説明

木質系バイオマスの糖化方法

【課題】木質系バイオマスの安価かつ効率的な糖化方法、及び木質系バイオマスからのエタノール製造方法の提供。
【解決手段】加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合し、かつ活性酸素を生成する酸化物と混合する前処理工程を行うことを特徴とする木質系バイオマスの酵素糖化の前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマス中のセルロース又はヘミセルロースを原料として、安価かつ効率よく糖を製造するための糖化方法、並びに該セルロース又はヘミセルロースに由来する糖からエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の対策として、化石資源に依存しない新しいエネルギー生産の取り組みが進められている。その一つに、バイオマスからのエタノール製造が挙げられる。すでに、アメリカやブラジルでは代表的な農産物であるサトウキビからのエタノール製造が進められており、自動車エコ燃料として実用化されている。わが国においてもバイオマス利用が積極的に推進されつつあり、バイオマスのエタノール化に関する技術開発が検討されている。しかし、アメリカやブラジルと異なりエタノール製造に適した国産農産物やバイオマス資源は限定されており、森林国であるわが国では、木材を始めとする木質系バイオマスを対象としたエタノール化の技術開発が求められている。
【0003】
バイオマスからのエタノール製造は、大きく2つのステップから成る。第一は、バイオマスから単糖を生成する糖化工程、第二は生成した単糖を用いてエタノール発酵するエタノール生成工程である(例えば、特許文献1〜4参照)。木質系バイオマスの場合、含まれるヘミセルロース及びセルロースの糖化が高収率で進まなければ、エタノール発酵の全体収率に大きな影響を及ぼす。そのため、木質系バイオマスの効率的糖化技術が望まれている。
【0004】
木質系バイオマスの代表的な糖化方法として、濃硫酸法と希硫酸法が挙げられる。濃硫酸法は、糖化効率は高いものの、70〜80%の高濃度の硫酸を50〜100℃近くで用いるため過大な設備が必要であり、作業安全性にも問題がある。一方、希硫酸法は設備費が比較的小さいが、糖化効率が低いという課題があった。
【0005】
以下に、希硫酸法での糖化方法の概要と具体的な課題を代表的な木質系バイオマスである木材を例に示す。
【0006】
木材は、ヘミセルロース、セルロース及びリグニンの3大成分で構成されている。第一段階として、木材を希硫酸にて混合し、140〜220℃、3〜20分間加水分解処理することにより、木材に含まれるヘミセルロースを加水分解し、ヘミセルロース由来の単糖を得る。ヘミセルロース由来の糖としては、主に五炭糖であるキシロース、アラビノース、六炭糖であるグルコース、ガラクトース、マンノースである。
【0007】
ヘミセルロースの糖化後、固形分としてリグニンとセルロースから成る残渣が得られる。第二段階の糖化としては、得られた残渣を第一段階よりも厳しい温度、圧力条件下で希硫酸にて加水分解し、セルロースから六炭糖であるグルコースを生成させる。
【0008】
上記の工程で第一段階のヘミセルロースの糖化率は90〜95%であるのに対して、第二段階のセルロースからの糖化率は30〜35%程度に留まる。これは、糖化されたグルコースの過分解が進み、蟻酸、レブリン酸、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が生成するためである。また、これらの過分解物は後段の発酵にも影響を及ぼす。
【0009】
これらの希硫酸又は濃硫酸による糖化技術の課題を解決するために、木質系バイオマスを酵素で糖化する取り組みも進められている。しかし、木質系バイオマスに直接セルロース分解酵素(セルラーゼ)を接種した場合、酵素が木質系バイオマスの成分であるリグニンに強固に吸着するため、目的のセルロースを糖化するには多量の酵素を用いる必要があり、経済性に問題があった。
【0010】
一方、木質系以外の農作物及び水生植物等のバイオマスを対象として、アルカリと過酸化水素を用いた前処理後、セルラーゼで糖化する方法が報告されている(非特許文献1及び2)。これらによると、麦草、コーンコブ、コーン茎、コーン皮、ホテイアオイ等は非常に高い収率で糖化が進むが、ケナフやオーク材の糖化収率は低いことを示している。しかしながら、このような方法に従って木材を直接アルカリ及び過酸化水素で前処理しセルラーゼを作用させても高い糖化収率は得られない(後述する実施例1のNo.5参照)。
【0011】
