説明

末梢神経系の疾患の治療のためのピリミジンヌクレオチドの使用

【課題】末梢神経系の疾患の治療および神経再生の刺激のために使用され得る、生理学的に十分に受容可能な物質を提供すること。
【解決手段】薬学的に活性な成分としてウリジン5’-一リン酸またはシチジン5’-一リン酸を単独で含む、腰痛の治療のための薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経系の疾患、特に、多発性神経障害、神経炎、およびミオパシーの治療のためのピリミジンヌクレオチドの使用、ならびに神経再生の刺激のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経の疾患は、外傷学において第一位に位置づけられるが、炎症性疾患、代謝性疾患、内分泌疾患、血管疾患、および中毒に基づく疾患も伴って生じる事象を表す。
【0003】
科学的見識からは、軸索突起が、供給物質および情報の運送および伝導性に重要なようであるので、軸索突起は末梢神経の能力に重要であると仮定される。
【0004】
神経路の離断による神経の疾患の場合、軸索突起の発芽は病変領域で始まり、そして自己修復システムの形態が神経で観察され得、これは、例えば多発性神経障害の場合には神経再生に至る。
【0005】
実験的には、修復システムにおいて、3つの期が認識された。
1.外傷後1日目から2日目までの潜伏期
軸索突起は病変の位置で変性する。断片形成が起こる。被覆組織のミエリンもこのプロセスに含まれ、そして約8日以内に分解する。
【0006】
2.2日目から12日目までの再生期
離断された神経領域の近位および遠位残根で、シュワン細胞が分裂する。若い軸索突起が出芽し、そしてタンパク質、脂質およびRNAを蓄積する。Bungnerバンドは、離断したフィラメント片間の接続を再構築しようと試みる。若い軸索突起は、この先導に沿って移動する。
【0007】
3.12日目から90日目までの成熟期
新しい神経フィラメントが、髄鞘形成のため厚く発達する。新しい細胞構造が構築される。
【0008】
エネルギー寄与体として有効であるシチジンおよびウリジンのような特定の物質が必要であり、そのためこの修復システムは作動し得る。核酸は、神経再生の基礎を表す。ヌクレオシドは神経細胞に取り込まれ、そしてヌクレオチドに変換される。ヌクレオチドは、軸索突起に入り、これは再生プロセスに決定的に関与している。シチジンおよびウリジンは、それによって神経細胞の構造成分の新しい合成をもたらす(非特許文献1)。
【0009】
多発性神経障害患者における臨床研究では、シチジンおよびウリジンの混合物の外用適用により、多発性神経障害の代表的な症状が改善した。
【0010】
ウィスターラットにおける研究は、外傷により罹患した末梢神経の再生に関して、ウリジン-一リン酸(UMP)およびシチジン-一リン酸(CMP)の活性な薬剤の組み合わせの良好な有効性を証明した。
【0011】
このテスト系列では、テスト動物の1群にはUMPを、もう1つの群にはCMPを、そしてさらに別の群にはUMPおよびCMPの混合物を投与した。UMPおよびCMPの活性な薬剤の組み合わせを投与した群のみが、ミエリン鞘領域の拡大に基づくフィラメント領域の拡大を示した。神経フィラメントの構造分析は、UMP/CMP群では、平均のフィラメント領域の明らかな拡大が生じたことを証明し、これは、拡大したミエリンおよび軸索突起領域の結果であった。
【0012】
個々の物質のUMPまたはCMPのみを投与されたテスト動物は、同等の結果を示さなかった(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.Cervos−Navarro、Arzte Zeitung、1992、131号、第2頁
【非特許文献2】B.Wattigら、Zeitschrift fur klinische Medizin、1991、46、1371−1373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、末梢神経系の疾患の治療および神経再生の刺激のために使用され得る、生理学的に十分に受容可能な物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、独立請求項1に記載の技術教示によって解決される。本発明のさらなる有利な特徴、局面および詳細は、従属の請求項、明細書および実施例から明らかである。
【発明の効果】
【0016】
驚くべきことに、末梢神経系の疾患の治療および神経再生の刺激のために、少なくとも2種のピリミジンヌクレオチドの活性な薬剤の組み合わせは必要ではなく、個々の物質が顕著な効果を示すことがわかった。
【0017】
末梢神経系の疾患の治療および神経再生における個々の物質UMPおよびCMPの有効性をそれぞれ否定している動物テスト研究からの上記の見識とは逆に、UMPおよびCMPが、この適応の場合に高い有効性を示すことが証明され得た。
【発明を実施するための形態】
【0018】
