説明

木材用レシプロソーの刃

【課題】 従来のレシプロソーの場合、切断方向を急激に変更するという作業が極めて困難であったため、一度の操作で矩形孔をあけることはできず、予め頂点箇所に方向変換用の透孔を刻設しておきこれら透孔を連結する形で切削するしかないのが実情であった。
【解決手段】 往復動する片持ち鋸刃を具える手持ち式の木材用レシプロソーの刃であって、該鋸刃の一側にある本来の切歯はアサリを有するものであり、且つ、その対向他側には、切歯として機能するまわし刃が、少なくとも本体レシプロの前後動の振幅以上の幅にわたって設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動する片持ち鋸刃を具える手持ち式の木材用レシプロソーの刃部分の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋸刃が工具本体に対して往復動することで木材等の切断を行なう工具を一般に「レシプロソー」と呼ぶ。広義では、駆動源を持たない手挽鋸もこの概念に含むこととなるが、本明細書中では、電動式・エアー駆動式といった駆動源を持つ鋸を指す語句であると定義する。従って、例えば動力式ジグソーも「レシプロソー」に含まれる。即ちレシプロソーとは、往復動する駆動軸に鋸刃を固定したものであり、切断箇所に鋸刃を押し当てながら駆動軸を駆動させると自動的に切断作業が行なわれ、作業者自身は鋸刃を上下動させることなく、押す(又は引く)だけで切断できることとなる。
【0003】
レシプロソーは、切削方向を変えるのが容易であるので、曲線切断用鋸や引き回し鋸として用いることも多い。例えば広い板の中央に矩形の窓孔を穿つといった作業を想定すると、まず鋸刃を挿入することができる「透孔」を予め作成しておき、ここを起点に作業を進めることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−24302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業自体は基本的に、レシプロソーを切削する方向に押してゆくだけであるが、曲率半径の小さい急なカーブをさせようとした場合には、うまく切削できないことがある。
【0006】
理由はレシプロソー自身が限界の曲率半径を持っておりその限界を超えて切削しようとしたからである。この限界半径は、刃幅、刃の厚み、アサリの有無や程度、等々によって変動するものである。従って、刃幅を狭く、刃厚みを薄く、アサリを大きく、してゆけば扱いやすいレシプロソーとなるはずである。
【0007】
ところが、片持ち鋸刃を具える手持ち式木材用レシプロソーの刃というものは、幅を狭くすると、鋸刃に弾力が不足するため木材や外力の影響を受けやすくなり直線切断がやや困難になる。また刃の厚みを薄くすると硬い木材が切断しづらくなる。アサリについても大きくするにつれて切断面が粗くなる。従って、曲率半径を小さくしてゆくとは言え限界があり、一度の操作で矩形孔をあけることはできず、予め頂点箇所に透孔を刻設しておきこれら透孔を連結する形で切削するしかないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、この点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明を成したものであり、その特徴とするところは、往復動する片持ち鋸刃を具える手持ち式の木材用レシプロソーの刃であって、該鋸刃の一側にある本来の切歯はアサリを有するものであり、且つ、その対向他側には、切歯として機能するまわし刃が、少なくとも本体レシプロの振動の振幅以上の幅にわたって設けられている点にある。
【0009】
即ち本発明は、曲率半径を小さくするという発想ではなく、上下に振動する鋸刃の背側にも切歯を設けることで、刃板を回動させることができるようにしたものである。
【0010】
回動する原理は後に図面に基づいて詳述するが、鋸刃を鉛直方向にした状態で、鋸刃本来の切歯が切削したスリット溝内において左右いずれかの方向に力を加えた際、アサリを有することによって形成される背側の隙間に押し当てられた背側部分は、機器自身は上下動するが幾分かは軸にズレが生じ、前後動方向の動作が加えられることに起因すると想像される。この前後動は、一方は本来の切歯による切削であるが他方はまわし刃による切削ということになる。この前後方向共々の切削と刃板を回動させようと加えた力によって、刃板が回動すると思われる。
【0011】
まわし刃は、通常の切断動作時には機能しない。鋸刃を回動させる場合或いは小さな曲率半径で引き回す場合にのみ機能する刃である。また、まわし刃はアサリを有している必要はない。
【0012】
刃板全体の形状については、特に限定するものではない。幅が一定であっても、或いは先細り形状の刃板であっても良い。なお先細り形状の刃板の場合、刃板を回動させるときには、切削する木材を少なくするという意味で、刃幅の狭い部分で回動させることが望ましい。従って、まわし刃を設ける部分が先端に近い部分であると好適である。加えて、まわし刃を設ける長さは、機器のストローク長さあれば充分である。幅が一定の場合には、刃板のどの部分で回しても良いことになるので、逆に刃板背側の全体に設ける方が使い勝手が良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る木材用レシプロソーの刃は以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
