説明

木製文具の切削加工方法

【課題】
間隔が密な枝年輪の特性を活かしつつ、表面の意匠性に優れた木製文具の製造を容易に行うことができる木製文具の切削加工方法を提供することにある。
【解決手段】
樹木の枝材を輪切りにして、輪切りにした枝材を、端面部分を挟持した状態で仮球体に切削し、仮球体に切削した枝材を、意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を適宜決定して、略球体に再切削し、略球体に再切削した枝材の頂側から下方向に伸びる該ペン立て穴を穿設することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製文具の切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、略球体で、筆記用具や印鑑等を挿入するペン立て穴を有すると共に下部に錘を有して起き上がりこぼし状に形成された木製文具として、特許文献1に示される卓上載置型文具を提案している。この卓上載置型文具は、略球状で大きさが直径25mm〜40mmである胴体部と、胴体部の下部に内装された錘とを備え、重心が下方に位置し、揺動可能で倒れない起き上がりこぼし状であり、胴体部の上部に略上下に伸びて穿設されたペンを挿嵌して起立させるペン穴を有するペン立てである。この卓上載置型文具は、木製や樹脂製である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録番号第3157519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の卓上載置型文具で木製のものは、特に肌触りや香りが良く、好評ではあるが、材料となる木材の木目がまちまちで、無意識に球体に切削したのでは、意匠性に優れた形状とすることは困難である。また、卓上載置型文具は、小型であることから、材木の幹部分を使用すると、年輪の間隔が広く木目が大雑把になってしまい、やはり意匠性に優れた形状とすることは困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、間隔が密な枝年輪の特性を活かしつつ、表面の意匠性に優れた木製文具の製造を容易に行うことができる木製文具の切削加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の木製文具の切削加工方法は、樹木の枝材を輪切りにして、輪切りにした枝材を、端面部分を挟持した状態で仮球体に切削し、仮球体に切削した枝材を、意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を適宜決定して、略球体に再切削し、略球体に再切削した枝材の上側から下方向に伸びる該ペン立て穴を穿設することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の木製文具の切削加工方法は、樹木の枝材を輪切りにして、切削後の意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を適宜決定して、枝材の上側から下方向に伸びるペン立て穴を穿設し、ペン立て穴が穿設された枝材を略球体に切削することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の木製文具の切削加工方法は、枝材の枝年輪の芯を傾けることにより、意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を決定することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の木製文具の切削加工方法は、枝年輪の芯を、40度〜50度傾けて上下方向を決定することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の木製文具の切削加工方法は、ペン立て穴の穿設によって、枝材の芯の一部を抜くことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の木製文具の切削加工方法は、ペン立て穴の底に、錘を配置することを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の木製文具の切削加工方法は、ペン立て穴を、略球体に再切削された枝材を貫通しないように穿設し、錘を配置する錘穴を、略球体に再切削された枝材の底側に穿設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本件発明によれば、仮球体に切削し、仮球体に切削した枝材を意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を適宜決定して略球体に再切削していることから、間隔が密な枝年輪の特性を活かしつつ、表面の意匠性に優れた木製文具の製造を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る木製文具の材料となる枝材の一例を示す斜視図である。
