説明

木材用接着剤組成物

【課題】ホルムアルデヒドを放散せず、優れた接着強度、作業性、耐久性、耐水性、耐温水性および耐熱水性を有する木材用接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体を1質量%〜15質量%含むラジカル重合性不飽和単量体組成物を、両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤の存在下で、乳化共重合して得られるアクリル樹脂エマルジョンと、(B)ポリビニルアルコールと、(C)無機顔料と、(D)イソシアネート基含有化合物とを含むことを特徴とする木材用接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い接着強度、優れた作業性、耐久性、耐水性、耐温水性および耐熱水性を有する木材用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板の接着剤として、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、レゾルシノール−フェノール共重合樹脂などの熱硬化型接着剤が主として用いられている。しかし、ホルムアルデヒドの室内汚染による健康障害、すなわちシックハウス症候群の問題により、これらの熱硬化型接着剤では低ホルムアルデヒド放散型のものが開発されてはいるものの、ホルムアルデヒド放散量をゼロにすることは事実上不可能である。
【0003】
そこで、ホルムアルデヒドを含有しない接着剤として、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤やエチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤が一部使用されているが、これらの接着剤では耐水性、耐熱水性が極めて不充分であり、例えば構造用接着剤のように高度な接着性が要求される用途では実用に耐えない。
【0004】
そのため、ホルムアルデヒドを含有しない耐水性接着剤として、水性エマルジョン系接着剤や水性高分子とイソシアネート系化合物とを配合した水性高分子−イソシアネート系接着剤が広く使用されるようになってきた。水性エマルジョン系接着剤としては、優れた耐温水性および耐熱水性を有するためにスチレンブタジエンゴムラッテクス(SBR)が多く使用されている。
【0005】
また、水性高分子−イソシアネート系接着剤としては、1級水酸基含有エチレン性不飽和単量体を含む不飽和単量体組成物を重合して得られる水性エマルジョンと多価イソシアネート化合物とを含む接着剤(例えば、特許文献1を参照)、ヒドロキシル基含有ビニル系単量体を含む不飽和単量体組成物を重合して得られる水性エマルジョンとイソシアネート化合物とを含む接着剤(例えば、特許文献2を参照)、ヒドロキシル基含有単量体およびエチレン性不飽和単量体を含む不飽和単量体組成物を重合して得られる水性樹脂エマルジョンとイソシアネート化合物とを含む接着剤(例えば、特許文献3を参照)などが使用されている。
しかし、これらの従来技術では、接着強度、作業性、耐久性、耐水性、耐温水性および耐熱水性を充分に満足できるものは未だ開発されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開平05−279648号公報
【特許文献2】特開2002−155252号公報
【特許文献3】特開2006−273889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、ホルムアルデヒドを放散せず、優れた接着強度、作業性、耐久性、耐水性、耐温水性および耐熱水性を有する木材用接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定のアクリル樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールと無機顔料とイソシアネート基含有化合物とを配合した接着剤組成物が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体を1質量%〜15質量%含むラジカル重合性不飽和単量体組成物を、両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤の存在下で、乳化共重合して得られるアクリル樹脂エマルジョンと、(B)ポリビニルアルコールと、(C)無機顔料と、(D)イソシアネート基含有化合物とを含むことを特徴とする木材用接着剤組成物である。
【0010】
木材用接着剤組成物には、固形分基準で、(A)アクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、(B)ポリビニルアルコールが10質量部〜100質量部配合されていることが好ましく、(C)無機顔料が50質量部〜350質量部配合されていることが好ましい。
また、木材用接着剤組成物には、固形分基準で、(A)アクリル樹脂エマルジョンと(B)ポリビニルアルコールとの合計100質量部に対して、(D)イソシアネート基含有化合物が20質量部〜150質量部配合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホルムアルデヒドを放散せず、優れた接着強度、作業性、耐久性、耐水性、耐温水性および耐熱水性を有する木材用接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明による木材用接着剤組成物は、(A)アクリル樹脂エマルジョンと、(B)ポリビニルアルコールと、(C)無機顔料と、(D)イソシアネート基含有化合物とを必須成分として配合したことに特徴がある。
【0013】
(A)アクリル樹脂エマルジョン
