説明

材料試験機および試験力表示装置

【課題】試験力の変化状態の目視による確認が容易なレンジレス材料試験機の提供。
【解決手段】試験力を表示する指針付きのアナログ表示器23Aを備え、レンジレスで取り込まれた計測データに基づく試験力指針の駆動を、試験力レンジセレクタ221により指示された仮想表示レンジに応じて表示制御回路261により制御するようにしたので、試験力が小さな場合は、仮想表示レンジを小さくして試験力指針の動きを拡大することで、材料試験中の特異点(降伏点など)の発生を、分かりやすく読み取ることができる。すなわち、レンジレスの材料試験機であっても、仮想表示レンジを設けることで、計測値の表示に関しては、レンジ付きの材料試験機と同様の使い勝手を実現することができ、レンジ付きの材料試験機に慣れたユーザにとって使いやすい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験力をレンジレスで計測する材料試験機、および、レンジレスの計測データに基づき試験力を表示する試験力表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料試験機において計測される試験力値は、計測分解性能を上げるために、試験力アンプの増幅率に相当するレンジを装備しているのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。試験力指示計にアナログ式の指示計を装備している試験機の場合、レンジの切り換えに応じて、指示計のフルスケールが示す試験力値の範囲が変化する。
【0003】
近年は、A/D変換器の高分解能化やアンプの高精度化によりS/N向上が図られ、必ずしもレンジを使わなくても十分な計測分解能が得られるようになってきた。このようなレンジレスの試験機において、試験力指示計として指針を備えたアナログ式指示計を装備した場合、指示計の1周分は試験機容量となり使い勝手が悪くなる。そのため、レンジレスの試験機においては、試験力値をデジタル表示するものが一般的である。
【0004】
【特許文献1】特開昭64−83132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のレンジを備えた材料試験機では、手動操作による材料試験の際にアナログ指針の動きを見ながら試験力速度の調整が行われる。しかし、デジタル表示を備えるレンジレスの材料試験機においては、デジタル表示による試験力の変化が確認しづらく、微調整が困難になるという問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明による材料試験機は、試験片に負荷を与える負荷装置と、負荷装置による試験力を検出するセンサと、センサの検出信号を、計測データとしてレンジレスで取り込むデータ取得手段と、試験力を表示する指針付き表示器と、指針付き表示器のフルスケールを設定するための表示レンジを指示する操作部材と、計測データに基づく指針の駆動を、操作部材により指示された表示レンジに応じて制御する指針駆動手段とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、センサにより検出された試験力をレンジレスの計測データとして取り込む材料試験機に用いられ、材料試験機より入力されるレンジレスの計測データに基づいて試験力を表示する試験力表示装置であって、試験力を表示する指針付き表示器と、指針付き表示器のフルスケールを設定するための表示レンジを指示する操作部材と、計測データに基づく指針の駆動を、操作部材により指示された表示レンジに応じて制御する指針駆動手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レンジレスの材料試験機において、試験力の変化状態の目視による確認が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本実施の形態における材料試験機を示す図であり、試験機本体1と計測制御装置2とを示す模式図である。図1では、引張試験のためのセッティング状態を示す。
【0009】
試験機本体1は、2本のねじ棹7と2本の支柱8とがそれぞれ鉛直に配設されている。ねじ棹7および支柱8は、矩形状のテーブル4の対角線上にそれぞれ配置されており、図1では図示手前側に配されたねじ棹7および支柱8が左右に並んでいる。2本の支柱8には、上部クロスヘッド6が固定されている。2本のねじ棹7には、下部クロスヘッド5が昇降可能に保持されている。上部クロスヘッド6および下部クロスヘッド5には、試験片TPを把持するための掴み具11a,11bが装着されている。
【0010】