【特許文献1】特開2006−149343号公報
【特許文献2】特開2006−87350号公報
【特許文献3】特開2005−117942号公報
【特許文献4】特開2004−337099号公報
【非特許文献1】J. Michael Gould, 第XXVI巻第046-052頁、1984年
【非特許文献2】D. Mishima et al., Bioresource Technology 第97巻第2166〜2172頁、2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、木質系バイオマスの安価かつ効率的な糖化方法、及び木質系バイオマスからのエタノール製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、木質系バイオマスの加水分解処理後に一次糖液と固液分離した残渣に対して、アルカリ処理及び過酸化水素処理を行ったところ、その後のセルラーゼ酵素処理において通常のセルラーゼ使用量で得られる二次糖液中の糖化収率が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は以下の(1)〜(8)に関する。
(1)加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合し、次いで活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行うことを特徴とする木質系バイオマスの酵素糖化の前処理方法。
(2)加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行うことを特徴とする木質系バイオマスの酵素糖化の前処理方法。
(3)加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合し、かつ活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理を行うことを特徴とする木質系バイオマスの糖化方法。
(4)加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理を行うことを特徴とする木質系バイオマスの糖化方法。
【0015】
上記(1)〜(4)の方法においては、加水分解を希硫酸を用いて行うことができる。
また上記(1)〜(4)の方法においては、残渣を、例えばpH10〜13のアルカリ水溶液と、例えば常温で混合することができる。使用するアルカリ水溶液としては、限定されるものではないが、水酸化ナトリウム水溶液が挙げられる。
【0016】
上記(1)〜(4)の方法においては、活性酸素を生成する酸化剤として、例えば過酸化水素を用いることができ、具体的には0.1%以上の過酸化水素を用いることができる。
【0017】
さらに上記(1)〜(4)の方法においては、固形分にセルラーゼ酵素処理を行って二次糖液を得ることができる。あるいは、固形分にセルラーゼ酵素処理及びエタノール発酵処理を行ってエタノールを生成することができる。
【0018】
(5)木質系バイオマスからエタノールを製造する方法において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合し、かつ活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理を行って二次糖液を得、該一次糖液及び/又は二次糖液をエタノール発酵することを特徴とするエタノールの製造方法。
(6)木質系バイオマスからエタノールを製造する方法において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理を行って二次糖液を得、該一次糖液及び/又は二次糖液をエタノール発酵することを特徴とするエタノールの製造方法。
(7)木質系バイオマスからエタノールを製造する方法において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合し、かつ活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理及びエタノール発酵処理を行うことを特徴とするエタノールの製造方法。
(8)木質系バイオマスからエタノールを製造する方法において、木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、該残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理及びエタノール発酵処理を行うことを特徴とするエタノールの製造方法。
【0019】
