説明

木造建築の既存基礎の改修工法

【課題】木造建築の既存の基礎を布基礎に容易に改修できるようにした木造建築の既存基礎の改修工法を提供する。
【解決手段】既存の玉石基礎9より上の建物本体をジャッキで支え、既存の玉石基礎9を撤去する工程と、アンカーボルト3を備えた布基礎1を新たに構築し、当該布基礎1の上に土台2を新たに敷設する工程と、当該土台2を布基礎1の上にアンカーボルト3によって固定する工程とからなる。アンカーボルト3は定着ボルト5と連結ボルト6と定着ナット7とから構成する。定着ボルト5は布基礎1を構築する際に布基礎1内に埋設する。連結ボルト6は土台2を布基礎1の上に敷設した後、土台2に形成したアンカーボルト挿入孔2aに挿入し、定着ボルト5と結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木造建築の既存基礎の改修工法に関し、主として古民家や神社・仏閣の既存基礎を布基礎に改修する際に適用される。
【背景技術】
【0002】
一般に、古民家や神社・仏閣などいった日本古来の木造建築の軸組は、例えば図6(a)に図示するように、玉石基礎や敷石基礎10の上に柱11を直に建て付け、各柱11,11間に大引き12、貫13、梁14をそれぞれ架け渡すことにより構成され、特に基礎には玉石基礎や敷石基礎などの独立基礎が用いられている。
【0003】
また、近年、木造住宅の基礎には、図6(b)に図示するような布基礎が用いられ、布基礎15の上に敷設された土台16は、アンカーボルト17によって布基礎15に固定されている。
【0004】
アンカーボルト17は布基礎15の上に突設され、かつ土台16に形成されたアンカーボルト挿入孔16aに挿通され、そして当該アンカーボルト挿入孔16aより土台16の上に突出した部分に固定ナット18が締め付けられている。
【0005】
ところで、こうした木造建築は、長年の経過と共に一般に湿気の多い床下の基礎付近から傷み出し、特に玉石基礎や敷石基礎の上に構築されている古民家や神社・仏閣などの床下部分は、柱が浮き上がったり踏み外したりして建物全体の崩壊を招くおそれがあり、このためほぼ確実に改修を行なっている。
【0006】
またその際、改修と同時に既存の基礎を布基礎に入れ替え、かつ新たに土台を入れて耐震化を図ることがある。また、布基礎の上に構築された既存の木造住宅についても、地盤沈下などで基礎の改修を必要とする場合がある。
【0007】
従来、こうした木造建築の既存基礎の改修は、特に古民家の場合、建物の基礎より上の部分をジャッキで支えて既存の基礎を撤去し、その後新たに布基礎を構築し、さらにその上に新たに土台を敷設し、そして新たに敷設した土台の上に建物を戻す方法によって行なわれ、特に土台はアンカーボルトによって布基礎に固定している。
【0008】
しかし、新たに構築された布基礎の上に土台を敷設する際、ジャッキで支えた既存の建物が障害になるため、土台は横方向から布基礎の上に敷設することになるが、布基礎の上にはアンカーボルトが突設されているため、布基礎の上に土台を敷設できないだけでなく、土台のアンカーボルト挿入孔にアンカーボルトを挿入することもできない。
【0009】
そこで従来は、土台に側部から軸芯にかけてアンカーボルト挿入用の溝を設け、土台の上に突設されたアンカーボルトは土台の横方向からアンカーボルト挿入用の溝に挿入していた。
【0010】
【特許文献1】特開2007−138520号公報
【特許文献2】特開2007−255036号公報
【特許文献3】特開2007−9417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、土台に上記するようなアンカーボルト挿入の溝を設けると、土台の強度低下が免れないだけでなく、この強度低下を補うために土台を補強金物によって補強する必要があった。
