説明

有機EL装置

【課題】囲み部材の内側の発光素子の電極と、囲み部材の外側の導電部材とを接続する際に、電極と導電部材との間の断線を防止できる有機EL装置を提供する。
【解決手段】基体20上に設けられた第一電極10と、第一電極10の上方に設けられた機能層12と、機能層12の上方に設けられた第二電極11と、を含む発光素子21が複数形成された素子領域と、素子領域のうち、基体20の外周に最も近接する素子21に含まれる機能層12の外周側の側部を覆い、基体20上に設けられた囲み部材Wと、囲み部材Wの外側に配設された導電部材22Aと、を備え、導電部材22Aに接続され、囲み部材Wの外側から囲み部材Wに乗り上げて第二電極11に接続された接続用導電部材24の厚さTが、第二電極11の厚さtよりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。有機EL装置は、有機材料を含む材料で形成された複数の発光素子を備えている。この発光素子は基本的な構成として、陽極と陰極との間に有機発光層が挟持される構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、複数の発光素子が形成された素子領域において、発光素子を区画する隔壁が設けられ、その最外周の隔壁は素子領域を取り囲む「囲み部材」として設けられている。そして、「額縁部」と呼ばれる素子領域の周辺部の非表示領域には、発光素子の陰極に接続される陰極配線が配置されている。陰極配線は、有機EL装置の接続端子部までの陰極の電気的な導通を行うために形成されている。発光素子の陰極は、通常、素子領域の内側から囲み部材を乗り越えて額縁部まで引き出されて陰極配線と接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−234819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の有機EL装置では、陰極配線と発光素子の陰極とを接続する際に、発光素子の陰極(電極)が囲み部材を乗り越えて基板上の電極に接続されるため、囲み部材の外側面が基板の表面となす角度によっては、囲み部材の外側面が基板上で立ち上がる箇所の近傍において、電極のカバレッジ不良やクラック等の欠陥が発生し、電極と導電部材との間が断線する虞がある。
【0006】
そこで、この発明は、囲み部材の内側の発光素子の電極と、囲み部材の外側の導電部材とを接続する際に、電極と導電部材との間の断線を防止できる有機EL装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の有機EL装置は、基体上に設けられた第一電極と、前記第一電極の上方に設けられた機能層と、前記機能層の上方に設けられた第二電極と、を含む発光素子が複数形成された素子領域と、前記素子領域のうち、前記基体の外周に最も近接する発光素子に含まれる機能層の前記外周側の側部を覆い、前記基体上に設けられた囲み部材と、前記囲み部材の外側に配設された導電部材と、を備え、前記導電部材に接続され、前記囲み部材の外側から前記囲み部材に乗り上げて前記第二電極に接続された接続導用電部材の厚さが、前記第二電極の厚さよりも大きいことを特徴とする。
【0008】
このように構成することで、囲み部材の基体外周側の外側面が基板上から立ち上がる部分を覆って、第二電極よりも厚い接続用導電部材が形成される。そのため、従来のように第二電極が囲み部材の内側から外側に引き出されて基板上の導電部材に接続される場合と比較して、囲み部材の外側面の立ち上がり部分の近傍における欠陥の発生を抑制することができる。したがって、第二電極と導電部材との間の断線を防止することができる。
【0009】
また、本発明の有機EL装置は、前記接続用導電部材の厚さは120nm以上であり、前記第二電極の厚さは10nm以下であることを特徴とする。
【0010】
このように構成することで、囲み部材の外側面の立ち上がり部分の近傍における欠陥の発生がより確実に防止され、第二電極と導電部材との間の断線をより確実に防止することができる。
【0011】
また、本発明の有機EL装置は、前記囲み部材の厚さは、1μm以上であることを特徴とする。
【0012】
このように構成することで、囲み部材によって素子領域とそれ以外の領域を確実に区画することができる。また、第二電極と十分に絶縁を取ることで、囲み部材の下に第一電極側の駆動回路や配線などを形成することができる。
【0013】
また、本発明の有機EL装置は、前記囲み部材の前記基体の外周側の外側面と、基体表面との間でなす角度が、20度以上70度以下であることを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、囲み部材の外側面の角度が緩やかになりすぎず、囲み部材の周縁部の基体表面方向の幅が必要以上に大きくならない。また、囲み部材の外側面の角度が急峻になりすぎず、囲み部材の外側面が基体表面から立ち上がる部分の近傍において接続用導電部材の欠陥(断線)が発生することを防止することができる。
【0015】
また、本発明の有機EL装置は、前記接続用導電部材は、前記第二電極の材料よりもイオン化傾向の小さい材料により形成されていることを特徴とする。
【0016】
このように構成することで、第二電極を導電部材に直接接続する場合や、接続用導電部材の材料として第二電極のイオン化傾向と等しいかそれよりも大きいイオン化傾向の材料を用いる場合と比較して、発光素子の内部への水分の浸透を防止して、発光素子の劣化を防止することができる。さらに、導電部材には電流が集中するため、高温動作時のエレクトロマイグレーションの発生を防止することもできる。
【0017】
また、本発明の有機EL装置は、前記接続用導電部材は、アルミニウムにより形成されていることを特徴とする。
【0018】
このように構成することで、接続用導電部材を銀等の金属材料により製造する場合と比較して低温で形成することができ、製造を容易にするとともに、材料コストを削減することができる。
【0019】
また、本発明の有機EL装置は、前記第二電極は、金属薄膜と透明導電膜が積層されて形成されていることを特徴とする。
【0020】
このように構成することで、第二電極を金属薄膜のみで形成する場合と比較して金属薄膜をより薄く形成し、第二電極の光透過性を確保しながら電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0021】
また、本発明の有機EL装置は、前記第二電極及び前記接続用導電部材を覆う電極保護層と、前記電極保護層上に形成されて前記囲み部材の外側部を形成する面を覆う有機緩衝層と、前記有機緩衝層及び前記電極保護層を覆うガスバリア層が形成されていることを特徴とする。
【0022】