したがって、本発明は、末梢神経系の疾患の治療および/または神経再生の刺激のための単一のピリミジンヌクレオチドの使用に関する。末梢神経系の疾患の例としては、多発性神経障害、神経炎、およびミオパシーが考えられ得る。
【0019】
好ましい適応は、脊柱の変性疾患、糖尿病性の多発性神経障害、アルコール乱用後の多発性神経障害、その他の中毒性の多発性神経障害、顔面神経不全麻痺、顔面神経痛、多発性硬化症、根神経炎、頸部症候群、肩腕症候群、坐骨神経痛、腰痛、肋間神経痛、三叉神経痛、および帯状ヘルペスである。
【0020】
ピリミジンヌクレオチドは、好ましくは、ウリジン5’-一リン酸、ウリジン5’-二リン酸、ウリジン5’-三リン酸、シチジン5’-一リン酸、シチジン5’-二リン酸、またはシチジン5’-三リン酸が適切である。これらの中で本発明の使用に特に適切なウリジンリン酸およびシチジンリン酸は、UMPおよびCMPであるが、UMPがCMPよりも好ましい。
【0021】
ピリミジンヌクレオチドは、1〜100mg、好ましくは5〜50mg、より好ましくは7〜40mg、および最も好ましくは10〜35mgの1日投与量で投与される。
【0022】
ピリミジンヌクレオチドの別の使用は、末梢神経系の疾患の治療および/または神経再生の刺激に適切である薬学的組成物の製造である。
【0023】
このような薬学的組成物は、ピリミジンヌクレオチドの他に、通常の固体または液体の基剤、希釈剤または溶媒、および通常使用される薬学的補助剤をそれぞれ含み得る。所望の適用タイプに従って、1〜100mg、好ましくは5〜50mg、より好ましくは7〜40mgおよび最も好ましくは10〜35mgのピリミジンヌクレオチドの活性薬剤濃度を有する薬学的組成物が、公知の方法で製造される。
【0024】
本発明に適用可能なピリミジンヌクレオチドおよび本発明に適用可能な薬学的組成物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸、膣、経皮(transdermal)、局所、皮内(intradermal)、腸、経口、胃内、皮内(intracutaneous)、鼻内、口内、経皮(percutaneous)舌下、またはあらゆる他の適用に適切である。
【0025】
好ましい薬学的組成物は、経口適用に適切である投与形態でなる。このような投与形態は、例えば、錠剤、フィルム錠、コーティング錠、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、分散剤、懸濁剤、デポジット、または吸入液剤である。
【0026】
適切な錠剤は、例えば、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、ポリビニルピロリドンのような不活性な希釈剤、コーンスターチまたはアルギン酸のような崩壊剤、デンプンまたはゼラチンのような結合剤、ステアリン酸マグネシウムまたはタルクのような滑沢剤、および/またはカルボキシポリメチレン、カルボキシメチルセルロース、フタル酸酢酸セルロースまたはポリ酢酸ビニルのようなデポジット効果を達成するための薬剤のような公知の補助剤とピリミジンヌクレオチドとを混合することによって得られ得る。錠剤はまた、数層からなり得る。
【0027】
したがって、コーティング錠は、ポリビニルピロリドンまたはセラック、アラビアゴム、タルク、二酸化チタンまたはショ糖のような錠剤のコーティングに一般的に用いられている薬剤で、錠剤と類似に製造された芯をコーティングすることによって製造され得る。それによってまた、コーティングは数層からなり得、錠剤について上述した補助剤が用いられ得る。
【0028】
本発明に適用可能な活性な薬剤を含む液剤または懸濁剤は、さらに、サッカリン、シクラメートまたはショ糖のような味覚増強剤、およびバニリンまたはオレンジエキスのような芳香剤を含有し得る。さらに、これらは、カルボキシメチルセルロースナトリウムのような懸濁補助剤またはp−ヒドロキシ安息香酸のような保存剤を含み得る。活性な薬剤を含むカプセル剤は、例えば、ラクトースまたはソルビトールのような不活性なキャリアと活性な薬剤とを混合し、そしてゼラチンカプセル中にそれを包むことによって製造され得る。
【0029】
好ましい組成物は、例えば、クエン酸ナトリウム二水和物、無水クエン酸、ステアリン酸マグネシウム、高分散シリカ、マンニトール、ゼラチンおよび必要であれば着色剤を含む。
【0030】
適切な坐剤は、例えば、中性脂肪またはポリエチレングリコールおよびそれらの誘導体のような坐剤用に提供された基剤とそれぞれ混合することによって製造され得る。
【0031】
もちろん、注射液または注入液のような非経口処方物も、考慮され得る。非経口適用には、生理食塩液中のピリミジンヌクレオチドの注射液が特に適切である。
【0032】
種々の処方物の製造方法および異なる適用の方法は、当業者に公知であり、そして例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.,Easton PA」に詳細に記載されている。
【実施例】
【0033】
以下において、末梢神経系の疾患の治療のためおよび神経再生の刺激のためのピリミジンヌクレオチドの有効性を、腰痛適応の例によるウリジン5’-一リン酸(UMP)の実施例によって記載する。
