説明

木材保存薬剤組成物及び木材の処理方法

【課題】 水性保存剤の表面張力を低下し、かつ、保存剤の木材内部への浸透性を上げることができる、改良された木材保存薬剤組成物の提供。
【解決手段】 水性保存剤と、組成物の全質量に基づき0.001〜1.0%の一般式(1)又は式(2)で表されるポリエーテル変性シリコーンとを含む木材保存薬剤組成物。


(R1はアルキル基等、R2は一般式(3) −Cx2xO−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)で示されるポリオキシアルキレン基であり、pは0〜3、qは1〜2、rは0〜6の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材保存薬剤組成物に関し、詳細には、水性保存剤と特定のポリエーテル変性シリコーンを含有する木材保存薬剤組成物に関する。該組成物は、木材内部へ保存薬剤を深く浸透させる能力に優れる。また、本発明は、この組成物を用いて木材を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材を劣化生物から保護する方法として、木材保存剤を木材に注入する方法が知られており、その具体的方法として加圧注入法、浸漬法、表面処理法等が用いられている。
【0003】
これらの保存処理方法が有効であるためには、注入方法の如何を問わず、以下の二つの条件を満足する必要がある。第一の条件は、保存処理材が食材性昆虫、腐朽菌、シロアリ等の木材劣化生物に対し十分な毒性を有することであり、第二の条件は、保存剤が木材内部に浸透することである。木材保存剤は、一般に第一の条件を満足するが、第二の条件を満足させることは必ずしも容易でない。このため、保存処理した木材が、保存剤の浸透しにくい内部から劣化する事故は頻繁に起こっており、その改善が望まれている。
【0004】
保存剤の浸透性を改善するため、保存剤を有機溶剤に溶解したり、水性保存剤に少量の界面活性剤を添加したりすることがある。有機溶剤法は、有機溶剤の低表面張力によりかなり効果があるが、溶剤による環境汚染やVOCの問題が起こり易く、好ましいとは言えない。また、通常の界面活性剤の添加効果は限定されたものであり、満足すべき効果が得られない場合が多い。
【0005】
なお、本発明に関連する先行文献としては、下記のものが挙げられる。
【非特許文献1】今村祐嗣:日本木材学会研究分科会報告書“木材の化学と利用技術II”No.2,:日本木材学会 21−38(1991)
【特許文献1】特開平08−197509号公報
【特許文献2】特開平08−198711号公報
【特許文献3】特開平10−007502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、木材保存剤の木材に対する浸透性を改善することができる木材保存薬剤組成物及びこの組成物を用いて木材を処理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のポリエーテル変性シリコーンを用いることによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、水性保存剤と、組成物の全質量に基づき0.001〜1.0%の下記一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるポリエーテル変性シリコーンとを含む木材保存薬剤組成物を提供する。
【化1】


(上記式において、R1は、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はフッ素置換アルキル基であり、R2は下記一般式(3)
−Cx2xO−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)
(R3は水素原子、炭素数1〜30の一価炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であり、R4は炭素数1〜10の一価炭化水素基である。xは2≦x≦5の整数であり、y、zはそれぞれ5≦y≦15、0≦z≦10の整数である。)
で示されるポリオキシアルキレン基であり、pは0〜3、qは1〜2、rは0〜6の整数である。)
【0009】
この場合、水性保存剤としてはホウ素化合物が好ましく、またポリエーテル変性シリコーンは、特に下記一般式(4)で示されるものが好ましい。
【化2】