【図2】同木製文具の加工途中の皮剥材を示す説明図である。
【図3】同木製文具の仮球体の切削加工状態を示す説明図である。
【図4】同木製文具の仮球体の切削加工方法を示す説明図である。
【図5】同木製文具の切削加工状態を示す説明図である。
【図6】同木製文具を示す斜視図である。
【図7】同木製文具の縦断面図である。
【図8】本発明に係る木製文具の他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、本発明に係る木製文具の材料となる枝材の一例を示す斜視図である。図2は、同木製文具の加工途中の皮剥材を示す説明図である。図3は、同木製文具の仮球体の切削加工状態を示す説明図である。図4は、同木製文具の仮球体の切削加工方法を示す説明図である。図5は、同木製文具の切削加工状態を示す説明図である。図6は、同木製文具を示す斜視図である。図7は、同木製文具の縦断面図である。
【0016】
図における木製文具20は、略球体で、筆記用具や印鑑等を挿入するペン立て穴28を有すると共に下部に錘30を有して起き上がりこぼし状に形成されたものである。この木製文具20の切削加工方法について説明する。
【0017】
まず、木製文具20に使用する材料は、杉や檜等の木材で、幹の部分ではなく特に枝材1を用いるものとする。また、枝材の中でも、特に枝年輪1aの間隔が狭いものが好ましく、芯の周辺に淡い赤色や淡い黄褐色を帯びていたり、色彩の異なる部分を有するものがさらに良い。この枝材1の太さは、約40mm〜約60mmである。
【0018】
最初に、枝材1を図1に示すように輪切りにする。輪切りにする長さは、枝材1の太さとほぼ同じ程度か若干太さより長い程度である。そして、枝材1の表皮8を剥き、木工旋盤で切削加工を行うようにする。具体的には、図2に示すように、まず、枝材1の表皮8を剥いた皮剥材2の端面部分を木工旋盤(本体部分は不図示)のローリングセンタ62で挟持した状態で、皮剥材2の表面を木工旋盤の切削刃60で切削していく。木工旋盤で挟持しつつ切削していく関係で、端面部分に円柱本体部4よりも小径の挟持部6を先に削り込んで、それ以降、円柱本体部4を削り込んでいくようにする。
【0019】
切削刃60での削り込みは、まず、図3に示すように、仮に形状を整えるために仮球体10にしていく。この仮球体10の仮球体本体部12の表面には、切削につれて枝年輪12aが表出してくる。尚、この時点でも木工旋盤で挟持して切削を行うので、円柱状の挟持部14を有している。
【0020】
そして、仮球体10に切削した後、木製文具20の最終的な上下を決める。具体的には、仮球体10を、意匠面である表面の木目を枝年輪12aにより形成すべく上下方向を適宜決定する。仮球体10では、枝年輪12aを真横にして切削を行っており、その真横になった状態のままで意匠面を形成させようとすると、変化の少ない木目になってしまうので、図4に示しように、枝年輪12aの向きを傾けさせて、最終的な木製文具20の上下を決めるようにする。図4の例では、約45度、傾斜させるようにしている。尚、枝年輪12aの芯1bを傾けて上下方向を決定するにあたっては、完成した時の木製文具20の表面の木目の具合を想定して適宜行えばよく、傾ける角度としては、枝年輪12aの芯1bを、40度〜50度傾けて上下方向を決定するのが好ましい。
【0021】
そして、図4に示す向きで、木工旋盤でさらに略球体に再切削していく。そして、略球体に切削した後、図5に示すように上側から下方向に伸びるペン立て穴28を穿設し、木製文具20の基本形を形成させる。仮球体10を傾けた上でさらに削り込んでいるので、木製文具20の表面には、天地を正して見ると斜め方向に木目が伸びて見えることになる。尚、図5の木製文具20では、ペン立て穴28の上側の周囲に円筒部26を削り出し、意匠性を向上させている。この時点では、まだ底側には円柱状の挟持部24を残している。
【0022】
そして、図5の木製文具20の底側の挟持部24を削り込み、平らな底部22bを形成させる。これで、切削は終了し、必要に応じて、樹脂抜きや割れ防止のための溶剤の含浸や、表面塗装を行うようにする。最後に、ペン立て穴28の底に、錘30を挿嵌することで、起き上がりこぼし状の木製文具20が完成する。
【0023】
このように、本実施の形態の切削加工方法を用いれば、間隔が密な枝年輪1aの特性を活かしつつ、表面の意匠性に優れた木製文具20の製造を容易に行うことができる。特に、檜の芯部分の赤みを活かすことで、より意匠性を向上させることができる。
【0024】
また、ペン立て穴28の底に、錘30を配置することで、木製文具20を容易に起き上がりこぼし状にすることができる。尚、図7の断面図でも明らかなように、ペン立て穴28の穿設によって、枝材1の芯1b(枝年輪12aの芯部分)の一部を抜くようにすると、枝材1にひび割れが起きることを抑えることが可能となる。芯1bが上下に伸びるようにしてペン立て穴28を上下に穿設すれば、芯1bが完全に抜けるので、よりひび割れが生じにくい状態にはなるが、この場合、上述の通りで変化の少ない木目になってしまい表面の意匠性に劣ることになってしまい好ましくない。