本発明の木材用接着剤組成物に使用する(A)アクリル樹脂エマルジョンは、ポリビニルアルコール(PVA)を保護コロイドとして用い、アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体を含むラジカル重合性不飽和単量体組成物を、特定の重合開始剤の存在下で、通常の乳化重合法に従って乳化共重合させることにより得ることができる。
【0014】
アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体としては、例えば、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート、2−アセトアセトキシエチルアクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシプロピルアクリレート、2−アセトアセトキシプロピルメタクリレート、2−シアノアセトアセトキシエチルメタクリレートなどのアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸エステル、2−アセトアセトキシエチルクロトネート、2−アセトアセトキシプロピルクロトネートなどのアルキレングリコールのクロトン酸アセト酢酸エステル、N−(アセトアセトキシメチル)アクリルアミド、N−(アセトアセトキシメチル)メタクリルアミド、N−(アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−(アセトアセトキシエチル)メタクリルアミドなどのN−アルキロール(メタ)アクリルアミドのアセト酢酸エステル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルメタクリレート、1,4−ブチレングリコールモノアクリレート、1,4−ブチレングリコールモノメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ヒドロキシスチレンなどの水酸基を有するエチレン性不飽和単量体のアセトアセチル化物が挙げられる。これらを1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体は、ラジカル重合性不飽和単量体組成物全体に対して1質量%〜15質量%配合する必要があり、2質量%〜12質量%配合することが好ましい。アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体の配合量が1質量%未満であると、木材用接着剤組成物の物性である剥離率が低下し、また、15質量%を超えると、安定なエマルジョンが得られない。
【0015】
上記したアセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体と共重合可能な他のラジカル重合性不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸4−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類やこれと共重合可能な単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸類が挙げられる。また、アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体と共重合可能な他のラジカル重合性不飽和単量体として、スチレンを使用してもよいが、スチレンは建材用VOC(揮発性有機化合物)規制により、将来的に問題となる可能性があるので使用量を極力少なくすることが好ましい。
【0016】
アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体を含むラジカル重合性不飽和単量体組成物を乳化共重合する際に保護コロイドとして用いるポリビニルアルコールの使用量は、ラジカル重合性不飽和単量体組成物100質量部に対して1質量部〜20質量部が好ましく、4質量部〜15質量部がより好ましい。ポリビニルアルコールの使用量を上記した範囲にすることで、ラジカル重合性不飽和単量体組成物の反応性をより向上させつつ、エマルジョン粘度をより実用的な範囲にすることができる。本発明において保護コロイドとして使用するポリビニルアルコールは、重合反応性及び得られたエマルジョンの安定性がより向上するという理由から、分子鎖末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールが好ましい。分子鎖末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの中でも、けん化度が80モル%〜99.9モル%、重合度が300〜2,500のものが好ましく、けん化度86モル%〜90モル%、重合度が500〜1,500のものがより好ましい。また、乳化共重合する際には、アニオン性、ノニオン性などの乳化剤を併用してもよい。
【0017】
また、得られる共重合体の分子量を調整する目的で、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエチルアルコール、2−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸オクチルなどの連鎖移動剤を用いてもよい。また、造膜助剤、可塑剤などの合成樹脂エマルジョンで多用される公知の添加剤も必要に応じて添加することができる。
【0018】