(但し、R3は水素原子、炭素数1〜30の一価炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であり、R4は炭素数1〜10の一価炭化水素基である。yは5≦y≦15の整数である。)
ここで、一般式(4)におけるR3は水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記木材保存薬剤組成物を、木材に表面処理、浸漬処理、又は加圧注入処理することにより木材内部に水性保存剤を浸透させることを特徴とする木材の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、特定構造のポリエーテル変性シリコーンを木材保存剤に加えたものであり、それにより、木材に対する浸透性を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の木材保存薬剤組成物は、水性保存剤とポリエーテル変性シリコーンとを含む。
本発明で使用される水性保存剤は、木材用の水性保存剤を使用できる。具体的には、クロム・銅・ヒ素化合物系(CCA)、アルキルアンモニウム化合物系(AAC)、銅・クロム・亜鉛化合物系(CFKZ)、銅・ホウ素・アゾール化合物系(CUAZ)、銅・アルキルアンモニウム化合物系(ACQ)及びホウ素化合物系(ホウ酸、ホウ酸塩化合物)などが挙げられる。特に好ましくは、安全性、環境調和性に優れるホウ素化合物系の水性保存剤が用いられる。ホウ素化合物の具体例としては、ホウ酸、硼砂、Tim−borと呼ばれるU.S.Borax社のホウ酸塩化合物(Na2813・4H2O)、Nisus Corp.社のBoracareと呼ばれるホウ酸塩とエチレングリコールの縮合物、Safeguard Chemical社のProBorと呼ばれるホウ酸塩とプロピレングリコールとの縮合物などが挙げられる。
【0013】
この場合、上記水性保存剤は、これを水、エチレングリコール等の多価アルコールなどの溶媒に溶解したものとして使用し得、水性保存剤を0.01〜50質量%、特に0.1〜20質量%濃度で溶媒に溶解させたものを用いることができる。なお、溶媒としては、水又は水に溶解するエチレングリコール等の多価アルコールなどを0〜70質量%濃度で混合した水性溶媒が使用される。
【0014】
本発明で使用されるポリエーテル変性シリコーンは、下記一般式(1)及び(2)から選択される。
【化3】

【0015】
1は、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基であるが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、トリフロロプロピル基、ヘプタデカフロロデシル基等のフッ素置換アルキル基などを挙げることができる。好ましくは、R1は炭素数1〜6を有し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基である。更に好ましくは、全R1の80モル%以上がメチル基である。
【0016】
2は下記一般式(3)で表されるポリオキシアルキレン基である。
−Cx2xO−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)
上記式中、R3は水素原子もしくは炭素数1〜30の一価炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であって、R4は炭素数1〜10の一価炭化水素基である。
【0017】
この場合、R3の一価炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基などが挙げられるが、アルキル基が好ましい。なお、炭素数1〜6、特に1〜3のものが好ましい。R4の一価炭化水素基としても、アルキル基、アルケニル基、アリール基などが挙げられるが、アルキル基が好ましい。また、好ましい炭素数は1〜3である。R3として具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アセチル基が例示される。特に好ましくは水素原子又はメチル基である。xは2≦x≦5の整数である。yは5≦y≦15であり、好ましくは7≦y≦12である。
プロピレンオキサイド基は低温期のポリエーテル変性シリコーンの取り扱い性を高めるのに有効であって、zは0あるいはz≦10の整数である。
【0018】
なお、上記式(3)のポリオキシアルキレン部分がエチレンオキサイド単位とプロピレンオキサイド単位の両方からなる場合には、これら両単位のブロック重合体、ランダム重合体のいずれでもよい。
【0019】
また、一般式(1)におけるpは0〜3、qは1〜2の整数である。一般式(2)におけるrは0〜6の整数であって、好ましくは0〜3の整数である。
【0020】
好ましくは、ポリエーテル変性シリコーンとして、下記一般式(4)で示されるポリエーテル変性シリコーンが使用される。
【化4】


