膜114、保護膜115などは、アクティブエリア102のみならず、図示しない周辺エリア104にも延在していても良い。
【0033】
封止基板200は、アレイ基板100に形成された保護膜115の上方に配置されている。
【0034】
図示した例では、アレイ基板100の保護膜115と封止基板200とが離間し、両者の間に空間が形成されているが、保護膜115と封止基板200との間に樹脂層などが充填されていても良い。なお、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3が上面発光型の場合、充填される樹脂層は、光透過性を有する樹脂材料によって形成される。
【0035】
本実施の形態においては、有機層ORGの発光層EMLが第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在した連続膜でありながら、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の発光色は、互いに異なるように構成されている。ここに示した例では、第1有機EL素子OLED1の発光色は赤色であり、第2有機EL素子OLED2の発光色は緑色であり、第3有機EL素子OLED3の発光色は青色である。
【0036】
ここでは、主波長が595nm乃至800nmの範囲を第1波長範囲と定義し、この第1波長範囲内にある色を赤色とする。また、主波長が490nmより長く且つ595nmよりも短い範囲を第2波長範囲と定義し、この第2波長範囲内にある色を緑色とする。さらに、主波長が400nm乃至490nmの範囲を第3波長範囲と定義し、この第3波長範囲内にある色を青色とする。
【0037】
このような構成は、例えば、以下のような構成で実現可能である。すなわち、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の発光層EMLは、例えば、発光色が赤色の第1ドーパント材料、発光色が緑色の第2ドーパント材料、及び、発光色が青色の第3ドーパント材料を含でいる。第1有機EL素子OLED1については、第1ドーパント材料が発光し、赤色を呈する。第2有機EL素子OLED2については、第1ドーパント材料が消光しており、第2ドーパント材料が発光し、緑色を呈する。第3有機EL素子OLED3については、第1ドーパント材料及び第2ドーパント材料が消光しており、第3ドーパント材料が発光し、青色を呈する。
【0038】
なお、発光層EMLの形態は、特に制限はなく、第1ドーパント材料を含む第1発光層、第2ドーパント材料を含む第2発光層、及び、第3ドーパント材料を含む第3発光層を積層した3層構造であっても良いし、第1発光層及び第2発光層を積層した2層構造であっても良いし、第1発光層のみからなる単層構造であっても良い。2層構造の場合、第1発光層は、第1ドーパント材料のみならず、第2ドーパント材料や第3ドーパント材料を含んでいても良いし、第2発光層は、第2ドーパント材料のみならず、第1ドーパント材料や第3ドーパント材料を含んでいても良い。単層構造の場合、第1発光層は、第1ドーパント材料、第2ドーパント材料、及び、第3ドーパント材料を含んでいても良い。
【0039】
また、第1乃至第3ドーパント材料としては、光照射によって発光性能が変化する材料として、消光する材料を適用した場合について説明したが、消光に限らず、光照射によって発光色が変化するなどの発光性能が変化する材料が適用可能である。
【0040】
例えば、光照射によって分子の立体構造が変化して発光色が変化するあるいは消光する材料が適用可能である。例えば、一方のドーパント材料が他方のドーパント材料の異性体である場合がこの例に相当する。異性体の一種として、シス体及びトランス体の例について簡単説明する。シス体とは、主骨格に対して2つの側鎖(あるいは原子団)が同じ側にある分子の立体構造を示し、トランス体とは、主骨格に対して2つの側鎖(あるいは原子団)が互いに反対側にある分子の立体構造を示している。このようなドーパント材料は、紫外光などの光照射により、シス体からトランス体に変化する、あるいは、トランス体からシス体に変化する材料から選択され、このような材料として、例えば、フォトクロミック材料が挙げられる。
【0041】
また、他の異性体の例としては、光変換型タンパク質あるいは蛍光タンパク質などと称される材料も挙げられる。例えば、蛍光タンパク質の中には、紫外光の照射により、消光状態から活性化されて発光するようになる材料や、ある発光波長から別の発光波長に変換される材料などがあり、これらも本実施形態のドーパント材料として適用可能である。
【0042】
また、光照射によって発光層に含まれるドーパント材料と添加剤あるいはホスト材料とが化学結合して発光色が変化するあるいは消光する材料も適用可能である。
【0043】