このように構成することで、有機緩衝層を形成する際に、電極保護層によって第二電極及び接続用導電部材を保護して、第二電極及び接続用導電部材の損傷を防止することができる。これにより、第二電極の下層側の機能層が損傷することも防止できる。また、有機緩衝層の材料が第二電極及び接続用導電部材に影響を及ぼすことを防止できる。
また、有機緩衝層により、囲み部材や複数の発光素子を画素ごとに分離する隔壁や導電部材等に由来する基体上の凹凸を緩和することができる。これにより、ガスバリア層が平坦に形成され、ガスバリア層による装置内部への水分浸入防止機能を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の有機EL装置は、前記有機緩衝層の端部における接触角度は、20度以下に形成されていることを特徴とする。
【0024】
このように構成することで、有機緩衝層の周辺端部において、有機緩衝層を覆って形成されるガスバリア層の角度が急峻になりすぎず、有機緩衝層の周辺端部でのガスバリア層の損傷を抑制することが可能となる。
【0025】
また、本発明の有機EL装置は、前記導電部材は前記囲み部材を囲繞するように連続して帯状に形成され、
前記接続用導電部材は、前記囲み部材の延設方向に沿って帯状に延設されていることを特徴とする。
【0026】
このように構成することで、発光素子の第二電極及び導電部材と、接続用導電部材との接続面積を拡大させて接続抵抗を低減するとともに、導電部材及び接続用導電部材の断面積を増加させて電気抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一実施形態に係る有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る有機EL装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】図2に示すA部の拡大断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る有機EL装置の構成を示す概略平面図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る有機EL装置の構成を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を適宜変更している。
【0029】
図1は、本実施形態の有機EL装置の配線構造を示す模式図である。この有機EL装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下、TFT)を用いたアクティブマトリクス方式のもので、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とからなる配線構成を有し、走査線101と信号線102との各交点付近にサブ画素Xを形成したものである。
【0030】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0031】
さらに、サブ画素Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(スイッチング素子)112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、この保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT(スイッチング素子)123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに電源線103から駆動電流が流れ込む陽極10と、この陽極10と陰極11との間に挟み込まれた発光層(有機発光層)12が設けられている。
【0032】
この有機EL装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、この保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から陽極10に電流が流れ、さらに発光層12を介して陰極11に電流が流れる。発光層12は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0033】
次に、本実施形態の有機EL装置1の具体的な態様を、図2〜図4を参照して説明する。ここで、図2は有機EL装置1を模式的に示す断面図である。図3は、図2の要部(A部)を示す図であって、有機EL装置1の周辺部の構成を説明するための拡大断面図である。図4は有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図である。
【0034】
図2に示すように、本実施形態における有機EL装置1は、いわゆる「トップエミッション方式」の有機EL装置である。トップエミッション方式は、光を素子基板側ではなく対向基板側から取り出すため、素子基板に配置された各種回路の大きさに影響されず、発光面積を広く確保できる効果がある。そのため、電圧及び電流を抑えつつ輝度を確保することが可能であり、発光素子の寿命を長く維持することができる。
【0035】
この有機EL装置1は、複数の発光素子21が配置された素子基板20Aと、複数の発光素子21を覆って積層して形成される電極保護層17、有機緩衝層18、ガスバリア層19の各層と、この素子基板20Aの複数の発光素子21が配置された面に対向配置された保護基板31と、を備えており、これら素子基板20Aと保護基板31とは、シール層33および接着層34とを介して貼り合わされている。以下の説明においては、素子基板20Aが配置されている側を下側、保護基板31が配置されている側を上側として、各構成の上下関係、積層関係を示すこととする。
【0036】
素子基板20Aは、基板本体(基体)20と、基板本体20上に形成された上述の各種配線やTFT素子と、これらの配線やTFT素子等を覆う無機絶縁膜14と、を備えている。基板本体20は、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、上記の材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態では、基板本体20の材料としてガラスを用いる。
【0037】
基板本体20上には、上述した駆動用TFT123や不図示の各種配線が形成されており、これらを覆って基板本体20の表面の全面に無機絶縁膜14が形成されている。無機絶縁膜14は、例えばSiO2等のシリコン酸化物や窒化シリコン等により形成されている。
【0038】
