説明

未熟児合併症の治療及び/又は予防の方法と製品

本発明は、早産、極早産及び/又は超早産の合併症を罹患している患者の治療に使用するための、インスリン様成長因子I(IGF−I)又はその類似体をインスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)又はその類似体と組み合わせて含む組成物であって、該組み合わせが等モルより低い、好ましくは1:20〜1:3.33の範囲にあるIGF−I対IGFBPのモル比を有する組成物、並びに早産、極早産及び/又は超早産の合併症を罹患している患者を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、早産及び低出生体重の合併症、及び循環IGF−I及び/又はIGFBP−3の低血清レベルに関連する合併症の発症のリスクを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国における毎年推定4.3百万人の生児出生のうち、約87,000人(約2.1%)は、32週未満の在胎期間として定義される極早産(very prematurely)である。ヨーロッパでは、妊娠32週未満の早産の発生率は、10,000人の住民中1.2%であると推定されている。従ってEU25内の450百万人の住民では、妊娠32週未満の早産の発生率は、1年当り54,000児と予想される。切迫早産及びその合併症は、今日の先進社会において主要な周産期の公衆衛生問題である。低出生体重児及び早産児は、子宮内での成長の臨界期の一部又は全部を欠いている。それらは全乳児死亡の半分及び長期罹患率の3/4を占めている。新生児期の及び生存児の生涯にわたる、双方の高額な特別ケアに因り、それらは国民経済へ重い負担を課している。また、多くの生存児は、未熟児に直接起因する身体的障害故にクオリティオブライフを損なっている。
【0003】
正常妊娠又は妊娠期間の長さは受胎日から40週(280日)と考えられている。在胎37週未満で出生した新生児は早産とされ、そして合併症のリスクがあり得る。在胎32週満了未満で出生した新生児は極早産(very preterm)とされ、そして在胎28週満了未満で出生した新生児は超早産(extremely preterm)とされている。医療技術の進歩は、在胎期間23週(17週早産)の若さで出生した新生児を生存可能にしている。早産で出生した新生児は、その低出生体重及びその体組織の未熟に因り死亡又は重篤な合併症の危険性が高い。2,500gのカットオフで定義される低出生体重は、それが出生前リスクファクター、分娩時合併症及び新生児疾患と相関し、そして主として早産で構成されることから、ハイリスク新生児のマーカーとしての機能を果たす。超低出生体重に関する研究によって、超未熟児に関連して高率で重度の呼吸器及び神経系合併症を伴う新生児を、最も危険性が高い新生児と特定するカットオフが、1,500g未満又は1,000g未満として定義された。
【0004】
肺、消化器系、及び神経系(脳を含む)は未熟児では未発育であり、これらが特に合併症を起こし易い。早産児に見られる最も多い医学的問題は、発達遅滞、精神発達遅滞、気管支肺異形成、脳室内出血及び未熟児網膜症である。早産児がその自然環境を奪われた場合、子宮内で普通に見られるタンパク質、成長因子及びサイトカインなどの重要な因子を失う。インスリン様成長因子1(IGF−I)はそのような因子の1つであるが、他にもあり得る。
【0005】
インスリン様成長因子I(IGF−I)は、出生後成長及び代謝のよく知られた調節因子である。これは約7.5キロダルトン(kDa)の分子量を有する。IGF−Iは、そのような成長因子による細胞の処理がIGF−Iの産生増加をもたらすことから、様々な他の成長因子の作用に関与している。しかしながら、胎内成長及び発育におけるその役割は極く最近になって認識された。IGF−I-/-マウスで得られた実験データは、IGF−Iが胚発生の妊娠第3期と幾つかの組織における発育で重要な役割を果たすことを示唆する。マウスでのIGF−I-/-データの裏づけとして、IGF−I遺伝子における遺伝子欠損でホモ接合型の患者は、胎内成長及び中枢神経系発育の障害を呈することが示された。
【0006】
IGF−Iはインスリン様活性を有し、そして細胞分裂促進性(細胞分裂を刺激する)であり、及び/又は神経、筋肉、生殖、骨格及び他の組織において細胞栄養性(回復/生存を促進する)である。殆どの成長因子と異なり、IGFは血中に相当量で存在しているが、血中及び/又は他の体液中では極少量の本IGFしか遊離していない。大部分の循環IGFはIGF結合タンパク質のIGFBP−3に結合している。IGF−Iは、異常成長関連状態、例えば脳下垂体性巨人症、末端肥大症、小人症、種々の成長ホルモン欠損症等を診断するために血清で測定し得る。IGF−Iは多くの組織で産生されるが、大部分の循環IGF−Iは肝臓で合成されると考えられている。ヒト胎児血清では、IGF−Iレベルは比較的低く、そして在胎期間及び出生体重と正の相関を有する。殆どすべてのIGFは、IGF−I、IGFBP−3、及び酸不安定性サブユニット(ALS)と称する巨大タンパク質サブユニットから構成される非共有結合性三元複合体で循環する。IGF−I/IGFBP−3/ALS三元複合体は、各々等モル量の3成分から構成される。ALSは直接的なIGF結合活性を有しておらず、IGF−I/IGFBP−3二元複合体に対してだけ結合するように見える。IGF−I/IGFBP−3/ALS三元複合体は、約150kDaの分子量を有する。この三元複合体は、「IGF−Iが遊離IGFの急速な濃度変化を防止するためのリザーバ及びバッファーとして」循環中で機能していると考えられている。過剰の遊離IGF−IはIGFBPの生物活性をダウンレギュレートし得ることが示されていおり;従って、IGFBPの活性低下もまた、高用量IGF−Iの効果の欠如の一因となり得る。健常な小児及び成人での初期の研究では、IGF−I/IGFBP複合体の半減期は血漿中でおおよそ12〜15時間であることが見出されている。IGFBP−3は循環中で最も豊富なIGF結合タンパク質であるが、少なくとも5種の異なるIGF結合タンパク質(IGFBP)が種々の組織及び体液で同定されている。これらのタンパク質はIGFと結合するが、それらは各々別個の遺伝子を起源とし、特有のアミノ酸配列を有する。このように、それらの結合タンパク質は、共通の前駆体の単なる類似体でもなければ誘導体でもない。IGFBP−3と異なり、循環中の他のIGFBPはIGFで飽和されていない。その上、IGFBP−3以外のIGFBPは、いずれも150kDaの三元複合体を形成し得ない。血漿中のIGF−I/IGFBP−3比は、非タンパク質結合のIGF−Iのアベイラビリティの推定値として使用されており、その比の増加は遊離生物活性IGF−Iのアベイラビリティ増加を示唆する。生後1か月時点のより高いIGF−I/IGFBP−3比は、満期産児に比べて中等度早産児のより高い成長速度と関連している。しかしながら、極早産及び超早産で生まれた乳児における生後1か月間のIGF−I及びIGFBP−3測定からの結論は、病的状態(即ち、ROP)と健康な乳児間のIGF−I/IGFBP−3比に差を示さなかった。
【0007】
IGF−I及びIGFBP−3は天然源から精製するか又は組み換え手段により生産することができる。例えば、ヒト血清からのIGF−Iの精製は当該技術分野でよく知られている。組み換え方法によるIGF−Iの産生は、1984年12月に公開された特許文献1に示されている。IGFBP−3は、Baxterら(非特許文献1)に示されるような方法を用いて天然源から精製することができる。或いは、IGFBP−3は、非特許文献2に論じられているように組み換え法により合成し得る。組み換えIGFBP−3は、1:1のモル比でIGF−Iと結合する。
【0008】
胎児期間に、これらの要素は胎盤吸収又は羊水(AF)からの摂取を通して導入される。これらの因子の欠乏は重要な経路の阻害又は不適切刺激を引き起こす可能性があり、目の場合には、これは未熟児網膜症(ROP)の特徴である網膜血管生長異常を引き起こす可能性がある。
【0009】
どのような因子が早産で失われるかを理解すること、及びそれらのROP発症に及ぼす影響を評価することも、他の臓器系(脳、肺、腸、及び骨)の成長と発達にとって非常に大きな意義を有すると考えられる。消失因子の補充は、全体の発達を改善させるように見える。従って、この分野の研究は、未熟児の正常発達に及び/又は早産の多くの合併症の予防に非常に重要なものである。
【0010】
ROPは、後期ROPの最新の治療にもかかわらず、先進の及び発展途上の世界の小児の失明の主因となっている。発展途上国は新生児及び母体の集中治療をより多く提供するにつれて、ROPの発生率は増加している。網膜のレーザー光凝固術又は凍結療法などのアブレーション治療は、後期疾患において失明の発生率を25%低減するが、治療後の視力予後はしばしば不良である。ROPの予防的療法が明らかに好ましい。
【0011】
網膜血管の発達は妊娠4か月の間に始まり、そして出産まで完結しない。従って、早産で出生した新生児は末梢の無血管帯を有する不完全な血管化網膜を有し、その領域は在胎期間に依存する。乳児の成熟とともに、結果として生じる非血管化網膜は、ますます代謝が活性に、そして低酸素状態になる。ROPの低酸素誘発網膜血管新生(NV)期は、糖尿病性網膜症などの他の増殖性網膜症に類似している。
【0012】