上記(7)及び(8)の方法においては、固形分のセルラーゼ酵素処理及びエタノール発酵処理を、例えば固形分を原料としたセルラーゼ生成菌及びエタノール発酵菌の同時発酵により行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、安価かつ効率的な木質系バイオマスの糖化方法が提供される。本糖化方法によれば、木質系バイオマスに含まれるヘミセルロース、セルロースの糖化収率を大幅に向上させることができるだけでなく、常温常圧での反応であるため、省エネルギーでの処理ができる。また、本糖化方法の各工程においてはアルカリ又は酸化剤の濃度が低いため設備の簡素化と設備運転上の安全性も高い。さらに本発明によりエタノールの製造方法が提供されるが、本エタノール製造方法では木質系バイオマスから効率的にエネルギーに変換することができ、資源の再利用に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る木質系バイオマスの糖化方法(以下、「本糖化方法」ともいう)は、木質系バイオマスの加水分解処理後に一次糖液と残渣を得た後、残渣をアルカリ水溶液と活性酸素生成酸化剤を用いて前処理(AO処理)することにより、その後の酵素処理工程において高効率に糖を生成することができる。また本発明は、上述のようにして木質系バイオマスより得られる糖を原料としてエタノールを製造する方法を提供する。
【0022】
1.糖化方法
本発明に係る前処理方法及び糖化方法の基本フローを図1に示す。本糖化方法は、具体的には以下の工程:
(a)木質系バイオマスを加水分解する工程(加水分解工程)、
(b)得られる反応物を一次糖液と残渣に分離する工程(固液分離工程)、
(c)該残渣をアルカリ水溶液と活性酸素を生成する酸化剤とを用いて処理する工程(AO処理工程)、
(d)混合物を液分と固形分に分離する工程(固液分離工程)、
(e)該固形分にセルラーゼを加えて酵素処理を行う工程(酵素処理工程)
を含む。本糖化方法は、上記(c)の前処理工程を特徴とするものである。
【0023】
本発明において「糖化」とは、木質系バイオマスに含まれるヘミセルロース及びセルロースから単糖又は二糖に分解することを意味する。上記(a)の加水分解により、木質系バイオマス中のヘミセルロースが分解され、ヘミセルロース由来の糖がステップ(b)で一次糖液として得られる。また、上記(c)〜(e)の処理により、木質系バイオマス中のセルロースが分解され、セルロース由来の糖が二次糖液として得られる。
【0024】
(a)加水分解工程
本糖化方法においては、まず木質系バイオマスを適当な酸又はアルカリに混合し、所定温度に加温し反応させることによって、木質系バイオマスに含まれるヘミセルロースを加水分解する。
【0025】
本発明において原料となる木質系バイオマスは、木質資源であれば特に限定されるものではなく、例えば廃建材、廃梱包材、伐採材、おが屑、間伐材、木材チップ、稲わら、樹皮、林地残材、未利用樹、背板などが挙げられる。木質系バイオマスは、1種類の木質資源からなるものであってもよいし、複数種の木質資源からなるものであってもよい。また、木質系バイオマスには、木質資源以外に、若干の不純物が含まれていてもよい。
【0026】
木質系バイオマスは、加水分解処理の前に粉砕しておくことが好ましい。木質系バイオマスの粉砕は、例えばリファイナー、木材粉砕機を用いて行うことができる。
【0027】
加水分解反応は、当技術分野で公知の方法に従って適当な条件で行うことができ、酸加水分解及びアルカリ加水分解のいずれでもよい。例えば酸加水分解を行う場合には、硫酸、好ましくは希硫酸を用いることができる。例えば、硫酸濃度0.1〜5%、好ましくは0.5〜3%の希硫酸を用いて、約140〜220℃の温度、好ましくは160〜210℃の温度にて、約1〜20分間、好ましくは約5〜10分間にわたり反応を行う。
【0028】
(b)固液分離工程
続いて、加水分解工程の反応物を固液分離して、一次糖液と残渣とに分離する。固液分離は、当技術分野で公知の方法、例えばフィルタープレス、振動ふるい、遠心分離、膜分離を用いて行うことができる。このようにして得られた一次糖液中の単糖の収率は木質系バイオマス中のヘミセルロース当たり95%程度である。
【0029】
(c)AO処理工程