但し、R3及びyは上記の通りである。
【0021】
上記シリコーンは、例えば、商品名KF−643(信越化学工業社製)、Silwet L−77(ジェネラルエレクトリック社製)として市販されている。
【0022】
式(1)又は(2)のシリコーンは、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシアルキレン化合物との付加反応によって調製することができる。式(1)のシリコーン原料として使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを例示すると(下記化合物の記述においては、(H3C)3SiO1/2単位をM、(H3C)2SiO単位をDと表記し、M及びD中のメチル基の1つが水素である単位をMH及びDHと表記する。またメチル基の1つを置換基Rで置換した単位をそれぞれMR及びDRと表記する)、平衡化混合物あるいは純品であるM2H、M2DDH、M22H、M23H、M2DDH2、M22H2、M23H2が挙げられるが、好ましいのはq=0あるいは1であるM2H、M2DDH、M22H、M23Hである。更に好ましくはトリシロキサンであるM2Hである。
【0023】
式(2)のシリコーンの原料に使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを例示するとMMH、MDMH、MD3H、Mn-Bu4.5H(n−Buはブチル基を示す。以下同様。)などが挙げられ、MDMHは平衡化混合物でもよく、Mn-Bu4.5HのようにMn-Bu3HとMn-Bu6Hの混合物であってもよい。好ましくはMMHあるいはMD3Hであり、更に好ましくはMD3Hである。
【0024】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加反応させるポリオキシアルキレン化合物は、下記一般式(5)で示される。但し、式(5)中のx、y、z及びR3は一般式(3)と同じである。
【0025】
x2x+1O−(C24O)y(C36O)z−R3 (5)
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシアルキレン化合物との反応比率は、SiH基と末端不飽和基のモル比でSiH基に対して0.8〜1.5、好ましくは0.9〜1.2である。
【0026】
上記付加反応は、白金触媒又はロジウム触媒の存在下で行うことが望ましく、具体的には塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸−ビニルシロキサン錯体等の触媒が好適に使用される。また、助触媒として酢酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムを添加してもよい。
【0027】
なお、触媒の使用量は触媒量とすることができるが、白金又はロジウム量で50ppm以下であることが好ましく、特に20ppm以下であることが好ましい。上記付加反応は、必要に応じて有機溶剤中で行ってもよい。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。付加反応条件は特に限定されるものではないが、還流下で1〜10時間反応させることが好ましい。
【0028】
本発明の組成物は、このポリエーテル変性シリコーンを、該組成物の総質量に基づき0.001〜1%、好ましくは0.05〜0.5%加えて使用する。このポリエーテル変性シリコーンは、水性保存剤の表面張力を下げる効果と同時に、すみやかに木材仮道管や壁孔に保存剤を浸透できるようにし、水性保存剤の浸透性を上げることができる。
【0029】
本発明の木材保存薬剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を加えてもよい。例えば、泡立ちを抑えるために消泡剤、具体的にはシリコーンオイルとシリカ等からなるシリコーン系消泡剤を用いてもよい。
【0030】
本発明の木材保存薬剤組成物を木材に塗布するには、ローラー、刷毛、スプレー等を用いて表面処理を行ってもよいし、場合によっては浸漬法によって処理してもよい。また、常圧下又は減圧下、更には加圧下で注入処理を行ってもよい。また乾燥方法としては、室温下に放置してもよいし、天日乾燥、加熱乾燥によってもよい。なお、これらの表面処理、浸漬処理、加圧注入処理などは常法を採用し得る。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0032】
ポリエーテル変性シリコーンは、以下の平均構造式のものを使用した。
【化5】