素子基板20A上には、素子基板20Aが備える配線やTFT素子等に由来する表面の凹凸を緩和するための平坦化層16と、平坦化層16に内装されて配置された発光素子21と、発光素子21から照射される光を保護基板31側に反射する金属反射層15と、が形成されている。平坦化層16は、絶縁性の樹脂材料で形成されており、形成方法はフォトリソグラフィ法を用いるため、材料には例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂などが用いられている。
【0039】
金属反射層15は、配線と製造工程を兼ねるため、配線材料と同じ例えばアルミニウムやチタン、モリブデン、銀、銅などの金属またはそれらを組み合わせた合金材料で形成されており、光を反射する性質を備えている。本実施形態ではアルミニウムで形成されている。金属反射層15は、後述する発光素子21と基板本体20との間で発光素子21に平面的に重なるように配置されている。
【0040】
平坦化層16上であって、金属反射層15と平面的に重なる領域には、発光素子21が配置されており、隣接する発光素子21の間および発光素子21と基板本体20の外周側の端部との間には隔壁13が形成されている。隔壁13は平坦化層16と同様に絶縁性の樹脂材料で形成されており、形成方法はフォトリソグラフィを用いるため、材料には例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂などが用いられている。
【0041】
発光素子21は、陽極(第一電極)10と陰極(第二電極)11との間に機能層を構成する発光層12が挟持されて形成されている。発光素子21の陽極10は、平坦化層16上に形成され、素子基板20Aが備える駆動用TFT123に接続されている。また陽極10は、仕事関数が5eV以上の正孔注入効果の高い材料が好適に用いられる。このような正孔注入効果の高い材料としては、例えばITO(Indium Thin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができる。本実施形態ではITOを用いる。
【0042】
発光層12は、白色に発光する白色発光層を採用している。本実施形態では、この白色発光層は低分子系の発光材料を用いて真空蒸着法を用いて形成されている。白色の発光材料としては、スリチルアミン系発光層にアントラセン系のドーパントをドーピングした層(青色)と、スリチルアミン系発光層にルブレン系のドーパントをドーピングした層(黄色)と、を同時に発光させて白色発光を実現している発光材料を挙げることができる。
【0043】
なお、図示は省略するが、本実施形態では、陽極10と発光層12との間に、トリアリールアミン多量体(ATP)層(正孔注入層)、トリフェニルジアミン系誘導体(TPD)層(正孔輸送層)、発光層12と陰極11との間にアルミニウムキノリノール(Alq3)層(電子注入層)、LiF(電子注入バッファー層)がそれぞれ成膜され、各電極からの電子および正孔の注入を容易にさせる構成となっている。本実施形態では、これら正孔注入層、正孔輸送層、発光層12、電子注入層及び電子注入バッファー層により機能層が構成されている。
【0044】
陰極11は、発光素子21と隔壁13の表面を覆って、最外周(素子基板20Aの外周部に近い側)に配置された隔壁13の頭頂部に至るまで延在して形成されている。陰極11としては、電子注入効果の大きい(仕事関数が4eV以下)材料により形成された薄膜が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属等の金属薄膜、又はこれらの金属化合物あるいは積層体の薄膜である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。陰極11は、金属材料の場合には真空蒸着法、金属化合物の場合にはECRプラズマスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法などの高密度プラズマ成膜法を用いて形成されている。これらの陰極の合計膜厚は、透明性を得るために100nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以下である。
【0045】
また、20インチ以上の大型パネルで使用する場合は、これらの材料により形成された薄膜だけでは電気抵抗が大きく電極としての性能が低下するため、上述の金属薄膜と接するようにITOや酸化錫などの透明な金属酸化物により形成された透明導電膜を100nm以下の範囲で積層させたり、陰極とは別に発光部分を避けるようにアルミニウムや金、銀、銅などの金属層をパターン形成するような補助的な配線を設けたりしてもよい。なお、本実施形態では、マグネシウム−銀合金(MgAg)を約10nmの膜厚で形成している。
【0046】
本実施形態では、図3に示すように、素子基板20Aの最外周に配置された隔壁13と平坦化層16が、有機EL装置1の表示領域3(図4参照)を囲繞する囲み部材Wとして機能している。また、この囲み部材Wによって囲まれた領域が、複数の発光素子21が形成された素子領域5となっている。そして、素子基板20A上であって、囲み部材Wの外側の素子基板20Aの外周部近傍の平坦化層16が形成されていない領域には第1陰極配線(導電部材)22Aが形成されている。そして、第1陰極配線22Aと陰極11とは、陰極接続層(接続用導電部材)24により接続され導通している。
【0047】
第1陰極配線22Aは、陰極11を不図示の電源まで通電させることを目的として形成されており、主に素子基板20Aの外周部付近に設けられる。第1陰極配線22Aの形成材料には、電気伝導性の高いアルミニウムやチタン、モリブデン、タンタル、銀、銅などの金属またはそれらを組み合わせた合金が用いられ、これらの材料を単層もしくは多層に積層して形成したものが用いられる。また、第1陰極配線22Aの最表層には、陽極10と同じ材料であるITOが形成されている。陽極10の形成時と同時に、第1陰極配線22Aの最表層にもITOを形成しておくことで、製造工程におけるフォトリソグラフィ工程での第1陰極配線22Aの腐食を防ぐことができる。第1陰極配線22Aの厚さは300nmから800nm程度であり、幅は0.5mmから5mm程度である。しかし有機EL装置1の大きさにより形成可能な第1陰極配線22Aの幅は異なるため、第1陰極配線22Aの幅はこの値に限定されない。本実施形態では例えば、約1mmの幅の第1陰極配線22Aを形成している。
【0048】
陰極接続層24の形成材料には、電気伝導性の高い金属が用いられ、マスクを介して真空蒸着法やスパッタ法で成膜して形成される。陰極接続層24は、陰極11の材料よりもイオン化傾向の小さい材料により形成されていることが望ましい。例えば、陰極11としてマグネシウムを用いる場合には、アルミニウムを用いることができる。
【0049】