【0025】
さらに、図8に示す木製文具40のように、ペン立て穴48を、略球体に再切削された枝材である木製文具本体部42を上下に貫通しないように穿設し、板状の錘である板状錘50を配置する錘穴42bを、木製文具本体部42の底側に穿設するようにしてもよい。板状錘50にコインやコイン状に装飾加工したものを用いることで、起き上がりこぼしとして揺動して底側が見えたときの意匠性を向上させることも可能となる。
【0026】
尚、上記の実施の形態では、略球体に切削した後に、ペン立て穴28,48を穿設しているが、枝材1を輪切りにし、切削後の意匠面の木目を枝年輪1aにより形成すべく上下方向を適宜決定して、枝材1の上側から下方向に伸びるペン立て穴28,48を穿設した後、略球体に切削するようにしてもよい。先にペン立て穴28,48を穿設することにより、木工旋盤に固定しやすくなり量産性が向上する。また、先にペン立て穴28,48を穿設して枝材1の芯1b(枝年輪12aの芯部分)の一部を抜くようにすると、切削前の段階から、枝材1にひび割れが起きることを抑えることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、本発明によれば、間隔が密な枝年輪の特性を活かしつつ、表面の意匠性に優れた木製文具の製造を容易に行うことができる木製文具の切削加工方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0028】
1・・・・・枝材
1a・・・・枝年輪
1b・・・・芯
2・・・・・皮剥材
4・・・・・円柱本体部
6・・・・・挟持部
8・・・・・表皮
10・・・・仮球体
12・・・・仮球体本体部
12a・・・枝年輪
14・・・・挟持部
20・・・・木製文具
22・・・・木製文具本体部
22a・・・木目
22b・・・底部
24・・・・挟持部
26・・・・円筒部
28・・・・ペン立て穴
30・・・・錘
40・・・・木製文具
42・・・・木製文具本体部
42b・・・錘穴
46・・・・円筒部
48・・・・ペン立て穴
50・・・・板状錘
60・・・・切削刃
62・・・・ローリングセンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略球体で、筆記用具や印鑑等を挿入するペン立て穴を有すると共に下部に錘を有して起き上がりこぼし状に形成される木製文具の切削加工方法において、
樹木の枝材を輪切りにして、
該輪切りにした枝材を、端面部分を挟持した状態で仮球体に切削し、
該仮球体に切削した枝材を、意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を適宜決定して、略球体に再切削し、
略球体に再切削した枝材の上側から下方向に伸びる該ペン立て穴を穿設することを特徴とする木製文具の切削加工方法。
【請求項2】
略球体で、筆記用具や印鑑等を挿入するペン立て穴を有すると共に下部に錘を有して起き上がりこぼし状に形成される木製文具の切削加工方法において、
樹木の枝材を輪切りにして、
切削後の意匠面の木目を枝年輪により形成すべく上下方向を適宜決定して、該枝材の上側から下方向に伸びる該ペン立て穴を穿設し、
該ペン立て穴が穿設された枝材を略球体に切削することを特徴とする木製文具の切削加工方法。
【請求項3】
前記枝材の枝年輪の芯を傾けることにより、意匠面の木目を該枝年輪により形成すべく上下方向を決定することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の木製文具の切削加工方法。
【請求項4】
前記枝年輪の芯を、40度〜50度傾けて上下方向を決定することを特徴とする請求項3記載の木製文具の切削加工方法。
【請求項5】
前記ペン立て穴の穿設によって、前記枝材の芯の一部を抜くことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の木製文具の切削加工方法。
【請求項6】
前記ペン立て穴の底に、前記錘を配置することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の木製文具の切削加工方法。
【請求項7】
前記ペン立て穴を、前記略球体に再切削された枝材を貫通しないように穿設し、
前記錘を配置する錘穴を、該略球体に再切削された枝材の底側に穿設することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の木製文具の切削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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