説明

有用物の製造方法

【課題】簡単な処理で、タマネギなどの廃棄処理が問題となっている植物系材料から、糖類をはじめとする有用物を効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】タマネギを亜臨界水または超臨界水を用いて分解処理することにより、バイオマスから製造されるエタノールの原料となるグルコースなどの糖類、ケルセチン、その他の有用な有機酸、アミノ酸などを製造する方法。前記タマネギが、タマネギの皮または鱗茎である、有用物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タマネギから有用物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスから製造されるエタノールは、二酸化炭素の排出削減に直結するガソリン添加剤として極めて重要な低級アルコール燃料である。現在、多くのエタノールは、トウモロコシなどの穀類から得られている。
【0003】
しかし、穀類を原料とするエタノールの製造は、穀類の高騰を生じ望ましくない。このため、廃木材、間伐材、古紙などの木質原料から、糖を生産することが試みられている(例えば、特許文献1、2参照)。この糖を用いて、エタノールを得ることが行われている。
【0004】
特許文献1には、廃木材などを糖化するための前処理として、原料の微粉化とリグニン処理をする方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、多糖類系バイオマスを亜臨界流体などで処理し、糖類を生産する際に、前工程として、酸またはアルカリ処理をしてリグノセルロースを分解することが記載されている。
【0006】
このように木質材料から糖を生産する場合には、リグニンなどを除去する必要があり、工程が複雑になる。このため、前処理を必要とせずに、植物材料から糖を得ることは極めて重要である。
【0007】
一方、通常野菜として用いられるタマネギは、わが国において、平成18年度で1,158,000トン収穫され、出荷量は1,014,000トン出荷されている。出荷できないタマネギの廃棄処理が問題となっている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−149343号公報
【特許文献2】特開2006−223152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡単な処理で、植物系材料から、糖類をはじめとする有用物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、タマネギを亜臨界水または超臨界水を用いて分解処理することにより、グルコースなどの糖類、ケルセチン、その他の有用な有機酸、アミノ酸などを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
前記タマネギは、タマネギの皮または鱗茎であればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、超臨界状態または亜臨界状態の水を用いて、タマネギを分解処理することで、グルコースなどの糖類、ケルセチンなどのフラボノイド、その他の有用な有機酸、アミノ酸、オリゴペプチドなどを製造する製造方法を提供することができる。
特に、亜臨界状態の条件を選択することで、タマネギの鱗茎の乾燥重量の約70%が、全糖になる。したがって、これを原料に、エタノールなどの原料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
[タマネギ]
本発明の有用物の製造方法に用いるタマネギは、ネギ科の多年草の植物である。このうち、原料として用いるのは、廃棄される皮または食用にされる鱗茎の部分である。タマネギでは、皮の部分がタマネギ全体の約8%、鱗茎の部分がタマネギ全体の約89%を占める。したがって、これらを有効に利用できれば、タマネギのほとんどの部分が処理できるので、好ましい。皮または鱗茎のいずれを用いるかは、製造目的により異なる。両方同時に用いてもよい。例えば、糖類、有機酸、アミノ酸などを得る場合には、鱗茎を用い、ケルセチンなどを得る場合には、皮を用いるなどである。
【0015】
タマネギは、直接または破砕・粉砕処理をした状態で、反応器に供給されるとよい。また、必要に応じて事前に乾燥処理を行ってもよい。
【0016】
[分解条件]
本発明の有用物の製造方法においては、タマネギを亜臨界状態または超臨界状態の水と接触させて分解することにより行う。タマネギと、亜臨界状態または超臨界状態の水との混合比は、特に制限されないが、タマネギ(乾燥物換算)1質量部に対して、水を5〜30質量部、好ましくは10〜25質量部の範囲であるとよい。本発明の方法において、反応は、バッチ式であっても、連続式であってもよい。
【0017】
ここで、水の超臨界状態とは、温度及び圧力が臨界点(374℃、22MPa)以上の状態にあることを言い、水の亜臨界状態とは、臨界点以下の高温の水(374℃以下の水)で飽和蒸気圧曲線で示される圧力以上の状態の水を言う。例えば374℃以下、22MPa以上の状態、あるいは374℃以下、22MPa未満であっても飽和蒸気圧曲線が示す圧力以上の高温高圧水をいう。処理温度は、処理後に得る糖や有機酸などの種類によって適宜選択すればよい。例えば、二糖類であるショ糖を多く製造する場合は、160℃以下、グルコース、フルクトースなどの単糖類を多く製造する場合は、100℃〜160℃の水の亜臨界状態で処理すればよい。有機酸を多く製造する場合は、200℃以上の水の亜臨界状態で処理すればよい。グルタチオンを得る場合は、130℃〜150℃の水の亜臨界状態で処理すればよい。ケルセチンを得る場合は、130℃〜150℃の水の亜臨界状態で処理すればよい。