図3に示すように、囲み部材Wは、基板本体20の外周側の外側面が、平坦化層16の外側面16a及び上面16bと、隔壁13の外側面13aとにより階段状に形成されている。
囲み部材Wを構成する平坦化層16の外側面16aと基板本体20の表面20aとの間でなす角度θ1は、20度以上70度以下の角度となっている。また、囲み部材Wを構成する平坦化層16の上面16bは基板本体20の表面20aと略平行となっている。そして、囲み部材Wを構成する隔壁13の外側面13aと基板本体20の表面20aとの間でなす角度θ2は、20度以上70度以下の角度となっている。
また、囲み部材Wの厚さTwは、例えば約1μm以上に形成されている。
【0050】
陰極接続層24は、囲み部材Wの外側(基板本体20の外周側)の第1陰極配線22Aに接続され、囲み部材Wの外側から、囲み部材Wに乗り上げて、囲み部材Wを構成する隔壁13の頭頂部で陰極11に接続されている。また、陰極接続層24は、その厚さTが陰極11の厚さtよりも大きくなるように形成されている。陰極接続層24の厚さTは、例えば約120nm以上の厚さに形成されている。本実施形態では、陰極接続層24の厚さTは約300nm程度の厚さとなっている。
【0051】
素子基板20A上には、第1陰極配線22Aの端面を覆い、第1陰極配線22A、陰極接続層24、陰極11の表面を覆って全面に、電極保護層17が形成されている。この電極保護層17により、20nm以下と非常に薄い陰極11や、その下の発光層12の破損を抑制することができる。また、発光素子21への水分の浸入を防ぐガスバリア層としての機能も兼ね備える。
【0052】
電極保護層17はECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法を用いて形成することができる。形成前には、酸素プラズマ処理を行って形成した膜の密着性を向上させることが好ましい。
【0053】
電極保護層17は、透明性や密着性、耐水性、絶縁性、更にはガスバリア性を考慮して、酸窒化シリコンや窒化シリコンなどのケイ素化合物で構成することが望ましい。中でも、酸窒化シリコンは、含まれる酸素と窒素の比率を変えることで高い防湿性を維持しながら、膜応力を抑えつつ無色透明な膜とすることが可能であるため好ましい。本実施形態では、酸窒化シリコンを用いて電極保護層17を形成している。
【0054】
また、電極保護層17の膜厚は、硬化前の有機緩衝層18の材料が陰極11に浸透することを防止するため、100nm以上が好ましく、隔壁13を被覆することで発生する応力によるクラック発生を防ぐため、膜厚の上限は300nm以下に設定することが好ましい。
【0055】
電極保護層17の上には、電極保護層17の内側(装置中央側)に有機緩衝層18が形成されている。有機緩衝層18は、囲み部材W及び隔壁13の形状の影響により、凹凸状に形成された電極保護層17の凹凸部分を埋めるように配置され、さらに、その上面は略平坦に形成される。
有機緩衝層18は、周辺部では主に囲み部材Wに由来する凹凸形状を緩和するように形成されている。有機緩衝層18の周辺部では、有機緩衝層18は囲み部材Wの階段状の外側面の形状に沿って形成されている。また、有機緩衝層18は、装置中央部から周辺端部35にかけて薄くなるように形成されている。更には、有機緩衝層18の周辺部では階段状の下地形状に沿って有機緩衝層18が形成され、周辺端部35から囲み部材Wの上部に至るまで有機緩衝層18の表面斜面の基板本体20の表面20aの方向に対する仰角が急激に大きくなることなく形成されている。
【0056】
ここで、図3に示すように、有機緩衝層18の周辺端部35における基板本体20の表面20aの方向に対する仰角(接触角度)θは、20度以下で形成されることが好ましい。本実施形態では、仰角θは例えば約10度となっている。
【0057】
有機緩衝層18の形成材料としては、流動性に優れ且つ溶媒や揮発成分の無い、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料であることが好ましく、その様な形成材料としてエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーを好適に用いることができる。ここでは、分子量1000以下の原料をモノマー、分子量1000〜3000の原料をオリゴマーとする。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0058】
また、有機緩衝層18の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。このような硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが好適に用いられ、透明性に優れ且つ硬化のばらつきの少ない付加重合型が好ましい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの硬化剤を加えた有機緩衝層18の形成材料は優れた熱硬化性樹脂として振る舞う。
【0059】
さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類やアミノフェノールなどのアミン化合物を微量添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60〜100℃の範囲で加熱することで行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
【0060】
また、硬化時間を短縮するためよく用いられるカチオン放出タイプの光重合開始剤を用いてもよいが、硬化収縮が急激に進まないよう反応の遅いものが良く、また、塗布後の加熱による粘度低下で平坦化を進めるように最終的には熱硬化を用いて硬化物を形成するものが好ましい。更には、陰極11やガスバリア層19との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物等の捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が混入されていてもよい。
【0061】
これらの原料ごとの粘度は、1000mPa・s(室温:25℃)以上が好ましい。塗布直後に発光層12へ浸透して、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させないためである。また、これらの原料を混合した緩衝層形成材料の粘度としては、2000mPa・s(室温)以上が好ましい。また、含水量は10ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0062】