本実施形態においては、有機層ORGを構成する少なくとも1層、及び、保護膜115は、以下に説明する粉体成膜の手法を適用して形成される。
【0044】
図3は、本実施形態で適用可能な製造装置の構成を模式的に示す図である。
【0045】
すなわち、この製造装置は、チャンバ10、ノズル11、ステージ12などを備えて構成されている。チャンバ10には、導入口10A、及び、排気口10Bが形成されている。導入口10Aから不活性ガスが導入されることにより、チャンバ10の内部は不活性雰囲気となる。排気口10Bからはチャンバ10の内部のガスが排気される。この排気口10Bには、排気ダクト13を介して電気集塵機14が接続されている。電気集塵機14は、後に説明するように、ノズル11から噴射された粉体のうち、処理基板SUBに静電吸着されなかった粉体を回収する。
【0046】
材料源の粉体を収容したタンク15は、配管P1に接続されている。この配管P1の中途には、バルブB1が接続されている。不活性ガスを収容したボンベ16は、配管P2に接続されている。この配管P2の中途には、バルブB2が接続されている。配管P1と配管P2とは合流し、配管P3を介してノズル11に接続されている。
【0047】
タンク15には、有機層ORGを形成するための材料源の粉体や、保護膜115を形成するための材料源の粉体などが収容されている。タンク15に収容されている粉体の粒径は、20μm以下程度である。ボンベ16には、窒素ガス(N2)や、アルゴンガス(Ar)などの希ガス類が圧縮された状態で収容されている。
【0048】
また、ノズル11には、図示しないその先端部の電極に高電圧を印加する高電圧発生器17が接続されている。
【0049】
ステージ12は、処理基板SUBを保持する。ステージに保持された処理基板SUBは、その膜形成面SFがノズル11に向かい合っている。また、ステージ12に保持された処理基板SUBは、高電圧発生器18に接続される。この処理基板SUBには、この高電圧発生器18により高電圧が印加される。ノズル11に印加される電圧の極性は、処理基板SUBに印加される電圧の極性とは異なり、例えば、処理基板SUBに印加される電圧が接地電位に対して正極性であるのに対して、ノズル11に印加される電圧は接地電位に対して負極性である。
【0050】
このような製造装置は、さらに図示しないスキャン機構を備えている。このスキャン機構は、ノズル11及びステージ12に保持された処理基板SUBの少なくとも一方を移動させ、処理基板SUBの膜形成面SFの略全体にわたりノズル11をスキャンする。
【0051】
図4は、ノズル11の先端部の構造の一例をより具体的に示す図である。
【0052】
ノズル11は、高電圧発生器18に接続された電極11Aを備えている。ここに示した例では、電極11Aには、負の高電圧が印加されている。このような構成のノズル11は、粉体PWと不活性ガスとを混合した粉体流を噴射する。粉体流がノズル11の先端部を通過する際には、粉体PWには、電極11Aにより負の電圧が印加される。ノズル11から噴射された粉体流のうち、粉体PWは、負(−)に帯電している。
【0053】
なお、このノズルの先端部には、さらにリング電極を追加して、電子を加速させるような構成を適用しても良い。
【0054】
次に、粉体PWを処理基板SUBに静電吸着させる工程について説明する。
【0055】
図5は、処理基板SUBに粉体PWを静電吸着させる工程を説明するための図である。なお、この図5においては、説明に必要な主要部のみを図示している。
【0056】
不活性雰囲気において、ノズル11は、処理基板SUBの膜形成面SFに向かい合っている。処理基板SUBには、例えば、正の高電圧が印加されている。このため、処理基板SUBあるいは膜形成面SFは、正(+)に帯電している。一方で、ノズル11は、負(−)に帯電した粉体PWを含む粉体流を処理基板SUBの膜形成面SFに向けて噴射する。これにより、負に帯電した粉体PWは、正に帯電した処理基板SUBの膜形成面SFに静電吸着される。図示した例では、処理基板SUBが図中の矢印Aの方向にスキャンされる。これにより、膜形成面SFの略全体にわたって粉体PWが静電吸着される。
【0057】
なお、図示していないが、ノズル11から噴射された粉体流の粉体PWのうち、処理基板SUBに静電吸着されなかった粉体PWは、チャンバ内部のガスとともに排気口から排気され、電気集塵機により回収される。このため、静電吸着されなかった粉体PWは、再度タンクに戻され、再利用可能となり、材料源の利用効率を改善できる。
【0058】
次に、処理基板SUBに静電吸着させた粉体PWを固着する工程について説明する。
【0059】
図6は、処理基板SUBに静電吸着させた粉体PWを溶融し固着する工程を説明するための図である。また、この図6においては、粉体PWを固着する前のメルト処理前の状態と粉体PWを固着した後のメルト処理後の状態とを拡大して示している。なお、この図6においては、説明に必要な主要部のみを図示している。