【0018】
反応時間は、処理温度、処理物の種類、処理後に得られる製造物の種類により適宜設定すればよく、例えば、1分以上、10分以下である。
【0019】
反応器から流出した熱水は、得られた有機酸が過度に加水分解するのを防ぐために、直ちに冷却するのが好ましい。得られた製造物は、常法に従って、分離回収する。
【0020】
このように、タマネギの亜臨界水処理により、単糖類、二糖類などの糖類、有機酸、アミノ酸、ケルセチンなどのフラボノイド、グルタチオンなどのオリゴペプチドなどが得られる。糖類が多く得られる条件で、分解した場合は、アルコール発酵を行い、エタノールなどの原料とすることができる。抗炎症剤ケルセチンなどのフラボノイド、抗酸化剤であるグルタチオンなどのオリゴペプチドなど、薬理作用を有する物質が得られた場合は、これらの薬剤やサプリメントの原料にすることもできる。
【0021】
さらに、タマネギの亜臨界水処理物は、甘い臭いがし、玉葱独特の臭いはなくなる。。また、原料は、本来食用にできる。したがって、タマネギの亜臨界水処理物自体を発酵させ、機能性の食品として利用することもできる。この場合にも、ケルセチン、グルタチオンなどを含んでいるので、有効な健康食品として利用できる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
タマネギの鱗茎100kg(含水量90.7kg)を原料に用いた。タマネギの乾燥基準で鱗茎1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した。この反応管を、それぞれ、80℃、100℃、120℃、130℃、140℃、160℃、200℃、220℃、240℃、270℃、320℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、5分間保持して、分解反応を行った。分解物中の糖分を測定した。結果を図1に示す。
【0024】
図1において、横軸を分解処理温度(℃)を、縦軸は各処理温度における、乾燥原料に対する糖の生成収率(kg/kg−dry sample)を示す。また、全糖の生成収率(kg/kg−dry sample)は、左の縦軸に、各糖の生成収率(kg/kg−dry sample)は、右の縦軸による。▽はグルコースを、△は、フルクトースを、□は、スクロースを、■は、全糖を示す。図1から、フルクトース、グルコースは、130〜160℃の亜臨界水処理で、それぞれ約0.25(kg/kg−乾燥原料)と高い収率で製造されることがわかる。また、160℃以上で処理をすると、糖は分解していくことがわかる。160℃までの亜臨界水処理で、乾燥基準原料の約70%が糖に転換したことがわかる。
【0025】
具体的には、130℃の亜臨界水処理で、含水量90.7kgのタマネギの鱗茎100kgから、グルコース2.547kg、フルクトース2.337kg、スクロース1.329kg、160℃の亜臨界水処理で、グルコース2.416kg、フルクトース2.016kg、スクロース0.763kgが得られた。
【0026】
上記分解物の有機酸の生成量を測定し、収率を求めた。結果を図2に示す。収率横軸を分解処理温度(℃)を、縦軸は各処理温度における、初期グルコース(initial−glucose)に対する有機酸の生成収率(kg/kg−initial−glucose)を示す。また、図2(a)において、▼は、ピルビン酸を、▲は、グリコール酸を、■は、L−乳酸を、◆は、ギ酸を、●はピログルタミン酸を示す。図2(b)において、▼は、クエン酸を、▲は、リンゴ酸を、■は、酢酸を。◆は、レブリン酸を示す。図2から、有機酸は、高温になるほど、収率が増加するものが多いが、これは、糖が分解することにより得られると考えられた。
【0027】
具体的には、160℃の亜臨界水処理で、含水量90.7kgのタマネギの鱗茎から、0.25kgの有機酸が、320℃の亜臨界水処理で、含水量90.7kgのタマネギの鱗茎から、0.969kgの有機酸が得られた。
【0028】
上記分解物のアミノ酸の生成量を測定し、収率を求めた。結果を図3に示す。収率横軸を分解処理温度(℃)を、縦軸は各処理温度における、初期グルコース(initial−glucose)に対する有機酸の生成収率(kg/kg−initial−glucose)を示す。また、図3(a)において、▼は、メチオニンを、▲は、イソロイシンを、■は、フェニルアラニンを、◆は、ヒスチジンを、示す。図3(b)において、▼は、スレオニンを、▲は、リシンを、■は、チロシンを、◆は、ロイシンを、示す。図3(c)において、▼は、アスパルギン酸を、▲は、セリンを、■は、アラニンを、◆は、バリンを、示す。図3から、アミノ酸は、160℃付近で最大収率を示すことがわかる。
【0029】
具体的には、120℃の亜臨界水処理で、含水量90.7kgのタマネギの鱗茎100kgから、0.686kgのアミノ酸が、160℃の亜臨界水処理で、含水量90.7kgのタマネギの鱗茎から、0.397kgの有機酸が得られた。