また、有機緩衝層18の最適な膜厚としては、2〜5μmが好ましい。有機緩衝層18の膜厚が厚いほうが異物混入した場合等にガスバリア層19の破損を防ぎやすいが、有機緩衝層18を合わせた層厚が15μmを超えると、後述する着色層32aと発光層12の距離が広がり側面に逃げる光が増えるため光を取り出す効率が低下するためである。
【0063】
有機緩衝層18の上には、有機緩衝層18の端部を含め全面を被覆し、且つ電極保護層17の全面を覆うガスバリア層19が形成されている。ガスバリア層19は、酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、透明性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、好ましくは窒素を含むケイ素化合物、すなわち窒化シリコンや酸窒化シリコンなどを用いて形成される。本実施形態では、酸窒化シリコンを用いてガスバリア層19を形成している。
【0064】
ガスバリア層19は、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法を用いて形成することができる。形成前には、形成面の酸素プラズマ処理を行って形成した膜の密着性を向上させることが好ましい。また、ガスバリア層19の膜厚は、ガスバリア層19の破損を防ぎガスバリア性を担保するために100nm以上であることが好ましい。また、有機緩衝層18の端部や第1陰極配線22A等の凹凸部を被覆する際にクラックを防ぐために800nm以下であることが好ましい。
また、電極保護層17およびガスバリア層19は、第1陰極配線22Aを覆って形成されている。第1陰極配線22Aの表面には、上述のように陽極10に用いられるITO(酸化物導電膜)が形成されている。
【0065】
また、ガスバリア層19は、有機緩衝層18も完全に被覆するように有機緩衝層18よりも広く形成されており、このガスバリア層19上にシール層33が配置されている。さらに、図3に示すように、シール層33の幅d内に有機緩衝層18の周辺端部35の立ち上がり部分36が位置するように形成されている。
【0066】
また、有機緩衝層18とその上に形成されるガスバリア層19は異なる材料を用いて形成されており、熱膨張率の異なる材料にて形成されている。そして、シール層33は有機緩衝層18の周辺端部35に重なるように形成され、ガスバリア層19が有機材料で挟持された構成となっている。
また、電極保護層17の幅は有機緩衝層18より広く形成されており、通常、ガスバリア層19と同様のマスクを使用して形成するため、ガスバリア層19と同じ幅で形成されている。
【0067】
ガスバリア層19が形成された素子基板20Aには、保護基板31が対向配置されている。保護基板31は、ガスバリア層19を保護する機能と光透過性を備えた基板であり、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いて形成することができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。中でも、透明性と防湿性が高く、耐熱性を付与するのに素子基板との熱膨張率を合わせるため、特にガラス基板が好適に用いられる。
【0068】
保護基板31の素子基板20Aと対向する面には、カラーフィルタ層32が形成されている。カラーフィルタ層32には、透過光を赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれかの光に変調する着色層32aがマトリクス状に配列形成されている。この着色層32aの各々は、陽極10上に形成された白色の発光層12に対向して配置されている。これにより、発光層12から射出された光は着色層32aの各々を透過して、赤色光、緑色光、青色光として観察者側に射出され、カラー表示を行うようになっている。
【0069】
また、隣接する着色層32aの間および着色層32aの周囲には、光漏れを防ぎ視認性を向上させるブラックマトリクス層32bが形成されている。ブラックマトリクス層32bは、一部がシール層33に平面的に重なる領域にまで延在して形成され、装置側面からの光漏れを効率的に防ぎ画質を向上させるようになっている。
【0070】
素子基板20Aと保護基板31とは、素子基板20Aの外周部近傍に配置されるシール層33と、シール層33に囲まれた領域内で素子基板20Aと保護基板31とに挟持された接着層34と、によって貼り合わされている。
【0071】
シール層33は、装置内部への水分浸入防止の機能のほかに、素子基板20Aと保護基板31との貼り合わせの位置精度向上と接着層34のはみ出しを防止する土手としての機能を有している。シール層33の形成材料は、紫外線によって硬化して粘度が向上する樹脂材料で構成されている。好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0072】
また、シール層33の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。この硬化剤としては、ジアゾニウム塩、ジフェニルヨウドニウム塩、トリフェルスルフォニウム塩、スルホン酸エステル、鉄アレーン錯体、シラノール/アルミニウム錯体などのカチオン重合反応を起こす光反応型開始剤が好適に用いられる。これらの硬化剤を加えたシール層33の形成材料は光(紫外線)硬化性樹脂として振る舞う。
【0073】
シール層33の形成材料の塗布時の粘度は、30〜100Pa・s(室温)であることが好ましい。また、紫外線照射後に徐々に粘度が上昇するようにカチオンホールド剤と呼ばれる添加剤を用いると、貼り合わせ後の光照射工程を削除することができる上に、シール層33の形成材料が流動しにくくなるため貼り合わせ工程が容易になる。更に、1mm以下の細いシール幅でもシール層33の断裂を防ぎ、貼り合わせ後の充填剤のはみ出しを防ぐことができるため好ましい。また、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0074】
通常、シール層33を形成するための材料には、基板間の距離を制御するための所定粒径の球状粒子(スペーサ)や、粘度を調整するため燐片状や塊状の無機材料(無機フィラー)などの充填物が混合されていることが多い。しかし、これらの充填物は貼り合わせ圧着時にガスバリア層19を損傷させるおそれがあるため、本実施形態ではこれらの充填物が混入していないシール層形成材料を用いる。シール層33の膜厚としては、10〜20μmが好ましい。
【0075】
接着層34は、シール層33で囲まれた有機EL装置1の内部に隙間なく充填されており、素子基板20Aに対向配置された保護基板31を固定し、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、発光層12やガスバリア層19を保護する機能を備える。