【0012】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、木造建築の既存基礎を布基礎に容易に改修できるようにした木造建築の既存基礎の改修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の木造建築の既存基礎の改修工法は、基礎より上の建物本体をジャッキで支え、既存の基礎を撤去する工程と、アンカーボルトを備えた布基礎を新たに構築し、当該布基礎の上に土台を新たに敷設する工程と、当該土台を前記布基礎の上に前記アンカーボルトによって固定する工程とからなる木造建築の既存基礎の改修工法であって、前記アンカーボルトを定着ボルトと連結ボルトとから構成し、前記定着ボルトは前記布基礎を構築する際に布基礎内に埋設し、前記連結ボルトは前記土台を前記布基礎の上に敷設した後、前記土台に形成したアンカーボルト挿入孔に挿入し、前記定着ボルトと結合することを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、古民家などの木造建築の基礎より上の建物本体をジャッキで支え、既存の基礎を布基礎に改修する際、特にアンカーボルトを布基礎内に埋設される定着ボルトと布基礎の上に突出される連結ボルトとから構成し、定着ボルトは布基礎を構築する際に布基礎内に予め埋設し、連結ボルトは布基礎を新たに構築し、その上に土台を敷設した後、土台のアンカーボルト挿入孔に挿入し、定着ボルトと結合することにより既存の基礎を布基礎に容易に改修できるようにしたものである。
【0015】
定着ボルトと連結ボルトはネジ式カプラー(長ナット)等を介して後から連結できるようにしたものでよく、またネジ式カプラーと定着ボルトは一体に形成されていてもよい。
【0016】
請求項2記載の木造建築の既存基礎の改修工法は、請求項1記載の木造建築の既存基礎の改修工法において、定着ボルトにネジ式カプラーを介して連結ボルトを結合することを特徴とするものである。本発明によれば、定着ボルトに連結ボルトを容易に結合することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、古民家などの木造建築の基礎より上の建物本体をジャッキで支え、既存の基礎を布基礎に改修する際、特にアンカーボルトを布基礎内に埋設される定着ボルトと布基礎の上に突出される連結ボルトとから構成し、定着ボルトは布基礎を構築する際に布基礎内に予め埋設し、連結ボルトは布基礎を新たに構築し、その上に土台を敷設した後、土台のアンカーボルト挿入孔に挿入し、定着ボルトと結合することで、既存の基礎を布基礎に容易に改修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1−3は本発明の一実施形態を示し、改修された古民家の基礎部を示したものである。
【0019】
図において、符号1は新たに構築されたRC構造の布基礎、2は布基礎1の上に新たに敷設された木造の土台、3は布基礎1の上に新たに突設され、土台2を布基礎1の上に固定しているアンカーボルト、そして、符号4は、土台2の上に建て付けられた既存の木造の柱である。
【0020】
アンカーボルト3は、布基礎1のコンクリート内に鉛直に埋設された定着ボルト5と、定着ボルト5から上方に鉛直に突設され、土台2のアンカーボルト挿入孔2aを貫通する固定ボルト6と、固定ボルト6の上端部に締め付けられた固定ナット7とから構成されている。
【0021】
定着ボルト5は軸部5aと軸部5aの上端部に突設されたナット部5bとから構成され、ナット部5bの上端は布基礎1の上端面に開口している。
【0022】
なお、軸部5aとナット部5bは一体に形成されていてもよく、あるいは軸部5aの端部とナット部5bがねじ式によって後から結合できるように形成されていてもよい。
【0023】
また、定着ボルト5は布基礎1を構築する際、配筋された基礎補強筋(図省略)に仮付けされ、基礎コンクリートを打設することにより布基礎1のコンクリート内に予め埋設されている。
【0024】
固定ボルト6は、少なくとも下端部と上端部にそれぞれ雄ねじ部6a、6bを有する長ボルトから形成されている。また、固定ボルト6は土台2に形成されたアンカーボルト挿入孔2aに真上から鉛直に挿入され、下端部の雄ねじ6aを定着ボルト5のナット部5bに螺合することにより定着ボルト5と一体に結合されている。
【0025】
そして、土台2のアンカーボルト挿入孔2aの上端部に突出した雄ねじ部6bに固定ナット7が締め付けられている。こうして、布基礎1の上に新たに敷設された土台2が固定され、そして土台2の上に既存の柱4が建て付けられている。
【0026】
図3は、既存の基礎がベタ基礎に改修された例を示し、この場合、定着ボルト5の定着長さを一定長に確保する必要があることから、定着ボルト5の軸部5aはL字状に折り曲げられ、水平部分がベタ基礎8内に水平に埋設されている。
【0027】
次に、本発明に係る既存基礎の改修工法の手順を、図4と図5に基づいて説明する。
【0028】