本発明において乳化共重合時に使用する重合開始剤は、両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤であり、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[N-(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレイトなどが挙げられる。これらの中でも、重合反応性がより向上するという理由から、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)が好ましい。水溶性アゾ重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性不飽和単量体組成物(使用するラジカル重合性不飽和単量体の合計)100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部であることが好ましく、0.3質量部〜15質量部であることがより好ましい。水溶性アゾ重合開始剤の使用量が0.1質量部未満では、重合反応性が著しく低下して安定なエマルジョンが得られず、また、20質量部を超えると、エマルジョン粘度が高くなり過ぎて実用的な範囲から外れる。また、両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤は、アンモニア水で希釈した水溶液として重合系に導入することが好ましい。
また、上記した両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤に代えて、(4,4’−アゾビス(4−シアノヴァレリックアシド)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、(2,2’−アゾビス(2−アミジンプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミドアゾリン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミドアゾリン−2−イル)プロパン〕ジハイドロクロライドなどの代表的な水溶性アゾ開始剤、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性無機過酸化物、過硫酸塩、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物を使用すると、エマルジョン粒子の凝集により粒子径が大きくかつ粘度が高くなる場合があるため好ましくない。また、これらの重合開始剤を両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤と併用した場合、木材用接着剤組成物の物性が顕著に低下するため好ましくない。
【0019】
(A)アクリル樹脂エマルジョンを製造する際のラジカル重合性不飽和単量体組成物の添加方法は、特に限定されるものではないが、重合に先立ってラジカル重合性不飽和単量体組成物を一括して重合系に添加しておく方法、ラジカル重合性不飽和単量体組成物の一部を重合系に予め添加しておき、重合過程で残りのラジカル重合性不飽和単量体組成物を連続滴下する方法、全てのラジカル重合性不飽和単量体組成物を重合系に連続滴下する方法、ラジカル重合性不飽和単量体組成物とPVAと水とを予め乳化したものを重合系に連続滴下する方法などが挙げられる。
【0020】
さらに、(A)アクリル樹脂エマルジョンに含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度は、−10℃〜50℃の範囲のものが好ましく、0℃〜35℃の範囲のものがより好ましい。アクリル樹脂のガラス転移温度が−10℃より低いと、木材用接着剤組成物の接着強度や耐水性が低下する場合があるため好ましくなく、また、ガラス転移温度が50℃より高いと、木材用接着剤組成物の造膜性が低下したり、接着強度や耐水性が低下したりする場合があるため好ましくない。
(A)アクリル樹脂エマルジョンの不揮発分は、40質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。不揮発分が40質量%より少ないと、水性高分子−イソシアネート系接着剤として使用する時の初期接着性が低下するため好ましくなく、また、不揮発分が50質量%より多いと、エマルジョン粘度が高くなり過ぎるため好ましくない。
(A)アクリル樹脂エマルジョンの粘度は、50mPa・s〜10,000mPa・sの範囲であることが好ましい。粘度が50mPa・sより低いと、水性高分子−イソシアネート系接着剤として使用する時の粘度が調整しにくくなる場合があるため好ましくなく、また、粘度が10,000mPa・sより高いと、水性高分子−イソシアネート系接着剤として使用する時の不揮発分が低下するため好ましくない。なお、ここでの粘度は、TOKIMEC INC.製のBH型粘度計を用いて、10rpm、23℃で測定した値である。
【0021】
(B)ポリビニルアルコール
本発明の木材用接着剤組成物に使用する(B)ポリビニルアルコールとしては、通常の完全けん化物および部分けん化物のいずれであってもよく、重合度やけん化度の異なる2種以上のポリビニルアルコールを併用してもよい。また、(B)ポリビニルアルコールとして、メルカプト基変性物、アセトアセチル基変性物などの変性ポリビニルアルコールも使用することができる。
【0022】
本発明の木材用接着剤組成物における(B)ポリビニルアルコールの配合量は、固形分基準で、(A)アクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、10質量部〜100質量部であることが好ましく、15質量部〜80質量部であることがより好ましい。ただし、(B)ポリビニルアルコールの配合量には、(A)アクリル樹脂エマルジョンで保護コロイドとして用いるポリビニルアルコールは含まれない。(B)ポリビニルアルコールの配合量が10質量部未満であると、以下に説明する(D)イソシアネート基含有化合物を配合した後の、最終的に得られる木材用接着剤組成物の粘度が増大して作業性が低下する場合があるため好ましくない。また、(B)ポリビニルアルコールの配合量が100質量部を超えると、最終的に得られる木材用接着剤組成物の耐水性が低下する場合があるため好ましくない。