【0033】
水性保存剤1:
ホウ酸塩化合物(Na2813・4H2O、U.S.Borax社製Tim−bor)を15質量%でイオン交換水に混合溶解させたホウ酸塩水溶液を水性保存剤1とした。
水性保存剤2:
冷却管、温度計及びエステルアダプターを備えた500mlの四つ口フラスコにホウ酸塩化合物(Na2813・4H2O、U.S.Borax社製Tim−bor)100g、グリセリン50g、エチレングリコール180g及び水20gを入れ、撹拌しながら150℃まで加熱し、水を溜出させながら水が出てこなくなるまで1時間反応させた。反応終了後冷却し、淡黄色透明で粘性のあるグリセリン変性ホウ酸塩化合物のエチレングリコール溶液を得た。これはホウ酸塩濃度で30質量%であるので、これをイオン交換水により希釈し、20質量%のホウ酸塩溶液としたものを水性保存剤2とした。
【0034】
使用木材1:
気乾状態のラジアータパイン材:寸法は木口面が5×5cm、高さが10cmの角材である。両木口面をエポキシ樹脂により目止めしたものを使用木材1とする。
使用木材2:
気乾状態のホワイトウッド材:寸法は木口面が5×5cm、高さが10cmの角材である。両木口面をエポキシ樹脂により目止めしたものを使用木材2とする。
使用木材3:
気乾状態のベイマツ材:寸法は木口面が10×10cm、高さが100cmの角材である。両木口面をエポキシ樹脂により目止めしたものを使用木材3とする。
使用木材4:
気乾状態のカラマツ材:寸法は木口面が10×10cm、高さが100cmの角材である。両木口面をエポキシ樹脂により目止めしたものを使用木材4とする。
【0035】
[実施例1〜5、比較例1〜6]
上記ポリエーテル変性シリコーン1,2及び水性保存剤1,2を使用して、表1に示したように木材保存薬剤組成物を調製した。その薬剤組成物を使用し、上記木材に下記の要領で木口面以外の木材表面に刷毛により薬剤組成物の塗布を行った。
(塗布方法)
塗布方法1:
刷毛により、木口面以外の木材表面を200g/m2の量で塗布する。塗布後は25℃/55%RH条件下にて2日間養生する。
塗布方法2:
減圧・加圧注入装置を用いて、釜内に木材をセットし、注入条件としては、室温下、減圧0.08MPa/30分、その後加圧1.0MPa/2時間かけて薬剤組成物を注入する。注入後は25℃/55%RH条件下にて5日間養生する。
(保存剤の木材内部への浸透度測定方法)
養生後の木材を高さの半分にカットする。カットされた木口面にクルクミンをエタノールに溶解させた溶液をスプレーし、乾燥後、希塩酸にサリチル酸を溶解させた溶液を更にスプレーすることにより(クルクミン呈色反応)、ホウ酸塩があるところは赤色に変色する。その変色したところの浸透度(浸透長)を測定する。浸透長は表面(木目、柾目面)から浸透の先端までの長さである。
その結果については表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1,2に示すように、本発明の組成物は、比較例に比べて、顕著に低い表面張力を有しており、本発明におけるポリエーテル変性シリコーンは木材中へ保存剤を内部に深く浸透させるのに有用であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性保存剤と、組成物の全質量に基づき0.001〜1.0%の下記一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるポリエーテル変性シリコーンとを含む木材保存薬剤組成物。
【化1】


(上記式において、R1は、互いに同一でも異なっていてもよい炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はフッ素置換アルキル基であり、R2は下記一般式(3)
−Cx2xO−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)
(R3は水素原子、炭素数1〜30の一価炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であり、R4は炭素数1〜10の一価炭化水素基である。xは2≦x≦5の整数であり、y、zはそれぞれ5≦y≦15、0≦z≦10の整数である。)
で示されるポリオキシアルキレン基であり、pは0〜3、qは1〜2、rは0〜6の整数である。)
【請求項2】
水性保存剤がホウ素化合物からなることを特徴とする請求項1記載の木材保存薬剤組成物。
【請求項3】
ポリエーテル変性シリコーンが下記一般式(4)で示される請求項1又は2記載の木材保存薬剤組成物。
【化2】


(但し、R3は水素原子、炭素数1〜30の一価炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であり、R4は炭素数1〜10の一価炭化水素基である。yは5≦y≦15の整数である。)
【請求項4】
一般式(4)におけるR3が水素原子又はメチル基である請求項3記載の木材保存薬剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の木材保存薬剤組成物を、木材に表面処理、浸漬処理、又は加圧注入処理することにより木材内部に水性保存剤を浸透させることを特徴とする木材の処理方法。

【公開番号】特開2007−15985(P2007−15985A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199531(P2005−199531)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】