【0060】
露光用光源20は、処理基板SUBの膜形成面SFに静電吸着している粉体PWと向かい合っている。露光用光源20は、例えば、エキシマレーザ光源、ディープUV(極めて短い波長(200nm乃至300nm程度)の遠紫外線)光源である。このような露光用光源20から照射される光の波長範囲は、例えば概略200nm乃至400nmである。
【0061】
露光用光源20は、膜形成面SFの法線Nに対して傾いた方向から膜形成面SFに向けて光を照射する。膜形成面SFに静電吸着している粉体PWは、エキシマレーザ光あるいはディープUV光の照射により溶融し、膜形成面SFに固着される。図示した例では、処理基板SUBが図中の矢印Aの方向にスキャンされる。これにより、膜形成面SFの略全体にわたって粉体PWが固着される。
【0062】
また、このような露光用光源20からの光照射により、粉体PWとともに粉体流を形成した不活性ガスは除去される(脱ガス処理)。
【0063】
なお、露光用光源20は、図3に示した製造装置のチャンバ内に配置されても良いし、チャンバとは別に設置されても良い。また、露光用光源20及び処理基板SUBの少なくとも一方が移動可能な構成とされていれば良く、これにより、処理基板SUBの膜形成面SFの略全体にわたり溶融・固着用の光をスキャンできる。また、粉体PWの処理基板SUBへの固着が完了した後には、処理基板SUBの除電を行うことが望ましい。
【0064】
次に、本実施形態における第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の製造工程について図7を参照しながら説明する。
【0065】
まず、図7の(a)に示すように、絶縁基板101の上に第1絶縁膜111、第2絶縁膜112、第3絶縁膜113、第4絶縁膜114、スイッチング素子SWなどを形成した後に、画素電極PEを形成し、さらに、隔壁PIを形成する。なお、図7では、絶縁基板101と画素電極PEとの間に配置された第1絶縁膜111、第2絶縁膜112、第3絶縁膜113、第4絶縁膜114を総称して絶縁膜120とし、スイッチング素子SWの図示を省略した。また、図7では、画素電極PEは3個しか図示していないが、アクティブエリア102の全体にわたり3個以上の画素電極PEがマトリクス状に配置されている。
【0066】
続いて、図7の(b)に示すように、画素電極PE及び隔壁PIを形成済みの処理基板SUBに所定の極性(例えば正極性)の電圧を印加する一方で、処理基板SUBに印加した電圧とは逆極性(例えば負極性)の電圧が印加された粉体PWを画素電極PEに向けて噴射し、粉体PWを画素電極PEの上に静電吸着させる。
【0067】
ここに示した例では、粉体PWは、有機層ORGを形成するための材料源の粉体である。粉体PWは、ノズル11から噴射される。このノズル11は、図中の矢印Aの方向に沿ってスキャンされることにより、アクティブエリア102の全体に向けて粉体PWを連続的に噴射する。粉体PWと処理基板SUBとが互いに逆極性に帯電しているため、ノズル11から噴射された粉体PWは、画素電極PEの上のみならず隔壁PIの上にも静電吸着されている。
【0068】
続いて、図7の(c)に示すように、粉体PWを溶融し、画素電極PEの上に固着した有機層ORGを形成する。露光用光源20は、例えば、エキシマレーザ光源である。ここに示した例では、露光用光源20は、図中の矢印Aの方向に沿ってスキャンされることにより、アクティブエリア102の全体がレーザ光によって露光される。露光用光源20から照射されたレーザ光は、粉体PWを瞬時に溶融する。レーザ光が通過した後には、固着した有機層ORGが形成される。
【0069】
有機層ORGが画素電極PEの側からホール輸送層HTL、発光層EML、及び、電子輸送層ETLを順に積層した積層体である場合には、これらの少なくとも1層については、図7の(b)及び(c)を参照しながら説明した形成方法が適用される。例えば、画素電極PEの上に、まずホール輸送層HTLの粉体を静電吸着させた後に、この粉体を溶融して画素電極PEの上に固着したホール輸送層HTLを形成したのに続いて、ホール輸送層HTLの上に発光層EMLの粉体を静電吸着させ、この粉体を溶融してホール輸送層HTLの上に固着した発光層EMLを形成し、さらに、発光層EMLの上に電子輸送層ETLの粉体を静電吸着させ、この粉体を溶融して発光層EMLの上に固着した電子輸送層ETLを形成しても良い。
【0070】
続いて、図7の(d)に示すように、有機層ORGの上に対向電極CEを形成する。上述した製造工程により、アクティブエリア102において、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3が形成される。