【0034】
20歳と63歳との間の年齢の80人の女性および男性患者を無作為に2群に分け、1つの群をUMPで治療し、そして他の群をプラセボで治療した。
【0035】
治療は連続した4日間にわたるが、この方法で症状が改善するとすぐに、治療をスケジュールの前に終わらせ得、そしてさらなる治療を必要としなかった。
【0036】
生理食塩液250ml中に19.349mgのUMP(これはウリジン12.834mgの質量に相当する)の注射液を腕の静脈中に1日に1回30分間にわたり投与した。比較群には、プラセボとして活性な薬剤を含まない生理食塩液250mlのみを投与した。
【0037】
この臨床研究のために、VASスケール(VAS:視覚アナログ尺度)で少なくとも40mmの痛み強度を有する患者のみを選択した。
【0038】
痛み強度は、直線状のVAS尺度上に「mm」単位で示され、そして患者に直線状のVAS尺度上にそれぞれの痛み強度に相当する点の印をつけるように促すことにより決定した。それによって、知覚できない痛みを0mmの値で示し、そしてできる限りの最大の痛みを100mmの値で示した。
【0039】
患者の痛み強度を連続的にチェックしたが、患者も、1回の痛み期間のそれぞれの持続時間を示さなければならなかった。
【0040】
(結果)
プラセボのみを投与された患者と比較して、UMP患者の場合に、最初の注射後の最初の24時間以内には、既に、痛みの明らかな減弱を観察し得る(表1を参照のこと)。
【0041】
表1は、最初の注射後の短時間の後には、既に、UMP患者の群の場合には、安静状態および活動状態において痛み強度が非常に減弱することを示す。指−床距離は、可動度、すなわち、背中を曲げる能力の程度についての尺度を示し、そして「cm」単位で示されており、腕をいっぱいに伸ばした場合の指先と背中を最大限可能な限り曲げた場合の湾曲との距離を測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
表2は、UMPおよびプラセボ患者群の比較において、痛み強度の減弱の相違を強調する。
【0044】
【表2】

【0045】
表2は、プラセボ患者の群と比較して、UMP患者の群の場合に、痛みの明らかなより良好な減弱を示す。さらなる3日間に、UMP患者群(ΔUMP)の痛みの減弱および1日の痛みの持続時間ならびに指−床距離についての相違が、プラセボ患者群(Δプラセボ)の相違にゆっくりと収束したことを観察し得たが、UMP患者群の場合の上記のテストパラメータの絶対値は、プラセボ群についての対応する絶対値より常に低かった。
【0046】
したがって、行った臨床研究は、個々に投与されたピリミジンヌクレオチドの薬学的有効性を明らかに証明し、そしてさらに、ピリミジンヌクレオチドの組み合わせのみが適切な効果を達成するという科学論文で現在まで考えられていた見解が間違いであることを証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に活性な成分としてウリジン5’-一リン酸またはシチジン5’-一リン酸を単独で含む、腰痛の治療のための薬学的組成物。
【請求項2】
生理的に受容可能なキャリア、補助剤、および希釈剤からなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記薬学的組成物がウリジン5’-一リン酸を含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記薬学的組成物が、1〜100mgの1日投与量でのウリジン5’-一リン酸またはシチジン5’-一リン酸の投与に用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記ウリジン5’-一リン酸またはシチジン5’-一リン酸の1日投与量が5〜50mgである、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記ウリジン5’-一リン酸またはシチジン5’-一リン酸の1日投与量が7〜40mgである、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記薬学的組成物が経口適用または注射に適する、請求項1から6のいずれかに記載の薬学的組成物。

【公開番号】特開2010−155861(P2010−155861A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80954(P2010−80954)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【分割の表示】特願2003−583436(P2003−583436)の分割
【原出願日】平成15年4月10日(2003.4.10)
【出願人】(504377884)トロムズドルフ ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー アーツネイミッテル (1)
【Fターム(参考)】