1950年代初期の増殖性糖尿病性網膜症患者の研究では、下垂体アブレーションは網膜症の完全寛解をもたらし、成長ホルモン(GH)又はGH軸における特定の因子が網膜症の発生に重要な役割を担うことを示した。GHはマウスモデルの網膜症に重要なことが示された。加えて、ROPマウスモデルの実験研究では、IGF−I受容体アンタゴニストが網膜血管新生を抑制することが見出されるということを実証した。IGF−Iは、少なくとも部分的にp44/42MAPK(キナーゼインヒビター)の血管内皮増殖因子(VEGF)活性化の制御を介して網膜NVを調節し、IGF−IとVEGF受容体間の階層的関係を確立している。これらの研究は、血管形成におけるIGF−Iの重要な役割を証明する。IGF−Iは、新しい血管増殖の最大VEGF刺激を可能にするように寛容的に作用する。低レベルのIGF−IはVEGFの存在にもかかわらず血管増殖を阻害する。従って、ROPの発症に重要な非低酸素調節因子の1つになる可能性がある(非特許文献3)。
【0013】
VEGFの役割と同様に、IGF−Iは網膜血管の正常な発達に重要なことが示されている(非特許文献4)。IGF−Iレベルは、一部胎盤及び羊水によりもたらされたIGF−Iの減少に因り、出生後子宮内レベル以下に下がる。IGF−Iは正常な網膜血管発生に重要なこと、そして新生児初期のIGF−Iの欠損は、血管増殖の欠如及びそれに続く増殖性ROPに関連すると仮定されている。IGF−Iノックアウトマウス(IGF−I−/−)では、IGF−Iが正常な血管増殖に重要であるかを明らかにするために、正常な網膜血管発生が調べられた。網膜血管は、正常マウスよりもIGF−I−/−マウスで成長が遅く、そのパターンはROPの未熟児で見られるものに類似していた。これらの所見はROP患者で確認された(非特許文献4、5)。
【0014】
早産及び低出生体重の合併症発症のリスクを測定すること、及び当該合併症の治療法に一般的に関係した前の特許出願(特許文献2)では、これらの合併症は低レベルのIGF−Iに関連している。その治療的アプローチにより、患者へのIGF−Iの投与による未熟児合併症の治療で患者のIGF−Iの血清レベルが子宮内ベースラインレベルまで上昇することが示唆された。該発明の治療方法の1つによれば、IGF−Iを、IGF−Iを結合する能力がある追加タンパク質と組み合わせたIGF−Iを含む組成物で投与することができ、そしてこのような結合タンパク質がIGF−I結合タンパク質3(IGFBP−3)であることが提案されている。更に、等モル量のIGF−I及びIGFBP−3を含む組成物が使用し得ることが示唆されている。
【0015】
特許文献3では、IGF−I及びIGFBP−3の皮下ボーラス注射による共投与(co-administration)が、一般的に約0.5:1〜3:1のIGFBP−3とIGF−Iのモル比(又はモル比を本発明において特許請求したモル比と比べる場合、本出願全体のIGF−I/IGFBP−3で表すと、特許文献3に記載された対応モル比は1:0.5〜1:3になる)になると示唆されている。この発明者らは治療に使用しようとする混合物が、個々の患者の臨床状態(認識された若しくは予想されたいずれの側面、又はIGF−Iを単独で使用する際の同化作用低下、特定の成長欠陥又は補正すべき異化状態、使用される特定のIGFBP、混合物のデリバリー部位、及び医師に公知の他の要因を含む)を考慮しながら、適正診療規範(good medical practice)に合致する方法で処方し投与すべきことを述べている。様々なモル比のIGF−IとIGFBP−3の組成物の更なる製造方法は先行技術から公知である。しかしながら、特定比の範囲で2つの成分を組み合わせて投与することの有益な効果は、この文献には記載されていない。特に、発明者らの知る限りでは、どのようなIGF−Iによる方法が、残された人生の間ハンディキャップをもたらす明らかなリスクとなる未熟児の治療の最も効率的な方法を提供することが期待されるかについて、先行技術にはいかなる教示も又は示唆も存在しない。
【0016】
未熟児合併症についての理解がますます増進しつつあるにもかかわらず、早産死が今なお標準的な状態であるように、現在のところ利用可能で有効な治療法、又はこれらの致死的状態を発症するリスクを測定する方法は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】欧州特許第0128733号
【特許文献2】米国特許出願第2004/0053838号
【特許文献3】米国特許第5187151号(Genentech)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Baxter et al.1986, Biochem. Biophys. Res. Comm. 139:1256-1261
【非特許文献2】Sommer et al., pp. 715-728, インスリン様成長因子の近代的概念(MODERN CONCEPTS OF INSULIN-LIKE GROWTH FACTORS)(E. M. Spencer, ed., Elsevier, New York, 1991)
【非特許文献3】L.E. Smith, W. Shen, C. Perruzzi et al., インスリン様成長因子−1受容体による血管内皮増殖因子依存性網膜新生血管の調節(Regulation of vascular endothelial growth factor-dependent retinal neovascularization by insulin-like growth factor- 1 receptor), Nat Med 5 (1999), pp. 1390-1395
【非特許文献4】Hellstrom, C, Perruzzi, M. Ju et al., 低IGF−Iは網膜内皮細胞のVEGF生存シグナル伝達を抑制する:未熟児の臨床的網膜症との直接相関(Low IGF-I suppresses VEGF-survival signaling in retinal endothelial cells: direct correlation with clinical retinopathy of prematurity), Proc Natl Acad Sci U S A. 98 (2001), pp. 5804-5808
【非特許文献5】Hellstroem A, Engstrom E, Hard A-L, et al., 出生後血清IGF−I欠乏は未熟児網膜症及び他の早産小児科合併症に関与している(Postnatal serum IGF-I deficiency is associated with retinopathy of prematurity and other complications of premature birth pediatrics), Pediatrics 2003; 112: 1016-1020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、早産、極早産及び/又は超早産の合併症を罹患している患者の治療に使用するための、インスリン様成長因子1(IGF−I)又はその類似体をインスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)又はその類似体と組み合わせて含む、新しい組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
特に、本発明は、早産、極早産(very preterm-birth)及び/又は超早産(extremely preterm birth)の合併症を罹患している患者の治療に使用するための、インスリン様成長因子I(IGF−I)又はその類似体をインスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)又はその類似体と組み合わせて含む組成物であって、該組み合わせが、等モルより低い、好ましくは1:20〜1:3.33の範囲のIGF−I対IGFBPのモル比を有する組成物に関する。
【0021】
その好ましい実施態様において、IGF−I対IGFBPのモル比は1:20〜1:4、好ましくは1:15〜1:5、より好ましくは1:12〜1:8の範囲である。
【0022】
その好ましい実施態様において、組成物は、患者の在胎期間に対応するモル比を有する血清中濃度を達成するために、そのIGFBP含量に関して連続的に調整される。
【0023】
その好ましい実施態様において、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)は、IGFBP−3又はその類似体である。
【0024】
その好ましい実施態様において、IGF−Iの用量範囲は、24時間当り5〜450μg/kgである。
【0025】
その好ましい実施態様において、早産、極早産及び/又は超早産の合併症は、IGF−I及び/又はIGFBP−3の低循環レベルに関連する状態である。
【0026】
その好ましい実施態様において、早産、極早産及び/又は超早産の合併症は、発達遅滞、精神発達遅滞、気管支肺異形成、脳室内出血及び未熟児網膜症(ROP)を含む群からの1つである。
【0027】
その好ましい実施態様において、早産(preterm birth)の合併症は未熟児網膜症(ROP)である。
【0028】
その好ましい実施態様において、早産、超早産及び/又は極超早産の前記合併症は、患者の在胎期間の正常レベルに対応する子宮内レベルの基準以下のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを有する患者によって示される。
【0029】
その好ましい実施態様において、使用は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮下(SC)、腹腔内(IP)、鼻腔内、微小透析及び吸入治療を含む。
【0030】
その好ましい実施態様において、使用は、皮下、静脈内又は経口治療を含む。
【0031】
その好ましい実施態様において、使用は、静脈内治療を含む。
【0032】
その好ましい実施態様において、治療は生後5日以前に、好ましくは生後4日以前に、より好ましくは生後3日以前に、最も好ましくは生後2日以前に開始される。