【0030】
(実施例2)
タマネギの皮100kg(含水量12.3kg)を原料に用いた。乾燥基準でタマネギの皮1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した。この反応管を、それぞれ、80℃、100℃、120℃、130℃、140℃、160℃、200℃、220℃、240℃、270℃、320℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、5分間保持して、分解反応を行った。分解物中の糖分を測定した。結果を図4に示す。
【0031】
図4において、横軸を分解処理温度(℃)を、縦軸は各処理温度における、乾燥原料に対する糖の生成収率(kg/kg−dry sample)を示す。また、▽はグルコースを、△は、フルクトースを、□は、スクロースを、■は、全糖を示す。図4から、タマネギの皮においては、180℃付近の亜臨界水処理で、グルコースが、高い収率で製造されることがわかる。180℃までの亜臨界水処理で、乾燥基準原料の約7%が糖に転換した。
【0032】
具体的には、140℃の亜臨界水処理で、含水量12.3kgのタマネギの皮100kgから、2.486kgの全糖(グルコース0.566kg、フルクトース0.0616kg、スクロース0.014kg)が、180℃の亜臨界水処理で、含水量12.3kgのタマネギの皮から、6.387kgの全糖(グルコース0.766kg、フルクトース0.201kg、スクロース0.0229kg)が得られた。
【0033】
上記分解物の有機酸の生成量を測定し、収率を求めた。結果を図5に示す。収率横軸を分解処理温度(℃)を、縦軸は各処理温度における、初期グルコース(initial−glucose)に対する有機酸の生成収率(kg/kg−initial−glucose)を示す。また、図5(a)において、▼は、ピルビン酸を、▲は、グリコール酸を、■は、L−乳酸を、◆は、ギ酸を、●はピログルタミン酸を示す。図5(b)において、▼は、クエン酸を、▲は、リンゴ酸を、■は、酢酸を。◆は、レブリン酸を示す。図5から、有機酸は、高温になるほど、増加していることがわかる。これは、糖が分解することにより得られると考えられた。
【0034】
具体的には、160℃の亜臨界水処理で、含水量12.3kgのタマネギの皮100kgから、0.108kgの有機酸が、320℃の亜臨界水処理で、含水量12.3kgのタマネギの皮100kgから、8.638kgの有機酸が得られた。
【0035】
上記分解物のアミノ酸の生成量を測定し、収率を求めた。結果を図6に示す。収率横軸を分解処理温度(℃)を、縦軸は各処理温度における、初期グルコース(initial−glucose)に対する有機酸の生成収率(kg/kg−initial−glucose)を示す。また、図6(a)において、▼は、メチオニンを、▲は、イソロイシンを、■は、フェニルアラニンを、◆は、ヒスチジンを、示す。図6(b)において、▼は、スレオニンを、▲は、リシンを、■は、チロシンを、◆は、ロイシンを、示す。図6(c)において、▼は、アスパルギン酸を、▲は、セリンを、■は、アラニンを、◆は、バリンを、示す。図6から、アミノ酸は、160℃付近で最大収率を示すことがわかる。
【0036】
具体的には、140℃の亜臨界水処理で、含水量12.3kgのタマネギの皮100kgから、0.0139kgのアミノ酸が得られた。
【0037】
上記分解物の油層からケルセチンを抽出し、液体クロマトグラフィーにより、生成量を求めた。140℃の亜臨界水処理で、含水量12.3kgのタマネギの皮100kgから、3.079kgのケルセチンが得られた。このことから、タマネギの皮を亜臨界水処理することで、高濃度のケルセチンが獲られることがわかった。


【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、タマネギの鱗茎を温度を変えて亜臨界水処理をしたときの糖の収率を示すグラフである。
【図2】図2は、タマネギの鱗茎を温度を変えて亜臨界水処理をしたときの有機酸の収率を示すグラフである。
【図3】図3は、タマネギの鱗茎を温度を変えて亜臨界水処理をしたときのアミノ酸の収率を示すグラフである。
【図4】図4は、タマネギの皮を温度を変えて亜臨界水処理をしたときの糖の収率を示すグラフである。
【図5】図5は、タマネギの皮を温度を変えて亜臨界水処理をしたときの有機酸の収率を示すグラフである。
【図6】図6は、タマネギの皮を温度を変えて亜臨界水処理をしたときのアミノ酸の収率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマネギを亜臨界状態または超臨界状態の水と接触させて分解し、有用物を製造する有用物の製造方法。
【請求項2】
前記タマネギが、タマネギの皮または鱗茎である、請求項1に記載の有用物の製造方法。
【請求項3】
前記有用物が、糖類またはケルセチンである、請求項1または2に記載の有用物の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−153449(P2009−153449A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335340(P2007−335340)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】