【0076】
接着層34の形成材料の主成分としては、流動性に優れ、かつ溶媒のような揮発成分を持たない有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0077】
また、接着層34の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。この硬化剤としては、電気絶縁性に優れ、かつ強靭で耐熱性に優れる硬化皮膜を形成するものが好適に用いられ、透明性に優れ且つ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、またはそれらの重合物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの硬化剤を加えた接着層34の形成材料は熱硬化性樹脂として振る舞う。
【0078】
接着層34の形成材料の硬化は、60〜100℃の範囲で加熱することにより行われ、その硬化皮膜は酸窒化シリコンとの密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となる。さらに、芳香族アミンや脂肪族アミンなどのアミン硬化剤を用いてもよい。なお、接着層34の形成材料には、シール層の形成材料と同様の理由によりスペーサや無機フィラーなどの充填剤が混入していないものを用いる。
【0079】
接着層34の形成材料の塗布時の粘度は、200〜1000mPa・s(室温)が好ましい。理由は、貼り合わせ後の空間への材料充填性を考慮したもので、加熱直後に一度粘度が下がってから硬化が始まる材料が好ましい。また、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0080】
接着層34の膜厚としては、3〜10μmが好ましい。接着層34がこの程度の厚さを備えると、接着層34の膜厚と先述した有機緩衝層18等の各保護層の膜厚との合計が最大で15μm程度になる。この合計膜厚が15μmを超えると、カラーフィルタ層32と発光素子21との間の距離が広がりすぎ、発光素子21から射出される光のうち装置側面に逃げる光の割合が増えるため、光取り出し効率が悪くなるためである。この膜厚の制御は、接着層34の形成材料を配置する量を制御することで行う。
【0081】
また、この有機EL装置1の周辺部は非発光部分である額縁部となっている。この額縁部は、例えば素子基板20A上の最端部に設けられた隔壁13の頭頂部から素子基板20Aの端部までの間に配置されている。図3に示すように、その額縁部の幅Dは、例えば2mmであり、シール層33の幅dは、例えば1mmである。
【0082】
次いで、図4の概略平面図を用いて有機EL装置1の平面構造を説明する。素子基板20Aは、平面視矩形の形状を有しており、基板本体20の中央部に配置された表示領域3と、表示領域3の周囲に配置された額縁部4とを備えている。
【0083】
表示領域3は平面視矩形の領域形状を備え、図1で示したサブ画素Xがマトリクス状に配置されている。サブ画素Xにはそれぞれ発光素子21が配置されており、は赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれかの光が取り出される構成となっている。これら各々の色に発色するサブ画素Xは、図中の短手方向において同一色で配列していわゆるストライプ配置を構成している。そして、サブ画素Xが発色するRGBが一つのまとまりとなって、単位画素が構成されており、その単位画素はRGBの発光を混色させてフルカラー表示を行うようになっている。表示領域3の大きさは、対角で約4インチとなっている。
【0084】
額縁部4には、表示領域3を覆って表示領域3よりも広い面積に(額縁部4にはみ出るまで)形成される平面視矩形の陰極11と、陰極11の周囲を囲んで形成される第1陰極配線22Aと、第1陰極配線22Aと接続して形成される第2陰極配線22Bと、陰極11の両短辺に配置され、陰極11と第1陰極配線22Aとを接続する帯状の陰極接続層24と、を備えている。また、素子基板20Aの長辺のうちの一方の辺25には、その中央部に素子基板20Aを他の部材と電気的に接続させる際に用いる実装端子40を備えている。
【0085】
表示領域3の周囲には、表示領域を囲むように囲み部材Wが設けられ、囲み部材Wの内側の領域が、複数の発光素子21が形成された素子領域5となっている。陰極接続層24は、囲み部材Wの延在方向に沿って、陰極11の両短辺に帯状に延設されている。
第1陰極配線22Aは、陰極11の両短辺および辺25側とは反対側の陰極11の長辺に対向して平面視U字型に配置されている。また、第2陰極配線22Bは平面視L字型に形成されており、第1陰極配線22Aの両端部にはそれぞれ第2陰極配線22Bの一端部が接続されている。また、各第2陰極配線22Bの他端部には接続端子部23が設けられており、接続端子部23は実装端子40の一部を構成して辺25に達するように設けられている。
【0086】
実装端子40は、有機EL装置1が備える各種配線と不図示の回路配線で接続されている。実装端子40は、有機EL装置1と他の部材とを電気的に接続させる際に用いる。実装端子40は、必要に応じて金や銀などの導電性の高い金属によるメッキを行い、実装端子40での導電性を高めることとしておいてもよい。
【0087】
これら各種配線のうち実装端子40の端部を除いて、ガスバリア層19が形成されている。ガスバリア層19に覆われない部分(露出部分)には、実装端子40の一部を構成する接続端子部23も含んでいる。また、第2陰極配線22Bの備える屈曲部はガスバリア層19に覆われている。
【0088】
次に、本実施形態の有機EL装置1の作用について説明する。
図3に示すように、囲み部材Wの外側面が、平坦化層16の外側面16a、上面16b、及び隔壁13の外側面13aによって、素子基板20Aから立ち上がるように階段状に形成されている。そのため、配線等を囲み部材Wに乗り上げるように形成した場合には、素子基板20A上の第1陰極配線22Aと、平坦化層16の外側面16aとの境界付近において、カバレッジ不足やクラック等の欠陥の発生による断線が生じやすくなっている。
【0089】
しかし、本実施形態の有機EL装置1では、上述のように、陰極接続層24の厚さTが陰極11の厚さtよりも大きく形成されている。そのため、陰極11を囲み部材Wの外側まで引き出して、直接、第1陰極配線22Aに接続させる場合と比較して、第1陰極配線22Aと平坦化層16の外側面16aとの境界付近におけるカバレッジ不足やクラック等の欠陥が発生し難くなる。同様に、平坦化層16の外側面16aと上面16bとの境界付近や、平坦化層16の上面16bと隔壁13の外側面13aとの境界付近における欠陥の発生も防止される。したがって、本実施形態によれば、陰極接続層24に欠陥を発生し難くすることができ、陰極11と第1陰極配線22Aとの間の断線を防止することができる。