【0033】
その好ましい実施態様において、IGF−I類似体はrhIGF−Iであり、そしてIGFBP−3類似体はrhIGFBP−3である。
【0034】
本発明の更なる側面は、有効量のIGF−I又はその類似体をIGF−I結合タンパク質3(IGFBP−3)又はその類似体と組み合わせて、子宮内基準以下のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを有する患者に投与することを含む、早産合併症の発症から患者を予防する方法であって、ここで患者の在胎期間の正常レベルに対応する子宮内レベルに患者のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを上げるために、IGF−I対IGFBPのモル比は等モルより低く、好ましくは1:20〜1:3.33の範囲である、方法に関する。
【0035】
その好ましい実施態様において、IGF−I対IGFBPのモル比は、1:20〜1:4、好ましくは1:15〜1:5、より好ましくは1:12〜1:8の範囲である。
【0036】
その好ましい実施態様において、組成物は、患者の在胎期間に対応するモル比を有する血清中濃度を達成するために、IGFBPのその含量に関して連続的に調整される。
【0037】
その好ましい実施態様において、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)は、IGFBP−3又はその類似体である。
【0038】
その好ましい実施態様において、IGF−Iの用量範囲は、24時間当り5〜450μg/kgである。
【0039】
その好ましい実施態様において、早産、極早産及び/又は超早産の合併症は、IGF−I及び/又はIGFBP−3の低循環レベルに関連する状態である。
【0040】
その好ましい実施態様において、早産、極早産及び/又は超早産の合併症は、発達遅滞、精神発達遅滞、気管支肺異形成、脳室内出血及び未熟児網膜症(ROP)を含む群からの1つである。
【0041】
その好ましい実施態様において、早産(preterm birth)の合併症は未熟児網膜症(ROP)である。
【0042】
その好ましい実施態様において、早産、極早産及び/又は超早産の前記合併症は、患者の在胎期間の正常レベルに対応する子宮内レベルの基準以下のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを有する患者によって示される。
【0043】
その好ましい実施態様において、使用は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮下(SC)、腹腔内(IP)、鼻腔内、微小透析及び吸入治療を含む。
【0044】
その好ましい実施態様において、使用は、皮下、静脈内又は経口治療を含む。
【0045】
その好ましい実施態様において、使用は、静脈内治療を含む。
【0046】
その好ましい実施態様において、治療は生後5日以前に、好ましくは生後4日以前に、より好ましくは生後3日以前に、最も好ましくは生後2日以前に開始される。
【0047】
その好ましい実施態様において、IGF−I類似体はrhIGF−Iであり、そしてIGFBP−3類似体はrhIGFBP−3である。
【0048】
定義
「早期産」又は「早産」又は「未熟児」は、妊娠40週より前での、又は患者の在胎期間の平均より10%小さい体重での、患者の出生を示す。
【0049】
「極早産(very preterm birth)」は在胎32満了週未満で出生した乳児を示す。
【0050】
「超早産(extremely preterm birth)」は在胎28満了週未満で出生した乳児を示す。
【0051】
「IGF−I」は、天然配列又は変異体の、ウシ、ヒツジ、ブタ及びヒトを含み、天然に存在する対立遺伝子多型を含むがこれに限定されない、任意の種由来のインスリン様成長因子Iをいう。IGF−Iは、適切な部位でIGFBP−3と結合することを条件として、天然、合成又は組み換えを問わず任意の起源に由来していてもよい。本発明ではヒトIGF−Iが好適である。IGF−Iは、例えばPCT刊行物国際公開第95/04076号に記載のように、組み換えにより生産し得る。
【0052】
「IGFBP」又は「IGF結合タンパク質」は、インスリン様成長因子結合タンパク質ファミリー由来であって、そして循環性(即ち、血清又は組織中で)か否かにかかわらずIGF−Iと正常に会合又は結合又は錯体形成する、タンパク質又はポリペプチドをいう。そのような結合タンパク質は受容体を含まない。この定義には、IGFBP−1、IGFBP−2、IGFBP−3、IGFBP−4、IGFBP−5、IGFBP−6、Mac−25(IGFBP−7)、及びプロスタサイクリン刺激因子(PSF)又は内皮細胞特異的分子(ESM−1)、並びにIGFBPと高い相同性を有する他のタンパク質が含まれる。
【0053】
「IGFBP−3」はインスリン様成長因子結合タンパク質3をいう。IGFBP−3は、インスリン様成長因子結合タンパク質ファミリーのメンバーである。IGFBP−3は、天然配列又は変異体のウシ、ヒツジ、ブタ及びヒトを含み、天然に存在する対立遺伝子多型を含むがこれに限定されない、任意の種に由来してもよい。IGFBP−3は、IGF−Iと二元複合体、及びIGF及び酸不安定性サブユニット(ALS)と三元複合体を形成し得る。IGFBP−3は、適切な部位でIGF−I及びALSと結合することを条件として、天然、合成又は組み換えを問わず任意の起源に由来していてもよい。IGFBP−3は、PCT刊行物国際公開第95/04076号に記載のように、組み換えにより生産し得る。
【0054】
「IGF−I/IGFBP−3比」は、IGF−I対IGFBP−3の比をいい、絶対値のIGFBP−3で除したIGF−Iと定義され、そしてパーセント又はIGF−I/IGFBP−3モル比で表わされる。IGF−IとIGFBP−3間のモル比較では、以下の分子質量が計算に使用された:IGF−I、7.5kDa(即ち、7,649Da);及びIGFBP−3、28.7kDa(即ち、28,732Da)。IGF−I対IGFBP−3のモル比は、以下の換算当量(equivalents for conversion)を用いて生物活性IGF−Iの指標として計算される:1ng/mLのIGF−I=0.130nmol/LのIGF−I;1ng/mLのIGFBP−3=0.036nmol/LのIGFBP−3。
【0055】
本明細書で使用される「治療用組成物」は、IGF−I、その類似体、又はその結合タンパク質、IGFBP−3と組み合わせたIGF−I(IGF−I/IGFBP−3複合体)を含むものと定義される。治療用組成物は、また、水、ミネラルなどの他の物質、タンパク質などの担体、及び当業者によく知られた他の賦形剤を含んでもよい。
【0056】
IGF−Iの「類似体」は、ヒト又は動物のIGF−Iと同じ治療効果を有する化合物である。これらはIGF−I(例えば、切断IGF−I)の天然起源の類似体又はIGF−Iの知られた合成類似体のいずれであってもよい。例えば、米国特許第6251865号及び第5473054号を参照されたい。
【0057】
以下において、添付した図面に示した例証的実施態様を参照して、本発明を限定されない形式でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】5及び60μg/kg/dose(1及び13μg/kg/rhIGF−Iに等価)で3時間にわたり投与した、等モルの組み合わせのrhIGF−I/rhIGFBP−3の静脈内注射後の、5名の小児の薬物動態血清比を示す。
【図2】IGFBP−3mRNA発現が、酸素誘導網膜血管消失に対する保護に用量依存的に関連することを示す。
【図3】IGFBP−3の消失が酸素誘導消失後の網膜血管再生長を減少させることを示す。
【図4】内因性IGFBP−3が基準を超えて血管再生長を更に増加させることを示す。
【図5】網膜新生血管形成がIGFBP−3の増加とともに減少することを示す。
【図6】全網膜におけるIGFBP−3mRNAが低酸素とともに増加することを示す。
【図7】IGFBP−3mRNAが網膜血管に関連し、そして低酸素とともに増加することを示す。
【図8】IGFBP−3ヌルマウスの網膜における血管内皮前駆細胞(EPC)数の減少を示す。
【図9】IGFBP−3の高い血清レベルが小児のROPの減少に関連することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
米国特許出願公開第2004/0053838号では、IGF−Iが血管生長に必要であり、そして早産後の網膜血管生長の停止で始まるROPの疾患過程を合理的に説明することが実証されている。子宮内と出生後の血管生長間の主な違いは、IGF−Iの濃度が出生後の未熟児では減少することである。米国特許出願第2004/0053838号での記載、IGF−Iのレベルが分娩後の未熟児で急速に増加する場合に正常な血管発生が可能となり、ROPが起こらないことが示唆される。
【0060】
VEGFは血管の発生において重要な役割を果たすが、低IGF−Iレベルの存在下で血管生長を可能にするには不十分であることが示されている。代謝要求が発生とともに増加し、そしてVEGFレベルが硝子体で上昇するにつれて、VEGFが益々低酸素性の無血管網膜で産生される。IGF−Iが非ROP乳児で生じるように出生後より急速に上昇する場合、成熟網膜に酸素を供給しそしてVEGF産生を調節する血管生長が起こり得ることから、VEGFは蓄積しない。IGF−Iの濃度が長期間低い場合、血管は生長を停止し、成熟無血管網膜は低酸素状態となり、そしてVEGFは硝子体に蓄積する。高レベルのVEGFが存在する場合、IGF−Iの濃度が閾値に上昇すると、新血管の急速生長(網膜新生血管)が引き起こされる。IGF−IとVEGFとはMAPK及びAKTシグナル伝達経路を通して血管内皮細胞機能にとって補完的であることから、この急速血管生長は、血管内皮細胞の生存と増殖増加に基づくように思われる。特に、データは、IGF−I(及び恐らく他のサイトカイン)がVEGFの最大機能を促進するために最小レベルで必要なことを示す。