次に、残渣に対してAO処理を行う。具体的には、残渣をアルカリ水溶液と混合した後、活性酸素を生成する酸化剤と混合する。アルカリ水溶液としては、任意のアルカリに基づく水溶液を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、消石灰及び生石灰(水酸化カルシウム水溶液)などを用いることができる。また、使用するアルカリ水溶液は、pH9.5〜13.5、好ましくはpH10〜13、より好ましくはpH11〜12.5とすることができる。加水分解処理後の残渣100gに対し、アルカリ水溶液約100〜2000mL、好ましくは200mL〜1000mL、より好ましくは300mL〜500mLを混合し、好ましくは常温(約20〜30℃)にて、約1〜30時間、好ましくは1〜15時間にわたりpHを10〜13に制御しながら混合を継続する。
【0030】
次に、アルカリ水溶液との混合物に対し、活性酸素を生成する酸化剤を添加し、混合する。活性酸素を生成する酸化剤としては、当技術分野で公知の任意の酸化剤を用いることができ、具体的には例えば過酸化水素、過硫酸塩、過炭酸塩、過酢酸塩、オゾン、過酸化ナトリウムなどが挙げられる。活性酸素を生成する酸化剤は、適当な量を添加し、例えば1〜30時間混合する。より具体的には、例えば過酸化水素を用いる場合には、混合物中の最終濃度が0.1%以上となるように過酸化水素を添加し、約1〜30時間、好ましくは1〜10時間混合する。
【0031】
また、残渣に対するAO処理としては、上述した手順に限定されず、残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合するといった手順に従った処理でもよい。ここで固液分離は、従来公知の手法で実施することができる。具体的には、残渣をアルカリ水溶液と混合した後に静置し、その後、液相を除去する方法や、残渣をアルカリ水溶液と混合した後に遠心分離によって固形分を沈殿させ、その後、液相を除去する方法が挙げられる。また、この手順に従う場合、二次残渣と酸化剤を混合する際、二次残渣をアルカリ性に保持する。具体的には、過酸化水素等の酸化剤と水酸化ナトリウム等のアルカリ剤とを二次残渣に混合すればよい。
【0032】
上記のAO処理によって、固形分中のリグニンを低分子化又は脱離させることができ、後述するセルラーゼによる酵素処理の効率を大幅に向上させることができる。特に、上述したように、アルカリ性に保持した二次残渣に対して酸化剤を作用させる場合には、固形分中のリグニンに酸化剤を効率的に作用させることができるので、酸化剤の使用量を削減することができる。
【0033】
(d)固液分離工程
続いて、AO処理による前処理後の混合物を液分と固形分に分離する。固液分離処理は、上述と同様に当技術分野で公知の任意の方法により行うことができる。処理後の固形分は、後述する酵素処理工程に供する。液分は、排水処理してもよいし、あるいはAO処理に再利用してもよい。AO処理後に固液分離された液分を再利用する場合、酸化剤添加後にはpHが低下しているため、アルカリによってpHを10〜13の範囲に再調整する。その後、加水分解処理後の新たな残渣を上述した配合比で混合し、所定時間混合する。その後、活性酸素を生成する酸化剤を添加し混合することによって、固形分中のリグニンを低分子化又は脱離させることができる。
【0034】
(e)酵素処理工程
本工程では、得られた固形分にセルラーゼ酵素処理を行うことにより、固形分中のセルロースをセルラーゼにより単糖まで分解する。使用するセルラーゼは、セルロースを効率的に六炭糖まで糖化できるものであれば特に限定されない。例えば、セルラーゼは、植物及び動物由来のいずれでもよく、化学修飾されたものであっても、遺伝子組換えにより生成されたものであってもよい。なお、セルラーゼを反応させる温度、時間及び量は、セルラーゼの種類によって異なるが、当業者であれば、使用するセルラーゼの種類に応じて適宜選択することができる。
【0035】
あるいは、固形分を原料としてセルラーゼ生成菌を発酵させることにより、固形分中のセルロースをセルラーゼにより単糖まで分解し、二次糖液を得ることも可能である。そのようなセルラーゼ生成菌は、当技術分野で公知であり、例えばAspergillus niger、A. foetidus、Alternaria alternata、Chaetomium thermophile、C. globosus、Fusarium solani、Irpex lacteus、Neurospora crassa、Cellulomonas fimi、C. uda、Erwinia chrysanthemi、Pseudomonas fluorescence、Streptmyces flavogriseusなどが挙げられ、例えば「セルロース資源−高度利用のための技術開発とその基礎」、越島哲夫編、(株)学会出版センター、1991年に記載されている。
【0036】
上記の処理によって得られる二次糖液中の単糖量は固形分に含まれるセルロース当たり80〜90%に達する。
【0037】