【0071】
なお、発光層EMLに含まれるドーパント材料の発光性能を変化させるための露光工程は、発光層EMLを形成した後であれば、どのタイミングで行っても良いが、詳細については説明を省略する。
【0072】
次に、本実施形態における保護膜115の製造工程について図8を参照しながら説明する。
【0073】
図8の(a)に示すように、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3を形成済みの処理基板SUBに所定の極性(例えば正極性)の電圧を印加する一方で、処理基板SUBに印加した電圧とは逆極性(例えば負極性)の電圧が印加された粉体PWを対向電極CEに向けて噴射し、粉体PWを対向電極CEの上に静電吸着させる。
【0074】
ここに示した例では、粉体PWは、保護膜115を形成するための材料源、例えばシリコン窒化物(SiN)の粉体である。粉体PWは、ノズル11から噴射される。このノズル11は、図中の矢印Aの方向に沿ってスキャンされることにより、アクティブエリア102の全体に向けて粉体PWを連続的に噴射する。粉体PWと処理基板SUBとが互いに逆極性に帯電しているため、ノズル11から噴射された粉体PWは、対向電極CEの上に静電吸着されている。
【0075】
続いて、図8の(b)に示すように、粉体PWを溶融し、対向電極CEの上に固着した保護膜115を形成する。露光用光源20は、例えば、エキシマレーザ光源である。ここに示した例では、露光用光源20は、図中の矢印Aの方向に沿ってスキャンされることにより、アクティブエリア102の全体がレーザ光によって露光される。露光用光源20から照射されたレーザ光は、粉体PWを瞬時に溶融する。レーザ光が通過した後には、固着した保護膜115が形成される。
【0076】
上述した製造方法によれば、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の有機層ORGあるいは保護膜115を形成する手法として、不活性ガスをキャリアとして材料源の粉体PWを処理基板SUBに噴射し、処理基板SUBとは逆極性に帯電した粉体PWを処理基板SUBの表面に静電吸着させた後、粉体PWを溶融し、固着させる手法を適用している。
【0077】
このような手法によれば、CVDなどの蒸着法と比較して、材料源の利用効率を向上することができる。すなわち、蒸着法の場合、処理基板SUBをセットする前後のタイミングにおいても材料源を飛散させており、処理基板SUB以外の場所に付着した材料源は製造装置の汚染源となりうる。一方で、本実施形態の手法によれば、処理基板SUBに向けて粉体PWを噴射し、静電吸着した粉体PWが溶融固着されることによって薄膜を形成する一方で、処理基板SUBから静電吸着しなかった粉体PWについては回収し、再利用が可能となる。しかも、製造装置の汚染が少なく、メンテナンスも容易となる。
【0078】
また、本実施形態の手法によれば、粉体PWを噴射する際、あるいは、処理基板SUBに静電吸着させる際には、加熱が不要であり、固着する際に瞬間的に加熱溶融されるのみである。このため、蒸着法と比較して、材料源が熱に曝される時間が短縮され、材料源の熱による劣化を抑制することが可能となる。
【0079】
さらに、本実施形態の手法によれば、不活性雰囲気にて薄膜を形成しているため、有機層ORGの劣化の原因となる水分や酸素が制限され、しかも、蒸着法と比較して、高真空の環境を必要としない。
【0080】
また、本実施形態において、レートの調整は、粉体PWの噴射量の調整によって可能となる。このため、高速レートを容易に実現でき、しかも、短時間で厚い膜厚(例えば、5μm〜10μm程度)を得ることができる。一方で、蒸着法においては、レートを上げるために、材料源の加熱温度を上げると、材料源の劣化が進行してしまい、容易に高速レートを実現することは困難である。
【0081】
さらに、本実施形態の手法によれば、噴射された粉体PWが細部に回り込むため、下地の影響を受けにくく、膜形成面SFに凹凸が形成されていたとしても、隙間やひび割れの発生を防止することができるとともに、膜形成面SFに異物が付着していたとしても、異物を包み込むことができる。
【0082】
なお、本実施形態において、粉体PWは、アクティブエリア102に向けて噴射されるが、一部が接続部130に静電吸着される場合もある。このような場合であっても、粉体PWを固着させるためのレーザ光などは、接続部130に向けて照射されないため、接続部130に静電吸着した粉体PWは、処理基板SUBを除電することによって、容易に除去できる。あるいは、粉体PWを噴射する際に接続部130にマスクを設置し、飛散した粉体PWが接続部130に静電吸着しないようにしても良い。
【0083】