下部クロスヘッド5が装着された2本のねじ棹7は、ベッド3上に立設されている。上部クロスヘッド6が固定された2本の支柱8は、テーブル4の上に立設されている。ベッド3の中央部には、負荷シリンダ10が固定されている。負荷シリンダ10には、テーブル4に連結するラム12が嵌め込まれている。よって、油圧装置30から負荷シリンダ10に圧力油が送り込まれると、ラム12が上昇する。すなわち、テーブル4、支柱8および上部クロスヘッド6が一体で上昇し、上下の掴み具11a,11bにより把持された試験片TPに、引っ張り力が負荷される。逆に、圧力油が油圧装置30の油タンク304に戻されると、ラム12は下降する。13は圧力セルであり、負荷シリンダ10内の油圧を電気信号に変換する変換器であり、出力された信号は計測制御装置2に入力される。
【0011】
下部クロスヘッド5には昇降モータ(不図示)が設けられており、試験片TPを掴み具11a,11bに装着する際に昇降モータを駆動し、下部クロスヘッド5の上下位置を調整する。油圧装置30には、負荷ポンプ301、ポンプ用モータ302、負荷制御弁303および油タンク304が設けられている。負荷ポンプ201には、ギヤーポンプが用いられている。負荷制御弁303は、安全弁、圧力調整弁および流量調整弁を一体としたものである。
【0012】
試験機本体1の動作を制御する計測制御装置2には、負荷操作パネル21、表示レンジ切り換えパネル22、試験力指示計23が設けられている。負荷操作パネル21に設けられた負荷制御つまみ211を操作することにより、負荷制御弁303に設けられた流量調整弁を調節することができる。
【0013】
図2は、計測制御装置2に設けられた試験力指示計23、表示レンジ切り換えパネル22および負荷制御つまみ211を示す図である。図2(a)に示す試験力指示計23には、アナログ表示器として試験力指針231、最小目盛表示器232および5つの分割目盛表示器233が設けられ、デジタル表示器として試験力表示器234および試験力ピークホールド表示器235が設けられている。
【0014】
試験力指針231は現在の試験力値をアナログ表示するもので、ステッピングモータやサーボモータで回転駆動する。また、分割目盛表示器233によって、目盛盤のフルスケール(1週分)の5分割位置の試験力値がデジタル表示される。一方、試験力表示器234には、現在の試験力値がデジタル表示される。試験力ピークホールド表示器235には、現在までの最大試験力値をホールドしてデジタル表示される。
【0015】
図2(b)に示す表示レンジ切り換えパネル22には、試験力レンジセレクタ221、ピークホールドリセットスイッチ222が設けられている。ピークホールドリセットスイッチ222は、それまでのピークホールド値を解除するためのスイッチである。ピークホールドリセットスイッチ222を操作すると、上述した試験力ピークホールド表示器235の表示がリセットされる。
【0016】
本実施の形態の試験機においては、圧力セルから検出信号に基づいて試験力の計測を行う場合、検出信号をレンジレスで計測データとして取り込むが、試験力計測値の表示形態については、従来のレンジを備えた試験機の場合と同様に複数のレンジの間で切り換えて表示することができる。本実施の形態では、従来の秤量に関するレンジと区別して、このレンジのことを仮想表示レンジと呼ぶことにする。
【0017】
ここでは、6つの仮想表示レンジが設けられており、試験力レンジセレクタ221に設けられた6つのスイッチ221a〜221fのいずれかを押すことで、フルスケールに対する試験力値を6段に切り換えることができる。仮想表示レンジが決定されると、その仮想レンジに応じて試験力指示計23の5つの分割目盛表示器233および最小目盛表示器232のデジタル表示が切り替わる。
【0018】
図2(c)では、負荷制御つまみ211に対して、パネル上に「RETURN」、「HOLD」、「LOAD」および「OPEN」の表示がある。負荷制御つまみ211を「LOAD」〜「OPEN」の位置に設定すると、ラム12(図1参照)が上昇し、「OPEN」に近付くほど送油量が増してラム12の上昇速度が増加する。負荷制御つまみ211を「RETURN」の方向に回すと、ラム12が降下する。また、ラム12を同じ位置に止めておくときには、負荷制御つまみ211の位置を「HOLD」付近に設定する。
【0019】
図3は、計測制御装置2の構成を示すブロック図である。圧力セル13から入力された圧力検出信号は、増幅器24で増幅された後に、A/Dコンバータ25によりアナログ値からデジタル値へと変換される。従来のレンジを備えた材料試験機の場合には、圧力検出信号を増幅する増幅器は、増幅倍率を複数に切り換えることができ、それぞれの増幅倍率に対応した測定レンジで計測および表示を行う。一方、レンジレスの試験機である本実施の形態では、増幅器24の増幅率は所定の値に固定されている。これは、A/D変換器の高分解能化や増幅器の高精度化などにより、試験力値が小さな範囲においても、従来のレンジ付き試験機で増幅倍率を大きくした場合と同様の解像度で計測を行うことができるため、レンジレスではこのような構成となっている。