なお、上述のようにAO処理後の固形分をセルラーゼ酵素処理する以外に、固形分を原料としてセルラーゼ生成菌とエタノール発酵菌の同時発酵を行い、エタノールを生成することも可能である。
【0038】
以上の第1糖化段階である希硫酸処理、第2糖化段階であるAO処理及び酵素処理によって、木質系バイオマスに含まれるヘミセルロース、セルロースから高い収率で単糖を得ることができる。生成した単糖は、エタノール生成可能な微生物の発酵原料として利用する。
【0039】
2.エタノールの製造
上述の糖化方法において得られる糖(一次糖液及び二次糖液)を原料として用いてエタノール発酵を行い、エタノールを製造することができる。
【0040】
一次糖液はヘミセルロース由来の糖であり、キシロース、アラビノースなどの五炭糖と、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの六炭糖を含み、このうち六炭糖は酵母などによって容易にエタノールに変換することができ、五炭糖は、当技術分野で公知のエタノール生成方法に従ってエタノールに変換することができる。
【0041】
二次糖液はセルロース由来の糖であり、グルコースの六炭糖を含み、酵母などによって容易にエタノールに変換される。
【0042】
六炭糖のエタノール発酵は、当技術分野で公知のエタノール製造方法に従って、酵母、又は遺伝子組換えによりエタノール生成に必要な遺伝子を有する細菌を用いて行うことができる。
【0043】
五炭糖のエタノール発酵は、例えば五炭糖及び六炭糖の両方を資化するが、エタノールを生成しない大腸菌に、エタノールを生成する微生物由来の遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌や、エタノール発酵性のザイモモナス属(Zymomonas)細菌に五炭糖の代謝遺伝子を導入した遺伝子組換え細菌などを用いて行うことができる(例えば、特表平5−502366号公報及び特表平6−504436号公報)。あるいは、五炭糖及び六炭糖をエタノール発酵させてエタノール及び二酸化炭素を回収する方法を利用してもよい(特開2006−111593号公報)。
【0044】
エタノール発酵の条件は、当業者であれば、原料となる糖の種類、使用するエタノール発酵菌の種類などに応じて、適宜設定することができる。エタノール発酵は、一次糖液及び二次糖液の各々に対して別々に行ってもよいし、あるいは両者を混合して行ってもよい。
【0045】
3.適用例
本発明を適用した木質系バイオマスの糖化方法及びエタノール製造方法の好ましい実施形態を図2、3及び4に示す。
(1)適用例1(図2参照)
粉砕した木質系バイオマス原料を希硫酸を用いて140〜220℃にて3〜20分間かけて加水分解する(図2では希硫酸処理と表記)。固液分離し得られた液分にはキシロース等の五炭糖を始めとするヘミセルロース由来の単糖を含む溶液(ヘミセルロース糖化液)が生成する。この五炭糖を含む糖化液はエタノール発酵可能な微生物の発酵原料として使用される。固液分離した固形分を常温常圧下でAO処理し、この反応物を固液分離する。得られた液分はAO処理に再利用する。固形分はpHをセルラーゼの至適範囲に調整した後、セルラーゼを接種(図2では酵素処理と表記)し、固形分中のセルロースを単糖まで酵素分解する。必要に応じて固液分離し、セルロース糖化液を得る。この糖化液をエタノール発酵可能な微生物の発酵原料として利用する。なお、固液分離した場合には分離した固形分は燃料として利用するか廃棄物処分する。
【0046】
(2)適用例2(図3参照)
粉砕した木質系バイオマス原料を希硫酸を用いて140〜220℃にて3〜20分間かけて加水分解する(図3では希硫酸処理と表記)。固液分離し得られた液分にはキシロース等の五炭糖を始めとするヘミセルロース由来の単糖を含む溶液(ヘミセルロース糖化液)が生成する。この五炭糖を含む糖化液はエタノール発酵可能な微生物の発酵原料として使用される。固液分離した固形分を常温常圧下でAO処理し、この反応物を固液分離する。得られた液分はAO処理に再利用する。固形分は所定量のセルラーゼを含むエタノール発酵菌の培養液に混合し、同時糖化発酵の原料として使用する。
【0047】
(3)適用例3(図4参照)
粉砕した木質系バイオマス原料を希硫酸を用いて140〜220℃にて3〜20分間かけて加水分解する(図4では希硫酸処理と表記)。固液分離し得られた液分にはキシロース等の五炭糖を始めとするヘミセルロース由来の単糖を含む溶液(ヘミセルロース糖化液)が生成する。この五炭糖を含む糖化液はエタノール発酵可能な微生物の発酵原料として使用される。固液分離した固形分を常温常圧下でAO処理し、この反応物を固液分離する。得られた液分はAO処理に再利用する。固形分はセルラーゼ生成菌とエタノール発酵菌による同時発酵の原料として利用する。