【0023】
(C)無機顔料
本発明の木材用接着剤組成物に使用する(C)無機顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、酸化チタンを挙げることができる。これらを1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、小麦粉、澱粉、木粉などの有機顔料を併用してもよい。
【0024】
本発明の木材用接着剤組成物における(C)無機顔料の配合量は、固形分基準で、(A)アクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、50質量部〜350質量部であることが好ましく、100質量部〜300質量部であることがより好ましい。(C)無機顔料の配合量が50質量部未満であると、木材用接着剤組成物の凝集力が不足して充分な接着強度が得られない場合があるため好ましくない。また、(C)無機顔料の配合量が350質量部を超えると、木材用接着剤組成物の造膜性が低下したり、接着強度や耐水性が低下したりする場合があるため好ましくない。
【0025】
(D)イソシアネート基含有化合物
本発明の木材用接着剤組成物に使用する(D)イソシアネート基含有化合物としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を含有しているものであれば特に制限はなく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのような脂肪族イソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニレン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニル、3−メチル−ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートのような芳香族イソシアネート、シクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、シクロヘキサン−2,3−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのような脂環族イソシアネートなどが挙げられる。これらを1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、(D)イソシアネート基含有化合物として、過剰のジイソシアネートまたは多官能ポリイソシアネートとヒドロキシル末端ポリエステルまたはヒドロキシル末端ポリエーテルとの反応により生成されたイソシアネート末端プレポリマー、ならびに過剰のジイソシアネートもしくは多官能ポリイソシアネートとエチレングリコール、トリメチロールプロパンもしくは1,3−ブタンジオールのような単量体ポリオール、またはその混合物との反応により得られる生成物も使用することができる。
【0026】
本発明の木材用接着剤組成物に使用する(D)イソシアネート基含有化合物の配合量は、木材用接着剤組成物の用途に応じて適宜決定すればよいが、固形分基準で、(A)アクリル樹脂エマルジョンと(B)ポリビニルアルコールとの合計100質量部に対して、20質量部〜150質量部であることが好ましく、50質量部〜120質量部であることがより好ましい。(D)イソシアネート基含有化合物の配合量が20質量部未満であると、充分な接着強度が得られない場合があるため好ましくない。また、(D)イソシアネート基含有化合物の配合量が150質量部を超えると、配合後の可使時間が短くなる場合がある上に、木材用接着剤組成物の粘度が増大して作業性が低下する場合があるため好ましくない。
【0027】
本発明の木材用接着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、ヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、カゼイン、デンプン、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子、フタル酸ジブチルなどのフタル酸誘導体、フェニルグリコールなどのグリコール酸誘導体、アジピン酸誘導体、スルホン酸誘導体、脂肪酸誘導体、スルホン酸誘導体、フマル酸誘導体、パラフィン誘導体、ポリエステル誘導体などの可塑剤、粘着付与剤、充填材、顔料、染料、消泡剤、防腐剤、防錆剤、有機溶剤などが挙げられる。
【0028】
また、本発明の木材用接着剤組成物は、公知の塗布方法および接着方法によって使用することができる。例えば、木材などの接着面に本発明の木材用接着剤組成物を刷毛などで塗布し、木材用接着剤組成物が塗布された面を貼り合わせて圧力を加えて固定する圧締法などを挙げることができる。また、本発明の木材用接着剤組成物は、常温乾燥および加熱乾燥のいずれの方法でも充分な接着強度を得ることができる。
【0029】
上述したように、本発明の木材用接着剤組成物は、常温乾燥により充分な接着強度が得られること、優れた作業性を有すること、ホルムアルデヒドを放散しないこと(ホルムアルデヒドを配合する必要がないこと)、VOC規制の対象になり得るスチレンを配合する必要がないこと、広葉樹やヤニ分の多い針葉樹も接着可能であることなどから、集成材、合板、化粧合板、繊維ボードなどの様々な木質基材に対する接着剤として有用である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例および比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
[木材用接着剤組成物の調製]
<実施例1>