【0090】
また、陰極11の厚さtは、20nm以下の厚さである約10nmであるのに対して、陰極接続層24の厚さTは、120nm以上の厚さである約300nmとなっている。このように、陰極接続層24の厚さTを陰極11よりも遥に大きい値とすることで、より確実に欠陥の発生が防止され、陰極11と第1陰極配線22Aとの間の断線を、より確実に防止することができる。
【0091】
また、囲み部材Wの外側面を形成する平坦化層16の外側面16aが基板本体20の表面20aとの間なす角度θ1、及び、隔壁13の外側面13aが基板本体20の表面20aとの間なす角度θ2が、それぞれ20度以上70度以下とされている。このように角度θ1,θ2を20度以上とすることで、囲み部材Wの周縁部の基板本体20の表面20a方向の幅が必要以上に大きくならない。また、角度θ1,θ2を70度以下とすることで、囲み部材Wの外側面を形成する平坦化層16の外側面16aと隔壁13の外側面13aが必要以上に急峻な角度で立ち上がることが防止され、陰極接続層24に欠陥が発生することを防止することができる。
【0092】
また、囲み部材Wの厚さTwが、1μm以上である場合には、囲み部材Wによって素子領域5とそれ以外の領域を確実に区画することができる。一方で上記のような欠陥による断線が生じやすくなるが、陰極接続層24を上述のように構成したことにより、欠陥を防止して断線を防止することができる。
【0093】
また、陰極接続層24が陰極11の材料よりもイオン化傾向の小さい材料により形成されている場合には、陰極11を第1陰極配線22Aに、直接、接続する場合や、陰極接続層24の材料として陰極11のイオン化傾向と等しいかそれよりも大きいイオン化傾向の材料を用いる場合と比較して、第1陰極配線22Aと陰極11との間の材料が腐食し難くなる。したがって、第1陰極配線22Aと陰極11との間の材料の腐食によって発光素子21の内部へ水分が浸入することを防止して、発光素子21の劣化を防止することができる。
【0094】
また、陰極接続層24をアルミニウムにより形成することで、陰極接続層24を銀等の金属材料により製造する場合と比較して低温で形成することができ、製造を容易にするとともに、材料コストを削減することができる。
【0095】
また、陰極11を金属薄膜と透明導電膜とを積層させた構成とした場合には、陰極11を金属薄膜のみで形成する場合と比較して金属薄膜をより薄く形成し、陰極11の光透過性を確保しながら電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0096】
また、陰極11及び陰極接続層24を覆う電極保護層17を形成することで、有機緩衝層18を形成する際に、電極保護層17によって陰極11及び陰極接続層24を保護して、陰極11及び陰極接続層24の損傷を防止することができる。これにより、陰極11の下層側の機能層が損傷することも防止できる。また、硬化前の有機緩衝層18の材料が陰極11及び陰極接続層24に浸透することを防止できる。
【0097】
また、電極保護層17およびガスバリア層19が第1陰極配線22Aを覆って形成され、第1陰極配線22Aの表面には、ITO(酸化物導電膜)が形成されている。このITOは、成膜の過程で多結晶柱状構造をとるため隙間が多く、水分が浸入しやすい。また、ITOの導電性を高めるために加熱処理を行うと、結晶(グレイン)が凝集・成長するため、より隙間が多くなる。そのため、第1陰極配線22Aが露出していると、外部環境の水蒸気などの水分が第1陰極配線22Aの表面のITOを介して有機EL装置1の装置内部に浸入するおそれがある。しかし、本実施形態では透湿性の低いケイ素化合物からなる層で第1陰極配線22Aを覆っているため、第1陰極配線22Aからの水分の浸入を防ぎ、発光素子21の劣化による表示性能の低下を回避し表示性能を維持することができる。
【0098】
また、有機緩衝層18により、素子基板20Aの反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、隔壁13からの電極保護層17の剥離を防止することができる。また、有機緩衝層18により、素子基板20A上の凹凸を緩和することができる。これにより、ガスバリア層19が平坦に形成され、応力が集中する部位がなくなり、ガスバリア層19でのクラックの発生を防止することができる。したがって、ガスバリア層19による装置内部への水分浸入防止機能を向上させることができる。
【0099】
また、有機緩衝層18の周辺端部35における素子基板20Aの水平方向に対する仰角θは、20度以下で形成され、本実施形態では仰角θは10度となっている。これにより有機緩衝層18の周辺端部35において、有機緩衝層18を覆って形成されるガスバリア層19は、下地形状に対応して急峻な角度となることが防止される。したがって、有機緩衝層18の周辺端部35を覆うガスバリア層19の応力集中によるクラックや剥離等の損傷を防ぐことができる。
【0100】
また、ガスバリア層19により酸素や水分による発光素子21の劣化等を抑えることができる。更には、ガスバリア層19は有機緩衝層18も完全に覆っているため、有機緩衝層18を介した水分浸入も防ぐことができる。
【0101】
また、有機緩衝層18とその上に形成されるガスバリア層19は、熱膨張率の異なる材料にて形成されているので、環境の変化や装置の駆動による発熱によりこれらの層の温度が変化すると、熱膨張率の差に由来してガスバリア層19が破損するおそれがある。その様な破損は、ガスバリア層19の形状が変化する有機緩衝層18の端部において起こりやすい。しかしながら、本実施形態では、有機緩衝層18の周辺端部35に重なるようにシール層33が形成され、ガスバリア層19が有機材料で挟持されている。これにより、応力集中によるガスバリア層19のクラックや剥離等の損傷を防ぐことができる。したがって、第1陰極配線22Aや有機緩衝層18を介して水分が発光素子21に到達することを防ぎ、ダークスポットの発生を防ぐことができる。
【0102】
また、本実施形態では、ガスバリア層19に対向して保護基板31が設けられている。そのため、保護基板31によりガスバリア層19の破損を防ぎ、ガスバリア層19による装置内部への水分浸入防止の機能を維持することができる。また、保護基板31自体により水分浸入を防ぐこともできる。
【0103】
また、本実施形態では、シール層33および接着層34の形成材料には、スペーサや無機フィラーなどの粒子状の充填材を含まないこととしている。そのため、素子基板20Aと保護基板31との圧着時において、充填剤を介して圧着の応力がガスバリア層19に伝わりガスバリア層19が破損することを回避することができる。