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
本実施例においては、木質系バイオマスとして廃建材を粉砕したものを用いて糖化処理を行った。なお、粉砕木材の組成を事前分析した結果、ヘミセルロースが27%、セルロースが40%、リグニン+灰が33%であった。この粉砕木材を表1に示す各条件にて処理し、各々の糖化効率を求めた。なお、本発明に該当する条件は、表1に記載のNo.4である。
【0050】
No.1は、第1糖化段階として粉砕木材を2%希硫酸に混合し170℃で10分間反応させた(希硫酸処理)。次に残渣をリファイナーで再粉砕し2%希硫酸にて220℃で10分間混合処理した(希硫酸処理)。
【0051】
No.2は、No.1と同様に第1糖化段階として希硫酸で処理し(希硫酸処理)、リファイナーで再粉砕した残渣に、セルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)を乾燥残渣重量当たり15FPU/gとなるように添加し40℃で144時間攪拌処理した(酵素処理)。なお、FPU/gとは、60分間にろ紙からグルコースを10.8mg生成するセルラーゼ酵素活性を意味し、1FPU=10.8mg/hの糖化速度である。
【0052】
No.3は、実施例1と同様に第1糖化段階として希硫酸で処理し(希硫酸処理)、リファイナーで再粉砕した残渣をpH12.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液と常温で15時間混合した(アルカリ処理)。その後、固液分離した残渣にセルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)を乾燥残渣重量当たり15FPU/gとなるように添加し40℃で144時間攪拌処理した(酵素処理)。
【0053】
No.4は、実施例1と同様に第1糖化段階として希硫酸で処理し(希硫酸処理)、リファイナーで再粉砕した残渣をpH12.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液と常温で3時間混合し、次に、終濃度1%となるように過酸化水素を添加し、さらに12時間撹拌した(AO処理)。固液分離した残渣にセルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)を乾燥残渣重量当たり15FPU/gとなるように添加し40℃で144時間攪拌処理した(酵素処理)。
【0054】
No.5は、粉砕木材をpH12.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液に3時間常温で混合した後、終濃度1%となるように過酸化水素を添加し、さらに12時間撹拌した(AO処理)。固液分離した残渣にセルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)を乾燥残渣重量当たり15FPU/gとなるように添加し40℃で144時間攪拌処理した(酵素処理)。
【0055】
No.6は、粉砕木材を水道水に混合し、15時間常温にて撹拌した。固液分離した残渣にセルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)を乾燥残渣重量当たり15FPU/gとなるように添加し40℃で144時間攪拌処理した(酵素処理)。
【0056】
【表1】

【0057】
以上の各処理条件で得られた第1糖化段階及び第2糖化段階のろ過液中における単糖濃度をGPC(ゲルろ過クロマトグラフ)にて測定することにより、各々粉砕木材中のヘミセルロース及びセルロース当たりの糖化収率を求めた。各条件で得られた糖化収率の結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
その結果、本発明を適用した条件であるNo.4では、第1糖化段階の糖化収率95%、第2糖化段階の糖化収率80%であり、粉砕木材重量当たりでは58%の糖化収率となった。
【実施例2】
【0060】
本実施例においては、実施例1で第1糖化段階(希硫酸処理)を行って得られた残渣(セルロース49%、リグニン他51%)を用いて、アルカリ処理の最適pHを求めた。200mL培養ビン11本を用意し、これに希硫酸処理後の残渣を各々5gずつ入れた。さらに、10%水酸化ナトリウム水溶液で所定のpHに調整したアルカリ水溶液(pH8.5〜13.5)を100mLずつ入れ、3時間常温で撹拌混合を行った。その後、終濃度が1%濃度となるように過酸化水素をそれぞれの培養ビンに注入し、さらに12時間保持した。