(1) 最初に、既存の建物の、玉石基礎9より上の軸組をジャッキで支える。この場合、改修後の建物の床高にもよるが、改修後の床高を改修前の床高と同一にするときは、玉石基礎9の上に建て付けられた柱4の下端部が玉石基礎9の上から若干浮く程度にジャッキで支えればよい。
【0029】
なお、軸組を支えるジャッキには油圧ジャッキまたはねじ式ジャッキ等の従来のジャッキを用いることができる。
【0030】
(2) 次に、各柱4の下端部をカットする。この場合、カットした分の長さ(高さ)Lと新たに敷設する土台の断面寸法を考慮して布基礎1の高さHを決めることにより、床高を改修前の床高とほぼ同一にすることができる。
【0031】
(3) 次に、必要により玉石基礎9を撤去し、その後にRC構造の布基礎1を新たに構築する。その際、布基礎1の補強鉄筋(図省略)を配筋した後、基礎コンクリートを打設する前に、アンカーボルト3を設置する位置にアンカーボルト3の定着ボルト5を基礎鉄筋に溶接する等して仮付けする。
【0032】
そして、基礎型枠を組み立て、コンクリートを打設する。なお、基礎のコンクリートを打設する際、定着ボルト5のナット部5aがコンクリート内に埋め込まれないようにネジ孔をキャップ等で塞いでおくのが望ましい。なお、玉石基礎9を撤去しないときは、玉石基礎9は布基礎1の一部として利用する。
【0033】
(4) 次に、布基礎1の上に土台2を新たに敷設する。その際、布基礎1の上側には既存の柱4がジャッキで支えられた状態にあるので、土台2は横方向から布基礎1の上に敷設する。そして、土台2に形成されたアンカーボルト挿入孔2aと定着ボルト5のナット部5aとを一致させる。
【0034】
(5) 次に、土台2のアンカーボルト挿入孔2aに固定ボルト6を挿入し、下端部の雄ねじ6aをナット部5bと螺合して定着ボルト5に固定ボルト6の下端部を連結する。そして、土台2のアンカーボルト挿入孔2aから突出した固定ボルト6の雄ねじ6bに固定ナット7を締め付ける。
【0035】
(6) 次に、ジャッキで支えておいた既存の軸組を土台2の上に戻し、土台2と結合する。
【0036】
なお、(1)〜(6)の一連の作業を、一定区間ごとに分けて行なうことにより、基礎の改修工事をきわめて効率的に行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、古民家などの木造建築の既存の基礎を布基礎に容易に改修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】古民家などの改修後の基礎部を示し、(a)は一部正面図、(b)は(a)におけるイ−イ線断面図である。
【図2】アンカーボルトの正面図である。
【図3】改修後の基礎部を示す断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、施工手順を示す基礎部の断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、施工手順を示す基礎部の断面図である。
【図6】(a)は、古民家の軸組を示す一部正面図、(b)は布基礎の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 新たに構築されたRC構造の布基礎
2 新たに敷設された土台
3 アンカーボルト
4 既存の柱
5 定着ボルト
6 固定ボルト
7 固定ナット
8 新たに構築されたベタ基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎より上の建物本体をジャッキで支え、既存の基礎を撤去する工程と、アンカーボルトを備えた布基礎を新たに構築し、当該布基礎の上に土台を新たに敷設する工程と、当該土台を前記布基礎の上に前記アンカーボルトによって固定する工程とからなる木造建築の既存基礎の改修工法であって、前記アンカーボルトを定着ボルトと連結ボルトとから構成し、前記定着ボルトは前記布基礎を構築する際に布基礎内に埋設し、前記連結ボルトは前記土台を前記布基礎の上に敷設した後、前記土台に形成したアンカーボルト挿入孔に挿入し、前記定着ボルトと結合することを特徴とする木造建築の既存基礎の改修工法。
【請求項2】
連結ボルトはネジ式カプラーを介して定着ボルトと結合することを特徴とする請求項1記載の木造建築の既存基礎の改修工法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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