【0061】
米国特許出願第2004/0053838号の記載によれば、IGF−Iレベルが、どんな新生児がROPを発症するかを予測するのに使用できることが示されている。ROPを発症する及び発症しない乳児間でのIGF−Iレベルのパターンの差から、出生後早期のIGF−Iの血清中濃度増加がこの疾患を防止する可能性が示唆される。ROP及び他の病的状態の相対リスクは、月経後週齢33週でIGF−Iが≦30μg/Lの場合に5.7倍(95%信頼区間2.2〜14.6)増加した。月経後週齢の調整後、月経後週齢31〜35週時点での5μg/Lの平均IGF−Iの各増加は、ROPのリスクを59%減少させた。妊娠の31〜35週においてIGF−Iの中央値レベルは、生後病的状態のない群(n=29)での38μg/L(20〜59の範囲)に比べて、ROP及び他の病的状態の乳児(n=19)では26μg/L(17〜49の範囲)であった(p<0.0001)。早産後、高レベルのIGF−Iを含む羊水の摂取を含み、IGF−Iの潜在的供給源は失われる。IGF−Iの濃度は、カロリー摂取増加、羊水の取込みを模倣するIGF−Iの経口摂取、又はより正常なレベルにIGF−Iを上昇させる静脈内供給を通して、ROPなしの乳児に認められるレベルに増加させることができる。ROPは他の発達障害と相関することから、ROPなしの乳児のレベルまでIGF−Iレベルを増加させることは、神経発達をも改善する可能性がある。
【0062】
IGF−I及びVEGFの両者は、ROPの第2の又は血管新生期における重要な因子でもある。IGF−Iの濃度を増加させる早期介入は正常な血管生長を可能にし、ROPの第2の潜在的破壊期の発生を防止すること、そしてVEGFの蓄積後の遅れた介入は網膜血管新生を誘起するか又は憎悪させる可能性があることが示唆される。米国特許出願公開第2004/0053838号の記載の治療法の1つによれば、IGF−Iは、IGF−Iを結合することができる追加タンパク質と組み合わせたIGF−Iを含む組成物として投与することができ、そしてそのような結合タンパク質がIGF−I結合タンパク質3(IGFBP−3)であることが提案されている。更に、等モル量のIGF−I及びIGFBP−3を含む組成物が使用し得ることが示唆されている。
【0063】
極低出生体重(VLBW)児に対して組み換え(rh)IGF−I/rhIGFBP−3の静脈内注入投与後のIGF−I及びIGFBP−3薬物動態プロファイルを明らかにし、そして安全性と忍容性を評価する初期研究において、等モル量のIGF−I及びIGFBP−3の組成物(米国特許出願公開第2004/0053838号で示唆されるような)を使用した。これは非盲検比較臨床試験で、2007年にGothenburgのQueen Silvia小児科病院の新生児病棟で行なった。27週(26週+0日から29週+1日)の平均在胎期間(範囲)、及び1,022グラムの出生体重(810から1,310グラム)の5人の患者(3人は女性)がこの研究に参加した。3日目(暦年齢)の乳児に対して、rhIGF−I/rhIGFBP−3の等モルの組み合わせ(複合体として等量のrhIGF−I及びrhIGFBP−3)を、5及び60μg/kg/dose(1及び13μg/kg/rhIGF−Iと等価)で3時間かけて静脈内注入として投与した。結果を図1に示したが、この図は小児の血清IGF−I/IGFBP−3比に及ぼす投与rhIGF−I/rhIGFBP−3複合体の影響を示す。注入開始時点のベースラインのIGF−I及びIGFBP−3レベルは、それぞれ18.8±6.1及び811.8±152.4μg/Lであった(これは約1:12のIGF−I対IGFBP−3のモル比に相当する、2.3%の百分率比である)。治験薬注入停止の直後、血清IGF−I及びIGFBP−3レベルは、それぞれ39.6±12.2及び856.6±197.6μg/Lであった(これは約1:6のIGF−I対IGFBP−3のモル比に相当する4.6%の百分率比である)。IGF−Iの平均濃度を、≦30μg/L(本研究では平均18.8μg/L)の失明の危険があるROP低レベルから、米国特許出願公開第2004/0053838号によりROPの危険がない状態を示す≧35μg/L(39.6μg/L)に増加したことも着目される。急性有害事象の報告はなく、すべての血糖測定値及び広範な安全性の基準はすべて正常であった。結論として:これらのデータは、rhIGF−I/rhIGFBP−3複合体が、極早産児に対して血清IGF−Iレベルを低レベルから正常範囲へと増加させるのに有効であること、及びrhIGF−I/rhIGFBP−3の投与が安全で良好な忍容性であることを示した。
【0064】
しかしながら、IGF−Iの血清中濃度が輸血後倍以上に増え、それにより類似の在胎期間の胎児でいわれている生理的レベルに達したが、IGFBP−3の血清中濃度において同様の増加を達成し得なかったことは、図1の血清比のグラフから明らかである。血清中のIGF−I対IGFBP−3のモル比は、注入後1:12から1:6に増加した。本研究からのもう1つの重要な所見は、約1時間である早産児の半減期が、小児及び成人で示される半減期と有意に異なることであった。従って、本研究からの主要な結論の1つとして、rIGF−I/IGFBP−3複合体は、持続注入で投与する必要があるといえる。更に、IGFBP−3と比べてIGF−Iの血清中濃度は相対的に高い増加を示し、血清中のIGF−I/GFBP−3の高い比率をもたらしたことから、IGF−I/IGFBP−3の等モル組成物の投与は、早産児では最適ではない可能性があると結論し得る。
【0065】
IGF−Iレベル及びその結果としてIGF−I/IGFBP−3モル比の増加に及ぼすこの影響は、IGFBP−3のレベル増加もROPのリスク低減に関係することが発見された早産児の臨床研究(下記に述べる)で見られるような懸念をもたらす。そこでインビボ血管形成におけるIGFBP−3の役割をより明確にするために、酸素誘発血管消失及びそれに続く低酸素駆動血管新生のマウスモデルにおける、網膜血管生存及び血管再生長に対するIGFBP−3の作用を調べた。
【0066】
本モデルでは、IGFBP−3の外因性デリバリー及び種々のレベルのIGFBP−3発現を有するIgfbp3-/-、Igfbp3+/-及びIgfbp3+/+トランスジェニックマウスを用いて、インビボの網膜症に対するIGFBP−3レベルの調節作用を調べた。IGFBP−3の増加レベルが、酸素過剰誘発血管消失における血管生存増加、及び酸素誘発網膜症の低酸素期での血管再生長と修復の増加に関連し、結果的にROPのマウスモデルにおけるIGFBP−3レベルの増加に伴って網膜症の減少をもたらすことが発見された。
【0067】
以下の実施例で、本発明を更に詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例証し更に本発明を特徴付けするために提出するが、本発明を限定するものではない。本発明の方法を行なうために以下の材料及び方法を使用した。
【0068】
動物
これらの研究は、眼及び視力研究における動物使用についてARVO声明に従ったものである(www.arvo.org/AboutARVO/animalst.asp)。IGFBP−3、IGFBP−3-/-、IGFBP−3+/-、IGFBP−3+/+マウスは、Ning, Y., Schuller, A. G., Bradshaw, S., Rotwein, P., Ludwig, T., Frystyk, J. & Pintar, J. E. (2006) MoI Endocrinol 20, 2173-86に記載のとおりであり、そしてリアルタイムRT−PCRにより尾試料におけるIGFBP−3mRNAの発現によって特徴付けられ、そしてサザンブロット法により確認された。
【0069】
遺伝子発現の定量分析(定量的リアルタイムRT−PCR)
IGFBP−3を標的とするPCRプライマー、及び不変制御遺伝子(シクロフィリン)、RNAをPrimer Expressソフトウェア(Applied BioSystems, Foster City, Calif.)を用いてデザインした。遺伝子検出の特異性についてプライマー及びプローブ配列を解析するために3つの方法を使用した。第1に、NCBI Blastモジュールによって測定して、選択配列を特異的に検出するプライマー及びプローブ配列のみが使用された。第2に、PCR反応時に生成したアンプリコンを、Applied BioSystems製の一次導関数(first derivative)プライマー融解曲線ソフトウェアを用いて解析した。この解析は、アンプリコンの特異的融点温度に基づいてアンプリコンの存在を測定する。第3に、PCR反応時に生成したアンプリコンを、ゲル精製して配列決定し(小児病院コア配列決定施設(Children's Hospital Core Sequencing Facility)、Boston, Mass)、所望の配列の選択を確認した。遺伝子発現の定量分析は、ABIプリズム7700配列検出システム(TaqMan)及びSYBRグリーンマスターミックスキット(Qiagen)を用いて行なった。C57BI/6マウスを、75%酸素への曝露の有りと無しの条件下で、IGFBP−3mRNAレベルのリアルタイムPCRにより、P8、P10、P12、P15、P17、P26及びP33で解析した。
【0070】
レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション
OCTに包埋した眼を低温保持装置中8μmで切片化してアンコーティングスライドグラスに載せ、そして直ちに−80℃で保存した。凍結切片を含むスライドを直ちに70%エタノール中で30秒間固定して、ヘマトキシリン(Meyers)及びエオジンで染色し、そして続いて各々70%、95%、及び100%エタノール中、そして最終的にキシレン中10分の脱水工程から成る4脱水工程を行なった。一旦風乾して、切片をPixCell II LCMシステム(Arcturus Engineering, Mountain View, Calif.)により、血管及び網膜神経層のマイクロダイセクションにかけた。各母集団は、補足細胞の顕微鏡的視覚化によって測定して>95%の均質性と推定された。4匹を超えるマウスからの各細胞層由来の材料を合わせてRNAを分離し、記載のcDNAに変換させた。特異的cDNAを定量的リアルタイム(qRT)PCRを用いて定量化した。
【0071】
〔実施例1〕
血清中IGF−IレベルはIGFBP−3ヌルマウスの野生型と変わらない
以下の研究は、眼及び視力研究における動物使用のARVO声明に従ったものである(www.arvo.org/AboutARVO/animalst.asp)。IGFBP−3、IGFBP−3-/-、IGFBP−3+/-、IGFBP−3+/+マウスは、Ning, Y., Schuller, A. G., Bradshaw, S., Rotwein, P., Ludwig, T., Frystyk, J. & Pintar, J. E. (2006) MoI Endocrinol 20, 2173-86に記載のとおりであり、そしてリアルタイムRT−PCRにより尾試料におけるIGFBP−3mRNAの発現によって特徴付けられ、そしてサザンブロット法により確認された(データは示していない)。
【0072】
血清中のIGF−Iレベルは、IGFBP−3-/-(n=8)、IGFBP−3-/+(n=11)及びIGFBP−3+/+(n=10)同胞(sibling)マウスで、IGF−Iの定量のために大過剰のIGF−IIによるIGFBP−ブロックRIAを用いて測定した(Mediagnost GmbH, Tubingen, Germany)。IGF−IアッセイのイントラアッセイCVは、36、204、及び545μg/Lの濃度でそれぞれ11.1、7.2、及び7.4%であり、そしてインターアッセイCVは13.5、8.8、及び9.9%であった。このアッセイは標準曲線においてラットIGF−Iを用いてマウスの異種アッセイとして使用できる。
【0073】
IGFBP−3-/-(n=8)、IGFBP−3+/-(n=11)及びIGFBP−3+/+(n=10)同胞マウスにおいて、出生後5日目(P5)に測定した平均血清中IGF−Iレベルは、それぞれ89±19、88±8及び95±25μg/Lで、対照に比べてトランスジェニックマウスにおいてIGF−Iに有意差はなかったことを示した。また発達段階でのIGFBP−3-/-マウス及びIGFBP−3+/+マウス間で重量の差もなかった。
【0074】
〔実施例2〕
IGFBP−3は酸素誘発網膜血管消失に対して保護する(P8)
血管消失を誘発させるために、出生後7日目(P7)マウスを乳母とともに18hから5日の範囲の期間75%酸素に曝露した。O2曝露後、マウスをアベルチン(Avertin)(Sigma)で麻酔し、そして生理食塩水中20mg/mlの2×106分子量FITC−デキストランの心内潅流により犠牲にした。眼球を摘出し、そして4℃にて2時間4%パラホルムアルデヒドで固定した。網膜を分離し、そして光受容体側を上にしてポリリシンコートスライド上にグリセリン−ゼラチン(シグマ)で全載した。網膜を蛍光顕微鏡(オリンパス、東京)で調べ、3電荷結合素子カラービデオカメラ(DX−950P、ソニー)を用いて画像をデジタル化し、そしてNORTHERN ECLIPSEソフトウェア(Empix Imaging、Tronto)により処理した。
【0075】
酸素中の血管生存に対する低いIGFBP−3の作用を評価するために、IGFBP−3+/+又はIGFBP−3+/-マウス(n=22眼)の全載網膜における血管消失度を、P8で酸素誘導の17時間後に調べた(n=11マウス;各々のデータポイントは、1匹のマウスの右目と左目の平均である)。血管消失度を、ヘテロ接合体及び野生型マウスの尾断片のIGFBP−3mRNA発現と比較した。図2から、IGFBP−3mRNA発現のレベル増加に伴い血管生存の有意な増加があったので、Igfbp3mRNA発現は、Igfbp3+/-マウスにおいてP8で75%酸素の18時間後に、用量依存的に酸素誘発網膜血管消失に対する保護作用と関連することが、認められた(図2)(P≦0.006、r=−0.70)。
【0076】
〔実施例3〕
低いIGFBP−3はP17で持続的血管閉鎖に関連する
P7とP12の間で、ヘテロ接合体IGFBP−3の仔を孕んだ母マウスを75%酸素に曝露し、次いでP12〜P17から大気中に移し、その後犠牲にした。IGFBP−3-/-(n=52眼)及びIGFBP−3+/+マウス(n=38眼)から網膜を摘出して全載し、更に血管閉鎖領域を評価した。
【0077】
血管消失の持続に対するIGFBP−3の作用を評価するために、IGFBP−3-/-(n=52眼)及び同胞のIGFBP−3+/+(n=38眼)マウスの全載網膜においてP17で持続した血管閉鎖領域を、血管消失の酸素誘導(P12〜P17)後、及び大気P12〜P17での血管再生長後に調べた。図3において、酸素誘発血管消失後のIGFBP−3の保護作用は、IGFBP−3-/-マウス(n=52眼)(右)に比べてWT(n=38眼)(中央)においてP17で示されるように持続することが認められる。IGFBP−3-/-マウスにおける血管閉鎖の分画網膜領域は、15.1+/−0.5%の面積の野生型マウスに比べて20.2+/−0.1%(SEM)であった(P≦0.005)(図3A)。典型的な網膜全載は、野生型ではIGFBP−3+/+マウスよりも少ない血管消失を示す(図3B)。IGFBP−3+/+に比べてIGFBP−3-/-マウスでは網膜血管消失領域の31%増加があったことから、低IGFBP−3による血管消失の持続性及び/又は血管再生長の欠如が示された。
【0078】
〔実施例4〕
外因性IGFBP−3は血管再生長を増加させる
P7とP12の間に、C57BI/6マウスを75%酸素に曝露した。P12で酸素を除去後、マウスに60μgのIGFBP−3(n=16眼)又はビヒクル(n=14眼)を1日3回腹腔内注射(P12〜P14)した。マウスをP15で犠牲にし、網膜を摘出して全載し、そして血管閉鎖領域の血管再生長に対するIGFBP−3の効果を評価した。
【0079】
酸素誘発血管閉鎖後の血管再生長に対する血清IGFBP−3のレベル上昇の効果を評価するために、酸素で誘発した血管消失後P12〜P14から、IGFBP−3の1日3回注射したC57BI/6マウスにおいて、P15での全載網膜における血管面積を調べた。図4の中央と右では、酸素誘発血管消失後に生理食塩水で処置したC57BI/6マウスの全載網膜(中央)が、P12〜P14から腹腔内注射によりIGFBP−3で処置した同腹子(右)よりも主に血管再生長を減少させていることを示した。P15では、ビヒクル対照処置マウス(n=7)に比べて、IGFBP−3で処置したC57BI/6マウス(n=8マウス)において血管消失面積で40%の減少があったことから、IGFBP−3の増加によって血管再生長を増加させることを示した(P≦0.001)(図4左)。
【0080】
〔実施例5〕
IGFBP−3の発現の増加はマウスにおける網膜血管新生の減少に関連する
P7とP12間で、ヘテロ接合体IGFBP−3の仔を孕んだ母マウスを75%酸素に曝露し、次いでP12〜P17から大気中に移し、その後犠牲にした。IGFBP−3-/+及びIGFBP−3+/+マウス(n=9マウス、18眼)から網膜を摘出し、全載して、そして血管閉鎖の面積を評価して、2網膜の平均として記録した。IGFBP−3mRNAレベルを記載のように尾断片から測定した。
【0081】
IGFBP−3mRNAレベルと網膜血管新生との関連性を評価するために、IGFBP−3-/+及びIGFBP−3+/+(11マウス=22眼)同胞マウスを、尾断片のIGFBP−3mRNAレベルについて評価し、そしてP17で全載網膜の網膜血管新生の程度について評価した。IGFBP−3mRNA発現の増加とともに網膜血管新生の減少があった。IGFBP−3mRNA発現は、P17でIGFBP−3+/-マウスのROPマウスモデルの網膜血管新生に対して用量依存的な保護作用と関連する(図5)。
【0082】
〔実施例6〕
網膜のIGFBP−3mRNAは低酸素とともに増加する
IGFBP−3を標的とするPCRプライマー、及び不変制御遺伝子(unchanging control gene)(シクロフィリン)、RNAをプライマー発現(Primer Express)ソフトウェア(Applied BioSystems, Foster City, Calif.)を使用してデザインした。遺伝子検出の特異性についてプライマー及びプローブ配列を解析するために3つの方法を使用した。第1に、NCBI Blastモジュールによって測定して、選択配列を特異的に検出するプライマー及びプローブ配列のみが使用された。第2に、PCR反応時に生成したアンプリコンを、Applied BioSystems製の一次導関数プライマー融解曲線ソフトウェアを用いて解析した。この解析は、アンプリコンの特異的融点温度に基づいてアンプリコンの存在を測定した。第3に、PCR反応時に生成したアンプリコンを、ゲル精製して配列決定し(小児病院コア配列決定施設(Children's Hospital Core Sequencing Facility), Boston, Mass.)、所望の配列選択を確認した。遺伝子発現の定量分析は、ABIプリズム7700配列検出システム(TaqMan)及びSYBRグリーンマスターミックスキット(Qiagen)を用いて行なった。C57BI/6マウスを、75%酸素へ曝露の有りと無しの条件下IGFBP−3mRNAレベルのリアルタイムPCRにより、P8、P10、P12、P15、P17、P26及びP33で解析した。