撹拌機、滴下ロート、還流冷却管および温度計を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、分子鎖末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(商品名:PVA−M205、重合度500、けん化度88モル%、株式会社クラレ製)の15%水溶液160質量部および水400質量部を仕込み、窒素気流下、内温を75℃に昇温させた。次に、メタクリル酸メチル6質量部、アクリル酸ブチル6質量部およびアセトアセトキシエチルメタクリレート1質量部を加えた後、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)1.5質量部にアンモニア水0.75質量部を加えたものを水で希釈して全量40質量部とした水溶液を滴下し重合を開始した。水溶液の滴下を開始してから15分後に、メタクリル酸メチル174質量部、アクリル酸ブチル174質量部およびアセトアセトキシエチルメタクリレート35質量部を4時間かけて滴下し、内温80℃〜85℃で乳化共重合を行った。滴下終了後、85℃で1時間保持した後、冷却し、アクリル樹脂エマルジョンを得た。得られたアクリル樹脂エマルジョンは、不揮発分42質量%、粘度125mPa・sであった。また、エマルジョンに含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度は6℃であった。
【0032】
固形分基準で、得られたアクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、ポリビニルアルコールが30質量部となるように、ポリビニルアルコール混合物(商品名:PVA224(重合度2,400、けん化度88モル%、株式会社クラレ製)と、商品名:PVA210(重合度1,000、けん化度88モル%、株式会社クラレ製)とを1:1の質量割合で混合したもの)の15%水溶液を配合した。次に、固形分基準で、アクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、無機顔料としての炭酸カルシウムを250質量部配合した。さらに、固形分基準で、アクリル樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールとの合計100質量部に対して、イソシアネート含有化合物としてのポリメチレンポリフェニルイソシアネート(商品名:ルプラネート(登録商標)M20S、BASF INOACポリウレタン株式会社製)を60質量部配合し、充分に混合して実施例1の木材用接着剤組成物を調製した。
【0033】
<実施例2>
撹拌機、滴下ロート、還流冷却管および温度計を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、分子鎖末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(重合度500、けん化度88モル%、株式会社クラレ製PVA−M205)の15%水溶液160質量部および水400質量部を仕込み、窒素気流下、内温を75℃に昇温させた。次に、メタクリル酸メチル6質量部、アクリル酸ブチル6質量部、アクリル酸2ヒドロキシエチル0.6質量部およびアセトアセトキシエチルメタクリレート0.3質量部を加えた後、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)1.5質量部にアンモニア水0.75質量部を加えたものを水で希釈して全量40質量部とした水溶液を滴下し重合を開始した。水溶液の滴下を開始してから15分後に、メタクリル酸メチル174質量部、アクリル酸ブチル174質量部、アクリル酸2ヒドロキシエチル17.4質量部およびアセトアセトキシエチルメタクリレート10質量部を4時間かけて滴下し、内温80℃〜85℃で乳化共重合を行った。滴下終了後、85℃で1時間保持した後、冷却し、アクリル樹脂エマルジョンを得た。得られたアクリル樹脂エマルジョンは、不揮発分42質量%、粘度25mPa・sであった。また、エマルジョンに含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度は5℃であった。
このアクリル樹脂エマルジョンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の木材用接着剤組成物を調製した。
【0034】
<比較例1>
アセトアセトキシエチルメタクリレートを使用しないこと以外は実施例1と同様にして、アクリル樹脂エマルジョンを得た。得られたアクリル樹脂エマルジョンは、不揮発分42質量%、粘度100mPa・sであった。また、エマルジョンに含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度は6℃であった。
このアクリル樹脂エマルジョンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の木材用接着剤組成物を調製した。
【0035】
<比較例2>
アセトアセトキシエチルメタクリレートの全使用量を3.6質量部まで減らしたこと以外は実施例1と同様にして、アクリル樹脂エマルジョンを得た。得られたアクリル樹脂エマルジョンは、不揮発分42質量%、粘度100mPa・sであった。また、エマルジョンに含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度は6℃であった。
このアクリル樹脂エマルジョンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の木材用接着剤組成物を調製した。
【0036】
<比較例3>
アセトアセトキシエチルメタクリレートの全使用量を64質量部まで増やしたこと以外は実施例1と同様にしたが、得られたアクリル樹脂エマルジョンは、残存モノマーが高く、エマルジョンの粗粒子が多いため、安定なエマルジョンが得られなかった。