【0061】
反応終了後の残渣を固液分離し、pH4.8の酢酸緩衝液に混合しセルラーゼ処理を行った。なお、セルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)の添加量は乾燥残渣重量当たり15FPU/gである。またセルラーゼ添加後の反応温度は40℃であり、144時間攪拌混合した。終了後、液中のグルコースをGPCで定量しセルロースからの糖化収率を求めた。
【0062】
図5に、前処理に用いたアルカリ水溶液のpHと糖化収率(セルロース換算)との関係を示す。アルカリ水溶液のpHによって糖化の収率が大きく左右された。特に、pH9.5以上から糖化収率の向上が確認された。
【0063】
既往技術である希硫酸によるセルロース糖化では、糖化収率が30〜35%であることから、本発明においては、pH10〜13のアルカリ水溶液を用いることによって、希硫酸法を上回る効率で単糖を生成させることができる。
【実施例3】
【0064】
本実施例においては、実施例1で第1糖化段階(希硫酸処理)を行って得られた残渣(セルロース49%、リグニン他51%)を用いて、過酸化水素水の影響を調べた。200mL培養ビン9本を用意し、これに希硫酸処理後の残渣を各々5gずつ入れた。さらに、苛性ソーダでpH12に調整したアルカリ水溶液を100mLずつ入れ、3時間常温で撹拌混合を行った。その後、31%過酸化水素水を用いて各々終濃度が0%、0.1%、0.3%、0.5%、0.8%、1.0%、2.0%、5.0%、10.0%濃度となるようにそれぞれの培養ビンに注入し、さらに12時間保持した。
【0065】
反応終了後の残渣を固液分離し、pH4.8の酢酸緩衝液に混合しセルラーゼ処理を行った。なお、セルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)の添加量は乾燥残渣重量当たり15FPU/gである。またセルラーゼ添加後の反応温度は40℃であり、144時間攪拌混合した。終了後、液中のグルコースをGPCで定量しセルロースからの糖化収率を求めた。
【0066】
図6に、前処理に用いた過酸化水素の濃度と糖化収率(セルロース換算)との関係を示す。過酸化水素を添加しない条件では、セルラーゼのみの反応で23%の糖化収率であったが、前処理として過酸化水素を注入することによって糖化収率が急激に向上した。また、1%以上の条件では糖化収率がほぼ同様であった。
【0067】
前述のように、既往技術である希硫酸によるセルロース糖化では、糖化収率が30〜35%であることから、本発明において用いる過酸化水素濃度は0.1%以上であれば、希硫酸法を上回る効率で単糖を生成させることができる。
【実施例4】
【0068】
本実施例においては、希硫酸処理を行って得られた残渣(セルロース47%、リグニン他53%)を用いて、アルカリ処理後の固液分離の有無が処理効率に及ぼす影響を調査した。
【0069】
200mL培養瓶に希硫酸処理後の残渣を乾燥重量で10gになるように添加した後、スラリー濃度が10%になるように3%苛性ソーダを添加し、3時間常温にて攪拌混合を行った。その後、乾燥残渣当たりの過酸化水素添加量が20〜315mg-H2O2/g-dry matterになるように31%過酸化水素水を所定量加え、12時間保持した(プロセス1)。また、アルカリ処理後に固液分離を行い、全量回収した残渣(二次残渣)に対して、3%苛性ソーダ及び31%過酸化水素水を添加し、攪拌混合させる系(プロセス2)も同時に行った。尚、この実験系の過酸化水素添加量は、50〜150mg- H2O2/g-dry matterである。
【0070】
反応終了後の残渣は、固液分離し、pH4.8の酢酸緩衝液に混合しセルラーゼ処理を行った。尚、セルラーゼ(ジェネンコア社製GC220)の添加量は、乾燥残渣重量当たり15FPU/gである。またセルラーゼ添加後の反応温度は、40℃であり144時間攪拌混合した。反応終了時には、溶液中のグルコース濃度をGPCにて定量し、セルロースからの糖化収率を求めた。
【0071】