【0020】
A/Dコンバータによりデジタル信号に変換された圧力検出信号は、制御部26に入力される。制御部26には、表示制御回路261と負荷制御回路262とが設けられ、負荷操作パネル21および表示レンジ切り換えパネル22から操作信号が入力される。負荷制御回路262は、負荷制御弁302を制御してラム12の上昇、降下、停止を制御する。試験片TPに負荷を与える場合、ユーザが負荷制御つまみ211を操作して行うマニュアル動作と、制御部26に予め設定された所定の手順によって自動的に負荷を与えるオート動作とがある。マニュアル動作の場合、負荷制御回路262は、負荷制御つまみ211の操作に応じて負荷制御弁303を制御し、オート動作の場合には設定された所定手順に基づいて負荷制御弁303を制御する。
【0021】
表示制御回路261は、試験力指示計23に設けられたアナログ表示器23Aおよびデジタル表示器23Dのそれぞれに、表示制御信号を出力する。アナログ表示器23Aには、図2の試験力指針231、最小目盛表示器232および5つの分割目盛表示器233が対応し、デジタル表示器23Dには、図2の試験力表示器234および試験力ピークホールド表示器235が対応する。アナログ表示器23Aの表示制御は、試験力レンジセレクタ221からの操作信号に基づいて、すなわち、スイッチ221a〜221fの操作によって選択された仮想表示レンジに基づいて行われる。表示制御回路261は、計測データと仮想表示レンジとに基づいて、単位計測データ当たりの試験力指針231の回転量をソフト的に演算し、試験力指針231の駆動用モータを駆動する。
【0022】
図4は、制御部26で実行される、アナログ表示器23Aの表示制御を説明するためのフローチャートである。以下の説明では、試験機の最大容量を200kNとし、試験力レンジセレクタ221のスイッチ221a〜221fで選択できる仮想表示レンジは、200kN,100kN,40kN,20kN,10kNおよび4kNの6段とする。
【0023】
図4のフローチャートはオート動作の場合を示しており、計測が開始されると処理がスタートしてステップS100が実行される。ステップS100では、仮想表示レンジを最小の4kNにセットする。それにより、図2における試験力指針231の1周(フルスケール)は0〜4kNに対応し、5分割位置に設けられた各分割目盛表示器233には、12時の位置から時計回りに、順に数値「4.0」、「0.8」、「1.6」、「2.4」、「3.2」が表示される。
【0024】
ステップS200では、A/Dコンバータでデジタル値に変換された計測データを読み込み、試験力を求める。ステップS300では、計測された試験力に基づいて試験力指針231を回転駆動する。ステップS400では、計測された試験力と仮想表示レンジRに0.95を乗じた値と比較し、「試験力>0.95R」の場合にはステップS500へ進み、「試験力≦0.95R」の場合にはステップS700へ進む。今の場合、仮想表示レンジRは4kNであるので、試験力が3.8kNより大きくなった場合にステップS700へ進む。なお、ここでは、仮想表示レンジを切り換える条件を「試験力>0.95R」としたが、これに限らない。例えば、「試験力>R」であっても良い。
【0025】
ステップS400からステップS500へ進んだ場合には、仮想表示レンジを1段上のレンジ(10kN)に切り換えた後、ステップS600へ進んで、アナログ表示器23Aの表示を切換後の仮想表示レンジに基づく表示に切り替える。すなわち、分割目盛表示器233の表示を、12時の位置から順に「10.0」、「2.0」、「4.0」、「6.0」、「8.0」とする。試験力指針231の位置および最小目盛表示器232の表示も、仮想表示レンジ10kNに対応させて変更する。
【0026】
仮想表示レンジが切り換えられると、表示制御回路261は、計測データと仮想表示レンジに基づいて試験力指針231を回転駆動するモータの回転速度を切り換える。例えば、仮想表示レンジを4kNから10kNへと切り換えると、試験力の変化に対する試験力指針231の回転速度は0.4倍の速さへと遅くなる。すなわち、試験力の変化を試験力指針231の移動の速さとして、視覚的に容易に認識することができる。
【0027】
ステップS700では計測が終了したか否かを判定し、終了していないと判定されるとステップS200に戻り、終了と判定されると一連の処理を終了する。なお、試験力指示計23の試験力表示器234や試験力ピークホールド表示器235には、レンジレスな計測データに基づいてデジタル表示が行われる。
【0028】