【0083】
低酸素症の発症は、酸素誘発網膜血管消失後マウスを大気に戻した場合にP12で起こる。P12とP15の間に全網膜でIGFBP−3mRNAに3〜>9倍増加があり、P17を経過して持続し、低酸素症が血管再生長により軽減するP26までに減少した(状態当りn=12網膜)。図6では、各々のバーは、シクロフィリンの百万コピーに正規化したIGFBP−3mRNAのコピー数を表わす(不変制御遺伝子)。
【0084】
〔実施例7〕
IGFBP−3mRNAは網膜血管領域に局在化する
IGFBP−3mRNAは、P17で硝子体内に広がる網膜血管新生(タフト)の領域に、そして血管が位置する神経節細胞層及び内顆粒層に局在化する。局所血管領域内で、IGFBP−3mRNAはP17で低酸素症により5及び25倍増加した。無血管光受容体層では、非酸素処置対照に比べて、P17で低酸素症によるIGFBP−3mRNAのわずかな増加のみがあった。図7において、IGFBP−3mRNAは網膜血管に関係し、そして低酸素症で増加することが認められた。網膜血管のレーザー・キャプチャー領域から解析したIGFBP−3mRNAの定量的リアルタイムRT−PCR解析の結果、低酸素症によりP17で表在血管層においてIGFBP−3mRNAの大幅な増加が示され、IGFBP−3は毛細血管に関係するが、周辺組織に関係しないことが示された。T:硝子体内に広がる血管新生血管タフト、G:神経節細胞層、ON:外核層、IN:内顆粒層。
【0085】
〔実施例8〕
IGFBP−3-/-マウスの網膜における内皮前駆細胞(EPC)の数の減少
IGFBP−3-/-及び野生型対照同腹子をP7からP12まで75%の酸素に曝露し、次いで大気中へ移した。動物はP15で犠牲にした。IGFBP−3-/-(n=8眼)及びIGFBP−3+/+マウス(n=7眼)由来の網膜を分離し、そして4%パラホルムアルデヒド中で1時間固定し、1%Triton X-100を有するPBSで一夜膜透過した後、バンディラマメ(Griffonia simplicifolia)レクチンI(内皮細胞特異的)(Invitrogen、Eugene, Oregon, USA)及びCD34−FITC抗体(Miltenyi Biotec Inc、Auburn, CA, USA)染色を行なった。
【0086】
網膜内へのEPC動員に対するIGFBP−3の作用を評価するために、酸素誘発網膜症後にP15でIGFBP−3-/-マウス由来の網膜を調べた。EPCはCD34抗体染色で同定した。野生型動物(n=7)に比べて、IGFBP−3-/-マウス(n=8)の網膜では、網膜中に殆ど30%少ないCD34+細胞が存在した(P=0.003)。図8では、P15HでP15HIGFBP−3-/-マウス(n=8)の網膜のCD34+細胞の定量化により、野生型動物(n=7、P=0.003)と比較してEPC数の有意な減少が示されたことが認められた。赤色:レクチン−アレクサ(lectin-Alexa)594(内皮細胞特異的)、緑色:CD34−FITC抗体。このことは、IGFBP−3が損傷部位内に骨髄由来EPCを動員することにより、網膜血管修復に寄与している可能性を示唆する。
【0087】
〔実施例9〕
臨床研究において血清IGFBP−3の増加は重症度の低いROPと相関する
在胎期間(GA)<32週で出生した新生児を、GoteborgのQueen Silvia Children's
Hospital及びUppsala University Hospitalで募集した(190名は適格で、79名が1999年12月と2002年4月の間に登録された)。月経後週齢(PMA)40週までの出生後フォローアップ完了不能、又は自宅への退院及び明らかな先天異常が除外基準であった。その群には、19組の双子、8組のペア及び同胞が死亡した3名が含まれた。新生児はすべて新生児集中治療室に入院した。増加量の母乳で経腸栄養法を早期(出生後2〜48h)に導入した。完全経腸栄養法が達成されるまで、グルコース、アミノ酸、及び脂肪による補助非経口的栄養を与えた。0.8gのタンパク質/100mlで強化した母乳を、<1,500gの乳児に、PMA約10日から乳児が2,000g体重になるまで与えた。Goeteborgの医学部倫理委員会及びウプサラ大学で承認(#O594−00)され、そして両親からはインフォームドコンセントを得た。
【0088】
間接検眼鏡による拡大網膜検査が、出生後5週齢から6週齢まで、網膜が完全に血管新生するか又は状態が安定であると考えられるまで、週1回又は隔週行われた。プラス病(plus disease)及び/又はステージ3ROPの小児は、更に頻繁に検査した。ROP変化はROPの国際分類に従って分類した。
【0089】
各乳児に対する毎週の血液検体(0.5ml)は−20℃から−80℃で保存し、そし
て同時に分析した。血清中IGFBP−3レベルは、IGFBP−3の特異的ラジオイムノアッセイ(RIA)(Mediagnost GmbH, Tuebingen, Germany)を用いて測定した。IGFBP−3アッセイで、イントラアッセイ変動係数(CV)は、1,800、3,790、及び5,776μg/Lの濃度でそれぞれ7.1、7.3、及び7.9%であり、そしてインターアッセイCVは13.4、10.5、及び14.1%であった。
【0090】
出生後のIGFBP−3レベルの増加は血管消失に対して保護し、その結果未熟児の増殖性ROPに対して保護するという仮説を試験するために、予め、出生後週1回IGFBP−3血漿レベルを測定し、そしてROPの危険性が高い在胎期間<32週で出生した全未熟児(n=79)の網膜を同時に(coordinately)検査した。ROPステージ0〜4は国際分類に従って定義され、そしてこれらの研究ではROPステージ3〜4(n=13)は増殖性ROPと定義され、そしてROPステージ0(n=38)はROPでないと定義された。発明者らは、血管生長の欠如は増殖性ROPと関連することを確認した。正常な未成熟網膜は、半透明血管新生網膜から灰色の、非血管新生網膜への段階的移行を2つの間の明確な境界なしに有する。ROPでは、血管新生網膜及び非血管新生網膜間に線(line)又は稜線(ridge)から成る観察できる鋭い定常的境界が現われる。すべての増殖性ROP患者(n=13)では、血管がその先に見えない分界線が存在した。ROPのないすべての乳児(n=38)では、稜線も境界線も存在しなかったことから、血管最前線のより正常な生長を示した(データは示していない)。増殖性ROPの乳児で月経後週齢30〜35週のIGFBP−3の平均±SEMレベルは802±66μg/Lであり、そしてROPでない乳児では974±41μg/Lであった。Mann-Whitney試験では0.03のP値となり、この時点での平均IGFBP−3において、2群間に有意差があることを示唆した(図9)。
【0091】
上記実施例から、IGFBP−3レベルの増加は網膜血管新生の減少(ROP)に関連し、従って正常血管生長の増加に関連すると見ることができる。IGFBP−3-/-トランスジェニックマウスを用いた研究、及び野生型マウスにおける補充組み換え(supplemental recombinant)IGFBP−3を用いた他の研究において、インビボのIGFBP−3レベルの減少に対する病理学的網膜血管新生の用量反応性の存在することが測定される。IGFBP−3の増加レベルは、網膜血管消失を減少させ、血管再生長を増加させ、そしてその結果血管新生を減少させる。更に、トランスジェニックと野生型マウスにおける血清IGF−Iレベルは同じで、そして正常レベル以上の外因性のIGFBP−3の添加が更に血管再生長を促進したことから、IGFBP−3の保護効果はIGF−Iと無関係であるように見える。IGFBP−3の作用はインビトロで検討されているが、血管発生におけるIGFBP−3の役割を直接扱うインビボの実験的研究は、あったとしても少ない。
【0092】
先の実施例9で記載した早産児の臨床研究では、PMA30〜33週(ROPの誘発が起こる場合)間の血清IGFBP−3の低レベルは、増殖性ROPの発症リスク増加と相関することも示されている。これらのデータは、初期発生においてIGF−Iの低レベルの早産児が少ない血管生長及びROPのリスク増加を有するというこれまでの所見に対応している。興味深いことに、IGF−I/IGFBP−3比が増殖性ROPを発症する早産児と発症しない早産児間で類似していることが認められている(データは示していない)。その上、非ROPとROPの小児間で酸に不安定なサブユニットレベルに有意差は認められなかったことから(データは示していない)、血清IGF1複合体(IGF1、IGFBP−3及び酸に不安定なサブユニット)中の重要な因子は、IGF1及びIGFBP−3の両方であることが示唆される。このことは、ROP発症の恐れのある小児におけるIGF−I及びIGFBP−3両者のレベルを同時に回復すること、及びそれによりIGF−I/IGFBP−3比をそのまま維持することは、破壊性網膜血管新生(ROP)を予防するのに非常に重要である。現在IGFBP−3は、rhIGF−I/rhIGFBP−3の組み合わせものとして入手可能である。
【0093】
IGFBP−3が血管消失を予防し、そして修復を改善するメカニズムは多因子性のようである。全身性対局所性IGFBP−3の相対的寄与は知られていない。しかしながら、IGFBP−3mRNAは網膜血管系に見出され、そして低酸素により相当に増加する。この局所源は血管生長を調節するのに重要な役割を果たしている可能性がある。しかしながら、IGFBP−3がインビトロで幹細胞の増殖を促進することから、血管への幹細胞の動員がIGFBP−3レベルの増加により刺激される可能性が推測され得る。実施例8では、IGFBP−3の欠乏が網膜中のCD34+EPC数の減少に関連することが示され、IGFBP−3は網膜への骨髄由来EPCの組込みを促進することにより血管修復を改善する可能性を示唆する。この補充は網膜血管系を安定化し、そして正常化すると考えられる。