(1) 本来の切歯が設けられている側の反対側に、切歯として機能するまわし刃が設けられているので、切削によって形成されたスリット内で鋸刃を回動させようとした場合、前後双方が切削可能状態となり、結果として鋸刃は回動することになる。従って、予め穴を刻設しておくといった手間なく、角度鋭い折曲線を得ることができる。
(2) 鋸刃の背部分に刃が設けられているので、従来の糸のこでの曲線切りでしばしば見られた、摩擦熱による木材の焦げが激減する。
(3) 工具本体については従来のレシプロソーがそのまま利用でき、且つレシプロソーにおいて鋸刃はほとんど替え刃式のものであるので、利用者は工具本体を新調せずとも採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る木材用レシプロソーの刃の一例を示す概略側面図である。
【図2】(a)(b)(c)(d)は、本発明に係る木材用レシプロソーの刃の一例によって切削溝方向の転換をさせる手順を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る木材用レシプロソーの刃1(以下「本発明刃1」という)の一例を示すものである。図より明らかなように、本例の本発明刃1は交換式の刃であって、且つ一般的な鋸刃に比して幅の狭い、引き回し鋸と呼ばれる鋸刃である。図示していないレシプロソー本体への取り付け部2の前方一端には、本来の切歯3が設けられている。更に他端側には、まわし刃4が設けられている。このまわし刃4も、切歯として機能する。また本例では、本来の切歯3は約90mmにわたって設けられており、まわし刃4は刃板の先端から約40mmの長さで終わっている。なお、取り付け部2の形状・構造は取り付けるレシプロソー本体の形状・構造に対応するものであって種々あり得り、本発明は図示したものに限定されるものではない。
【0016】
刃板幅の大きい根元側(取り付け部2に近い部分)は直進性が良いので、直線切りをするのに適している。また直線切りをする際には、まわし刃4は不要であるので、先端側にのみ設けているが、本来の切歯3の如く全体に設けるようにしても特段の支障はない(図示せず)。
【0017】
引き回しをする場合には、刃板の先端近くを用いる。
図2(a)乃至(c)は、引き回しをしている状態を経時的且つ概略的に示すものである。同図(a)の状態は、直線切りを終え引き回し作業に掛かる直前の様子を示すものである。この状態では本発明刃1の本来の切歯3の歯列は、被加工材(木材)Wが水平におかれているとすると、鉛直方向に配置される。また、直線切りは終えているので、刃板は少し引き上げられて、被加工材W内には刃板の先端側が嵌っている状態となっている。この状態で作業者は、前方への力F1を付勢しつつ、引き回し段階であるので刃板を回動させる方向への力F2を加えることになる。このような力を加え方は、実際には極めて自然であって、本発明刃1独特のものではなく違和感というものは全くない。
【0018】
作業者が加える力は、F1とF2であるが、レシプロソー本体の駆動部の振動により本発明刃1は、上下動する。従ってこれらの合力が被加工材Wに加えられることになる。また被加工材Wを切削してゆく中で、歯が接触することで反力を受ける等するので、現実には回動方向とは逆の方向の力、加えているF1の方向とは逆の方向の力といった様々な方向への力を受け、刃板の挙動が乱される。いわゆる「ブレ」が発生するわけである。従って、同図(b)(c)の状態を繰り返す形で刃板は被加工材Wを、本来の切歯3とまわし刃4の双方で削りながら回動してゆくことになる。
【0019】
回動させる方向への力F2を加えるのを止めると、鋸刃の回動が終了する。本来の切歯3を切削する方向まで回動されているのを確認して前方への力F1を再び加えれば、同図(d)の如く直線切りが再開されることになる。なおこの段階では、刃板の先端側を使用する必要はなくなるので、直進性に優れた基端側の刃板を使用する。従って、本発明刃1を用いて例えば木材の中央に矩形孔をあける場合、直線切り部分では鋸刃の基端側を用いて切削し、頂点部分では鋸刃の先端側を用いて切削する、という要領となる。なお図示は省略するが、刃板幅が一定の場合には直線切り・曲線切りによる切歯の使い分けはしないので、コーナー部分(矩形孔であればその頂点箇所)ではレシプロソー本体を引き上げ、先端側を用いるといった動作は不要となる。
【符号の説明】
【0020】
1 本発明に係る木材用レシプロソーの刃
2 取り付け部
3 本来の切歯
4 まわし刃
W 被加工材(木材)
F1 前方への力
F2 刃板を回動させる方向への力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動する片持ち鋸刃を具える手持ち式の木材用レシプロソーの刃であって、該鋸刃の一側にある本来の切歯はアサリを有するものであり、且つ、その対向他側には、切歯として機能するまわし刃が、少なくとも本体レシプロの振動の振幅以上の幅にわたって設けられているものであることを特徴とする木材用レシプロソーの刃。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−126249(P2011−126249A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289452(P2009−289452)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(591043673)株式会社岡田金属工業所 (13)