【0037】
<比較例4>
4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の代わりに過硫酸カリウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル樹脂エマルジョンを得た。得られたアクリル樹脂エマルジョンは、不揮発分42質量%、粘度5,000mPa・sであった。また、エマルジョンに含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度は6℃であった。
このアクリル樹脂エマルジョンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の木材用接着剤組成物を調製した。
【0038】
[接着性能の評価]
実施例1〜2および比較例1〜4で得られた木材用接着剤組成物の接着性能を下記項目により評価した。
<圧縮剪断強度>
木材用接着剤組成物を用いて試験片を作製し、圧縮剪断強度を測定した。接着条件、試験方法および測定条件を以下に記す。測定結果を表1に示した。なお、表中の木破率が高いほど、接着強度が高いということができる。
(1)接着条件
基材:カバ柾目板、含水率11%
塗布量:250g/m2(両面塗布)
圧締:常温、1177kPa(12kg/cm2)、24時間
(2)試験方法
JIS K−6806による圧縮剪断試験
(3)測定条件
常態:23℃、65%RH下の標準状態で測定
耐温水:60℃の温水中に3時間浸漬した後、室温の水中に冷めるまで浸漬してから測定
耐熱水性:煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃で20時間乾燥し、さらに煮沸水中で4時間浸漬してから、室温の水中に冷めるまで浸漬してから測定
【0039】
【表1】

【0040】
<引張り剪断強度>
木材用接着剤組成物を用いて針葉樹単板を接着して合板とし、合板の引張り剪断強度を測定した。接着条件、試験方法および測定条件を以下に記す。測定結果を表2に示した。
(1)接着条件
基材:カラマツ/ラジアータパイン単板(厚さ2/3/2/3/2mm クロス貼り5ply)、含水率8%
塗布量:435.7g/m2(両面塗布)
圧締:常温で1471kPa(15kg/cm2)、20分間の圧締後、110℃で981kPa(10kg/cm2)、5分間の圧締
(2)試験方法
JASの合板引張り剪断試験
(3)測定条件
常態:23℃、65%RH下の標準状態で測定
1類:スチーミング処理試験 室温の水中に2時間以上浸漬した後、120℃で3時間スチーミングを行い、冷めるまで室温の水中に浸漬後、濡れたままの状態で測定
特類:減圧・加圧試験 室温水中に浸漬し、0.085MPa以上の減圧を30分行い、更に0.45MPa〜0.48MPaの加圧を30分行い、濡れたままの状態で測定
【0041】
【表2】

【0042】
<剥離試験>
木材用接着剤組成物を用いて試験片を作製し、剥離率を測定した。接着条件、試験方法および測定条件を以下に記す。測定結果を表3に示した。なお、表中の剥離率が低いほど、接着強度が高いということができる。
(1)接着条件
基材:米松、含水率11%
塗布量:240g/m2(両面塗布)
圧締:常温、981kPa(10kg/cm2)、20分
(2)試験方法
JASの集成材剥離試験
(3)測定条件
減圧・加圧試験:試験片を室温水中に浸漬し、0.08MPaの減圧を5分間行い、更に0.48MPa〜0.54MPaの加圧を1時間行う処理を2回繰り返した後、70±3℃の恒温乾燥機中に入れ、含水率が処理前の含水率以下になるまで18時間以上乾燥した後、両木口面の接着層における剥離長さを測定
【0043】
【表3】

【0044】
表1〜3の結果から、本発明の木材用接着剤組成物は、接着強度、作業性、耐久性、耐水性、耐温水性および耐熱水性に優れているということが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アセトアセチル基含有ラジカル重合性不飽和単量体を1質量%〜15質量%含むラジカル重合性不飽和単量体組成物を、両末端にカルボキシル基を有する水溶性アゾ重合開始剤の存在下で、乳化共重合して得られるアクリル樹脂エマルジョンと、
(B)ポリビニルアルコールと、
(C)無機顔料と、
(D)イソシアネート基含有化合物と
を含むことを特徴とする木材用接着剤組成物。
【請求項2】
固形分基準で、前記(A)アクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、前記(B)ポリビニルアルコールが10質量部〜100質量部配合されていることを特徴とする請求項1に記載の木材用接着剤組成物。
【請求項3】
固形分基準で、前記(A)アクリル樹脂エマルジョン100質量部に対して、前記(C)無機顔料が50質量部〜350質量部配合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の木材用接着剤組成物。
【請求項4】
固形分基準で、前記(A)アクリル樹脂エマルジョンと前記(B)ポリビニルアルコールとの合計100質量部に対して、前記(D)イソシアネート基含有化合物が20質量部〜150質量部配合されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の木材用接着剤組成物。

【公開番号】特開2009−203368(P2009−203368A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47810(P2008−47810)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】