【0094】
ROP又は糖尿病の患者は、次いで低酸素誘発血管増殖を促進し得る網膜血管消失を起こし易く、網膜剥離及び失明を引き起こす。血管消失を予防し又は効率的な血管再生を促進する介入は、病理学的血管新生及び心臓病などの血管消失に関与する多くの糖尿病合併症を予防することができる。これらの知見は、血管網の調節に関与する他の疾患病因に対して当てはまるようである。
【0095】
IGF−Iは数十年来糖尿病性網膜症に関与すると疑われているが、相関についての臨床研究の結果は様々である。しかしながら、1つの研究では、1型糖尿病の患者は非糖尿病対照に比べて、IGFBP−3の血清中レベル(及び遊離+解離性IGF−I)を低下させていた(Frystyk, J., Bek, T., Flyvbjerg, A., Skjaerbaek, C. & Orskov, H. (2003)
Diabet Med 20, 269-76.)。増殖性網膜症患者は、血液漏出増加に因ると考えられるIGF−I及びIGFBP−3、並びに他の結合タンパク質の硝子体中レベルを増加させている。
【0096】
要約すれば、低レベルの血清IGFBP−3を有する早産児は網膜症のリスクがより高い。ROPのマウスモデルにおいて、IGFBP−3の保護効果はIGF−Iに無関係なようであり、そして血管消失に対する保護作用の増加及び損傷後の血管再生長増加の結果である。血管安定化のメカニズムは内皮前駆細胞の動員と整合性を有している。これらの結果は、糖尿病及びROP、血管消失及びそれに続く破壊的血管新生に関連する疾患を有する患者の治療において重要な意義を有する。網膜の血管新生の改善は、病理学的血管新生の後期発生に必要な低酸素刺激を減少させる傾向があると考えられ、ROPの程度を軽減する可能性がある。この研究は、ROPを発症する危険性を有する小児においてIGF−IレベルだけでなくIGFBP−3のレベルをも同時に回復することは、同様の保護効果を有し、そしてそれによりIGF−I/IGFBP−3比をそのまま維持することは、破壊性網膜血管新生(ROP)を予防するのに非常に重要であることを示唆している。
【0097】
従って、1つの側面において、本発明は、早産、極早産及び/又は超早産の合併症を罹患する患者を治療し、又は患者を早産、極早産及び/又は超早産の合併症の発症から予防する方法を提供し、該合併症は、発育遅延、精神発達遅滞、気管支肺異形成、脳室内出血及び未熟児網膜症(ROP)である。この方法は、患者のIGF−I及びIGFBP−3レベルを患者の在胎期間に対して正常な子宮内レベルに対応する範囲に上昇させるために、有効量のIGF−I又はその類似体をIGF−I結合タンパク質3(IGFBP−3)又はその類似体と組み合わせて、子宮内レベルでの基準未満のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを有する患者に投与することを含む。IGF−I及びIGFBP−3に対するこれらのレベルは、患者の在胎期間に応じて、それぞれ10〜100及び500〜1,400μg/Lの範囲内である。IGF−I及びIGFBP−3又はその類似体は、皮下、静脈内又は経口で投与し得る。静脈内投与が好ましい。
【0098】
本研究の方法は、未熟児合併症を効果的に予防し、そして正常な血管発生を促進するために、出生後直ちに開始することが好ましい。このことは、IGF−Iレベルの増加がROPの後期血管新生破壊期を促進する可能性があるROPの治療に特に重要である。非血管新生網膜が低酸素になった後まで遅延した治療は、異常な網膜血管新生を引き起こしかねない。
【0099】
IGFBP−3又はその類似体と組み合わせたIGF−I又はその類似体の投与は、IGF−I及びIGFBP−3の循環レベルの増加をもたらす。従って、IGFBP−3と組み合わせたIGF−Iの投与は、IGF−I及び/又はIGFBP−3の低循環レベルに伴う症状、障害、及び状態の治療又は予防に有用である。
【0100】
本明細書に開示される本発明の方法は、そのような治療を必要とする乳児へのIGF−IとIGFBP−3の組み合わせ複合体の非経口的投与を提供する。非経口的投与として、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮下(SC)、腹腔内(IP)、鼻腔内、微小透析及び吸入経路が含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法では、IGF−I及びIGFBP−3又はその類似体は、好ましくは経口で投与される。IV、IM、SC、及びIP投与はボーラス又は注入によるものであってもよく、そしてポンプ、徐放性製剤、及び機械的デバイスを含むがこれらに限定されない、徐放性埋め込み型デバイスによるものであってよい。製剤、経路及び投与方法、並びに投与量は、治療すべき障害及び患者の病歴に依存する。一般的に、皮下注射によって投与される用量は、静脈内又は筋肉内投与される治療的等価用量より大きくなる。本発明に従って用いられる組成物は、患者の在胎期間に相関した患者の内因性モル比に対応する正常な生理的比を患者に与え維持するような比を有し、又はIGF−I/IGFBP−3の異常比を修正する。IGF−Iの用量範囲は、投与方法に関係なく24時間当り5〜450μg/kgである。用量は、当業者により、患者の体重及び/又は在胎期間及び/又は患者のIGF−I及び/又はIGFBP−3の測定レベルに基づいて各特定の症例で容易に決定される。より好ましくは、IGF−I又はその類似体の用量は、24時間当り約5μg/kgから約370μg/kgである。
【0101】
本発明の組成物は、IGF−I及びIGFBP−3の両方を含む必要があり、ここで、IGF−I/IGFBP−3モル比は等モルより低く、好ましくは1:2〜1:3.33、例えば1:20〜1:4、1:15〜1:5又は1:12〜1:8の範囲である。好ましい形態は、患者の在胎期間に相関した患者の内因性モル比に相当する治療用組成物であり、ここで、rhIGF−I/rhIGFBP−3の当該モル比は、上記の好ましい間隔で1:20〜1:3.33の範囲である。
【0102】
組成物は、等モルより低く、好ましくは1:3.33〜1:20、例えば1:4、1:5、1:8、1:12、1:15、1:18の比に固定した組み合わせとして患者に投与することができ;又は患者でIGF−I及びIGFBP−3の正しい比を達成するように、IGF−I及びIGFBP−3は1:3.33〜1:20の比の範囲内で別々に投与することができ;又はIGF−I及びIGFBP−3は、上記のように患者で正しい比を達成するように、別に投与のIGFBP−3で補充して、固定した組み合わせとして患者に投与することができる。
【0103】
組成物は出生後5日以前に、好ましくは出生後4日以前に、より好ましくは出生後3日以前に、最も好ましくは出生後2日以前に、投与され又は開始される。
【0104】
組み合わせものは、好ましくは、生理食塩水、又はリン酸緩衝化生理食塩水溶液などの生理学的適合性の担体中に溶解する。より好ましくは、組み換えヒトIGF−Iの濃縮溶液及び組み換えヒトIGFBP−3の濃縮溶液を十分な時間一緒に混合して等モル複合体を形成させる。最も好ましくは、国際公開第96/40736号に記載のように、組み換えヒトIGF−I及び組み換えヒトIGFBP−3を組み合わせて、精製時に複合体を形成させる。
【0105】
非経口的投与では、本複合体の組成物は、液剤、懸濁剤等のような半固体又は液体の製剤であってよい。生理学的適合性の担体としては、生理食塩水、血清アルブミン、5%デキストロース、血漿製剤、及び他のタンパク質含有溶液が含まれるが、これらに限定されない。場合により、担体は清浄剤又は界面活性剤を含んでもよい。
【0106】
本発明のなお別の側面では、早産合併症を治療するための薬剤組成物の製造における、IGF−I又はその類似体の使用が提供される。
【0107】
最後に、包装材料及び包装材料内に含有される薬剤を含む製品も提供される。包装材料は、早産に関連する合併症を治療及び/又は予防するための薬剤が十分な期間、有効量で投与すべきことを表示するラベルを含む。薬剤は、薬学的に許容される担体とともにIGF−I又はその類似体を含む。
【0108】
治療への応用として、IGF−I又はその類似体は、単独で、又は1つ若しくはそれ以上の許容される担体及び場合により他の医薬成分とともにIGF−I又はその類似体を含む薬剤組成物の一部として、患者に好適に投与することができる。1つ又は複数の担体は、製剤の他の成分と適合し、そしてその受容者に有害ではないという意味で、「許容される」ものでなければならない。
【0109】
本発明の薬剤組成物は、経口、鼻内、局所(口腔(buccal)及び舌下を含む)、又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、微小透析及び皮内)投与に好適な組成物を含む。製剤は単位剤形、例えば錠剤及び徐放性カプセル剤の形態で、及びリポソームで便利に与えられ、そして調剤の技術分野でよく知られた任意の方法によって調製することができる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA (17th ed. 1985)を参照されたい。
【0110】
そのような調製方法は、1つ又はそれ以上の副成分から成る担体などの成分を、投与すべき分子との関連をもたらす工程を含む。一般的に、組成物は、有効成分を液体担体、リポソーム又は微粉化した固体担体、又はその両方と一様にそして緊密に関連させ、そして必要に応じて次に製品を成形することにより調製される。
【0111】