加えて、本実施形態においては、有機層ORGは、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在した連続膜である。また、対向電極CEも同様に、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在した連続膜である。このため、微細な開口を形成したファインマスクが不要である。
【0084】
なお、有機層ORGの発光層EMLは、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在した連続膜であるが、発光層EMLに含まれるドーパント材料の発光性能が光照射によって変化しているため、第1有機EL素子OLED1は赤色に発光し、第2有機EL素子OLED2は緑色に発光し、第3有機EL素子OLED3は青色に発光する。したがって、高精細なフルカラー表示を実現できる。
【0085】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0086】
本実施形態は、有機EL装置として、有機EL表示装置について説明したが、有機EL照明や有機ELプリンターヘッドなどにも利用可能である。
【0087】
また、本実施形態においては、粉体PWを吹き付けて溶融・固着する手法は、有機層ORG及び保護膜115を形成する工程で適用した場合について説明したが、他の薄膜、あるいは、アレイ基板100と封止基板200との間に配置される樹脂層などを形成する工程にも適用可能である。
【0088】
また、本実施形態においては、有機層ORGの発光層EMLは、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3に亘って延在した連続膜として形成したが、マスクを介して発光層EMLの粉体を噴射する技術を適用することにより塗り分けが可能となり、第1乃至第3有機EL素子OLED1乃至3の各々に発光色の異なるドーパント材料を含む発光層を形成することも可能である。
【0089】
また、本実施形態においては、処理基板SUBと粉体PWとに各々逆極性の電圧を印加して粉体PWを静電吸着させる方法について述べたが、粉体PWを処理基板SUBに吸着させる方法についてはこれに限定されない。
【符号の説明】
【0090】
1…表示パネル 102…アクティブエリア
OLED1…第1有機EL素子
OLED2…第2有機EL素子
OLED3…第3有機EL素子
100…アレイ基板 200…封止基板
101…絶縁基板
111…第1絶縁膜 112…第2絶縁膜 113…第3絶縁膜 114…第4絶縁膜
PE…画素電極
ORG…有機層 HTL…ホール輸送層 EML…発光層 ETL…電子輸送層
CE…対向電極
SUB…処理基板 PW…粉体
10…チャンバ 11…ノズル 20…露光用光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の上方に画素電極を形成する工程と、
有機層形成用の粉体を前記画素電極に向けて噴射し、前記粉体を前記画素電極の上に吸着させる工程と、
前記粉体を溶融し、前記画素電極の上に固着した有機層を形成する工程と、
前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
絶縁基板の上方に画素電極を形成する工程と、
前記画素電極の上に有機層を形成する工程と、
前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、
保護膜形成用の無機化合物からなる粉体を前記対向電極に向けて噴射し、前記粉体を前記対向電極の上に吸着させる工程と、
前記粉体を溶融し、前記対向電極の上に固着した保護膜を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
さらに、吸着されなかった前記粉体を回収する工程を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記粉体は、不活性雰囲気で、不活性ガスとともに噴射されることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記粉体が噴射される処理基板に電圧を印加する一方で、前記処理基板に印加した電圧とは極性の異なる電圧を前記粉体に印加することにより、前記粉体を前記処理基板に静電吸着させることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−65947(P2011−65947A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217438(P2009−217438)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】