図7に本実施例で実施したプロセス1による過酸化水素の添加量と糖化率との関係、及びプロセス2による過酸化水素の添加量と糖化率との関係を示す。図7に示すように、プロセス1に対し、プロセス2では少量の過酸化水素で高い糖化率を達成することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、安価かつ効率的な木質系バイオマスの糖化方法が提供される。本糖化方法によれば、木質系バイオマスに含まれるヘミセルロース、セルロースの糖化収率を大幅に向上させることができるだけでなく、常温常圧での反応であるため、省エネルギーでの処理ができる。また、本糖化方法の各工程においてはアルカリ又は酸化剤の濃度が低いため設備の簡素化と設備運転上の安全性も高い。さらに本発明によりエタノールの製造方法が提供されるが、本エタノール製造方法では木質系バイオマスから効率的にエネルギーに変換することができ、資源の再利用に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る糖化方法及び前処理工程の基本フローを示す。
【図2】糖化方法の適用例を示す。
【図3】糖化方法及びエタノール製造方法の適用例を示す。
【図4】糖化方法及びエタノール製造方法の別の適用例を示す。
【図5】アルカリ水溶液のpHと糖化収率との関係を示すグラフである。
【図6】過酸化水素水濃度と糖化収率との関係を示すグラフである。
【図7】過酸化水素の添加量と糖化率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、
木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、
該残渣をアルカリ水溶液と混合し、次いで活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行う
ことを特徴とする木質系バイオマスの酵素糖化の前処理方法。
【請求項2】
加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、
木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、
該残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行う
ことを特徴とする木質系バイオマスの酵素糖化の前処理方法。
【請求項3】
加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、
木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、
該残渣をアルカリ水溶液と混合し、次いで活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、
得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理を行う
ことを特徴とする木質系バイオマスの糖化方法。
【請求項4】
加水分解処理及び酵素処理を行う木質系バイオマスの糖化において、
木質系バイオマスを加水分解し、得られる反応物を一次糖液と残渣に分離した後、
該残渣をアルカリ水溶液と混合して得られた混合物を固液分離し、得られた二次残渣をアルカリ性に保持した状態で、活性酸素を生成する酸化剤と混合する前処理工程を行い、
得られる混合物の固形分にセルラーゼ酵素処理を行う
ことを特徴とする木質系バイオマスの糖化方法。
【請求項5】
加水分解を希硫酸を用いて行う、請求項1〜4いずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
残渣をpH10〜13のアルカリ水溶液と混合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
残渣をアルカリ水溶液と常温で混合する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
活性酸素を生成する酸化剤が過酸化水素である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
過酸化水素が0.1%以上の過酸化水素である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
固形分にセルラーゼ酵素処理を行って二次糖液を得るものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
固形分にセルラーゼ酵素処理及びエタノール発酵処理を行ってエタノールを生成するものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該残渣とアルカリを混合した後、活性酸素を生成する酸化剤を混合するまでの時間を1時間〜30時間としたことを特徴とする請求項1又は3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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