図4ではオート動作を例に説明したが、所定の仮想表示レンジにおいてマニュアル動作させる場合も、試験力レンジセレクタ221により仮想表示レンジを選択すると、アナログ表示器23Aの表示が選択された仮想表示レンジに対応するように切り替わる。負荷制御つまみ211の操作による試験力の変化の様子は、試験力指針231によって容易に認識することができるので、試験力指針231を見ながら負荷制御つまみ211の操作量を調整する。
【0029】
このように、本実施の形態では、試験力を表示する指針付きのアナログ表示器23Aを備え、レンジレスで取り込まれた計測データに基づく試験力指針231の駆動を、試験力レンジセレクタ221により指示された仮想表示レンジに応じて表示制御回路261により制御するようにしたので、試験力が小さな場合は、仮想表示レンジを小さくして試験力指針231の動きを拡大することで、材料試験中の特異点(降伏点など)の発生を、分かりやすく読み取ることができる。すなわち、レンジレスの材料試験機であっても、仮想表示レンジを設けることで、計測値の表示に関しては、レンジ付きの材料試験機と同様の使い勝手を実現することができ、レンジ付きの材料試験機に慣れたユーザにとって使いやすい。
【0030】
また、試験力に対してデジタル表示のみを備えたレンジレスの材料試験機であっても、試験力を表示する指針付きのアナログ表示器23Aと、アナログ表示器23A(試験力指針231)のフルスケールを設定するための表示レンジを指示する試験力レンジセレクタ221と、レンジレスで取り込まれた計測データに基づく試験力指針231の駆動を、試験力レンジセレクタ221により指示された仮想表示レンジに応じて制御することで、上述した材料試験機と同様の効果を奏することができる。
【0031】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、液晶表示パネルを用いて、図2(a)に示すような、試験力指針231、目盛、分割目盛表示器233等を表示するようにしても良い。その場合、指針の動きは厳密にはとびとびであるが、アナログ的な指針の回転を表示することで、試験力の変化の様子を目視で確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による材料試験機の一実施の形態を示す図である。
【図2】計測制御装置2を説明する図であり、(a)は試験力指示計23を、(b)は秤量切り換えパネル22を、(c)は負荷制御つまみ211をそれぞれ示す。
【図3】計測制御装置2の構成を示すブロック図である。
【図4】アナログ表示器23Aの表示制御を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
1:試験機本体、2:計測制御装置、10:負荷シリンダ、12:ラム、13:圧力セル、21:負荷操作パネル、11:レンジ切り換えパネル、23:試験力指示計、23A:アナログ表示器、23D:デジタル表示器、24:増幅器、25:A/Dコンバータ、26:制御部、211:負荷制御つまみ、221:試験力レンジセレクタ、231:試験力指針、232:最小目盛表示器、233:分割目盛表示器、234:試験力表示器、235:試験力ピークホールド表示器、261:表示制御回路、262:負荷制御回路、303:負荷制御弁、TP:試験片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に負荷を与える負荷装置と、
前記負荷装置による試験力を検出するセンサと、
前記センサの検出信号を、計測データとしてレンジレスで取り込むデータ取得手段と、
前記試験力を表示する指針付き表示器と、
前記指針付き表示器のフルスケールを設定するための表示レンジを指示する操作部材と、
前記計測データに基づく前記指針の駆動を、前記操作部材により指示された表示レンジに応じて制御する指針駆動手段とを備えたことを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
センサにより検出された試験力をレンジレスの計測データとして取り込む材料試験機に用いられ、前記材料試験機より入力される前記レンジレスの計測データに基づいて試験力を表示する試験力表示装置であって、
試験力を表示する指針付き表示器と、
前記指針付き表示器のフルスケールを設定するための表示レンジを指示する操作部材と、
前記計測データに基づく前記指針の駆動を、前記操作部材により指示された表示レンジに応じて制御する指針駆動手段とを備えたことを特徴とする試験力表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−112753(P2010−112753A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283470(P2008−283470)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】