経口投与に好適な本発明の組成物は、所定量の有効成分を各々含有するカプセル剤、カシェ剤又は錠剤などのような別個の単位として;散剤又は顆粒剤として;液剤又は水性液体若しくは非水液体中の懸濁剤として;又は水中油液体乳剤又は油中水液体乳剤、又はリポソーム剤に包装され及びボーラス剤としてなど;与えられてもよい。
【0112】
錠剤は、場合により1つ又はそれ以上の副成分とともに圧縮又は成型することにより調製することができる。圧縮錠剤は、粉末又は顆粒などの自由流動形態の有効成分を、場合により結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性又は分散剤と混合して、好適な機械で圧縮することにより調製することができる。湿製錠剤は、不活性液体希釈剤により湿潤化した粉末化合物の混合物を、好適な機械で成型することにより製造することができる。錠剤は、場合により、中の有効成分の徐放又は制御放出を可能にするように、コーティング又は分割されてもよい。
【0113】
局所投与に好適な組成物としては、矯味矯臭した基剤、通常は蔗糖及びアカシア又はトラガント中に成分を含むトローチ剤;及びゼラチン及びグリセリン、又は蔗糖及びアカシアなどの不活性基剤中に有効成分を含むパステル剤が挙げられれる。
【0114】
非経口的投与に好適な組成物としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬及び製剤を対象とする受容者の血液と等張にする溶質を含有してよい水性及び非水無菌注射用液剤;並びに懸濁化剤及び濃稠化剤を含有してよい水性及び非水性無菌懸濁剤が挙げられる。製剤は、単回投与又は反復投与の容器、例えば密封したアンプル及びバイアルで与えられ、そして滅菌液体担体、例えば注射用水の使用直前の添加のみを必要とする凍結乾燥(凍乾)状態で保存することができる。即時注射液剤及び懸濁剤は、滅菌散剤、顆粒剤及び錠剤から調製することができる。
【0115】
上に述べられ、開示された実施態様は単に例として与えられただけであり、本発明を限定すべきものではない。下記の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内の、他の解決、使用、目的、及び機能は、当業者には明らかなはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症を罹患している患者の治療に使用するための、インスリン様成長因子I(IGF−I)又はその類似体をインスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)又はその類似体と組み合わせて含む組成物であって、該組み合わせが、等モルより低い、好ましくは1:20〜1:3.33の範囲にあるIGF−I対IGFBPのモル比を有する組成物。
【請求項2】
IGF−I対IGFBPのモル比が1:20〜1:4、好ましくは1:15〜1:5、より好ましくは1:12〜1:8の範囲にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、患者の在胎期間に対応するモル比を有する血清中濃度を達成するために、そのIGFBP含量に関して連続的に調整される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)がIGFBP−3又はその類似体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
IGF−Iの用量範囲が24時間当り5〜450μg/kgである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症が、IGF−I及び/又はIGFBP−3の低循環レベルに関連する状態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症が、発達遅滞、精神発達遅滞、気管支肺異形成、脳室内出血及び未熟児網膜症(ROP)を含む群からの1つである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
早産の合併症が未熟児網膜症(ROP)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症が、患者の在胎期間の正常レベルに対応する子宮内レベルの基準以下のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを有する患者によって示される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
使用が静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮下(SC)、腹腔内(IP)、鼻腔内、微小透析及び吸入の治療を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
使用が皮下、静脈内又は経口の治療を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
使用が静脈内の治療を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
治療が、生後5日以前に、好ましくは生後4日以前に、より好ましくは生後3日以前に、最も好ましくは生後2日以前に開始される、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
IGF−I類似体がrhIGF−Iであり、そしてIGFBP−3類似体がrhIGFBP−3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
有効量のIGF−I又はその類似体をIGF−I結合タンパク質3(IGFBP−3)又はその類似体と組み合わせて、子宮内基準以下の血清レベルのIGF−I及び/又はIGFBP−3を有する患者に投与することを含む、患者を早産合併症の発症から予防する方法であって、ここでIGF−I対IGFBPのモル比が、患者の在胎期間の正常レベルに対応する子宮内レベルに患者のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを上げるために、等モルより低く、好ましくは1:20〜1:3.33の範囲にある、方法。
【請求項16】
IGF−I対IGFBPのモル比が、1:20〜1:4、好ましくは1:15〜1:5、より好ましくは1:12〜1:8の範囲にある、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物が、患者の在胎期間に対応するモル比を有する血清中濃度を達成するために、そのIGFBP含量に関して連続的に調整される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)がIGFBP−3又はその類似体である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
IGF−Iの用量範囲が24時間当り5〜450μg/kgである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症がIGF−I及び/又はIGFBP−3の低循環レベルに関連する状態である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症が、発達遅滞、精神発達遅滞、気管支肺異形成、脳室内出血及び未熟児網膜症(ROP)を含む群からの1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
早産の合併症が未熟児網膜症(ROP)である、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
早産、極早産及び/又は超早産の合併症が、患者の在胎期間の正常レベルに対応する子宮内レベルの基準以下のIGF−I及び/又はIGFBP−3の血清レベルを有する患者によって示される、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
使用が、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮下(SC)、腹腔内(IP)、鼻腔内、微小透析及び吸入の治療を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
使用が皮下、静脈内又は経口の治療を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
使用が静脈内の治療を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
治療が、生後5日以前に、好ましくは生後4日以前に、より好ましくは生後3日以前に、最も好ましくは生後2日以前に開始される、請求項15に記載の方法。
【請求項28】
IGF−I類似体がrhIGF−Iであり、そしてIGFBP−3類似体がrhIGFBP−3である、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−524928(P2010−524928A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504018(P2010−504018)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/SE2008/050441
【国際公開番号】WO2008/130315
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(509287968)プレーマクレ・アクチエボラーグ (1)
【Fターム(参考)】