【0104】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図1〜図3を援用し、図5を用いて説明する。本実施形態では、陰極接続層24Bが囲み部材Wの三辺に沿って連続して形成されている点で上述の第一実施形態で説明した有機EL装置1と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0105】
図5に示すように、本実施形態の有機EL装置1Bは、陰極接続層24が囲み部材Wの三辺に沿って帯状に延設されている。
これにより、発光素子21の陰極11及び第1陰極配線22Aと、陰極接続層24との接続面積を拡大させて接続抵抗を低減するとともに、陰極接続層24の断面積を増加させて電気抵抗を低減することができる。
【0106】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、本発明の技術的思想に沿えば、TFTなどを用いるアクティブマトリクスは必須ではなく、単純マトリクス向けの素子基板を用いて本発明を実施し、単純マトリクス駆動しても全く同じ効果が低コストで得られる。
【0107】
また、RGB画素ごとに金属反射層と発光層の距離を制御することでRGBの発光効率を高めてもよい。
また、上述の実施形態の有機EL装置はトップエミッション方式の発光方法であるため、陽極は必ずしも光透過性を有する必要は無く、アルミニウム等の光を透さない金属電極を設けることとしてもよい。その場合には、陽極が光を反射し先述の金属反射層の機能を兼ね備えるため、金属反射層は設けなくてもよい。
【0108】
また、上述の実施形態では低分子系の発光材料を用いているが、高分子系の発光材料を用いて発光層を形成することとしてもよい。また、各層の構成を変化させ、赤色、緑色、青色の三色を同時に発光させて白色発光を取り出す三層構造とすることも可能である。
また、上述の実施形態においては、電極保護層を単層で形成しているが、複数層で積層してもよい。例えば、低弾性率の下層と高耐水性の上層とで電極保護層を構成してもよい。
【0109】
また、上述の実施形態におけるガスバリア層は、シール層の外周より広く形成されているが、必ずしもシール層より広く形成する必要はなく、有機緩衝層の周辺端部と同様にシール層の幅内に形成されていてもよい。
また、上述の実施形態においては、ガスバリア層を単層で形成しているが、複数層で積層してもよい。
また、保護基板には、カラーフィルタ層の他に、紫外線を遮断または吸収する層や、光反射防止膜、放熱層などの機能層を設けてもよい。
【0110】
また、上述の実施形態においては、シール層の形成材料には、粒子状の充填材を含まないこととしたが、有機緩衝層と接触しないような構造の場合には、ガスバリア層を損傷させない程度に弾性率が小さい有機材料の球状粒子を混合することとしてもよい。
【符号の説明】
【0111】
1,1B 有機EL装置、10 陽極(第一電極)、11 陰極(第二電極)、12 発光層(機能層)、13a 外側面(外側部を形成する面)、16a 外側面(外側部を形成する面)、16b 上面(外側部を形成する面)、17 電極保護層、18 有機緩衝層、19 ガスバリア層、20 基板本体(基体)、20a 表面(基体表面)、21 発光素子、22A 第1陰極配線(導電部材)、22B 第2陰極配線(導電部材)、24,24B 陰極接続層(接続用導電部材)、W 囲み部材、θ1 角度、θ2 角度、θ 角度(接触角度)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に設けられた第一電極と、前記第一電極の上方に設けられた機能層と、前記機能層の上方に設けられた第二電極と、を含む発光素子が複数形成された素子領域と、
前記素子領域のうち、前記基体の外周に最も近接する素子に含まれる機能層の前記外周側の側部を覆い、前記基体上に設けられた囲み部材と、
前記囲み部材の外側に配設された導電部材と、を備え、
前記導電部材に接続され、前記囲み部材の外側から前記囲み部材に乗り上げて前記第二電極に接続された接続用導電部材の厚さが、前記第二電極の厚さよりも大きいことを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記接続用導電部材の厚さは120nm以上であり、前記第二電極の厚さは10nm以下であることを特徴とする請求項1記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記囲み部材の厚さは、1μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記囲み部材の前記基体の外周側の外側面と、基体表面との間でなす角度が、20度以上70度以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記接続用導電部材は、前記第二電極の材料よりもイオン化傾向の小さい材料により形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記接続用導電部材は、アルミニウムにより形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記第二電極は、金属薄膜と透明導電膜が積層されて形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記第二電極及び前記接続用導電部材を覆う電極保護層と、前記電極保護層上に形成されて前記囲み部材の外側部を形成する面を覆う有機緩衝層と、前記有機緩衝層及び前記電極保護層を覆うガスバリア層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項9】
前記有機緩衝層の端部における接触角度は、20度以下に形成されていることを特徴とする請求項8記載の有機EL装置。
【請求項10】
前記導電部材は、前記囲み部材を囲繞するように連続して帯状に形成され、
前記接続用導電部材は、前記囲み部材の延在方向に沿って帯状に延設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−77059(P2011−77059A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9570(P2011−9570)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【分割の表示】特願2008−31429(P2008−31429)の分割
【原出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】